うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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119. 真夜中に潜む狩人には要注意

 艦娘達の嫌がらせは夜になっても続く。いつもは灰色や憲兵達に任せていた夜の警備を提督が自ら行っていた。外では夜の星空が広がっており、月の光が太陽の様に輝いて窓から光が差し込んでいる。懐中電灯で廊下を照らしながら、完全武装状態で各寮を見回っていた。

 

「夜だろうと見張りは怠らない、と」

 

 地下営倉の入り口である司令本部の階段を懐中電灯を消して覗く提督。消灯時間を過ぎてもなお艦娘が見張っていた。今度は暁が首をコクコクと縦に動かし、その場から周りを見張っている。

 

「あれ見張ってんのか? 寝てね?」

 

 明らかに眠っているような仕草をしている。今のうちに入れば回収出来る可能性が出てきた。が、地下営倉の入り口は開くまでに大きい機械音が鳴り響く。例え寝ていたとしても目を覚ましてバレるのが必然だろう。

 

「ん? 待てよ。静かにヘッドホンを付けて音防げばワンチャンスあるぞこれ」

 

 手をポンと叩いてある作戦を思いつく。暁が目を覚まさないように静かに忍び込み、ヘッドホンを被せれば機械音はあまり耳には入らない。

 提督は執務室の監視室にあるヘッドホンを取り出し、地下営倉の入り口がある階段まで向かった。忍び足で音を立てずに一歩ずつ階段を一段一降りていく。木材の軋む音が微かに聞こえるが、暁は全く動揺しない。やがて階段を全て降り終え、暁の所までまた忍び足で歩み寄った。

 

 だが──、

 

「ヒィッ!!」

 

 突然曲がり角の死角から矢が飛んできた。女性のような悲鳴を上げた提督は急に身体を伸ばしてその場に立ち止まる。壁に張り付き、打ってきた方向を覗いた。

 

「提督、そこにいるんでしょ?」

「隠れてないで出てきなよ」

 

 飛龍と蒼龍が弓を構え、提督の事を睨んでいた。仕方なく提督はその身を二人に見せ、静かに二人を睨み返す。

 

「提督の事だろうからそんな事するんじゃないかなって思った」

「姑息で狡猾な手口を使ってくるからね、分かりやすかったよ」

 

 どうやらこの二人も提督の事が嫌いのようだ。実際に弓矢で攻撃してくる辺り、本来の二人はそんな事などしない。恐らく昼の遠距離狙撃もこの二人が犯人だろう、飛龍と蒼龍の矢の命中精度は加賀にも勝る能力を持つ。

 

「……昼時の遠距離狙撃もお前らだな?」

「ご名答! 流石提督だね」

「アレは惜しかったな~」

 

 提督を置いといて飛龍と蒼龍は楽しく話し始める。堂々と昼間の事を認めたようだ。と言っても弓矢を持つ艦娘はこの鎮守府でごく少数しかいない。更に尋常ではない命中精度となれば特定は簡単だった。

 

「……いいように裏切られたな、俺も」

「あ、もしかして前の事信じてたの? あんなの嘘に決まってるじゃん」

「やめてよ? 本気で気にしてるとかキモいから」

 

 好嫌薬を使われてもなお、飛龍と蒼龍は先日の事を覚えている。都合良く記憶が改竄されている可能性を示唆していたが、どうやら見当違いのようだ。飛龍と蒼龍は先日の言葉に身体を震わせ、何故言ったのか自身で理解していないらしい。

 

「いや……大丈夫だ。俺もたった今大嫌いになった所だ、心配せずとも俺から近付く事は無いぞ、じゃあな」

 

 提督は手を広げながら余裕気味に二人に宣告する。そして手を振らずにその場を去った。先程の階段を駆け上がり、姿を消していく。普通であれば嫌われる事など子供の戯れと思ってい嗜んでいたが、あの二人に対しては何故か少しだけ心が苦しかった。

 

「あ~やっといたよー」

「ん……──ッ!?」

 

 突然曲がり角の死角から誰かに蹴られた提督。左腕で蹴りを防御し、衝撃で廊下内を引き摺る。防御した左腕から煙が出ていた。

 

「敵発見~」

「川内か……!」

 

 超絶夜戦好き軽巡洋艦、川内が登場。格別目が冴えているのか、黒い目が淡く輝いている。既に艤装展開、戦闘準備は万端のようだ。

 

「いや~目が覚めててさ~、何か楽しい事無いかなって色々暇してたんだけど……ちょうどいいのが居たね」

「そのまま眠ってりゃよかったのによ……!!」

 

 まさか川内でさえも翔鶴側とは流石に予想が当たって欲しくなかった。休暇中の川内は昼夜共にずっと寝ているはずだ。だがあの一夜の時に川内は夕食を取っていたらしい。何という偶然だろうか、流石に面倒だ。

 

「いや~翔鶴から聞いたんだけど、何でも提督を痛めつければここから追い出せるそうじゃん?」

「追い出してくれたらの話だけどな」

「だから~、私も夜の間は参加しようかなって思ってるんだよね~」

 

 あまりにも厄介過ぎだ。ただでさえ普段でも面倒臭い性格をしているというのに好嫌薬で更にその面倒臭さがパワーアップしている。夜の間という艦娘との遭遇率が低い圧倒的なチャンスの時間を一気に破壊してきた。

 

「相変わらずの性格の悪さで安心したよ川内、さぞかし殲滅された深海棲艦は悔しがってるだろうに」

「提督もその深海棲艦の一人になるんだよ!」

「それは不名誉な事だな!!」

 

 接近する川内に提督は懐中電灯を目の前で点灯。強い光にやられた川内は目を手の平で覆い、喚き声を上げた。提督は川内がのたうち回っている内に颯爽と逃げ去っていく。その喚き声を下で聞いていた暁が階段を登ってやってきた。

 

「どうしたの!? 川内さん!?」

「あ、暁……? くっ……! やられた……! どこへ行ったの!?」

「司令官は……見てないわ」

「私は大丈夫だから……見張りをしてていいよ……暁。少し部屋に戻るね」

 

 逃げた提督は執務室に避難していた。まだここは何も嫌がらせはされていない。だがじきに何かしら嫌がらせが来るだろう。ここもそれほど安全では無い。

 

「流石に危なかった……明日も調査続行だな」

 

 

 

 

 

 艦娘達に嫌われて三日が経過。

 今日も今日とて提督は調査を続ける。艦娘達の執拗な嫌がらせを回避しながら、何事も無かったかのように提督は鎮守府内を駆け巡った。

 

「ん~意外に通信系が使えないのは痛いなぁ~……」

 

 通信機器系等は全て遮断された上に妨害も施されている。外部との連絡は不可能、応援要請も呼ぶ事が出来ない。スマホが使える所といえば時間確認だけぐらいである。

 

「探すか~……」

 

 提督が次に探すのは携帯電話の妨害機。この鎮守府のどこかに設置されている妨害機を破壊又は回収しなければならない。提督といえど約七十人の艦娘を相手に長期戦に持ち込むのは無理がある。ただでさえ体調不良などの数々のデバフを背負いながら艦娘達の嫌がらせを回避しているのだ。この嫌がらせがエスカレートすれば身体は持たない。

 

「しかしどうやってジャミング出来るような機械を持ってたんだ?」

 

 問題は何故そのような高等な機械を持っていたのか。確かに今の時代でもネットで普通に妨害機を購入出来る。だがそれ以前にこの鎮守府のネットワークはこちらから遮断していたはずだ。提督が使う時に繋いで使用出来るようにしている。しかし今回に関してはそのネットワークは完全に遮断されていた。

 

「事前に持っていた可能性……にしては上手く行き過ぎているな」

 

 誰かが仕掛けたであろう廊下内にある転倒用の紐糸を軍刀で斬って回避する。何重にも仕掛けられた紐糸を見ずに斬っていった。

 

 仮に事前に持っていたとしても都合が良過ぎる。まるでこの時の為に取っておいたような使い方だ。

 

「いや、以前にも使っていた?」

 

 前任が艦娘以外の軍関係者に携帯電話等を使わせない為に使用していた可能性。自身がやってきた犯罪の数々を外部へ漏れさせない為に妨害機を使ったのかもしれない。だがそれでは前任自身の携帯電話も使えなくなる。謎は深まるばかりだ。

 

「どちらにせよ破壊しなきゃ進まないだろうな」

「何を破壊するだって?」

「……天龍か」

 

 軽巡寮の廊下を歩いている最中、天龍に声を掛けられた。

 艤装を展開し、大太刀を肩に掛けている。

 

「何を壊すんだ? クソ野郎」

「そうだな~……この鎮守府、とか?」

「ははっ、そりゃ面白い冗談だな。さっさと言え、斬り刻むぞ」

 

 提督の冗談に笑いながらも真面目な表情で脅してきた。

 天龍は大太刀を提督に目の前に突きつける。

 

「せっかちだなぁ~もう少し許容したまえ、カルシウム不足だぞ?」

「俺は言えって言ったんだ、てめぇの御託に付き合ってる訳じゃない」

「胸がデカい奴はプライドもデカいとよく言うが、まさにこの事──」

 

 天龍は勢いよく大太刀を振り下ろす。爆発音のような音が廊下内に響き、土埃と土煙が舞い上がった。フローリングの床がボロボロになるほどの威力だ、生きているはずがない。だが──、

 

「……ただ力任せに振ればいいってもんじゃねーぞ……天龍」

「ッ!? 何を!?」

 

 床に食い込んだ天龍の大太刀を踏みつけ、更に床へ食い込ませる提督。床の破片が飛び散り、土煙が遠くへ霞んで消えていく。踏まれた事で大太刀が抜けなくなってしまった。更にはアイマスクされ、周辺が見えなくなる。そして大太刀を持つ手に何か違和感を感じた。

 

「何してるてめぇ!! ちょお前! やめっ、何やってんだやめろ!!」

 

 すかさず天龍は空いた左手で前にいるであろう提督を殴りにかかった。が、見えない相手を殴れるはずもなく、空振りばかり起こしている。提督は口笛を吹きながら、天龍の右手に細工を施した。

 

「よーしこれでまともには動けんだろ~、って事でじゃあな~イキリ眼帯君」

「待て! せめてこれ外せよ!! 本当に行くのかオイ!? 待て、待てよ!! オイ!!! ちくしょおおおお!!!」

 

 アイマスクも外されないまま、そして大太刀を持つ手がガムテープで固定され、その場から動けなくなってしまったまま天龍は放置された。大太刀は床に深く食い込んでおり、力を入れても全く抜ける気配が無い。提督はそのまま逃げていった。

 

「ここはどうだ?」

 

 提督がいるのは寮と寮を繋ぐ連絡通路。この連絡通路は駆逐艦寮、軽巡寮、重巡寮、戦艦寮を繋ぐ複合型連絡通路だ。寮の建物の間にある第二広場を跨いで設置されている。その連絡通路の屋上を提督は調査していた。

 

「まぁ流石にこんな分かりやすい所には無いか」

 

 普段はこの屋上も使われており、程よい涼しげな風が流れる事が多い。艦娘達も設置されたベンチで話しながらこの連絡通路の屋上をよく使う事がある。現に今、最上と鈴谷と熊野がベンチに座っていた。

 

「うわっ独り言とかキモ」

「触らぬ神に祟りなしですわ、見ちゃダメよ」

「しっかし、見ただけで気分が最悪だね……何で消えてくれないのかな」

 

 提督を見るなり三人は陰口を挟む。提督を汚物のように見下し、ヒソヒソと話し合っているようだ。提督は何を言われても動じない。そんな言葉を気にするよりも、解決策を見つける方が有意義だ。こんな連中に関わる時間が勿体ない。

 

「……」

「反応無しか、つまんないの」

「だったらさ……」

 

 妨害機は恐らく翔鶴が持っている可能性が高い。普通から考えてそれしかないだろう。貴重な手段をみすみす手に離すなど翔鶴がやる事ではない。

 

 提督に聞こえないように手で防いで何かを伝えている。話がまとまった途端に不気味な笑い声を抑えて出していた。すると鈴谷が突然立ち上がり、提督に歩み寄る。

 

「ねぇねぇ提督、ちょっとやりたい事があるんだけど」

「断る」

「あれあれ~? 私達がやりたい事に関してはいつでも受け入れる方針じゃなかった~?」

「いつでもとは一言も言っていない。勝手に言葉を改変するなエセJK」

 

 嘲笑いながら提督に問い続ける鈴谷。そして周辺を囲う最上と熊野。提督は鈴谷の方に振り向きもせずに空を見上げた。提督の視線に写っているのは寮の建物の屋根。

 

「ねぇ私達の話ぐらい聞いたっていいと思わない?」

「思わない。こうして話している時間が勿体ないと思わないか?」

「いいや思わないね。だってこれから提督は……私達のサンドバッグになるんだからさ」

 

 提督の肩を掴んで鈴谷は蹴り上げる。提督は身体を仰け反って蹴りを回避。そして最上と熊野の殴打を跳躍で回避し、三階下の地面へ降りていった。

 

「すまんがお前らのやりたい事はまだ手伝うつもりは無い。これからにしてくれ、じゃあな~」

 

 提督は平然とそのまま歩き、建物の陰に消えてしまった。三人は歯を食いしばり、悔しがる表情をしている。

 

「クソッ!! 絶対にやってやるんだから!! 探そう!!」

 

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