「さて……拘束はしましたが、少し暴れ過ぎましたね」
「あぁ半分は跡形も無くなっているな。提督に申し訳ない限りだ……」
倒れ込む龍驤に艦娘専用の拘束器具を装着させ拘束。依然として龍驤は白目を向いたまま倒れており、瀕死状態にまで近づいていた。鹿島の応急処置により一命は取り留めているがそれでも危ない状態になっている。龍驤との戦闘が終わり、日向は崩れた司令本部を見てはため息を吐いて頭を抱えた。
「嫌がらせした自分が憎いですか?」
「当然だろう……上官に手を出すなどあってはならない事だ。今更顔を合わせる事すら出来るか……」
「今更悩んだ所で時間の無駄ですよ日向さん。私達は私達なりの行動で示すべきです、迷う必要なんてありません」
ゆっくりと背伸びをしては紅黒い空を眺める鹿島。先程の戦闘で少し張り切り過ぎたのか疲れが溜まっていたようだ。ヘラヘラと鹿島は笑っているが、鹿島自身は計画の為とはいえ提督を助けなかった事に負い目を感じている。もっと早く助けておけば、こうやって戦う日も早かっただろう。自分を責めては考えてばかりだ。
「あぁそうだな、少し考え過ぎた。しかしだが……龍驤があれだけの力を隠し持っていたとはな……」
「えぇ潜在能力は素晴らしいです。ここにいるのが勿体ないくらいですね」
龍驤の戦闘能力はこの鎮守府の艦娘の中ではトップクラスに属する程だ。精密な偏差の計算、戦艦クラスの攻撃を余裕で耐える強靭な防御力、初めて戦う相手だろうと即座に見極める観察眼とその適応能力。そして窮地に追い込まれる程発揮される更なる身体強化と巧みに艦載機を操るその術。
正直な話、育て上げれば鹿島達の仲間入りをしてもおかしい話ではない。
「こうなってまで勝ちたい理由……譲れないモノ、か……我々には到底理解出来んな」
「譲れないモノですか……はて、龍驤さんや翔鶴さん達は一体
「隠してた? 何をだ?」
顎に手を当てて鹿島は考える仕草をする。戦闘前に聞いていた鹿島は龍驤の言葉を深く考え始めた。どうしてもこの五人が戦わなくてはいけなかった理由、何が裏があるのではと鹿島は思いつく。
「分かりません。ですがこうでもしなければいけないほど龍驤さんは本気を出して戦い抜きました。恐らく……
「私達に関係する事、か?」
「はい、あの時が翔鶴さんが言っていた事を思い出せますか?」
戦闘前に龍驤は譲れないモノがあると言っていた。負け戦だと分かっていながら戦う事を止めず、ただ只管に龍驤は朝潮達と張り合っていた。隠してた力を使わなければいけないほど、譲れない何かがあるのかもしれない。
「支配して守る。一見破茶滅茶な言葉ではありますが、手段が支配であり、目的は貴方達を守る為……守るという意志は絶対に変わらなかった……譲れないモノとはその
「……まさか……」
「そうです……貴方達は誰かに命を握られている、という可能性がありますね」
日向は思わず動揺の声を上げた。鹿島の考察が正しければ、この鎮守府の艦娘達は誰かに命を脅かされようとしている。
その誰かなど考えなくても分かる事だ、勿論あの男しかいない。この鎮守府に関わり、この地獄を作り出した全ての元凶。外道中の外道に成り下がったクズ、前任の■■少尉だ。
「もしかしたら翔鶴さん達は前任に脅されているのかもしれませんね」
「わ……たし……は、まだ……」
倒れ込んだ龍驤が目を覚ましたようだ。
弱り切った細々とした声で何か言っている。
「あら目が覚めましたか、流石で──」「まだ終われないんだァァァァァァ!!!!」
艦娘専用の拘束器具をいとも簡単に破壊し、大跳躍する龍驤。再び太陽の様に輝き、発艦する準備をし始めた。満身創痍でありながら戦おうとするその精神力。出来れば褒めてあげたいが鹿島はつまらなさそうな表情で龍驤を見上げた。
「いい加減しつこいですね龍驤さん……一回頭を冷やしてみては?」
「私はまだアンタに負けてない……!! 力がある限りは絶対に戦うのさ!!」
「その執念さは褒めてやりたいですね……はぁ……分かりました。日向さんは見ててください、私が相手してあげます……なので龍驤さん──」
鹿島は艤装を再び展開し、銀色の光を身体の中へ収束させる。銀色の光が鹿島の身体を纏い、目が銀色に輝き出した。
「命の保証はしませんので、ご注意を」
鹿島は通常戦闘形態に移行、照準を全て空高く舞う龍驤に向ける。恐らく鹿島は本気でやるつもりだ、龍驤といえどもたない事は分かっている。龍驤は再び掌に金色の炎を灯し、飛行甲板を削る様に艦載機を発艦。
なりふり構わず鹿島に攻撃しようとしたが──、
「面白そうなのがいるネェ」
声がした途端に突然龍驤は殴り飛ばされ、また地に叩き落とされた。その威力は凄まじいもので、龍驤が落ちた地点はクレーターの様になり、落ちていく時はソニックブームが出来るほどの速さだった。龍驤を空中で殴り飛ばした相手に二人は驚きの表情でその姿を見る。
「『
護神厄討艦隊メンバーの一人、『
「貴方の報告を受けて任務の為に来たヨ。提督はどこか案内出来まスカ? あとこの娘面白いネ!」
「提督は今は広場にて安静にしてますよ『
互いに身に纏う光を抑え、仲良く話し合った。この金剛は元気な表情で話しており、その優しさから親近感が湧いてくる事だろう。だが日向から見ればその優しさの裏に悍ましい程の好戦的な戦欲が隠れているのが分かった。
「Don't worry! 殺してはいませんヨ、半殺しにしただけデス!」
堂々と金剛は殺してないと豪語したその時、金剛の頭上で大爆発が起きた。空には龍驤の零式艦戦六十二型(爆戦)が金剛を攻撃していたようだ。攻撃を仕掛けた龍驤は地面にひれ伏しながらも必死な表情で金剛を睨んでいる。爆撃を受けた金剛は傷一つ付かず、微動だにしないまま笑っていた。
「あーまだ起きてたみたいデスネー……そのまま眠っていれば痛い目に会わなくて済むノニ」
『
「残念デスガー、貴方達はここで終わりデース。大人しく眠っててくだサイナ」
「私は……まだ……」
「私達の艦隊では『無力化』という、意識があるまで徹底的に叩きのめす許可が出てるノ。だからさっさと眠った方が身の為ダヨ」
「私は……」
龍驤が地べたを這いつくばりながら手を伸ばす。満身創痍の身体でどこへ行こうというのか。金剛はその行動が理解出来なかった。つまらなそうに金剛は龍驤の頭を掴み、地面に五回ほど叩きつける。完全に意識を失ったのか龍驤は身体を動かさなくなった。生きているかどうか脈を確認し、龍驤を抱きかかえる。
「本当に殺してないですよね?」
「Of course! 確認はしたヨ。さて……白中将の所へ、連れてってもらえるカナ?」
「……分かりました」
なにぶん『
物理的攻撃や無尽蔵な耐久力に特化しており、持ち合わせる超能力は【痛覚麻痺】。身体の中にある痛覚神経を全て遮断し、外部からの物理的攻撃や砲撃、爆撃など全ての攻撃による痛みを感じさせない能力だ。戦闘中は痛覚を麻痺させる事で気にする事なく戦える能力になっている。
「大丈夫なのか……?」
「……死んでないのなら大丈夫なんでしょう」
──鎮守府近海
「久しぶりの戦闘ですね~」
「いつものアレで行くわよ『
暴れ狂うショウカクの前に立つは古強者の二人。摩耶達を一旦避難させ、鎮守府近海を三人だけに残した。波や風が暴れ牛の如く荒れていく中で余裕そうな雰囲気を醸し出している。
「ん、でもあれ意識無いですよね?」
「え? あら本当ね。これだとどうしましょうか」
よく見れば白目を向いたままショウカクは動いている。司令官の命令通り、意識が喪失するまで戦い続けるという意味の「無力化」で相手をしようかと思っていたが既に意識が無いようだ。これではどう戦えのばいいのか分からない。『
「……何でこんな時に繋がらないのかしら、ここってそんな秘境じゃないでしょうに」
「うーん『無力化』とは言われましたが面倒なので旗艦の『
「はぁ……あーホント、アンタって面倒な性格してるわ……まぁいいわよ、決めてあげる」
『
「とりあえず動かなくなるまでぶっ飛ばす!! って事でいいかしら?」
「『
「なら、とつげ──」
吹雪と確認し合った途端、ショウカクが叢雲に突撃。
黒い化け物の様な艤装を衝突させ、押し潰しては叢雲を海面に引き摺らせた。
水柱が後を追い掛けるように立ち上る。
「ヤハリコノ
しかし叢雲はショウカクの艤装を下から蹴り飛ばした。
衝撃でショウカクの艤装は宙へ浮かぶ。
そこに『
吹雪の飛び蹴りがショウカクの頬へ直撃。
海面を跳ねるように飛ばされるも体勢を整える。
自動で動く自立型の艤装に支えられ、そのまま立ち乗った。
叢雲と吹雪に狙いを定めようとしたその時には──、
「どこ見てるのよ」
死角になっていた真下には叢雲が既にいた。
叢雲の槍の先端がショウカクの顎に直撃。
槍の穂は鋼鉄の打撃武器になっている。
凄まじい衝撃でショウカクも宙へ浮かんだ。
そしてショウカクの背後にまた吹雪が襲い掛かる。
宙に浮かんだショウカクの後頭部を叩き殴った。
「まだ戦えますか~? 戦えますよね~?」
起き上がろうとするショウカクを見て声を掛ける吹雪。ショウカクの頭をポンポンと叩いては安否を確認している。本人の意識が無いにも関わらずまるで別人の様に豹変したショウカクに対し、懲りずに煽り続ける吹雪に叢雲は気味が悪いと嫌そうな表情をした。
「黙レッッ!!!!」
ショウカクは自身の周囲を爆撃。
既に察知していた二人は後方へ下がり、間合いを確保した。
残っている艦載機を手で操り、二人へ爆撃を始める。
「骨があるわね!!」
「少しだけ本気だしましょうか!!」
叢雲と吹雪は急発進急加速。
その速度は正に光の如く。
白金織り成す双光乱閃が海面を駆け走る。
あまりの速さに数秒遅れて水柱が暴れ出した。
爆弾が落とされる前から海面を駆け抜け、一気にショウカクへ接近する。
黄金の光纏う叢雲は飛び蹴りでショウカクを蹴り飛ばした。
次に白輝纏う吹雪はショウカクの黒い艤装を殴り飛ばす。
岸辺の壁に打ち付けられ怯むショウカク。
そこに吹雪が蹴り飛ばした艤装で更に押し潰された。
更に怒涛の連続砲撃で追い打ちを掛けていく。
二人の輝く戦闘狂は全く手を止めない。
砲撃を耐え抜き、爆煙を掻き分けるショウカク。
だが黒い艤装に押し潰されたお陰で身動きが取れなくなっていた。
そこに吹雪が現れ、頭を掴んでは更に壁へ何度も叩く。
零距離砲撃を五回ほどした後、下から突き上げるように殴打。
岸辺の壁を貫通して、鎮守府の寮の屋上まで殴り飛ばされた。
「まだ意識はあるようね」
「ッ!!!? ヤラセハ、シナイヨッッ!!!!」
既に寮の屋上には叢雲が待ち構えていた。
ショウカクは身体を捻って後ろ回し蹴り。
しかし残像を残して簡単に回避されてしまった。
叢雲の槍の穂がショウカクの腹に直撃、カウンター。
ショウカクは天高く空へ殴り飛ばされた。
叢雲は大跳躍してその後を追い掛ける。
空に舞うショウカクの頭上を取った。
叢雲が纏っていた金色の光がより輝き出す。
叢雲から繰り出される渾身の槍の殴打がショウカクの顔面に直撃。
ショウカクは一気に地表まで叩き落とされた。
寮の建物ごと吹き飛ばし、建物が真っ二つになる。
衝撃で瓦礫が宙に散乱し、土煙が広場を覆い尽くした。
そして叢雲は艤装の砲口から金色の光を収束。
砲撃の流星群が地上のショウカクを滅多打ちにした。
寮の建物が砲弾の爆発による衝撃によって崩壊。
地面の舗装ブロックが抉れるように宙へ舞った。
「私ハ……私ハ……私ハァァァ!!!」
あれだけの攻撃を受けても尚、ショウカクは立ち上がる。背中に乗る瓦礫を押し退け、咆哮を上げた。よく見ればショウカクは涙を流していた。まるでこの世の理不尽さを嘆いている様に見える。
ショウカクの頭の中で忌まわしい過去が映像として流れていく。前任に弄ばれ、嬲られ、脅され尽くして、愛する人を殺してしまって、支配が全てだと教えこまれて。今でもあの男が殺したい程憎い。ショウカクは頭を抱えて涙を流しながら叫び続けた。
その時──、
「クソッ!! コンナ時ニ現レルナコノ屑ガッッ!!!! オ前ハ――」「ショウカクゥゥゥァァァァァァ!!!!」
第二広場を挟んだ隣の寮から古鷹が咆哮を上げて現れる。
瓦礫を破壊してショウカクの元まで駆け走った。
真鍮色の稲妻を迸らせ、古鷹は大跳躍。
ショウカクの頭上を取った。
古鷹は空に掌を向けて砲撃。
砲撃の衝撃で一気にショウカクへ接近する。
ショウカクも迎撃しようとするも、瞬く間に古鷹と激突。
地面を転がる様にして第一広場に突入。そのまま二人は弾薬庫に突入した。
「古鷹!! うわッ!!!」
弾薬庫の弾薬が引火、火山の噴火の如く大爆発。
凄まじい爆音が響き渡り、衝撃波で近くにいた提督達は吹き飛ばされた。
その中でもショウカクは腕を大振りにして巨大な爆煙を掻き分ける。
そして爆煙の影にいるであろう古鷹目掛けて走り出した。
だが──、
「ッ!!!?」
爆煙の中から出てきたのは古鷹ではなく、妹の瑞鶴だった。
瑞鶴は弓の艤装を棄てて右拳を握る。
そしてショウカクが攻撃するよりも前に殴打を──、
「瑞鶴──」
瑞鶴の渾身の右拳が直撃。
そして──、
「翔鶴姉ェェェェェ!!!!!」
ショウカク、いや翔鶴は妹に殴られてようやく意識を失った。
そして時は遡る――、
次話「秘めた思い」1/6
天に翔いていた一羽の鶴が持つ、凄愴な過去の物語――。