BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/01/29 彼女に遭遇してしまうとは。

 

 

 

本当は仕事をしなければいけない日だったのだが、気分が乗らずサボってやった。俺の仕事は割とこんな感じで、テンションが低いとお話にならないような仕事のため気分で稼ぎ時を決めている。

…こういう時、会社勤めじゃないことを心から有り難く感じる。ついでに実家暮らしの安心感も。

 

 

 

コンコン

 

 

「…あいよ。」

 

 

 

不意にノックされる部屋の扉。返事の直後に隙間から顔を覗かせたのは青い顔をした親父だった。

 

 

 

「○○、○○っ!どうしよう!」

 

「…どしたん親父。」

 

「ら、蘭がっ!友達を連れてきたんだ!」

 

「友達ぃ?……いつもの面子じゃないの。」

 

 

 

娘が友達を連れてきたくらいで何をそんなに焦っているのか。幼馴染連中ならしょっちゅう顔を合わせているだろうに。…というか、あの巴ちゃんとかモカちゃんに至っては自宅であるかのように普通に入ってくるし、今更でしょうに。

手をバタバタとさせて異常さを伝えてくる親父を見ていると吹き出してしまいそうになるが、どうも本気で非常事態らしい。

 

 

 

「違うんだ!見たことない子でな、すっごく可愛らしい子なんだ!」

 

「取り敢えず親父、キャラがブレてる。」

 

「だってお前…!」

 

 

 

威厳のある堅物といった様子のいつもの親父の姿はない。……すっごく可愛らしい子、ねぇ…。

………あっ。

 

 

 

「親父、それってもしかして、金髪の子だった?」

 

「あぁ!……なんで知ってんだお前。」

 

「あー……いや、前に蘭が言ってたような、聞いてたような…。」

 

「おいずるいぞ○○!そういうのどうしてパパに言わないんだ!」

 

「パパって…そういうとこが蘭に嫌われる理由だと思うよ。」

 

「う!!」

 

 

 

そういやみっちゃんと酔いながら聞いたあの報告の件、親父に言い忘れてた。にしてもこの男が自分をパパと呼ぶとはね…十数年ぶりに聞いた気分だ、がそれ程取り乱しているということか。

 

 

 

「で?…その可愛い子は今どうしてるの?」

 

「あ、あぁ…今蘭と二人で蘭の部屋に入っていってな。」

 

「…尾けたん?」

 

「う、うむ。」

 

「……………よし親父、聞き耳大作戦だ。」

 

「聞き耳大作戦?」

 

「音くらいは聞こえるっしょ。蘭の部屋の前いこ。」

 

「うむ。……というかお前今日仕事じゃ」

 

「早くしないと聞き逃すよ。」

 

「あっ、い、行こうぞ、○○。」

 

 

 

…只の娘大好きな親父なんだけどな。どうして蘭はあれ程までにこの人を苦手とするのだろうか。思春期の女子というものは皆そんなもんなんだろうか。

だが今は早く行かねば、隣の部屋のドアの前に。

 

 

 

**

 

 

 

「………なぁ○○、何も聞こえないぞ。」

 

「そうだね。」

 

「無言で何してるんだろう。」

 

「…さぁね、寝てるとか?」

 

「おまっ…!寝てるっていうのはっ、そ、そういうことかっ!?」

 

「親父は想像力豊かだねぇ。」

 

「バカ言え、お前も蘭もそうして生まれたんだぞ。」

 

「やめろ馬鹿。何が悲しくて両親の情事を聞かされにゃならんのだ。」

 

「親に向かってバカとは…ううむ。」

 

 

 

だが本当に何も聞こえないな。割と遮音性の低いドアのはずなのに。

やがて足音?か何かを動かす音が聞こえて、「わたしちょっとといれいってくる」と小さく聞こえた気がした。隣の親父は聞こえなかったようでまだ熱心に扉に齧り付いているが…このままここに居るのは良くない。

そっと扉から耳を離し親父を残し自室へ戻ることにする。

 

 

 

「………やってられんなぁ。蘭も色々あるだろうし、放っといてやればいいのに。」

 

 

 

いい奴ぶった発言かもしれないけど、正直飽きただけだった。姿勢もきついし。

 

 

 

ガチャァ

「うぁっ!?」

 

「あっ、いやこれは、ちがうんだ、その、あれぇ!?」

 

バァン!

「蘭!!ドアの前に何か居る!!」

 

「はぁ?…虫とか?」

 

「ち、ちがう!お、おっさん!!」

 

カチャァ

「な"っ…!!と、父さん…!?」

 

「ちがうんだ!違うんだ蘭!」

 

「最ッ低…ッ!!」

バァンッ!

 

「らぁぁぁぁあああん!!!!違うんだぁぁ!!」

 

 

「こっちでも十分聞こえんじゃん…。」

 

 

 

どうやらおバカな親父の聞き耳大作戦は儚く散ったらしい。歳を取ると耳が遠くなる上に反応速度も鈍るということだったが…どうやら本当らしい。

隣の部屋からはまだ蘭と有咲?ちゃんの親父に対する怨嗟が聞こえていて、廊下ではスンスンとすすり泣く親父の足音が遠ざかっていくのが感じられた。

可哀想に、哀れな父よ。

 

 

 

「でもどうしよう蘭、トイレ行きたい…。」

 

「………大丈夫、多分もういないから。場所分かる?」

 

「う、うん。廊下まっすぐいって、右に一回曲がるんでしょ。」

 

「うん。わからなかったら今度は一緒に行くから言って。」

 

「一緒に…っ!?……ら、蘭、えっち…。」

 

「あぇっ!?…あっ、そ、そそそうじゃ、ないよっ!違うのっ!」

 

「へへっ、わかってるよ。……焦る蘭も可愛いな。」

 

「も、もう!……すぐそーやって揶揄う…。…すき。」

 

「えへへ…。それじゃ、ちょっと行ってみる。」

 

「う、うん……気をつけて。」

 

 

 

おいおい…乙女してるな妹よ…。

過去に聞いたこともない蘭の女の部分に、不本意ながら可愛いとさえ思ってしまったほどだ。…と感動している場合じゃない。

ウチのトイレは少々ややこしいところにあって、廊下を一度右に曲がったくらいじゃどの部屋かわからない筈だ。…というより、あの辺何も書いていないドアが多すぎるんだ。

 

 

 

「どれ…少し助け舟を出してやるか。」

 

 

 

やや早歩き気味の不規則な足音が部屋の前を通り過ぎていくのを確認して俺も廊下へ。正直、妹の彼女…彼氏?に対面するのはこれが初のためかなり緊張している…が、ポーカーフェイスは仕事柄大得意。いつも通り、無の表情で角を曲がる。

 

 

 

「…ん。」

 

「あっ……こ、こんにちは、おじゃましてます。」

 

 

 

よしよし、挨拶はちゃんとできるいい子だ。……しかし…可愛いなぁオイ!こんな美人見たことな……あいや、蘭の幼馴染のつぐちゃんも中々に美形だったな。

 

 

 

「こんにちは。…えっと、蘭のお友達かな?」

 

「は、ひゃいっ!い…市ヶ谷(いちがや)有咲っていいます。」

 

「有咲ちゃん…ね。こんな所でどうしたの?」

 

「…ぇと……その……ぃき…くて」

 

「??」

 

 

 

モジモジと腰を揺すりながら目を逸らす有咲ちゃん。正直この姿を見れば大体の人は察しがつくだろうが、何となくこの子の口からそれを聞いてみたい気もして。

 

 

 

「…なんて?」

 

「と……といれ……どこですかぁ?」

 

 

 

上目遣いで頬を染める美少女。あぁこりゃやばいわ。同じ遺伝子を持つ蘭が落ちるのも仕方ないことだわ。

 

 

 

「あ、あぁ…トイレね、ごめんね変なこと聞いちゃって。…あっちにドアが二つあるだろう?」

 

「は、はい。」

 

「それの向かい側の、ノブにカバーついてるドア。…あそこがトイレだよ。ちょっと分かりにくい家でごめんね。」

 

「あ、いぇ、その……あ、ありがとう、ございました…。」

 

「ん。…急いで行ったほうがいいんじゃないの??」

 

「あぅ…っ、い、いきますっ。…その、もしかして、蘭のお兄さんですか?」

 

「そだよ。…あいつ、俺のこと何か言ってた?」

 

「悪くは言ってなかったと思います。…ただ、訊いてもあまり深く教えてくれなくて…。」

 

「そっか。…ははっ、まぁ俺のことなんか知らなくてもいいことだしね。…じゃ、俺は戻るからトイレ行っといで。」

 

「そ、そうだった!といれといれ…あれ?お兄さんはこっちに何か用事が?」

 

「いや?特には何もないかな。…そんじゃーねー。」

 

 

 

有咲ちゃんを残して自室へ。…はぁ緊張した。

しっかし蘭め…なんつー絶世の美少女を捕まえたんだ。まぁ傍から見たら蘭も可愛い部類だろうし、あのカップルはさぞ眼福なこったろうな。

…有咲ちゃんは、間に合ったんだろうか。

 

 

 

**

 

 

 

バァン

「兄貴!!」

 

「ぉお!?…っくりしたぁ。」

 

 

 

夜。部屋で次の仕事に向けて勉強をしていたところにノックもせず怒り肩の妹が突入してくる。何をそんなに怒ってんだ。

 

 

 

「…なんだ、どうした。」

 

「……兄貴、有咲に何したの!?」

 

「何って………何だろう?」

 

 

 

はて、そんな詰め寄られるほどなにかしただろうか。考えてみてもトイレの場所を教えたくらいなんだが。

 

 

 

「とぼけないで!…有咲のこと、口説いたでしょ!!」

 

「……はぁ?」

 

「だ、だって!あのあと、有咲がいきなり兄貴のこと訊いてきたり、「いい人だよな」って言ったりしてたから!絶対、兄貴が何かしたんだと思ったんだけど…ちがう?」

 

「俺…は、トイレの場所教えたくらいだけど。」

 

「…トイレ?」

 

「うん。…蘭の教え方じゃわかんなかったみたいでさ。…ほら、トイレの前にも二つドアあるだろ?」

 

「……あ、そのこと言ってなかった。」

 

「ん。……お前の大切な恋人だし、粗相させるのもあれかと思ってね。間に合ったみたいで良かった。」

 

「そか……兄貴、助けてくれただけだったんだ。」

 

 

 

誤解も解けたようで一安心。嫉妬に狂う蘭というのも少し面白かったが、この子にこんな豊かな感情を持たせてくれた有咲ちゃんには感謝だ。

いい子そうだし、できることなら仲良くしている所をずっと眺めていたい。

 

 

 

「…ありがと、兄貴。」

 

「んむ。…有咲ちゃん、いい子だったな。」

 

「…でしょっ!?えっとね、有咲ってああ見えてデレデレすると可愛いところあってね、たまに手握ったりハグしたりすると真っ赤な顔してね…」

 

 

 

面倒な地雷を踏み抜いてしまったらしい。

結局夜中まで蘭の惚気話を延々と聞く羽目になった。全く幸せなカップルなことで。

 

 

 




みんなかわいい。




<今回の設定更新>

○○:親父と妹の間に入るのも中々大変。
   有咲にも好印象なようで近づいても問題なさそう。

蘭:乙女蘭ちゃん。嫉妬しちゃうのかわいい。
  珍しくスカートスタイルだった。

有咲:緊張するとトイレが近くなる。
   部屋では蘭と髪を弄り合っていたらしい。

親父:一番愉快な登場人物。
   子供たちがだいすき。
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