うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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121. 不撓不屈の心を持つ白い兎よ

 艦娘達に嫌われて四日が経過。

 摩耶を人質に取られ、提督は行動を制限された。もし艦娘達のやる事を回避すれば摩耶が傷つくという卑劣な行為により、これから提督は自ら暴力を受けなければならない。昨夜は休憩として特別に時間が与えられ、提督は何週間ぶりか睡眠を取る事が出来た。

 

 翔鶴から課された日課は三つ。

 一つ目は必ず朝昼晩の食事の時は食堂で取る事。その際ちゃんとした食事は提供してくれるらしい。

 二つ目は仕事は必ず昼までに執務室で終わらせる事。その際も艦娘達の邪魔は入らせないようだ。

 三つ目は夜の徘徊は必ず三日に一回行う事。徘徊日以外は睡眠を取ってもいいらしい。

 

「まぁ日課だろうとアイツらはやってくるだろうな……」

 

 そう呟きながら提督は食堂の中に入る。提督が入るなり鋭い視線を向けてくるが、あの時の冷たい視線とは違ってずっと見つめてくる事は無くなっていた。提督の事を何回か見て、また艦娘同士で楽しく話している。

 

「……どうぞ」

「どうも」

 

 不本意なのか鳳翔が眉を(ひそ)めた表情で定食を出してくれた。メニューは普通の朝食とは何ら変わらないいつも食べていた物ばかりだ。提督はその定食を持ち出し、二階のテーブル席へ一人で向かう。二階にはちらほら艦娘が先に食べていたが、提督はいつもの席に座って食べる事にした。

 

「味は……いつものか」

 

 一瞬毒が入っているのではと思ったが、そんな事は無かったようだ。あの翔鶴が即死するような毒物を入れる訳が無い。

 

「やっと食堂に来たんだね、提督」

「……時雨か」

 

 黙々と食べる提督に話しかけてきたのは時雨。

 ニコニコと笑顔を浮かべ、提督を見つめている。

 

「何の用だ」

「いやいや実はね……」

 

 突然時雨はコップに入っていた水を提督に浴びせた。顔辺りを思い切り浴びせられ、軍帽と軍服が濡れてしまう。

 

「目覚めていないようだからさ、覚ましてあげたよ。どう? 目、覚ました?」

「……あぁバッチリとな」

「それは良かった。んじゃバイバイ」

 

 恐らくあの時足を引っ掛けて来たのを回避した分、やり返しに来たのだろう。一部始終を見ていた周辺の艦娘はクスクスと笑いを堪えながらこちらを見ている。本当であればコップの水など事前に対策出来たはずが翔鶴の所為でまともに受ける羽目になってしまった。

 

「ごちそうさま」

 

 提督は定食を食べ終え、お盆を持って一階のカウンターまで向かった。階段を降りて、カウンターの目の前まで近付いた時。すれ違った五十鈴に足を引っ掛けられ、提督はその場で転倒した。

 

「あ、ごめんね~提督。もう少し周りを見た方がいいわよ」

「クソッ……」

 

 食堂という名の魔窟を抜け出し、提督は執務室へ向かう。食堂に行って食事をしただけで三回も嫌がらせされた。提督が反抗出来ないのをいい事にやりたい放題だ。

 だがまだこれは序盤でしかなかった。

 

「倉庫内の確認か……」

 

 ほとんどの仕事を終えた提督は最後の仕事に倉庫内の確認を行った。クリップボードに書類を挟み、執務室を出ていく。

 太陽の光が暑く差し込む中、提督は倉庫内の在庫を確認していく。最近は弾薬が基準より少なくなっている。恐らく長門を始めた艦娘達が提督自身に砲撃していたからだろう。

 

「提督!」

 

 声を掛けられた途端、頭上から氷水を大量にかけられた。バケツから一気に氷を含んだ水が提督を冷やしていく。一瞬突然の冷たさに身体を震わせながらも、すぐに身体の表面は熱くなった。

 

「暑そうだから冷やしてやったよ? 感謝してね?」

「古鷹……ありが──」「あたしもいんだよ!!」

 

 バケツを上から被せられ、背中を蹴られる提督。転びそうになったが体勢を整えて何とか持ちこたえた。バケツを外し、背中を蹴った艦娘を睨む。

 

「……加古と古鷹か、仕事中は邪魔しない約束じゃなかったか?」

「あははっ! 執務室だったらの話だよ? あの時のお返し、今返したから。ここから消えてもらう為に色々しちゃうからね」

「そりゃどーも……」

 

 おかげで書類はびしょ濡れだ、また書き直さなければならない。記憶力で覚えている為に書き直すのは造作もないが、水をかけられるのは厄介だ。折角時雨の時の濡れた場所が乾きやすくなっていたのに、これではまた着替える必要がある。

 

「じゃあね~」

 

 洗礼を受けた提督は自室で新しい軍服に着替える。濡れた軍服は自室の窓を開けて、万が一の為に窓から少し遠ざけて干す事にした。

 そろそろ昼飯時である。提督はまた魔窟へ向かった。

 

「……どうぞ」

「どうも」

 

 また鳳翔は嫌々に提督へ定食を渡す。いつもの二階のテーブル席へ座って食べる。賑やかな一階の食堂、静かな二階のテーブル席。艦娘達が何もしてこなければこんな時間でも平和に思える。

 

「ちょっとついてきてよ、提督」

 

 食べ終えた提督のお盆は大井に片付けられ、提督は北上に連れていかれた。連れてきた場所は司令本部の二階階段手前。

 

「やめっ──」「そ~れ!」

 

 あの時提督がドアを開いて北上と大井をぶつけたように、今度は提督が北上に背中を押されてドアにぶつかった。勢いよく顔面と身体に直撃し、提督は後方へ仰向けに倒れる。

 

「ぎゃはははは!! 面白過ぎ~ウケる~!」

「クソがッ……」

 

 提督はゆっくりと身体を起こし、湧き上がる怒りを抑える。ここで何かすれば摩耶の身に危険が及ぶ。例えどうされようとも正面から受け止めなければならないのだ。

 

「何してるクマ~?」

「あぁ球磨姉と多摩姉、今提督の事いじってるんだ~」

「姉さん達も混ざります?」

 

 廊下の方から球磨と多摩がやってきた。妹達がやっている所を見て声を掛けたのだろう。この二人も提督に嫌がらせを仕掛けた艦娘だ。了承するのが当たり前だろう。

 

「混ざるクマ~」

「でも何するの?」

「ん~そうだな~、取り敢えず全員で踏みつけてみる?」

「いいですね、やりましょう」

 

 起き上がる提督の背中を踏みつけ、四人で一斉に踏みつける。頭、顔、首、胸、腹、腕、足などの要所を執拗に攻めてくる。息する暇も無い踏みつけの雨を提督は身を屈み、腕で顔を隠して必死に耐え抜いていく。やがて踏みつけが終わり、提督は確認する為に腕を上げる。

 その時──、

 

「シュートォ!!」

 

 最後に艤装を展開した状態で提督は顔を思い切り蹴られた。ピンボールの様に階段の手摺に当たって弾き、壁まで蹴り飛ばされる。階段の折り返しの床に提督は倒れた。

 

「いい気味クマ~」

「すっきりしたし、寝るニャ」

「そうですね、行きましょう北上さん」

「うん行こう」

 

 提督はそのまま放置され、北上達はその場を去った。倒れていた提督は身体を震わせながらも必死に立ち上がる。全身に痛みという痛みが身体の中を巡っていた。蹴られた頬辺りの骨は複雑骨折、何本か口から折れた歯が出てくる。しかし提督は自身の驚異的な自然治癒力でその傷を癒していく。骨は新たに形成され、赤く腫れた頬が元に戻っていった。

 

「くそっ……耐えろ……」

 

 今でも痛みが続くが歩けない程ではない。提督は軍服の汚れを簡単に拭き取り、この状況を打破できる策を考えていく。以前金剛に邪魔され、間宮の存在を確認出来なかった。今度こそ間宮の確認をしたい提督は空母寮へ向かう。

 

「はぁ……はぁ……着いた……」

 

 間宮の部屋の前まで難なく辿り着いた提督。左右は誰にもいない、確認するなら今しかないだろう。

 まず最初にノックだ。

 

「反応無し……んじゃ」

 

 次にドアノブを回す。すると鍵は既に開いていたのか、入れる状態になっていた。嫌な予感がした提督はゆっくりとドアを押す。

 

「対策済み……か」

 

 提督の嫌な予感は的中。

 間宮は既に翔鶴達に攫われていた。間宮は最近まで食事も取らずに自身の部屋で閉じこもっていたが、恐らくあの夜でも間宮は食堂に来なかったのだろう。それを見かねた翔鶴が強制的に拉致したかもしれない。部屋の中は土足で踏まれ、荒らされた形跡が残っている。

 

 翔鶴は提督のあらゆる可能性を潰しに来ているようだ。地下営倉にいる灰色達も、阿賀野達も、明石達も、間宮も、味方になりうる存在は全て攫い出し、有利な状況には絶対にさせない徹底的な対策。通信系を全て遮断又は妨害し、外部との連絡は一切不可能。そして提督をじわじわと追い詰めていく為に摩耶を人質にした卑劣な行為。

 

 提督は完全に翔鶴の罠に嵌ってしまったのだ。

 

「これがアイツのやり方か……!!」

 

 提督は間宮の部屋を閉めるもドアノブは握り続けたままだった。翔鶴の罠に嵌ってしまった事で様々な感情が頭の中を右往左往している。とてつもない怒りと滲み出る焦り、そして頭の中を掻き乱していく絶望感。無造作に傷つけられたプライド、到底受け入れられない現実。思わず頭がオーバーヒートし、思考停止する寸前だった。

 

「諦めるな……まだ策は残ってる。今は……それに賭けるしかない」

 

 我を取り戻した提督は一旦深呼吸し、自身を落ち着かせる。罠に嵌ったとはいえまだ希望はある。机の棚にある効果消去薬が提督にとって唯一の希望。幸い誰にもその隠した場所は分かっていない。摩耶でさえもその場所を教えていないので苦しい拷問で密告してしまったとしても問題は無いだろう。

 

 だが逆にどうやって摂取させていくかが鍵となる。出来れば全員一気に摂取させたいが、それはどうやっても無理があるだろう。であれば確実に一人ずつ摂取していけば味方が増え続け、着実に解決へ向かっていく。全員よりまず一人だ。味方になってくれる且つ細かい判断力がある艦娘がこの鎮守府にいる。

 

 それは──、

 

「何してるんですか~? Admiral」

「……プリンツか」

 

 プリンツ・オイゲン、又は不知火の二人だ。前の鎮守府でも部下だったこの二人なら確実に味方になってくれる。川内も視野に入れたが、日中眠っているが神通が見張っており、入り込む隙が無い為にやむなく却下する羽目になった。

 

「いや何だ……最近間宮が休んでたからな、一回確認しようと思ってここに来たんだ」

「ドアは開けたのか?」

 

 背後から那智が現れ、ドアを開けたのか聞いてきた。この様子だと提督が間宮の部屋の中へ入った場面は見ていないらしい。明らかに間宮が攫われた事を知られたくないような聞き方だ。

 

「いや開けてないぞ。これから確認する所だ」

「そうか。間宮は今も休療中だ、確認しなくても大丈夫だぞ」

「分かった。因みになんだがどれ位休むって言ってたか分かるか? 何ぶん、鳳翔だけでは忙しいだろうからな」

 

 仕事に取り組んでいる姿を提督は見せつける。仕事中となれば艦娘達の邪魔は入らない。と言いたいが、古鷹と加古という例外がある以上は信じない方がいいだろう。那智達の気分を伺ってその場をやり過ごすしかない。

 

「確かにそうだな。聞いた所によると二週間と言っていたぞ」

 

 二週間、となれば好嫌薬の効果は約半月程だろうか。考えて言った際には現実的過ぎる。誘い言葉で狙ってみたがこうも容易く聞けるとは思わなかった。だがブラフの可能性もある、場合によってはそれ以上続く事もあるだろう。

 

「二週間、か。分かった」

「まぁその前に貴様は摩耶諸共消されるだろうがな」

「チッ……」

「真面目ぶって仕事をしても無駄ですよAdmiral.貴方の本性が分かっているのは摩耶さんか私、不知火さんや川内さんぐらいですし……覗いてますよね?」

 

 プリンツの背後からぞろぞろと金剛達が現れる。那智の背後からも鈴谷達が歩いてきた。

 まずい、完全に囲まれた。

 窓から脱出するしか方法は無いが逃げれば人質の摩耶が傷つく羽目になる。逃げるにも逃げれない状態だ。

 

「……お前はどう思ってんだよ……! 摩耶が殺されかけてんだぞ……!!」

「味方する摩耶さんはAdmiralと同じ敵です」

「同じ艦娘でもかよ……!!」

「どのみち貴方達、()()()じゃありませんか」

「ッッ!! お前!!」

 

 プリンツ達が翔鶴の味方になった事で秘密を知っているのがこうも厄介になるとは提督でも予測出来なかった。他言無用のはずが、この状況で言われかねない状況になってしまった。

 

「あ、そうだ! もし黙ってほしかったら……」

「何だ……!」

「私達に……存分に痛めつけられてください」

 

 背後から鈴谷が殴り掛かってきたのを察知した提督は背後を振り向く。その時からとてつもない地獄の戦争が始まったのを、提督はその身を持って知る事となった。

 

 

 

 

 提督が自由の身になったのはそこから三時間経った後だった。その三時間は提督を人とは扱わない、残虐の限りを尽くした暴力の嵐。まるで人形の様に提督は無様に暴力を受け続けた。

 

 そして今──、

 

「……」

 

 自身が暴力によって嘔吐した液体と血溜まりをモップで拭いていた。軍服は血液と嘔吐した物で滲んでおり、靴底の汚れ等でボロボロになっていた。顔は醜く荒れ果て、頬の腫れや瞼の青い痣が痛々しく残っている。指は何本か雑に折られ、足は赤く腫れていた。

 

「……よし」

 

 ようやく拭き取りが完了し、綺麗な廊下に満足する提督。片足を引き摺りながら掃除用具をロッカーにしまい、提督は食堂へ向かう。朝昼晩の食事は必ず食堂で取らなければならない。どんな用があろうとも絶対に出席しなければ摩耶が傷つく事になる。それだけは絶対にあってはならないと提督は治療もしないままゆっくりと歩いていった。

 

「うわ……こてんぱんにやられたね……」

「キッモ……逃げよっ」

「せめてシャワーぐらい浴びてほしいわ」

「食欲失せる~」

 

 食堂へ入るなり、醜物を見る様な目で提督は見られる。醜く汚物のような姿に艦娘達は小声で愚痴を零した。

 

「……その手で大丈夫なんですか」

「大……丈夫、だ……」

「そうですか」

 

 流石の鳳翔も提督を心配しかけたが、見栄を張る提督にその心配は無くなった。いつもの様に定食を渡し、提督はお盆を持つ。

 しかし──、

 

「あちゃ~転んじゃったか~」

「味噌汁とか零れましたけど、どうするんですかね?」

 

 指を折られた提督に定食を乗せたお盆を持つ事は出来なかったようだ。持って二歩辺りの所で転倒し、折角の定食を台無しにしてしまった。しかし提督は黙って立ち上がり、床に落ちた食べ物やご飯、味噌汁の具などを再度更に乗せる。二階に行けない事を察したのかその場に座ったまま手を合わせて食べ始めた。

 

「うっそ、そこで食べんの?」

「マジかぁ~……」

 

 提督は黙々と食べ続ける。周りの艦娘達に軽蔑する視線で見られても。見世物の様に嘲笑われ、馬鹿にされても。提督は摩耶が無事でいれば問題無いと自身のプライドを捨ててまで常識とは外れた行動を選択した。僅かな希望がある限り、提督は絶望的な状況だろうと諦めない。零れ落ちた味噌汁の液体は持ってきた雑巾でで綺麗に拭き取り、そのままポケットにしまった。

 

「ごちそう……さま……」

 

 食べ終えた提督はお盆を持ちながら立ち上がり、鳳翔のいるカウンターに渡した。そして提督はそのまま食堂を去っていく。その悲しそうな後ろ姿を誰も気に掛ける事はなかった。

 

「早く……打たないと……!」

 

 急いで提督は自室へ向かう。幸い今日は夜の徘徊日では無かった。夜を使って自室に籠ることが出来る。執務室は以前のノシロの件で穴が開いているおかげか、こもる事が出来なくなってしまった。

 

 執務室の手前にある自室に入り、提督は鍵を閉める。窓を閉めて施錠し、乾いた軍服をベッドに脱ぎ捨てる。そして机の棚の引き出しを開け、ある赤い液体が入った注射器を取り出した。それを持つなり提督はシャツを脱ぎ出し、上半身裸になる。注射器を左胸に向け、そのまま勢いよく刺した。

 

 赤い液体が身体の中を巡っていき、血管のように身体が紅く模様を描いている。すると頬の腫れや目の痣は徐々に治っていき、折れた指が元通りになるなど身体全体の怪我が自然治癒力によって治療されていった。

 

 顔も元通りになり、その場で蹲る提督。徐々に怪我が治っていくのを実感し、両手で身体を包んだ。目は紅く輝き、床を淡く照らす。息が荒れながらも怪我が治るのを待った。

 

「散々だったな……」

 

 怪我が治ったのは注射器を打って十五分程。汚れた軍服を自室の洗濯機で洗い流し、替えの新しい軍服を着ていた。前に干した軍服は消臭剤で匂いを消してハンガーに吊るしている。ベッドに横になった提督は天井を見つめるばかりだった。

 

「こんな日が続くとなるともう躊躇してる余裕なんて無いよな……」

 

 医務室から持ってきた包帯を頭に巻き、提督は策を考えた。完全に怪我は治ったとしてもまだ痛みや痕は残っている。包帯やガーゼで出来るだけ隠し、万全な状態で挑むしかない。

 

「よし……一旦は執務室に行くか」

 

 執務室の机の棚には効果消去薬が隠してある。それ以外にもこの鎮守府の建物の間取りや艦娘のプロフィールなど様々な資料が置いてある為、作戦は執務室で考えた方が効率はいい。提督はすぐさま起き上がり、自室のドアを開けようとした。

 

「何してるん?」

「ん……龍驤か」

「龍驤やで。お、怪我治ったんかいな、噂に聞いた凄い自然治癒力って奴か~っていうか何してはるん?」

 

 ドアを開いて廊下に出た途端、隣には龍驤が壁に寄り添っていた。部屋から出てきた提督を見るなり気さくに話しかけてくる。

 

「いやこれから執務室に……」

「あ~駄目駄目。夜は徘徊日以外は動いちゃ駄目なんよ、だからうちがいるんや」

 

 恐らく翔鶴は徘徊日以外で提督が何かしらしてくるのを予知したのだろう。その対策として艦娘一人が提督の部屋の出入りを監視していくらしい。怪しい行動でもあればすぐに報告が周りに伝えられ、提督は捕まってしまうだとか。まるで囚人のような扱いである。

 

「ってな訳で部屋出たらアカンで。今日は許したるから、明日以降は無しな」

「……分かった」

「あ、あと今日はうちがいるから来る事は無いんやけど……明日からはどんな艦娘が夜這いしてアンタを虐めてくるか分からんで。ほな、はよ寝ぇ」

 

 龍驤に急かされ、提督は自室に閉じ込められた。案外優しそうに見えるこのシステム、かなり厄介な物だ。夜間は何もする事が出来ない、作戦を練る事が難しくなってくる。資料さえあれば作戦の過程はいくらでも思いつくだろう。しかしその資料さえ無ければ考えた作戦が完璧ではないものになってしまう。自室で考えるとしても限界がある以上はしない方がいい。

 

 そして先程龍驤が言ったように艦娘が襲ってくる可能性があるという事。今夜は無いらしいが、明日以降襲われるとなれば逃げ道は全く無い。完全個室状態でまた暴力を受ける羽目になるのだ。しかも事前に効果消去薬や資料を持ってきて自室で作戦を考える事も出来ない。あまりにも厄介且つ面倒だ。

 

「……んな事考えてないで、さっさと寝るか」

 

 

 

 

 艦娘達に嫌われて五日が経過。

 地獄の戦争はまだまだ続く。冷たい視線で見られながらも朝食を食堂で食べ終え、提督は仕事の時間に入る。摩耶を人質にされた日から提督は仕事の時間を有効活用し、同時に作戦の内容を考えていた。

 

「プリンツか不知火……どうやって摂取させるか、だ」

 

 この効果消去薬を口にさえ入れれば効果は発動する。しかしどうやって摂取させていくかが問題だ。ただでさえ嫌われて接触もまともに出来ない状態で摂取させるのは困難を極める。仮に強制的に摂取しようとすれば返り討ちに会うどころか摩耶が傷付くのが目に見えてしまう以上、慎重に考えなければならない。

 

「一番可能性が高いのは……寝てる時か。徘徊日に部屋に入って眠ってる最中に摂取させる……だったら摩耶も、って鳥海がいるから無理か」

 

 どちらも一人部屋な為に誰かに気付かれる可能性は低い。二人とも摂取中に起きなければ成功する確率は更に上がる。だが部屋に行くまでのルートを歩いている最中、艦娘達が邪魔をしてこないとは限らない。

 

 プリンツの部屋は重巡寮、提督のいる司令本部まで連絡通路と複合型連絡通路を一回ずつ通らなければならない。

 逆に不知火の部屋は駆逐艦寮、司令本部と連絡通路で直で繋がっている為に危険性は低い。となれば狙いは不知火になるだろうか。

 

 不知火の部屋ならば艦娘との遭遇率が低い上に確認が早く取れる。効率を考えれば不知火の方が現実的だろう。

 

「とはいえそう上手くはいかないだろうな。徘徊日に三回ほど確認した方がよさそうだ」

 

 逆に不知火やプリンツが必ず寝ているとは限らない。夜の警備徘徊時に飛龍と蒼龍、川内の様に夜に襲ってくる可能性もある。

 

「ん? 待てよ? もし遠征任務をやってくれたら……」

 

 翔鶴達の目的は提督をこの鎮守府から消し去る事。艦娘を使ってじわじわと提督を追い詰めていく。この鎮守府の艦娘は総勢約七十人、もし遠征任務に行ってもらえれば六人は必ず減る事になる。第二から第四艦隊を遠征に行かせれば計十八人はいない事になり、艦娘の数は約五十人だ。そうすれば少なくとも戦力は減るどころか艦娘との遭遇率も若干は下がる。翔鶴の事だ、提督を消す目的もあるがこの鎮守府の事も考えているだろう。資材は艦娘にとって生命線、枯渇するのはどうしても避けたいはずだ。

 

「徐々に見えてきたぞ……」

 

 通信系の遮断又は妨害も本来は外部との連絡を断つ役割を持っている。また別の役割としてそれと同時に軍人をこちらに呼び寄せているのだ。提督が生きている内に誰か軍人を呼ばせ、翔鶴が秘書艦を担った風に誤魔化せばこの鎮守府に異常は無いと判断される。そうすれば提督を消した後で通信系を回復すれば怪しまれる事は無いだろう。

 

「……取り敢えずは遠征任務の書類を作ろう。それで少し様子見だ」

 

 荒くれ鎮守府の通信が途絶えたにを確かめる為に誰かしら軍人は来るはずだ。常に広場を見ておかなければならない。しかし今は遠征任務を受けてくれるかどうか、そこを確かめる必要がある。まずは危険性は高いが翔鶴に会うしかない。スピーカーで遠征任務について翔鶴を呼んでみる。

 

「どうされましたか、提督」

「来たか翔鶴。実はだな、昨日倉庫内を確認をしたんだが徐々に資材が減りつつある。そこで遠征任務に行かせたいんだが大丈夫か?」

 

 翔鶴は一人で執務室に入ってきた。

 落ち着いた様子でこちらを睨んでくる。

 

「はい大丈夫ですよ。因みに書類はあるんですか?」

「俺の手元にある。だが生憎俺はこの鎮守府の嫌われ者だぁ、俺からじゃ受け取ってはくれないだろう。だからお前から手渡してくれ」

「構いませんよ、後で伝えておきます」

 

 翔鶴は警戒も無く書類を手に取り、そのまま執務室を出ていった。その姿を見届けた提督は立ち上がって隣の監視室にて翔鶴の様子を確認する。遠征任務を行う第二艦隊から第四艦隊の旗艦は第二が天龍、第三が浜風、第四が那智。もし渡していなければ提督は不利、渡していれば少し有利になる。翔鶴が本当に渡すのか、見定める必要があった。

 

「渡している……やっぱ俺の思惑通りだ」

 

 翔鶴は旗艦である三人にちゃんと説明して手渡している。意外にも旗艦達は素直に翔鶴の言う事を聞いて、決められた仲間を呼びに行った。それを確認した提督は監視室を出て、窓から外を眺める。外には訓練中に旗艦達に呼び出された艦娘が工廠兼出撃ハッチに向かっていくのが見えた。どうやら遠征任務は受けてくれるらしい。

 

「だが見せかけの可能性もある……用心深く行くとしよう」

「失礼します提督」

 

 監視室を出た後に突然の声に身体を跳ねらせる提督。背後に悪寒を感じた提督は恐る恐る声の方向へ振り向いた。そこにいたのは――、

 

「……鹿島か……」

 

 

 提督が一番警戒している生粋の狂戦士、『(シロガネ)』鹿島だ。

 

 

「翔鶴さんを呼んでいましたが大丈夫ですか~? あ、そう身構えないでくださいよ~、報告しに来ただけですって~」

 

 裏がありそうな作り笑いが何とも不気味だ。ヘラヘラしながら話している分、いつもの鹿島と何ら変わりないが、好嫌薬の効果が効いているのか判別がしにくい。しかも今は翔鶴に追い詰められたこの状況だ、いつこの狂戦士に調教という名の拷問でズタズタに殺されるのか。命がいくつあっても足りないだろう。

 

「まぁまぁ落ち着いてください提督。本当に報告だけですから~」

「腹黒女が何の用だ……まさかお前もか?」

「皆さんがやってるような事はしませんよ~、私は別なので……さて報告なんですが、私はこれから大本営に向かい、三日ほど滞在します」

 

 どうやら鹿島はこれから大本営に向かうようだ。本来鹿島は鎮守府の監視の為にここへ配属されているが、薬の効果で嫌われている以上はこの現状を報告する事は無いだろう。唯一外部との連絡が取れる可能性が見えてきたが、それはゼロに等しい確率だ。

 

「監視して起こった出来事をまとめて元帥閣下に報告してくるので、一応提督には把握してもらいたく報告しました。あ、死んだり逃げたりしないでくださいよ? 帰還して準備が整い次第、調教するので」

「建物の殆どが囲まれてるんだ、逃げれる訳ねぇだろ……」

 

 提督の言葉に耳を傾けず、何も言わないままその場を去る鹿島。久しぶりの極度な緊張感から抜け出したのか、提督はその場に座り込んだ。

 

 摩耶は無事だろうか、ただそれだけが心配だった。自身が嫌がらせを避ければ摩耶が傷つく事になる。出来れば取り返したい所だがそう上手く簡単には奪い返せないだろう。この耐え難い地獄の戦争を生き抜けるのも時間に制限が出来ている。好嫌薬の効果は約一ヶ月程かと思っていたがプリンツに見抜かれていた以上はもっと一ヶ月先まであるだろう。

 

「抗うぞ……俺は!!」

 





て       て分かった時
も       め    な
じって凄    初    んて驚いちゃい
   いですよね。          ま
                   し
                   た。
                   
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