うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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124. 逆境の最中に輝くアルジェント

 あの時が懐かしく思えた。

 

 情報を吐かせるが為にありとあらゆる拷問され、牢屋に収容されていく日々。

 

 鞭打ちや水責めなど簡単に思える程の、人として扱わない非人道的な拷問の数々。身体は細かく刻まれ、薬を打たれては苦しみ藻掻く様を見て嘲笑い、馬鹿な性癖を持つ奴には無様に犯された。

 

 この身体がとても特殊だからだという理由もある。

 

 俺はそもそも性別という概念が無い。

 

 乳房は小さくとも存在し、体格は男性。男性器と女性器が同時に備わっている、とても気持ち悪い身体。

 

 とある軍人から聞いた話では母親の遺伝子の影響力が強過ぎたらしく、染色体が異常なモノになってしまい、本来は男性として生まれるはずが女性の身体が混ざった身体になってしまったと言われた。子宮や精巣が同時に備わっているが、本来は男性故に女性器は全く機能が無く、ただの穴として残っている。

 

 そして人間には無い、超人的なまでの力。様々な傷や怪我を治せる凄まじい自然治癒力。

 

 拷問もされたが、研究の実験体としても使われた。数々の実験で生死を彷徨い、研究者に言われた事は──、

 

 

 

『──お前は、ある深海棲艦と人間の間に生まれた子供だ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺は人間じゃなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 痛い。

 

 痛い。

 

 叫びたい程痛い。

 

 死にたい程痛い。

 

 何度も左腕を切断された。そして何度も高速修復材で再生させられた。そしてまた切断された。

 

 たったそれだけの繰り返しで、提督の精神は再び狂い始める。意識を失ったか確認する為だけに五から十三を足し続けろと口に出して言えと強制された。目隠しでいつ切断されるか分からない状況にされて、恐怖を募らせられた。簡単に死なないようにある程度時間を置いて、そのまま放置された。

 

 何度も切断された。何度も再生させられた。何度も、そして何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、何度も、その左腕を尽く──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──再生させられ、そして切断された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アイツがいない!? どこへ行った!!」

「探せ! そんな遠い所までは行ってないはずだ!!」

 

 医務室の地下にある集中治療室に入った武蔵達は提督の紛失に慌て始める。十本目を切断した所で止血して二時間ほど放置していたが、再び来ればそこに提督の姿は無かった。拘束器具で身動きは取れないはずがその拘束器具は壊されている。武蔵達は鎮守府内を一斉に捜索を開始。

 

 いよいよ提督狩りが始まった。

 

 一方で提督は医務室から少し遠い重巡寮にいた。壁に寄り掛かりながら右腕で必死に一歩ずつ進んでいる。左腕は高速修復材で形成されているが、歩く度に電撃の様に激痛が迸った。

 

 提督は必死だった。あのままではいずれショック死してしまう。出血多量で意識も朦朧とする中、ある艦娘の部屋の前へ辿り着いた。安心したのかドアに縋り付き、そのまま座り込む。

 

「なぁ摩耶……大丈夫か……?」

 

 そこは摩耶と鳥海の部屋だった。右腕で顔を隠し、か弱い声でドア越しに摩耶へ話し掛ける。唯一の希望を呆気なく打ち砕かれ、拷問の様な罰で精神が限界を突破していた提督は摩耶に一度会いたかった。

 

「俺はもう……限界、みたいだ……!」

 

 初めて弱音を吐く提督。身体中に怪我を負い続け、自身のプライドを踏み躙られただけじゃなく、社会的に殺され、遂には人として扱われなくなった。

 

 辛かった。苦しかった。

 だが決して諦めなかった。

 どんな事をされても効果消去薬という希望がある限り、そして恩人の願いの為に提督は頑張ってきた。だがその希望も潰えてしまった。

 

「ごめんな摩耶……助けて、やれなくて……悲しいよな、苦しいよな……本当に、情けなくて……ごめん……!」

 

 この鎮守府の艦娘達と立ち向かうと考え、豪語してきはずがこの有様。翔鶴に見事騙され、罠に嵌ってしまった。

 

 何が有能だ、何がお前らとは違うだ。

 

 翔鶴達に無様に弄ばれてるじゃないか。

 

 傍から見れば自業自得、因果応報。そんな情けない自分に提督は悔しさで歯を食いしばった。

 

「もう涙は出ないはずなのに……出てしまいそうなほど……辛いんだ。正直、もう……死にてぇ……!!」

 

 この弱音を摩耶はどう思っているだろうか。今までは摩耶がいたから頑張れた。後をついてきたくれたから自分がいた。だが今はもうその摩耶は隣にいない。かつてないほどまでに嬲られた提督は身も心も限界を突き付けて弱りきっていた。

 

「頑張ってきたけど……もう無理だ……だから、せめて最期に……摩耶の顔を……」

 

 ドアの開く音が聞こえた。後ろへとドアに押され、提督は後方へ少し下がる。ドアを開いた先にいたのは摩耶だった。久しぶりに顔を見る事が出来た提督は微笑む。そして──、

 

「あぁ……やっぱお前は……変わら──」

 

 広場まで蹴り飛ばされた。窓や壁を突き抜け、倉庫の前で無様に倒れ込む。雨が徐々に降り出し、倒れる提督を濡らしていく。

 蹴り飛ばしたのは摩耶本人だった。壁に大穴が開き、一人その場に立ち尽くしている。周囲に艦娘達が集まりだし、遠くに倒れ込む提督を眺めた。

 

「……あぁ……ぁ……ぁぁぁぁ!!」

 

 膝から崩れ落ち、摩耶は顔を覆い隠す。今自分が何をしたのか、理解するのに時間が掛かった。だが理解した途端に自分が提督にとどめを刺してしまった事に絶望。取り返しのつかない事をしてしまった摩耶はその場で泣き崩れた。

 

「……どうする、アレは」

「流石にせき止める時間は限界の様です、仕方ありませんが……後はあの人が何とかしてくれますよ……準備を」

 

 提督は全く起き上がらず、誰にも声を掛けられないまま、雨に打たれ続けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──あぁ……俺、死んだな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……とく……」

 

 

 

「……とく……!」

 

 

 

「提督……!!」

 

 

 

提督!!!!

「……っ?」

 

 誰かに声を掛けられ、ゆっくりと重い瞼を開いた。目の前に見えるのは自分の太腿、両腕が縛られている感覚がする。顔を少し上げれば、前に誰かがいるのが見えた。スラッとした細い足、艦娘だろうか。徐々に顔を上げ、誰かを確かめる。そこにいたのは──、

 

「やっと目を覚ましてくれましたね~、もし死んでたらここの連中皆殺しにしようかと思いましたよ~」

 

 鹿島がいた。

 笑顔で提督に近付き、提督の無事に安心している。

 

「お……れは、死んだ……はずじゃあ……」

「残念ながら死んでませんよ~、私が保護したので」

 

 あの後放置され続けた提督は鹿島によって保護され、ここまで担いで来たらしい。提督が目を覚ますまで三時間を要し、鹿島は何分か間を空けてはこの部屋に来て確認しに来ていた。

 

「鹿島……! お前の……所為、でっ……!」

「私の所為? 何を言っているか分かりませんが、取り敢えず目覚めた事ですし始めちゃいますね」

「ッ……!? 何、を……する気っ、だ……!!」

「何をするって、調教ですよ? はぁ……これでやっと提督の事を躾られる……時間が掛かりましたね」

 

 鹿島はどうやら提督が調教出来る機会を度々狙っていたようだ。翔鶴達に何回か止められ、提督と接触する事があんまり無かった。が、今回やっとその機会が舞い降りて今に至るらしい。

 

「さて……始めましょうか」

 

 鹿島が背後から何か取り出そうとしている。また拷問じみた事でもするのだろう。最早対抗する力も、気力も無い。自暴自棄になった提督は再び顔を俯いた。

 

 

 

 今度こそ本当に死ぬ。

 

 

 

 そう察した提督は目を瞑り、全てを諦め──、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──っ……?」

「大丈夫ですよ、提督」

 

 提督の目辺りに触れたのは布。予想外の行動に提督は再度目を開く。鹿島はハンカチで提督の涙を拭いていた。

 

「そのまま安静に、騒いでは駄目ですよ」

 

 鹿島は涙を拭いた後、血で滲んだ古い包帯やガーゼを外していく。そして新しい物で再度身体中の傷を治療し始めた。

 

「どういう……事だ……」

「喋らないでください。傷が開くので」

 

 次に鹿島は新品のタオルやハンカチで身体に付着した汚れや血痕を拭いていった。汚れた軍服を強制的に脱がし、身体全体を洗っていく。その時の鹿島は全く笑っておらず、真面目な表情だった。

 

「お前は……嫌い、じゃないのか……」

「提督の事を一番に愛している私が提督の事を嫌いになる訳無いじゃないですか、私は貴方の味方ですよ?」

 

 好嫌薬の効果がまるで無い。通常であれば鹿島も提督の事を嫌っていると思っていた。だが鹿島は嫌いどころか愛していると言う。いつもの通常運転に提督は困惑した。

 

「何で……お前っ……だけ……」

「実はですね、翔鶴さんとある取り引きをしてまして。提督の事を調教出来る代わりに仲間になってほしいと言われたんですよね。私は快く承諾し、楽しみにしていましたが」

 

 圧倒的な戦闘能力と提督に対する愛を持っている鹿島を翔鶴は恐れていた。計画において鹿島は唯一の制御不能な危機的存在。薬の効果が効き始めれば必ず提督を独占しては暴れる可能性があり、翔鶴が考えた計画は台無しになる。そこで翔鶴は鹿島を配下に置く事よりも条件を元にした同盟相手として一時的に仲間となっていた。

 

 条件としては、

 一つ目、提督を必ず調教出来る権利を与える代わりに一週間の間は提督との接触は避ける事。

 二つ目、普段と同じように模擬訓練の監督役になってもらう事。

 三つ目、一週間過ぎた後は提督を自由にして構わない事。

 

 鹿島自身は最初はどうでもいい余興だと興味無さそうに作り笑いで感心していたが、翔鶴達の目的は表向きでは捻くれた提督の性格を矯正させる事だと聞いて、流石の鹿島も興味を引かれていた。

 

 何故なら伝えられた計画の内容は艦娘達が提督をちょっとした反抗で痛い目に遭わせ、最終的に鹿島の調教による性格の矯正してもらう事。元々は提督の性格を矯正したかった鹿島は少し可哀想だと思ったがこれで自分好みの提督が作れるならと翔鶴の計画に参加する事にした。

 

 しかし表沙汰に伝えられた計画内容とは裏腹に艦娘達が提督に極端且つ非道な嫌がらせを始めた事に鹿島は違和感を持ち始める。提督が艦娘達に嫌われてから二日が経過し、明らかに艦娘達の態度が豹変したのを再確認した鹿島は急いで翔鶴の元へ向かった。だが怒り任せで馬鹿正直に疑えば翔鶴の本意は聞き出せない、そこで鹿島は翔鶴達の話を盗み聞く事を考えた。そして翔鶴が話した目的に鹿島は耳を疑う。

 

 

 

 翔鶴曰く――、最終的な目標が摩耶と鹿島、そして提督の殺害。

 

 

 

 鹿島は即座に考えた。唯一まともに接してくれる摩耶と一番大切な愛する提督を殺害するなど言語道断。このまま翔鶴側のフリをして内部から計画をボロボロに崩していく作戦を鹿島は思いついた。

 

 その為には提督や翔鶴に悟られないようにしなければならない。不意に提督と話しかければ翔鶴から疑われられる。提督は神経質で、それこそあれだけの拷問を耐え凌いだ恐るべき精神力の持ち主だ。そんじょそこらの下等な艦娘如きの嫌がらせなど軽々と回避出来るだろう。仮に何かあったとしても一週間は接近出来ないが、その週さえ過ぎれば後は提督を保護出来る。

 

 何せ一週間という自分に対する猶予、そして自分を含めた摩耶と提督の殺害。自分が提督を独占し、調教する為に二人でこもるのは必然。ならばそこで二人とも殺した方が賢明なはずだ。

 

 勿論その策は考えている。古鷹と同じように自爆装置をつけて爆散させる考えはお見通しだ。あの時翔鶴が古鷹に何も知らせず自爆させようとしていたのは提督が自爆装置に気付くかどうかの実験に過ぎず、社会的に殺すのは表の目的でしかない。そこで鹿島は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()であれば信号は行き届かず、自爆される事はない。なお自爆装置をとっとと外してやりたかったが、外せば翔鶴に自身が気付いている事がバレる可能性がある為、敢えて取り外すのはやめている。

 

 しかし摩耶が人質にされたのは鹿島でも予想外だった。目的が提督と摩耶、自分の殺害であれば摩耶は提督と自分が殺された翔鶴達が手を下さずとも勝手に死ぬはずだ。提督に唯一信頼されている且つ信頼している摩耶が何らかの方法で意図せず提督に嫌悪感を抱いているとなれば、その反動は凄まじいモノになる。今までの罪の意識に耐え切れずに自殺を選ばせた方が遥かに効率がいい、もし自分ならそうさせるだろう。

 

 人質にした理由として、龍驤から訳を聞けば嫌がらせを回避し続ける提督に翔鶴が痺れを切らしたらしく、強制的に摩耶を部屋から引きずり下ろしたとか。

 

 そこで鹿島は作戦内容にある護神厄討艦隊の艦娘に蹂躙してもらう計画を早急に始動。監視の報告の為に大本営へ向かう建前を作り、艦隊の司令官である■■大将へ詳しく報告した。そして荒くれ鎮守府に帰還し、医療器具の運搬などの準備を翔鶴達に隠れて整えた後に広場の隅にて倒れる提督を保護。調教と称してこの場所へ閉じ込め、今に至る。

 

「しかし嫌がらせとはいえ、どれも野蛮で粗暴、残酷な事ばかり。全く美しさの欠片も無い、提督がボロボロにされるのは見るに堪えませんでした」

「お前だけは……違った……のか……」

「はい……計画の為でした。申し訳ございません、保護するのが遅れてしまって。出来れば帰還した直後から誘おうと思っていたのですが、翔鶴さん達にしつこく見張られましてね。本当に謝る事しか出来ません……」

 

 身体全体の洗浄が終わり、鹿島は軍服を着せていく。

 鹿島は悲しげな表情で提督に謝罪した。

 

「実は提督が艦娘達の嫌がらせを回避した時、仕返しにいく艦娘達を私が話し掛けて止めていました。少しでも力になればと、模擬訓練の相手になる事でその気を失くさせてました」

「なるほど……だから、誰も来なかった……わけか……」

「はい。ですのでもう安心してください……私がいます」

 

 鹿島の声はとても優しかった。母性に溢れているような、心地良い声。今まで全て一人で孤独に耐えてきた提督にとってそれは、再び照らされた希望の光だった。抑えていた感情が、思いが、一気に放出されていく。

 

「すまない……今まで俺は……お前の事を……嫌っていた……」

「知っています。ですが私は何とも思っていません。例え私の事が嫌いでも、それでも私は貴方が心の底から好きなんです」

 

 狂暴的な性格で周りから恐れの目で遠ざけられ、友達も仲間もいなくなった自にとって提督は、こんな性格だろうと絶対に見放さなかった唯一の存在。必死に自分の性格を直そうと積極的に接し続けてくれた。結局その性格は治らなくても提督は傍にいさせてくれた。仲間や友達も自然に出来ていた。

 

「確かに提督は気難しい性格をしていますが……私にとっては優しさ以外の何物でもないんです……だから、弱気な姿はもう見たくありません……立ち上がってください」

「でも……もう手段が……」

 

 既に希望の一手は翔鶴によって打ち砕かれた。効果消去薬は使い物にならなくなり、今から取りに行くにしても翔鶴達は見逃さないだろう。これからどうすればいいのか、提督には分からなかった。

 

「あ、もしかしてこれの事ですか?」

 

 鹿島が手をポンと叩き、ある大瓶を提督に見せる。

 それは翔鶴が壊した物とほぼ一致していた。

 

「鹿島……それは……」

「えぇ実は提督の机をちょっといじってたんですけど、何か大事そうな物がありまして。そういえば以前に提督が食堂の厨房にて水飴と似せて何か作っていたなーと思い出したので、食堂の倉庫に置いてあった水飴の大瓶とすり替えておいたんですよね~。翔鶴さんは全く疑問に思わず壊したそうですが、本物はこちらにありま~す……確認の為に持ってきたんですけど因みにこれ何ですか?」

 

 何と鹿島の持っている物こそが効果消去薬、つまりは本物らしい。

 

「それは……効果消去薬。ありとあらゆる薬の効果を打ち消す薬だ」

「……それって所持するだけで重い処罰が下るヤツじゃないですか?」

「あぁそうだよ。そもそもこの現状も翔鶴が好嫌薬の効果で俺が一気に嫌われてんだ。洗脳を解く為にもコイツが必ず必要、使えば戦況は……必ず一転する……!!」

 

 この現状を唯一打破出来る提督の武器、それが効果消去薬。鹿島が持っているのであればわざわざ作戦を考えなくても自然的に摂取させる事が出来る。誰も怪しまれない鹿島であればそんな事など容易だ。

 

「……いや待て。鹿島、それは本物なんだよな……?」

「分かりませんが、取り敢えず提督の机の棚から持ってきたので本物だとは思います……あ」

 

 提督の顔を見て鹿島が声を漏らす。

 本物かどうか分からなければ──、

 

「「誰かを摂取させればいい!!」」

 

 誰も怪しまれない鹿島が一人、艦娘をここに呼び出せば実験が出来る。そう考えた二人は声を揃えて口に出した。

 

「そうと決まれば連れてきてくれ。そうだな……古鷹を連れてこい」

「古鷹さんですね! 分かりました! すぐ連れてきます」

 

 すぐに部屋を出た鹿島は古鷹を呼びに行った。部屋に取り残された提督は再形成された左腕の感覚を確かめる。元の左腕は既に切断されている為に再形成された左手の薬指に摩耶との指輪は無くなっていた。提督は左手を握り、激しい痛覚が来ても耐えて噛み締めた。

 

「仕方ないな……今は──」「はーい連れてきました~!!」

 

 部屋を出て数分後に鹿島は古鷹を連れてきた。あまりの速さに風が提督の髪を揺れる。思わず提督は言葉を失った。

 

「何ですかいきなり!! 手伝って欲しいって言うから来たのに! ここに来た途端縛るなんてどういう事ですか鹿島さん!!」

「すいませんが、古鷹さんには実験体になってもらいま~す」

「えっ!? 実験体って……てか提督が!? えっどういう事ですかコレ!!」

 

 拘束器具で縛られて座る古鷹を前に二人の悪魔が微笑む。

 不気味に笑う二人に嫌な予感がした古鷹は頬を引き攣らせた。

 

「あっ……あ、あのー……優しくして──うぎゃぁぁぁぁああああ!!!!!」

 

 

 

 部屋内に古鷹の叫び声が響いたのは言うまでもない。

 

 

 

「うっ……私は……確か提督と鹿島さんに……」

「目が覚めるの早いな」

「早いですね~、さて古鷹さん。提督に言う事がありませんか?」

 

 古鷹が目覚めたのは薬を摂取して一時間後。効果消去薬の効果発動時間は一時間、出来れば発動時間を調整したかったがその前に翔鶴達に仕掛けられた為に調整は出来なかった。

 

「……ハッ……! 私なんて事を……!! ごごごごごごごめんなさい提督!! わわわわわわわ私あんな事を……! お願いします何でもしますから……どうか見捨てないでください……!!!」

「効果は……」

「本物の様ですね……」

 

 古鷹の様子からして効果消去薬は効いたようだ。今まで提督にしてきた事を思い出して、青ざめた顔で提督に縋り付いている。提督は縋り付く古鷹を引き剥がしては見下すような視線で睨んでいた。それを見た古鷹は今まで提督が受けた地獄の嫌がらせを察知し、心苦しくなったのか腰を崩しては頭を抱えた。

 

「で、ですよね……あんな酷い事、してしまったんですから……いくら謝っても……無理、ですよね……」

 

 古鷹はその場にて泣き崩れる。自身がしてきた事が愚行である事を自覚し、もう二度とは戻せない関係を作ってしまった己に絶望した。薬の効果から解き放たれた分、跳ね返る感情や思考は凄まじいものだろう。

 

「何勝手に死のうとしてんだ?」

「その方が……提督も──」「望んでいるからか?」

「……はい」

「へぇ~……薬の効果とはいえ、良い様に暴れといて罪の意識を感じはせず、知らなかったからと言って自爆を企んでいた翔鶴に何一つ疑問に思わないまま……」

 

 提督は言葉を並べながら古鷹を壁際まで追い込んでいく。怒りのつもった声で足を一歩ずつ強く踏んで歩いていった。

 

「効果が切れたとなればすぐさま俺に縋り付き、勝手に許されないと思い込んで都合よく自殺をするなんて甚だ自分勝手だと思わないのかな?」

「ヒッ……」

「死なせるわけないだろ? お前ら全員目覚めた後からきっちり制裁は受けてもらうからな。許してもらえたければ覚悟しろ」

 

 紅黒く濁る眼に明らか憎悪を感じた古鷹は絶望に染まった表情で身体を震わせる。提督が歩いていた足跡はコンクリートで出来た床にヒビが入っていた。提督は古鷹を睨むのをやめ、部屋全体を見渡す。

 

「……鹿島」

「はいはい。今は身体を震わせる暇があるならこの状況を何とかしましょうか古鷹さん。勿論、手伝ってくれるますよね?」

「はい……寧ろ、手伝わせてください」

「さて……ここはどこだ?」

「ここはですね~……──」

 

 鹿島が勿体ぶるような表情でドアをゆっくりと開く。先程からこの部屋も辺りが真っ暗でどこなのか分からない。

 

 鹿島が開くドアの先には──、

 

「白さん!」

「流石、豪語するだけの事はあるわ」

「我らが提督殿の復活だ!」

「お役に立てず申し訳ない限りです」

「提督!!」

「やっぱ貴方がいないと!!」

「心配シタワ……全ク……」

 

 提督の前には灰色達が。ここは地下営倉、鹿島と提督がいたのはかつての拷問部屋だった。提督の推察通り、灰色達は地下営倉に閉じ込められていたようだ。だが今は鹿島によって解放されたのか檻の外に出て提督を出迎えている。

 

「……っ……生きていて清々したぞ、お前ら」

 

 提督は感極まって歯を食いしばる。

 そしてまた不気味な笑みを浮かべ、前に出た。

 

「じゃあ始めようか……!! これが俺の……! いや俺等の……──」

 

 

 

 

「──逆転劇だ!!!」

 

 

 

 




ここでネタバラシ。121話の台詞の頭文字を縦に読むと……、

(か)……鹿島か……」
(し)翔鶴さんを呼んでいましたが大丈夫ですか~? あ、そう身構えないでくださいよ~、報告しに来ただけですって~」
(ま)まぁまぁ落ち着いてください提督。本当に報告だけですから~」
(は)腹黒女が何の用だ……まさかお前もか?」
(み)皆さんがやってるような事はしませんよ~、私は別なので……さて報告なんですが、私はこれから大本営に向かい、三日ほど滞在します」
(か)監視して起こった出来事をまとめて元帥閣下に報告してくるので、一応提督には把握してもらいたく報告しました。あ、死んだり逃げたりしないでくださいよ? 帰還して準備が整い次第、調教するので」
(た)建物の殆どが囲まれてるんだ、逃げれる訳ねぇだろ……」

【か・し・ま・は・み・か・た】になってます。
あとアルジェントとはイタリア語で「銀」という意味です。

次回は約束された逆転回です。
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