うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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県名や町名などは一部改変しております。
実在しているわけでは無いのでご理解していただけたらと思います。


135. 「秘めた思い」1/6

 翔鶴型航空母艦一番艦、翔鶴。

 

 

 

 彼女がこの荒くれ鎮守府に着任してきたのは深海棲艦が現れてから六年が立つ春の時だった。

 

 桜の花びらがそよ風で舞い散り、地面を桃色に染めていく春の季節。太陽の光が暖かく、海は煌めく様に輝いた。深海棲艦との戦時中とはいえ、安らぎの時間が出来ない訳では無い。

 

 鎮守府の広場では艦娘達が愉快に話しながら歩いており、すれ違った憲兵と挨拶を交わす。近くの海では艦娘同士が演習しては戦いあっている。

 

 翔鶴は建造施設にてこの鎮守府に着任した。初めて会った艦娘は案内役の大淀。大淀は着任した翔鶴を快く迎え入れた。

 

 

「初めまして翔鶴さん、私は案内役の大淀です。これからよろしくお願いしますね」

「はい! よろしくお願いします大淀さん」

 

 

 翔鶴は笑顔で大淀と挨拶を交わす。工廠には多くの整備士が艤装のメンテナンスや妖精と共に開発会議などをやっていた。和気藹々としている様はとても和やかに思える。

 

 案内役の大淀の後を追う翔鶴。立派に建てられた寮の建物が並び、複合型連絡通路の下を潜る。寮と寮に挟まれた第二広場を通っていき、大淀と翔鶴は奥の司令本部へ向かった。

 

 

「失礼します提督」

 

 

 司令本部の中へ入り、案内されたのは執務室。大淀はドアをノック、中からどうぞと声が聞こえた。確認した大淀はドアを開けて執務室の中へ入る。

 

 

「やぁ君が翔鶴、だね?」

 

 

 執務室の奥にはある男が座って出迎えてくれた。三十代前半の男性で髭を生やしては髪はボサボサ。蒼色の目をしており、白い軍服を着こなしている。翔鶴は取り敢えず自己紹介をした。

 

 

「翔鶴型航空母艦一番艦、翔鶴です。一航戦、二航戦の先輩方に、少しでも近付けるように瑞鶴と一緒に頑張ります!」

「自己紹介ありがとう、翔鶴。私はこの鎮守府の責任者、艦隊の指揮を務めている■蒼■だ。これからよろしくね」

 

 

 蒼色は元気に自己紹介をし、握手を求めてきた。翔鶴も快く蒼色の手を握り握手を交わす。見たところはとても優しそうな人だ、どんな人かと少し不安だったがその不安も無くなった。

 

 

「翔鶴姉~……翔鶴姉だ!」

「あら瑞鶴……? 瑞鶴なのね!」

 

 

 執務室のドアを恐る恐ると開けて中を確かめてきてのは瑞鶴だ。特徴的な白髪姿の翔鶴を見て飛び掛かる。翔鶴と出会ったのが嬉しかったのか手を取り合ってジャンプし続けた。

 

 

「お姉さんに出会えて良かったね瑞鶴。ではこの鎮守府の案内も君に任せようかな」

「任して提督さん! じゃあ行こう翔鶴姉!」

「え、えぇ! すいません提督、失礼しま──」

 

 

 瑞鶴にされるがまま翔鶴は執務室を出ていった。その様子を見ていた蒼色、秘書艦の吹雪と大淀は睦まじく眺める。

 

 この日から翔鶴の生活が始まった。

 

 翔鶴と出会えた瑞鶴はとても嬉しそうで笑顔で満ち溢れていた。今まで身寄りがいなかったという理由もあるのだろう、姉が出会えた事がとても嬉しいようだ。

 

 翔鶴も同様嬉しかった。自分がこんなにも歓迎され、これから仲間になる事に胸を躍らせていた。嬉しそうな瑞鶴を見て、この鎮守府はいい所なのだろうと思っていた。

 

 

 

 本当に──、そう思っていた。

 

 

 

「翔鶴姉! ここが私達の部屋だよ!」

 

 

 鎮守府の案内をされ、最後に来た場所は瑞鶴の部屋。とは過去のモノとなりこれから自分と瑞鶴の部屋になる。部屋の中はある程度片付けられているが、それでも本やペンが机に散らかっていた。布団はちゃんと畳んでいるようで雑に仕舞っており、片隅に置いているだけ。

 

 

「これから一緒に頑張ろうね翔鶴姉!」

「……まぁ言いたい事は色々あるけど、頑張りましょう瑞鶴」

 

 

 この鎮守府は潮岬町鎮守府。和歌山県潮岬町にある地方の鎮守府だ。隣には紀伊大島があり、この海一帯の制圧海域を警備している。地方鎮守府でありながら艦娘の所属人数は全艦合わせて百名以上、第六艦隊まで編成する事の出来る大規模な前衛基地だ。

 

 倉庫は第一倉庫から第六倉庫まで設置、艦娘のみ無料の食堂や風呂と合わせた入渠施設。艦娘の建造や装備の開発、また艦娘の艤装メンテナンスなどを手掛ける工廠がある。

 

 門を開けば水平線が見える公共広場があり、寮と呼ばれた建物は計六つ。それぞれ駆逐艦寮、軽巡洋艦寮、重巡洋艦寮、戦艦寮、航空母艦寮、潜水艦又は海防艦などの数少ない種類の艦が集う寮が配備されている。全室冷房暖房完備、艦娘の好みに合わせて洋室か和室かで別れている。

 

 寮と寮の建物の間に挟まれているのは第二広場、公共広場とは少し規模が小さい。鎮守府の四方は約二メートルの壁に囲まれており、隣には砂浜に行く為の扉が設置されている。

 

 

「さて翔鶴、君にはある事を二つしてもらうよ」

「二つ、ですか?」

 

 

 翔鶴が潮岬町鎮守府に着任して二日が経過。蒼色は翔鶴を執務室に呼び出し、傍にいる瑞鶴を一旦執務室の外へ引き離した。

 

 

「そう。一つ目は翔鶴の練度向上訓練プログラム。翔鶴は貴重な航空母艦だからね、これから出撃する為にも演習と訓練を何週間か受けてもらうよ。もう二つ目は社会学習プログラム。あまり私が心配するは無いんだけど、念の為に人間として生きていく為の社会のルールやマナー、その他諸々を学習してもらう。大丈夫かな?」

「は、はい! よろしくお願いします!」

「元気があってよろしい! んじゃ、瑞鶴ー」

 

 

 執務室の外に瑞鶴を呼び出し、練度向上訓練プログラムの面倒役は妹の瑞鶴が担ってくれた。最初は適度な運動、体操や持久走など単純な事をする事になった。

 

 次に実戦を想定した模擬演習。艦娘との一対一で戦い合う、至ってシンプルな訓練だ。翔鶴が持っていた装備は零式艦戦二十一型、九九式艦爆、九九式艦攻。そして瑞鶴に貸してもらった流星を使って演習は始まった。

 

 初めて戦った事もあって最初はボロ負けだった。相手をしてもらった赤城が得意や不得意な点を指摘してもらい、その日の訓練は終わった。

 

 訓練が終わった後は社会学習プログラム。瑞鶴を始め、長門や陸奥に言葉遣いや立ち振る舞い、入渠施設の使い方や食堂でのルール、外の世界は如何なるものかを教えてもらった。

 

 最初はとても大変だった。覚えなければいけない事が山ほどあり、艦隊での演習や秘書艦の仕事など沢山の事を経験した。渡されたメモ帳はびっしり教えられた事が事細かに書かれており、自室の壁はメモ帳や写真などで徐々に埋まっていった。

 

 大変だったが、それ以上に楽しかった。

 全てに恵まれ、不安な事は何一つ無かった。初めての演習で負けてしまってもお互いにフォローし合い、訓練には瑞鶴を始め赤城や加賀などの空母が手伝ってくれた。秘書艦の仕事でも間違いがあっても蒼色は優しく対応してくれる。初めての出撃は鎮守府海域の制圧で蒼色の指揮と艦隊の皆に支えられ、難なく戦い終える事が出来た。

 

 

「皆お疲れ様! 今日はゆっくりと休んでね。あ、翔鶴、君だけはまだ残ってね」

「は、はい……分かりました」

 

 

 何度か出撃を終えて、蒼色に報告し終わった時だった。翔鶴だけが残る事を言われ、他の皆は先に執務室を出ていく。何故自分だけ残されたのか翔鶴は不安になりつつ蒼色の指示に従った。

 

 

「ごめんね翔鶴。一人にしてもらって」

「いえ大丈夫ですよ提督。でも何故私だけですか?」

「実はね練度向上の為に君をしばらく私の秘書艦にしたくてさ。君の意見を聞きたかったんだ」

 

 

 蒼色は照れ臭そうに頭を掻いて翔鶴に聞いた。目的は練度向上の為の秘書艦任務、もっと強くなって皆の役に立ちたかった翔鶴の答えは決まっていた。

 

 

「はい! 私も皆さんの為に頑張りたいです! こちらこそよろしくお願いします」

 

 

 あの日から蒼色と秘書艦翔鶴の日々が始まった。

 

 朝七時。

 蒼色は寝起きがとても悪い為にまず秘書艦の翔鶴が起こしにいかなければならない。秘書艦になった艦娘は全員経験しており、皆許容している範囲だとか。

 

 

「提督~……? 朝です──」「バナナはおやつだバカヤロー!!!」

「ヒィィ!!」

 

 

 朝七時半に食堂にて共に朝食を取り、朝八時に仕事開始。遠征任務の報告書や開発実験の報告書、大本営から課された任務の内容書に訓練内容の確認、やる事は様々だった。昼十二時までデスクワークを終わらせ、食堂にて昼食を共に取る。

 

 

「そういえば今日って何曜日だっけ?」

「今日は木曜日ですね」

「木曜日か~……あっ! ドラマ録画するの忘れた!!」

「へ?」

 

 

 昼十三時から他方の鎮守府の艦隊と演習。艦隊にいる艦娘のデータをメモし、資料と報告書に書き起こす。演習が終わり次第、潮岬町鎮守府へ帰還。

 

 昼十五時から戦闘任務と遠征任務。出撃する艦隊と遠征に行く艦隊を編成し、それぞれ出撃していく。秘書艦の翔鶴は戦闘任務の艦隊旗艦、攻略中の海域へ戦闘を仕掛けた。無事戦闘を終えて鎮守府に帰還し、蒼色が出迎えてくれた。翔鶴は出撃報告書を作成し、出来次第に蒼色へ提出。

 

 夜十九時まで蒼色と翔鶴で書類の最終チェック。全ての書類を書き終えた後に大本営へ提出し、今日の職務は終了する。夜十九時になってから共に夕ご飯を取った。

 

 

「翔鶴、これで君の仕事は終わりだよ。お疲れ様」

「はい、ありがとうございます!」

「どうかな? これが毎日続く事になるけど」

「いえ大丈夫ですよ。案外秘書艦も楽しいので……何より提督の素顔が見れて退屈しないな、と……あれ?」

 

 

 翔鶴の言葉を聞いて蒼色の顔は青ざめていた。持っていた箸を落とし、何か気まずいような表情をしている。数秒遅れて気付いた翔鶴は何かまずい事を言ったのかと心配した。

 

 

「やばっ……いつもの感じで醜態を晒してしまった……」

「え? どういう事ですか?」

「あ~翔鶴は知らんよなぁ~」

 

 

 翔鶴の背後の席に座っていた龍驤が声を掛ける。爪楊枝を歯に挟み、ニヤけた表情で蒼色を見ていた。龍驤は翔鶴の耳を近付き、コソコソ話をするように小さい声で喋る。

 

 

「実は提督な、演技してんねん」

「演技ですか?」

「そそ、翔鶴が綺麗過ぎてな? 提督がカッコいい所見せようと見栄張って──」「それ以上言うな龍驤ォ!!」

 

 

 蒼色が赤面しながら声を上げて龍驤を注意する。龍驤の言っていた事はどうも本当で本来の自分を隠していたらしい。確かに朝の寝起きの悪さやこの口調を見れば隠していたのは丸見えだ。翔鶴も薄々勘づいてたが、あまり気にしてはいなかった。

 

 

「あーもう最悪だ……バレちまったなんて……」

「見栄張るからやで~」

「うるせぇ……! ちくしょう……!」

「あ、あの提督!」

 

 

 自分の姿がバレてしまった事に余程悔しがっているようだ。散々見栄張ってるのを見てきた龍驤はケラケラと笑いながらその場を去っていく。周りの艦娘達の反応も見て間違いないだろう。翔鶴は慌てて蒼色に声を掛けた。

 

 

「私はそのままの提督の方が良いかなって思います。そちらの方が私としては親しみが持てるので……元気出してください」

「そ、そうかな……? 大丈夫かな……?」

「はい大丈夫ですよ」

 

 

 翔鶴の答えに蒼色は徐々に表情が崩れる。蒼色はとても表情が豊かで、部下である艦娘にはまるで友達の様に躊躇いなく話していた。提督と艦娘同士の仲はとても良く、話す姿を見て翔鶴も憧れた。

 

 いつか自分も他愛の無い会話をして、平和な日常を過ごせたら。

 

 それはとても楽しいものだろう。

 

 やがてこんな一日が五ヶ月も続く。毎日蒼色を起こして仕事に励み、訓練を受けては出撃で練度を高め、御飯を食べて寝る。忙しかった仕事は慣れてしまい、訓練や出撃も難なくこなしていく。いつの間にか艦隊にも馴染む事ができ、徐々に蒼色と翔鶴の距離も縮まっていた。

 

 

「よし……そろそろ始めようかな」

「そうですね」

 

 

 翔鶴が着任して半年が経ち、練度も九十以上になった時の事。蒼色は艦娘達を全員広場へ呼び出し、ある事を始める集会を行った。

 

 

「明日から横須賀鎮守府を初めとした各鎮守府との連携で難攻不落とされた硫黄島海域を奪還作戦を決行する。小笠原諸島海域奪還作戦の様にまた激しい戦いになるだろう。君たちは覚悟してほしい」

 

 

 他方の鎮守府が幾度となく攻め破れた難攻不落の硫黄島海域を今から奪還する作戦を大本営は発令。目的は制圧海域の拡大と硫黄島の最前線基地の建設、厄介な陸上型深海棲艦の殲滅。

 

 潮岬町鎮守府の艦隊は主に前線部隊、海域攻略の第一線を担う事になった。以前に小笠原諸島海域を奪還した成績による配分だろう。作戦内容を伝えられた艦娘達の士気は上がりに上がり、各自出撃の為の準備を行った。

 

 

「翔鶴、もしこの作戦が終われば君に話したい事がある」

「この作戦が、ですか?」

「あぁ……だからお互いに頑張ろうな!」

「分かりました……私達の力を見せつけましょう!」

 

 

 そして硫黄島海域奪還作戦は開始。

 

 翔鶴率いる連合艦隊が硫黄島海域に出撃した。初めての大規模作戦で少し緊張していたが、それをさせる暇もなく深海棲艦と激突。深海海月姫や港湾棲姫、リコリス棲姫など危険な姫クラスなどが挙って現れ、戦闘は更に激しくなった。蒼色の指揮に従い、次々に深海棲艦を撃破していく。誰かが大破すれば二人でカバーし合い、無理があるならばすぐに帰還。鎮守府にて修復し、適度に休憩した後また出撃。

 

 蒼色は艦娘のストレスや疲労を考えて帰還する度に艦隊を再編成。鎮守府で待機していた艦娘達を出撃させ、その間に帰還した艦娘達の修復と休憩を優先した。

 

 やがて硫黄島海域にて最後に足掻いていた深海海月姫が翔鶴達の攻撃により撃破。他の深海棲艦達も殲滅され、硫黄島海域を奪還する事が出来た。

 

 二週間掛かった作戦は終了、硫黄島海域は制圧する事に成功した。大本営はすぐさまに硫黄島にて最前線基地を建設。翔鶴達はその護衛を任され、建設されるまでの護衛任務を請け負った。後に硫黄島の最前線基地は戦闘狂の艦娘達が集まり、手当たり次第に取り戻さんとする深海棲艦を殲滅していく。

 

 

「皆お疲れ様! 今日はゆっくりと身体を休ませてくれ!!」

 

 

 潮岬町鎮守府では祝賀会が開かれ、艦娘達や整備士達を含めた全員が騒ぎあった。食堂の中はお祭り騒ぎ状態、蒼色も酒を飲んでは馬鹿笑いした。翔鶴も瑞鶴や赤城達と盛り上がり、更にヒートアップ。祝賀会は何時間も続き、酔いが回ってきた翔鶴は食堂を抜け出し、岸辺を散歩して風に当たっていた。

 

 

「色んな事があったなぁ……」

 

 

 風に当たりながら翔鶴は思い出に浸る。着任してから退屈しない毎日だった。

 

 初めて演習で足を引っ張ってしまった事、

 初めて出撃でMVPを取れた事、

 初めて仕事で提督と徹夜した事、

 初めて外に出た事、

 

 本当に楽しかった日々だ。

 

 これからどんな事が起こるのだろう。

 もっと楽しい事が始まるはずだ、今この鎮守府にいる仲間なら、艦隊の指揮を執る提督なら、いつまでも笑っていられるような毎日が来る。

 

 例えどんな障害だろうと皆がいれば大丈夫。そんな気がする。

 

 確かな確証は無いけれど、きっと大丈夫なはず。

 

 

「翔鶴!」

「あれ提督……皆さんの事はいいんですか?」

 

 

 岸辺に一人座る翔鶴を呼ぶ声がした。後ろを振り向けば蒼色が走って来ていた。翔鶴は立ち上がって蒼色の方へ身体を向ける。

 

 

「いいのいいの! トイレ行くつって騙して来たから」

「そ、そうですか」

 

 

 蒼色の顔は若干赤くなっている。酒の飲み過ぎだろうか、酔っているように見えた。蒼色曰く、酔いが回ってきた為に風に当たりたいらしい。そこにちょうど翔鶴がいて、声を掛けたとか。

 

 

「そういえば君に話したい事があるって言った事覚えてるかな?」

「あ、そういえばそうでしたね……話って何ですか?」

「あ、そそそそそうだな……えーっと……そうだなー……あー……」

 

 

 大規模作戦のお陰か忘れそうになっていた翔鶴。蒼色に言われて思い出し、何も探る事無く話し掛けた。

 

 すると蒼色は突然赤みがかった顔を更に紅潮させ、恥ずかしそうに俯き出す。

 

 

「どうしました提督?」

 

「早く言え言え! キシシシシ」

「漢見せろー!」

「だらしない男ね」

「翔鶴姉……」

 

 

 翔鶴はこれから言われる事など予想もしていない。装備の事か艦隊編成について話し合うのかと思っていた。蒼色の背後には龍驤や那智、瑞鶴や■■医師などが影からヤジを飛ばしている。ヤジが聞こえた蒼色は悔しそうに愚痴を零した。

 

 

「うぅぅ……あーもう決めた!! 翔鶴!!!」

「はい!?」

 

 

 蒼色に突然肩を掴まれ、驚いた声を出す翔鶴。蒼色の顔が徐々に近づき、翔鶴は目が見られずにそっぽ向く。蒼色は一旦深呼吸、自身を落ち着かせ空を眺めた。

 そして──、

 

 

「貴方が着任して初めて会った時から貴方に一目惚れでした……こんな私でよければですが……ケッコンしてくれませんか……!」

「……ふぇ?」

 

 

 蒼色の言葉に理解出来ず、翔鶴は思わず腑抜けた声を出した。

 勿論ケッコンという言葉は知っている。ある種の指輪を象った装備で、一人の提督と一人の艦娘が身に付ける事が出来る代物。身に付ければ艦娘には更なる強化が追加され、新たな力を手に入れる事が出来るパワーアップアイテムだ。条件としては練度が九十九の艦娘、勲章を授かった軍人にしか効果が発揮されない。また結婚指輪を象ったものとして艦娘間では噂が耐えない且つ狙っている者もいる。

 

 

「わ、私ですか……?」

「はい……そうです……!」

 

 

 翔鶴の練度は九十九、蒼色も幾度か勲章を貰っている為に条件には当てはまっている。だが他にも練度が九十九の艦娘はいたはずだ。まさか自分が選ばれるとは微塵にも思わなかっただろう。

 

 

「……こちらこそよろしくお願いします、提督」

「ほ、本当に!?」

「はい!」

 

 

 迷う事なく翔鶴は快く蒼色のプロポーズを受け入れた。翔鶴が蒼色と共に経験してきた中で芽生えていたのは蒼色の好意。誰にでも平等に優しく接し、いつも楽しく笑っている蒼色に翔鶴もまた惚れていた。彼の傍にい続けたい、彼と共にいたい。そういった想いが翔鶴の心の中で芽生えていた。

 

 

「ありがとう……翔鶴。んじゃ、いいかな……?」

「はい……お願いします……」

 

 

 蒼色は照れながら指輪を翔鶴の薬指へ嵌めていき、翔鶴も蒼色の薬指へ指輪を嵌めていく。ここにケッコンカッコカリの儀式は終了、今二人は完璧に繋がったのだ。すると陰で見ていた龍驤達が祝福の声を上げ、二人を盛大に祝ってきた。

 

 

「ひゅ~! こりゃめでたい日になったで!」

「おめでとう翔鶴姉!!」

「おめでとう二人共」

「おめでとう蒼■さん、翔鶴」

「はい! ありがとうございます!」

「えへへ~いいだろ~!」

 

 

 祝いの声に翔鶴は元気に答えた。蒼色は薬指の指輪を自慢し、鼻の下を擦っている。瑞鶴は翔鶴に抱きかかり、只管に何か喋っていた。龍驤や那智らは蒼色をからかい、反応を面白がっている。

 

 

 

 その光景を見て翔鶴は幸せに満ち溢れたような笑顔で笑っていた。

 

 

 

 本当に幸せだった。

 

 

 

 本当に──、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──幸せだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちら第四艦隊、これより鎮守府へ帰還します。今のところ北ソロモン海域に問題は無し、敵影も発見されません」

『了解。帰還次第に報告せよ、また緊急時の場合も即報告するように』

「了解しました……ん? アレは……深海棲艦!? しかも姫級……え……──」

 

 

 

「──アレは人?」

 

 

 

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