うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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130. 海軍一の減らず口が貫き通している恩義

 深海棲艦が現れて十二年、当時は少尉だった■蒼■中尉が■■■鎮守府に着任したのが八年前。そして七年前に身の毛もよだつある存在が確認された。

 

 深海棲艦を纏める人間がいる。当時は噂話でしか無かった空想上の話が現実となってしまったのだ。目撃した艦隊の艦娘達は「アレは人間だった」と口を揃えて証言している。黒い軍服を身に纏い、数多の深海棲艦を引き連れていく姿はまさに闇を総べる者。驚愕の事実に全世界の人間達を恐怖に陥れた。

 

 深海棲艦を纏めあげる提督らしき人物はとても狡猾で優れた戦術を用いり、次々に制圧海域を侵略していった。顔は仮面を被っており判別不可能、白い長髪に成人男性並の身長。次々に猛攻を仕掛けてくる深海棲艦とその提督に世界各国の海軍は頭を悩ませた。

 

 そしてそれと同時に()()()()も始まっていた。

 

「そこで各国の軍上層部はその提督という存在が拠点としていた北マリアナ諸島に属するマウグ島を攻略する大規模作戦を発令させた」

 

 南方のショートランド泊地にある鎮守府の責任者を総司令官にマウグ島攻略作戦が開始された。南方の鎮守府にある全ての艦隊、横須賀鎮守府、佐世保鎮守府、■■■鎮守府などの各地方の鎮守府に所属する艦隊が一斉に出撃し、北マリアナ諸島にあるマウグ島へ向かった。

 

 深海棲艦側もこの作戦を把握し、各地の深海棲艦を呼び寄せた。今は七壞星として君臨している【天枢(ドゥーベ)】中枢棲姫、【天璇(メラク)】南方棲戦姫や『巨門(テラスティア)』戦艦棲鬼、【天権(メグレズ)】深海鶴棲姫、【玉衡(アリオト)】戦艦水鬼、『廉貞(ディケオス)』重巡棲姫、【開陽(ミザール)】深海日棲姫、『武曲(シーフォウス)』駆逐水鬼など錚々たる面子がマウグ島に集合し、後に北マリアナ諸島海戦と呼ばれる事となる大戦争が勃発した。

 

 前半は深海棲艦が圧倒的有利で島に近づく事すら出来なかったが、後半になって資材に限界に来たのか次々に深海棲艦が倒れていった。分が悪いと踏んだのか深海棲艦の提督は、ある艦娘を連れてマウグ島より南にあるアグリハン島まで逃げ込むも、後を追い掛けた大艦隊によって島を全包囲され、激戦の後に確保された。

 

 その際深海棲艦の提督達をどうするか、司令本部の軍人達は処遇を話し合った。殆どの軍人が放っておけない存在だとその場で殺す事が大多数を占める中、ある男が大声を上げてマイク越しに異議を唱えた。

 

「まさか……蒼■中尉、なんですか?」

「そうだ」

 

 アグリハン島の激戦でその一部始終を見聞していた■蒼■中尉は、深海棲艦の提督を殺さずに捕虜として捕まえる提案を訴えた。これから深海棲艦を絶滅させる為にも、情報が必要になるという理由で他の軍人を黙らせ、■蒼■中尉の案は可決。深海棲艦の提督達はその場で捕虜として拘束され、作戦終了まで約半年掛けた大戦争は終わりを告げた。

 

「その深海棲艦の提督という人は、今はもう……いないのですか?」

「あぁ既に情報を全て吐き出し、()()いない」

 

 そして悪魔のABC計画が開始。■蒼■中尉はマウグ島攻略作戦から一か月に■■少尉に操られた翔鶴によって殺され、死亡。■■少尉が■■■鎮守府を私物化させ、良いように暮らしてる中、ある人物が軍に配属された。

 

「それが白と呼ばれた軍人。蒼■中尉によって懐柔された、元深海棲艦の提督だった男だ」

「えッ!!? 深海棲艦の提督だった男が、あの人なんですか!!?」

 

 深海棲艦の提督及び白色を確保した■蒼■中尉は白色に毎週出会っては世間話をし続け、何とか対等に接しようと試みていた。あのアグリハン島での激戦で何かを訴えていた白色達を聞いて、何か深い事情があるのではないかと考えた■蒼■中尉は必死にその訳を聞き出していた。

 

 結果、■蒼■中尉にだけ心を開いた白色だったが、事の顛末を話す前に■■少尉と翔鶴に殺され、それ以降■蒼■中尉が来る事は無かった。

 

「戦術的価値があると踏んだ当時の黒■■元帥は精神が消耗した白色の記憶を操作し、また見せしめに新たな人物として軍人に生まれ変わらせた……全くろくでもない人生だ、深海棲艦の提督として生きていたはずが今度は艦娘の提督として生まれ変わるのだからな」

 

 生まれ変わっても尚、英才教育を受けさせられ、何度も人格を否定されては罵倒され続けていたらしい。教えている軍人が白色の悍ましい姿を見ては仲間や家族の復讐という名目で暴力や暴言は当たり前、部屋は屋根裏部屋だったとか。

 

 当然白色にとっては自分が軍人に何をしたのか全く覚えていない。理由も分からないまま暴虐の限りを尽くされ、義母である■■大佐が鬼のように叱咤する場面を見ては白色の元の人格は歪み始めていった。

 

「だから普段の会議ではあのような振る舞いを……」

「恐らく、な。私の考えだとそうかもしれないという話だ。あまり受け止めないでほしい」

 

 あのような捻くれた性格をしながらも仕事は素早く真面目にこなし、戦闘や演習の指揮は常に冷静沈着。相馬鎮守府で二年間所属し、大本営に異動して主に後方勤務をしていた。そして半年後にあの■■■鎮守府に着任する事となる。

 

「■■■鎮守府に久しぶりに訪問した時だったが、白は既に記憶を取り戻していたよ」

「えっ……それってまずい事なのでは……?」

 

 ■■大将が■■■鎮守府を訪問し、白色及び提督と黒い箱について話し合った際に提督の眼は紅黒く澱んでいた。恐らくあの状態だと既に記憶は取り戻しているに違いない。

 

 つまりは■蒼■中尉の事も覚えている、そして黒い箱の内容にあった■蒼■中尉の消えた理由も知っている。今まで提督がひたすらに翔鶴達の事を隠し続けていたのは■蒼■中尉の為なのだろう。■蒼■中尉が遺せざるを得なかった艦娘達を救う為に。

 

「元深海棲艦の提督だった白中将を動かすまでの人物、蒼■中尉……何故殺されたのでしょうか」

「……さぁな。私にも分からん」

「……何か事情があるのですね……■■■鎮守府には……」

「あぁ……察しが良くて助かる」

 

 流石にABC計画の事は艦娘達に伝えられない。この計画はまだ伝える時では無いと■■大将は判断した。

 

 ■蒼■中尉の人間同等して見るシステムは今でも各地の鎮守府で、新しく就いた今の■■元帥と昇格した■■大将によって義務づけられている。マウグ島攻略作戦時の軍人達が異動した事もあってか次の世代へと交代しており、海軍兵学校で優れた若い人材がその跡を継いでいるような状態だ。日本海軍の半数が艦娘人間思想を支持して、艦娘兵器思想と張り合える程にまで広がっている。

 

 しかし艦娘人間思想を支持しているのが新しく着任した新米司令官が殆どであり、まだ影響力は少ない状態だ。

 

「今の私達にとっては感謝してもしきれない、畏敬の念を抱かなければならない人物ですね……」

「あぁそうだな……本当に……──」

 

 

 

「──バカな男達だよ……」

 

 

 

 ──紀伊大島、通夜島付近近海

 

 艦娘同士の拳が衝突しあい、海は荒れる。曇天の空には無数の艦載機、青黒い澱んだ海には利根を囲む球磨達。不透明な海中では魚雷が交差し、直撃しては水柱が上がる。

 

「はぁぁぁぁ!!!!」

「クマァァァ!!!」

 

 利根と球磨が咆哮を上げながら突進。

 幾度となく衝突し合っては、一歩も引き下がらない。

 空から見下ろせば海面は衝突する度に空気が歪み、海上から確認しては水柱が立ち上る。

 

 水柱の中をを掻き分け、利根は自身の腕を使って球磨の首を殴る。

 そのまま腕を振り回し、球磨は殴り飛ばされた。

 

「ハァハァ……──ッ!!」

 

 周辺に魚雷がある事に気付いた利根は急発進。

 跳躍をしながら、魚雷の直撃を回避する。

 利根の向かう先には着水狩りを狙う最上がいた。

 利根は身体を回転させ、後ろ回し蹴りで反撃。

 

 しかし最上は察知し、頭を下げて回避。

 最上の頭上を利根の鉄脚が過ぎ通っていく。

 過ぎ去ったのを確認し、最上は頭を上げて反撃を仕掛けた。が──、

 

 利根は残った片足を使って最上の頭を強く蹴り飛ばす。

 そして艤装の砲撃で追い打ちに掛かった。

 

「最上姉──ッ!!?」

 

 鈴谷が最上を心配して声を掛けた。

 利根はすぐさま急発進し、鈴谷の目の前に跳躍して現れる。

 利根の眼は、まるであの時の鹿島の様だった。

 

「人の心配をッ!!!」

 

 鈴谷は利根の殴打を紙一重で回避。

 身体を左に反らした鈴谷は左裏拳でカウンターに出る。

 それを見抜いた利根は裏拳を空いた左手で鷲掴み。

 自身も同じく右裏拳で鈴谷を殴り飛ばした。

 

「しとる場合かッッ!!! グッ!!」

 

 殴り飛ばしたと同時に熊野の砲撃が直撃。

 怯みを見せた利根は反撃する隙すらなく、爆煙を掻き分けてきた多摩に蹴り飛ばされた。

 利根は受身を取って、体勢を整える。

 既に目の前には神通が零距離砲撃を仕掛けていた。

 

「鉄屑同然だった貴様らは……!!!」

 

 利根は砲撃される前に神通の腕を掴む。

 そのまま背負い投げて、砲撃を回避した。

 が、死角にいた川内に腹を殴られ、強く殴り飛ばされる。

 受身を取れずに利根は海面を転倒するもすぐさま起き上がる。

 

「自我を得る事でより強くなるッッだがッ!!」

 

 空母機動部隊の援護射撃を回避しながら、北上と大井の元まで接近。

 妙に面倒な雷巡達を標的に定めた。北上と大井のカバーへ、川内と最上が砲撃で利根を迎撃する。

 高速走行しながら身体を捻っては砲弾を回避し、大井の魚雷を食らっては水柱の衝撃で空中へ浮かぶ利根。

 

「余計な感情を得る事でッッ!!」

 

 艤装の砲口を自身の背後へ向けて砲撃。

 その衝撃で空中の移動を制御し、利根は一直線に突進する。

 川内と最上による砲撃の嵐が利根を襲う。

 

「その強さは無意味と化すのじゃッッ!!!」

 

 利根は砲弾を拳で弾き、足場にしては川内達の元へ征く。

 まるで隕石のように海面へ衝突した。

 大きな水柱が立ち上り、水柱の中から川内と最上と大井が吹き飛ばされていく。

 海水が雨となって降り注ぐ中、水柱の中には利根が仁王立ちしていた。

 

「我々兵器などに自我など要らぬ!! 余計な感情で苦しめられるのなら、無い方がマシなのじゃ!!」

「化け……物め……!」

 

 利根の圧倒的な機動力と縦横無尽な戦闘能力。川内達の攻撃を受けながら大破状態に追い詰めれようとも一向に倒せる気がしない。弾薬や艦載機などは残り僅かなはずなのに、己の体術だけで捩じ伏せようとする姿はまさに戦神。おかげで川内達も全員中破状態だ。

 

「だからって……それを私達に押し付けないでよ……!」

「自我を持つ事が駄目なら……お前は何故その自我を持ってるクマ……! さっきからおかしいぞクマ!!」

「いい加減教えてよ……! 何か言えない事情でもあるわけ……? あまりにもおかしいじゃんか……!!」

 

 利根は満身創痍。正装は破れて素肌を外へ晒し、頭からは血を流して目は充血している。身体中の骨や筋肉が悲鳴をあげており、負担のかかる両足を鋭い痛みが襲っていた。

 

『後は任せました……利根姉さん……』

 

『お前の妹は無残にも沈んだぞ! 良かったな!!』

 

 

「おかしくて結構!! 貴様らが矛盾してると思うのなら吾輩を嘲笑えばいい!! 吾輩は一度決めた事から変えるつもりなど毛頭ない!!! 全力でその意志を貫き通すのが吾輩の覚悟じゃ!!」

 

 翔鶴の事も、優遇制度の事も、全てを貫き通してきた。

 例え間違っている事だとしても、否定している自分がいたとしても利根は決して意志を変えなかった。

 

 それが仲間の為ならば正しい事だと自ら進んでやり遂げた。

 

 更なる悪の手から脅かされないようにする為なら何だってやってやる。

 絶対にその意思は変わらない、吾輩は何一つ間違っていない、それらが吾輩にとって正義であり覚悟だからだ。

 

 

 傲慢、正当化、何度でも言え。

 

 そもそも正義とは正当化され尽くした義強な感情論でしかない。

 正しいか悪いかなど他者が決めるのではなく己で決める事なのだ。

 

 

 ならば吾輩はその正義と覚悟を貫き通すまで。

 

 もし他の正義が吾輩の正義を悪く言うのならお互いにどの正義が正しいのか戦うまでだ。お前達の正義を吾輩に聞かせてくれ。

 

「利根……アンタの言ってる余計な感情ってのは確かに辛いモノかもしれない……だけどその感情を越えてこそ私達は強くなれるんじゃないの!!? アンタが今まで経験した事全てを乗り越えて、私達を圧倒して戦っている今のように、アンタも強くなったんじゃないの!!!?」

「何が言いたいのじゃ……!!」

「アンタの言ってる事は絶対に間違ってる!!! 私達は兵器でも人間でもない!! 艦娘っていう私達だ!!!!」

 

 兵器であれば感情は無い、つまりは何事にも感じる事がなくただの人形として生きていれば苦しむ事は何一つ無いという利根の考え。

 辛い経験を乗り越えてこそ強くなれる、自我があるからこそ成長出来るという鈴谷達の考え。

 

 これらを正義又は覚悟と呼ぶか、それは誰にも分からない。だがもし利根や鈴谷達がそう思うのなら、理解するまで戦うのみだ。

 

「なら吾輩の覚悟と貴様らの覚悟、どちらが正しいのか……!! 決着をつけようではないか!!」

 

 人は戦って生死を彷徨うからこそ、その人の本性や本音が現れる。それは艦娘達も然り、戦う力がある現状では戦う他は無い。もしお互いに覚悟した本音を知りたいのなら、生命を懸けて戦うのが筋だろう。

 

 ──すまぬ葛城、那智、龍驤、翔鶴よ……吾輩はこれ以上保てる時間は無さそうじゃ……後はお主で決めるのじゃぞ、翔鶴。

 

 

 

 ──この鎮守府の、運命を。

 

 

 

「いざ、最後の出陣じゃ……──」

 

 利根は再度身構え、鈴谷達を睨む。

 鈴谷達も砲口や魚雷を利根に向けて警戒した。

 それを見た利根は一瞬微笑み、そして叫ぶ。

 

 

 

 

 

「──全力でかかって来い!!!」

 

 

 

 

 

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