艦娘とは何か。
時々そんな事を考えさせられる。
あの二人の戦闘を見てからそればかりだ。
あの異次元の境地まで、自分は辿り着けるのだろうか。
躊躇いのない猛攻。
大海断つ砲撃。
時空歪む殴打。
暗空を切る蹴撃。
暗闇照らす緋色の炎影と銀色の輝光。
空気を揺らし、海はざわめき、大地は震える。
あの姿こそ艦娘の究極的な形なのだろうか。
本当に兵器そのものだ、人間とは思えない。
しかもその兵器には人格が存在する。自ら戦意を操り、物事を自由に選ぶ選択権があるのだ。
だが私は思う。
我々は本当に自由になっていいのか。
ただそれを、長門は考えてばかりだった。
「グッッ!!」
暗闇の中を二つの異色が幾度となく衝突を繰り返す。
衝突しては離れ、そしてまた衝突。
しかし鹿島は隙を見破ったのか、衝突時にカウンターで摩耶を蹴り飛ばした。
摩耶は受け身を取って体勢を整える。
そして即座に急発進。が、目の前には既に鹿島がいた。
悪魔の笑みで鹿島は引いた右腕を振り回す。
摩耶は鹿島の右殴打を紙一重で回避。
そのまま受け流し、背負い投げた。
「あらっ──」
鹿島が不安定な体勢で空中に浮かぶ。
直後、砲撃が全弾命中。太陽の様に大爆発を起こした。
爆煙に包まれる中から腕を交差したまま鹿島が墜ちている。
どうやら腕の防御で大ダメージを回避したらしい。
このまま体勢を整え、着地するかに思えた。
だが──、
「摩耶さんだ!!」
歓声にて気付くその姿。
爆煙の中からもう一人、緋色の焔を纏った摩耶が鹿島の頭上を取っていた。
摩耶は身体を回転させ、鹿島を──、
「墜ちろッ……!! 鹿島ァァァ!!!!」
「ッ……!!!」
摩耶の渾身の蹴撃が炸裂。
防御を崩された鹿島は海面まで蹴り落とされた。
大きな水柱が立ち、波が津波の様に跳ね上がる。
「素晴らしいですねぇー!!」
巨大な水柱に穴が空く。
衝撃波が発生する程の速度で鹿島は急発進した。
海面に着水する摩耶目掛けて突進。
摩耶は砲撃で鹿島を迎撃する。
着水狩りを狙った鹿島は摩耶の砲弾を素手で弾きながら進んでいく。
そして弾いた砲弾を掴み、摩耶に投擲。自身の艤装で砲撃を重ねる。
摩耶は鹿島の砲撃を回避。次の攻撃に移ろうとした途端、突如視界が更に暗くなった。
上を見れば鹿島がいる。
どうやら回避を予測して誘い出されたらしい。
「クッソ──」
鹿島の後ろ回し蹴りが頭に直撃。
摩耶は海面に叩き付けられ、身体が跳ね上がった。
しかし鹿島は躊躇わない。
跳ね上がった摩耶にもう一発、蹴撃を食らわせた。
海面にひれ伏せられる摩耶。
鹿島の足で抑えられ、身動きが取れない。
「実に……素晴らしい蹴りです。ですがそこに砲撃をアクセントに加えると……いいかも、しれませんね……!」
摩耶の蹴撃が効いたのか、少し息が荒い。
かといって摩耶も同等のダメージを受けている。
体力が五割切れた所だろうか、まだ戦える状態だ。
鹿島は装甲が弱い故にダメージが入りやすい。しかしそれを補う様にして砲撃やその命中精度、視力、反射神経、対人戦闘技術の威力が他の艦娘と比べて桁違いになっている。
まさに鬼のような力、艦娘という存在を大きく覆すだけある。
だが摩耶も負けてはいない。
鹿島は隙を見破る反面、自身の隙を知らずに見せている事がある。
それは自身より上にいる事だ。
鹿島は自身の頭上より跳んでいる者に対抗する手段が少ない。
現に摩耶が大跳躍した後、鹿島は砲撃しかして来なかった。対人戦闘技術で迎撃すればいいものを、自ら近付く事を拒んでいた様に見える。先程の摩耶が蹴り落としたのも、自身の頭上を全く警戒していなかった。
そこで摩耶は考える。鹿島しか見えていないこの状況下であれば賭けに出るのも悪くない。現在は鹿島に足で押さえられ、立ち上がる事すら出来ないこの状況を打破するにはこの賭けしかないだろう。
「……お前は……隙があるよな……!」
「あら、どんな隙ですか?」
「へっ……お前は自分の上にいる奴と戦うのが……苦手だって事だよ」
上と言って空に指さす摩耶。つまりは自身の頭上にいる敵に対し、弱みを見せるという事だろう。勿論鹿島はそれを熟知しているが、出来るだけ知られて欲しくない事だった。
「バレちゃいましたか……お見事です、摩耶さん。やはり貴方は……もっと強くなるべきですね」
「ふん……あ、悪ぃ鹿島。さっきの隙なんだが──」
鹿島を照らす月の光が遮られた。
更に暗くなる中、鹿島は背後を振り向く。
そこには──、
「──聞こえてたみたいだわ」
阿賀野と矢矧が右腕を引いて待ち構えていた。
鹿島が振り向くと同時に二人は殴打を重ねる。
鹿島の顔面に直撃するかに思えた。だが鹿島は右腕で二人を薙ぎ払い、砲撃で追い打ちを与える。
鹿島は即座に上を見渡した。そこには──、
「っ……貴方はッ!!!」
月を背景に一つの黒い影が躍り出る。
鹿島の頭上を取ったノシロは真っ直ぐ向かってきていた。
「沈メ!!!」
腕の防御は間に合わず、ノシロの右拳が鹿島の頬に直撃。
海面を跳ねるように鹿島は転がり続ける。
初めて摩耶以外の誰かに殴り飛ばされた。ダメージが重なってきたのか、膝を着く鹿島。更に息が荒くなり、口から少量の血が出ているのが分かった。鹿島は口の血を手袋で拭い、阿賀野や矢矧、ノシロ達を鋭く睨む。
「何故……貴方達が……!」
「私達を馬鹿にした事を……訂正してもらう為よ、鹿島……!」
「あんな事言われて、黙らない私達じゃない!!」
「悪イケド……私達ノ証明ノ為ニ……利用サセテモラウワ」
三人の違いように鹿島は目を見開かせた。あの時までみにくいアヒルの子の様な哀れで、ゴミ同然だったあの三人が、一つの目的の為に協力し合っている。自分に恐れていた様な目が戦う意志を見せる目としてこちらを睨んでいた。
特に変わっているのが阿賀野だ。
自身の罪の深さに苛まれ、自信を無くしていたあの阿賀野が自信満々な姿へと変貌している。まるで偽りの自分の殻を破り、本来の自分を取り戻したかのようだ。恐らく意識を失っている途中で何かあったのだろう。あまり深くは考えない方がいいらしい、またあれも艦娘が強くなる上での成長の眼差しだと考えるべきだ。
「なるほど……何かあったようですね……」
鹿島は埃を払いながらゆっくりと立ち上がった。ダメージが重なっている分、動くのには制限がある。僅かに身体を震わせながらも阿賀野達を再度睨んだ。
「……素晴らしいです。それこそ貴方達が本来いるべき姿……あのような脆弱な輩とはおさらばですね」
一瞬、鹿島の表情から笑顔が見えた。成長した阿賀野達を見て嬉しかったのか、その笑顔に全くの戦意は無かった。
「訂正させたいと仰っていましたね……ならば全力で掛かりなさい。私も……──」
鹿島が艤装を動かし、阿賀野達の前で身構えた。そして銀色の光を放出させ、炎の様に鹿島を包み込む。
「──全力の五割で!! 貴方達と真っ向勝負をします!!!」
「ッ!!!」
四対一。
摩耶と共に阿賀野、矢矧、ノシロが乱入参戦。戦力は今の鹿島を伺えば申し分ない。倒せる可能性は低いが、追い込める可能性はある。ここが正念場だ、摩耶は阿賀野達に鹿島について色々と教えていく。
「……だ、分かったか?」
「と、とりあえずは……」
「頭だな!!」
「ならよし! 行こうぜ!!」
鹿島が咆哮を上げて突進。
阿賀野達も雄叫びを上げて突進する。
最初にノシロが突撃、鹿島と衝突し合う。
お互い怯み合うも、鹿島が先にノシロを蹴り飛ばして砲撃。
爆煙の中から阿賀野と矢矧が向かってきた。
鹿島を囲うように二人は間合いを詰めていく。
二対一で殴り合いが始まった。
殴っては砲撃、躱しては蹴撃、蹴っては砲撃、躱しては殴打。一糸乱れぬ乱闘が繰り広げられた。
矢矧の殴打を腕で受け止め、阿賀野を砲撃で吹き飛ばす。矢矧を殴り飛ばしては阿賀野の蹴撃を受けていく。
「何故私を倒す事にこだわるのですか?」
「私達は酷い事をしてしまった!! 今更許されるとは思ってない!! でも!! うわッ!!」
「それでも謝りたい!! 全力で皆に謝りたいから!! 許されるまで謝りたいから!! またあの日を取り戻したいから!! 私達は足掻き続けるのよ!!」
悪い事をすれば謝る、ごく自然の事だ。だが許してはもらえないと勝手に決めつけ、謝る事を拒んでしまう人達がいる。それでは一生その仲は悪いままだ。
許されない事をしたとしても、生きている自分がいるのなら。
憎まれてても私達は謝る事を止めない。
この思いを全力でぶつけるんだ。
「ならもっと全力で来なさい!!!」
鹿島は両手の掌底突きで阿賀野と矢矧を吹き飛ばす。
そして背後に回るノシロを標的に連続砲撃を繰り出した。
砲弾の嵐を回避し続け、何とか生き延びようとするノシロ。しかし砲弾が複数当たり、怯み声を出して爆煙の中に隠れる。
「こっちだッ!!」
「グアッ!!!」
立ち尽くす鹿島に摩耶が追撃。
死角からの突き蹴りに鹿島は無意識で防ぐ。
が、受けた衝撃により蹴り飛ばされた鹿島。
摩耶は急発進し、鹿島に接近する。
受身を取った鹿島は迎撃体勢に入った。が、突然下からのし上がる様なダメージが鹿島の身体を響かせる。
ノシロの魚雷だ、鹿島の周囲に水柱が立っている。
気付けば矢矧、摩耶、ノシロの魚雷に囲まれていた。
正に四面楚歌、対抗手段が多過ぎる故に最低でも最小ダメージを負わなければならない。
しかし待て、阿賀野はどこへ──、
「行ッケェェェェェ!!! 阿賀野姉ェェェェェ!!!!」
ノシロの叫びが聞こえた。声の方向を振り向けば、ノシロが腕を上げて立ち崩れている。
腕を上げた、つまりは──、
「まさかッ!!!」
顔を上に向ければ空には阿賀野が。
鹿島は仕方なくノシロの魚雷を最低限のダメージで受け止め、艤装の砲口を全て阿賀野に向ける。
そして連続砲撃、立つ水柱を掻き消して阿賀野に襲い掛かる。
まずい、戦い過ぎて注意力が散漫している。このままでは阿賀野の攻撃をまともに──、
「押さえろ矢矧!!!」
「分かった!!」
「ッ!? 離しなさい!!」
摩耶と矢矧に拘束され、身動きが出来なくなる鹿島。しかしとてつもない力で鹿島は拘束を振り解く。
そして鹿島は大跳躍、阿賀野の元へ向かった。
無意識に跳んでしまった、対抗策はこれしかない。だが数コンマ間に合わない、このままでは──、
「私達はァァァァ変わるんだァァァァァァ!!!!」
鹿島の攻撃は間に合わず、阿賀野の全力殴打が直撃。
頬辺りに食い込み、鹿島は海面まで隕石の様に殴り飛ばされた。
提督と艦娘達のいる岸壁まで飛ばされ、今日一番高い水柱が立ち上がった。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
海が次第に落ち着き、波が静かになる。摩耶と阿賀野達は鹿島の安否を確認しに接近を試みた。岸辺にいる提督や艦娘達も気になって思わず覗き込む。
「あ~痛かったですね~」
鹿島の声が聞こえた。見れば殴り飛ばされた岸壁の近くに鹿島が立っている。正装は一部焦げ、艤装は悲鳴を上げている。右腕は僅かながらに震え、左手でその震えを抑えていた。
「とても楽しかったです。阿賀野さん、矢矧さん、ノシロさん。流石に心が躍りました」
鹿島は笑顔で阿賀野達に話し掛ける。そこに悪意は無かった。ただ単純に阿賀野達を褒めている。
「先程の貴方達を侮辱した件……訂正します。貴方達は鉄屑ではありませんでしたね、今はもう……それなりにいい艦娘です」
「それなりにいいって……どういう事よ……」
「ふふっ、まだスタートラインですよって事です。立派な艦娘になれるのは他の皆さんに許してもらえたら、だと私は思います」
穏やかに微笑み、鹿島は差別された側の艦娘達を眺める。阿賀野達の本心は少なからず聞こえていたようだ。差別された側の艦娘達は阿賀野達に対し疑心暗鬼になっている。相手にされない事よりも疑ってくれた方がこれからの阿賀野達にとって僥倖の眼差しだろう。
「確かに貴方達のした事は当分の間、許される事は無いでしょう。気が遠くなるほどの時間です……ですが本心から変わりたいという気持ちを持っているのであれば心配する必要はありませんね」
人は何かの為に戦う。
艦娘も何かの為に戦う。
その何かとは様々だ、何を考えるも自由だろう。阿賀野達は馬鹿にした鹿島の言葉を訂正する為に、そして自分は変わりたいんだと、変わったんだという事を証明したかった。証明は少なからずとも出来ている、この先は阿賀野達が頑張らなければならない。
「頑張ってください。阿賀野さん、矢矧さん、ノシロさん。生きていた方がいずれは良い事がありますよ、死ぬ事ばかり考えては幸せが逃げてしまいます。可愛い酒匂さんを元気よく迎える為にも、これを第一歩としてこの先も生き続けてください」
もしいつもの平和な日常を切実に願うのなら、頑張って生きてほしい。暗い事ばかり考えるよりも楽しい事を考えた方が心はずっと軽くなる。
前向きに生きてほしい、鹿島はそう願っている。
「私は応援しています……では」
最後に鹿島は深く頭を下げ、上げた後にその場を去った。岸壁近くに阿賀野達は取り残され、緊張が解けたのか一気に腰を崩す。
「終わったようだな……ん、提督はどこへ……?」
「提督でしたら先に帰りましたよ。今は執務室にこもっています」
「あぁ、瞑想とやらの時間か……」
一番好きな結末は何ですか?
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ハッピーエンド
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バットエンド
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ビターエンド
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メリーバットエンド