うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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122. 磨穿鉄硯たる意志を持って戦え

『君に頼みがある』

 

 

 

『恐らくこの会話が最後になると思う、だから君に託したいんだ』

 

 

 

『■■■鎮守府、私が勤めてる所。その鎮守府の艦娘を君に任せたいんだ。■■元帥や■■大将にもそれを言ってある』

 

 

 

『押し付けるようでごめんね……でも、君だけが頼りなんだ。君は私が見てきた中で一番……■■■心の持ち主だからさ……』

 

 

 

『大丈夫。■■■■と共に戦い、仲を築いてきた君達なら出来る……だから……──』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『──その■■■で艦娘達を救ってほしいんだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの二人は……訓練中か」

 

 これだけ嫌われていようとも艦娘達は訓練を怠らない。不知火やプリンツにボコボコにされ、練度を日々上げている事だろう。不幸中の幸いというべきか、鹿島との接触は一回のみ。現在は大本営に行っており、監視の報告をしているところだろう。

 

「前~!!」

「ん?」

 

 提督が考え込む中、突然頭に何か重い物が衝突した。鉄の棒で殴られた様な凄まじい衝撃に提督は後方へ倒れ込む。意識が朦朧とし、視界がぼやけて何が起こったのか分からない。額に生温かい液体が出ているのを感じた提督は額に指で触れる。指は赤く染まり、床へと滴り落ちていった。

 

「ごめ~ん司令官、死んでない?」

「まさかこんなので死なないよ、雷」

「そうなのです、心配しなくても大丈夫なのです」

「うっわ~痛そ~……」

 

 特徴的な声や口調で犯人はすぐに分かった。恐らく第六駆逐隊、頭に目掛けて投擲したのは雷の錨だ。そのまま鉄の塊を投げるとは見境ない艦娘だ。普通の人間であれば頭蓋骨骨折は間逃れないだろう。

 

「それもそうね! 行きましょ!」

「ばいば~い」

 

 まだ意識が混濁としている。平衡感覚が鈍くなり、まともに立つ事すら出来やしない。壁に身を委ね、窓の縁を掴む。頭を抱えながらも提督はやっとの思いで立ち上がった。

 

「このクソガキがァ……! わざと投げやがって……!!」

 

 明らかにあれはわざとやった行動だ。でなければ廊下内で艤装を展開し、錨を投擲する話など聞いた事が無い。更には頭に直撃など都合が良すぎる。

 

「医務室に……行くか……」

 

 壁を伝って提督は医務室へ向かう。医療棚にある包帯を手に取り、頭に巻き付け血を止める。頭蓋骨のヒビは自然治癒力で治せたが、表面の皮膚の傷は時間を掛けて治す他ない。未だクラクラと感覚は歪んでいるが、壁を伝って歩く必要は無くなった。

 

「提督」

「……翔鶴か……何の用だ」

「いえいえ私は何もしませんよ。ですが誰かこの鎮守府に来たので共に迎える為にも一度、一緒にお願い出来ますか?」

「誰か来たのか……アレは……」

 

 窓から広場に人影が二人。提督は目を凝らして誰かを確認する。一人は身長が高く、提督と同じ軍服を着ている。もう一人はセーラー服で少し小さげな女性だ。それを確認した提督は青ざめてすぐさま外に出る。

 

 

 

 

――鎮守府内広場

 

「……来ないな」

「仕方ありませんよ、通信が繋がらないので提督が来ている事も分からないかと」

「まぁそうか。にしてもどうしたんだか、人の気配が全く無いような──」「■■大将閣下ァァァァァァ!!!!!」

 

 提督が大声で名前を呼び、走って掛けつける。スライディングしながら■■大将の目の前に立ち上がり、顔を合わせた。急いで走ったのか息が荒い。提督の背後には恐らく秘書艦であろう少々息切れ気味の翔鶴もいる。

 

「お迎えできず……申し訳ございません……!」

「いや……構わないが、君達は大丈夫なのかね……?」

「はい! この通り大丈夫です!!」

 

 色々言いたい事はあるものの■■大将はそれらを抑えた。

 

「■■元帥から突然君の鎮守府との通信が繋がらなくなったというのを聞いて、直々に私が訪れたんだが……大丈夫かね? その包帯といい、怪我といい、どうしたのか。詳しく説明願おうか」

 

 やはり約一週間、通信が繋がらなくなった事に元帥は怪しめ始めたらしい。そこで酒匂の件もあった■■大将がわざわざこの鎮守府にまた来てくれたようだ。突然の通信途絶、提督の異様な姿、鎮守府の人の気配の無さ、明らかに提督を怪しんでいる。

 

 ここで翔鶴達の事を言えばどうなるだろうか。翔鶴に背後から■■大将に見えぬようナイフを突き付けられているこの現状で、今伝えれば自分だけが助かる可能性はある。だが摩耶、プリンツ、不知火、川内、その他の艦娘達、灰色達はどうなるか。

 

 

 久しぶりに心が揺らぐ。

 

 

 摩耶達を見捨ててまで自分は助かりたいのか。この繰り広げられた地獄の様な戦争で精神や体力はすり減っていくばかりだ。きっと心の奥底では助かりたいのと思っているに違いない。

 

 

 言うしかない、言わねば自分はやがて殺される。

 

 

 言うんだ、口を開け。

 

 

 言わせてくれ。

 

 

 

「っ……」

 

 

 

 ……ダメだ。

 

 

 

 地獄の戦争が始まるまで、この鎮守府の艦娘達と話していく中で出来てしまったが無意識に邪魔をする。

 

 人間も艦娘も嫌いだったはずなのに、その上に馴れ合うつもりも無かったのに。

 

 自分はどこかで安心だと思ってしまった。

 

 摩耶達を失いたくない。灰色達を失いたくない。

 

 頭の中でそう訴えてくるばかりだ。

 

 

 

 

 

 

『その優しさで、艦娘達を救ってほしいんだ』

 

 

 

 

 

 

 その記憶は運命か、それともある種の呪いだろうか。

 

 突如頭の中で、ある記憶が流れる。その人物はハッキリと判断出来た。

 

 名前は■蒼■、提督と摩耶にとって敬意を表すべき命の恩人。

 

 あの時黒い箱を開けて、写真を見た時からもう既に覚悟は決めていた。役を任された意味を、この鎮守府の艦娘と立ち向かわなければいけない理由を。例え艦娘や人間が嫌いだとしても、恩人の約束を破る事など提督には到底出来なかった。

 

 恩人に託されたこの想いを、この願いを。

 だから提督は再度この場で■■大将と出会い、本当の覚悟を決める。

 

 

 

 ──頑張ってみるか。

 

 

 

「……いえ……何も問題は、ありませんよ」

 

 提督は今この鎮守府で起きている事全てを、隠す事を選んだ。これが遠い茨の道だという事は理解している。勿論報告する手段は考えていた、だが報告すれば摩耶達や灰色達がどうなるかなど想像しなくとも分かってしまう事だった。

 

「通信が途切れたのは配備した回線が焼き切れて、一時的に使用不可能な状態でした……すぐに連絡出来ず申し訳ない限りです。またこの怪我は私が階段で転んでしまった所為であり、職務に関しては何も支障はございません。全て私の不徳の致す所です、ご心配をお掛けして誠に申し訳ございません」

 

 その場任せの嘘を並べて提督は深々と頭を下げる。何故か心臓の鼓動音が直に聞こえてきた。初めての緊張だろうか、額から汗が流れ出た。決して身を焦がす様なこの夏の暑さで出た訳では無い、この道を選んだ自分が本当にいるんだという実感をした故の緊張で出ていた。

 

「また民間業者に修理を依頼している所です。人が少ないのも有給休暇を認め、各自休日を過ごしているからだと思います。何も心配する事はありませんよ」

「艦娘が門前を警備しているのは人員不足か?」

「はいそうですね」

 

 背後から声が聞こえた。

 提督の後ろには翔鶴が笑顔で■■大将と話している。

 

「あれは私達が憲兵さん達の仕事を一時的に交代で見回りをしています。あ、紹介が遅れました、秘書艦の翔鶴です。よろしくお願いします」

「……あぁよろしく。なるほど分かった、元帥にはそう報告しておこう。それともう一つなんだが」

 

 何とか嘘だらけの現状を信じてくれたようだ。もしこの鎮守府の有様を伝えていれば、摩耶はどうなるか分からなかった。提督は心の中で僅かに安堵する。

 

「酒匂の件についてだが、一週間後にはこちらに配属されるだろう。あの姉達に教えてやってくれないか」

「かしこまりました、報告しておきます」

「よし、じゃあ帰るぞ吹雪」

「はい! それでは皆さん頑張ってくださ~い!」

 

 ■■大将の秘書艦だろうか、改二姿の吹雪が走って現れた。どうやら提督と話している間に鎮守府内を探検していたらしい。提督と翔鶴を見るなり、元気に挨拶して鎮守府を出ていった。送迎車に乗り、■■大将と隣の席に座る。

 

「吹雪、いや『(ラセツ)』。『(ヒグレ)』は居たか?」

「いませんでしたねー」

「調べてみるか?」

「いいんじゃないですかー? 面白そうですしー」

「……?」

 

 車窓の景色を見る吹雪の顔は頬が引き裂けそうな程、不気味な笑みを浮かべていた。

 

 

 

「もしかして……喋る気でした?」

「いや……別に。その場過ごしの嘘で誤魔化しただけだ」

「それは良かったです。もし喋ってたら摩耶さん達がどうなっていた事か」

 

 翔鶴は提督が喋らなかった事に安心しきっている。やる事は済んだのか即座に寮へ戻ろうとしていた。そこで提督は二人しかいないこの状況で提督はある質問をする。

 

「……お前に聞く。摩耶は何処にいる、そして何をしている?」

「摩耶さんなら鳥海さんと一緒に自分の部屋に閉じこもっていますよ。提督が守ってくれてるおかげで傷は一つもございません。本当です、嘘は言ってませんよ?」

「そうか……じゃあ、あの薬の効果はいつまで続くんだ?」

「あら原因が薬だってもうバレてたんですか。流石ですね」

「いつまでだ?」

「そんな急かさなくても答えますよ。そうですね……確か原薬をそのまま使ったのでー……──」

 

 原薬という言葉を聞いて提督は目を限界まで見開かせる。

 原薬を使った、つまりは──、

 

 

 

「──永遠、ですね」

 

 

 

 効果の自然解除、または薬の効果時間は凡そ無限。今まで作られた薬の殆どは効果が永遠に続く原薬から改良され、自然に解除される様に時間制限を設けている。つまり原薬を使ったという事は一生死ぬまで、死んでも尚提督はここの鎮守府の艦娘達に嫌われ続けるという事になる。

 

「では、精々頑張ってくださいね」

 

 翔鶴は皮肉った言葉でその場を去る。広場に一人、提督が残っていた。提督は拳を握るも深呼吸して自身を落ち着かせる。

 

「……頑張るか」

 

 恩人の為に提督は、鎮守府の闇へ再度立ち向かう。

 

 後ろには何も無く、前には立ちはだかる艦娘達。最後列にて翔鶴がほくそ笑む。

 

 もう逃げ道は無いだろう、だが逃げる気も無い。

 

 希望がある限り──、

 

 

 

「そろそろ計画も終盤……準備は出来ていますか?」

「予定通り問題は無い……本当にいいのか? これではまた先程のようにバレるかもしれないぞ?」

「大丈夫です。あの男の事ですから上手く誤魔化してくれますよ……それにバレたところで、もう……――

 

 

 

 

 

――……手遅れ、なので」

 

 

 

 

 

 艦娘達に嫌われて一週間と二日が経過。

 相変わらず艦娘達の嫌がらせや暴力は続いている。すれ違いざまの殴られ蹴られなどの暴力は当たり前。食事中に水をかけられたり、砂や泥をかけられたりもした。何かといちゃもんをつけられサンドバッグにもなった。何十回、何百回と殴られ続け、醜い姿を見る度に嘲笑される。練習用の矢が腕を貫通した、何回も足を引っ掛けられて転倒させられた、執務室が荒らされた、自室も荒らされた。

 

「……」

 

 今日も黙って提督は仕事を続ける。■■大将が訪れた日から提督はまともに寝ていない。自室を監視する艦娘達が提督が寝たのをいい事に仲間を呼んで度々リンチを仕掛けてきていた。当然眠れるはずもなく、睡眠不足はまた発生。髪はボサボサ、目にはクマが出来た。

 

 何回自然治癒力に頼った事か、何本も注射した事か。身体は八割ほど治っても精神は既に限界まで達していた。時々誰もいないのに「死にたい」だとか「殺してくれ」だとか幻聴が聞こえてくる。自然治癒力で治った部分も痛々しくその痕が残っており、念の為に包帯やガーゼで隠していた。

 

「ほら、ちゃんと遠征してきたわよ。勝手に受け取りなさい、じゃ」

 

 遠征任務から帰ってきた旗艦の霞が遠征任務の報告書を投げ、そのまま執務室を出ていった。提督は床に散らばった報告書を拾い集め、自身の机まで持っていく。

 

「さて……また確認だ」

 

 提督はクリップボードを持って倉庫の確認と、プリンツと不知火の部屋の確認の為に向かった。連絡通路を使ってそれぞれの部屋をチラ見して確認、二人は訓練中の様だ。今日まで二回ほど夜の徘徊があったが、調べた結果はどちらも二回は眠っていたというものだった。今度の徘徊でまた調べれば、確実性は更に増していく。作戦は徐々に作り上げられそうだ。

 

「今日は曇りか……まぁ暑い事に変わりは無いんだけどさ」

 

 今日は珍しく太陽が顔を出さない曇り空が広がっていた。若干立ち込める雨雲がちらほらと見える。丁度巨大な積乱雲が来ているのだろう。早めに倉庫は確認した方が良さそうだ。

 

「全て基準はクリア、若干ボーキサイトが足りないと言った所か。別の遠征任務を考えよう」

 

 書類に遠征任務の内容を書き、今後の為に記録を残す。若干生温い風が提督の白髪を揺らした。そろそろ雨も降りそうだ、帰った方がいいらしい。急いで司令本部に帰り、執務室に戻ろうとした。

 

「あ、提督いました!!」

 

 悪魔の呼び声が聞こえた。提督は仕方なく声の方向へ振り向く。そこには古鷹が元気そうにこちらへ向かってきていた。

 

「……何だ古鷹」

「そう警戒しないでくださいよ~! 今日はそういう日じゃありません! 実はですねー……」

 

 古鷹が遠征任務について話している途中、提督は古鷹の首辺りに異変を感じた。何かが赤く点滅している、そしてその点滅が徐々に早くなっている。音も微かに聞こえた。まさかこれは──、

 

「ッ!? バカッッッ!!!!!」

 

 最悪な物に気付いた提督は古鷹の首辺りにある装置を無理矢理取り外し、窓の外へ放り投げる。そして古鷹をその装置から守る様に囲って抱いた。

 

 直後、司令本部の二階外で大爆発。周辺のガラス窓が一気に割れ、壁が一部吹き飛んだ。衝撃と爆炎が提督と古鷹を襲う。衝撃に耐え切れず、二人は吹き飛ばされた。

 

「……えっ……?」

 

 大爆発がして五分後。吹き飛ばされた二人は前の立ち位置から数十メートル以上離れていた。目の前は把握しきれないほどの大惨事。天井が一部崩れ落ち、壁には大穴が出来ていた。そして目の前には自分を守ってくれた提督がいた。

 

 提督はこれまで以上に類を見ない大怪我を負っていた。後頭部や背中は焼け爛れ、白い長髪は一部消し飛んでいる。更にはいくつものガラスの破片がその焼け爛れた背中に突き刺さっていた。

 

 古鷹は理解出来なかった。ただ翔鶴に今夜工廠へ連れてくるように言われていたはずが、こんな大惨事になっている。何故大爆発したのか、原因が分かっていなかった。

 

「……野郎……!!」

「っ……?」

「馬鹿野郎!!!!」

 

 意識を取り戻した提督は即座に古鷹を思い切り殴り飛ばした。頬が食い込む程の衝撃が古鷹を襲う。その場に倒れ込み、再度提督を見た。すると次に襟を掴まれ、鬼のような眼で睨まれる。

 

「あれほど言ったはずなのにお前はまだ分かっていなかったのか!!! 誰かに惑わされて死ぬ事がどれだけ愚かな事なのか!!! 今のお前は翔鶴に駆り出された特攻隊と同じなんだぞ!!! 分かってんのかよ!!!!!」

「えっ……えっ……??」

「えじゃねぇんだよ!! 戸惑ってんな、こっち見ろ!! いいか、別にお前らの憂さ晴らしの為に俺を殴ったり蹴ったりするのはいくらやっても構わねぇよ……! だが自分を犠牲にしてまで俺を貶めようとするのは馬鹿のする事だぞ!!!」

 

 提督がかつてないほど激昴している。

 初めて怒り狂う提督の姿に古鷹は急に弱気になり、たじろぐようになった。

 

「私は……爆発するなんて……知らなかった……」

「知らなかった? 知らなかったでお前は今自分の人生終わるところだったんだぞ……!!! お願いだから……!! もう自分を殺すのはやめてくれ……!! 頼むよ……──」

 

 抵抗する事なく提督はされるがままに周辺の艦娘達に羽交い締めされ、古鷹から遠ざけられた。腰が崩れた古鷹の元へ加古が心配して駆け寄る。

 

「大丈夫? 古鷹……?」

「う、うん……大丈夫……」

 

 こんな馬鹿な真似を考えたのは翔鶴に違いない。以前にもこういう経験は記憶に残っている。まさか取り外したはずの自爆装置を持ち出してくるとは提督でも想像出来なかった。自爆装置は以前に霧島や加古、阿賀野を除いて殆ど取り外している。恐らく翔鶴側で且つ、取り外していない加古や霧島の自爆装置を使ったに違いない。

 

「那智……!!!」

「分かってるよな、これをした代償は」

「チッ……!!」

 

 自爆を阻止しただけでなく古鷹を殴ってしまった。これにより人質の摩耶が傷ついてしまう。

 また罠に嵌められた。自爆という即死級の攻撃を提督は避けない訳が無い、古鷹を見捨てる訳が無い。それを見込んだ翔鶴達はどうやっても回避出来ないような嫌がらせを投じてきたのだ。

 

「別に私達も鬼じゃない。特別に摩耶への罰は無しだ……代わりに……」

「青葉さん! まだ言って……あ」

 

 那智の背後に青葉と祥鳳が誰かのスマホを弄っている。

 青葉、スマホ、そしてこの状況、二つの単語で提督は最悪な事態を予想した。

 

「あっ、ごめんなさい。言う前に青葉さんが……やっちゃいました」

「まさか……お前……!」

「……まぁそうだ、摩耶のスマホを使ってSNSで広めた」

 

 提督が古鷹を殴った場面を摩耶のスマホのカメラで撮り、その写真を使ってネットに広めてしまった。当然そんな事をすれば提督の身は無事で済まされない。物理的な嫌がらせよりも精神的な且つ社会的な貶め方を仕掛けてきた。

 

「おやおや早速炎上してますね。これは消化するのは相当先になりそうです……どれぐらい失権しちゃうんでしょうねぇ……」

「祥鳳ッ……!!」

「と言う事で解散だ。では」

 

 その場で何もされずに羽交い締めを解いてもらった提督は膝から崩れ落ちる。今まで提督が築き上げてきたこの鎮守府のイメージを、更には自分という存在を全てを尽く破壊された。これから起こる事を予測するのは容易い。ただその現実を受け入れる事は提督にとってまだ難しかった。

 

 

 

 

「■■■鎮守府責任者、白中将。大本営までご同行願います」

「……」

 

 艦娘達に嫌われて一週間と三日が経過。

 提督は自然治癒力にて大怪我を八割回復させ、後は包帯などで痛々しい傷痕を覆い隠した。白い長髪も伸びるまでは髪留めで一つに纏める。あの事が起きてもなお、歯止めない暴力に包帯やガーゼを貼る場所が徐々に埋まっていった。

 

 当然あの事を大本営は黙るはずもなく、すぐに大本営直属の憲兵隊が押し掛けてきた。提督は潔く憲兵隊の元へ行き、その姿を見せる。

 

「秘書艦又随伴艦はおられますか?」

「私が行きます」

 

 秘書艦として翔鶴が現れた。恐らく外部に報告されないよう見張りを自ら選んだのだろう。二人は送迎船に乗り、大本営へ向かう。

 

「秘書艦の方は一時こちらへ。両閣下が二人で話したいとの事なので」

「分かりました……盗聴器あるのでくれぐれもご注意を

 

 大本営に着いた二人は憲兵隊によって別けられ、翔鶴は秘書艦待機室にて待機する事になった。一人になった提督は元帥室へ入室。重く大きい扉を開け、中に入ると前には元帥、そして右壁の横には■■大将が座って待機していた。

 

「またやらかしちゃったね、白くん」

「早速だがこの写真はどういう事か、説明をしてほしい」

 

 年季の入った老人男性二人は扉手前に立つ提督に問い掛ける。■■大将が持つ資料の画像には提督が古鷹を殴った写真が貼られていた。

 

「あの写真は……」

 

 

 

『その優しさで私の艦娘達を救ってほしい──』

 

 

 

「……古鷹が自爆という非人道的な手段を提案してきた為、叱咤を含め怒りのあまりに手を出してしまいました。全ては力不足の私が起こした事です……尊敬なる貴方がたにはご迷惑おかけして誠に申し訳ございません」

 

 若干嘘混じりの状況を事細かに説明した提督。

 迷惑をかけてしまった事を二人に謝罪した。

 

「うーん……本当にそうなのかな」

「ではこの写真を撮ったのは誰なんだ?」

「それは……分かりません。いつの間にか撮られていました」

 

 撮ってたのが青葉とバレれば、今荒くれ鎮守府で暴動が起きている事もバレてしまう。他の艦娘達の醜態が世界に広まり、居場所が無くなるのを提督は恐れた。更に翔鶴は提督が嫌われる状況になった事で長門から没収した盗聴器類が奪い返され、今盗聴器をどこかに仕掛けられている。不意に言い出せばどんな目に会うかなど想像に難くない。

 

「分からないのかい? 誰が撮ったのかも?」

「はい……現在調査中ではありますが、未だに分かりません」

「白よ、何故私達が聞いているのか分かるかね。それはあの時雨や夕立の様に捏造された写真で命を失いかけた事例があるからだよ。だからこの写真の本人である君に問いただしてるんだ、本当なのか嘘なのか。それを私達は知りたい」

 

 全くもって■■大将の言う通りだ。時雨と夕立の件があったようにまた今回もその可能性がある。そう思っている二人は慎重に提督を問いただしていた。だが自分が古鷹を殴った事は本当だ、それだけは変わらない。想いや理由がどうであれ、殴った以上は処罰を受けるべきだ。

 

「私が暴行を働いてしまった事に変わりはありません。処罰なら何なりと」

「……君、何か隠してないか?」

 

 真面目そうな提督の答えに■■大将が疑問を投げ掛ける。■■大将から見て提督は何か大事なことを隠しているように聞こえた。まるで誰かを庇っているような、本音とは思えない言い方だ。

 

「何を、でしょうか」

「前々から疑問に思っていたが、あの人の気配の無さ、司令本部の崩れた跡やその瓦礫、そして何故君の怪我の痕が増えているんだ? また怪我したのか?」

 

 ■■大将が訪問した日から、提督の様子はまた違っていた。包帯やガーゼの場所が増えており、白い長髪も一つにまとめられている。明らかに様態が違い過ぎていた。

 

「はい、最近は少しオーバーワークで睡眠不足がちでして……集中力が切れていたのかまた転んでしまいました」

「転んだにしては酷過ぎないか?」

「結構派手に転倒したんですよ? おかげでこの有様です」

 

 提督は手を広げ、嘘の出来事を淡々と話していく。

 作り笑いでその場を誤魔化した。

 

「……分かった。そういう事にしておこう……」

「さて、君の処罰に関してなんだけど……立場上、軽くする事は出来ない。覚悟は決まっているかね?」

「はい決まっております……どうぞ、仰せのままに」

 

 元帥や■■大将とはそれなりの関係がある。しかし個人絡みの人情で罪を軽くする事など出来ない。平等に処罰を受けるべきだと元帥は判断した。

 

「君の処罰は二階級の降等処分とする、そして■■■鎮守府の配属を取消、大本営にて■■大将の補佐をしてもらうよ。いいかな?」

「……かしこまりました」

 

 提督は処罰を受け止め、元帥に礼を言う。深々と頭を下げた後、元帥室を去っていった。また時雨や夕立の時のように二階級の降等処分、そして荒くれ鎮守府から大本営へ異動、■■大将の補佐を務める事になった。それまで異動の手続きや準備の為に一週間の猶予が与えられる。中将という誉れ高き階級も大佐となり、権力は低くなっていった。

 

「待ちたまえ」

 

 帰ろうとした提督を止めたのは■■大将。

 元帥室の重い扉を開けて、提督をわざわざ呼び止めた。

 

「何かしら言えない事情があるのだろう、追及はしない。だがもし、誰かに脅されているのなら……」

 

 メモ書きには「YESなら首を縦に、NOなら首を横に」と書かれていた。何故メモ書きでわざわざ教えてきたのか分からない。だが今翔鶴がいないこの中ではチャンスだ。提督は首を縦に振る、そして口を開いた。

 

「大丈夫ですよ、お気遣いありがとうございます」

「そうか……分かった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『(オウゲン)』よ、護神厄討艦隊全員に伝達。参加できる者は横須賀に集え、とな」

「……了解」

 




次回、何かが動く──、
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