BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「うなー?…んむんむ。」
「こら青葉。人の服を噛むんじゃない。」
「……うなぁ…んむ。…うなっ!?」
「言わんこっちゃない。金具噛んだのか?」
「うなぁ……。」
涙目で苦い顔をする銀髪の後輩。暇を持て余しすぎた結果俺の服の裾を齧る作業に入り、徐々に場所をスライドさせていった結果飾り金具を思い切り噛んだようで。
分かるぞ、気持ち悪いよなあの感覚。特徴的な鳴き声と共に頭頂部を俺の脇腹にグリグリと押し付けてくる…ホントに猫みたいなやつだなお前は。
「うなっ!…うなぁ!」
「いてて、いてぇいてぇっての!いいか青葉、そこはレバーっつってな、鍛えようもない上に急所になり兼ねん場所なんだ。そんなところにズンズン頭突きを続けたら俺だって怒…」
「ればー??……おいしそう。」
「涎涎…いや、俺の服で拭くな…あぁもう滅茶苦茶だよ…。」
元よりしゃぶられていたせいで色が変わっていた生地だ、今更零れた涎を拭いたところで何も変わるまい。…というか折角の日曜、休日というのに家でダラダラゴロゴロ…昔の俺が言えたもんじゃないが、幾ら何でもこれは怠惰すぎやしないだろうか。
青葉も麻弥も、人の家をまるで共有スペースみたいに使いやがるし…
「そういや麻弥、さっきから黙々と何やってんだ。」
麻弥は俺の机を占領して何かを一心不乱に書き殴っていた。さっきまでは図でも描いているような手の動きだったが、今はカリカリとまるで執筆でもしているような動きだ。
その横、ベッドの上でじゃれ付く青葉に構ってやる俺。…非常にまったりとした空間だが気になるものはなってしまう。
「ん、もうちょっとでできるっす。○○さんは青葉さんと遊んでいてくださいー。」
「……何を作ってるんだ…。あぁこら、服の中に入ろうとするんじゃない!」
「うな?」
「「うな」じゃねえよ。服の中には何も無いだろ?お前には何が見えてるんだ?」
「………せんぱい、いいにおいするから。」
「…前のアレ忘れたのかよ。」
青葉は謎体質の持ち主で、俺の匂いを嗅ぐとおかしくなるらしい。以前検証済みの結果だが、どうやらその作用には常習性があるようで。
事ある毎に何とかして近くで匂いを嗅ごうと、こうしてスキンシップが激しくなっていると言う訳だ。とは言え服に潜り込もうとするとは、流石にそろそろ何とかしないと痴女になってしまう。
「うなぁ…。だめぇ?」
「だめ。」
「ちょっとだけ!ちょっとだけぇ!」
「だーめ。」
「さきっちょだけぇ。」
「匂いに先も根本もあるか!どこで覚えてきたそんな言葉!」
こいつの交友関係は存じちゃいないが、幾ら何でも下品すぎる。それはもっと別の交渉で使う物だ。
…学校で会っても物理的に纏わりつくようになった辺り、いよいよその依存性も高まってしまっている可能性があるが…。
「できたっすぅ!」
「………。」
燥ぐ麻弥。こっちはそれどころじゃないんだよなぁ。
「何が出来たんだよ。」
「○○さんの女体化っす。」
「…なんだって?」
「○○さんが女の子になったら、を真剣に考えてみたッス。」
こいつはそんなことの為に半日以上も机に齧りついていたのか…。勿論誰も頼んじゃいないし、脈絡も無さすぎる。
手に持っている資料を見る限り半端じゃない練り込みだ。何だよあの枚数、論文でも出すのかいね。
「お前はどこへ向かっているんだ…」
「絶対可愛いと思うんすよねぇ。…あ、青葉さんも興味あるっすか?」
「いいにおいするー??」
「そりゃもう!なんてったって女の子っすからね!○子ちゃんっす。」
「○子……うなぁ、おいしそー。」
もうやだこいつら。
「……○○さん、興味ないっすか?」
「寧ろあると思った切っ掛けはどのあたりなんだ教えてくれ今すぐ消し飛ばしてやる。」
「あはははっ、遊びみたいなもんじゃ無いっすかー。冗談にいちいちムキになってると老化が進むらしいっすよ?」
「あぁ?……ソースは?」
「…た、タルタルっす。」
「テンパるんならもう少し面白い事言ってくれ…。」
「じゃあ○子ちゃんの詳細っすけど…」
その話にそんなに自信があるんだな。
…わかった、どうせ暇だし聴いてやろう。こいつが俺をどんなイメージで見ているのか、その参考にもなるやもしれんしな。
やや青葉に押し倒されそうになっていた姿勢を起こし、壁に凭れて座る。体育座りを崩したような格好になったが、開いた足の間に座り込みさも当然のような顔をしているこの後輩は一体何なんだろう。こちらを見上げ「うな」と小さく鳴く姿に怒るに怒れないんだが。
「まず高校生はそのままっす。」
「あぁ。」
「1年E組の出席番号は11番くらいで…」
「E組…うちの学校にはないクラスだな。」
俺が通っている高校は全学年Dまでしかないからな。早速創作っぽくなってきたぞ。
「実際の○○さんは結構ノッポじゃないっすかぁ?」
「まぁ…一応180はあるぞ。」
「だから○子ちゃんは155cmっす。」
「…その具体的な数値は何だ。…155、どれくらいだよ…。」
「モカちゃんはひゃくごじゅうはち。」
「興味ねえ……いや待て、こいつよりちいちゃいってのか。」
そこそこに鍛えていた結果身長もぐんぐん伸びてしまった俺だが、そんなとっくに通り越した身長を言われたところで全く想像ができない。
青葉よりもちいちゃいらしいという点に少なからず戦慄は覚えたが、果たして…
「そっすね……うちの学年に、
「知らん。誰だそれ。」
「えぇぇえ!あれだけの有名人っすよ!?…同学年で知らない人が居たなんて…。」
「知らんもんは知らん。そいつが155cmなのか?」
「はい…。」
「うなー!ひーちゃんもひゃくごじゅうごなんだよー!」
「ひーちゃん??」
要所要所で鳴き声が足の間から上がる。話に入りたいんだろうが如何せんタイミングを見計り損ねているようで、うなうな言いながら体をもぞもぞ動かしているのが擽ったい。
漸く乱入タイミングを見つけたのか、ひーちゃんなる謎の人物の名と共に参戦してきた。麻弥の間の抜けた声も分かる、誰やねん。
「ひーちゃん、しらない?麻弥せんぱい。」
「流石に愛称じゃちょっと…青葉さんのお友達っすか?」
「ひーちゃんはおさななじみー。」
「幼馴染…っすか。生憎とジブンじゃ把握できてない部分っすねぇ。」
青葉の幼馴染か。ここ最近俺の周りをうろうろし続けているせいでより一層気にしていなかったが、こいつ友達とかいるんだろうか。いるんならそっちに行ってくれないだろうか。
青葉に幼馴染が居たとして俺には全く関係がない。
「うなぁ、ひーちゃんは面白い子。」
「そか。まぁどうでもいい。兎に角背が低いんだろ。」
「は、はいッス。…そんで髪は栗色の癖っ毛にしたっす。」
「栗色か、悪くないな。…癖っ毛とはまた…あぁなるほどそんな感じか。」
栗色ってあれは栗のどの部分の色なんだろうか。棘?中身?中身の中身か??…ううむ、日本の色の表現は難しいよな。
癖っ毛についてはあまり想像ができなかったが、麻弥に渡された絵を見る限りとても邪魔くさそうだった。真っ直ぐに伸ばせよ。アイロン持ってんぞ、俺。
「…目は紫…ほほう、こいつぁいいじゃないか。」
「そっすよね!?いつも涼しげで、偶に見せる流し目が堪らないっすっ!!」
「うなー!!!」
「……マジかよ、よくそこまで想像膨らませられるな。」
オタク少女の本領発揮といったところか。その無限の可能性に、俺は恐怖すら感じてしまうよ。
青葉も目ぇ輝かせてるし…お前もこういうの好きなんかい。
「あ、これは想像っていうより日頃の○○さんを参考にしましたぁ。」
「……麻弥、俺のことどう見てんの…?」
「え。……あ、いや、その………ぃゃーん?」
「疑問符取れそれぇ。」
「うなぁん。」
「お前はもうちょいやり切れ!」
涼しげな目…俺が?
取り敢えず麻弥は嘘も冗談も下手らしい。
「うな!…おっぱい!!」
「お、いい着眼点ですね青葉さぁん!…実はこの○子ちゃん…Bカップっす!!!」
「ぅな"っ!?」
「…楽しそうだな。」
どうやら俺を女にするとBカップだったらしい。全く以て意味の分からん情報だが、二人の盛り上がりは凄まじい。麻弥はいい形に描けただの制服の撓みが至高だの語っているし、青葉は自分の胸をペタペタ触っている。お前はCって言ってたろうが。
やがて俺の手を取り引っ張ろうとするがこれを全力で阻止。流石に何の関係でもない後輩の胸を揉みしだく趣味はない。
「けち。」
「バカ言え、俺を変態にするつもりか。」
「…でもせんぱい、モカちゃんがすっごくおっきいのだったら触ってたでしょー?」
「…………ノーコメントで。」
「うなー…ひーちゃんくらいあったらなぁ。」
顔も知らないひーちゃんとやらは巨乳らしい。
「そのうえでですね、いっつも明るい人気者!芸術家タイプの文系で、美術の授業なんかはそりゃもう凄いっす。」
「設定細かいんだか雑なんだかわからんなぁ…。」
そりゃもう凄い、って。
「うなぁ、麻弥せんぱいは何かっぷ?」
「ええと、青葉さんって下着はどうやって買ってるっすか?」
「うな……ひーちゃんが選んでくれてるー。」
「なるほどなるほど…カップ数ってのはですねぇ、結構アバウトなもんなんすよ。」
「あばうと…?」
「詰まる所バストサイズっていうのは、トップとアンダーの差っすからね。ブラのカップっていうのは、BだろうがCだろうがDだろうがフィットすりゃいいんすよ。」
「………じゃ、じゃあ、タグに書いてあるあるふぁべっとは変わるかも知れないのー?」
「まぁそんな感じの認識で間違いないっす。」
「う、うなぁ!……………せんぱいせんぱい、(*`ω´)フフン。」
何だそのドヤ顔。可能性を感じたって顔だな。
…あぁこらやめろ、手を引っ張るんじゃない。揉まない揉まない…。
「…随分作りこんだじゃないか。何のためかはわからんが。」
「こういうの好きなんすよねぇ。…あっ、因みに女体化した○○さんは、"あくびテロリスト"の称号を持っているっす。」
「あくびテロリストとは。」
「えっとー……うーんと、うまく表現できないんすけど…」
初めて聞いた単語に思わず食いついてしまった。青葉も興味津々だ。
「ちょ、ちょっと顔が怖いっすよ?○○さん、そんなに気になるっすか?」
「すっげぇ気になる…し、物騒な単語だったんでな。おかしなこと言ったらタダじゃおかねえぞ。」
「そんな凄むことないじゃないっすかぁ!」
「うなぁ!………うなぁ…。」
「あ、青葉さんはもう興味がどっか行っちゃったみたいっすよ。」
「あぁ?…あぁ、あんなのいつものこったろ。それよりテロリストとはどう言う了見だ?」
足の間から動こうとはせず俺の上着に付いているボタンを弄りだす青葉。飽きたんだろうか。興味が向いたと思えばすぐ移る…移った先でもすぐ飽きる…本当に猫のような奴だ。
「うな…………くぁあ…ぁふ。…せんぱいねむーい。」
暢気に欠伸なんかかましてやがる。しかしなんだ、この姿を見ていると細かいことはどうでもよくなるような…和んだ気持ちになるのは。
ねむいねむいと連呼しながら体勢を変え、そのまま俺の腿を枕に見立て、丸くなって睡眠の姿勢に入ったようだ。
「……おいおい本当自由だな。」
「うなぁ。」
「褒めちゃいないんだがな。」
「へへっ、とっても和やかな絵面っすよ?…あっ。」
「…なんだよ。」
「あくびテロリスト、こういうことっすよ!」
「くぁあ……ぁふぅ。うなー。」
「…………。」
あぁ、なんとなくわかる。自由気ままに、気持ちよさそうに、本能のままに伸び伸びと繰り出す猫のような欠伸。
「……こりゃとんだテロリストだ。空気もへったくれもありゃしねえ。」
「うなぁー。」
銀の髪をサラサラと撫でて過ごす、穏やかな時間。
本当のあくびテロリストは、こいつなのかもしれない。
まったり。
<今回の設定更新>
○○:高身長。麻弥曰く爽やかな視線にイチコロらしい。
動物は嫌いだがモカなら飼ってもいいかなとは思い始めている。
あ、変な意味じゃなくて。
麻弥:時々妄想大行進が止まらなくなる。
目に見えないものを形にする、また、目に見えるものを改変させた結果を妄想する
力に長けている。
ふへへって、最近笑わないね。
モカ:真のあくびテロリスト。
かわいい。
ひーちゃんが好きだが胸囲の格差社会に衝撃を隠せない。