BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「兄貴。」
「……顔怖ぇよ。」
仕事も無く、暇でありながらもまったりとした時間。
自宅に籠る以外の選択肢がない俺は、妹と妹の恋人と三人でアナログゲーム大会に興じていた。大会と言っても、勝ち負けや優劣、商品なんかも一切出ないお遊びだが。…まぁ態々言う事でもないわな。
この奇妙な組み合わせももうすっかり慣れた物であり、傍から見ればまるで三竦みの様になっていた事だろう。
蘭は俺に矢鱈と強気なくせ、有咲ちゃんにちょっかいかけられると大人しくなる。有咲ちゃんは蘭に対してやや優勢なように見えて、俺相手だと未だ慣れていない感がぷんぷん。結果として俺は有咲ちゃんにビビられる存在となり、エラく強気な妹にはまるで敵わない、と。
「お兄さん、ハートの9止めてますよね…?」
「んー?…んふふふふふ…。」
「兄貴、キモイよ。」
「うるせい、高度な駆け引きだい。」
「や、隠せてないから。デレデレしすぎだから。」
「お兄さんのイジワル…。」
「!!…あ、兄貴!?有咲に意地悪しないで!」
現在絶賛七並べ中。セブンス・ウォーと有咲ちゃんが呟いたことにより、まさに
仕方ないからと有咲ちゃんをいじめて楽しんでいたのだが。助けてくれ、妹がガチすぎる。…つかお前は体良く手札を見るな。
「お前こそ、早くスペードの
「は?ふざけないで。」
「………有咲ちゃんがその先二枚持ってんだよ。」
「出すし。」
「蘭…!」
有咲ちゃん、場に集中しているとガッツリ手札見えるんだよな。地べたに座った状態で前のめりになればそりゃそうもなるだろうけど。
勿論、胸元の緩いワンピースを着ている彼女が前のめりになる度、手札以外の物もガッツリ見えているんだが、それを意識すると蘭に殺されるだろうからね。見て見ぬフリ一択だ。
「有咲…。」
「蘭、私その先持ってない…。」
「なっ……!?」
「ふふふふ……掛かったな愚妹よ…。」
「…兄貴のバカ。もう相談乗ってあげないから。」
「…気のせいかな。いつも相談に乗ってあげてるのは俺だったと思うが…。」
不貞腐れるにしても過去を改竄するんじゃない。服のチョイスだとかデートコースだとか、あの発言はどういう意味だとかこうされたらどこまでOKかとか…まぁ全部有咲ちゃん絡みなんだろうけど。
指摘されると流石に思い当たる事だらけだったのか、顔を真っ赤にしてわたわたし出した。
「あっちょっ」
「ええと、デートに着ていく服装の相談に、「蘭って子供何人欲しいの?」って訊かれたのってどういう意味なの、とか…」
「あっまっ、まってっ、ちがっ」
「………蘭?」
「違うから!違うから有咲!ね!?」
「何が違うというんだ…。駅前のアクセサリーショップで見つけたペアブローチを教えたのも俺だし…」
「あぁぁぁあああぁぁああ!!!!」
ふう。流石に反撃としちゃこれくらいで良いだろ。突如始まった俺の猛攻に有咲ちゃんも困惑気味だし、肝心の
顔を覆って悶絶する妹が落とした手札を素早く確認し、次の"関所"を考える。…コイツ端ばっか持ってんな。
「ね、ねえ、蘭?」
「………もういっそ殺して。」
「蘭っ!?」
愉快愉快。ここまで乱れる蘭は久しぶりだ。
…かつて溝が出来ていたのは何も親父だけじゃなく、俺も例外じゃなかった。区別するとしたら、明確な問題があるせいで出来た親父との溝に対して、精神の成熟に従って必然的にできた兄妹の溝…と、過程と存在意義に違いが見出せるか。
それも最近は相談事を通して修復…何なら以前よりもフランクな関係になったような気さえする。兄妹というよりかは友人に近いような、そんな関係。有咲ちゃんには感謝しないとな。
「おーい蘭、そんな絶望的な顔するんじゃない。」
「……兄貴のばか…。」
「…んー、顔とは裏腹に言葉は強気だなぁ。」
「お兄さん、楽しんでますよね…?」
「うん。」
「………仲良し?なんですね?」
「うん。…だから蘭の秘密はまだまだいっぱい知ってるよ。」
「「!!」」
同時に顔を上げる二人。…あいや、有咲ちゃんは元からこっちを見ていた顔をずい!と近づけた感じか。二人ともとうに手札をばら撒いているし、もう七並べとかどうでもいいみたいね。
「ちょちょっ、あ、兄貴?こ、これ以上、何を言うっていうの…?」
「お兄さん、是非、聞かせてください!」
「有咲!?まって!ねえどうしてそんなに興味津々なの!?」
「さあ!何なら私にチャットしてくれても」
「嘘!そこ繋がってんの!?」
パニックに次ぐパニック。いやぁ、有咲ちゃんが居ると蘭が活き活きしていて本当に愉しい。
親父に自慢してやった時なんか、泣きながら袖噛んでたもんな。こりゃ楽園だ。
「ええと、じゃあ有咲ちゃん耳貸して。」
「はいっ!」
「兄貴!あたしにも教えてって!!ねえ!」
嬉々として耳を寄せてきた有咲ちゃんに近付き
小声で伝えたのが擽ったかったのか、はたまたこの後の展開が楽しみなのか。「いひっ」と笑い声を出す有咲ちゃん。正直、下ろして巻いている髪が当たり、こっちもこっちで擽ったい。ああなんだろうこの感じ、ニャンニャンしてるっていうのかな。俺も有咲ちゃんの雰囲気に惑わされそうになるのは、やはり血筋なのか。
「なるほどぉ、お兄ちゃ…お兄さん、ナイスです。」
「…お兄ちゃんって呼んでもいいんだよ?」
「も、もぉ、恥ずかしいから、嫌ですー!」
「よいではないかよいではないか…」
「兄貴。」
「はい。」
「人の彼女に何手ぇ出してんの。」
「……ヒュゥ~↑」
「兄貴。」
「ごめんなさい。」
「蘭、蘭。」
「なぁに、有咲ぁ。」
「いや、この差。思わず草。込み上げる切なさによりめげる俺さ。」
余りの違いっぷりに思わず韻を踏んでしまったYO。
「蘭、耳貸してぇ。」
「えっ……こ、こんなところ、で?」
お前は耳貸すと何が始まっちゃうんだYO。
「でも…あ、有咲がシたいなら…いい、よ?」
「…………蘭。」
「……有咲ぁ。」
「……さっきお兄さんから聞いたこと、確認するだけだよ?」
「………………そ、そっか。知ってたよ、うん。」
やばい。この妹、超面白い。
真っ赤な顔で少し落ち込んだように見える蘭の耳元に口を近づけていく。蘭は気付いていないようだが、有咲ちゃんは悪戯っ子の様なニヤケ顔でこちらに視線を送っている。やりよる。
「……ふぅー……」
「わひゃぃっ……あ、有咲っ!?」
「…へへ。」
目を見開いた蘭が何とも可愛らしい声を上げる。その瞬間、やりきった顔の有咲ちゃんが器用に正座のまま移動。俺の目の前まで来ると静かに右手のひらを差し出した。
ぺちん。友情を確かめ合ったライバルの様に、小さくハイタッチを交わす俺とイタズラガール。
「…ナイスだ、有咲ちゃん。」
「やるじゃん、○○さん。」
「えっ」
「えっ?あっ」
………。今気のせいか有咲ちゃんの口調が違ったような。こういうノリに合わせて演じてくれるタイプの子なのだろうか。
いや、答えは否だ。慌てて口許を抑えているあたり、今のは完全なる"うっかり"だろう。…これはぁ?
「……有咲ちゃん?」
「んん"っ、な、なんだ…じゃない、なぁに…でもない、ええと…」
「…普通に喋ってごらん?」
「ぅ…………。……その、普通って言われても、難い…んですけど。」
「……今何か、エラくフランクな有咲ちゃんが居たような」
「そ、そそ、それより!さっきお兄ちゃんが言おうとしてたのって、何なんですかっ?」
お兄ちゃんって…。もう崩れ去ったキャラクター、間違いない。
有咲ちゃんは猫を被っているッ!!
「…ん、あぁ。それはだな」
「兄貴。」
「……生きてたか。」
「勝手に殺さないで。」
「さっきは殺してって言ってたくせに。」
袖に縋りつく様に体重をかけ、弱弱しい涙目で睨み上げてくる…が、息も絶え絶えと言ったところで、全く以て怖くない。
「…腰抜けちゃった。」
「はぁ?」
「………有咲、ずるいんだもん。」
ぷぅ、と頬を膨らませて見せる。…乙女か。
どうやら腰が抜けてしまった(自己申告)らしい蘭の惚気はさて置き、あのとっておきの面白可愛い話を有咲ちゃんに教えてあげなければ。
「…まぁいいや。実はだな、君とペアで買ったブローチに名前」
「まってぇえええ!!!」
「…何だね蘭、良いところなのに。」
「お兄ちゃん、それより、早く、続きを…!」
「待って兄貴、それはダメ!絶対…絶対だめ…。」
どんどん弱って行く蘭と、押し倒されそうな程迫って来る有咲ちゃん。君らは株価か何かかね?
有咲ちゃんの鼻息の荒さも気になるが、遂に目に一杯の涙を溜めだした妹が少し可哀想になってきた。
「だめなの?」
「だめ。」
「嫌なの?」
「いやなの。」
「…どうしよっかなぁ…。」
「あ、兄貴の言うこと聞くから。あんまり冷たくしないから、だからお願い。」
「えぇー?今更可愛い子ぶられてもなぁ。」
「はぁ……はぁ……っ!」
「有咲ちゃん、ストップね?一応兄として、今の状態は撮らないであげてほしいかな。」
スマホを取り出し目を血走らせている有咲ちゃんを諫め、うるうるとすっかりしおらしくなってしまった妹の頭を撫でてみる。普段だったら骨をやられるところだが…。
「んぅ…。…言わない?言わない?」
「………。」
あぁ、これは撮りたくなるな。ただ、俺も妹を好んで泣かせる程悪い趣味はしていない。
此処はおちゃらけたくなる気持ちをグッと堪え、蘭の尊厳を守ってやることにした。こんな状態で「ブローチに有咲って名前つけて毎日キスしてる」なんて言えないもんなぁ…。
「あにき…?」
「あぁ、言わないとも。だからもうちょっと俺にも優しくしてくれな。」
「…………するっ。」
おやおやおやおやおや。これはどうしたことだろう。
右腕にしがみ付いているのは一世を風靡した抱っこポーズの人形か?否、触れば問答無用で刺し穿たれる程刺刺しかったあの赤メッシュなのです。
成り行きとは言え何たる僥倖…!俺ほどの者が、この好機を逃すと思うてか。
「よし、交渉成立だ。」
「えぇ!?…嘘じゃん…ッ!」
有咲ちゃんよ、そのこの世の終わりみたいな表情は何だ。
「言えよぉ、けちぃ。」
「本性現したな有咲ちゃん…!」
「……しまった。」
「もう遅い!…それだけ女子力溢れる外見でその口の悪さだと…?実に良いッ!」
「なっ……い、いい…のか?」
「あぁいいとも!いつも通り、気楽でいいともぉ!」
「いつも通り……それ、蘭にも言われたやつだ…!」
「ほう。」
流石、血筋だな。だってこっちの方が絶対いいもの。
何というか自然体で、変に力の入っていない様子。是非ともこれからも、コッチの有咲ちゃんとつるんで行きたいものです。
「……じゃ、じゃぁ、こっちにする…。」
「うむ。」
「…お兄ちゃん。」
「…うむ?」
「お兄ちゃん…って、呼んで、いいですか…?」
「………そっちの方が呼びやすい?」
「呼びやすいって言うか………欲しかった、から。…お兄ちゃん。」
ホントにここ、楽園かよ。
みっちゃんが居たら鼻血モンだろうなぁ…と思いつつ、無言のサムズアップを返したのであった。
**
その晩。
「あにき。」
「ん。」
「……グリンピース。」
「がんばれ。」
「…えー。あにき食べて?」
「だめだ。」
「………どうしても?」
「どうしても。」
「昼間は優しかったのに。」
「グリンピースは俺が嫌がらせで出している訳じゃないだろう?」
「う……そうだけど。」
「……頑張んなさい。」
「……お兄ちゃん。」
「ぬ……。」
「って、あたしも呼んだ方がいい?」
「何故。」
「有咲に呼ばれて、嬉しそうだったから。」
「……好きにしなさい。」
「お兄ちゃん、グリンピース食べて?」
「うぐっ………」
親父はずっと目を白黒させていた。
セブンス・ウォー
<今回の設定更新>
○○:人と接する仕事の為お休み。
コミュ力は並だが、コミュニケーション上のウィークポイントが多い。
有咲ちゃんを可愛がりたい。
蘭:クールなように見えて意外と…?
人に好かれたことも人を好きになったことも無かったため、色々と耐性が
無いそうな。
耳が弱い。
有咲:猫を脱いだ(?)
一人っ子故のきょうだいへの憧れが爆発した感じ。
蘭の新しい一面が見られる度にその体は猛り、心は震える。
蘭の画像や動画や音声データで一杯になった為、128GBのmicroSDを最近
買い換えたらしい。ガチ勢。