BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
2019/12/22 興味を持つ、とは?
折角の日曜日に追試とは、全く面倒なこった。
…そりゃ、抜き打ちの試験の日に休みだった
心の中で愚痴を零しつつ、休みの暖房すら入っていない教室に入る。
「……おっ。」
てっきり自分一人で追試を受けるものだと思っていた為に、つい漏れてしまった声は彼女に届いたらしい。
窓際の席、水色のサイドテールが揺れた。
「…………ぁ。」
「なんだ、
「………。」
こくりと小さく頷く。我の声に振り向き目が合ったのは一瞬で、直ぐに怯えるように視線を落としてしまった彼女を、我はよく知らない。
何故か小学校から高校二年の
…とは言え、少し早く着きすぎたようだ。まだ担当の教師は教室に現れないし、今日の内容からして特に準備が必要な物でもない。手持無沙汰になった我は、窓際でせっせと眼鏡を拭いている松原を相手に暇潰しを試みることとした。
「松原、あんたをこんな場所で見かけるとはね。割と賢そうなイメージだったけど。」
「ぁ……ぅ………。」
「…………まさかあんた、日本語が…?」
「…えぅっ、しゃ、喋れる…よっ…。」
「それにしちゃあレスポンスが悪いようだけど…あ、我の事、誰か分からない…とか?」
碌に会話もしたことのない相手だ。我からでさえ曖昧な印象なのだから、向こうにしたって「仲良くもないクラスの男に急に絡まれた」程度の認識なのだろう。
それならばレスポンスの遅さもこの距離感も分からなくはない。
「しっ…!」
「??」
「知ってる…よ…?○○くんの…こと。」
「…………ほう?」
と思ったのだが。我を知っている…と返ってくるとは思わなかったな。これは実に興味深い。
「ずっと、同じクラス…だよね?昔から。」
「そうだな。」
「私、話しかけたりはできなかったけど……ずっと知ってたよ、○○くんのことは。」
「…我も認識はしていたよ。松原の事。」
「はぅ…そ、そうなんだ…ふぇぇ。」
「ふええ??」
成程成程、松原の方も我と同じような認識だったか。しかし意外だな…松原といえばいつも俯きがちで、一人で本を読んでいたり何かを黙々と書き綴っていたり…とにかく下を向いているイメージが強かったというのに、人を覚えているなんて。
「いつも下向いてばかりだと思ってたが、いやはや結構見ているものだなぁ。やるな松原。」
「えっ!?ぃや、そのぉ…。」
「他に印象に強く残ってる奴とかいるか?割と長い付き合いの奴だとか。」
思わぬところで新たな発見をしてしまいついテンションが上がる。鬱陶しいとか思われていそうだが、松原のまともな声を聴いたのも初めてなんだ、勘弁してほしい。
「………いなぃ、かな。」
「そっかー……。逆に何故我は覚えられていたんだ??」
「ぁ、あはは……ごめんなさい…。」
「謝ることじゃあないが…」
シンパシーという奴だろうか。恥ずかしながら我も友人と呼べる存在はほぼ無に等しく、学校でも専ら趣味に没頭している為他人との交流は少ないのだ。同じように独りで居るからつい気になって…とか?
「…ぇと、その……ふぇぇ。」
「なんだ?言いたいことがあるならシャキっとするんだぞ、松原。」
「ふ、ふぇぇ!…えとね?私…ずっと前から…○○くんと…」
折角何かを聞き出せそうだったのに、全くタイミングの悪い担任よ。彼も休日の追試という事で少々気が立っているのか、ただでさえ口の悪い若い教師が荒々しく入ってきた。
勢いそのままに教卓を出席簿で叩き、二人だけの点呼を取る。
「松原ァ!」
「ふぇっ、ふぁ、はいぃ。」
「○○ッ!」
「あいよ。」
「…チッ、たった二人だけの為によぉ…。…まぁ、二人とも出来の良い生徒で助かったよ。ちゃちゃっと終わらせてサッサと帰ろうぜ。」
凡そ教師の発言とは思えない言葉を吐きつつ、三枚のプリントを机に配っていく担任。因みに、当初は窓際の端の席に松原がいてそこから何となく二席程空けて我が座っていたが、「何かムカつく」とかいう理由でくっ付けられてしまった。
お陰で松原のソワり具合が三倍増しで…結局我もあまり集中できなかった。
追試中なのに何故か視線を感じるのだ。
**
「うっし、二人とも問題ねえな。……じゃ、俺は帰るから。お前等は適当に乳繰り合ってろやボケカスゥ!」
「はわっ、わわ、っと、その、さよなら、先生!」
時間の無駄とも思われる追試も何とか無事に終わり、定刻より僅かに早く解放された為か上機嫌に暴言を残していく担任。機嫌が良くても口が悪いとはこれ如何に…と思ったが、そんな教師()が去っていく背中にもきちんと頭を下げる松原。慌てるのは良いが、言い終わった頃に教師はもう居ないというのに、勢い良く閉められた扉に頭を下げる姿は酷く滑稽だぞ。
「……ふぇっ?ぁ、あの、○○…くん?」
「あぁ、すまん。別に滑稽とか思って見てたわけじゃあない。」
「……そうなんだぁ。じっと見られてたから驚いちゃった…えへへ。」
「松原………あんた、存外喋るのな。」
「ふぇっ!?…あ、ぁわわ、う、うるさかった??」
「そういうつもりじゃない…が、声を聴いたのは初めてだったからな。普段からそれくらい喋りゃあ友達もできるだろうに。」
交わした会話こそ少ないが、恐らく目の前のサイドテール少女は悪い奴じゃない。というか、かなり面白いほうに属する生き物だとさえ思う。
これだけいいキャラクターを持っておきながら何故今まで独りで居たのか…気が付けば松原に興味津々な自分が居た。
「あぅ……だって、人付き合いとか…あまりとくいじゃないから…。」
「ふーん……?」
「…………。」
「……ま、わからなくも無いわ。我も得意じゃない。」
「!!そ、そうなんだ!!…あでも、いっつも一人でいるもんねっ!」
「……………。」
我の場合、周りが不気味がって近寄ってこないだけなんだが…しかし本当に見られていたんだな。
いつも一人だって。
「あの……ね?私、○○くんと…仲良くなりたいって、前々から思ってて…」
「……ぬ?」
「あっ、い、嫌だよね?こんな、喋ってても面白くもないし可愛い女の子でもない私なんかと…その…ふぇぇ…。」
「………奇遇だな松原。」
もっと彼女について知りたい…正直なところ、「面白い生き物を見つけた」程度の探求心でしかなかったが、確かに我は彼女に興味を持って行かれていた。
「我も、もっとあんたを良く知りたいと思っていたんだ。」
「……ほ、ほんと???」
「あぁ。…そうだな、正しい意味合いで伝えるとしたら、たった今芽生えた我の知的探求心を満たす為に、もっと松原を曝け出してほしい…といったところだ。」
「……む、難しい言葉が多くて分かりにくいけど……お友達に…なってくれる…?」
「ふむ。そうだな、友人というのも…悪くはないだろう。」
「!!!…や、やったぁ。えっへへ…追試があってよかった。」
「…変わってるな松原は。休日を削ってまでも勉強をしたいと?」
「ち、ちちちがうもんっ、そういう意味じゃなくて…その…」
確かに。今までには無かった"興味を持てる人間"との出会い。そういった意味では、この追試も有意義な物であったと言えなくはない。
今まで意識することも無かったただのクラスメートだが、これからは少しずつ知って行く事が出来るだろう。なあに、クラスの連中にしたって今までボッチだった二人がつるむ程度だし、何も変わらない。
「…あんた、ホント面白いな。」
「ふぇぇ??な、なにがぁ…??」
新シリーズです。一応。
<今回の設定>
○○:変人。周りから距離を置かれている高校二年生。
特に見た目が変だとか性格が悪いと言う訳じゃない…が。
物の見方というか、価値観が少しおかしい。
常に意義や損得を考えて行動している為、同じ年代と揉めやすいそうな。
いい奴ではある。
花音:変人…ではないが、極度に人見知りだったりオドオドしていたり、
気を遣い過ぎてしまったり、変にマイナス思考だったりと、少々
面倒な為幼少期からボッチのまま生きている。
可愛いのに。