うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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4話。


104. 永遠に続く悪夢の中で迷いなき復讐を

「司令!」

「ん……何だお前らか」

 

 工廠の明石部屋訪問後、ゆっくりと食堂へ向かっていた提督と大鳳。途中の駆逐艦寮の廊下を歩いている最中に秋月が駆けつけてきた。

 

「どうしたんだ」

「はい! 司令が言うやりたい事って私達にも適用されますか?」

「あーまぁ……されるぞ。んで、何かやりたい事でも?」

「はい! 実は何ですが……」

 

 秋月は頬を赤らめ、恥ずかしそうに指を弄る。モジモジしながら震えた声で自身のやりたい事を話した。

 

「大きなお肉が食べてみたいです!!」

「……は?」

 

 一瞬声を漏らす提督。

 予想外のやりたい事に困惑の表情を隠せなかった。

 

「そういえば秋月さん達はテレビとやらで美味しそうに眺めてましたね」

「そうなんです! 是非とも一度は食べてみたいなと思って!」

 

 提督が瑞鶴と一緒に大本営に行っている途中の事だ。講堂でテレビ番組を見ていた秋月が巨大なステーキを食べる場面を見ていて憧れたのだろう。

 

「まぁ大体は分かった。だが今すぐって訳じゃないから待つ事ぐらいは出来るよな?」

「はい! もう慣れっ子なので!」

 

 秋月は元気に返事し、その場で敬礼した後にスキップ歩きで去っていった。提督にやりたい事を承諾してもらえたのが嬉しかったのか、鼻唄をする程である。あの時代を経験するとなれば楽しみになるのも無理はないだろう。

 

「夢があっていいですね」

「そういうお前は?」

「えっ」

「今の秋月を見て羨ましかったんだろう? お前は何なんだ?」

 

 提督は大鳳の顔すら見ずに問い掛ける。秋月がやりたい事を言っていた際に大鳳は少しだけ羨む様な表情をしていた。それを提督は見逃さずに何かあると踏んだのだろう。

 実際に大鳳は夢を持つ秋月を見て自分と重ねていた。あの娘には夢あって自分に夢は無い。複雑な気持ちに心が苦しくなっていた。

 

「……はぁ……提督にはお見通しという事ですか……」

「寧ろバレバレだぁ、もう少しは隠す努力をしたまえ隠れ普乳」

「普乳って……まぁいいですけど……」

 

 大きくもなければ小さくもない普通の乳と書いて普乳。その意味を即座に理解した大鳳は言いたい事はあるものの、それを堪えて少しだけ認めた。とはいえあの時無性になって胸を見せてしまった事は後悔し続けている。

 

「艦娘が夢を持つ事は……駄目でしょうか?」

「知らん」

「知らんって……いやまぁ、そうですよね……」

 

 この提督が如何に人格破綻者かを再度確認した大鳳。艦娘と馴れ合う気は無いと豪語する上に平気に艦娘や人を軽蔑する様な外道だ。艦娘の夢など興味も無ければ関心も無いだろう。相談して失敗したと心の中で大鳳はため息を吐いた。

 

「……一々面倒な事を俺に聞くな。夢だとか信念だとか、そういうのはお前らが勝手に決めればいい。人間だと思いたければそうやって俺に聞くのはやめる事だぁ。人に依存するな、自分に依存したまえ」

 

 

 

 

 ──食堂

 

「やぁやぁ鳳翔君、忙しいかね?」

「いえいえ! 灰さんが呼んでおくれたお陰で何とかなりそうですよ」

「へぇー……」

 

 間宮が居ない厨房では灰色に呼ばれた整備士や憲兵がせっせと働いてくれている。鳳翔の指導もあってか統率は上手く取れていた。しかしよく見れば厨房内に灰色と時雨が忙しそうに手伝っている。

 

「……んで何で灰と時雨が手伝ってるんだ?」

「あ、いや……これは、その……成り行きで……」

「ふーん……分かった」

「え……?」

 

 食事を受け取り、その場を去ろうとする提督。予想外の反応に灰色は拍子抜けた表情だ。

 だが──、

 

「明日覚えてろ」

「は、はいぃぃ……」

 

 振り向きもせずに提督は灰色に罰を与えるようだ。そんなに上手くはいかないと灰色はなくなく了承する。

 

「あ、そうだ天龍、お前にこれを渡しといておきたかった」

「ん? 何だこれ、メモ書きか?」

「食後にちゃんと読む事をおすすめする」

「お、おう……分かった」

 

 途中天龍とすれ違った提督はポケットからメモ書きを渡す。四つ折りに畳まれたメモ書きわわ後で読むように念を押して忠告された。提督の企みを察した天龍は少々困惑している。

 

「大鳳、今夜俺は執務室に籠る。明日の朝六時まで執務室に近付かないように呼び掛けておけ」

「分かりました、瞑想でしょうか?」

「んまぁそんなものだ」

 

 夕飯を食べ終え、提督と大鳳は執務室に向かっていた。十九時でありながら茜色の空が広がっている。もうじきに月が見える頃だろう。これから提督は執務室に何時間か籠るらしい。最近は一週間に一回、決まった曜日や時間に籠っている。今日がちょうどその日であり、摩耶曰く瞑想に入るんだとか。

 

「……おやおやこれは珍しい」

「阿賀野……さん……」

 

 執務室の中に入ればそこには一人の艦娘が立ったまま待っていた。提督が入れば即座にこちらへ振り向き、畏まった表情で見続けている。

 

「どうしたんだ? 畏まって。何か言いたい事でも?」

「……はい」

 

 その場で阿賀野は床に膝を下ろし、正座になる。そして手を床に添え、ゆっくりと頭を下げた。一連の行動に大鳳は驚きの表情を隠せない。これは人が見せる誠心誠意の謝罪の象徴、土下座だ。阿賀野は提督の目の前で土下座し、頭を下げたまま話し始める。

 

「実は私は……今まで洗脳されたフリをしていました。提督が着任するまでは洗脳されたフリをして皆を虐めていました」

「……んで?」

「もうこんな状況は嫌なんです……! だから……仲間に、入れてください……」

 

 阿賀野は床に涙を零し、ひ弱な声で堂々と願い入れた。提督は頬を引き攣り、嫌々な表情をする。実は提督は既に阿賀野の事を把握していた。

 

 阿賀野が洗脳されたフリをしていた事、そして差別意識がある事に気付いたのは摩耶が最初だ。提督が初めて着任し、大鳳達の前で顔を合わせ終わった時の事。一番後ろで見張っていた摩耶は一度、阿賀野に一緒にご飯を食べないかと誘われていた。通常であれば何ら怪しむ事の無い、普通の誘いだろう。

 

 だがその時、摩耶は微かに感じ取っていた。阿賀野はあの時、「別に差別はしない」と言っていた。確かに摩耶はとある深海棲艦に少し外見が似ている。艦娘とは外見が違う為に驚く者も多いだろう。しかし何故そこで「差別」という言葉が簡単に出てきてたのか。普段から艦娘同士の仲が良ければそんな言葉など出ないはずだ。恐らく阿賀野は深海棲艦に似ている且つ、捻くれた提督の艦娘だと考えたから「差別」されると思ったのだろう。

 

 では阿賀野は誰に「差別」されると思ったのか。誘いを受けた摩耶は既に答えが分かっていた。

 

 艦娘の全員が提督と顔を合わせて話していた時、艦娘達の反応がそれぞれ顕著に違った事に気付いた摩耶は提督が話し終わった直後の反応を再度確かめた。案の定、ある特定の艦娘達が明らかに他の艦娘と反応が違っていたのだ。

 

 ■■を始め、阿賀野や矢矧、那智や加古、龍驤、利根達が提督に対して明らかに憎悪を醸し出す表情をしていた。しかも他の艦娘達とは尋常では無い程に。強靭且つ息を潜めた殺意の眼を向けていた。那智が「殺していいか?」と聞いた時は流石の摩耶も艤装を展開しようと身構えた。

 

 更には提督が話し終わった直後、ここの鎮守府の艦娘達はその憎悪を向けた■■達を避けるように座っていた。まるで怯えているかのような、元気のない表情を持つ者ばかりだった。確かに提督のテンションについていけず、不気味な雰囲気になったおかげで多少は何を話せばいいのか困惑はするだろう。

 

 だが露骨に■■達を避けているのはあまりにも不自然だ。ただでさえ前任に弄ばれたのなら艦娘達の団結力や結束力は絶対的にあるはずなのに、全くその雰囲気が感じられない。提督が作り上げた不気味な雰囲気よりもっと不気味だ。そう考えている中で阿賀野が誘ってきた。

 

 摩耶は阿賀野に話し掛けられた時に気付いた。ここの艦娘達は何かがおかしい、と。表情が転々とし過ぎて怪しい行動が多かった。摩耶は一度阿賀野の誘いを断り、その後の艦娘達の生活を監視。監視していくにつれて艦娘達に差別意識がある事に気付く事が出来た。この鎮守府の闇にいち早く気付けたのは阿賀野のお陰といっても過言ではない。

 

「……何を勘違いしているのか知らんが俺は仲間を作った覚えはない。アイツらが勝手についてきてるだけだ、見間違えないでほしい」

「で、でも……」

「でもじゃない。俺はやりたい事を手伝っただけで懐柔はしていないし、ましてや仲良くなるつもりなんてないんだ。勝手に幻想を抱いて俺に頼るな。大鳳、追い出せ」

 

 土下座する阿賀野を通り過ぎ、提督は執務机に置いてある資料を手に取る。何回も仲間という言葉を聞いてきた提督は呆れていた。仲間など作った記憶も無いのに、入りたいと頭を下げる鈴谷や加賀を思い出す。大体は何かしら事情があって提督に頼んできたのだろう。

 

 しかしその事情は既に把握済み、更に面倒臭い事この上ない。ため息を吐く提督は大鳳に阿賀野を追い出す様に指示を出した。大鳳は複雑な気持ちでいながらも提督の指示に従い、阿賀野に近付く。

 

「……私は!! ■■達がこれから何をするか全てを知っています!!!」

「っ……何だと?」

 

 大鳳の手が触れた瞬間、阿賀野は大声で聞き逃せない重要な事を言い出してきた。■■達がこれから何をするのか、提督にとっては喉から手が出る程欲しい最重要な情報だ。流石の提督も資料から視線を外し、土下座する阿賀野を見て驚いている。

 

「阿賀野さん……まさか……」

「■■達がどうやって提督を貶めようか、全てを知っています……! 責められる覚悟は出来ています!! だから……お願いします……──」

 

 

 

 

 

 

 

「──この悪夢を……止めてください……!」

 

 

 

 

 

 

 

 阿賀野は立ち上がり、再度提督の方に振り向き、再度頭を下げた。

 

 

 

 悪夢。

 

 

 

 差別している側として演技をしていた阿賀野にとっては悪い夢でしかないだろう。突然周りの性格や行動が一変し、平気で仲間を蔑む様になっていたのだから。提督が来るまでずっと続いていた悪夢を阿賀野は止めてほしかった。

 

 最初顔を合わせた時は悪印象でしかなく、差別している側と同じような振る舞いしていた為に怒り憎んでいた。もうこの男が来たからには全てが終わる、何とかして追い出したいが自分にそんな力は無い。提督の着任と何も出来ない自分による怒りと悲しみが渦巻く中で阿賀野は傍観するだけだった。

 

 だが今はどうだろうか。寧ろこの現状を止められるのは提督しかいない、今までやってきた功績がその理由だ。

 

 これが■■達に対する裏切りである事は充分承知している。これから先どんな事が起こるのか分からない。まともな死に方はしないと思っている。

 

 それでもノシロや矢矧、酒匂の過去を知って阿賀野はいてもたってもいられなくなっていた。勿論前任や■■は憎い、提督だって憎い。だがそれ以上に何も出来なかった惨めな自分が一番に憎かった。姉であるはずの自分が妹達をまともに守る事すら出来ないのは姉として失格だからだ。

 

 そこで阿賀野は吹っ切れたのだろう。裏切る覚悟を、その勇気を、心の底に眠っていた本来の自分を引っ張るために、臆病である自分を脱ぎ去って。

 

 もう自分に嘘はつきたくない。素直な自分でいたいんだと心の底から思った。変わりたいと思った。

 

「悪夢、か……」

 

 呟いた提督は手に取った資料を執務机に再度起き、頭を下げる阿賀野を見続ける。顎に手を触れさせ、考える様に提督は阿賀野に近寄った。

 

「……いいだろう、やってやる。てかそのつもりだけどな」

「っ!」

「提督……」

 

 了承の声に阿賀野は提督の顔を見る。大鳳は■■達の支配を止めさせると聞いて笑みを浮かべた。

 

「だが少しだけ言いたい事がある。その仲間とやらに入りたければ俺に頭を下げるんじゃなく、お前の周りにいる馬鹿共の方が先だと思うんだが? そこの所はどうかな阿賀野君」

「それは……分かってます……」

「なら話は早い。それは後で自由にやってくれ。早速教えてもらおうか、■■の陰謀とやらをな」

 

 阿賀野が嬉しそうな表情で答えようとした瞬間だった。

 

「は、はい! ■■達は──」「見ツケタァァ!!!」

 

 突然窓から何かが阿賀野をかっさらっていった。周辺の壁ごと窓を突き破って阿賀野の頭を掴み、一気に過ぎ去っていく。応接間にあるテーブルやソファは粉々に破壊され、瓦礫が執務室の中で散乱していた。一連の光景に大鳳は身体を震わせ、現実を直視出来ていない。

 

「……流石に早すぎだ、天龍」

『すまねぇ、まさか拘束器具外したら突然天井突破して地面突き破るとは思わなくてよ』

「化け物かよ」

『いや元々化け物だろ』

 

 スマホから天龍の声が聞こえる。摩耶のスマホを借りたのか遠くで話しているようだ。

 

「まぁいい。警報は鳴らさないでよし、整備士達と憲兵隊には事前に知らせている。お前らは周辺海域の哨戒、と言っても前みたいたに警戒網を貼るだけでいい」

『分かった、皆に知らせる』

 

 通話は終了し、提督は軍服に乗った埃を丁寧に落としていく。執務室はまるで鎮守府襲撃を思い出すかのように惨状だ。壁ごと窓を突き破った所為か温い風が執務室の中に入り込む。

 

「提督……これは……」

「ん? あぁ大鳳は知らなかったな。まぁ当然と言えば当然か」

「……逃がしたんですか。あの軽巡棲鬼を」

 

 大鳳は先程スマホでの通話を聞いて察していた。恐らく夕飯時に天龍に渡したメモ書きはノシロをわざと逃がす様にした指示だ。ノシロは阿賀野や矢矧に対して復讐心を燃やしている。提督は二人に復讐させる為にわざと逃がしたに違いない。

 

「逃がしたとは語弊があるが、まぁそういう事だ」

「何故……!? 何故逃がすような真似を!? 前はこの鎮守府の艦娘だっとしても今は深海棲艦ですよ!? しかも憎い■■達の……!」

 

 大鳳は焦りと憤りが混ざった表情で提督に訴える。確かに大鳳からすれば訳の分からない事ばかりだ。かつては■■の仲間であり、そして今は敵である深海棲艦を世に放つなど決してあってはならない。差別された側にとっては理不尽な事だろう。

 

「確かに鹵獲した深海棲艦を意図もなく逃がすなどあってはならない事だ。お前らの怒りも理屈が通っている。でも俺は……逃がしただけで再度捕まえないとは一言も言ってないぞ」

「……何が目的なんですか」

「さぁ? それを確認する為に外へ行こうじゃないかぁ」

 

 

 

 ──地下営倉

 

「本当に良かったのか? 天龍、摩耶」

 

 地下営倉でノシロの見張りをしていた磯風と谷風は疑問を天龍と摩耶にぶつける。深海棲艦をわざと逃がすなど前代未聞だ、磯風と谷風は頭を抱えかねない。

 

「良くねぇよ」

「なら何故……」

 

 磯風の疑問に天龍はあっさりと否定した。

 

「良くねぇけど……こういう時ってのは提督にも何かしら考えがあるんじゃないかって思った」

「考え?」

「あぁ、アイツは救った覚えなんて無いとか言ってるけどさ、それでも俺らは少しだけアイツに救われたんだよ」

 

 アイツとはまさに提督の事だ。提督が着任にしてからこの鎮守府の艦娘達は少しずつ自信を取り戻している。それが大した事では無くても、天龍達にとってはとてもありがたい事だった。

 

「それが大した事じゃなくてもな。悪口に慣れると大体提督の本音が分かるもんだぜ?」

「悪口に慣れるって……」

「さ、そろそろ外に出ようぜ。今頃──」

 

 

 

 

「──喧嘩が始まってる頃だ」

 

 

 

 




アンケートですがこの章が終わったら閉じます。

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