うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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114. 肉は中まで火を通しましょう

 

「提督ー、準備してきたぞー!」

「自由に配置していいぞー、あと食材は俺の隣な」

 

 プールの隣に出来た大きい砂浜で着々とバーベキューが進んでいる。肉が食べられると聞いて他の艦娘も集まりだし、摩耶同様バーベキューの手伝いをやっていた。提督の隣には段ボール箱が何箱も山のように積まれている。

 

「提督! 秋月さん達を連れてきました!」

「司令、これは一体……何をやるんですか?」

 

 古鷹が秋月達を呼び出してくれた。砂浜の準備風景を見て不思議がっている。これから何をするのか予想がつかない。

 

「何日か前にやりたい事としてデカい肉が食べたいと言っていただろう? だから用意してやったぞ」

「え!? 本当ですか!!?」

 

 以前にやりたい事として大きいお肉が食べてみたいと伝えていた秋月達。鹿島との戦闘からすっかり忘れていたが、提督は忘れていなかったようだ。提督が言い出した途端に四人とも目を輝かかせ、嬉々とした表情を存分に出している。

 

「あぁ本当だ。まぁバーベキューという形になるし、他の奴らもいる事になるが構わないな?」

「はい勿論大丈夫です!! ありがとうございます!!」

 

 やりたい事が叶った秋月達は早速バーベキューの準備の手伝いをしに行った。余程嬉しかったのかステップを踏んで駆けつけている。

 

「提督殿……これは一体何を?」

「お、集まったか憲兵隊と整備士諸君。悪いが仕事は一時中断だ、今はこれを楽しむといい」

「こ、これって!!」

「バーベキューじゃないっすか!!」

 

 今度はプリンツが憲兵隊と整備士達を呼び出してくれた。普段あまり見ない光景に隊長と白髭は口を開けて呆然としている。提督は見張りや開発を一時中断させ、艦娘達と食べる事を勧めた。バーベキューの準備風景を見るなり、他の憲兵と整備士が驚きの声を上げる。

 

「本当にいいのかのぉ……儂らみたいな輩が来て」

「構わんだろう。これも艦娘との交流の一環と思いたまえ。なァに大丈夫だ、緊張する必要は無い。何かしたらお縄行きして首を刎ねられるだけだ」

「そうですか……ですが白提督殿、私達はあくまでも憲兵。確かに交流も必要ではありますがまだ時期が早いかと思います。お気遣い感謝致しますが、我々は仕事に戻りたいと思います」

 

 他の憲兵や整備士達も同意の声が上がっている。艦娘との距離は徐々に縮まっているものの、まだお互いに遠慮するような仲に過ぎない。中にはトラウマを持っている艦娘もいる。出来れば参加はしたいが艦娘達の事を考慮するとまだ時間が早いと隊長と白髭は考えをまとめた。

 

「まぁ行くか行かないかはお前達の自由だ、勝手にしたまえ」

「了解です、では」

 

 バーベキューの準備に憲兵隊と整備士達が加わることはなく、各自仕事に戻っていった。それを見た一部の艦娘は少し複雑な表情をしている。憲兵や整備士達の中ににも名残惜しいそうな表情をしている者がいた。

 

 あの艦娘大好きと噂された陸軍大臣が直々に編成した憲兵隊、艦娘の安全を第一に考える海軍元帥が選抜した整備士隊。流石人の本質を見抜くだけの事はある。この鎮守府の事を考えて人間から評価の高い人柄のいい人物を採用したのだろう。何かと突拍子で無理矢理進めてこられたが、案外考える事は考えているらしい。

 

「随分と奮発したな、提督」

「まぁな。あの人数分で丸が多かった、後で請求書でも押し付けようかと思うぐらいだ」

「ははっ、それも面白いもんだな」

 

 休憩にしにきた摩耶が提督の隣に座る。

 準備したせいで手は炭だらけで真っ黒だ。

 

「やっぱ提督は優しいな、惚れてよかった」

「……古臭い事を言うんじゃない」

「はいはい。あたしさ、本当はちょっとだけ提督に不満があったりしてさ。たまにイラつき過ぎて殴る事もあったんだけど……」

「あの時のパンチは格別に痛かったな」

 

 急に思い出話をしてきた摩耶。

 懐かしそうに笑顔で摩耶は話を続けた。

 

「悪ぃ悪ぃ……ごめんな。でも提督の境遇とか考えたりすると、どうしても放っておけなくて……勿論頼りがいはあるし、頼ってくれるのは嬉しいけどさ……」

「摩耶らしくないな」

「そりゃあたしだってらしくない時ぐらいあるぞ。まぁでも結局はカッコいいな……って思っただけ。それを伝えたかった」

 

 頬を少し赤らめ、照れ臭い表情。摩耶がこんな事を言うとは珍しい。思わず提督もサングラスで逸らした目を隠した。

 

「……そうかい。ありがとな」

「どういたしまして。んじゃ私は焼いてくるわ」

「行ってらっしゃい」

「白さーん!!」

「ん、あぁ灰と時雨か……あ」

 

 灰色と時雨が急いでこちらに向かってきていた。バーベキューをすると聞いて急いで駆けつけて来たのだろう。そういえば灰色と時雨を呼ぶのを忘れていた提督。あ、と声を漏らした。

 

「何で私達の事呼んでくれなかったんですかー!!?」

「すまん、完全に忘れてた」

「もう終わっちゃた?」

「そんなに早く終わるかボケ。食いたければさっさと手伝うんだ馬鹿共」

 

 鎮守府のほとんどが砂浜に集まり、いきなり大所帯になった。バーベキューの準備も終わり、提督の掛け声と共にバーベキューが始まった。提督の隣にある段ボール箱から食材を取り出し、各自自由に焼いている。

 

「ジャッジャーン!! 本日のメインディッシュ、■■県産黒毛和牛A1ランクのステーキ参上!!!」

 

 灰色が特別大きい肉を持ち上げ、皆に見せつけている。次第に灰色の周りに人だかりが出来始め、一気に歓声が響いた。灰色の隣には秋月達が目をキラキラさせている。

 

「焼き方はそれぞれあるのですが、いかが致しましょうか? 秋月様方」

「えっと……じゃあ、一番美味しい焼き方で!」

「ご注文承りました!! ではこの私、肉界のスペシャリストことこの私、灰が最高に美味いサーロインステーキをご用意しましょう!!」

 

 いけいけー、流石灰さんなどと野次馬が飛び交う。職人技の様に大きい包丁で丁寧に一枚ずつ切り分け、金網の上に乗せていった。肉が焼かれていく音という物は一々食欲を掻き立てられる所がある。肉本体の脂が液体となって泡のように吹き出し、鮮明な赤い色の一枚肉が徐々に焼かれていく様は見る者を虜にさせるだろう。

 

「火加減はこれで大丈夫かな? 鈴谷」

「うん大丈夫だと思うよ最上姉。ちょうどいい火加減だわ~」

「それは良かった」

 

 別の焼き台でも最上と鈴谷が火加減を調節している。肉の焼き加減を見て了解を得たようだ。隣では熊野が焼かれていく肉を凝視してタイミングを見計らっている。最上は嬉しそうに笑いながら返事をした。

 

「あぁー! 長門! 肉取り過ぎだぞ!」

「む、そうか。天龍よ、それは悪かった」

「って言いながら食べるのやめろ!!」

 

 長門は食べるペースが早いのか皿に焼かれた肉を大量に取っている。そこに普段模擬訓練の相手になっている天龍が注意してきた。なお注意されても食べ続ける長門に天龍はツッコミを入れる。陸奥はその光景を睦まじく微笑みながら見ていた。

 

「北上さんは何をやってるんですか?」

「おっ大井っち。今ねー、某狩りゲーの肉焼きシーンを再現しててねー……ッ!! 今だ!! 上手に焼けましたーッ!!」

「まだ焼けてないぞ」

「え? マジ……? あ、本当じゃん……」

 

 北上は何か面白そうな事をやっていた。一つの肉を凝視していた北上はタイミングを見計らってトングで焼いた肉を持ち上げた。しかし隣にいた木曾から生焼けだと指摘され、よく見ればまだ完全に焼けていなかったらしい。しぶしぶ北上は焼き台に生焼き肉を戻した。

 

「満潮、焼けましたよ」

「う、うん、ありがとう……」

「あー! それは大潮のだよー!!」

「こら霰! 勝手に私が一番目に置いた肉取るのやめなさい!!」

 

 満潮は朝潮に焼いた肉をもらい、仲良くしていた。そこに大潮が自分のだと主張し、そこにまた霰が黙って肉を取っていく姿を見て霞が自分のだといたちごっこを始める。灰色が止めに入り、二人の喧嘩の仲裁に入った。

 

「食べないの? 貴方は」

「生憎俺は肉があまり好きではないのでな」

「あらそう、それは残念」

 

 プールサイドで一人、ジュースを飲んでいた提督。一人ぼっちを見兼ねて■■医師が話しかけてきた。パラソルの影に入り、手で扇いでいる。また隊長や白髭も提督の元まで歩いてきた。

 

「何でお前らはここに来たんだ」

「良いじゃない、同じ保護者同士仲良くしましょう?」

「それは私も同意見です。私も混ぜてください」

「私も頼む」

「お前らは保護者でも何でもないだろ」

 

 艦娘を見守る者、そして上に立つ者として■■医師、大和と武蔵が保護者トークが始まった。意外にも話には共感を持つ事が多く、少なからず提督も相槌を入れるなど話は有意義に進んでいった。

 

 提督と摩耶が着任して約二ヶ月、憲兵隊と整備士が着任して約半月。今までに色んな事があった。初めての演習、深海棲艦の襲撃、鎮守府内の暴動、鐐との戦闘。今思えばとても飽きない日々だった。憲兵隊と整備士が来た時は一時はどうなる事かと不安しか無かったが、あの判断を見るからに問題視する事はないようだ。

 

「いいわねぇ、こんな風景を見るのも」

「はい、とても楽しそうで何よりですね」

「全くだ。問題を抱えているとは思わん程に成長している」

 

 とはいえまだ問題は幾つも存在する。■■との決着、前任との決戦。大きな問題が二つも残っている。いずれも対策や計画は練っているものの、相手が何をするのか未だにその尻尾を掴めていない。

 

「でもまだ■■さん達はいないのね……」

「だろうなぁ、来る訳が無い」

「来ても難しいだろう。雰囲気が壊れるかもしれんしな」

「こればかりは仕方ありませんね」

 

 このバーベキューに■■達は来ていない。

 当然といえば当然だろう、来れば場が騒然とするのは目に見えている。

 

「あれ? 阿賀野さん達もいない……鹿島さんも」

「アイツらは急に部屋にこもりやがったぞー。俺が呼んでいるのに無視しやがった。鹿島は知らん」

「部屋にこもりやがったってただ単に姉妹同士で話しているだけだろう」

「折角姉妹が揃い始めた所です。邪魔してはいけないと思いますよ」

 

 阿賀野達は鹿島との戦闘後、提督に顔を見せていない。灰色からは姉妹で話し合いたいと言われ、そのまま帰ってきている。出来れば早めに来て欲しいのだが。

 

「そういえば貴方が言う計画って──」「今はそういう時間じゃないぞー」

 

 折角の楽しいひとときを邪魔してはいけないと伏せて伝える。提督といえどちゃんと理解はしているようだ。

 

「はいはい、そうでしたね。さて私も話しかけようかしら!」

「私達も先に戻ろうか。大和」

「そうですね。では失礼します、提督」

「はーい、お疲れー」

 

 ■■医師と大和と武蔵は艦娘達の輪に入り、話に混ざっていく。提督はジュースを飲み干した後に、スマホでゲームを始めた。

 

「出来上がりました秋月様方。どうぞお召し上がりくださいませ」

 

 四枚分のサーロインステーキが出来上がり、熱い鉄板の上に乗せていく。特等席に座る秋月四姉妹は皿に目を輝かかせ、遠慮なくその重厚たる肉を頬張った。初めて感じたその味に言葉が出ないまま、感動している。

 

「いっぱい食べる女の子は可愛いと言うがまさにこの事だな」

「艦娘とは素晴らしい存在です。この国を護っていただき本当に感謝の極み」

「尊い……」

「おい最後オタクいたぞ」

 

 憲兵や整備士がその姿を遠くから睦まじく眺める。肉を食べれなかったのは少々悔しいが、艦娘達が幸せであればいいという気持ちでどうでもよくなった。あくまでも憲兵という身分を自覚し、艦娘達との距離は一定に保つように隊長から言われている。この状況がまさしく本来鎮守府にあるべき光景なのだろう。

 

「ッ!!?」

「ん……提督!?」

 

 突然誰かが倒れる音が聞こえた。皆は何事かと振り向く。音の方向には椅子から倒れ込み、苦しい声を上げる提督がいた。身体をうつ伏せにして倒れ、口から血を吐き出している。

 

「おい提督!! 大丈夫か!!?」

「あ……いや……大丈夫……やっぱ水……くれ……!」

「誰か水を!!」

 

 すぐに摩耶とプリンツと不知火が駆けつけ、倒れ込む提督を支える。提督の緊急事態に近くにいた憲兵や灰色、艦娘達が周辺を囲い、提督の補助を進めていく。

 

 依然として提督は藻掻き苦しんでいる。まるで内側から何かに破壊されるような鋭い痛みが提督を襲っていた。至る所の血管が皮膚の表面上に浮き出ており、筋肉が盛り上がるように隆起している。

 

「(クソっ……ペースが早過ぎる……!! また今夜も打つしか……!)」

「何やったのよ……ったく、一回診てあげるわ。摩耶、担げる?」

「勿論」

「わ、私も行きます!」

 

 はっと我に戻った古鷹は秘書艦としてその後を追った。その現場をただ眺めるだけの艦娘達は神妙そうな表情をしている。これから何かが起こるような、とても不穏な雰囲気が辺り一帯を包んでいた。

 




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