BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/03/23 夜の街と妹たちと。

 

 

やはり相棒というのは良いものだ。…いや、少々大袈裟すぎたかもしれない。

歳を取ると…その上酒も入ると、表現や感情が大振りになって困る。いや、これも言い訳の一つとしか言えない訳だが。

 

 

 

「なぁ兄さんよ。」

 

「ん。」

 

「本当にいいん?」

 

「あー、まあ、うん。偶には冒険もな。」

 

「マジかよ…今日の兄さん話分かるなぁ。」

 

「いつも分からなくてすまんな。」

 

「いやそういう意味じゃ…確かに、有咲ちゃんに「お兄ちゃん」呼びされてるのは許せないけど。」

 

 

 

昨日の二十時頃から飲み始め、二軒目。適度と呼べる量を遥かに超えたアルコールを摂取している俺とみっちゃんは、少し離れた所謂「夜の街」にある大人な店の待合室に居た。

一軒目は例の串カツが美味しい店で、久々にグラスを合わせたみっちゃんとは大いに盛り上がったのだ。勿論話題と言えば最近の妹と有咲ちゃんについてだが。

暫く連絡も碌に取れなかった彼に、近況報告を淡々と行っていたところ、若く物知りな彼は爆ぜたのである。

 

 

 

『はぁ!?兄さんそれはもう全人類が羨むヤツだわぁ!!』

 

 

 

やはり一番引っ掛かったのは有咲ちゃんと親しくなったことで。まだ酔いの浅い時間帯では、美少女同士の濃厚な絡み話より金髪巨乳なツンデレさんが懐いたことの方が琴線に触れたらしい。知るか。

その流れというか何と言うか、俺は人生初の泡のお店に連れて来られたわけで。

昔の同級生なんかは次々に結婚やら出産やらステップアップしている中で、未だに実家で妹とヘラヘラ過ごす俺。この時ばかりは独身で良かったと心底思った。付き合いだとしてもこういったお店に来ることはパートナーへの裏切りの様に感じてしまうからだ。

 

 

 

「なぁ、みっちゃん。」

 

「ん。緊張してんのか?」

 

「いや……みっちゃんエラく慣れてるみたいだけどさ。よく来んの?」

 

「…前に先輩に連れられてきたくらいかな。」

 

「ふーん…。」

 

 

 

その割には堂々としていると思う。その数分後、みっちゃんがボーイに呼ばれカーテンを潜っていくが、俺の元には一向に呼び出しがかからない。

暇だったので妹に…と思ったが、最近やたらとレスポンスのテンポがいい有咲ちゃんにメッセージを送ってみることにした。

 

 

 

『起きてる?』

 

 

 

送信した後に気付いた。とっくに日付は変わっている時間帯だが、睡眠の邪魔にはなっていないだろうか。仮にも妹の恋人だ。将来義兄になるかもしれない俺がこんなことで好感度を下げていては…

 

 

 

『なに?』

『おにいちゃん』

 

 

「~~~~ッ」

 

 

 

思わず頭を抱えて悶えてしまった。深夜にもかかわらず即レス、天使か。

 

 

 

『相変わらず蘭とは仲良くやっているのかい?』

 

 

『何その言い方』

『セクハラっぽいぞー』

 

 

『っぽいかね』

 

 

『ぽい』

 

 

『あっちゃー』

 

 

『それを訊きたかったの?』

 

 

『いや』

『少し暇が出来て』

 

 

『ふーん』

『わたし今日徹夜する予定だから』

『いつでもお喋りできるよ?』

 

 

『お』

『電話も出来る?』

 

 

『わたしと?』

 

 

『まあ』

『有咲ちゃんと電話したい』

『って言ってる奴が居て』

 

 

『ふーん』

『わかった』

『今すぐ?』

 

 

『いや』

 

 

『そ』

『じゃあ先に蘭寝かせて来るね』

 

 

『え』

『一緒にいるの?』

 

 

『今日はうちでお泊り』

『聞いてなかった?』

 

 

 

なんということだ。何と言う事だ…!確かに今日…いやもう日付を跨いでいるなら昨日か、朝俺が出かける時には既に蘭の姿が無かった。

特に興味も無かったし年頃の娘なら用事の一つや二つあって当然と思い気にしていなかったのだが、まさかそんな素敵展開になっていようとは。…これは、この後の肴がいい具合に増えそうだ。

ちょうどその頃でボーイさんから番号を呼ばれる…と言っても、待合室にはもう俺しかいないのだが。

 

 

 

『なるほど』

『あとで詳しくきく』

『それじゃあちょっと、大人に成って来るよ』

 

 

 

有咲ちゃんに返信を残し、カーテンの向こうへと誘われるがままに入って行くのだった。

 

 

 

**

 

 

 

特に指名もしていなかった俺を迎えてくれたのは「さきちゃん」と名乗る若めの子だった。見た感じ蘭や有咲ちゃんと同じくらいに感じる大人し目な子。実際のところどうかは分からないが真面目系・清楚系と案内には書いてあった子だな、確か。

肩程までの黒髪で、可愛らしいピンクの熊をあしらったヘアピンを二本刺している。

 

 

 

「おにーさん、初めてなんだって?」

 

「…筒抜けなんだね。」

 

「まあね。ほら、そういうリサーチもボーイさんたちの仕事だから。…じゃあまず脱いじゃおっか。」

 

「あ、ああ。」

 

 

 

身体を初対面の人間に弄られることには抵抗があったが、さきちゃんのトークスキルもあってか熱い風呂に浸かる頃には場に慣れてしまっていた。いやはや、自分一人で出来ることを敢えて他人にしてもらうというのは得も言われぬ幸福感を得られる行為なのだと初めて気付けた気がする。

美容室で頭を洗ってもらうのと感覚は近いかも知れない。

 

 

 

「なるほど、付き合いでね。…道理で。」

 

「…どういうこと?」

 

「雰囲気とか目つきとかさ、見てたらわかるよ。あまりギラギラしてないっていうか。」

 

「流石接客のプロ。」

 

「もー、それ褒めてんの??」

 

「どうかな。」

 

 

 

今年二十歳になったばかりらしい彼女は、どうみてもそんな歳には見えなくて。会話を重ねて行けばいくほど、妹やその友人たちに重なる部分も見えた。人間それぞれ色んな事情を抱えて生きている。時には世間を欺くことだって必要かもしれない。

そんな現代の…ある種闇の部分も垣間見える時間だった。

 

 

 

「…おにーさんお名前何て言うの。」

 

「○○だよ。」

 

「○○さんね。…○○さん、さっきあたしに接客のプロって言ったけどさ。」

 

「…んー。」

 

「○○さんも接客業…だよね?」

 

「……それも、雰囲気でわかるもんなの?」

 

「あはは、当たった??」

 

 

 

勘が鋭いのかどこかで見かけたのか。確かに俺の複数ある職の内、少なくとも一つは接客業だった。思わず素で間抜けな声を出してしまった俺を見て明るく笑う彼女は、とても不思議な魅力を纏っている様に思える。

 

 

 

「参ったな…バレちゃ意味が無いんだけども。」

 

「実はね、○○さんのお客になったことあるかもしれないんだ。」

 

「なんと…さてどこのお客様だろうかね?」

 

「…さっき、お風呂から上がって体拭いてた時にね。…近くで顔見たら、そうかなーって思っちゃって。」

 

 

 

恐らく背中を拭いてもらった時の事だろう。後ろに回って拭けば楽なものを、態々正面から抱きつく様に手を回して拭くもんだから、嫌が応にも顔の距離は近づく。

そして、その工程で俺の接客を受けた可能性に気付くという事は、該当する職は一つしか無く。

 

 

 

「ああ、何となく察しがついた。」

 

「あってた??」

 

「最初はもっと露出のある仕事の方かと思ってたがね。まさかソッチとは。」

 

「他にもお仕事してるの?」

 

「ああ。」

 

 

 

その仕事はあまり頻度が高くない為、フリーランスで声や芝居を売っている。昔表現系の学校に通っていたこともあって、ローカルではあるがCMやナレーションの仕事も請け負っているのだ。舞台や講演なんかでも顔を晒すことが多い為、そっちで見掛けられたのだと思っていたが…。

 

 

 

「…そうなんだ!あたし、洋画とかもよく見るんだけど、映画の吹き替えとかもするの!?」

 

「はっは、流石にそれは有名な声優さんのお仕事だなぁ。将来的にできたら面白そうとは思うけど。」

 

「えー!…じゃあ洋画の吹き替えするような声優さん目指してよ!!」

 

 

 

目指せと言われて簡単に叶う世界じゃない…とはマジレス過ぎるだろう。ここは適当に言葉を濁しておくことにする。

 

 

 

「おにーさんが出たらあたし絶対見るから、楽しみに待ってるからね。」

 

「はいはい。」

 

「あ、適当に流したでしょ!…落ち着いてて、好きな声なんだけどなぁ。」

 

「そうかい、ありがとう。…俺も、さきちゃんのこと割と好きだよ。」

 

「えっ」

 

「……………。」

 

 

 

好きだなんて言われなれているだろうに。驚いた仕草やその後両頬を押さえつつ視線を彷徨わせる姿…意識的なのか無意識なのか、それは立派に異性の興味を煽るもので。

…堅苦しい言い訳は辞めよう。つまりは、営業トークのつもりで返した「好き」に、思わぬカウンターを食らった俺は不覚にもときめいてしまった訳だ。アルコールが効いて居たとは言え、これは…。

 

 

 

「お、おにーさん、お世辞上手だね。」

 

「…いや、本当に。顔もタイプだし、雰囲気や仕草の一つ一つも好きだ。…店で会ってなければ口説いていたかもしれないよ。」

 

「やっ、はっ…あ、あの、えと……うぅ…」

 

 

 

俺の口から発された言葉に、俺自ら嵌っている気がする。顔のタイプ?雰囲気?そんなの、平常時なら欠片も気にならない。勿論自分の言葉も自分に効く筈がない。

…俺には、他人を惑わせる才がある。分かりやすく言うならば、軽い催眠術の様なものが使えるのだ。言葉に強い思念を乗せ、対象を()()()()()()()。…その力を使い、気紛れ的にだが占い師の真似事なんかをしている訳だ。

 

 

 

「…あ、ありがと。でもね、あの時おにーさんに言われたように、頑張って自信つけてみた…んだよ?」

 

「……成程、君はあの時の。中々の効き目だよ。」

 

 

 

無論異性に興味が全く無い訳じゃない。並よりかは薄い、程度だ。お陰でみっちゃんと謂れの無い掛け算を成立させられたり、男相手の見合い話を設けられたりと災難な目には遭っているが…。

だが、その俺でさえグラつくとは…こうして客観的に見ると、俺のしている()()はあまり宜しいものでは無いのかもしれない。そう心の中で懺悔を繰り返しながら、()()()の様に彼女を抱き締めた。…ああ、確かにこんな感触だった。

どこか懐かしい感覚と匂いを思い出しながら、飽く迄()()の一環として彼女…"さきちゃん"と口付けを交わした。

 

 

 

「……ん。あたしも、声だけじゃなくておにーさんのことが…」

 

pipipi!!...pipipi!!!...pipipi!!!!

 

 

 

言いかけたところで部屋のタイマーが喧しく鳴り響く。同時に我に返る俺と、目を見開いて頬を染めるさきちゃん。

…そうだった、今日は俺の方が客だったんだ。店のルールだと言い熱心に小さなカードにペンを走らせるさきちゃんを眺めつつ、籠に畳まれていた衣服を着ていく。

全て準備ができた後も、うんうん唸りながら言葉を書き連ねるさきちゃんの姿が、以前俺の元を客として訪れた彼女と変わっていないように感じ、後ろからそっと抱き締めた。

 

 

 

「わっ……どうしたの?帰りたくなくなっちゃった?」

 

「……いや。」

 

「そ。」

 

「この後も飲みに行くんだよ。」

 

「そうなんだ。…飲み過ぎないようにね?」

 

「ん。」

 

「……よし、できた!」

 

 

 

振り返りそのカードを渡してくる。一生懸命にボールペンで書いた名前ににこやかな顔文字が添えてあった。

何気なく裏面を見ようとすると、「あ!裏はお店を出てから見てください!」と止められてしまった。…一体何を描いたというんだ。

気になりつつも廊下へ出てみれば、成程出口用の細い通路が玄関まで伸びていた。様々な客が訪れる、その為の配慮だろう。廊下を抜け玄関へ出ようとしたところで強引に振り返らせられ、口を塞がれる。

 

 

 

「んむっ……ぐ………?」

 

「……………んふぁ。えへへ…もう一回したくって。」

 

 

 

身長差もあった為に少々強引に唇を奪われた形になる。だがその行為のせいで、醒めかかってた酔いがぶり返してしまった。要は、堕ちかけの状態に戻ったのである。

その商売っ気を感じさせないはにかみと口元に声にならない声を上げつつ視線を奪われていると、彼女は照れた様子のまま続ける。

 

 

 

「…さっき、部屋出る直前に口紅引き直したの。」

 

「……へ?」

 

 

 

何のことだかさっぱりだったが、続く彼女の動作で察してしまった。

前かがみになる様に腰を折り、人差し指で自分の口の端をトントン突きながら会心の一言(トドメ)を言い放つ。

 

 

 

「…おにーさん…ここ、口紅ついてますよ…?」

 

「――――ッ!?」

 

 

 

雷に打たれたような衝撃を覚えた。その悪戯っぽくも挑戦的な笑みと上目遣いに、俺の心は黒焦げだった。

 

 

 

**

 

 

 

「かんぱーい。」

 

「……。」

 

 

 

チン、と静かな音を響かせるは二時過ぎの洒落たバー。初めて入った店だが悪くない雰囲気ではある。

ただメニューを見てもカクテルの類はチンプンカンプンだったため、見るからに甘ったるそうなチョコレートと生クリームがあしらわれたものを頼んだ。

乾杯した直後に一気に呷る…うん、甘い。

 

 

 

「兄さん、どうだった?」

 

「………ん。」

 

「顔死んでっけど。」

 

「いやぁ、何と言うか……ありゃすごいな。」

 

「良かったって事?」

 

「…凄くこう…うまく言葉に………好きだ。」

 

「ブフッ」

 

 

 

言語化するのが非常に難しい感情を絞りに絞って吐き出した結果、対面のオッサンが噴き出してしまった。うっかりクリティカルである。

ゲホゴホと咽ながらも笑いを止めないみっちゃんは、やがて呼吸が落ち着くのを見計らって、「や、良かったんならいいんだ。」と一言。

 

 

 

「…で、兄さん。」

 

「なんだい。」

 

「口のここんとこ…口紅みたいの付いてっけど。」

 

「ブフォォッ」

 

「!?」

 

 

 

不意打ちだ。恐らくみっちゃんはただ無意識に指摘しただけなのだろうが、今の俺には大ダメージ。次に噴き出すのは俺の番だった。

不覚にもみっちゃんがさきちゃんに重なってしまい、色々な沸点を越えたのだ。困惑しつつも爆笑のみっちゃんに事情を語っていると、尻ポケットが震えた。いや、ポケットに入れていたスマホが、か。

 

 

 

「あぁ、すっかり忘れてた…。」

 

「何、蘭ちゃん?」

 

「んー……。」

 

 

 

メッセージを見れば有咲ちゃんからだった。それもそのはず、あの意味不明な一言を残して二時間も連絡が付かないのだから、不審に思っても不思議じゃない。

まだぼんやりとさきちゃんに占領され続ける頭のまま画面を確認すると、「おにいちゃんって大人じゃなかったの」的な発言に始まりいつ電話がかかって来るのか・返事が欲しいとの旨に発展していた。申し訳ない。

 

 

 

「…有咲ちゃんだ。」

 

「何だって?」

 

「……みっちゃん、有咲ちゃんと喋ってみたい?」

 

「…そんなサプライズが…!」

 

 

 

予想通りNOとは言わなかったので、凡そ二時間程ぶりになる返信を返し、そのまま発信。2コール程で画面に寝間着姿の有咲ちゃんが映し出された。

 

 

 

「うぉぉ…!!」

 

 

『あ、お兄ちゃん。まだ飲んでんの?』

 

 

「お兄ちゃんて!お兄ちゃんてぇ…!」

 

「みっちゃん、ちょっと、うるさい。」

 

 

「ええと、一回違う店に居たんだけど、今また飲み直し始めたとこだよ。」

 

 

 

興奮のあまり注文したてのレッドでホットなチキンを握りしめるみっちゃんを制しつつこちらもカメラをオンにする。映し出された映像を確認したのか、画面の中の有咲ちゃんが視線を少し下げ、何とも言えない表情をする。

 

 

 

『…その、隣で汗だくになってる人が、例の?』

 

「ああ。有咲ちゃんと喋ってみたいって。」

 

『ふーん。……えと、はじめまし…て?市ヶ谷有咲です。どうしてそんなに汗かいてるんですか?』

 

 

 

滝のように流れ出る汗。…みっちゃんは、スパイシーな食べ物に滅法弱い。本人曰く味覚的に苦手ではないらしいが、香辛料に反応して尋常じゃない量の汗が出てしまうらしい。

現に今も、大興奮で有咲ちゃんとの邂逅を果たしながらも手元の真っ赤な鶏肉は特製のサルサソースに突っ込まれている。この馬鹿、更に辛さを増そうというのか。

 

 

 

「ほ、本物…だ。…ええと、俺は佐倉充弥っていって、この兄さんに良い様に使われている相棒です。」

 

「人聞き悪い事言うな。」

 

『充弥さん…ね。よろしくどうぞ。』

 

「因みに汗は気にしないでやってくれ。体質なんだ。」

 

『…暑さに弱い、とか?』

 

「興奮すると止まらなくなるんだ。」

 

『変態っぽい…。』

 

「お、ぉぉぉお!!あの有咲ちゃんから変態発言頂けるとは…!」

 

「よう、変態。」

 

「あ、兄さんは別。普通にイラっとするから。」

 

 

 

何なんだこいつ。鞄から徐に取り出した白いタオルで顔を拭いながら、有咲ちゃんとの会話は続く。

 

 

 

「つか、興奮と言えば兄さんでしょ。」

 

「はぁ?」

 

『…お兄ちゃん、何かやらかしたのか?』

 

「君の前で何かやらかしたことがあったかね?」

 

 

 

興奮、というワードに嫌な予感が過るが…こいつ、何を口走ろうとして…

 

 

 

「さっき風俗に行ってたんだけどさ、兄さんがもう興奮しちゃって」

 

「おい充弥、表出ろ。」

 

「えー?口紅が何だってー?」

 

「うぁぁああああ!!!!!」

 

 

 

言いやがったこいつ。しかも、そんなピンポイントでワードチョイスしてんじゃねえ。

言葉も無く軽蔑の眼差しを送る有咲ちゃんは置いとくとして、本当にこの場に蘭が居なくてよかった。あいつが居たらどう罵られるか分かったもんじゃ…

 

 

 

『ありさぁ、だれとおはなししてるの…?』

 

『あ、蘭。起こしちゃった??』

 

『んーん、トイレいってもどってきたらありさがいなかったから…』

 

『ごめんね。電話かかって来ちゃ…うわぁ!?』

 

『んーふふふ、ありさやわらかーい。』

 

『ちょま、蘭!寝ぼけてる!?…ぁんっ、どこ掴んでんの!?』

 

『……ぎゅぅぅぅ…ありさもう離さないんだからぁ…』

 

 

「「………。」」

 

 

 

正直最初は心臓が止まるかと思った。今一番聞きたくない妹の声が聞こえたのだから。…だがそこからまさに一転。広がるのは嘲笑の海ではなく無限の可能性を秘めた百合の花畑だった。

リアルタイムでライブ配信される尊い光景に、思わず無言で酒を呷る男二人。

 

 

 

『…えへへぇ、ありさいいにおーい。』

 

『蘭!蘭ってばぁ!!…お、お兄ちゃんも見てるんだよ!?』

 

『おにいちゃん……?ここはありさのおうちだよ?』

 

『いや、だから、その……んぅっ!?』

 

『ありさ、肌きれいだよね…。』

 

『やめ、やめてぇぇ!!』

 

『もう、さっきはあんなにいろいろしてきたくせにぃ…』

 

『ちょまま!!お、お兄ちゃん!!切って!通話切ってぇ!!』

 

 

 

その後彼女が…いや、彼女らがどうなったかはご想像にお任せするとしよう。ただ結果として、俺の失態が全く気にならない程の素敵な光景を見てしまった訳で。

一部始終を見られていたことに遅ればせながら気付いた蘭に恐怖し、みっちゃんに次の店の提案をしたのが午前三時過ぎの話であった。

 

 

 

「…なぁ兄さん。」

 

「……なんだよ。」

 

「あんた本当に何なんだ。」

 

「何だよ急に。」

 

「あんなの毎日見たり聞いたりしてる癖に、嬢のテクニックに絆されてるんじゃねえよ…!」

 

「…………。」

 

 

 

それとこれとは別なのだ。とスパークリングの日本酒に口をつける。

今日も中々に刺激的な一日だった…まぁ、まだ日も昇っていないのだが。

 

 

 

「…帰りたくねぇなぁ…。」

 

「よせやい男同士で、気色悪い。」

 

 

 

結局始発までダラダラ飲み続け、朝食代わりに近くの牛丼屋で腹を満たし家路についた。

みっちゃんと別れ、一人で歩く最中の頭の中は、妹たちの酷く過激な乱れっぷりとあの子のハニカミ顔で埋め尽くされていた。

 

 

 

「ああ、そういえば名刺の裏側……oh」

 

 

 

思い出したように胸ポケットからさきちゃんの名刺を取り出してみれば、裏面には可愛らしい文字で

 

[今日はありがとうございました!好きって言ってもらえてうれしかったです!またくっつきましょー!]

 

とあった。

営業文句だとしても、俺の心は揺れっ放しで。

今まで蘭の浮かれっぷりを見て共感できなかった部分を知ってしまった気分だった。

 

 

 

「…好き、か…。」

 

 

 




どっちがR-18だって話。




<今回の設定更新>

○○:大人に成った。
   色々フリーで仕事を請け負い、日々を浪費することに正義を
   見出した。

蘭:寝ぼけ蘭ちゃんの巻。
  呂律も危ういが、とても甘えっ子でキャラも危うい。

有咲:夜型。
   一応そう言った知識も理解もあるが、恋人の兄として考えると
   複雑なご様子。

充弥:みっちゃんは夜の街が似合うハードボイルドなオッサンです。

さき:一度主人公とあった事がある様子。
   勿論本名じゃない。

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