うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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105. 臆病者は慎重過ぎても意味が無い

 きっとこれは神様からの罰なのかもしれない。

 

 

 

 偽りの姿で他人を騙し、嬲り、貶め、自分を騙し続けた。

 

 

 

 何も理不尽だとは思わない。

 

 

 

 いつか、天罰が来るのは分かっていた。

 

 

 

 哀れな自分を救う価値は無い。そう言われている様な気分だ。

 

 

 

 実際は救う価値すら無いのだろう。それを自分が決めるのは烏滸がましいにも程がある。

 

 

 

 罰を受け入れる時が来た。

 

 

 

 

 

 

 それが、──今だ。

 

 

 

 

 

 

「ゲホッゲホッ……! 何が……」

 

 寮の壁に打ち付けられた阿賀野。周辺は土煙で何も見えない。念の為に艤装展開したのはいいものの、相手が誰だか分からなかった。だがその相手は土煙を掻き分け、ゆっくりと登場する。

 

「ノ、ノシロ……」

 

 軽巡棲鬼と化したノシロが目の前にいた。無表情で艤装を展開させ、阿賀野を見下ろす。全砲口が阿賀野に向けられ、今にでも砲撃されそうだった。

 

「……深海棲艦ニナッタ時カラダッタヨ」

「ッ!?」

 

 阿賀野の絹を裂くような喚声が鎮守府中に響き渡る。先が鋭いヒールの底で腹を刺され、中を掻き回す様に足を動かす。阿賀野は口から血を吐き、ノシロに頭を掴まれ壁に打ち付けられた。

 

「私ガアノ前任ニ洗脳サレテイタ事ヲ知ッタノハ……」

「がはッ……」

「気付イタ瞬間、怒リヲ通リ越シテ笑ッチャッタヨ。私ハ今マデ何ヤッテタンダッテ、フザケルナヨッテ」

「ッ……! ぐッ……!!」

 

 怒りを漏らす声でノシロは阿賀野を睨む。腹を刺され、頭を何回も打ち付けられた阿賀野はノシロの言葉を必死に聞いていた。自分がしてきた過ちや罪を思い出し、ここまで生きてきた自分の天罰として。

 

「コンナ姿ニナルマデ全ク気ヅカナカッタ。本当ニフザケンナッテ感ジヨネ……本当ニ……! 本当ニ……!!」

「いッ、ノ……シ……ロ……!」

「阿賀野姉……本当ハ洗脳ナンテサレテナカッタンデショ? 洗脳サレテモナイノニヨクアンナ事出来タヨネ? ドウナノ? 罪ノ意識ヲ感ジナガラ仲間ヲ嬲ル気分ハ……」

 

 ノシロは薄々気付いていた。沈められる前も、軽巡棲鬼になった後でも阿賀野の様子は他と違っていた。まるで何かに怯えるような完全に気圧された表情や姿。久しぶりに会ってやっと気付いたのだ。

 

「ごめん……なさい……でも、私は……」

「デモ? 何カ釈明ノ余地ガアルノ? 戯言ハ止メテ欲シイナァ……! イラツクンダヨ……!! 阿賀野姉ヤ矢矧姉ノ事モ……!! 洗脳サレテタ私自身ニモイラツキガ止マラナイ……モウ嫌ナ事バッカリダ!!! ダカラ……」

 

 ノシロも阿賀野や矢矧、■■と同じ差別している側だった。沈む前は洗脳されている事など一切気付かず、平気で仲間を蹴落としていた。だが軽巡棲鬼になればどうだろうか。今まで自分のしてきた事は全て間違いであり悪夢でしかない。到底信じる事など出来なかった。だがそう信じざるを得ない理由が次々と思い浮かび、生まれ変わったノシロは発狂した。

 

 自分が深海棲艦として生まれ変わった事よりも、深く心に突き刺さった罪の意識。いなくなった仲間の怨念、自分の愚かな末路。ノシロは盛大に笑い、喉が枯れるまで泣き叫ぶ。

 

 何が私は優秀だ、何が貴方達は鉄屑だ。全てが可笑しい、あまりにも可笑しくて笑ってはいられない。今の醜い私を見て泣き叫んではいられない。今までやってきた事は全て間違いだったのだ。ストレス発散のいじめも、憂さ晴らしの暴行も、貶める為の暴言も、全てが正しいと思い込んでいた。

 

 全く馬鹿馬鹿しい、過去の私の方がよっぽどの錆びた鉄屑だ。挙句の果てには矢矧に見捨てられ、軽巡棲鬼に成り果てた。これが恐らく報復という物なのだろう。目の前の現実にノシロは逃げ続けた。

 

 

 ──もうどうでもよくなった。

 

 ──もう生きている意味も無い。

 

 ──でも最期に一回だけ、

 

 ──私は……、

 

 

 

 

 ──■■■■。

 

 

 

 

「……ダカラ、オ前達ヲ殺シテ私モ死ヌ……ソレデ全テガ終ワルワ……」

 

 ノシロは目から涙を流し、鷲掴みした手を離す。腹に突き刺さったヒールの底も外し、再度砲口を阿賀野に向けた。

 

 血の繋がった姉妹だろうと関係ない。どうせ生きる意味が無いのなら、私達で終わらせるしかないんだ。

 

「……いいわ、ノシロ」

「……!」

「貴方が望むのなら……一思いに私を殺して……?」

 

 阿賀野は快く自身が死ぬ事を受け入れた。ノシロと思っている事は違えど、共通の認識がある。自分達が死ぬ事でかつての仲間達に償う事だ。勿論これで償えるとは思っていない、ただそれでもそれ相応の事を受けなければ償いとは言えない気がした。

 

「阿賀野姉!!!」

「チッ! 邪魔が入ったなァ!!」

「矢矧!!」

 

 寮と寮の間道から矢矧が駆けつけてきた。艤装を展開し、戦闘状態に入っている。ノシロは矢矧を見るなり、即座に攻撃を仕掛けた。

 

「このッ……!! うわっ!!」

 

 ノシロの地上での移動速度は素早く、艦娘の二倍以上の速度だ。ノシロは矢矧の背後に回り、後頭部を鷲掴み。地面に叩き付け、何回か砲撃した。

 

「矢矧……アンタニハ恨ミシカナイワ……」

「ノシロ……手を……離して、くれ……」

「断ル、オ前ハナルベク苦シマセテカラ殺ス」

 

 矢矧の頭を掴みながら地面を引き摺らせるノシロ。かつての能代の性格とは程遠い、人格ごと変わってしまったようだ。姉妹といえど容赦は無い、恨みもあれば仕方ない事だろう。

 

「サテ……二人共ゾロゾロト揃ッテ来テクレタ訳ダケド……」

「う、うわっ!」

 

 阿賀野に近寄り、また頭を鷲掴む。そして二人を引き摺らせたまま、近くの岸辺へゆっくりと歩いていった。抵抗しようとノシロの腕を掴むも全く力が通らない。

 

「ドウイウ風ニ殺サレタイノカシラ? 戦死? 圧死? 溺死? 惨死?」

「やめっ、痛い!」

「ソレトモ……皆ニ事実ヲ伝エテ見捨テラレタイ?」

 

 ノシロは二人を掴んだまま大跳躍。海に目掛けて二人を放り投げた。二人は咄嗟に艤装展開し、海面へ受身を取って体勢を整える。岸に着地するノシロを即座に視線を移した。

 

「マァ……ドチラニセヨ、決定権ハ無イノダケレド」

「何を……する気なの……?」

「言ワナクテモ分カッテヨ。殺サレタクナイナラ少シハ抗ッテミタラ? ドウシヨウモナイ……──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──屑達デサ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「鎮守府近海にて砲撃を確認。ノシロと阿賀野達が戦闘に入ったものと思われます」

「よし、そのまま監視を続けろ。会話の記録は出来たか?」

「はい出来ています。しかしノシロは阿賀野達を殺すつもりのようです。如何致しますか?」

 

 不知火が提督の後を追い、阿賀野達の事を報告する。阿賀野と矢矧、そして深海棲艦化したノシロが戦っていると聞いて艦娘達は広場や工廠へ走って向かっているようだ。提督と大鳳、不知火も外に出て阿賀野達がいる海を眺める。

 

「見学するよ。おーおー見た通り野次馬がいたもんだねぇ」

「提督! あの二人が軽巡棲鬼に襲われています! 助けますか?」

「あーいや助けなくていい。色々と面倒だからな、見るだけにしたまえ」

「分かりました!」

 

 広場付近の岸では艦娘達が艤装を展開したまま阿賀野達がいる海を見物していた。まるでニュースに写る野次馬の様に見ている。提督は一番前に立ち、特等席にて戦う阿賀野達を眺めた。

 

「……提督だろう。ノシロを地下営倉から逃がしたのは」

「んで何が言いたい事でも?」

「理由と経緯を教えてほしい」

 

 長門が腕組みしながら隣に立ち、提督に話し掛ける。長門は冷静を保ったまま提督に理由と経緯を要求してきた。戦闘による衝撃と風で黒い長髪と白い長髪がたなびく。長門は提督と顔すら合わせずに阿賀野達を見守っていた。

 

「……一言か二言で表すなら……あの阿賀野と矢矧は、前のお前らとそっくりだって事かな」

「あの二人が前の我々と同じ……か。成程、古い鏡を見せられているというのはまさにこの事だな」

「お前らもまだまだ古臭い鏡だボケ。まぁ所詮はブスとブスのブス同士のお見合いみたいなもんだ、第三者から見れば馬鹿らしく思えないか?」

「フッ……少し共感してしまうのが悔しい……ッ!?」

 

 かつての自分達を見ているようで恥ずかしい気持ちだ。そう思いつつ提督の顔を見ようと頭を横に振った途端、提督の背後から砲口が向けられた。

 

「何を企んでおるのじゃ、貴様……」

「返答次第ではその軽い頭が吹き飛ぶと思え」

「出来るものならやってどうぞ。そのふてぶてしい腕、今すぐにでも吹き飛ばせますよ」

「悪いですが包囲させて頂いたのでその艤装を収める事を推奨します」

 

 提督の背後にて頭を狙うのは那智と利根。そしてそれを阻止しようと砲口を向け、那智達を囲うのは不知火と朝潮六姉妹。殺意丸出しで膠着状態が続いた。

 

「おーおーこれはまたまた鬼の形相で、怒り心頭で今にでも爆発しそうな表情だなぁ」

「何故ノシロを逃がし、あの二人と対面させたのじゃ! お前はあの二人を殺す気か!?」

「いや全く」

 

 提督は怖気ずに那智達に方へ振り向き、愉快そうに話し続ける。砲口を零距離で向けられても尚、提督はニヤニヤと那智達を見下していた。

 

「ノシロがあの二人に復讐心を燃やしているのは見て分かるだろう!! 復讐は復讐しか呼ばない、いくらやっても無駄だ! 即刻にやめさせろ!」

「嫌だね、断る」

「貴様……!!」

「そんなに止めて欲しいならお前らが止めてこい。まぁ最も、止められるかどうか知らんけどな」

 

 提督は耳の穴をほじくり、耳垢を指で弾いて捨てる。那智達のどうでもいい話に聞き飽きたような仕草だ。那智と利根は砲口を向けたまま一向に動かない。また不知火や朝潮達もその手を止めなかった。

 

「……何で止めに行かないんだ? お前らの仲間なんだろ? 助けないのか? そりゃ助けないよなぁ、だって他人が起こした面倒には関わらない方針だからねぇ」

「ッ……」

「まぁそれもいいだろう。俺らみたいに野次馬になりつつ、あの二人がどうなっていくのか高みの見物といくのも悪くはない。俺らは何も関わりがないからな」

 

 提督は話しながら那智達が構える艤装を人差し指で下に押していく。当然那智達は抵抗するが全く押し戻す事が出来ない。押し戻そうと力を入れるもそれ以上の力で押されていく。提督は余裕な表情で那智達を小馬鹿にしていた。

 

「結局お前らは上辺だけで人に訴えかけ、何もしない哀れで気色悪い、前のコイツらと何ら変わらない連中と同じだ。いけないと思っているなら何故行動しない? 何故止めようとしない? 何故嫌悪でしかない俺に訴える? 答えは簡単だ……お前らもコイツらと同じ臆病者なんだよ」

「おくっ……! 誰が臆病者だ!!」

 

 遂には手で掴まれ、腕さえ抑えられる。そのまま自身の腰の所まで戻された。那智と利根の間に入り込み、提督は話を続けていく。提督は那智達の背後に回り込み、周囲を囲うようにして歩き始めた。那智達は提督の手が離れた瞬間にすぐさま砲口を向けようとする。が──、

 

「ッ!? 何!?」

 

 また前腕を掴まれ、今度は上へ向けられる。予想以上の力に那智達は抵抗するもそれは無意味に等しかった。

 

「効いてるぅ~効いてるぅ~。その戸惑いこそ臆病者そのものだぁ、いいかー? 陰でコソコソと俺を貶める計画を建てているお前らは俺と関わる事を拒否し続けている。計画が悟られないように大人しくしているその行動は怪しまれて当然なんだよ馬鹿共」

「何を言っている……!! そんな事私達は……!」

「いいや考えてるねー。っていうか■■から教えてもらったし。計画が悟られないようにだって? そんなに俺と話すのが怖いのか? 一度喋っただけで分かるはずがないだろう、怯え過ぎだ。それとも何か? 俺と摩耶が着任してからずっと負け続けて自信喪失しちゃった? あ~! それは悪かったねぇ~! 俺が優秀故に勝ち続けちゃってごめんなッさーい!!!」

「こッのクズが!!!」

 

 那智達が殴りかかった途端に今度は長門と摩耶が動きを止めた。艤装を展開し、摩耶は鋭く光る紅い眼で那智達を睨んでいる。

 

「ナイス長門、摩耶♪」

「チッ……!!」

「助ける気が無いんだったら大人しくここで見届けようじゃないかぁ、あの二人の──」

 

 

 

 

 

 

「──行末を」

 

 

 

 

 

 

一番好きな結末は何ですか?

  • ハッピーエンド
  • バットエンド
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