BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/05/04 気が向けば働きもする。

 

 

しかしまあ、人生とは不思議なもので。

久々に働く気になりいつも城を構えている露地へと来たわけだが。

 

 

 

「……たまげたなぁ。」

 

「…こっちの台詞。」

 

 

 

どうしてこう、仕事の最中にまで妹と顔を突き合わせなければならないのか。

 

 

 

「…お兄ちゃんって、占い師だったんだ。」

 

 

 

…おまけに妹の恋人まで一緒だ。

 

 

 

**

 

 

 

「……兄貴、仕事はコールセンターだって言ってたじゃん。」

 

「まぁその、大人には色々あってなぁ…。」

 

「お兄ちゃん、占いできんの?」

 

「おうとも。何でも占っちゃうぞ。恋愛運か?結婚運か?姓名判断なんてのも…」

 

 

 

大通りから一本逸れた露地にある、元々物置小屋だった場所を借りて商売をするようになったのは何時の事だったか…。

占術なんてものを学んだ覚えはないが、昔から他人の顔を観察するのが得意だった俺は時たまこうして占い師の真似事をしていると言う訳だ。特技が活きた一例である。

 

 

 

「…行こ、有咲。」

 

「うぇっ!?ちょま、見てもらわないの!?」

 

「……だって兄貴だよ?胡散臭すぎるし、お金払うのも馬鹿らしくならない?」

 

「おいおい、店の中でする会話じゃねえぞ。お兄様に失礼だろうが。」

 

「…私は、見てもらいたいけど、お兄ちゃんに。」

 

「うぐ……!!」

 

 

 

妹の完敗である。有咲ちゃんのあの最高にキュートな目で見詰められたら誰でも言う事を聞いてしまうのである。それが恋仲である蘭なら尚更――

 

 

 

「…わ、わかったよ。ちょっとだけね。」

 

「えへへ、やったー。蘭すきー。」

 

「エゥッ!?…あ、ありしゃ…!?」

 

「…………占いの中身は確認するまでもないなこりゃ…。」

 

 

 

薄暗い店内でもはっきりとわかる狼狽っぷり。小悪魔ティックな有咲ちゃんに今日もたじたじだな。

帰ってからの蘭弄りのネタを考えつつ、真っ赤な顔色の妹を席に誘導する。手を繋いだ状態の有咲ちゃんも隣に腰を下ろし、いざ診断スタートだ。

 

先程も述べた様に俺が行う占いは完全なる我流なものだ。…そもそも厳密には占う気など更々無いし、未来が見えたり何かを予知したりも出来ない。

だが、人の気持ちを察することならば得意なのだ。目の前の客の気持ち・想い・感情・願い…その他諸々を読み取ることによって、今一番欲していそうな言葉をプレゼントする。それが俺がここで行っている"仕事"なのだ。

……そもそも占いなんてそんなもんだろう?

 

 

 

「んん"っ、じゃあお二人さん。今日は何を占いましょうかね?」

 

「……えと、あの…」

 

「…ふふっ、実のお兄ちゃん相手に緊張する蘭、かわい。」

 

「ヘァゥッ!?」

 

「有咲ちゃん、きっと今日はもっともっと可愛い蘭が見られるぞー。」

 

「マジ?」

 

「マジ。」

 

「……じゃあお兄ちゃんに頑張ってもらわないとね。」

 

 

 

最近特に思うようになったが、有咲ちゃんとは何かこう、波長が合うのかもしれない。…同じ蘭弄りへの意欲というか、もっともっと可愛い蘭が見たいという欲求が、重なる様な気がするのだ。

目の前で悪戯な笑みを浮かべる有咲ちゃ…もう義妹でいいか。義妹に対して、精一杯頑張る意志を籠めたウインクを送る。

 

 

 

「…ちょっと兄貴。」

 

「あん?」

 

「有咲を誘惑しないで。」

 

「してねえ。」

 

「うそ!今見たもん!ウィンクした!」

 

「……はぁ。…わかったよ、ほら、お前にも。」

 

 

 

立ち上がらん勢いで怒りを露わにする蘭にも、バチコーンと景気の良いウィンクを一発お見舞いしてやる。

全く、これくらいの事に嫉妬するとは、可愛い妹だ。

 

 

 

「…きっしょ」

 

「有咲ちゃん、何の占いにしようか。」

 

「無視すんなし…。」

 

 

 

ダメだ。妹の直接的すぎる愛情表現にお兄ちゃん泣きそうになっちゃった。

気を取り直して有咲ちゃんと話を進めることにする。

 

 

 

「んーと……さっき、姓名判断できるって言ってたよね?」

 

「ああ。」

 

「じゃあそれで。」

 

「おっけい。……どっちの苗字にする?」

 

 

 

姓名判断。よく子供の名付けの機会なんかに親御さんが頼ったりもするだろうが、中身は似たようなもんだ。

相談者の苗字が変わったとして、運勢がどのように変わるか…正直こればっかりは俺にもどうしようもない事なのだが、案外依頼は多いのだ。

 

 

 

「…じゃあ、私が美竹になったら。」

 

「えっ、えっ!?有咲が、あたしと同じ……苗字…」

「へぁ、ひゃ、は、早すぎるよぅ……そんなの///」

 

「……ふむ。…正真正銘の義妹ちゃんだなぁ。」

 

「えへへ、お兄ちゃーん……な、なんつって。」

 

「…え?…あ、兄貴も祝ってくれるの…?」

「……え、えへへへへへ…うん、あたし…幸せになるね…///」

 

「…………。」

 

 

 

は?可愛いかよ。

蘭、離すんじゃねえぞ。

心の中で幸せを噛み締めつつ、そして視界の端で勝手な妄想に悶えている妹から目を逸らしつつ胸ポケットから仕事用のスマホを取り出す。

 

 

 

「えぇ?…な、なぁ、お兄ちゃん。」

 

「んー?」

 

「…占いじゃないの?」

 

「占いだが?」

 

「………そのスマホは?」

 

「姓名判断…するんだろ?…おっ、出てきた出てきた。」

 

 

 

名前の画数なんか顔見たって分かるもんじゃねえ。他の相談プランなら料金上乗せのより正確に心情を探るコースもあるがこればかりは別。

普段も別に金取ってないし。

 

 

 

「…やべー。それで商売してんのかぁ…。」

 

「これは無料メニューだからいいの。…それよりこれ見てみんしゃい有咲ちゃん。」

 

 

 

部屋が暗いせいで厭に眩しく見える画面を有咲ちゃんに見せる。素敵な世界に旅立ってしまっていた蘭も復帰したようで顔を寄せて覗き込んでいる。

二人してしばしば画面を見つめ、やがて帰ってきたのは溜息一つ。

 

 

 

「兄貴、これどういう意味?」

 

「さぁ?」

 

「"さぁ"!?何その適当なの!」

 

「…そう言われても、このサイト運営してるの俺じゃないし。」

 

「じゃあ兄貴が占えばいいでしょ!バカ!」

 

「はぁ?名前だの苗字だの、そんなコロコロ変わるもので未来が占えるか馬鹿め。俺はそんな曖昧なものじゃなくてもっと近くの確実な未来を見ることにしてんの。」

 

 

 

言い訳…がましくもなってしまったが、持論としてはそうなのだ。苗字や名前で運勢が変わるだなんて、そんなアヤフヤな未来があってたまるか。

改名や改姓で運気が変わったという事例もあるが、所詮タイミングの産物だと思っている。思い込みなのさ、大体。

だからこそ俺は、実際に対面し触れ合って、そこから近くに待ち構える確かな事象へのアドバイスを生業にしているのだから。…その点に関していえば、概ね好評とも取れる実績もあるし。

 

 

 

「ぐぬ……兄貴のくせに言い返せない…。」

 

「はっはっは、よせやい。」

 

「褒めてない!」

 

 

 

茶化してはいるが、事実大して問題のありそうなことも書いていなかった。そもそもアクセス数を気にする管理者なのだろうが、どんな画数だろうと都合の良い部分だけを結果として表示するようだ。

人望が~だの障害が~だの、結局は気の持ち様だと思うぞ、妹たちよ。

 

 

 

「…ねね、蘭。私、美竹になったら幸せになれるかな。」

 

「………あ…う、うん。…絶対なれるよ。……ううん、あたしが有咲のこと、絶対幸せにして見せる。」

 

「蘭……!」

 

「…占い、要らなそうだな。」

 

「えっ!?あっ!!兄貴、な、なに見てんの!」

 

「お前たちが勝手におっ始めたんだろうが……。」

 

 

 

惚気るのもいいが、時と場合は選ぼうな。

 

 

 

「お兄ちゃん。」

 

「ん。」

 

「お兄ちゃんは、どんな占いが得意なの?」

 

「……っあー…ええと……。」

 

 

 

有咲ちゃんからの率直な質問に、暫し考えを巡らせる。得意な分野は当然あるっちゃあるが、蘭を相手にするとなると…何とも説明しにくいものがある。

有咲ちゃんに答えてしまえば、「じゃあそれやって」となるのが目に見えているからな。

 

 

 

「…言い難いような占いなの?」

 

「馬鹿おっしゃい。…いやその、ちょっと説明が難しくて…な。」

 

「……ふーん。…じゃあ今やってよ。」

 

 

 

墓穴。

 

 

 

「んー……それはほら、別料金になっちゃうし…。」

 

「あ、有咲、もう行こ?…これ以上兄貴の前に居ても、あんまりくっついたりできないし、さ。」

 

「そうだそうだ、今日は終わりにして、デートに戻りんしゃい。」

 

「…………。」

 

 

 

全く納得いってなさそうな顔の義妹だが、俺の意思を汲んでか汲まずしてか蘭もここを出ようとしてくれている。上手い事俺のスキルを使わずに済む手段を取らなければ。

別に占いの内容が如何わしい訳じゃない。内容が半ば適当なのは先程の姓名判断を見ての通りだ。…だが、何としてもこの状況は回避しなければならないのだ…。

 

 

 

「……変なの。じゃあお兄ちゃんは人に言えない占いをしてるって事で…いい?」

 

「いい…とは言えないが、まぁ…もういいじゃないかそれは。」

 

「誤魔化すから聞き出したくなるんだよ。…蘭も気になるよな?」

 

「えぇ?……兄貴が怪しい事ばっかしてるのは昔からだし…そうでもないかな。」

 

「……何なのこの兄妹。」

 

 

 

完全に疑いの眼差しを向けてくる。恐らく俺を訝しんでの事だろうが、そのせいで蘭の恋路を邪魔してしまうのは避けたい。肝心の蘭は阿呆ほど素直な返しを披露しているし、何とかする為には注意を他に逸らさねば。

 

 

 

「…そうだ、そろそろ良い時間だけど、飯でも食いに行かないかい?お兄さんが奢っちゃうぞ。」

 

「…は、何?妹のデート邪魔する気?」

 

 

 

ああもうこの妹面倒臭い。何も汲んでくれないバディと組むとこうも苦労するのか。

 

 

 

「ちがうちがう、その逆だ。…デートの一環で占いを楽しむつもりだったろうに、俺に会っちゃって計画も崩れちゃっただろう?」

 

「まあ。」

 

「だからそのお詫びでさ?何でも好きなモン食ってくれて構わないからさ、三人で――」

 

「あれ?今日お弁当作ってくれたんじゃなかったっけ、蘭。」

 

「あ、う、うん。近くの公園で食べる予定だったし…。」

 

「…。」

 

 

 

くそぅ。昼時だから昼飯、と安易にした提案が通らず思わず歯噛みする。蘭のやつ、何でこういう時に限って弁当なんか――

 

 

 

「…ってか、兄貴にも作ってあげたじゃん、おべんと。」

 

「………………あぁ、そういやそんな物もあったっけ…。」

 

「忘れてたの?」

 

「いや、その、そん…なことは、ないぞ、うん。」

 

「忘れてたんだ。」

 

「…………あっはっは。」

 

「最低。もう作ってあげないよ。」

 

「ごめんて……。」

 

 

 

すっかり忘れていたが、今日は珍しく弁当を作って寄越したのだ。あの蘭が。普段そんな女子力()を見せることも無い妹の奇行に少々の引っ掛かりは覚えていたが…今合点がいった。

頬を膨らませ目線を逸らす妹という新たな問題にどうしたものかと、救いを求める視線を義妹に送れば何とも楽しそうな表情を浮かべていて。

 

 

 

「……仲良いんだね、二人。」

 

「「良くない!」」

 

「あはははっ!……じゃあ、三人でお弁当食べる?」

 

「いや、ちょっ、有咲、正気!?…二人きりで食べるつもりだったのに…」

 

 

 

駄々洩れだぞ、クールさを思い出せ赤メッシュ。

 

 

 

「ごめん、蘭。…でもほら、二人きりなのはいつもだろ?」

 

「う……そう…だけど…っ!!」

 

「いーじゃんか、お兄ちゃんだっていずれは私のお義兄ちゃんになるんだし。…親睦を深める的な、さ?」

 

「うぅ……ご飯だけ…?」

 

「うん。ご飯終わったら、二人で買い物いこ?」

 

「……映画もいく。」

 

「うんうん、予定いっぱいだもんな。今日一日、ずっと二人きりで居よう?」

 

「………うん。有咲すき。」

 

「ん、ありがと。……さて、と。」

 

 

 

一仕事終えたと言わんばかりに得意げな顔を向けてくる有咲ちゃん。何とも頼もしいイケムーブである。

たった今目の前で魅せられた神対応をマスターすれば、俺もモテるだろうか。いや、断じてないな。そんな俺が想像できない。おえぇ。

 

 

 

「……お兄ちゃんも、お弁当食べよ?」

 

「……………うん。」

 

 

 

きっとあれだ。ウチは兄弟そろってこの子に対する抗体を持っていないのだ。

 

店の入り口に適当に"外出中"の紙を貼付け、三人で近くの公園へ。

想像していたとはいえ滑稽すぎる、()()()()()()を食べる時間を過ごし、二人がかりで適当に蘭を弄った後解散した。

デレデレの蘭と満足そうな有咲ちゃんの背中を見送りつつ、妹の幸せを願い手を合わせる。毎日顔を合わせている妹だが、いつかは嫁に行く日が来るのだろう。その相手が有咲ちゃんかどうかはさて置き、あの子には幸せになって欲しいものだ。

 

 

 

「……おにーさん?」

 

「んぉ?……あぁ、早かったね。」

 

「お店に居ないと思ったらこんな公園に…もう予約の時間過ぎてるよ?」

 

「え"っ。……いやぁ申し訳ない。」

 

「もー。たまの仕事なんだから、ちゃんとやってくれないと。」

 

「面目ない…。それじゃあ、今日も占っていきましょうかね。」

 

 

 

背後から掛けられた声に、次にも予約が入っていたことを思い出す。頻繁に相談事を持って来てくれる、謂わば常連の客なのだ。

満足のいく昼飯を思い出しながら、俺は俺で仕事に勤しむのであった。

 

 

 




要は作ってもらったお弁当って美味しいねっておはなし。




<今回の設定更新>

○○:占い師さん。
   より正確に気持ちを汲み取るには対象に触れる必要があり、触れる面積が広い程
   心に響く結果を伝えられるそうな。
   別に占い否定派とかではないのであしからず。

蘭:デレすぎ。
  初めての大恋愛とは得てしてこんなものである。

有咲:潜在的なサディストの血を持つ。
   それでいて外見は美少女と、世の不公平さを象徴するような人物である。
   今回は三つ編みのイメージでした。

??:主人公の店の常連さん。
   不定期の営業にも関わらず、予約まで入れて相談事を持ち込む子。
   有咲や蘭と歳が近いようで…。

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