うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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話数調整の為に一話だけ出しておきます。


126. 墜ちた鉄鶴は(いつわ)りの白翼にて俯瞰す

 形勢逆転。

 

 

 

 今まで一人だった提督に心強い味方が現れた。鹿島が率いる艦娘達と灰色達。提督を守る様に周辺を囲い、翔鶴達を警戒している。

 

 対立するは翔鶴率いる利根、那智、龍驤、葛城。

 寮の屋上から提督らを見下ろし、艤装を展開して待ち構えている。

 

「さぁどうするこの状況……どう見ても不利なのはお前らだぞ」

 

 一人対約七十人が約六十人対五人へ。情勢が変わった事で一気に有利になった提督。薬によって目を覚ました艦娘達は皆翔鶴達を睨んでいる。

 

「いや分かりませんよ提督。翔鶴さんと合わせてあの龍驤さんは……少し厄介です」

「お、うちの事よく見抜いてくれてるんやな。ありがたい限りや」

「……霧島さんに加古さん、祥鳳さんは何故貴方達までそちらの方へ?」

 

 翔鶴達と対立した艦娘の中にはかつては差別している側だった霧島、加古、祥鳳がいた。提督達と同じく敵対し、鋭い視線で睨んでいる。

 

「打ち消したのが好嫌薬だけと思うなよ……効果消去薬はありとあらゆる薬の効果を打ち消す。重複している薬の効果だろうと全てだ……つまりは……」

「……なるほど……」

「蒼明石が改造した戦闘意欲増進剤で仕掛けた洗脳も消えている……分かるだろ? お前が全てやってきた事は終わったんだよ、ここで」

 

 効果消去薬の効果により好嫌薬の効果や薬の洗脳は全て消去されている。つまりはここの鎮守府にいる艦娘達は翔鶴がやってきた事全てを覚えているのだ。

 

「目を覚ました時は絶望しましたよ……金剛お姉様達が止めてくれなければ私は自害してました……」

「私もです……皆さんにこんな残酷な事をやっていたなんて、信じたくありませんでした」

「あの人の事も思い出したぞ翔鶴。何故お前がそうなったのか分からねぇ……でもあたし達を守る為に支配したなんて、そんな矛盾した事が信じられる訳ねぇだろ?」

「あの人……まさか」

 

 加古の言葉を聞いて提督が思わず声に出す。加古はどうやら蒼色の事を思い出しているようだ。つまりはこの鎮守府にいた艦娘達の殆どは蒼色の記憶を取り戻した事になる。蒼色の記憶改竄も薬によって支配されていたようだ。

 

 霧島達は何も提督につく艦娘達と同等に並べるとは思っていない。この時まで自身は差別している側として許されない事をした。罪の重さに押し潰されそうだった。だが今はまだ死ぬ訳にはいかない、諸悪の根源である翔鶴を倒すまではどんな事を言われようとも戦い続ける。その覚悟で霧島達は立ち向かっていた。

 

「後で聞いてあげるわ翔鶴。だから今は降参なさい……もう終わったのよ、悪夢の時代は」

「それに私達は今物凄く怒ってるし、とても悲しい。色々と手加減は出来ないよ」

 

 飛龍や蒼龍、加賀が翔鶴に降参を求めてきた。蒼色の事や提督の事で感情が混ざり混ざっているのだろう。涙が頬を伝い、翔鶴に向けて弓矢を構えている。

 

「貴方達はまだ分かってない……悪夢の時代? 貴方達がそう思ってるだけですよ、いくらでもやり直せます……弱者である貴方達を今まで強者である私が守り続けていたのに、恩を仇で返すつもりですか……?」

「貴方に恩など微塵も感じていません」

「それに俺達はそれほど弱くねぇよ」

 

 朝潮や天龍が反論する。明らかに翔鶴に対して憎悪の眼差しをしていた。今までの自分達の事を考えれば翔鶴を憎む事は容易い事だろう。元はと言えば前任と翔鶴の所為で大切な人やモノを失った。艦娘であるはずの翔鶴がそれを進めてきた事に怒りが止まらない。

 

「弱くない? ただでさえ暴言や暴行をされて弱気になっていた貴方達が弱くないですって? 笑わせないでくださいよ、提督がいるから強くなった気ですか……ふざけるな!!!

 

 翔鶴は天龍達の言葉を聞いて笑いながらも大声を上げて見下していく。

 

「この世界では力で全てが決まる!! 弱者は強者に蹂躙され、従う事でしか生きていけない!! だから私は支配という力で貴方達を守った!! 力があるからこそ強者は弱者を自由に出来る!! 力なんですよ!! 戦う力も! 支配する力も!! 全ては力なんです!!」

 

 愛だとか努力だとか、そんな精神論は要らない。

 そんな事をやっても意味が無い。

 いくら頑張っても結局は元から力がなければ弱者は強者に淘汰される。

 そう身をもって知らされた。

 

「私は貴方達のような半端な弱者とは違う!! 力を持って生まれた私はあの忌まわしい男が逃げ去っても支配して守り続けた!! 守り続けていたはずなのに、その男が何もかも崩し始めて兵器である私達を人間にしようとしている!!」

 

 信頼、友情、そんなモノなど艦娘に必要無い。

 そんな物があるから悲しみなんていう感情が出るんだ。

 元から感情など無ければ、あんな事にはならなかったのに。

 

「そんな事など笑止千万!! 兵器でい続ければこんな事にはならなかった!! 人間という愚かな種族に憧れなければ仲間が沈んで悲しむ事なんてなかった!! 兵器である私達は人間になってはいけない!! 私は皆を悲しませないように徹底的に支配して守ったんです!!!!」

 

 翔鶴の背後から大多数の艦載機が。龍驤と葛城のを合わせて約五十機、翔鶴達の頭上にて旋回し続けている。翔鶴は攻撃を指示し、艦娘達に向けて発進させた。

 

「何故それが分からないんですか!!! 貴方達は──」「分かりたくねーよ!!!

 

 翔鶴達がいる屋上の寮から窓を突き破って二人ほど誰かが現れる。その二人は空中で翔鶴達の艦載機を全て破壊し、身体を回転させて着地した。そしてもう一人現れ、矢を空に向けて打ち放つ。

 

「ッ!!?」

「鳥海さん!!」

「摩耶……!!」

「瑞鶴も……!!」

 

 

 

 部屋に囚われていた摩耶と鳥海、翔鶴によって監禁されていた瑞鶴が現れた。

 

 

 

「貴方達まで……!!」

「あの時まで好き勝手しやがってくれたな翔鶴……もう許さねぇぞ」

「提督に対する侮辱をさせるだけでは飽き足らず、摩耶姉さんを人質にして危険な目に合わせたその罪は重いですよ」

「ッ……!!!」

 

 摩耶と鳥海が肩を合わせて翔鶴に立ち向かう。そして前には瑞鶴が屈んでゆっくりと立ち上がった。重い瞼を開き、屋上に立つ翔鶴を見上げる。

 

「翔鶴姉……もう終わりにしよう」

「瑞鶴……!! 貴方までも私を……!!」

「分かってる、分かってるよ。翔鶴姉がどんな酷い目に会ってきたのか……聞いただけでも怒りが込み上げてくる程に……でもだからと言って自分がした経験をいけない事だと思って他人に押し付けるのは……間違ってる」

 

 瑞鶴は顔を俯き、左胸辺りで右手を握る。諸悪の根源である翔鶴の妹として悩んだのだろう。唯一の姉である翔鶴につくか、それとも導いてくれた提督側につくか。今まで翔鶴が経験した事や自分が経験した事、翔鶴がどれだけ頑張っていたのかを妹の瑞鶴は知っている。どちらが正しいのか分からない、だがこの鎮守府の未来や翔鶴の事を考えれば結果は辿り着くものだった。

 

 瑞鶴は──、

 

「どうあっても私達は姉妹……翔鶴姉が犯した罪の尻拭いは妹である私の使命。ごめんね翔鶴姉……私……もう終わらせたいんだ、だから……倒れて」

 

 姉に初めて矢を向ける。瑞鶴は提督側に属す事に覚悟を決めた。これでこの鎮守府の闇が晴れるなら、例え唯一の姉だろうと敵対して戦わなければならない。瑞鶴にとっては苦しい事だった。だがそうでもしないと悪夢の時代は永遠に続く。瑞鶴は悲しげな表情で翔鶴を見上げた。

 

「グッ……!! 各自戦闘開始!! 下にいる皆さんを殲滅しなさい!!」

「くそっ、勝手におっ始めやがって! お前らに指示を与える、今は戦闘に集中しろ!! 今そこにいる加賀や飛龍達、雲龍や鳳翔の空母機動部隊は制空権を取った後に他艦隊の援護に迎え! 祥鳳もだ!!」

「了解!!」

 

 翔鶴を残して利根達は各自、自分が動きやすいフィールドへ移動していく。唐突に始まった戦争に提督は艦娘達に指示を与えていった。

 

「霧島は金剛と比叡に合流! 五十鈴と第六駆逐隊は阿賀野達と合流後、■■医師と憲兵達の避難誘導とその護衛!! 秋月四姉妹は空母機動部隊の援護だ!! 灰は時雨の元へ向かって指揮をしろ!!」

「了解です!!」

 

 提督の指示通りに艦娘達は動いていく。出来れば艦隊で出撃させたいが、今ここで艦隊を編成するのは時間の無駄だ。

 

 ならば──、

 

「後は各自ぶっ飛ばしたい奴から向かってぶっ飛ばして行け!! 建物の被害なんて考えるな、暴れまくるんだ!! だがあの五人は殺さずに無力化しろ!! 古鷹、加古!! お前らは翔鶴を狙え、絶好のチャンスだ見逃すな!!」

「了解です!!! 加古! 行くよ!!」

「オーケー!!」

 

 指示を受けた古鷹は加古と共に翔鶴の所へ向かう。

 走って向かっていた途端、古鷹と加古の位置で大爆発が発生。

 翔鶴の艦載機による爆撃のようだ。

 爆煙が上り立ち、風圧が提督達を襲う。突然に二人の姿が見えなくなった。

 

 だが──、

 

「古鷹、加古を確認!!」

 

 二人は爆弾が着弾する寸前に大跳躍して回避。爆発の衝撃で空へ飛ぶように浮いていた。二人は体勢を変えて、寮の屋上に着地する。

 

「翔鶴……!!」

「弱者風情が……!!」

 

 遂に何年間の時を経て対峙。

 

 翔鶴 対 古鷹と加古。

 

 翔鶴は即座に弓を構えて矢を装填する。

 古鷹と加古は二色の稲妻を放ち、それぞれ片目を輝かせた。

 

 前々から言っていた古鷹のやりたい事が今達成しつつある。翔鶴をぶん殴る、シンプル且つ積年の恨みがこもった願いだ。提督はそれをずっと知っててこの時の為に指示したのだろう。

 

 古鷹と加古は即座に急発進。

 翔鶴に目掛けて突進を試みた。

 翔鶴は加古の拳を受け流し、古鷹の拳を受け止める。背後から衝撃波が飛び出た。

 

 受け流された加古は方向転換。

 身体を駒のように回転させ、屋上の床を引きずっていく。

 

 古鷹の拳を掴んだ翔鶴は次に腕を掴み、背後から向かってくる加古へ投げ飛ばす。

 しかし加古は投げ飛ばされた古鷹の腕を掴み、また身体を回転させる。

 そして古鷹を投擲。

 投げ飛ばされたエネルギーと回転による遠心力、古鷹自身の力で翔鶴を殴打を仕掛けた。

 

 古鷹の渾身の殴打に翔鶴は片腕で受け止める。

 が、耐え切れずに衝撃で床を引きずっていった。

 それでも翔鶴は左腕を振り下ろし、古鷹と加古のいる地点を爆撃する。

 寮の屋上で大爆発が連鎖した。

 

「ッ……グッ!!?」

 

 爆煙と土煙の中を掻き分けて古鷹と加古は躍り出る。走りながら交差し、標的の選定を迷わせた。

 古鷹と加古、翔鶴はまたぶつかり合う。

 寮の屋上にて激闘が始まった。

 

 

 

 ──司令本部内広場

 

「龍驤、出てきなさい!!」

 

 朝潮六姉妹、鹿島や日向が龍驤の後を追い掛けていた。龍驤が最後に見えた場所は司令本部内の広場。大きな杉の木が一本植えられており、その周辺には芝生が設置されている。

 

「はぁ……ほな、出てきたで」

 

 杉の木の影から龍驤は神妙そうな表情で姿を見せる。既に艤装を展開し、艦載機も発艦していた。龍驤の背後には巻物のような黄金の飛行甲板が展開され、左人差し指には『勅』と描かれた炎の文字が浮かんでいる。

 

「貴方も翔鶴さん側だったのですね」

「どうしても構いたくなったってな。ウチらが慰めてきたんやで」

「貴方は降参しないのかしら」

「出来ればしたい所やけども、アイツがしたくないようでな……一応は暴れさせてもらうでー」

 

 朝潮達が警戒しながらも龍驤に問い詰める。

 龍驤はこの窮地に立たされた状況だろうと表情は何一つ崩さなかった。

 

「だったら何故言わなかったのですか……!」

「何や尋問みたいやなぁ、まぁアイツにはアイツなりの譲れないモノっちゅーヤツがあるんや。絶対に()()()()……()()が」

 

 龍驤は右拳を握り、目を瞑る。そして右手の平から黄金色の炎を放出させ、再度朝潮達を見定めた。正直な話を言えばこの状況は明らかに龍驤が不利だ。一人に対して十人以上の艦娘達、しかも提督が育てた艦娘ばかり。負け戦のようなものだろう。それでも龍驤は戦う事を選んだ。

 

「アイツは……そうならざるを得ない事をその身をもって経験してるんや。だからそれを知っているウチらはアイツの考えに賛同してやってきた……死に物狂いでな」

 

 頭の中で様々な回想が映像になって流れていく。蒼色の真実、憎き前任の残虐非道な支配、そして自分達の愚かな行動の数々。それが例え悪い事だろうと正しい行動だと思い込んだ。

 

 こうやって艦娘達に指摘されるまでは。

 

 この戦いが自分達にとってどういうモノなのかは自分が一番良く分かっている。翔鶴がどうしても譲れないモノの為に今まで頑張ってきた。今日はそのツケ払いの日なのだろう。

 

 であれば龍驤は──、

 

「なら色々考えてウチは戦う事にした。散々悪い事もしてきたし、今更どうこう出来る立場じゃないしな、精一杯悪役やらしてもらうで? この戦いで勝利するのがアンタらなら、それがこの鎮守府の運命……頑張りーや。だけどウチは本気で戦う、アンタらも本気出さなきゃ返り討ちにあうだけや。ウチらが思う正義とアンタらが思う正義……どちらが正しいのか、いっちょぶつけてみよか……」

 

 龍驤の背後に発艦していた零式艦戦六十二型(爆戦)が一斉に急上昇、そして急降下爆撃。広場内が爆煙に包まれ、周辺が火の海と化した。朝潮達は再度龍驤を睨みつける。

 

「これぐらいの攻撃でへこたれてんとちゃうぞ。軽空母と思ってたら痛い目見るで……餓鬼」

 




戦争開始。

翔鶴の戦闘開始の台詞から「水 の呼吸~泥中戦」というBGMを意識してました。
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