「深海棲艦!?」
「そんな……!!」
それはノシロが言い放った衝撃の情報。差別している側の艦娘を統べる■■がまさかの深海棲艦としてこの鎮守府に所属していた。提督でさえも耳を疑う程、信じるには到底難しい情報だ。
「……それは本当なのか?」
「恐ラク本当ヨ。ダッテ私見タモノ……■■ガ深海棲艦ニ変ワッタ所ヲ……」
ノシロの記憶の中では不確かな情報らしい。しかしノシロは見た事があるという。執務室にて前任の目の前で■■が深海棲艦に姿を変えた場面を。
それを覗いた事で口封じされたのかもしれない。提督は顎に手を当て、重要そうに考え込む。
「なるほどな……んーまた複雑になってきたな」
黒い箱の情報といい、ノシロの情報といい、あまりにも奇想天外な事が起き過ぎている。予見していた事とはいえ、そこまで前任と干渉しているとは思いたくなかった。
これでは以前拘束された彼女が捕まった理由が弱くなる。彼女を特定した第一の理由として、鎮守府襲撃の際にこちらの作戦がバレた事が取り上げられていた。だが■■が深海棲艦となればその話は■■の方が何よりも結びつきがつく。
誰が裏切り者で、何が真実なのか。一向に■■について謎が深まるばかりだ。
「ホラ、言ッタンダカラサッサトヤラセテヨ」
「それは出来ないなぁ。そんな損傷の状態で復讐されても心地よくないだろう? 一旦修復してからにしようか」
「……本当ニサセテクレルノカシラ?」
「勿論だ。俺が結んだ約束は裏切らない」
自信満々に提督は宣言する。今までもここの艦娘達のやりたい事や願い事を手伝ってやってきたつもりだ。そう言えるだけの理由が提督にはある。
「……ソウ。楽シミニシトクワ……」
「んじゃ金剛、比叡。今日の見張りは自由にしたまえ。俺らは先に地上へ戻るとしよう、行くぞ」
地下営倉を出ていき、地上へ上がる提督達。今の季節は夏始め、蝉の声が鳴り盛る頃だ。ジメジメとした暑さが涼しい廊下内でも伝わってくるのがわかる。
「さて来客だ、誰が来るんだっけ」
「■■大将よ。全く……嫌味でも言いに来たのかしら」
■■大将。時雨や夕立、その他の艦娘達にとっては嫌な存在。以前時雨と夕立の件について、旧式解体を一時可決させた男として知られており、この荒くれ鎮守府の艦娘達は提督と同じく良く思っていない。
「かもな。灰、俺は■■大将と別の応接間にて話し合う。お前は引き続き仕事を任せたぞ」
「分かりました。他の艦娘達や職員達にも伝えておきます」
「話が早くて助かる。五十鈴、出迎えの準備だ、外へ行くぞ」
「了解!」
身体全体を包み込む様な暑さの中、提督と五十鈴は鎮守府の門前にて■■大将を出迎える。森の中に掻き分けられたアスファルトの道路を一人の軍人と艦娘が歩いていた。憲兵達によって重い門が開かれ、鎮守府の中に入る。
「遥々東京からこんなクソド田舎の地方鎮守府までようこそおいでくださいました、■■大将閣下。さぞかしこのジメジメした暑さでは気分も悪い事でしょう」
「いやそうでもないな。田舎というのは都会では味わえない物がある。自虐的な事は言わなくていい」
何故だろうか、皮肉的な事を言われた気がする。と思いつつも提督は少しだけ立ち話を続けた。
「そちらの艦娘は貴方の随伴艦で?」
「ん? あ、あぁそうだな。どうしてもついていきたいと言う事で連れてきた。自己紹介をしたまえ、酒匂」
「ん、酒匂?」
■■大将の大きな背中からピョン、と艦娘が現れる。
「はい! 阿賀野型軽巡洋艦四番艦、酒匂です! よろしくお願いします!」
「「……」」
思わず提督と五十鈴は目を丸くしたまま数秒間棒立ちした。
これは何かの偶然か。ノシロが憎悪をぶら下げてこの鎮守府に舞い戻り、阿賀野と矢矧が部屋に閉じこもってる中でその四番艦が現れるとは予想も出来なかっただろう。しかも特徴的な口調が全く無く、きちんとした姿勢と挨拶を返してきた。
「ま、まぁとりあえずここでは話がしずらいでしょうし、応接間にて話し合いましょう」
執務室の応接間ではなく、特別に用意された応接間にて話を進める。話が順調よく進めるよう小部屋の様に狭く、尚且つ防音対策も取り入れている。また第三者の介入を防ぐ為、部屋内に監視カメラの設置は禁止。扉の端に金属センサーをつけて盗聴器具など感知させている。
「今回ここにいらっしゃった目的は?」
「言わなくても分かるだろう。彼女達の陳謝と、えーっと……これだっけ? いや違うな……あー! っと……いやこれでもないな」
「もう大丈夫です■■大将閣下……五十鈴、白露と時雨と夕立を呼んでこい。一時灰の秘書艦は……あー……うーん、不知火にしとこう。それも頼む」
「了解したわ」
途端に思い出したかのように悩み出す■■大将を止めに入る。お茶を出した五十鈴に命令し、例の三人を連れていくようにさせた。
「失礼しまーす……」
「来たか。君達、こちらに来なさい」
以前の様な棘が刺さったような声ではなく、優しさに包まれたような声で提督は三人を誘導する。ソファに座る提督の隣に立たせて、■■大将と対面出来るようにさせた。
「ごめん提督、この人は……?」
「参謀総長の■■大将閣下だ。君達に用があっていらっしゃってくれた。挨拶をしたまえ」
聞いただけで提督よりも偉い人なのが分かる。現に提督は■■大将に対して尊敬語で話していた。三人は敬礼しながら元気な挨拶を心掛ける。
「■■■鎮守府所属、白露型駆逐艦一番艦、白露です! よろしくお願いします!」
「■■■鎮守府所属、白露型駆逐艦二番艦、時雨です! よろしくお願いします!」
「■■■鎮守府所属、白露型駆逐艦四番艦、夕立です! よろしくお願いします!」
「元気があるいい娘達じゃないか。よろしく」
無邪気な笑顔で■■大将は返事をする。その老年男性の笑顔はとても穏やかで優しい気持ちになれそうだった。顔の傷や光のない目などの不穏な表情など一切感じさせもしない。
「それで……その……用とは……?」
「そうそう、この前の事で君達に謝りたくてね」
■■大将は立ち上がり、三人の前に移動する。
そして──、
「息子に代わって私が謝ろう。本当に……すまなかった」
足を畳み、頭を深く下げる。額を床に触れさせ、両手を揃えた。
「私の愚息が関係のない君達を酷い目に合わせてしまった。変なプライドで自分は偉いと思い込み続け、いつかは良くなるだろうと遠くから見守っていた結果がこれだ。全ての責任は……私にある」
土下座だ。一連の行動に三人は戸惑う。提督でさえも止めさせようとする程だった。
「そ、そんな……やめてください!!」
「……■■大将閣下、それ以上は──」「もし今でも鬼の如く恨んでいるのなら、どんな暴行や暴言も受け入れよう。君達の要望も聞く、謝礼の品も用意してある、烏滸がましい限りだが……どうか、許してはくれないだろうか?」
この土下座に対し、三人はどう受け答えるのか。確かめる様に提督は三人に視線を移す。
「……嫌だ」
「……」
「嫌だよ……そんな急に謝ってきて……あんな事されて許せる訳ない……!」
■■少尉や■■大将がやってきた蛮行の数々をそう容易く三人は許さない。
全くもって当然の対応だ。
無実の罪を着せられた挙句、その身体を嬲られれば普通は怒りで血が上ってもおかしくないだろう。それ以上の事を時雨と夕立は経験している。長女の白露でさえも二人の妹を失う羽目になる所だったのだ。
「無理よ……! 顔も見たくないのに……」
「第一に何故大将が謝るんですか!? 謝るべきなのはあの男でしょ!?」
「君達の言葉は最もだ、だが下らない憂さ晴らしの為に君達を巻き込み、世間を騒がせたのは紛れもない、息子と私だ」
「それでも……あの男が謝ってくれるまで私達は貴方も含めて許しはしません」
■■少尉が頭を下げ、謝るまでは許さない。その言葉を聞いて提督は少し身体を動かした。前に提督が言っていた事が既に身についている。鈴谷と加賀の件から成長していたらしい。
「だから今は……今は私達とは、関わらないでください……」
「……承知した」
「■■大将閣下、そろそろを顔をお上げ下さい……その姿を見る私としても少し心苦しい限りです」
「すまない……」
■■大将はまた立ち上がり、ソファに座り込む。三人は怒りと悲しみが混ざった表情で■■大将を睨んでいる。
「下がっていいぞ、持ち場に戻れ」
白露、時雨、夕立の三人は静かに応接間を出ていく。■■大将の謝罪を三人は受け止めきれず、許しを乞う事は出来なかった。
「……嫌われてしまいましたね」
「分かりきっていた事だ。許されるまで頑張るとするよ」
「お気遣い改め感謝します、■■大将閣下」
■■大将はまた立ち上がり、謝礼の品を袋にしまった。許される時が来るまでは渡さないつもりだろう。
「提督! 提督!」
「おっと……そうだったな。実はここに来たのは彼女達の陳謝だったんだが……この娘が何故かついていきたいと話を聞かなくてね」
■■大将の隣に座る酒匂が急がせる様に軍服を引っ張る。酒匂に気付いた■■大将は酒匂の頭を撫でて何かを思い出したかのように話し始めた。
何か嫌な予感がする。まさかと思いつつも提督は質問した。
「……失礼ながら■■大将閣下、その酒匂は建造でしょうか」
「いや、この娘は私の艦隊が拾った娘でね。損傷が酷く、沈みかけていた所を運良く救助したんだ」
■■大将曰く、この酒匂は神奈川県の三浦市の砂浜にて意識不明のまま座礁していたらしい。横須賀鎮守府に帰還する遠征中の艦隊が発見し、無事に保護されたとか。意識を取り戻した後はどこの鎮守府に所属していたのか自身の一切を全く語らず、ただこの鎮守府にいさせてほしいと懇願する為、仕方なく横須賀鎮守府に着任させている。この酒匂はこの鎮守府を訪れると聞く前まで自身の過去を誰に教えずにいた。
「だけどもこの鎮守府に行く事になった途端、急にはしゃぎ始めてね。話を聞けばどうやらこの鎮守府に所属してたみたいなんだよ」
訳を聞けば酒匂は■■■鎮守府から来た艦娘だという。何故今になって話してきたのか、■■大将は不思議に思っていた。
「あー……そうですかー……」
「何か気まずい事でも?」
「いや実はですね……」
提督は前日に起きた事を細かく話した。新たな深海棲艦である軽巡棲鬼・壊の存在が確認された事、そしてその軽巡棲鬼がこの荒くれ鎮守府の能代だという事。そしてノシロは阿賀野や矢矧に対して憎悪を向けている事などを説明した。
「なるほど……軽巡棲鬼・壊か……そしてその軽巡棲鬼がこの鎮守府の能代だった、と……」
「はい。そして前任時代の能代を含め、四番艦の酒匂も見捨てられたという話を聞いていまして……少し複雑な心境なのが正直な気持ちです」
「そんな!! 違うよ! 矢矧姉ちゃんは私を見捨てたんじゃない!!」
「……ん?」
酒匂の発言に提督は素で声を漏らした。川内から聞いていた矢矧の過去と殆ど違っている。
「あの時矢矧姉はわざと沈めたフリをして私を逃がしてくれたんだよ!! 見捨ててなんかいない!!」
「……これはどうやらお互いにすれ違った記憶があるようだな」
「の様です。一度会わせてみますか?」
「お願い!! 会わせて!!」
酒匂は必死そうに提督に二人に会う事を願った。提督の嫌な予感は的中、この状況において酒匂を会わせるのは面倒だ。ただでさえ精神状態がよろしくない上に無駄に騒がれてはこちらが困る。
「酒匂も言っているようだし、一回会わせてみよう……あ、そういえば君との話もあったんだな……」
「でしたら候補生に任せましょう。後で報告書はデータにて渡しておきます」
「そうか。んじゃそうさせてもらおうかな」
そういえばちょうどいい人材がいたと心の中で思い出す提督。灰色であれば酒匂と二人の状況を何とかしてくれるだろう。
「五十鈴、灰の仕事を一旦中止。酒匂を阿賀野達の部屋に連れていき、反応や行動を報告書にまとめさせろ。後、この部屋に摩耶を呼べ」
「了解したわ」
一番好きな結末は何ですか?
-
ハッピーエンド
-
バットエンド
-
ビターエンド
-
メリーバットエンド