痛い。
とても頭が痛い。
意識が朦朧とする。視界がぼやけてうまく見えない。
一体何が起きた。
確か私は鹿島に立ち向かおうと前進したはずだ。
なのに何故かまともに砲撃を食らっている。
分からなかった、予知すら出来なかった。
意識が保てない。
嫌だ、私は戦わなくちゃいけないんだ。
私は、沈む訳には──、
銀色の稲光が暗闇の海を駆けていく。
幾つも立ち上る水柱、雨となって降り注ぐ海水。
砲撃で散る火花、風に舞う黒い砲煙。
激戦の最中に見える狂気の笑み。
「久しぶりですね~制限も無く戦えるのは~……あら?」
戦っていたのは摩耶とプリンツ、不知火と川内、そして阿賀野達。また鹿島に挑もうとこちらへ来る艦娘達がいた。
「島風、天龍、飛龍、蒼龍……他にもいっぱい……揃いも揃って面白い方達ですね~! 興奮しちゃいます~!! あっ……!」
更なる敵の増援に興奮する鹿島。顔を赤らめ、ゾクゾクと身体を震わせる。あまりの戦力差に思わず指を噛みそうになった。しかし鹿島の本当の相手は阿賀野達。それ以上は大して気にしてもいない。
「躾がいがあります~! おっと!」
ノシロの不意打ち砲撃を鹿島は華麗に避ける。
「チッ!!」
「もっと攻撃しても構わないんですよ~!」
「んじゃ遠慮なく」
鹿島の正面から殴打を仕掛ける摩耶。鹿島は身体を仰け反らせ、摩耶の殴打を回避。
海面に手をつき、摩耶にそのままサマーソルトキック。
摩耶も回避し、鹿島の足を掴んだ。
「アレ? うわッ!!」
摩耶は鹿島を投げ飛ばし、急発進大跳躍。
空中に浮かぶ鹿島に一瞬で近付き、蹴り落とす。
「いたた……」
立ち上がる鹿島の背後を天龍が取った。
天龍は勢いつけて刀を振り回す。
しかし鹿島はそれを跳躍して回避。
「なるほど~……」
「何がなるほどだッ!!」
天龍は小型ジェット噴射器で一気に間合いを詰める。
身体を回転させ、一瞬で鹿島の懐に入り込んだ。
そして──、
「落ち──ッ!!?」
天龍の振り下ろした刀は回避不能のはずだった。だが鹿島はその刀を片手で止め、力を相殺させていたのだ。刀の峰でなければ手は切断されている。それなのに鹿島は刀の峰で攻撃してくる事を予知してわざと受け止めたのだ。鹿島の背後では天龍の振り下ろした刀の衝撃が海を斬り裂いている。僅かに片腕を震わせ、天龍を睨む鹿島。その表情に天龍は焦りを見せる。
「少しは効きましたよ……天龍さん……」
片手で掴まれた刀がピクリとも動かない、いや動かせなかった。抜こうと力を入れても鹿島の握力のコントロールは凄まじく、まるで刀が重い岩にでもなったかのようだった。やがて海面に着水し、片手と刀の鍔迫り合いが起きる。
「一度の死より二度の打撃……相手をもっと苦しめる方法で刀の峰で殴るという方法を取るのは評価しましょう。ですが……」
鹿島は刀をつかんだまま後方へ引く。
天龍が連られて鹿島の前に引っ張られた。
そして天龍の顔面に回し蹴りで蹴り飛ばした。
「あまりにも力が弱過ぎま~す!!!」
蹴り飛ばされた天龍は大きな水柱を立て、海面に転がる。
トドメの砲撃で爆煙に包まれた。
「天龍さん!!」
「貴方は筋トレを中心に訓練を受ける事をおすすめしま~す……そして~!」
鹿島が向かう先は──、
「島風さ~ん! そんな速度だとー……」
「ひっ──」「遅過ぎて欠伸が出ちゃいま~す!!!」
島風の脳天を奪った天龍の刀の峰で殴り落とした。
通常の艦娘よりも速い島風に一瞬で追いつく鹿島。
怯える島風を躊躇いなく戦闘不能にさせた。
「貴方の力はまだ半分以下で~す! 百回程、海上持久走をする事をおすすめしま~す!! そしてそして~!」
鹿島が次に向かう先は、艦載機を発艦する正規空母。次々に落とされる爆弾を回避するどころか海面に当たる前に凄まじい速度で間合いを詰めた。
そして──、
「そーうりゅーうさーん!!!!」
名前を呼んで、蒼龍の頬に刀の峰を殴打する。
衝撃波が出来かねない速度で殴られた蒼龍は岸壁まで殴り飛ばされた。
完全に意識を喪失し、立ち上がる様子がない。
「蒼龍!!!」
「怯え過ぎで~す! 戦場において弱みを見せたら最後ですよ~! 後で提督にメンタル面でも鍛えてもらって下さ~い! そしてその隣にいる飛龍さんも~!」
「ヒッ……!!」
笑顔で飛龍を大太刀で殴り飛ばす鹿島。
飛龍は瞬時に意識を失い、岸壁に衝突した。
「馬鹿な程狼狽え過ぎで~す!! 例え仲間が小破しても敵を倒す事に専念しましょう~! 攻撃は最大の防御、仲間を助けるのはその後で~す! さて……貴方達は戦わなくていいんですか? ノシロさん、矢矧さん……」
「ッ……」
海上に立つは容易く精鋭を弄んだ鐐の姿。本当であれば持つ事など出来ない天龍の大太刀をまるで木の棒の様に持ち歩いている。身体を纏う銀色の光、確実に獲物を仕留める狩人の眼、口から出る排熱の様な白い吐息。限界まで旋回していた艤装の砲塔が火花を散らしている。
「まさか私に怖気付いたとでも? 冗談はやめてくださいよ、まだまだこれからなのに」
「お前は……本当に、人間の味方なのか……?」
「いいえ、人間の味方ではありませんよ。提督の味方です、それ以外の人間なんて毛ほども興味がないので。勿論艦娘も同じです、摩耶さん達以外はですがッ!!」
撃たれた砲弾の側面を手の平で触れ、着弾位置をずらして回避する。そして背後に回り込む不知火を見もせずに移動地点を予測して砲撃した。
「調教しがいがあれば話は別ですよ? 貴方達はと~っても躾たい方達なので特別に構ってあげてます。貴方が抱える方もね」
「狂ってる……!!」
矢矧の腕には鹿島の砲撃によって意識を失う阿賀野が。阿賀野の事はまだ諦めていないらしい。鹿島は矢矧達の元までゆっくり航行する。しかし矢矧の言葉を聞いた途端、その航行を止めてその場に留まった。
「はて、狂ってるとは一体? 私のどこが狂ってるのですか?」
「自分で言ってて気付かないの!?」
「はぁ……私は狂ってなんかいませんよ? ただ本能と欲のままに生き、思うがままに人の世を過ごしているだけですが」
頭上から金剛達の一斉放射が鹿島を襲う。だが鹿島は大太刀で全て斬り伏せた。直後斬られた砲弾は爆発し、明るく鹿島を照らす。
「躾たいとか調教するとか普通は言わないでしょう! あんな殺人紛いな行動が調教だ訓練だなんて罷り通る訳ないじゃない!」
「……仰っている意味が分からないのですが……何故貴方が私のやり方を否定しているのですか? 私はやりたい事をやっているだけです、これのどこが狂ってるんでしょうか」
「は……?」
鹿島の返答に矢矧は背筋が凍るのを感じた。今までの一連の行動を何も疑問に思わない、ただやりたい事をやっているだけだと主張している。あまりにもお互いの価値観が違い過ぎていた。
「そもそも貴方の普通を私に押し付けないでいただけませんか? 普通の意味って分かってます? 殺人紛いの行動が狂気的だと仰っるなら、この戦争こそ狂気的なのでは?」
「な、何を言って……」
「貴方は戦争を何だと思っているんです? 子供同士のチャンバラごっこみたいな幼稚な世界じゃないんですよ。死を司る地獄……血と血が混ざり合い、ひたすらに死ぬ事に怯え、相手を見つけ次第殺していく、死屍累々の世界なんです」
鹿島の顔から笑顔が消え、無表情で矢矧に問いただす。銀色に光る眼が一瞬で黒く光のない眼に変貌した。余程矢矧達の姿ぶりに腹が立ったのか、次々に持論を述べていく。
「戦争では力がある者が勝利して生き残り、力なき者が敗北して死ぬ。力なくして勝利無し、力があるからこそ生きている今がある。かつての平和な認識がこの戦乱の世の認識に通用すると思ったら大間違いです!!!」
初めて鹿島が感情を込めて大きい声を出した。矢矧達は身体を跳ねらせ、若干怯えている。再び鹿島は航行を始め、矢矧達に近付く。
「死は誰にでも平等に訪れる……かつては平和な世界にあっただろうそんな生温い条理など笑止千万、死なんて簡単にいつでも訪れるんです。ならばその不条理をどうやって打ち砕くか……それこそ力と死に対する恐怖なんですよ」
やがて鹿島は矢矧達の前に辿り着き、その哀愁なる姿を見下した。大太刀を矢矧の前に突き出し、砲口を阿賀野に向ける。
「生に喜び、死に恐れなさい。謝罪もロクにしない癖にいくら謝っても意味が無い、いくら償っても許されないなどと過程を考える事を放棄して勝手にそれらを妄信し、ましてや死ねば許される、死ねば楽になれるなどと言った生への冒涜をするだけじゃ飽き足らず、力も無いのに筋の通っていない道理や認識を他者に押し付ける様な者など……この戦争の舞台に登る価値はございません。貴方に狂っているなどと言われる筋合いは無いです、正直言って腹が立ちます」
最後に鹿島は結論を言い放つ。
「……いつまで平和ボケしているんですか? 軟弱で無様なクズ共」
矢矧は目を瞑る。殺されると思ったのか抵抗もせずに阿賀野を抱えて蹲った。その姿を見て鹿島は呆れた表情で溜息を吐く。大太刀を振りかざし、照準を矢矧に捉えた。だが──、
「鹿島、それぐらいにしとけ」
「……あら摩耶さん、遅かったですね。衰えました?」
鹿島の肩に手を乗せたのは摩耶。艤装の砲口を鹿島の背後に向け、脅す様に忠告してきた。
「ふざけんな、んな訳ねーだろ。はぁ……少々お前はやり過ぎだ、ここで手を引け」
「断ります、楽しいので」
「話聞いてなかったのか?」
「いえ聞いてましたよ。でも断ります、ごめんなさい」
「おい理屈が通ってないだろ。ふざけてんのか?」
「ふざけてませんよ。楽しいから断りますと言っただけです」
何度言われようとも鹿島はこの調教とやらを止めないらしい。一度動いたら満足する限りは二度と止まらない性格を思い出した摩耶は頭を抱え、夜空を見上げる。流石に止めてくれないかと半身諦め気味で溜息を吐いた。
「なるほど……しゃーねぇなー……──」
摩耶の右眼が紅く炎の様に燃え出した。
腕の艤装が変装。外装は赤黒くなり、内部は煌めいた紅い光で輝いた。右腕だけ肌が白くなり、右眼の上にある黒い角が大きく成長した。
「──全力で抑えるしかねぇな」
「やれるものならどうぞ……『
『──野』
『阿賀野!』
『阿賀野!!!』
良いお年を。
一番好きな結末は何ですか?
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ハッピーエンド
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バットエンド
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ビターエンド
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メリーバットエンド