「覚悟しろ」
摩耶と鹿島が間合いを取る為に一時的に矢矧達の元を離れた。
緋色の残影と銀色の残影が交差し、円を描く様に立ち位置を決める。
互いの距離は肉眼でよく見える程度。
「摩耶対鹿島か……久しぶりだな」
「最強対最強と言うべきか?」
「馬鹿言え、それじゃ矛盾してるだろ。まぁお前らからしたら最強に見える摩耶対本当の最強鹿島、だな……よし」
提督は大鳳に預けた無線機を取り出す。
摩耶対鹿島の戦闘が始まる為に艦娘達に呼び掛けた。
『戦闘は一時中断だぁ、摩耶と鹿島が戦うから周りは離れるようにー。さもないと巻き込みで本当に死ぬぞー。倒れてる奴は誰か抱えてけー、行方不明とか洒落にならないからなー』
提督の指示により、艦娘達はその場を離れていく。天龍は川内が拾い、島風は不知火が拾い、岸壁に倒れた飛龍と蒼龍は岸辺にいた朝潮達によって救助された。プリンツは急いで帰還するよいに案内している。
「一体何が始まるんだ」
「さて、それはこれから拝見しましょうかぁ、一つだけ忠告だ……──」
利根と那智は汗をかき、鹿島という艦娘が如何なる者か見定めた。灰色と時雨、大鳳は唾を飲んでこれから始まる戦闘に怯えかけている。それを見た提督は楽しそうに忠告を唱えた。
「──暴風注意♪」
──鎮守府近海
「貴方と戦うのは少々面倒なのですが~」
「そりゃいい。それだけあたしが強いって事だろ?」
「んー実際そうなのがイライラしますね~」
これが嵐の前の静けさか。ざわついていた海面が途端に静かになり、荒れていた波が穏やかになった。ノシロは遠く離れた場所から見ているが極度のプレッシャーが辺り一帯を包んでいるのが目に見えて分かった。そのプレッシャーがノシロの白い肌を震わせるほど、影響は深く広がっている。
「沈められないようにしないとな」
「全くもってその通りです……ですが今回は早めに終わらせたいので、手加減はあまりしません。ご注意くださいッッ!!!」
唐突もなく摩耶と鹿島は急発進。
お互いの背後から追い掛ける様に大きな水柱が立ち上る。
そして緋色の光と銀色の光が暗い海で衝突。
お互いの右拳がぶつかり合い、衝撃で海面がクレーターのように変形した。
持ち上げられた海水が風圧で暴風雨の様に降っていく。
その暴風雨の中で二人は攻撃を止めない。
殴打と砲撃を同時に重ねた攻撃が続いていく。
砲煙纏う猛攻が他の艦娘達を寄せ付けない。
遠く離れた鎮守府の岸辺までその風圧は届いた。
「激し過ぎて……何も見えない!!」
「うわっ!!」
隙を見た鹿島が摩耶の腹へ殴打、そして砲撃。
吹き飛ばされた摩耶は怯みも無く着水。
鹿島の撃たれた砲弾を回避し、また急発進。
閃光の如き砲弾の嵐を紅い残像が駆け抜けた。
「そんなに跳んだら格好の的ですよ~」
「普通だったらなッ!!」
大跳躍した摩耶に目掛けて砲撃を繰り返す鹿島。
摩耶は砲撃で砲弾同士を衝突させ、着弾前に処理した。
砲口を背後に向けて砲撃し、空中での移動を熟す。
そして鹿島に突撃。
落下速度と合わせた摩耶の突き蹴りは鹿島の防御を崩した。
衝撃波が出来るほどの速度で鹿島は蹴り飛ばされる。
水平線を遮るように水柱が連鎖して立ち
鹿島は海面に足を着き、綺麗に着水する。
摩耶は躊躇いもなく鹿島に接近。
間合いを確保し、頭に目掛けて連続砲撃。
砲弾を殴って躱した鹿島は高速で摩耶の元へ征く。
わざと鹿島は摩耶の目の前まで接近。
咄嗟の反応で摩耶は零距離砲撃を行う。
周辺が爆煙に包まれ、姿が確認出来なくなった。
「悪い癖ですね~」
「ッ!!」
爆煙の中から白い手が現れ、摩耶の顔面を掴む。
そして摩耶の腹に三連続の零距離砲撃。
直後海面に叩きつけ、跳ね上がった摩耶の身体を蹴り飛ばした。
「まだ治って無かったんですね、一気に距離を詰められたら焦ってしまうその癖。治した方がいいと忠告したはずですが」
「そっちこそ……防御崩されるのに怯えてるのはどうかと思うぜ、鹿島……! 何せお前は装甲がかなり低いからな……!」
よく見れば鹿島の腕が微かに震えている。摩耶の突き蹴りは鹿島の腕の防御を崩し、腹に命中していた。崩れた際の防御した腕にはまだ痛みと衝撃が残っている。
「そうですね、攻撃は最大の防御という訳です。まぁとはいえ摩耶さんも対空が主ですし、それにおいては右に出る者はいません。またそもそもこういう一対一では摩耶さんが不得意なので仕方ありませんが」
「不得意だろうと対策しなきゃ意味無いって言ったのはお前だろ? 案外人の話は聞いてる方だぜ?」
「それはそれは……成長していて喜ばしい限りです。ですが……──」
鹿島は急発進急加速。
また摩耶の目の前に近付き、砲撃させた。
爆煙の中を掻き分け、鹿島は摩耶の片足を掬う。
そして片足を掴み、砲丸投げの様に回転する。
「ッ……させるかッ!!」
回転する最中に摩耶は鹿島の頭に砲撃。怯んだ鹿島は手を離し、摩耶は拘束を逃れた。
「癖は治さないといけませんよね~」
「チッ……!!」
「最早艦娘の戦い方とはかけ離れているな。あれが最強と呼ばれる所以か」
「アイツら、いや鹿島は相手を倒す、又は沈める為に使う従来の艦隊戦闘技術の基本は使っていない。確実に殺す為の対人戦闘技術を駆使している」
「なるほど……その従来の艦隊戦闘技術さえも応用し、対人戦闘技術と組み合わせている訳か」
長門が冷静に鹿島の戦闘スタイルを分析する。
艦娘という存在は人間よりも遥かに超えた超人的存在で、艤装を身に纏えば跳躍で三階建てのビルを越える事すら出来てしまう。コンクリートの壁も一回の殴打で軽々と破壊可能、走る際の瞬間速度は余裕で七十キロメートルを越える、正に漫画に出てくるパワーキャラに等しいモノだ。
そんな存在が対人戦闘技術を駆使するとなれば戦況は一変。深海棲艦どころか人間相手にでさえその威力を発揮する。最近では深海棲艦にも人型が増えてきた為に対人戦闘技術も視野に入れている所も少なくはない。
「そういう事だ。実際そっちの方が確実に相手を倒せる上に戦闘効率が凄まじい。この戦闘技術で戦果を挙げまくった奴もいるからな」
「編成した艦隊で戦うのが馬鹿らしく思えるな」
「いやそうでもないぞ? 艦隊での戦闘はそれぞれ役割が別れている為に敵の攻撃に対処しやすい、まぁオールバランスと言うべきか。それに弾薬や燃料の節約、各々標的にされにくい利点がある……って当たり前の事を言ってるだけなのに何で説明してんだ俺は」
一人、また単騎突撃の場合はその逆のデメリットが存在する。確かに相手を確実に倒せる点や戦闘効率、戦果を挙げやすい点では羨ましく思えるが立ち回りが良くなければ話は別だ。敵空母や敵潜水艦などの攻撃対処や急激な弾薬と燃料の消耗、一人故に的にされやすいというデメリットを背負ってでの戦闘になる。上手く立ち回らなければ沈められる可能性すらあるのだ。
「って言うか単騎突撃をする奴は大体が異常な奴だけどな。あの鹿島とか、北上とか、ガングートとか。戦闘狂な奴らだよ……ん?」
「どうした提督……む、あれは……」
「……目覚めたかな」
提督と長門が見た先は阿賀野を抱える矢矧。逃げ遅れたのかまだ帰還していない。しかし阿賀野の様子が変に見える。それを見て提督はある事を察知し、阿賀野達を見届ける事にした。
「阿賀野姉!! 大丈夫!?」
「……うん、大丈夫よ」
ようやく阿賀野が意識を取り戻す。目の前には涙を流していた矢矧がいた。今がどんな状況か、辺りを見渡し確認する。そして状況を掴んだ阿賀野は矢矧の手を借りずに立ち上がった。
「阿賀野……姉……?」
「矢矧……もうやめよう。こんなのは間違ってるわ」
「それは、どういう……」
「実は私ね、騙してたの。■■達とは違う艦娘、仲間なんかじゃなかった」
阿賀野は矢矧の方へ振り向き、自身の罪を告白した。今まで自分が仲間になる為に演技で騙し続けていた事、矢矧達を止める事が出来なかった事。思う事全てを矢矧に話した。
「矢矧……本当は悩んでるんでしょ? どちら側につくべきか」
「っ……!!」
「確かに私達のした事は誰にも許されないわ。ノシロだって怒ってるし、酒匂だって忘れてるだろうけど心の奥では憎んでるはずだもの」
「じゃ、じゃあわわわ私は、どうすればっ……!」
矢矧は洗脳から解放された影響か、かなり弱気になっていた。自身がしてきた過ちを思い出してどうすればいいのか分からなかったのだろう。自己保身の為に性格が弱気になってしまった。そんな矢矧に阿賀野は目線を合わせ、肩を掴んで堂々と話す。
「謝りましょう、そして行動で示すの。鈴谷さんと加賀さんが身を呈してまで自身の過ちを許してもらえる為に行動したように、私達もそれをやるしかないわ」
「ま、まさか……」
「そう私達を馬鹿にした鹿島を倒すのよ!! そして許されるまで何度でも行動するわ、この先もずっとね。矢矧はどう?」
矢矧の前にいるのは自信に満ち溢れた姉の姿。前の自信を喪失し、暗く落ち込んでいた阿賀野とは大違いだ。優しそうな表情で矢矧に問い掛ける阿賀野。矢矧はこの後の事を考えて結論を出した。
「……行く」
「ありがとう……矢矧。んじゃノシロの所へ行こう」
「うん……」
阿賀野は矢矧に手を差し伸べる。矢矧はその手を取り、また立ち上がった。そのまま手を繋ぎながら遠く離れたノシロの所まで航行する。
ノシロは摩耶と鹿島の戦闘に夢中になっていた。遠く離れたこの場所でも衝撃や風圧が凄まじく伝わってくる。何故鹿島にやられたのか、その理由が分かった気がした。
「ドウリデ私ガヤラレタ訳ヨネ……ン?」
気付けば阿賀野と矢矧がこちらに近付いてきていた。ノシロは艤装を構え、阿賀野達を警戒する。
「……何シニ来タノヨ。マタ痛メツケラレタイノ?」
「やめてノシロ……今はそれ所じゃないわ」
阿賀野が手を広げ、戦う事を拒否した。一向にノシロは警戒態勢を解かない。そこに後ろから矢矧が現れ、ノシロの目の前まで近付いた。そして──、
「ノシロ……ごめんなさい……私の所為でこんな事になってしまったわ」
矢矧はノシロを見捨てた事について深く頭を下げた。精一杯の謝罪だった。声は震え、身体も小刻みに震えている。許されないと分かっていても矢矧は面を向いて謝りたかった。
「……謝ッテモ無駄ヨ、許スワケナイジャナイ」
「なら……何をすれば私達は許されると思う?」
「……エ?」
そんな事を聞かれたのは初めてだったノシロ。予想外の言葉に素で戸惑ってしまった。悩むかと思いきやノシロは簡単に答えを出す。
「……私ニ殺サレテクレレバ」
「その後は自分も死ぬつもり?」
「当然ヨ……ッ!?」
阿賀野は突然ノシロに抱擁する。姉の抱擁に戸惑うノシロは脱出しようと暴れ出した。しかし阿賀野は抱擁をやめず、ひたすらにノシロを抱き締め続ける。
「お願い、自分を傷つけるのはもうやめて。二度と……失いたくないの」
「離セ……! 私ハ……!」
「いいや離さないわ! よく考えてノシロ、私達が死ぬ事で他の皆が許してくれる保証はどこにあるの?」
「ッ!!」
また動揺するノシロ。薄々は自身でも気付いていたのだろう。こんなくだらない事など意味の無い行動だと。
「死ねば許されるなんて、そんなのただの自己満足よ! だからノシロ、貴方も──」「ウルサイッ!!!」
やっとノシロは阿賀野の抱擁から抜け出した。暴れた勢いで尻餅をつき、手のひらで顔を隠す。以前のような恨みに苛まれたノシロの姿は無くなっていた。
「ンジャドウスレバイイノヨ……! 私ガヤッタ事ハ酷イシ、今ノ私ハ深海棲艦ナノヨ……? 許サレル訳ナイジャナイ……!」
本当は分かっていた。自身の所為で姉妹や皆を苦しませてしまった事、深海棲艦になれば恨まれて当然だという事。いくら懺悔しようとも許してはくれないだろう。いくら悔やんでも悔やみきれない、思い出したくもない、自暴自棄になりたい程のふざけた過去だ。
「……大丈夫よ、貴方一人じゃないわ。私達も同じだし、ずっと一緒だから」
「エ……」
「例えノシロが酷い目に合っても、酷い事を言われても、私達はずっっっとノシロの味方よ」
阿賀野は座り込むノシロに手を差し伸べる。ノシロは涙で濡れたその顔を初めて人の前で見せ、阿賀野を視線に写した。一瞬手を伸ばしかけたが、ノシロはふと我に返って手を収める。
「これから頑張りましょう。生きていく限り……きっと大丈夫だから」
「ソレコソ、ソンナ保証ハ……」
「無いわ。だから私達で作るのよ、その保証を。私達で証明するの」
視線の先には摩耶と戦う鹿島の姿。激しい攻防を繰り広げ、辺り一帯の波を荒れさせている。衝撃や風圧は腕で仰がなければならないほどだ。そして阿賀野は再度ノシロに視線を移し、話し掛ける。
「後でノシロの復讐は何だって受けるわ。好きに殴るなり蹴るなり暴言を吐くなり、自由にして構わない。でもこれだけは覚えていて……──」
「──絶対に自分が自分である事を見失ってはだめよ」
「ッ!!」
阿賀野の言葉を聞いてノシロは目を見開かせる。それはかつての提督が言っていた事を思い出していたからだった。どこか懐かしく、そして悲しい気持ちだ。
いつからだろうか、本来の自分を見失ったのは。
全てが変わってしまった。二度と変える事の出来ない過去を作ってしまった。本当の自分はもう消えてしまっていた。どんな性格か、どんな姿か、どんな艦娘だったか。もうノシロは分からない。
二度とは戻らないのだろう。だがまた作る事は出来るはずだ。
「私達は鹿島を倒しに行くわ。それが一番いい証明の仕方だと思うの。ノシロ……来てくれる、かしら……?」
阿賀野の誘いを受け、ノシロは手を借りずに立ち上がる。再度艤装を展開させ、蒼い稲妻を解き放った。自己修復はある程度完了し、いつでも戦える状態になっている。
「……休戦協定ヨ。今ハアノフザケタ鹿島ヲ倒スノニ協力スルワ」
「ありがとう能代。じゃあやりましょう、あの鹿島を──」
「──倒しに!!」
一番好きな結末は何ですか?
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ハッピーエンド
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バットエンド
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ビターエンド
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メリーバットエンド