BanG Dream! S.S. - 少女たちとの生活 -   作:津梨つな

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2020/03/28 新生活の予感と情の交錯を見た時

 

 

 

「…と言う訳なんだ、どうしたものか。」

 

「どうしたも何も、当主様からの頼みとあっては…。」

 

 

 

久々に顔を合わせた弦巻のトップ。この日本という国に於いても最早トップクラスの位置に上り詰めている、と言っても過言ではない大男が、俺の様なつまらない人間の前で肩を落としている。

そんな姿で頼み込まれてしまっては、実質俺に拒否権が無いのも同義だろう。

 

 

 

「送迎車はマズいんですかね。」

 

「「徒歩での通学」…それこそがこころの望みだと言っておろうが。理由は明かしてくれなかったが…。」

 

「んー……」

 

 

 

もうすぐこころは高校生。然程遠くない場所だが歩けば二~三十分はかかる距離にある、「花咲川女子学園」とかいう学校の高等部に通うらしい。今は別の学園の中等部生なのだが、高等部が併設されていない為の進学と言う訳だ。

それにあたり、こころは現在と方針を変えたい…具体的には、登下校を自分の足で行いたいと意思表示を見せた。今は過保護気味な当主の意向もあって、専任のドライバーが黒塗りの車で行っているのだが…高校生ともなれば特にデリケートな年頃だ。思うところもあるんだろう。

だが不安が募ってしまうのも親の性というものであって…。

 

 

 

「お気持ちは察しますがね。…結局のところ、あの子も大人に成ろうとしているところですし。」

 

「だからこうして頼み込んでいるではないか。いつもあの子と一緒に過ごしてくれている君に。…折衷案というか、程よく妥協し合えるような…」

 

「んー……まぁ、少しお嬢様とも相談してみますかね。あの子の要求もあるかもしれませんし。」

 

「……すまないな。だが、くれぐれも安全面を第一に――」

 

「分かってますとも。」

 

 

 

どんなに厳つくても人の親。娘を愛するがあまり、今日の当主様は少し萎んで見えた。

 

 

 

**

 

 

 

「…こらまいん、降りんさい。」

 

「や!」

 

 

 

こころと通学に関して相談しに部屋を訪れたというに、何故俺は視界を塞がれているのだろうか。

姉妹揃ってこころの部屋に居たもんだから、引き離すわけにもいかず。仕方なくお絵描きに夢中なまいんの隣に腰を下ろし、こころと向き合う形で話を始めたはいいのだが、絵に飽きたまいんがだっこやおんぶを強請り出してからおかしくなってきた。

結果こうして肩車の形を取り、しがみつく手によって目を覆われてしまっているのだ。

 

 

 

「ふふっ、高い所からの景色は格別よね、まいん。」

 

「うん!あたち、のっぽになったみたい!」

 

「…あたしも次やってもらおうかしら。」

 

「こらこら、まずは大事なお話をしてしまわないと、だろう?」

 

 

 

肩車した先で特に何かをしている訳でないのに、頭上でキャッキャッと燥ぐまいん。この子のやんちゃっぷりは、こころとは似ても似つかないところがあると思う。

不穏なことを言い出すこころを制し、改めて問うことにした。

 

 

 

「…歩いて通いたいのが「普通の子と同じようにした」って目的なのはわかった。…だがお父さんの心配な気持ちについてはどうだろう。」

 

「んー。お父様は心配性すぎるんだもの。あたし、もう子供じゃないわ。」

 

「…参ったな。」

 

 

 

荷が重すぎるぞ当主さん。俺は確かに口も上手けりゃ言葉も回るし、こころ達に懐かれているという状況的アドバンテージもある。…だが、一度も親を経験したことが無い。

親になったことが無い人間に親の気持ちが分かるのか?…現実問題として、安全面を考えた当主の依頼を全うすならばこころの気持ちなど度外視し送迎してしまうのが一番いいだろう。だが彼女とていつまでも子供じゃない。やりたいこともやりたくないこともある。それらと上手く向き合って、互いに尊重し合い行動決定をする…それが親の取るべき態度なのだろうが…。

 

 

 

「……○○は、あたしのこと心配?」

 

「うん。…こころは俺の恩人だからなぁ。」

 

「恩人だから心配なの??」

 

「……………。」

 

「お父様に頼まれたんでしょ。」

 

「…知ってたのか。」

 

「何となくだけども。……どうしてもそうしなきゃいけないのなら従うけれど、お父様はお外を歩かないじゃない。普通の子を、知らないじゃない。」

 

 

 

つまらなそうに髪を弄り、溜息を吐く。掴む場所が変わり解放されたての両目で、指に巻きついてはするりと解けていく金の髪を見ながらどうしたものかと考えを巡らせる。

どちらかと言えばこころの気持ちの方が共感できる気さえするのだ。ついこの前まで、俺も子供だったのだから。

どれくらいその姿を眺めていたか。もうこの部屋には答えが無いと踏ん切りをつけ、ドアの方に向かって声を掛ける。

 

 

 

「…黒沢さん、今外出いいかな?」

 

 

 

…あの黒服連中はどういうカラクリだか、普段敷地内で目にすることは出来ない。何かがあって、用が出来てから初めて姿を見せるのだ。

よってこうして何もない所に呼び掛けてみれば…一、二秒の間を置いて明るい声が。

 

 

 

「はいはーい。何のお出かけですー?」

 

「……こころとまいん連れて、さ。通学路の下見に。」

 

「あぁ~なるほどね。」

 

「つうがくろ??」

 

 

 

俺の言葉にニヤリと笑う黒沢さんと首を傾げるこころ。言葉に馴染みが無いのは、まともに"通学"という行動を自らの意思で行ったことが無い為か。

 

 

 

「あぁ、通学路ってのは――」

 

「学校へ通うための道、「通学」の「路」のことですよお嬢様!」

 

 

 

隣から割って入って来る黒沢さんに台詞後半部分を取られる。俺が講師だと聞いていたんだがこの人は全く…。

だがその言葉にパァと顔を明るくしたこころは、

 

 

 

「!!いいわねっ!○○、すぐに準備して出掛けましょ!!」

 

 

 

とても乗り気でいらっしゃった。

 

 

 

「……そうだな。…ほらまいん、お出かけするから一回降りよう?」

 

「う?どこいくの?」

 

「お姉様の新しい学校を見に行くんだよ。…一緒にお散歩は嫌かい?」

 

「がっこ…!!…いくぅ!!」

 

「ん。それじゃあ黒沢さん、俺の上着とこころ達の外出用――」

 

「もう準備済みですぅ。」

 

 

 

流石弦巻の使用人。俺の言葉を先読みしていたかのような手際の良さ。

…ふと窓から見た外では、穏やかな日和を感じさせる春の風が吹いていた。

 

 

 

**

 

 

 

寒すぎず、かと言って変にぬるくもない…そんな日の下を三人並んで歩く。俺を真ん中に挟み込む様にして、両側は姉妹が固めている状態だ。二歩程後ろを、黒沢さんも付いて来ている。

 

 

 

「うふふっ!お外はいい匂いがするわね!」

 

 

 

ぐいぐいと俺の右手を引っ張る様に歩くこころはリードを繋がれた犬を連想させる。世界の弦巻のご令嬢に失礼な想像だとは思うが、屋敷でお嬢様お嬢様しているよりよっぽど可愛らしいと俺は思う。

 

 

 

「『春の日差しに青い空、澄んだ風景に咲く一輪の華の名は』…ふっ、久々に癖が出ちまった。」

 

「ぃくちっ!」

 

「…まいん?…まだ寒かったかな。」

 

 

 

対照的に大人し目な左側のまいんは、商店街の方面へ向かう下り坂の最中終始くしゃみを放っていた。春とは言えまだ三月。暖かくなったと過信するにはまだまだ早かろうて。

後ろの黒沢さんに目配せすれば、すすすと近寄り小さなお嬢様の鼻を拭き取り下がっていく。ずびずびと鼻を鳴らしているまいんだが、俺に向ける表情はハの字眉が印象的だった。

 

 

 

「あのね、スギヤマがね、かーふんしおだって言うの。」

 

「かーふんしお?」

 

「うん。かーふんしおは春になると、くしゃみがいっぱいなんだって。」

 

「……花粉症か。…それなら丁度つらい時期だなぁ。」

 

「ふぇくちぃっ!」

 

「…家に居た方が良かったんじゃないかい?」

 

 

 

花粉症だと知っていたならば無理には連れ出さなかったのに。純粋な心配からそう言ったのだが、まいんはムッとした様子で、「姉様と一緒にいるの!」と返した。

この年頃ならば、まだ上のきょうだいの後を追いかけまわす頃か。怒ったのかもしれないが微笑ましい姿に和まされる。

 

そんなこんなで歩く事三十分ほど。歩き疲れたまいんをおぶって歩いていたらしっかりした造りの校門が見えてきた。

花咲川女子学園…どうやらここが正門に当たるらしい。

 

 

 

「……広。」

 

「ここが…あたしの通う…!」

 

 

 

部活動に勤しんでいたと思われる生徒とすれ違いながら、暫し校門で佇む。じっと校舎を見上げて目を輝かせているこころを見詰めながら、自分の学生時代を思い返してみる。

中学から高校へ、学び舎が変わり勉強やら何やらで面倒事が増えるだろう…といったことくらいしか考えていなかった俺とは違い、この子はきっと明るい未来を見ている。ココに通う事で、環境が変わることで、新しいものに出逢えるという期待。その可能性に、胸を膨らませているんだろう。

…だとしたら、毎日付随する登下校に際して彼女の希望の邪魔をするのは悪手…もとい可哀想だ。こころが一息ついたのを確認して、話しかけてみる。

 

 

 

「…どうだった?実際歩いてみて。」

 

「とっても素敵!お外に出るだけでもワクワクするのに、木も壁も、人も車も街も空も!ぜんぶぜんぶ輝いて見えたの!…あたし、この道も大好きになったわ!」

 

「ふむ。相変わらずのワードセンスだな。」

 

「…○○は楽しくなかった?」

 

「…楽しかったとも。久々にのんびりと歩いてみて、散歩も悪くないかなーとね。」

 

「ふふふっ、それは結構ね!」

 

「あたちつかれた。」

 

 

 

まいんには少し遠かったし、仕方ないだろう。後半は背中に乗って居たとは言え、小学生の足で歩く距離じゃない。

 

 

 

「でも、おんぶはあったかいからすき。」

 

「…それは結構。」

 

 

 

それはそれということで。

 

 

 

「…さてこころ。実は歩きながら、少し考えていたことがあってだね。」

 

「なあに?」

 

 

 

散歩の時間を利用して俺なりに考えを纏めてみた。父親の気持ち…正直ほぼ分かっちゃいないが、過保護になる気持ちはわかる。それだけの愛があって、オーバーに再現できてしまう財力があるってだけで。

そしてこころの気持ち、これも当然分かる。だからこそ、唯一俺が協力できる分野だと思ったんだ。

 

 

 

「……君がこの、毎日の景色にときめく時。傍に俺が居るのは不満かな?」

 

「…そんな、不満だなんて。…○○は○○の世界を持っているし、あたしの話もちゃんと聞いてくれるもの。一緒に居て楽しいと思っているわ。」

 

「そりゃどうも。」

 

 

 

恐らくこころは嘘を吐くような子ではないし、何と言うかその…何なら正直すぎる子だ。気遣いから本心を隠したり偽るような子ではない。

真っ直ぐにぶつけられる純粋な親しみに思わず頬がニヤケそうになる。

 

 

 

「…当主としては、君が一人で登下校するのが不安な訳だ。…何かあった時に、誰も見ていないんじゃ不安が過ぎるからね。」

 

「…………ええ。」

 

「………だから、毎日俺が歩いて送迎するというのはどうだろう。」

 

「……………。」

 

 

 

勿論軽く考えているつもりはない。若い子の体力に合わせて――というのも中々にしんどいものだとは思うし、当主がそれを納得してくれるとも考えにくい。だが、こころが抱く「普通の子のように振舞いたい」という願望を叶える為には、この関係者の中で唯一普通の人間である俺が動かねばならんのだ。

それもまた、俺の仕事なのだから。

俺の案に未だ下を向き声を発さないこころに続けて声をかけてみる。

 

 

 

「……あー、いや、こんなおっさんと毎日歩くのも確かにアレだわな。…考えが足りなかったよ。」

 

「……ちがうの。」

 

「……。」

 

「○○……無理、してない?」

 

「特には。」

 

「でも……面倒じゃないの?あたしの我儘に、付き合わされてって…」

 

 

 

ははぁ。成りは小さいにせよ心は立派なレディだったって訳だ。まだまだ甘えていい立場だというのに、一丁前にもおじさんの心配をしているのだから。

申し訳なさそうで、それでいてどこか嬉しそうでもある彼女のテンコツに手を載せ、二度三度と髪を梳く。

 

 

 

「…あのなぁ。さっきも言っただろう?散歩も中々悪くないと思ったんだよ俺は。…おじさんだからなぁ。」

 

「………でも、毎日まいんをおぶっていたら疲れちゃうでしょう。」

 

「いや、付いてくるのは俺一人。まいんはまいんで学校があるだろう?」

 

「…………ぁ。」

 

 

 

どうやら肝心なところでお茶目をかましていたらしい。勿論俺だって毎日やんちゃお嬢様を抱えて付き添う気は無い。死んでしまいます。

 

 

 

「……だからさ、こころ。俺に隣を歩かせちゃくれないかね。」

 

「っ!!…えと……その……。」

 

 

 

若干顔が赤らんでいるのは数十分も歩き続けたことによるものだろう。…あの屋敷暮らしだと、確かに移動距離は長そうだが自分から何もせずとも用を足せるわけだし。

暫くうーうー唸っていたが、やがて俺の手を取り、

 

 

 

「……え、えすこーと、宜しくお願い…ね。」

 

 

 

と小さく口にした。いつも元気なこころにしては珍しく、どこか緊張したような様子に彼女なりに期待と不安を併せ持っているのだろうと推測する。

さて、まいんも背中で欠伸をかましているし、そろそろ帰るとしよう。まだまだ歩けると強がるこころだったが、言葉とは裏腹に上気した頬とやや荒い呼吸が疲れを物語っていて。後ろで控えていた黒沢さんに目配せするなり、何処からかすっかり見慣れた黒塗りの車が入ってくる。未だに疑問だが、あの手の車はどうやって曲がり角を曲がるのだろうか。

 

 

 

「ふっふっふ…やったね○○さん。」

 

「黒沢さん?……何だいその含みのある笑みは。」

 

「もぉー、○○さんの女ったらし!スケコマシ!」

 

 

 

他の黒服連中が車に姉妹を押し込んでいる横で、ニヤニヤと面倒なノリで絡んでくる黒沢さん。バシバシと背中を叩く力が…思った以上に強い。女を誑した覚えもコマした覚えも無いが、相変わらず距離感がおかしい黒沢さんの勢いに疲弊しつつ、会話の逃げ道を探す。

 

 

 

「仕方ないでしょう…当主直々に「何とかしろ」って丸投げされてるんだから。」

 

「だからってあんな…「こころ、俺は君の隣を一生歩くよ」…みたいな!みたいなさぁ!」

 

「言ってない。」

 

「そりゃお嬢様も堕ちるってもんです。…はぁーあ、ホント口だけは達者なんだねぇ。」

 

 

 

失礼な。

丁度その辺りで発車準備が整ったと報告を受けたので、二人してじゃれ合いながら乗り込む。

車でも十分ほどかかる道程。こころはどうしてそんな苦労をしてまで、普通になりたがるんだろうか。

 

 

 

「にーさま!おなかすいた!」

 

「そうだね。…お家帰ったら夕飯だし、もうちょっとの辛抱だなぁ。」

 

「にーさまはすいてない??」

 

「うーん。この後の仕事を考えると胃が痛むんだよなぁ。」

 

 

 

暖かい車内では鼻づまりのまいんが元気を取り戻していた。静かな揺れを感じながらも、少し熱くなっていた心身が冷えていく感覚と次の事柄に思考を移す脳。

只散歩しに来たわけじゃない。この時間で決めたことを、これからあの父親に報告せねばならんのだ。折衷案…とも言い難い案だし、今更ながらに俺一人で抱え込めるような責任の大きさではない事に胃がキリキリ鳴っていた。

 

 

 

「…おなかいたいの?」

 

「あぁごめんね。大丈夫、大丈夫だから。」

 

「うー……じゃあおねーさまは??」

 

「……。」

 

「おねーさま?おなかすいた?」

 

「…ぇ、あっ、ど、どうしたのかしら?まいん?」

 

「………むぅ。」

 

 

 

車が動き出してからというもの、目も合わせてもらえず何か思案に耽っているようだが。いつも一緒に遊んでいる二人がそれぞれに上の空だったためか、まいんは口を尖らせて黙り込んでしまった。

新たな生活の始まりを目前に控え、各々が見えない先行きに沈黙を噛み締める春の日の事だった。

 

 

 

 




忙しくて全然更新できないす




<今回の設定更新>

○○:女誑しがジョブに追加された。
   前職の影響か元々の人格か、難しくも珍妙な言葉づかいで話す癖が
   ある。
   妙にコピーぶったフレーズを多用する癖も落ち着いては来ているの
   だが…。
   黒沢さんと最近仲良し。

こころ:庶民への憧れがある。
    空想金持ちあるあるの「多数の習い事」「英才教育」は無いが、
    甘やかされ過ぎてつまらないらしい。
    学校では「与えられることのない楽しさ」を探し求めるのだとか。

まいん:花粉症。
    姉とは対照的に、甘えられるのならとことん甘えたい派。
    態々歩いて登校しようとする姉が理解できないらしい。
    晩御飯はえびふらい。

黒沢:えー?こんなでも一応使用人ですよぅ。
   ○○さんは、堅いのが嫌だーって言うんでね?こんな感じに
   してんの。
   失礼は無いようにしてますよぉーだ。
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