うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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こんな設定にしたおかげで心が苦しい。


106. 誰かの掌で下手な役者は踊り続ける

「ノシロ……!!」

「簡単ニ死ナナイデヨ」

 

 ノシロは蒼い稲妻を発し、急発進急加速。

 阿賀野と矢矧に目掛けて突進した。

 二人は無意識で回避、体勢を整えてノシロに停戦を促す。

 

「ノシロやめて! 私達は──」「沈メ!!!」

 

 ノシロは方向転換、砲口を阿賀野に向け連続砲撃。

 砲弾の嵐が阿賀野を襲う。黒煙と水柱で阿賀野の姿が見えなくなった。

 

「阿賀野姉!!」

「ナニ余所見シテルンダァァ!!」

「うわっ!!」

 

 すぐさまノシロは矢矧に突進。

 すれ違いざまに矢矧の足を掴み、海面に叩きつけた。

 そして頭目掛けて砲撃──、

 

「ッ!!」

「ナニッ!?」

 

 矢矧は海面に叩きつけられた瞬間に残った片足でノシロの顔を蹴り上げる。

 が、紙一重で回避され、直撃は間逃れた。

 しかし矢矧は身体を捻ってノシロの手から脱出。

 追い打ちの砲撃で間合いを取った。

 

「コンナ砲撃デ私ヲ倒セル訳ガナイダロウ!! モット全力デ来イヨ!!」

「……ノシロ……!」

 

 ノシロの眼は炎のように滾り、蒼白く輝いた。時々放出される蒼い稲妻が艤装の周辺を迸っている。傷一つないノシロは二人を戦闘へと煽っていた。そんな姿を見て矢矧は拳を握り、歯を食いしばる。しかしその時、頬から透明な液体が伝っているのが見えた。

 

「……何でよ……! 何で……私は……」

 

 決してその液体は水しぶきによって出来たものではない。それは矢矧の瞼から現れた涙という液体だった。

 

「……こんなに悲しいの……!!?」

「や……は、ぎ……!」

「分からない……分からないのよ……!! 突然知らない記憶が現れて、悪夢みたいな記憶しかなくて!! 私が二人を沈めたの……? 違う! 違う!! 私は……──」「沈メ!!」

 

 ノシロは戸惑う矢矧に構わず攻撃。幾度となく砲撃を受ける矢矧。

 ノシロの猛攻に矢矧は防御一方だった。

 

「何悲劇ノヒロイン飾ッテルノヨ!! 元ハト言エバ全テ貴方ノ所為ナノニ!!」

 

 

『酒匂はもういらん……棄てろ。方法は何でもいい』

 

 

「酒匂ヲ沈メタノダッテ使エナクテ邪魔ダッタカラ!! 私ト同ジヨウニ敵ノ攻撃デ沈ンダ事ニシテ見捨テタンダ!!」

 

 

『よくやった矢矧。次はあの能代だ、ちゃんとやれよ?』

 

 

「次ニ今度ハ私デ!! 秘密ヲ知ッテシマッタカラアノ時ニ見捨テタ!!」

 

 

『アイツは前から消しておきたかったんだ……よくやったな矢矧』

 

 

「何デ!! コウモ人ヲイトモ簡単ニ見捨テラレルノ!!? 何デ!! 私達ニイジメラレルマデ何モ言ワナカッタノ!!?」

 

 

『これでお前は──』

 

 

 ノシロの猛攻を耐え切り、矢矧は蹴り飛ばされる。

 受け身も取れずに矢矧は海面を転がるように着地した。

 

 

『──姉と同じ……──』

 

 

「っ……!! がはっ……グッ……!」

 

 

『──こちら側の仲間だ』

 

 

 矢矧はボロボロになりながらも立ち上がる。息も上がり、まともに艤装は動かせない。

 思わず矢矧は自身の右手の平を見た。それを見た限り矢矧は──、

 

「あっ……」

 

 

 

 ──全てを思い出した。

 

 

 

「あ……あぁああ……わ、私は……」

 

 身体を震わせ、手の平で顔を覆う矢矧。徐々に蹲り、再度海面に膝を着いた。

 

 全て思い出した。今まで自分が何をしてきたのかを。そのしてきた事の重大さを。

 

 矢矧は差別している側である姉の阿賀野と能代に羨みを感じていた。他の艦娘と違って虐められなくても、いつ矛先がこちらに向くのか分からない。自身の身の危険を感じた矢矧は人一倍に努力した。強くなれば、戦果をあげれば差別している側に入る事が出来る。そう思い込んで矢矧は出撃と入渠、訓練を繰り返してきた。

 

 必死だった。

 妹の酒匂も強制的に参加させて強くなる為に足掻いてきた。周りから白い目で見られようとも、馬鹿にされ続けても、矢矧は諦めなかった。

 

 そんな時だった。優遇制度の実行犯である前任に突然呼び出される矢矧。内心緊張しながらも執務室の中へ入った。

 

『あー……まぁここ最近のお前は少しばかり目立つところがある。なぁに怒ってる訳じゃない』

『何が……言いたいんでしょうか』

『簡単な話さ。俺の命令を聞いてくれれば姉と同じような待遇をしてやってもいいぞ。命令を聞けば、だがな』

 

 条件を述べながら前任は平気で矢矧の身体を触っていく。ニヤニヤしながら弄ぶかのように胸や下半身をいやらしく触ってくるのは悍ましい気持ちだった。

 

『……分かりました。ご命令を……』

『よし、良い子だ』

 

 その命令が大切なものを失う事になるとは、この時夢にも思わなかっただろう。

 

 

 

 

 

「ごめん……なさい……!!」

「……モウ謝ッテモ無駄ナノヨ。私達ハ……コノ世界ニ生キチャイケナイ、存在ナンダカラ」

 

 酷い目に会いたくないが為に演技で誤魔化し続け、仲間を虐めた阿賀野。

 前任の優遇制度により、まんまと洗脳に掛かり、姉妹を脅かしたノシロ。

 そんな姉達に怯えて、自ら差別している側に加入し、仲間を虐めた矢矧。

 ただただ虐められた挙句、矢矧に利用され、死ぬ運命に晒された酒匂。

 

 稀に見る最悪最低の姉妹だ。自身の目的の為だけに血の繋がった家族すら虐め、利用するような鉄屑同然の艦娘。神から見放されて当然の行いだろう。これは自分達に対する天罰なのだ。改心する余地すら与えない、そこにあるのは決定的に決められた絶望の運命。だがノシロは何ら疑問には思わなかった。

 

「沈ンダ酒匂ダッテ私達ノ事ヲ憎ンデルワ……ダカラコレハ、償イナノヨッッ!!!」

「ぐはっ!!!」

 

 矢矧は腹を深く蹴られ、何十メートル先まで蹴り飛ばされる。ノシロが悶える矢矧に接近し、躊躇なく砲撃を続行した。

 

「私達ガ死ネバ許サレルワ……私達ガ死ネバ……許サレルノヨ」

 

 矢矧は立ち上がる事すら出来ず、海面に這いつくばっていた。周辺には水柱が立ち、衝撃でよろけそうになっている。再度立ち上がろうとするもノシロのハイヒールの尖った底が矢矧の背中に刺さった。

 

「皆死ネバ……イツカ必ズ……つぐなえ──」「酒匂は……沈んでない……!!」

「ッ……!?」

 

 声の方向を振り向けば阿賀野が海面を這いつくばりながら移動していた。矢矧とノシロを助けようと腕を使って器用に進んでいる。

 

「ドウイウ事ヨ……阿賀野。酒匂ハ矢矧ガッ……!!」

「本……当、よ」

 

 矢矧が喉を枯らした声で答えた。

 ノシロの足元で必死に立ち上がろうとしている。

 

「酒匂は……昨日、この鎮守府に来ていた……本当よ、間違いなかった……」

「矢矧ガ沈メタンジャナイノ!!?」

「沈めた様に……見せかけた……どうしても……殺したくなくて」

「ッ!?」

 

 

 

 前任から酒匂の殺害命令を命じられた矢矧はどうしても妹の酒匂を殺したくなかった。酒匂は自分と同じく虐められてきた唯一の肉親。到底見捨てて殺すなど以ての外だ。だが命令に逆らえば自分どころか酒匂は勿論の事、阿賀野や能代まで殺されてしまう羽目になる。前任から脅されて命令を受けた以上は遂行する他無かった。

 

 矢矧は必死に考えた。予め決められた時刻までに酒匂をどう逃がすかを。煙弾、遺体偽造、ありとあらゆる物を使って策を考えた。しかし時々身体が言う事を聞かない時がある。まるで差別している側の思考に順応されていくような、平気で仲間を蔑む考えを押し付けられる様な想像が頭の中で響いてきたのだ。その当時は前任の薬による洗脳だとは知らず、矢矧はもう一人の自分と戦いながら生きてきた。

 

『矢矧お姉ちゃん……何で……!』

 

 約束の日。矢矧は酒匂を呼び、鎮守府から遠く離れた島の崖下まで連れ込んだ。そして矢矧ら躊躇いながら酒匂に向けて砲撃。砲弾は酒匂の頬を掠め、崖に直撃する。

 

『ごめん……酒匂……! 貴方を殺さないと……私や阿賀野姉、能代姉が殺されるのよ……!!』

『い……嫌だ! そんなのいや──』『わがまま言うな!! この出来損ないが! 大人しく私に殺されろ!!』

『っ!?』

 

 矢矧が考えた策とはわざと酒匂を殺した事にし、自ら濡れ衣を着る捨て身の策だった。艦娘が艦娘を殺す事は第一級犯罪、罪の重さによっては旧式解体刑に処される事すらある。

 

 だがしかし前任は矢矧の供述によって自分が命令した事が世間に広まる事を恐れるはずだ。つまりはこの事は無かった事にされ、酒匂は轟沈扱いにされる。そう考えた矢矧はわざと酒匂を追い出すような真似をしたのだ。

 

『矢矧お姉ちゃん……嫌だよ……そんなの……嫌だよ!』

『……わがまま言わないでよ……! お願いだから……早く逃げてよ……』

『逃、げ……?』

『逃げて……私に殺される前に……早く!!』

 

 矢矧の策は決して完璧ではない。今にでも矢矧の身体は酒匂を殺そうと躍起になっているのだ。頭の中では殺したくないと思っていても身体は全く言う事を聞かない。いつ手を出してもおかしくない状況だった。

 

『早く!!!』

 

 矢矧に殺されそうになった酒匂は泣き叫んでその場を去っていく。矢矧は酒匂の後を追う事は無く、ただ一人崖下で雨に打たれていた。

 

『……本当にごめんね酒匂……貴方だけでも逃げて……!! ここから遠く離れたあの男にも分からないような場所まで逃げて……もう二度とここには来ないように……ごめん……』

 

 

 

 

 

 

「こうでもしないと……皆が死んじゃうから……こうするしか、方法は……無かったぁぁ……!!!」

 

 涙を流し、矢矧は自身の罪を嘆く自身の自己的な考えで姉妹を危険に晒す様な事をしてしまった。正当化も出来ない、己の不甲斐なさが招いた不幸の連続。簡単に言えば自業自得なのだろう。現にこの現状が今、自分達の愚かな行動に対する報いだ。

 

「……ジャア私ヲ見捨テタ事ハドウイウ理由ナ訳?」

「あの時は……完全に身体が操られてて ……何も出来なかった……目を覚ました時には、もう……能代はいなくて……私は鎮守府にいた……」

 

 酒匂の時は洗脳されかけた時だった。しかし阿賀野の時は洗脳された状態、つまりは仲間を蔑む事など当たり前のような思考を持つ差別している側だ。例えそれは姉妹であっても差別してしまう。この前の古鷹と加古の様な関係性になる。

 

「何ヨ……コレ……コンナノ、フザケテルデショ……」

 

 ノシロは驚愕の事実に思わず後退る。当然ノシロは受け入れられなかった。矢矧達から聞けばどうしようも出来なかった事だろう、しかしノシロから聞けばただの言い訳にしかならない。

 

「ソンナ言イ訳ヲ信ジル馬鹿ガドコニイルノヨ……全クモッテフザケテル……! フザケナイデヨ……!!」

「全て……私が保身に走った所為で起きたんだ……だから……ノシロ姉に殺されても文句はない」

「……ッ!!」

 

 初めてノシロが動揺し始めた。姉妹を殺す事に躊躇ったのか、腕が震えている。息も荒く、焦りの表情が見て取れた。

 

 しかしその時──、

 

「何か楽しそうな事をしてますねぇ~」

 

 聞き覚えのある声の方向に顔を振り向けばそこには──、

 

「私もご一緒させてくださ~い♪」

 

 

 

 

 

 

 ──悪魔の様な笑みを浮かべた『鐐』がいた。

 

 

 

 

 

 




もうこの後に二話出します。
それで今年で最後の投稿になるので、次話は来年ということでお願いします。

一番好きな結末は何ですか?

  • ハッピーエンド
  • バットエンド
  • ビターエンド
  • メリーバットエンド
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