うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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112. いつか訪れるその日まで

 鹿島との戦闘から二日が経過。皆は何事も無かったかのように毎日を過ごしている。一切出撃は無いものの、訓練はとても盛んだ。摩耶とプリンツの指導の元で艦娘達は扱かれている。

 

 夏真っ盛りの暑い日だ。

 太陽の光が地面を焦がし、青い海を輝かせている。

 

「いや~本当に楽しかったですね~、阿賀野さんに上を取られた時なんか滾っちゃいました」

 

 エアコンの効いた執務室にて鹿島はあの時の事を懐かしむ。提督と今日の秘書艦である朝潮はせっせと仕事に励んでいる。灰色と時雨も同様、必死に書類を書き殴っていた。

 

「お前焦ってたって摩耶から聞いてんだけど」

「演技ですよ、演技」

「随分と凝った演技だなぁおい」

 

 途中の瞑想的な何かにより、提督は阿賀野達の戦姿を見ていない。後で摩耶に教えてもらった限りでは鹿島に一発食らわせたらしい。よくあの鹿島に特殊艦隊以外の艦娘が攻撃出来たものだ。前任時代から優遇され、生き残ってるだけある。

 

「とはいえ阿賀野さん達は変わったんですし、大目に見てくださいな」

「まぁお前が来るのは予想内だ、事前に伝えていたしな」

「え!? マジすか!!?」

 

 灰色がペンを止めて驚きの声を上げる。てっきり鹿島の乱入は提督でも予想していなかった事だと思っていた。鹿島は灰色の顔を伺いながら笑顔で答える。

 

「はい♪ もし楽しそうなら参加しちゃうかもって言ってましたので。結局のところは提督に利用されたのでそこは癪に触るのですがどうしてくれるのですか?」

「いや俺の所為じゃなくね? 本能に逆らえなかったお前自身を恨め」

 

 そう言って提督は書き終えた書類を提出ケースの中へ入れる。次に朝潮と時雨が書いた書類を添削していた。つい阿賀野達の事が気になった灰色は鹿島に問い掛ける。

 

「そ、それで阿賀野さん達はどうしてるんですか?」

「今は不知火さんが警備体制の元、被害者達に頭を下げていますよ。まぁ被害者達も複雑な心境で色々と手一杯のようですが」

 

 鹿島との戦闘後、入渠して身体を癒した阿賀野達は差別された艦娘達を目撃次第に謝っているらしい。今まで自身がやってきた事、皆を騙していた事など本心を打ち明かしているとか。

 

 また深海棲艦もとい軽巡棲鬼・壊であるノシロは自ら地下営倉に収容されていた。しかし阿賀野達の希望により、ノシロは解放。阿賀野達の部屋に引き取られ、拘束器具装着の条件下で生活する事となった。

 

「悪い事をしたらちゃんと謝る。阿賀野さん達も頑張っているんですね」

「はい、以前のゴミとは全く違いますね!」

「ゴミとか平然と凄い事言うなぁ~この人」

「聞こえてますよ~」

「ヒッ」

 

 思わず本音を口に漏らした灰色は鹿島に怯える。鹿島は鐐と呼ばれる表向きでは最強の艦娘だ。提督でさえも警戒する程の得体の知れなさは灰色でもちゃんと伝わっている。

 

「そうだ灰君、後でアイツらを呼び出してもらえるか? まだ話を聞いていなくてな」

「構いませんが今ですか?」

「あーいや、午後の十五時ぐらいでいい。その時俺は執務室にいると伝えておけ」

「分かりました、では私達はこれから訓練の様子を見に行きますね」

 

 灰色と時雨はちょうどよく一つの仕事を終え、前から頼まれていた訓練の様子を見に行く事にした。書いた書類を提督に提出し、執務室を出ていく。

 

「んで鹿島、大本営からの視察は効果あったのか?」

「あ、そこ気になります? 実はですね……思いの外めちゃくちゃ危ない事をしてる人ばかりいまして~提督の鎮守府、駿河鎮守府、呉鎮守府、横須賀鎮守府、舞鶴鎮守府、佐世保鎮守府、南方のショートランド泊地、リンガ泊地を除いて大体の鎮守府は地方も含め、禁止事項を破っていました♪」

 

 聞けば薬の所持や使用などの軽い罪から艦娘を無惨に扱うなどの重い罪まで様々だったという。大本営は一斉摘発の準備を進める為、静かに調査を行っているらしい。準備が出来次第は大本営自ら動き、直々に矯正されるだろうとの事だ。

 

「あっそう、お前はいつまでここに?」

「約束の期間であれば六ヶ月の勤務なのでもっと先までいますね~」

「チッ……まだいるのかよ」

 

 鹿島の続投に小声で愚痴を吐く提督。余程鹿島が嫌いなのか、少々イライラしている。

 

「司令官! 資材確認しました! 資料を作っておきます!」

「把握したぞ朝潮、後で資料は俺の机に置いておけ」

「了解しました!」

 

 今日の秘書艦は朝潮で、一時は務まるのかと不安になっていたが、何かと執務はこなしている。予想以上に読み書きは早く、綺麗に資料がまとめられていた。提督が渡した書類を一生懸命に書いている。提督とは仕事面で気が合いそうだ。

 

「では私は失礼します。これから調教しに行くので」

「精々怖がられないようにな~」

 

 

 

 

 

 

「本当に……ごめんなさい!!」

 

 軽巡寮の廊下にて二人の艦娘が頭を下げている。下げた相手は五十鈴と天龍、どちらとも酷い事をしてしまった。阿賀野と矢矧はその記憶が鮮明に残っている。

 

「うーん……」

「どうすっかなー……」

 

 頭を下げる二人に五十鈴と天龍は悩み出す。正直顔も見たくなかったが、それは前までの話だ。あの戦闘を見て五十鈴と天龍は考えを改めていた。よく考えれば阿賀野や矢矧、ノシロだって元はと言えば前任の被害者だ。しかしそれは極論であり、本来は加害者にあたる。暴言や暴行を受けた五十鈴と天龍としてはどうするべきか悩んでいた。

 

「……はぁ……残念だけど、まだ許す事は出来ないわ……でも、これから誠意を見せてちょうだい? やり方次第じゃ許しちゃうかもね」

「正直なところだが……俺は全く見てないんだ。五十鈴とかから後で聞いたけどよ、俺も許しはしない。けど……そうだな……五十鈴と同じ意見だ。本当に変わりたいって気持ちがあるなら、鈴谷や加賀みたいにその気持ち見せろよな! 頼むぜ?」

 

 五十鈴と天龍が出した結論は鈴谷と加賀と同じような行動で示す事だった。本当に変わりたい、謝りたい気持ちを行動で示して欲しい。それをまだ阿賀野達は見せるにはまだ足りていないようだ。

 

「う、うん! 頑張るわ!」

「ありがとう五十鈴! 天龍!」

 

 五十鈴と天龍は満足したのか、訓練の場所へ向かっていった。阿賀野達はその姿を見届け、次の場所へ向かう。

 

「後は暁達の皆ね、行きましょう!」

 

 次に二人が向かうは駆逐艦寮。当時は第六駆逐隊とあまり接点はなく、出撃以外ではほとんど話す事も無かった。暴言は何回かあるが、暴行は一度もした事が無い。前任の優遇制度により、駆逐艦寮との連絡通路は隔てられていた為に会う事も無かった。とはいえ酷い事をしてしまった事に変わりはない、五十鈴と天龍同様に謝らなければならない。

 

「あ、阿賀野姉……」

「ん、なに?」

 

 駆逐艦寮の連絡通路を通る前、矢矧が阿賀野に声を掛ける。すっかり矢矧は元の性格に戻りかけ、阿賀野姉をより慕うようになった。少しばかり弱気になってしまった所があるが。

 

「ごめんなさい……私も阿賀野姉に謝らなきゃいけない。正気に戻ってたのに、色々と勝手に押し付けてしまった……」

「そ、そんな……矢矧は謝らなくていいのよ……! 私の責任なのに……」

「どうしても謝らなきゃいけないのよ……本当にごめんなさい」

 

 矢矧は阿賀野に頭を下げる。差別していた仲間同士でありながら、仲間を騙し続けていた阿賀野は幾度か矢矧に暴言を強いられていた。その所為で阿賀野が苦しんだ事に罪の意識を感じたのだろう。

 

「……大丈夫よ、矢矧。もう、矢矧達を苦しめる事はしないと心に誓うわ。あんな事起こさせやしない様に……だから顔を上げて?」

 

 元はと言えば自身が頼りないせいでこんな事が起きてしまった。矢矧も能代も全部差別している側だった自分に暴行されるのが怖くて誰かを蹴落とす様な真似をしてしまった。もっと自分が動いていれば酒匂を失いかける事も無かっただろう。

 

 本来なら自身が謝るべきだと分かっている。だからこそもう悲劇が起こらない為にも前を向かなければいけない。姉妹の関係が崩れるような事が無いように経験を活かして阿賀野は頑張る必要があるのだ。

 

「これから頑張りましょう?」

「う、うん……!」

 

 矢矧は涙を流し、阿賀野に抱きつく。余程嬉しかったのか抱きついた途端に矢矧は泣き崩れる。子供のように無邪気に泣き出し、ひたすら謝り続けた。阿賀野は優しく矢矧の頭を撫で、懺悔の言葉を聞いて相槌をする。

 

 本当は矢矧も辛かったに違いない。自身を守る為に妹を見捨ててしまった。しかし矢矧と心の奥底では抗っていた。前任の洗脳が完全に染まるまで酒匂を助けようと必死に策を練って抗っていた。能代の時は手遅れだったが、きっと心の奥底では不本意だったはずだ。後でノシロにも改めて謝る必要があるだろう、その時は自分も一緒に謝らなければならない。

 

「あら……阿賀野さん……矢矧さん……」

「……本当に……ごめんなさい!!」

 

 駆逐艦寮に来て、ようやく会えた第六駆逐隊。阿賀野達と同じ四姉妹で、差別された側として過酷な人生を送っている。自分達とは真逆の存在だ、仲の良さは羨ましく思える。謝る阿賀野と矢矧に対し、第六駆逐隊はひそひそと話し合っていた。何か事前に話していたのか、確認を取っているようだ。

 

「……実は私達で決めてたんだけど……阿賀野さんと矢矧さん、ノシロさんの事は許そうかなって思ってるの」

「え……」

「一々張り合っても時間の無駄だし、本心は聞けたし、それに私達駆逐艦とはそれほど干渉していないしね」

「元気が無きゃレディとして情けないわよ! 元気出しなさい!」

 

 第六駆逐隊から来た返答は意外にも許す方向の話だった。思わず阿賀野と矢矧は予想外の言葉に声を漏らした。

 

「ほ、本当……?」

「本当なのです。電達は阿賀野さん達を応援しているのです!」

「朝潮も同じ意見だそうよ!」

「周りは簡単に許さないだろうけど頑張ってね。私達は応援しているよ、だから顔を上げてほしいな」

 

 電達に励まされ、阿賀野と矢矧は顔を上げる。第六駆逐隊は可愛らしい笑顔でこちらを見ていた。

 

「あ、でもあまり話した事も無いし、これから仲良くなりましょうって事で」

「う、うん……ありがとう……!」

 

 

 

 

 

「ただいま」

「……オカエリ」

 

 不知火に見送られ、自分達の部屋に帰った阿賀野達。返事をくれたのは深海棲艦化したノシロだった。艤装展開時にあった足は存在せず、通常状態での両足が無い為に車椅子での生活になっている。

 

「ノシロ……」

「……何デアノ場所カラ逃ガシタノ? 私ハ深海棲艦ナノニ」

「深海棲艦でも……能代だから……私達の部屋にいてほしいな、って……」

 

 ノシロは自ら地下営倉に収容される事を望んでいた。深海棲艦である自分は鎮守府において厄介者でしかない。差別していた側となれば当然だ。孤独に生きていた方がマシだったというのに、阿賀野は自分を受け入れてくれた。何故受け入れてくれたのか、ノシロはその理由が知りたかった。

 

「……ソウ」

 

 ノシロは窓に映る海と訓練に励む艦娘達を眺める。暑い日差しが窓を差す中でノシロは平然としていた。深海棲艦故の特性か、ただ呆然と眺めている。阿賀野と矢矧は静かに二段ベッドの下に座る。会話は無く、沈黙が続いていた。

 

「復讐ハ……シナイワ」

「えっ、何で……」

「何デッテ……ソレヲスル価値ハ私ニハ無イカラネ。ムシロ受ケルノハ私ダシ……」

 

 差別していた側の能代は自身の過去を悔やんでいる。自身の所為で姉妹を苦しめ、他の仲間を平気に見下した。矢矧に見捨てられ、憎んだとしても真実を聞けば、復讐をする気持ちは無くなっていた。寧ろ深海棲艦化した事は自分への天罰だと思っている。今更復讐する価値など自分には無い。

 

「矢矧……?」

「ノシロ姉……!」

 

 矢矧は突如立ち上がり、ノシロの名前を呼ぶ。

 声は緊張で震え、身体は縮こまっていた。

 

「わ、私の所為で……ノシロ姉が……」

「分カッテイルワ、謝ラナクテモ大丈夫ヨ。謝ッタトコロデ元ノ姿ニナル訳デモアルマイシ……」

 

 ノシロは深く落ち込み、窓の景色を眺め続ける。矢矧の方に振り向きもせず、自身の過去を悔やむばかりだった。互いに酷い事をしてきた。矢矧はノシロに苦しめられ、ノシロは矢矧に見捨てられた。このまま二人で謝り続けても何も進まないだろう。ならお互いに帳消しにした方がいいとノシロは思った。

 

「オ互イ無カッタ事ニシタ方ガイイト思ウワ。ソレゾレ酷イ事ヲシタ訳ダシネ」

「だけど……」

「謝ッテタラキリガナイシ、ソレニモウ……充分ニ伝ワッテル」

「……分かった。けど今度は頑張りましょう? 認めてもらう為にもさ!」

 

 矢矧が元気そうにノシロに声を求める。

 しかしノシロは全く答えない。

 

「ノシロ姉……?」

 

 神妙そうな表情でノシロは二人を見つめる。

 

「阿賀野姉……矢矧……」

「何? ノシロ?」

「私達……マダヤリ直セルノカナ……」

 

 不安そうにノシロは問い掛ける。まだスタートラインに立ったとはいえ、この先仲良く過ごせる日常が来るのかノシロは不安になっていた。差別していた側だった事、自身が深海棲艦である事を考慮すれば部屋にいていいのかすら疑問に思える程だった。

 

「きっとやり直せるわよ! この先頑張って行きましょう?」

「コンナ姿デモ許シテクレルカナ……」

「大丈夫よ、私達がずっと傍にいるから」

「本当ニ……ズット傍ニ?」

「えぇずっとよ」

 

 徐々にノシロの声が震えていく。身体をも震わせ、決心したノシロは本音を言う。

 

「私ハ……本当ニ……阿賀野姉ノ妹で、矢矧の姉で……! 居ていいのかなぁぁ……!」

 

 涙に濡れたぐちゃぐちゃな泣き顔でノシロは問い掛ける。

 こんなどうしようもない自分は阿賀野達の姉妹にいていいのだろうか。

 自分は生きていいのだろうか。

 変わりたい、皆に謝りたい。

 

 ノシロは悩んでいた。

 

 どうすればいいのか分からない。

 前の姿を失った私に存在意義はあるのだろうか。

 阿賀野姉や矢矧に見捨てられないだろうか。

 私は救われていいのだろうか。

 そんな恐怖が頭の中で駆け巡る。

 でも──、

 

「勿論よ……!」

「当たり前よノシロ、貴方は私の妹……そして矢矧のお姉ちゃん……居ていいに決まってるじゃない……!」

 

 ──この二人は私を離さなかった。

 

 涙が止まらない。

 二人に抱きつかれ、嬉しいはずなのに。

 そうか、嬉しくて涙が止まらないんだ。

 

 嬉しいんだ。心の底から、嬉し──、

 

 

 

 

 

「捕らえなさい」

 

 

 

 

 

「……さて……作戦準備に取り掛かりましょう」

 

 

 

 

 

「悪しき人間の──

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──制裁を……」

 

 

 

 

 

 

 

 




Part.6 捲土重来のバイオレットパールはこれにて終了。Part.6をまとめると「アルペジオ」って感じです。
終盤の鹿島と阿賀野達の戦闘シーンは「ハルカミライ」って感じのノリで書いてました。



次章、決戦――。


一番好きな結末は何ですか?

  • ハッピーエンド
  • バットエンド
  • ビターエンド
  • メリーバットエンド
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