BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/02/11 仲良くなる、とは?

 

 

明日も朝から学校だというのに。

我は何故夜遅くカラオケなんぞに来ているんだ?

 

 

 

「ど、どうしたの…かな??○○くん、疲れちゃった??飲むもの取って来よっか?それとも何か食べ物とか…」

 

「…あぁいや、大丈夫だよ松原。」

 

「ほ…ほんと??」

 

「ん。…それよりもうすぐ我のターンであろう?似合いそうな歌とやらをまた見繕っちゃくれないか?」

 

「ぅ…また、私に訊くの…?」

 

「………確かにあんたにばかり訊くのもなぁ。わかった、負担はかけたくないし、次は我自ら探してみようじゃないか。」

 

 

 

誘われたことはまあいい。その時間が夜スタートなのも、参加者に芸能界の人間の就業時間を考えての事と言われたらまあ良しとしよう。

…だが我がカラオケバトルとやらに強制的に参加させられる意味は全く以て分からないぞ。普段自発的に音楽を聴くこともしない我にとってみれば、自分で選んだ曲を人の前で歌うこと自体拷問なのだが。

一応先程の二曲目迄は松原にイメージで選んで貰った曲をその場で聞かせてもらって勢いに任せて乗り切った。どうやら瞬間的な記憶力は優れていたらしく、周りの反応もなかなかの物であった。

 

 

 

「あぇっ!?ふ、負担とかは思ってないよぉ!?」

 

「そうか?…にしては訊かれることを嫌がっていたようだったが。」

 

「あれは、ち、ちがうのっ。」

 

「…ほう?」

 

「私なんかが、よく知らない○○くんの勝負する曲を、選んじゃっていいのかな…って。本当は嫌だとか、センスないなとか思われてないかなって、心配なの…。」

 

 

 

どうやら松原は心配性な上に慎重な性格らしい。我は勝負なんか真に受けちゃいないし、好き嫌いやセンス云々を感じる以前の知識量しかない訳だが…成程彼女は少し考え過ぎだ。ここまで思考が先行していては思い詰めた表情になるのも自明の理…か。

ふぇぇ、といつもの様に一声鳴いた松原だが彼女に選曲を任せたのにはいくつか理由がある。…まずはこのメンツ。

今日この一室に集まっているのは我を含め四人。ふぇぇの松原と我と、今もノリノリで飛び跳ねて歌っている彩。…それに、彼女は初めましてになる訳だが、我が校歴代で最も冷徹と謳われる風紀委員長。一応自己紹介は済んでいる為「氷川(ひかわ)紗夜(さよ)」とかいう名前は憶えているが…楽しんでいる雰囲気も無く何とも絡み難そうな女性だ。

…あいや、楽しめていない、という点では我と仲良くやれそうなのか。よくわからん。

 

 

 

「そんな細かいこと心配すんな松原。我は我の意思であんたに頼んでいるんだ。」

 

「…ふぇぇ。」

 

「だからその…なんだ、松原が、嫌って訳じゃないなら…その……お、我は、あんたがいいんだ。」

 

「…………そ、そう…なんだ。」

 

「……あぁ。」

 

 

 

居た堪れない空気だ。こういった自分の弱みを見せつつ頼みごとをするというのは心底勇気の要ることだと思う。我自身の欠点を曝け出すことにもなる訳だし、その上で自分に好意を持ってくれている人間に頭を下げなければいけない。…それも女の子にだ。

どう形容したらいいのかわからない感情が胸の内を支配し、まともに松原の顔が見られない。全く、情けない話だが。

 

 

 

「…お二人は、どういったご関係で?」

 

 

 

たまたま目線を逸らせた先で氷川紗夜と目が合ってしまった。…目が合うと言う事は此方を見ていたと言う事になるのだが、我は風紀委員に目を付けられるようなことを何かしただろうか…と不安になりつつも投げ掛けられた質問に努めて冷静に返す。

 

 

 

「どういった…って、ただのクラスメイトだが?」

 

「そうですか。いえ、お邪魔してしまい申し訳ありませんでした。」

 

「…こっちからも質問なんだが。氷川紗夜、あんたは一体何だってこんな場所に?」

 

「何で、とは?」

 

「そりゃ…」

 

 

 

まさか質問を返してくると思っていなかったのはお互い様か。我の質問に怪訝そうな顔をする氷川紗夜に対し、取り繕う間もなく素のイメージをぶつけてしまった。

 

 

 

「あんたのその雰囲気とか…立ち振る舞い?が、こういった遊びの場に似合わなかったからかな。」

 

「…成程。それだけですか?」

 

「それだけ……だな、うん。」

 

「ふむ。…いえ、私が居ると迷惑なのかと思いましたが…そう言う訳では?」

 

「ない。…見たところ、彩や松原とも知り合いなんだろう?」

 

「ええまあ、同学年ですし。…勿論、貴方の事も存じておりますが?」

 

 

 

流石にもう驚かない。最初、白鷺や彩に存在を認知されていたことには驚いたが、幾度か交流を重ねたこともありもう分かっている。…特に白鷺なんかは、人の評判や噂の類に明るいらしく、我がそこそこに奇人として有名であることも教えてもらっている。

きっとその方向で知られているんだろう、氷川紗夜にも。

 

 

 

「そうか。…まぁあまりいい印象じゃなさそうだし、詳しくは聞かないでおこう。」

 

「……特に悪い噂は聞きませんが。貴方こそ、このような場が似合わないようなイメージですが?」

 

「あぁ。我もそう思う。」

 

「そうですか。私も、私がここに座っていることに違和感を抱いていますよ。」

 

「…変わってんな。」

 

「……そちらこそ。」

 

 

 

うん。聞いた所で結局何の為に彼女が付いてきたのかは分からないままだった。悪い噂は聞かない、だがこういった雰囲気は似合わないように見える――彼女は我の何を知っているんだろうか。謎は深まるばかりだ。

 

 

 

「はぁ…はぁ……ッ。…お、おわ、終わったよ○○くん……」

 

「幾ら何でも疲れすぎだろう。」

 

「お、お疲れさま、彩ちゃん!…今のって、新しいシングルのだよね…?」

 

「う、うんっ!これ、振りも付けながらだとすっっっごく疲れるんだよっ!」

 

「振りねぇ…」

 

 

 

楽しそうに揺れているのは見ていたが、どうもアイドルというのは掴めない。可愛さが売りなのか音楽性が売りなのか…前者の場合、果たして歌や踊りを伴う必要はあるのだろうか。ううむ、相変わらず渦巻く謎が深いなこの国は。

ぜぇぜぇと荒い呼吸を繰り返している彩が自分のグラスを掴み一気に呷る。グラスに汗を掻かせていた緑の液体が一気に無くなり、彼女の喉と体を冷やしたようだが…あの顔はまだ足りないといった表情か。確かこの店はドリンクバー制で、オーダーせず自力で飲み物を取りに行く必要があった。我が先程からちびちびと口をつけていたコーンスープも、「温まるから」と松原が持って来てくれたものであり、ドリンクバーにスープ迄含まれるのかと感心してしまった。

グラスを持ち部屋を出ようとする彩。

 

 

 

「ジュース取って来るぅ!……ぁ」

 

「…?」

 

 

 

振り返り高らかに宣言したところで、力が抜けた様に口が開いた。…どうやら我のカップが渇いている事に気付いたらしい。

少し間を置いて、未知の機械へ誘いの言葉を投げかけた。

 

 

 

「○○くんもう飲み終わっちゃったんだねぇ。一緒に取りにいくー?」

 

「……ふむ。初めての経験だな。行ってみようか」

 

「ふぇっ!?」

 

 

 

何かおかしなことを言っただろうか。隣で機械に齧りついて曲を探していたと思われる松原が素っ頓狂な声を上げる。

 

 

 

「…なんだよ。」

 

「ちょ、ちょっとまってね!今、飲んじゃうからねっ!あ、あちっ…ふぇぇ…」

 

「…さっき持ってきたばかりだもんな、そのココア。別に今じゃなくても後で行ったらいいんじゃないか?」

 

「で、でも…○○くん、彩ちゃんと二人で行くの??」

 

「そりゃあな。氷川紗夜…は行かなさそうだし。」

 

 

 

チラリと見るもクールな眼差しを返してくるだけで、動こうとはしていない。きっと喉が渇かないんだろう。

 

 

 

「……えぅ…二人は…なぁ…。」

 

「花音ちゃんも行くのー??」

 

「う、うん!行くよぉ!」

 

「まだ飲み切ってないだろ。混ぜるのか??」

 

「うぅ……じゃ、じゃあ!○○くんっ、の!わ、私が持って来てあげるよぉ!」

 

「えぇ?…ああいや、でも折角だし自分で」

 

「だっ大丈夫だよぅ…ふぇ、私、今無性に歩きたい気分…だったからねっ!…あ、ああ、あったかいのと、つめたいのと、どっちがいい??」

 

「……じゃぁ、今度は冷たいので…松原のおすすめをお願いしようかな。」

 

「!!…う、うんっ!分かったよ!!…彩ちゃん行こっ!」

 

「ぅ?…うん…?」

 

 

 

急激に慌ただしく、そして二人が去った後は急激な沈黙が訪れた。何を必死になっていたのやら。

 

 

 

「…無性に歩きたい気分、か。」

 

「………愛されていますね、○○さん。」

 

「氷川紗夜、どこをどうみたらそう見える?」

 

 

 

ふふ、と笑う彼女は相変わらずクールに決めている。今のを見て愛されていると形容できる語彙力は果たしてどのような人生を送ったら身に着くのか。

 

 

 

「見たままじゃありませんか?」

 

「よくわからんね。…ところでその、歌わないのか?」

 

「私が?歌を?冗談でしょう?」

 

 

 

本当に何しに来たんだあんたは。

 

 

 

「あー……それじゃあ、飲み物とか、食べ物もあるみたいだが…そういうのは?」

 

「…私は風紀を正すためここに付いて来ました。」

 

「はあ。」

 

「こんな時間にジャンクな食べ物など、許すとお思いですか?」

 

 

 

もし許されないのだとしたらあんたは風紀委員じゃなくて我の母ちゃんだ。

 

 

 

「うぜぇ。」

 

「なっ…!何ですかその言葉遣いは。」

 

「超迷惑。」

 

「ぐぅ…ッ!い、言い過ぎではありませんか?」

 

「我は知らんが、あの二人は楽しんでるんだろう?その邪魔して楽しいのかあんたは。えぇ?」

 

 

 

もしもそれが本音だとして、それを伝えずしてついてくる事は嫌がらせ以外の何物でもないのではないか。…まぁ連行したのは彩なんだが。

我の一言一言に苦い顔で反応を示す氷川紗夜を見ているのも面白いが、正直快いものじゃない。我は彼女の本当の狙いを暴いてみたくなった。

 

 

 

「………で、ですが…」

 

「あんたも堅苦しい考えは捨てて、楽しんでみりゃいいんだよ。」

 

「楽…しむ…。」

 

「我も今日は色々初めてだが、意外と楽しいもんだぞ。まずは警戒心を解いて、アホになれ。」

 

「あ、アホ!?」

 

「そうだ。この場に於いては我もあんたも何も知らない阿呆だ。…実際、来たこと無いんだろ?こういうとこ。」

 

「盛り場には、行きません。」

 

 

 

盛り場って…。

 

 

 

「だからさ、本当は何がしたかったのか知らんが、一緒に触れてみようじゃないか。今を生きる若者の、自由な文化にさぁ。」

 

「……………。」

 

「あんただって、邪魔がしたい訳じゃないんだろう?態々金と時間を使ってここまで来たんだ、仲良くやった方が得だろうよ。」

 

「……わた、私は………同じ時間を共有することで、知ることができれば、仲良くなることができれば…と思ったんです。」

 

 

 

氷川紗夜、友達とか居なさそうだもんな。彼女の言い分に少し納得、きっとあの二人なら喜んで友達にでも何でもなってくれることだろうと、事の収束を期待した。

…が。

 

 

 

「うむ。どうせもうすぐ戻ってくるだろうし、一緒に歌でも歌えば…」

 

「貴方と、ですよ。○○さん。」

 

「……………我?」

 

「ええ。い…いけませんかっ。」

 

「いけなくはないけども……何故に?」

 

 

 

接点すらないような人間なのに。今日だって、彩さえ誘わなければ会う事も無かったであろう我等。その我に対してこの氷の様に冷たい真面目人間が仲良くしたいと。

不思議なこともあったもんだなぁ。

 

 

 

「…貴方、本当に自分がどれほど有名か分かっていないんですね。」

 

「そんなに有名?」

 

「ハッキリ言って異常ですから。誰とも関りを持とうとしない、人の顔も名前も憶えていない、何なら声を聴いたことも何かを食べている様子も見たことが無い。…貴方、本当に生きているんですか?」

 

「失礼過ぎるぞ氷川紗夜。」

 

「それもです。」

 

 

 

びしっと音が聴こえそうな程真っ直ぐに細腕を伸ばして我の眼前に人差し指の切っ先を向ける。凄く綺麗な爪だ。

 

 

 

「どれ。」

 

「名前。…確かに私は氷川紗夜ですが、私を氷川紗夜と呼ぶ人間は居ません。…そもそも他人をフルネームで呼びますか?」

 

「呼ぶ。」

 

「だから貴方は変わっていると言っているのです。」

 

「知ってるが。」

 

「いえ、私が言いたいのはそう言う事ではなく……要するに、貴方に、個人的に、興味を持ったんです。」

 

「興味、ねぇ…。」

 

「貴方だって興味を持つ相手位居るでしょう。松原さんにアプローチしたのも、○○さんからだと伺っていますが。」

 

 

 

アプローチとは。

 

 

 

「誰に。」

 

「松原さん本人です。」

 

「あいつめ…。」

 

「ん"んっ、話を整理しましょう。…私は、あまりにも同年代の有象無象とかけ離れたところに居る貴方に興味を持ちました。解き明かしたい、もっと知りたいと…そそられるのです。」

 

「…何、我今求婚されてる?」

 

「してませんっ。」

 

 

 

イマイチ要点が掴めない。だがそれはきっと、今までに触れ合った松原や白鷺とは違い無駄に複雑な言葉で遠回りをしているからであって。

 

 

 

「…んじゃなにか、要するに仲良くなりたいってことか。」

 

「………ッ!…い、いけませんか。」

 

「いや?そうならそうと端的に話すべきだと思うが……あんた、あんまり人に好かれないだろ。」

 

「余計なお世話です。」

 

「友達いっぱいってタイプじゃないもんな。」

 

「友達……と呼べる間柄がどんなのか、あまり分からないもので。」

 

「だろうな。面倒臭いもん、あんた。」

 

「うぅ………。」

 

 

 

顔を歪めて俯く氷川紗夜。核心を突いてしまったようで。

だが本当の事を隠す意味も分からないし、そのまま話は続けるべきだろう。

 

 

 

「それならば、我のことは友達と思ってくれていいぞ。」

 

「…ぇ。」

 

「仲良くなりたいんだろう。…我が言うのも何だが、他人に興味を持つってのは良い事だ。我も松原と話す様になってだいぶ変わった。」

 

「……。」

 

「だからその、氷川紗夜。…あんたにも同じように変化があればいいと思うし、仲良くなること自体は悪い事じゃあない。つまりは、ええと…」

 

「………ふふ」

 

「何がおかしい。」

 

「いえ、貴方から見た私はこんなだったのかと思いまして。」

 

「……話が長くなる傾向はあるみたいだけども…」

 

「案外似ているのかもしれませんね。…ふふふっ。」

 

「…何だ、笑った方が可愛い顔してるじゃないか氷川紗夜。」

 

「……有難いお言葉ですが、何とかなりませんか?…その呼び方。」

 

 

 

ずっと仏頂面を見つめ続けていたせいか、ふと緩んだ笑顔がとても魅力的に見えた。ずっとこうなら人望も増えるだろうにと考えていたのだが、呼び方を変えろとのお達しに現実に意識を引き戻されてしまった。

 

 

 

「ふむ。では氷川で」

 

「紗夜。」

 

「………一応理由を訊こうか。」

 

「折角友人になれるのですから、距離は詰められるだけ詰めた方がいいではありませんか?」

 

「いや、でも名前呼び捨ては恥ずか」

 

「だめです。」

 

「……氷川紗夜、仲良くなると態度変わる奴だろ。」

 

「仲良くなったこと無いので知りませんっ。さあ早くっ!」

 

「えぇ……」

 

 

 

どうしようか。究極に面倒な人間に手を出してしまったのやも知れない。いやはや初めてというのはこうも人をときめかせるものか。

先程とは打って変わって輝いた目で期待の眼差しを送って来る氷川紗夜が、まぁ鬱陶しい。のらりくらりと躱し続けようとも思ったが、詰め寄ってきた彼女が席を移動し隣に座ってきた辺りで、救世主たる二人が戻ってきた。

何たる僥倖…!

 

 

 

「ただーいまー!見て見て○○くん!!ミックスジュース作っちゃった!!」

 

 

 

おぞましい液体を持った彩が、てらてらと光るグラスを突き付けてくる。…いや、飲まないからな?

 

 

 

「おえぇ……色がもう美味しさとかけ離れたものになってるぞ…」

 

「ふぇぇ、遅くなってごめんだよぅ、○○く………」

 

「??」

 

 

 

黄色くシュワシュワとスパークリングな印象を受けるグラスを手渡そうとして固まる松原。はて、何か忘れものだろうか。

固まる松原が視線を送っているのはどうも我と氷川紗夜のようだが……ああそうか、先刻部屋を出る前はここに――今まさに我が座っている場所に松原が座っていたのだった。

つまりは座るべき場所が埋まっていることに戸惑っていると、成程そう言う訳か。

 

 

 

「あぁすまん松原、今退ける。」

 

 

 

しかし退けようにも、本来我が座る場所は詰め寄る氷川紗夜によって塞がれている。

 

 

 

「…氷川紗夜、自分の席へ戻り給え。」

 

「………………。」

 

「……おい聞こえて居ないのか氷川紗夜。」

 

「……………??」

 

「ひか……………あー……。」

 

 

 

何となくだが。彼女の睨みつけるような視線と、明らかに聞こえて居るであろう無視の姿勢から言いたいことは察した。…つまりはここで呼べと。その、名を。

 

 

 

「○○くん??…紗夜ちゃんと喧嘩でもしたの?」

 

「いや、そういうわけじゃないんだが……。」

 

「…………。」

 

 

 

彩が不思議がるのもおかしくない。相変わらず空間に固定されたかのように動けずにいる松原と、我に襲い掛からんとばかりに詰め寄った姿勢で睨みつけてくる無言の氷川紗夜。

まるでコントだ。

 

 

 

「……すまないが、退けてくれないか?そこはさっきまで我が居た場所なんだ。……紗夜。」

 

「んふぅっ!」

 

 

 

破顔。…そしてまた元のキリっとした表情に戻り。

 

 

 

「…ど、退けて欲しい、の?」

 

「何度もそう言っているだろう。」

 

「……誰に退けて欲しいの??」

 

「そりゃあんた……………。」

 

「…………。」

 

「いいから早く席に戻れ!さ……紗夜。」

 

「んふふぅっ!!!…ええ、そうさせてもらいます。」

 

 

 

こ、怖ぇ。思わずその気持ちが表情に出てしまう程、変わり身のレベルに恐怖心を覚えた。

背中なぞはもう冷や汗でひったひただ。

 

 

 

「…紗夜…ちゃん?」

 

 

 

元気なお馬鹿でお馴染みの彩でさえ困惑顔だ。

そんな我達を尻目にスタスタと戻っていき何もなかったかのように座る氷川紗夜。「小腹が空いたわね」などとわかりやすい独り言を零す辺り、侮れん女のようだ。

 

 

 

「………彩。」

 

「な、なに。」

 

「紗夜って昔からあんなんなの?」

 

「わ、わかんないよぅ…私もそんなにお話したことないもん…。」

 

 

 

氷川紗夜、謎の多い女らしい。

 

ダァンッッッッッ!!

 

突如目の前で激しい衝突音と共にスプラッシュして見せる黄色い液体。何事かと見て見れば松原がグラスをテーブルに叩きつけているところだった。

長い間腕を突き出したままで疲れたのか、小刻みに震えてさえいる。

 

 

 

「……○○くん?」

 

「悪かったな、持って来て貰っちゃって。…腕、大丈夫か?」

 

「…紗夜ちゃんと仲良くなったの??」

 

「仲良く…かは分からんが、少し話した…かな。」

 

「ふーん…。それで?」

 

「それで、とは。」

 

 

 

あれっ。相変わらずはにかみがちな素敵な笑顔だと思って眺めていたが、言葉は所作の端々に怒りが見える…気がする。

 

 

 

「○○くん、私のことは何て呼んでくれてたっけ?」

 

「松原は松原だろ。」

 

「ふぇ…そうだね。……じゃあ、紗夜ちゃんのことは何て呼んでたっけ?」

 

「氷川紗夜。」

 

「……あれれぇ、さっきは違ったように聞こえたんだけどなぁ。聴き間違えちゃったのかなぁ。ふえぇ…。」

 

「あぁ、さっきは紗夜って呼んだな。まぁそれも紗夜が」

 

「あれれぇ?じゃあすっごく仲良しさんになったってことかなぁ?」

 

「…………いや、そういうわけじゃないが…松原、怒ってる?」

 

「しらないっ!○○くんのばかっ!」

 

「えー…」

 

 

 

**

 

 

 

我はどこでどう間違えてしまったのだろうか。気が付けば個室の中は異様なムードになっていて、怒りに任せて枝毛の処理をする松原を必死に宥めようと何の効果も無い珍妙な踊りを披露する彩。そしてやたらとジャンクフードを一緒に食べたがる氷川紗夜にメニューと注文用の電話機を押し付けられる我。

二つのグループに分かれてしまったまま退店の時間を迎えてしまった。

結局帰りもべったり纏わりつく氷川紗夜のせいで松原と碌に話せないし、彩は半泣きで我に恨めしそうな視線をぶつけてくるし…最悪だ。

カラオケ自体は少し楽しかっただけに、少々悔やまれることになってしまった。

 

 

 

「松原ぁ!」

 

「………ふんだ。」

 

「………花音。」

 

「ふぇぇっ!?……な、なに、○○くん。」

 

「……あぁ、本当に呼び方一つなのか。いや何、あんたも名前で呼んで欲しかったとはな。気付けなくてごめんよ。」

 

「別にそういう…訳じゃないんだよ、でも、紗夜ちゃんとばっかり仲良くなっちゃってるみたいで、ちょと、嫌だなーって。」

 

「…………だってよ氷川紗夜。」

 

「違う。」

 

「氷川紗夜だろうが、あんた。」

 

「紗夜だもん。」

 

「……もう人格からして違うじゃん。」

 

「紗夜ってよんで。」

 

「………どうしよう花音。」

 

「ふぇっ……わ、私名前で呼ばれるの恥ずかしいよぅ…」

 

「…何だこいつら。」

 

 

 

人の事は言えないが、何とも面倒な連中と仲良くなってしまったようだ。

その点、彩は楽でいいな。特に何も無いし。

 

 

 

「今酷いこと考えたでしょ!!」

 

「いや?…そういや彩は彩だな。なんでだろう。」

 

「私のことも、苗字で呼ぶ??」

 

「いやいい、知らねえし苗字。」

 

「酷いよっ!」

 

 

 

あぁ、少々リアクションが元気過ぎるのはちょっとうるさい、か。

 

 

 




カオス回。紗夜さんをぶっ壊したかった。




<今回の設定更新>

○○:人気が出るタイプの変人。
   とは言え相変わらずクラスでは浮いているし、陰口を叩かれることも。
   花音とはもっと仲良くなりたい。

花音:メインヒロインは可哀想な扱いを受けるものです。
   彩との親密度が高まるイベントを回避した結果紗夜と主人公が仲良く
   なってしまった、といったところ。
   両手でマグカップを持ちふーふーと冷ます姿は永遠に見て居られそう。

紗夜:堅物すぎるが故のぼっちちゃん。
   お気づきかと思いますが、このシリーズにはぼっちしか出ません。
   デレると可愛い。

彩:ワロス。
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