うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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116. 悪辣なる孤立無援のヘルリークリーク

「元■■■鎮守府金剛型戦艦三番艦、榛名。面会だ」

 

 阿賀野達が攫われた事を知って一日が経ち、提督は大本営に来ていた。勿論訪問理由は深海棲艦のスパイである彼女との面会。秘書艦に浜風を連れ、面会室で待機していた。

 

「やぁやぁ榛名君、お腹の調子は如何かな?」

「また貴方ですか……話す事はありませんよ」

 

 提督の顔を見て、ため息を吐く榛名。また同じ事を聞かれるのだろう、話すのが嫌いだというのに強制的に面会させられるのは腹が立つ。仕方なく榛名は椅子に座り、提督と面会した。

 

「なァに今回は少し違う話だぁ、■■について聞きたい事がある」

「断ります」

「いいや断れんぞー? まだ時間はたっぷりあるんだからな」

 

 今回は少し多めに時間を取っているらしい。しかも拷問紛いの尋問が可能という理不尽なオプション付き。今の榛名は艦娘専用の拘束器具で手足は身動きが全く取れない。歩く際だけ解除されるが、それ以外はまるで鉄のように硬く、破る事は不可能。故に何をされても抵抗が出来ないのだ。

 

「私を尋問したって無駄ですよ」

「さてどうだろうなぁ~、やり方次第じゃ君が腰を下ろす羽目になり、アンアンと喘ぎながら重要な事を吐くかもしれないぞ?」

「へぇ~そうですか、本当に私を満足させてくれるんでしょうかね~?」

「え? どうしたんですか二人とも」

 

 いきなり全く関係のない話が展開し、戸惑う浜風。提督と榛名はガラス越しに言い合いになった。

 

「当然だ、俺はやる時はヤる男だからな」

「やるのヤが片仮名です提督!!」

「そういう事を言う人は大体やる前から緊張して、結局挿れるのが下手なタイプ、ですよね?」

「いや榛名さんもどうしたんですか!?」

 

 どうにかして二人を押さえようと浜風は言葉をかける。

 しかし二人の耳には全く届いていない。

 

「んんんんな訳ないだろ、おおおお憶測がいい加減だ」

「慌て過ぎですよ!!」

「度胸が無いですね~、どうしました?」

「榛名さんは一回落ち着いてください!!」

 

 突然立ち上がり、屈んで腰を振る提督。榛名はニヤニヤしながら提督を追及している。これでは立場が逆転だ、浜風は大きい声を出した。

 しかし──、

 

「貴方が一番落ち着きなさい、白髪巨乳娘」

「そうだ落ち着けよ、白髪巨乳娘」

「何で私が言われるんですか!!!」

 

 遂に浜風の堪忍袋の緒が切れたのか、提督を思い切りぶん殴った。提督は机に腕を乗せ、身体を震わせながら榛名に話し掛ける。よく見れば提督の頬は赤く腫れていた。

 

「と……とにかくだ、洗いざらい吐け。時間が……勿体ない」

「それは私にとって都合のいい事ですので黙秘します」

 

 榛名は背後から籖を取り出し、髪をとかし始めた。

 異様な光景に提督と浜風は言葉を失う。

 

「……ここって化粧道具ありでしたっけ」

「要望言ったらアリでしたよ……はぁ、何かここ暑くありません?」

「知らんわ」

 

 次に奥の扉から見張り役の男が現れ、被っていた帽子で榛名を扇いだ。提督と浜風は頬を引き攣り、呆然としている。

 

「既に営倉内の男達を手懐けている……」

「脱獄出来るんじゃねコレ」

 

 

 

 

 

 ──荒くれ鎮守府

 

「司令!」

「ん、秋月達か」

 

 大本営から戻ってきた提督と浜風は執務室に戻る途中、秋月四姉妹に出会った。時間は昼十五時、そろそろ夕方になる頃である。提督は手にまた違和感を感じた。

 

「お身体は大丈夫でしょうか……?」

「心配せずとも既にこの通りだ」

 

 腕を広げ、己の身を証明する提督。自身は何にも問題ないと豪語している。とはいえ目にはクマが出来ており、声も少しガラガラだ。本当に大丈夫なのか、秋月達は更に問い詰めた。

 

「ほ、本当に大丈夫なんですか?」

「体調は優れてるんでしょうか?」

「吐血していただろう、心配するなと言われても心配してしまうんだ」

 

 吐血した提督を運ばれた後、バーベキューは何分か続いたが、食材が無くなったの最後に終わったらしい。秋月四姉妹は勿論食べ終えたが、提督が倒れた事により、それ程味を覚えていない。

 

「はぁ……本人が大丈夫って言ってんだから大丈夫だ馬鹿共。心配しなくても俺はそんな事で死にやしない。それよりバーベキューは楽しかったか?」

「え? は、はい! とても楽しかったです!」

「提督には感謝してもしきれません!」

 

 とはいえバーベキュー自体はとても楽しかったようだ。初めて様々な人達と話しながら食べる事が出来て良かったと言う。前に着任した秋月四姉妹や磯風四姉妹、大和や武蔵は憲兵や整備士達と交友関係が広がっているようだ。ここの鎮守府の艦娘も少なからず成長している者もいる。やって良かったと言うべきだろうか。

 

「ならよろしい。今後もやりたい事があれば随時言いたまえ。いつでも待ってるぞ」

「はい! ありがとうございます!」

 

 秋月四姉妹が去っていく姿を見届け、提督と浜風は執務室へ向かう。廊下内て提督は伝えておくべき事を先に浜風へ伝えた。

 

「浜風、悪いが今夜も執務室にこもる。夜の警備は灰色と協力してくれ」

「分かりました……本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ、心配するなとつい先程言っただろうに」

「提督! 提督!」

 

 次に飛龍と蒼龍が現れ、提督を呼び止める。急いでいたのか、息が荒れていた。仕方なく提督は振り向き、飛龍達の話を伺う。

 

「今度は何だ、飛龍、蒼龍」

「今日って時間あったり、する……?」

「すまないがこれから俺は仕事だ、それに今夜も執務室にこもらなければならない。他をあたってくれ」

「じゃ、じゃあ! 今じゃ……ダメ……?」

 

 今では駄目かと小さく願う飛龍と蒼龍。目をうるわせて下から目線で見つめている。提督は腕でその視線を隠した。どうやらこの二人はどうしても提督に用があるらしい。

 

「司令、大丈夫ですよ。来るまでは私達が何とかします」

「はぁ……仕方あるまい。で、何だ?」

「やったぁ! ありがとう浜風!」

「そうと決まれば提督! 出来れば私達の部屋に来て欲しいんだけど……」

 

 一回浜風と離れ、提督は飛龍と蒼龍に連れていかれた。三人が向かった先は空母寮にある飛龍と蒼龍の部屋。また面倒臭い事なのではと提督は愚痴を吐いた。

 

「何かまた面倒臭い事だったら逃げるぞ」

「面倒臭くないって! 飽きさせないよ」

 

 いや飽きさせないってどういう意味だよ、と心の中で思いつつ部屋の中に入る提督。以前初めて入った際の飛龍達の部屋は綺麗に清掃され、美しい和室となって蘇っていた。ボロボロだった畳は新品に張り替えられ、壁の汚れは消えている。流石の潔癖症の提督も許容範囲内の綺麗な部屋だった。

 

「まぁ部屋は片付けたんだな」

「あんなボロボロの部屋なんて住みたくないからね」

「畳も張り替えたんだよ!」

 

 自分達の部屋をこれでもかと自慢する辺り少しタチが悪い。あまりにも元気過ぎて返答に困る。部屋の入ったのはいいものの、何をするのか分からない提督は飛龍と蒼龍に尋ねた。

 

「部屋に来たんだが、何をするんだ」

「実は……ちょっとしたお礼がしたくて提督に来てもらったんだよね」

「お礼? 何かお前らにした事あったか?」

「とろいな~提督ぅ~。嘘嘘! 冗談だよ……一回横になってほしいかな」

「はぁ? 横になれってか」

 

 飛龍の指示通り、提督は身体を横にする。寝た体勢で何をするのか余計に分からない。そこに頭を持ち上げられ、下に二つの太腿が現れた。

 

「膝枕か」

「うん……どうしてもしたくて……」

 

 飛龍の膝枕だ。自身の太腿に提督の頭を乗せ、白く長い髪を撫でている。前には蒼龍が正座して提督の顔をまじまじと眺めていた。

 

「私達ね、嬉しかったんだ。提督に仲間って認めてくれて……言ってくれたよね? 嫌われ者同士仲良くしていこうってさ」

「あーそんな事言ったなー、あんまり記憶に無いけど」

 

 提督と初めて会った日の事を飛龍と蒼龍は忘れていない。最初は凄まじい暴言の嵐で責め立てられ、怒り狂った事がある。その後は前任が深海棲艦のボスだという事を知り、自分達の境遇に共感してくれた。実はあの時、飛龍と蒼龍は本当に嬉しかったのだ。

 

「あの後私達も頑張ったんだ。皆と打ち解けるようにイメージアップとか話し合ったりしてさ。前とは仲の良さが全く違うんだよ」

「本当に提督には感謝してるの。だからそのお礼に膝枕なんだー……どう? 嬉しい?」

 

 提督ら目を瞑り、二人の話を黙って聞いていた。あまりの心地良さに眠気が来てしまう。思わず寝落ちしそうな程だ。ここ数日間はまともに寝ていない分、眠気が来るのは仕方ない事かもしれない。

 

「悪くはない」

「かっ~! 流石提督だね、厳しいったらありゃしない」

「寧ろ膝枕を受けてもらっている事をありがたく思いたまえ」

「充分ありがたいよ、提督。次は私ね」

 

 膝枕の交代が蒼龍に変わり、飛龍が次に見つめる番となった。大きな窓に太陽の光が差し込む。提督の脚辺りを照らし、畳が黄金色に輝く。冷房の効いたこの部屋でその光は妙に暖かく感じた。

 

 いつからだろうか、誰かに膝枕をされたのは。とても懐かしい感じだった。

 包容力があり、優しさに溢れている。思わず身を委ねて寝てしまいそうな感覚だ。

 

 

 つい、()()()の事を思い出す。

 

 

「……随分とかしこまってるなぁ~、そんなに俺の事が心配か?」

 

 膝枕が交代した時から沈黙が続いていた。ただひたすら頭を撫で続け、白く輝く髪をとかしてくれている。飛龍はずっと提督の寝顔を眺めていた。目を瞑って周りが見えていなかった提督は沈黙を破って飛龍と蒼龍に話し掛ける。

 

「当たり前じゃない。一番信頼してる人が急に血でも吐いて倒れたら誰だって心配するよ」

「私達……提督が失うのが怖いんだ。折角私達を導いてくれた人が急に居なくなるのは……とても……怖いんだよ」

 

 飛龍と蒼龍は提督の喪失を恐れていた。あの時提督が吐血して倒れた場面を目撃していた二人は提督を失う事に恐れて固まっていた。身体を震わせながら、自身が想像した最悪の未来が起こりそうな時を見て恐怖したのだろう。それだけ二人は提督の事を信頼していた。

 

「だからこうやって少ない時間でも休憩出来るようにお礼も兼ねて膝枕してるの。少なからず提督には感謝してるからね」

「私達は提督の味方だよ、皆は嫌ってるかもしれないけど私達は提督が好き。だから……あまり無理はしないで」

 

 余程提督を心配していたと聞き受けられる。まさかここの鎮守府の艦娘の中で自分を心配するような艦娘がいるとは提督自身も全く想像していなかった。何故だろうか、鳥肌が立ってしまった。流石に断るのは状況から考えて駄目だと思った提督は答える。

 

「……肝に銘じよう」

「うん……ありがとうね、提督……」

「さて……そろそろ時間だ」

 

 

 提督がいきなり起き上がり、蒼龍の胸に下から正面衝突したのは内緒の話。

 

 

「えーもう? そんなに時間経ったー?」

「悪いがあの馬鹿共が残した仕事が余ってるんだ、また今度にしてくれ」

 

 提督は軍服についた埃を取り払い、ドアへ向かおうとする。その姿を見て飛龍と蒼龍は手を広げて左右に動かした。

 

「分かった……いつでも待ってるよー!」

「ありがとねー! 提督ー!」

 

 飛龍と蒼龍の部屋を出て、提督は執務室へ向かう。執務室には灰色と時雨、浜風が溜まった書類を潰しており、提督は仕方なく仕事に取り掛かった。

 

 

 夜十九時。

 提督は先に執務室にこもり、灰色と時雨と浜風は追い出された。歩きながら話をし続け、食堂へ向かう。いつも通り食堂で定食を貰い受け、艦娘達と楽しく話し合った灰色。少し味噌汁に違和感があるものの、気にしないでそのまま飲み干した。

 

 

 夕飯が終わり、消灯時間まで自由に行動する艦娘達。灰色は時雨と浜風で夜の警備をする為、交代する時間を話し合った。時雨、浜風、灰色の順となり、各自身だしなみを整えて消灯時間を迎える。

 

 

 

 そして──朝。

 

 

 

「……誰も来ないな、寝坊か?」

 

 執務室にこもっていた提督は朝早くから仕事に集中していた。しかし、朝八時になっても誰も執務室に来る気配が無い。また寝坊したのかとスマホで摩耶に電話するが、全く応答しなかった。仕方なく昼ご飯まで提督は書類潰しに時間をかける事となる。

 

「チッ……ったくアイツらめ……会った次第にぶん殴るぞコノヤロー……ん? あれは?」

 

 ようやく仕事が終わり、頭を掻く提督。半分イラつきながらも、食堂に向かった。寮と寮との連絡通路を渡っていたその時、前にプリンツが歩いていた。

 

「おーい何してんだー? プリン──」「チッ」

 

 腹いせついでに煽ってやろうと声を掛けた途端、プリンツに舌打ちをされた。凄まじい程の豹変ぶりに提督は頬を引き攣る。思わず罪悪感を感じてしまった。

 

「……何でアイツ、舌打ちしたんだ? 新手の反抗期か?」

 

 結局舌打ちをされた意味すら分からず、提督は食堂へ向かう。食堂内はいつもの騒ぎようが外から聞こえた。少しばかり静かに聞こえるも騒いでる事に変わりはない。提督は黙って食堂の扉を開いた。

 

「……」

 

 何かがおかしい。

 

 提督が来るなりうるさかった食堂内がいきなり静かになった。まるで氷のような冷たい視線が提督に集中する。早めに食堂を利用していた憲兵や整備士もいない。明らかに何か不自然だ。

 

 提督は冷たい視線が集まる中、カウンターまでゆっくり歩く。見渡す限りは艦娘しかいない。しかもその艦娘全員が提督に嫌悪の眼差しを送っている。

 

「鳳翔ー、いるかー?」

「……何ですか」

 

 奥の厨房から鳳翔が現れた。背後から見てくる艦娘同様、声が冷たく感じる。まるで敵視されている様な感覚だ。

 

「いや何ですかって、昼ご飯だからいつもの──」「そんなものありませんよ」

 

 提督の声を遮り、鳳翔は冷たく答える。

 一瞬理解出来なかった提督は再度鳳翔を問い詰めた。

 

「……ん? どういう事だ?」

「貴方に出す物はありません。さっさと帰ってください」

「へぇー、じゃあそこにある鍋の中には一体何が入ってるんだ?」

 

 鳳翔は棘のある言い方で提督を帰らせようとしてくる。提督が反抗するなり、背後にいる艦娘達がヒソヒソと話を始めた。クスクスと嘲笑う声や憎悪を向ける声が重なって聞こえる。

 

「はぁ仕方ない……分かった」

 

 鳳翔に出す物は無いと言われ、呆気なく提督は帰る事にした。まだ冷たい視線が提督を包み込む。そんな途中に座っていた時雨が提督を転ばせようと足を出した。

 

「えっ? うわッ!」

 

 しかし提督は突き出した時雨の足を自分の足で下から掬い取る。そして自分の足で掬った時雨の脚を片手で掴んだ。時雨は逆さまにぶら下がり、スカートが逆さまになり下着が見えかけた。

 

「おっと時雨~、人の足に掛ける時はちゃんと力入れないとダメだぞ~? あ~でも馬鹿だから分からなかったか~ごめんな~!」

「ッ!! こッの!!」

 

 提督は手を離して、雑に時雨を下ろした。時雨はすぐさま起き上がり、提督に対して艤装を展開する。だが提督は帰ろうとしており、敵対する時雨も見ないまま、後ろに振り向きもせずに手を振った。

 

「じゃあな~、薄ら馬鹿共~」

 

 バタン、と扉の音が重く響いた。食堂の外に出た提督はつい先程まで起きた経験を元に考える。

 

 艦娘達の凄まじいまでの提督に対する嫌悪感とその変貌ぶり、憲兵や整備士の突然な消失、ありとあらゆる状況、場面、時を考え、提督は思い立つ。

 

「成程な……」

 

 これから提督は思い知る事になるだろう。

 

 

 

 この日を境に──、

 

 

 

「■■だろうな。上等だ……そちらがその手なら──

 

 

 

 

 

 

 死が天国すら思える地獄の戦争が始まった事を。

 

 

 

 

 

 

 ──俺も容赦はしないぞ……翔鶴!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ■■の本当の名は翔鶴型航空母艦一番艦、翔鶴。

 

 全てを犠牲にして墜ちた悲しい艦娘の名だ。

 




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