今週は三話連続で出します。
「すいません! 話をお聞かせくださいませんか!?」
「あの写真は事実なんでしょうか!!」
「真実をお答えください!!」
大本営を出た途端、マスコミに囲われる提督と翔鶴。マイクを口に近づかせられ、カメラのフラッシュが重なる。質問攻めされる中、憲兵隊によって送迎車までリードされていく。そのまま提督は翔鶴共に憲兵隊に援護され、送迎車に乗り込む。カメラのフラッシュに包まれる中、提督と翔鶴の乗る車は送迎船に向かっていった。
やがて送迎船で荒くれ鎮守府に辿り着き、提督と翔鶴は頭を下げて憲兵隊に礼を言う。送迎船を見届け、岸辺に二人が残される。
「喋りませんでしたか?」
「あぁ……喋ってはいない、お前達の為だぁバレたらまずいからな」
翔鶴が気楽に話しかけてくる。この鎮守府の状況を話していないか確認してきた。また一人にしてしまったのか、鋭い視線で提督を睨んでいる。
「……そうですか。わざわざ盗聴器をつける事はありませんでしたね」
「チッ……」
提督の背中から小型の機械をつまみ出された。よく見れば提督が着任して何日か経った時に長門が盗聴していたのを提督が発見し、没収したはずの盗聴器が使われている。摩耶やプリンツ、青葉達が翔鶴側に移ったおかげで盗聴機類も全て奪われたのだろう。
「では失礼しますね」
「……」
盗聴器を手に取り、翔鶴は空母寮へ帰った。自動ドアを通り過ぎ、提督から姿が見えなくなった所で翔鶴は立ち止まる。僅かに身体を震わせ、手を強く握った。握った手から赤い液体が廊下内に零れ落ちる。
「……何が私達の為、よ……! 馬鹿じゃないの……!!」
静かに怒りに燃える翔鶴は自室に戻る。
部屋の中には──、
「翔鶴姉!! 提督さんは!!?」
手錠と足枷で拘束され、監禁された瑞鶴がいた。拘束されたおかげで身動き一つ取れず、ひたすら姉に提督の心配を聞いてくる。
「大丈夫よ、まだしぶとく生きてるわ」
「もうやめて! こんなの間違ってるよ!? 翔鶴姉!!」
瑞鶴は必死に提督を消す事を止めろと促し続ける。それもそう、瑞鶴は薬の効果を受ける夕飯前から翔鶴に監禁されていた。理由は分からない、ただ瑞鶴は提督が殺されてないか心配だった。
「何でこんな事するの!!? これじゃ提督さんが死んじゃう!!」
「死ぬべきなのよ。平気で私達を罵り続け、嘲笑い、馬鹿にし、見世物にするだけでは飽き足らず、私達の欲望に火をつけて、酷い過去を思い出させようとしている……クズじゃないの?」
確かに提督の捻くれた性格は嫌気がさす程だ。艦娘を罵倒し、煽る事を止めない人格破綻者。瑞鶴だってその経験は何回もしている。だがそんな経験をしていても、瑞鶴は提督が心のどこかでは優しさがある事を身をもって知っていた。
「確かに嫌な性格はしてるけど……でも提督さんは、違う気がする……」
「何が違うの?」
「……悪口は酷いし、性格は悪いけど……逃げないんだよ? こんな鎮守府の闇なんて普通の人が知れば大体は皆一目散に逃げるはずなのに……あの人だけは私達の事を見捨てなかった……それに……」
『私はその艦娘達の誇り高き強い魂を……再び灯す手伝いがしたい』
『彼女達の存在を決めるのは我々人類ではない、彼女達自身が決める事だ』
『ですので、どうかこの娘達の希望の火を……消さないでください。お願いします』
『私はその馬鹿達こそ……褒め称えるべきだと思う……!』
「提督は……私達の事を大切に思ってる」
「……」
瑞鶴が経験した事は何も酷い思い出ばかりでは無い。
提督が持つ想い。
心の底から願う事。
揺るぎなき信念。
それらを間近で聞いてきた。
提督が何を思っているのか、その本心を聞いてきた瑞鶴は決して悪い人ではないと思っている。
「摩耶を人質に取ったんだよね? 何でそんな事したの?」
「そうすればあの提督は私達の嫌がらせに対して何も出来ないじゃない? そこを見抜いたのよ」
「だったら……翔鶴姉は、提督さんの事を一番信じてるんだね」
「……どういう事かしら?」
翔鶴が鋭い言い方で瑞鶴を睨む。
だが瑞鶴は見逃さない、自分が言った途端に翔鶴が一瞬動揺した事を。
「提督さんが摩耶の為ならば私達の嫌がらせに対抗出来ない、だから受け入れるしかないっていう提督さんの善性を信じてるんだよ? 翔鶴姉は」
「な、何を馬鹿な事を……! 信じてる訳ないじゃないあんな男!!」
「いや信じてる。翔鶴姉は……救ってほしいと思ってるんだ、提督さんに。前に加賀さん達や金剛が救われた様に……翔鶴姉も無意識に訴えて──」「もうやめて!!!」
翔鶴が初めて声を荒らげて叫ぶ。思わず瑞鶴も身体を跳ねらせ、怯えてしまった。その場で翔鶴は蹲り、頭を抱えて自分自身を正当化し始める。
「私は……救って欲しくなんかない……!!! 私は……間違ってなんかいない……!!!」
私は、弱くなんかない。
艦娘達に嫌われて一週間と四日が経過。
新聞はあの写真の事で一面を張り、テレビの報道番組ではコメンテーターと討議をしている。報道番組なのにも関わらず、勝手に提督のプロフィールやどういう人物なのかを伝え、何も知らない癖に評論家ヅラして言いたい放題だ。批判や批評は当たり前、記者に囲まれた際の言葉も取り上げれている。
ネットでは写真のコラ画像や提督の批判などの書き込みが多くなり、穏健派や過激派が提督と古鷹の事で争っていた。中身の無い理論を並べてはリプ欄でどうでもいい事ばかりを主張している。
そして荒くれ鎮守府では──、
「早く立て、練習にならない」
第二広場にて提督はひれ伏せられていた。対人格闘訓練に付き合わされ、長門の一方的な攻撃に提督は為す術なく倒れていた。艦娘の圧倒的な力に対抗出来る訳が無く、左腕は変な方向に折れ曲がり、肋骨の一部も折れている。吐血や鼻血で軍服や地面は赤く染まった。
「何がッ……練習だッ、クソがッ……!!」
まだ無事な右腕で立ち上がり、やっとの思いで提督は立ち上がる。今日はどうしても生き残らなければならない日だった。六度の夜の徘徊日でプリンツと不知火の部屋周辺による艦娘の遭遇率が判明し、今日効果消去薬を飲ませる作戦を決行する。二人とも寝ている可能性は嫌われた日から計算し、必ず一日おきに眠っている事が分かった。昨日は起きているのが確認できたため、徘徊日である今日は即座に不知火の部屋に侵入し、寝ている不知火に直接摂取させる。
提督が考えた唯一の作戦だ。
「いくぞ」
「ハァ……ハァ……!!」
長門が右腕を後方へ引き、殴る構えになる。提督は息が荒れながらも右腕だけ前に出して防御で構えた。右拳を力一杯に握り、長門は動き出す。
すると──、
「やめてください長門さん」
長門の拳を翔鶴が片手で反動なく止めた。土煙が遅れて三人を吹雪いた。翔鶴が一瞬、空母水鬼になったのを提督は見逃さない。やはり翔鶴は深海棲艦だったというノシロの情報は本当の様だ。
「すいませんが、提督はこちらで借りさせていただきます。訓練相手は鹿島さんがやってくれるそうです」
「む、そうか。では失礼する」
倒れ込む提督を庇う様にして現れた翔鶴に提督は警戒した。人をモノ扱いするような言い方で長門をどこかへ行かせてしまう。長門が行ったのを見計らって翔鶴は提督の長い白髪を鷲掴みにし、ある場所へ連れていかれた。
「提督、何故貴方が呼ばれたかご存知ですか?」
辿り着いたのは医務室の地下にある集中治療室。蛍光灯が眩しく光り、地下内の部屋を明るく照らした。提督はベッドに寝かせられ、周辺には利根、那智、龍驤、武蔵、比叡達が提督を囲うようにして立っていた。
「実は盗聴器で内容を聞いてたんですけど、ちょっと怪しい所がありましてー……」
翔鶴が聞かせたのは最後■■大将が気にかけてあのメモ書きを見せた所だった。提督は大丈夫ですよと答え、その後喋る事は無かった為に何も怪しい所は無いはずだ。どこが怪しいのか提督には分からなかった。
「脅されてたりとか……って言われましたけど、もしかしてこの人って何か紙とかで伝えてませんでした? 伝えてましたよね?」
翔鶴は疑心暗鬼に問い掛けているが、これは明らかに気付いている様子だ。あまりにも察知能力が高過ぎる。何故あの会話でそう見抜けたのか理解に苦しむばかりだ。
「ある訳ねーだろ……! ただの会話だ……!」
「本当でしょうか? 個人的にはブンと環境音が耳に入るのですが、一回ほど」
「だから何だって言うんだよ……! 俺は何も伝えてねーぞ!!」
「でも私……見ちゃったんですよね。貴方とこのもう一人の方があの事を隠して伝えていたのを」
翔鶴のふざけぶりに提督は激昴。身体を起こして、翔鶴の肩を掴もうとした。が、そう出来るはずもなく周辺の利根達に押さえられてしまう。
「やはり伝えてましたね、まぁ知っていましたけど。って事で摩耶さんに罰を与えなければなりません」
「やめろ!! 摩耶は関係ないだろうが!!!」
「そんなに摩耶さんが傷付くのが嫌ですか?」
「当然だ!! やるなら俺にしろ!!!」
摩耶が受けるぐらいなら自分が受ける。そう提案した提督に翔鶴は小さく舌打ちをした。とはいえ提督が受けてくれるなら嫌がらせと一石二鳥。受けてもらった方がこちらとしても都合が良い。
「……分かりました。貴方が言うならそうします、本来なら摩耶さんが受けるはずだった罰を貴方に……」
翔鶴は指を弾いて綺麗な音を出す。すると武蔵が突然動き出し、隣のベッドからある物を手に取り出した。そのある物を見て提督はゾッとする。
「おい……何だよ、それ……お前それ──ッ!!!!!」
提督の叫び声が部屋中に響き渡る。血飛沫が艦娘の正装や床、壁に飛び散る。突然の激痛に提督は暴れ始めた。そんな暴れる提督を利根達が強制的に押さえ付ける。
「左腕一本、断たせていただきました」
提督の折れた左腕が中途半端に切断されていた。武蔵が持つ提督の軍刀で一刀両断、切断された左腕が床に落ちている。
「あ、知ってました? 高速修復材って何故か人間にも使えるんですよ? 大本営はひた隠しにしてますが色んな怪我も一発で治せちゃうんです、例えばこの斬り裂いた腕だってこうやって飲ませれば……」
提督の切断された左腕の断面から、生きる動物の様に筋肉や骨がゆっくりと形成されていく。またその間、神経も形成されていく為に凄まじい痛覚が提督を襲ってきた。徐々に出来上がる左腕から来る激痛に提督は喚き声を上げる。
「ほらこの通り。妖精さんの技術は凄いですね、綺麗な腕になりました。ですが──」
また無鉄砲に左腕を切断された。しかも生え変わった断面辺りを丁度良く狙ってきたのだ。提督は更なる激痛の波にまた身体が暴れ狂う。それを他の利根達が押さえ付け、また高速修復材を飲ませては左腕を生やしていく。激痛という激痛の連続に提督は精神が狂い始めた。
「はぁはぁはぁはぁ……!!」
「凄いですね~提督。こんな事されてまだ精神が生きてるなんて、貴方ぐらいですよ」
「……ふざけるなよ……!! こんなの……拷問だろうが……!!」
「いえいえ罰です。そういえばさっきから何か希望があるような表情してますが……もしかしてこれの事ですか?」
翔鶴が手に持っているのは大きな瓶。中には粘着性のある液体が入っていた。提督はそれを見て目を限界まで見開かせる。
あれは効果消去薬だ、提督にとって唯一の切り札。翔鶴達に対抗する為にわざわざ呉鎮守府の保管庫から持ってきた物だ。誰にも教えず厳重に隠していたモノを、何故翔鶴が所持しているのか。提督がそれを理解するのは数秒後の事だった。
「……ままま待て……何でお前が……それを……」
「あ、やっぱりそうでしたか。前に執務室を荒らしてくれた鹿島さんが見つけたんですよね。何か大事な物でした?」
「……返せ……!」
「はて、何と?」
「それを……返せッッ!!」
「嫌です」
翔鶴は即座に断り、効果消去薬が入った大瓶を上から落とす。床でパリンと盛大に割れ、中の液体が飛び出てしまった。そして上から靴で踏み躙り、ぐちゃぐちゃに汚していく。あまりの理不尽さに提督は言葉を失い、抵抗する力が徐々に無くなってしまった。効果消去薬という希望の存在を無慈悲に破壊され、目の前には受け入れ難い地獄と化した現実。提督が持っていた唯一の希望を、翔鶴は一気に絶望の深淵へ叩き落とした。
「さて……どうせなら避けた数だけ切っちゃいましょう。ではあと五十四回……──」
「やめ、お願い、しょうかっやめろやめて──」
「──頑張ってください」
「さて……始めますかって、あれ……提督はどこへ……?」