うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

127 / 199
127. 靉靆する龍は翠角を滾らせ空に舞う

 ──鎮守府港近海

 

 寮の屋上から別の寮の屋上へ飛び移り、工廠の屋上まで辿り着く。

 そして屋上内を駆け走り、下の海へ大跳躍。

 身体を回転させながら綺麗に着水し、追い掛けてくる艦娘達を迎撃する。

 

「何のこれしき!!」

「チッ!!」

 

 爆煙の中から掻き分けて現れたのは足柄と羽黒。

 二人が追い掛けているのは那智だ。

 その後にも長門や陸奥がいる。

 足柄達は岸辺から海へ跳躍して着水、そして急発進。

 

「待て那智!!!」

「誰が待つ──ッ!!?」

 

 那智が背後を向いた途端、重い拳に襲われる。

 無意識に腕で防御した那智はその拳を薙ぎ払った。

 目の前には足柄、那智にとって一番戦いたくない相手だ。

 

 那智は後方へ引き下がりながら砲撃。

 間合いを確保し、その場に止まった。

 那智の砲撃を躱して、足柄達も止まる。

 

「終わりよ那智、観念なさい」

「もう終わらせましょう那智姉さん……!」

「なら……私を止めてみろッ!!!」

 

 那智は急発進急加速。

 それに合わせて足柄達も動き出した。

 円を描くように海上を航行し、砲雷撃戦を始めていく。

 

「流石に精度が凄まじいな!!!」

 

 那智の強みは何といってもその百発百中の命中精度。

 この時速五十キロメートル近くはあるだろう高速走行の砲雷撃戦で那智は必ずというほど砲撃を直撃させてくる。どこの鎮守府の司令官も口から手が出るほど欲しいと言われてもおかしくない優秀な艦娘だ。

 

「陸奥、援護を!」

「了解よ!!」

 

 長門が一直線に那智へ突進。

 それに気付いた那智は透かさず連続砲撃で迎撃した。

 しかし長門は砲撃を耐え切り、那智を殴り飛ばす。

 

 即座に体勢を整えた那智は急発進。

 そこからまた長門と近接戦闘が始まった。

 音を超えるような速度で二人は並んで走行する。

 走行しながら交差する度に殴り合い、衝撃波が広がった。

 

 那智の隙を見切った長門がカウンター。

 また殴り飛ばされた那智は後方へ大跳躍。

 長門に向けて砲撃する。

 

 空から空母機動部隊の艦上爆撃機が援護に向かって来ていた。

 跳んでいた那智は砲撃で何機か撃墜。

 身体を回転させて着水する。

 

 しかし着水時に砲撃が那智に着弾した。

 撃ったのは足柄と羽黒、そして陸奥。恐らく着水狩りを狙ったのだろう。

 那智は厄介な足柄と羽黒に向かって突進した。

 

「何故戦うの那智!! もうやめなさい!!」

「いいや止めない!!! 翔鶴の為に、お前達の為に私は戦っている!! 止めさせたいなら止めてみろと言ったはずだ!!」

「面倒な事を……!!」

 

 

 

 ──紀伊大島、通夜島近海

 

 利根の後を追うように水柱が上り立つ。

 空母機動部隊の援護射撃を軽々と回避。

 追い掛けてくる球磨達に砲撃していく。

 

 球磨と多摩は砲弾を回避し、更に砲撃。

 北上と大井はタイミングを見計らって魚雷を発射する。

 

 利根は跳躍して魚雷を回避。

 瑞雲を発艦させ、索敵を再度行う。

 しかしそこに鈴谷達が現れ、瑞雲が撃ち落とされた。

 

「チッ……! 生意気なッ!!」

「君こそ!!」

 

 最上と利根が互いに殴打を衝突させて激突。

 衝撃波で巨大な水柱が上がり、海水が雨となって降り注ぐ。

 拳同士が重なっても二人は押し続けた。

 

「何故分からぬのじゃ!! 翔鶴がどれだけの想いと枷を背負って生きていたと思うとる!!」

「枷だって? ふざけないで!!! 僕達を虐めて部屋に閉じ込めさせるのが翔鶴の想いだなんて、そんなのふざけてる!!」

「そうでもしなければお前達は殺されてしまうからじゃ!! 余計な自我を持ちおって!!」

 

 背後に殺気を感じた利根は跳躍。

 当然背後には熊野が攻撃を仕掛けていた。

 利根は逆さまの状態で砲撃、そして身体を回転させて着水する。

 しかし着水狩りを狙った北上と大井の魚雷が直撃。

 利根は思わず海面に膝を着いた。

 

「殺されるってどういう事だクマ。ちゃんと教えろクマ」

「翔鶴の想いだから僕の三隈も君の妹である筑摩も見捨てたわけ? どうなのさ」

「大事な提督を私達で傷つけさせた意味も教えてよね、私と神通は目覚めが悪すぎて手加減は出来ないかも」

「……今の吾輩達は戦わなければならない義務がある……知りたければかかってこい」

 

 利根はこれが負け戦である事は充分に理解しているはずだ。それなのに何故か球磨達と戦う事をやめない。まるで誰かに脅されているような、そんな心境の様に思える。

 

「分からないから聞いてるのに……だったら、言わせるまでボコボコにしたっていいんだよね?」

「出来るものならやってみよ。吾輩は、全力で戦う所存じゃ!!!」

 

 

 

 ──鎮守府浜辺付近

 

 

【挿絵表示】

 

 

「葛城……貴方も戦うの?」

「……ごめん雲龍姉、私……どうしても戦わなくちゃいけないの」

 

 葛城の後を追うは姉の雲龍。空母機動部隊から抜け出し、一人で追い掛けていた。他の艦娘達には一人にさせてほしいと頼み、誰も来ないようにしてもらっている。だが建物の裏では灰色と時雨達、磯風達が見張っていた。

 

「翔鶴さんを思うと譲る事は出来ない。瑞鶴先輩には申し訳ないけど、こうするしか方法は無いの」

「私や皆を虐げたのも?」

「っ……そうよ。そうでもしなければ……この鎮守府の仲間は皆……」

 

 悔しそうな表情で葛城は弓を構える。

 何か戦う事を嫌っているような振る舞いだ。

 

「葛城……私ね、今物凄く怒ってるの。何でだか分かる?」

「……」

「貴方が翔鶴さんの為に戦うと決めた事は仕方ないわ。貴方は元はそちら側だものね。でも……さっきから貴方には迷いが見て取れるの。もしかしたら貴方……阿賀野さん達と同様にこれが酷い事だと分かっていながら私達を虐めた事に罪悪感を感じてるとかじゃないのよね?」

 

 雲龍が詰め寄りながら、艤装を展開して構えた。頭から迸る稲妻の翠角が辺りを照らし、錫杖に付いている飛行甲板ののぼり旗が雲龍の背後を飾る。

 

「っ……違うわよ、私は!!!」

「酷い事なら誰でもまず止めるはずだわ。それなのに貴方は止める事もせずにそちら側で私達を虐げた……やってしまった事に罪の意識を感じながら生活してたのかしら?」

 

 雲龍は阿賀野達の事を許す気は全く無い。元々洗脳されなかったからと言って酷い事だと分かっていながら仲間に暴力を振るなど愚の骨頂。例えそれが様々な理由でやらなければならなかったとしても手を出してしまった事に変わりはない。

 

 それを認知しつつ雲龍達と敵対する事を覚悟に決めた上で翔鶴の為に戦うのなら何も言わないつもりだった。しかし葛城にはその覚悟がまるで無いように、また揺らいでいるように思えた。

 

「貴方には意志と覚悟が足りない。敵対するならばそれ相応の意志と覚悟を持ちなさい……貴方の意志は弱いという事はよく分かったわ……葛城」

「っ!!」

 

 突然雲龍の目の前で大爆発。

 爆発の衝撃で砂煙と砂塵が舞い上がった。

 葛城は海へ飛び出し、海上を走行する。

 爆煙と砂煙を掻き分け、雲龍が葛城の後を追う。

 

 雲龍は即座に艦載機を発艦。式神を雲龍の周辺を囲うように展開した。

 そしてのぼり旗の飛行甲板から鳥居を掻い潜って艦載機となり空へ飛び立つ。

 葛城も式神鏃の矢で艦載機を発艦し、雲龍を迎撃する。

 

 空中にて航空戦が始まった。

 妖精達が乗る零戦五十二型丙や天山六〇一空、流星六〇一空が暴れ回る。

 撃墜し、撃墜され、爆発が花火のように散っていった。

 

 その時葛城の流星六〇一空が航空戦を突き抜け、雲龍へ雷撃。

 水柱が森のように立ち上り、雲龍の姿が見えなくなった。

 しかし雲龍は錫杖を突いて、水柱に穴が空いた。

 そこからまた艦上爆撃機を発艦、葛城の元へ一直線に向かっていく。

 

「悪いけど私は本気よ。前に貴方と戦った時は手加減して負けてあげたけど、今はその手加減すら必要無いわ。蹂躙してあげる……──」

 

 雲龍のいる位置でまた大爆発。

 水柱がいくつも立つ中、雲龍は流れる雲のように回避していく。

 そして錫杖を槍のように構え、葛城を照準に見定めた。

 

 

 

「──懺悔の時間よ、大人しく倒れて頂戴」

 

 

 

 後方へ引き下がりながら葛城は艦上爆撃機を発艦。

 追い掛けてくる雲龍に対し、一斉攻撃を仕掛けた。

 それを確認した雲龍は錫杖を振り回し、落ちてくる爆弾を弾いて爆発させていく。

 

 そして大跳躍。

 葛城の艦載機を錫杖で破壊。

 爆発の衝撃で葛城に急降下突進する。

 凄まじい威力で水柱が立ち、衝撃で葛城は吹き飛ばされた。

 

「あまり近接戦闘は得意ではないの、ごめんなさいね」

「ッッ……!!!」

 

 何が得意じゃない、だ。

 一番に使いこなしていた癖に。

 

「くそッ!!」

 

 雲龍の艦上攻撃機による一斉攻撃を避け続ける。

 全速力で発進させ、着弾を防いでいく。

 葛城の後を追う様に水柱が連続して立ち上った。

 

 葛城は後方を見ながらも艦上戦闘機を発艦。

 飛行甲板裏にある特殊な打根を左手の上に召喚した。

 そのまま五本投擲し、切り札の彗星一二甲型を発艦させる。

 

 航空戦で気を引かせている途中に雲龍の位置に合わせて投下。

 雲龍の位置で大爆発を起こし、また姿が見えなくなった。

 だが雲龍は錫杖を巧みに使いこなし、爆煙を薙ぎ払う。

 そこには翠色の雷角を輝かせ、水と風を纏う龍がゆっくりと歩いていた。

 

「こんな実力で私を倒せると思って?」

「グッ……!! くそっ!!」

 

 表情はあまり変わらずとも姿から分かるその憤慨なる戦姿。錫杖を巧みに回し、のぼり旗をはためかせた。周辺に浮く式神が雲龍の手に誘われ、のぼり旗の飛行甲板へ鳥居を潜って艦上攻撃機を発艦させている。

 

「何て凄い戦い方だ……!」

「雲龍さんがかつてないほど怒ってる……」

「成程……手出し無用という理由はこれか」

「ひえ~、荒々しい」

 

 遠くから追い掛けていた時雨と夕立、磯風達が思わず唾を飲む。雲龍の新鮮な感情の昂りと普段の戦闘スタイルを匂わせない特殊な戦い方。錫杖を槍や薙刀のように駆使している様はまるで龍の尾の様に思えてしまう。

 

「灰さん、どうする?」

『とりあえず周辺を警戒しておこう。利根や那智が協力してくる可能性もある。雲龍さんに何か命の危険があればすぐに向かって構わない。雲龍さんからは後から私が言っておくよ』

「分かった。夕立、僕は灰さんの護衛と一度提督の様子を見に行くから一回任せるよ」

「分かったわ! 気をつけてっぽい!」

 

 灰色の指示を受けた後、提督の様子が気になった時雨は一度鎮守府へ戻っていった。一時的に夕立達に任せ、時雨はその場を去っていく。

 

 

 一方で雲龍は依然として戦う事をやめなかった。

 必死に葛城が艦載機を発艦させ、接近されないように攻撃しているはずが雲龍には全く効いていない。それどころか爆弾が着弾する前に急加速して回避している。そしてのぼり旗をはためかせ、艦上攻撃機を発艦させていた。

 

「畜生っ!!」

 

 

 分かっている。

 

 

 この戦いは絶対に負けるという事を。いつかは天罰が下ると思っていた。

 

 避けられない艦娘同士の戦争。

 裂けられた姉妹の関係。

 

 翔鶴の事を知ってからはやってきた事が正しい事だと思っていた。

 

 でもどこかでは違うと思っていた。

 こんな事が正しいのか、自分だけではよく分からない。

 

 私達は何の為に生まれたのか、何の為に戦っているのか、何の為に生きているのか。単純な事を考えてばかりだ。

 

 人も、艦娘も、深海棲艦も、姿は違えど感じる事は同じで、考える事や思う事はそれぞれ違う。

 

 私達が翔鶴さんの為に戦う理由も、雲龍姉が私を倒そうとしている理由も、提督がこの鎮守府の闇を救おうとしている理由も全てが違う。

 

「葛城!!!」

 

 雲龍が愛すべき妹の名を叫び、一気に急接近。

 間合いを詰められた葛城に対し、雲龍は身体を回転させた。

 

 雲龍姉の怒りは最もだ。こうなる事を覚悟して生きていたはずが、始まった途端に限って決めた覚悟が揺らぐ。結局私は私のしてきた事が間違っている事に実感したくなくて、逃げていたんだ。今もこうやって追い掛けてくる雲龍姉から逃げ続けて、ひたすら発艦させて足止めしようとしている。

 

 私が悪役だと思っているのにそれでも足掻く理由は何だろうか。

 本当は悪役になんてなりたくない、こんな事など早く終わらせたい、そう思っているはずなのに。

 

 どうしてここまで私は醜く足掻けるのだろうか。

 

 もう提督に任せた方がいいんじゃないのか。

 

 あの人達ならきっと、私達を助けてくれる。

 鈴谷や加賀さん、古鷹、時雨や夕立に白露、阿賀野達を元気づけたあの人達なら多分出来るはずだ。

 

「ッ……!!」

 

 多分きっとどこかで私達は、提督に助けを求めていたのかもしれない。

 

 この悪夢の様な現実を、

 

 悲劇故に変わってしまった翔鶴さんを、

 

 憎き前任から──、

 

倒れなさいッッ!!!!

 

 雲龍の錫杖が葛城の腹に直撃。

 装甲ごと破壊された錫杖の衝撃で葛城の背後から衝撃波が飛び出た。

 葛城は瞼を閉じて気絶、その場で膝を着いて倒れる。

 

 倒れた葛城を雲龍は抱きかかえ、葛城のバラバラに荒れた前髪を直していく。葛城の目からは涙が頬を伝っていた。雲龍はその涙を指で拭い、僅かに微笑む。

 

「後で話は聞いてあげるわ……葛城。戻りましょう……」

 

 

 

 

 ──きっとあの人は、救ってくれる。

 

 

 

 




雲龍さんの戦闘シーンってあまり無いように思える。
って事でカッコよくしてみました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。