BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 - 作:津梨つな
「なんて…こったい……。」
月曜の朝。魔窟の自席にて。
我としたことが馬鹿正直に登校してしまったことも一因してはいるが、何ともショッキングなニュースが舞い込んでしまったがためにグロッキー状態。
一人頭を抱えていた。
「朝から辛気臭い声出して…なんだっていうのよ。」
声がして、顔をあげてみれば奴がいる。目と鼻の先、とはよく言ったものだが、息も触れそうな程の距離にその整った顔はあった。
我の無意識のうちに零れ出た言葉か、はたまた気付かぬうちに放っていた辛気臭さが鼻についたか……何にせよ、女優として通用する程のその美貌は得も言われぬ不機嫌さを纏っている。
「なんだ……白鷺千聖か。」
「失礼ね…。……で、どうしたらそこまで暗くなれるのよ。」
「我、普段そんなに明るい印象だったか…?」
多少人づきあいが増えたとはいえ、例の一件もあって生徒たちからは距離を感じる。壁、といってもいいだろう。
そんな中明るいテンションを振りまき真っ当な生活が送れるだろうか。答えは否である。
彼女にどのような印象を持たれているかは知らないし知りたくもないが、どうやら今の我は暗いらしい。
「そうじゃないけど。……花音が心配するから、もうちょっと何とかしなさいな。」
「あぁ?放っとけよそんなん…。」
「またそういうこと言う。いい?花音が貴方に対してどんな感情を抱いているか、何度も説明してるでしょう。」
「何度も聞いちゃいるが、本人から聞いたわけじゃないし。……そもそもそういう、"デリケート"な問題って、あんたみたいな他者が介入するもんじゃないんじゃないか?」
「な……それは、そうかも、しれない、けど…。でも、でも!!」
「なんだよ。」
「……見てられないのよ。貴方たち。」
「……なんだそりゃ。」
要するにかなり面倒なお節介焼きなのだ、こいつは。花音が実際のところ何を考えているのか、それは然程重要な問題ではないのだろう。
不安か、焦燥感か、危なっかしい所がある奴を放っておかない。それが吉と出るか凶と出るかは、もう相性としか言いようがないが…。
「第一、花音は今居ないじゃんか。」
先ほど教室を訪ねてきた別クラスの生徒に連れられて行ったからな。ふぇふぇ聞こえず静かなのは結構だが、もうすぐ朝のHRが始まる時刻になる。
戻って来られるのだろうか。
「そう……だけど。だからこうして、私が来てるんじゃない。」
「ちょっと待て。そこで"だから"となる意味が全く分からない。」
「……で、何をそんなに落ち込んでたのよ。」
「話を変えるんじゃない。」
「いいから、話しなさいよ。」
「……まあ、仮にも芸能界で活動するあんたなら小耳に挟んだやも知れないが――」
簡単な話だ。
我の数少ない旧知の人間に芸能人なるものがいて、その人が今日結婚を発表した、と。
そう。ただそれだけの簡単な話。
「……とまあそんな感じだ。」
「……それだけ?」
「……。」
嘘は言っちゃいない。
その人に僅かばかりの恋心にも似たものを抱いていたとか、結局踏み出すこともできなかった自分への憤りが今頃になって勢いを増したとか。
そんなことはきっと、白鷺千聖には関係のないことだ。
「……ま、話したくないならそれ以上は聞かないけれど。」
「ああ。」
「次は、そうならないといいわね。」
「知った口を。」
「わかるわよ。その顔見れば。」
「……あんた、嫌な女だな。」
「うっさい。」
彼女の人生経験のなせるものか。
芸能界とやらの闇の深さはちらほらと聞いている。勿論この金髪少女が零すこともあるが、基本的にはあの無駄にうるさいピンクの――
「あれ。」
「?」
「いや、彩を見かけねえなと思って。」
「彩ちゃん?……なに、彩ちゃんにも手を出そうっていうの?」
「あ?人聞きの悪いことを口走るんじゃない。…大体、"にも"ってなんだよ。我がほかに手を出してるみたいじゃないか。」
そんな不埒な真似、断じて、ない。
「聞いたわよ?変わり者の後輩を手籠めにしようとしてるんですって?」
「誰がそんなことを…。」
「たえちゃんよ。」
「本人かよ。」
なんてこった。いやしかしあの不思議系小動物な彼女のことだ。
目の前にある現実をどう曲解して吹聴し回っているかわかったもんじゃない。確認こそしようもないが、白鷺千聖が言うんだから間違いない。嘘だけは言わないやつだしな。
「嬉しそうに教えてくれたわ。"○○さんだけはお話聞いてくれるー"って。」
「…………。」
「股をかけるのは構わないけれど、貴方いつか刺されるわよ?」
「かけてねえ。し、刺していいのは刺される覚悟のある者だけだ…。」
「あら。それなら私が貴方を刺すのは構わないってことね。」
「もうグサグサ刺さってるよ…。」
言葉のナイフが、な。
「ふふ、それじゃあ私にも刺していいわよ?」
「やだよ。あとが怖ぇもん。」
「小心者。」
「平和主義者と呼べ。」
そんな下らないやり取りをしている最中、ガラガラと戸を引き摺って担任の教師が入ってきた。教室内に散り散りになっている生徒もだらだらと席に着く。
HRが始まるらしいが、自然と目をやったその席に、主は戻ってきていなかった。
……花音、どこで何やってんだ。
**
HRが終わっても花音の姿はなかった。担任も特にそれには触れていなかったし、白鷺千聖を見ても首を振るばかりだ。
そういえば教室に花音を呼びに来た人間。確か二人組で、やたら声のでかいちっこい奴と金髪の……だめだ、あまりにも印象が薄すぎる。
元より他人をまともに視界に入れない上、うちは学年ごとの制服の違いもない。探しに行くにも、何を手掛かりに探せばいいんだ…。
「おっはよー!!」
くそ、人が珍しく悩んでいるというのに誰だよ、元気よく入ってきやがって。
いや待て、HR終わった後だぞ。この時間に堂々と遅刻かましてくるアウトローなんてこのクラスにいただろうか。…まあ、俺が思い出そうとしたところでそもそもメンツすら把握していないんだが。
「○○くん!!おっはよ!!」
「……。」
「………ち、千聖ちゃん、○○くんがまた無視するよぅ…。」
「日頃の行いね。」
「ち、千聖ちゃん!?」
何だ、騒がしいと思えば
そもそもこんな時間に登校とか、貴様は時計の一つも見れないのかと小一時間問いたい。我?我はいいんだよ。我がルールだ。
「……待てよ?」
今、ということはHRにあたる時間の教室外を知っているということ。つまり…。
「彩ァ!!」
「ひぇあぅっ!?」
立ち上がり、斜め後ろの席で白鷺千聖に泣きついている彩の肩を掴む。驚いたように振り返ったのを幸いと、正面から両肩に手をかける形になった。
「あっ、ひ、ひゃぁ、○○、くん!?んと、い、いきなり、情熱的、だねぇ??」
何やらほざいているが今は構っている暇はない。
「花音見なかったか?」
「――でもでも、私はそれくらいでも、恰好いいと思……へ??花音ちゃん??」
「ああ。HRの少し前に出て行ってな。どういうわけだか戻って来んのだ。」
「えぅ……そ、そうなんだ??」
「見たのか?見てないのか?どっちなんだ。」
「え、えっと……み、見たような、見てないような?」
「ええい役に立たん…。」
彩を悪く言うつもりはないが、今この状況においては戦力外。情報の欠片も持っていないとなると他を当たるしか…。
彩の肩を開放し席に戻ろうとしたところで白鷺千聖に呼び止められる。
「○○。」
「あぁ?」
「柄悪ッ。…貴方、電話は?直接訊けばいいでしょ。」
「…………。」
盲点。
習慣とは恐ろしいもので、これまでの人生において然程意味をなしていなかったスマートフォンのことなど全く頭になかった。どこにいるのか、それは簡単なことだ。連絡先を知っている相手ならば訊けばいい。
喜びやら羞恥やらで白鷺千聖の方は見れなかったが、早速連絡を取ってみようじゃないか。
「ええと、松原、松原…と。」
「○○。」
「今度は何だ?」
またしても呼ばれた名前に思わず振り返る。多少の苛立ちはあったかもしれないが、こいつ相手なら隠さずとも良いだろう。
…と、その先で何とも珍妙な光景を目にする。
「……どうして彩は泣いてんだ?」
えぐえぐと白鷺千聖の胸で泣くピンク。俺を呼んだのはその頭を撫でる白鷺千聖なわけだが。
「……そうよね、貴方が相手だものね。」
「?」
「相手は女の子なんだから、もう少し優しく扱ってあげなさいな。……役に立たない、なんて言われたら誰だってこうなるわよ。」
「でも、花音の居場所知らないんだろ?」
「そうかもしれないけど……もういいわ。さっさと連絡取って、見つけちゃいなさい。」
「言われなくてもそうするつもりだが…。」
じゃあ何故呼び止めたのか、と訊くのはやめておこう。より話が長引く気がする。
通話を発信する一歩手前のところで止まっていた画面を操作、数コールの後にいつもの鳴き声が聞こえてきた。
『ふ、ふえぇ…○○くん…?』
「……何やってんだ?あんた。」
『教室に、戻ろうとしてるんだけど……なかなか、たどり着けなくてぇ…。』
一体全体どこまで連れて行かれたというのか。入学してすぐ、都合のいいサボり場所を探してあちこち歩き回ったが、そこまで複雑な構造はしていなかったはずだ。
寧ろ見通しが利きすぎて早々に諦めた気さえする。
「……今、どのあたりだ?」
『わ、わかんないよぅ……さっき大きい交差点を渡って、今は住宅街の――』
「待て待て待て。住宅街だって?」
教室へ戻ろうとして何故敷地を出たのか。
そもそも敷地外へ連れ出された可能性もあるが、HR前にそんなことするだろうか。
ごちゃごちゃ考えはしたが、確かに通話の向こう側では車が行き交うような音が聞こえている。意味が分からない。
「……花音、今、何が見える?」
『え、えとえと…………あっ…ふぁ、"ファンシーショップ
「ファンシーショップ…瀬田……ね。」
「!!」
それがどこにあるのかさっぱりだが、やはり学校の敷地外にいることは確かなようだ。少なくとも登下校の中でそのような店は見かけた覚えもないし、我もあまり知らないエリアまで"帰ろう"としているようだ。
このままでは埒が明かないし、教室を目指して敷地を出てしまうような奴が相手では帰って来いというのも酷な話だろう。
「ふぇぇ、きらきらしてかぁいいよぅ…」などと暢気なことを言っている花音へ不用意に動き回らないよう告げ、通話を終了する。
そのまま特に何も出していない鞄を掴み、白鷺千聖の席へと立ち寄った。
「白鷺千聖。」
「ッ。何故フルネーム…?」
「別にいいだろ呼び方なんて。……悪いが頼まれちゃくれないか。我は訳あって早退するから、教師陣に伝えといてくれ。」
「訳あって、って…迎えに行くだけでしょ?」
「まあ。」
「どうしてそれで早退までしなきゃいけないのよ。見つけたら帰ってらっしゃい。」
「えぇ……?」
折角都合よく魔窟を抜けられそうだったのに。相変わらず悪魔のような女だ。
「露骨に嫌な顔しないの…。」
「白鷺千聖。」
「なによ。」
「我は、絶対、帰って来ない。いいな?」
「はぁ……もう好きにしなさい。」
「ああ。」
こちらとしても極力ここには居たくないのだ。断固とした態度で念を押せば、流石の彼女も根負けしたようで。いや、どうでもいいだけかもしれないが。
呆れ顔の白鷺千聖を背に、意気揚々と教室を出る。早く行ってやらねば、花音はまた何処へ迷い込むか分かったもんじゃない。
「○○、くん!」
「……今度は何だ。」
玄関へ向かう階段を降り始めたあたりで彩が追い付いてきた。先ほど見た、登校時の恰好そのままで。
つまりは、鞄やら、帽子やらを装着したままということだが…。
「私も、ついて行って、いい?」
未だ震える声で、そう言った。
果たして彩がついてくることに何の意味があるかはわからないが、目尻に涙を貯め震える手で鞄を握りしめる様子を見る限り、余程の熱意がそこにはあるのだろう。
ついてくる意味も無いが断る意味もまた無い。そもそも許可なぞ要るか?と思いつつも同行を認めることにした。
「……急ぎ足で行くからな?ちゃんとついて来るのだぞ?」
「!!…う、うんっ!!」
何がそんなに嬉しいんだか。
**
ファンシーショップ瀬田。校門を出たあたりで白鷺千聖から受信したメッセージを見るに、そこは白鷺千聖の幼馴染の家らしかった。
地図情報からしてもそう遠くない場所だが……少なくとも教室は全く以て近くない。
日頃の無駄な元気からは想像できない足の遅さを披露する彩を置いて、ひとまず全力疾走で向かう。
この程度の距離だ。ものの数分で着くだろう。
―――お。
運動不足気味の体が疲労を訴えかける中、傍目にも目立ち具合が分かる建物の前に見覚えのある水色。こちらにはまるで気付いていないようで、手に持った何かに視線を落としている。
横断歩道を渡り、駆け寄る。
「……??……あっ、○○くんっ!?」
「ゼェ……ゼェ……あんた……何だって、こんな…ところ…まで…。」
いかん、胃液が上がってきそうだ。
「は、走ってきたの!?」
「そりゃまぁ……不安そうだったから…な…。」
電話越しに聞いた声はデパートで迷子になった子供のそれに近かった。少なくとも前向きな気分ではなかったはずだから。
「……ごめん、なさい…。」
「本当だよ……。……ふぅ。やっと落ち着いてきた…。」
ある程度呼吸が整ってきた。顔をあげて花音を見やれば、眉をハの字にして今にも泣きだしそうな目をしていた。
彼女の泣き虫は一生治らないだろうな。
「…別に責めてるわけじゃない。……何があった?」
「ふぇ……後輩の子が、ね?一緒に……その……バンド、やりませんか…って。」
「……バンドぉ?」
「うん…。」
どんな感性を持っていたらそんな勧誘ができるんだ?まぁ確かに、歌は上手かったが…。
「それで?」
「……ちょっとだけ、考えさせてくださいって、言ったんだけど……。」
「……。」
バンドについて保留になったのは別にいい、が。
そこから言葉を続けることなく、バツが悪そうに視線を彷徨わせる。……何だ?
「帰り道が……その、ね。……わかんなくって…。」
「…………。」
「……えへへ?」
「バンドの話をしていたのは何処でだ?」
「えと……一年生の教室の……前の、廊下。」
「……ほう?」
なるほどなるほど。
なるほどなぁ……。
まるで納得はできないが、彼女はとってもワンダーな方向音痴らしい。同じ校内で済む教室移動を学校外に向かうことで解決しようとするのだから、余程ぶっ飛んだ思考回路をしているか、或いは――
よくこの歳まで無事に生きてきたなと感心せざるを得ない。
「私…よく、迷子とかに…なっちゃうんだよね……。」
「……大変、だな?」
このレベルをそんな簡単な言葉で片づけてしまっていいとは思えないが、何と言葉をかけていいのかわからない。
特に盛り上がりそうもない話であるし、とっとと切り上げて帰るとしよう。
「まあいいや。取り敢えず我は帰るが……あんたはどうする。」
「か、帰っちゃうの??学校、戻らないの??」
「別に、行っても仕方ないしな。一応白鷺千聖には早退すると伝えてきたが。」
「ふぇぇ…サボりはよくないよぅ…。」
「我はいいんだ。」
「またそういうこという…。」
すっかり常套句になった台詞で茶を濁し、花音の手を取って歩き出す。二丁分ほど進めば見慣れた道に出るだろう。
顔見知りと合流したことで不安が解けたのか、上機嫌で喋りだす花音。
「さっきね、○○くんから電話が来て、すっごくうれしかったよ。」
「あのな…こっちは仮にも心配してんのに、何暢気なこと言ってんだ…。」
「心配…?」
「当たり前だろ。急にいなくなったと思えば、まるで戻ってこないんだから。」
「……えと…心配して、迎えにまで来てくれた…の?」
「ああ。」
「…………そ、そっか。……えへへへ…そっかぁ。」
何やら嬉しそうだ。
そういえば、子供は親の気を引くために敢えて悪さをする場合がある、と何かで読んだ気がする。愛情を確認するための行為だとか。
花音のこれも、似たようなものなのでは?
考えてみればみるほど、今回の迷子は謎が深すぎる。普通教室移動しようとして外に出るだろうか?しかもちゃんと外靴に履き替えてまで、だ。
魔窟を抜けられるのはいいが、頻繁にこの子守のような真似をするとなると流石にしんどい。これはいっそ、離れないように見守っていた方が良いだろうか。
「……○○くん??」
「ん、なんだ、どうした。」
「…むつかしい顔、してるよ?」
「………。」
暫し黙り込んでいたのを不審に思ったか、握っている手に力を込められた。或いは上の空に見えた我に苛立ちを覚えたか…。
何にせよ、同じ過ちを繰り返さぬようここはきっちり言っておいた方がいいか。
「あのな花音。」
「ふぇ…?」
「これからは、我のそばに――」
「あー!!!○○くん、やっと追いついた!!」
「――…彩?」
すっかり忘れていた。しかし、あまりに遅いからと置いてきたのは悪かったと思っているが、そんなに睨むこともないだろうよ。
肩で息をする彩が、乱れた髪を直しつつ詰め寄ってくる。
「もう!!…ちゃんと、オレについてこい、って言ったのに、どんどん置いて行っちゃうんだもん!」
「だって足遅いから…」
「頑張ったもん!!頑張ったけど、○○くんが速すぎるんだもん!!」
「んな無茶苦茶な…」
「……おまけにそんな、楽しそうに手まで、繋いじゃって…」
楽しそうかどうかはわからんが、こうでもしないとまた何処かに行ってしまいそうだったんだ。
弁明するため手を放そうとすると、逃がすまいとでも言うようにより一層強く握られた。
「…花音?」
「………彩ちゃんも、来たんだ?」
「うん!!○○くんが…じゃない、心配だったんだもん!!」
先ほどとは打って変わって途轍もなく低いトーンの声を放った花音に、彩が真剣な表情で答える。
とってつけた感がヒシヒシと伝わってきたが、下手に弁明する方が楽な気もしてきた。
「……こいつ、泣くほど心配してたんだぞ?」
「ふぇ…そ、そうなの??ごめんね……。」
「な!…泣いたのは○○くんのせいだもん!!」
「そ、そうなの??」
未だにどうして泣かせてしまったのかわからないが、花音は責めるような目でこちらを見上げてくる。…やはり我が悪いということなのか。
しかし先ほど一瞬感じたトーンの低さはもうない。花音はただただ彩を心配しているようだった。申し訳なさやら何やらもあったんだろう。きっと。
「……知らん。」
「いじわる!!!」
すっかり元気になった彩も交え、そこからはただ只管に馬鹿話をしながら帰路に就いた。
一端の学生として正しい行いとは到底言えないが、こんな学生生活があってもいいと、我は思う。
少なくとも、気づけば朝の複雑な心境を吹き飛ばしてくれたこいつらは、気の許せる知人であるから。
目標、見失いがち。
<今回の設定更新>
○○:あの有名人の結婚発表にファン特有の複雑な気持ちを抱いた人間。
特に同級生に特別な感情を抱いてはいなさそう。
花音:迷子☓
冒険者〇
主人公は密かに"ワンダーウォーカー"と呼称している。
彩:前日の収録が長引いた結果寝坊した模様。
二時間程度の遅刻までなら全く意に介さないらしい。
主人公は特に密かにでもなく"うるさいピンク、ピンクうるさい"と言っている。
千聖:洞察力ぅ…ですかね。
物語の進行には欠かせないしっかり者。
主人公は未だに何と呼んだらいいのか悩んでいる。