うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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胸糞警報最大レベル維持。
これにて過去の話は終わりになります。


140. 「秘めていた、変わらないはずの想い」6/6

 一ヶ月に一回の食事の日が回り、味のしない固形食を食べ終えたその次の日。突然艦娘同士で争いが勃発し、仲間割れが始まったのだ。躊躇いもなく仲間を蹴り飛ばし、罵倒の声がそこらじゅうで聞こえてくる。また様子がおかしくなった事態に翔鶴は■■少尉に問い詰めた。

 

 

「いきなり皆さんが争い始めました!! 一体何をしたんですか!!?」

「強い艦娘だけを優遇しただけだ。他の弱いゴミ共とは違うという固定概念を植え付けさせたんだよ」

 

 

 態度が豹変したのはいずれも戦闘経験が豊富且つ、練度が九十五以上の艦娘だった。金剛型姉妹や阿賀野に矢矧と能代、加賀や瑞鶴、加古や川内に祥鳳、更に龍驤や葛城、利根や筑摩、妙高や那智、一部の軽巡洋艦や駆逐艦までもが変わってしまっていた。

 

 

「何故そんな事を!!」

「その方がやりやすいからだよ」

「貴方は私だけでなく仲間でさえも壊すつもりですか!!?」

「俺は壊してない、彼女達が自らやってるんだ」

「言わせておけばァァァ!!!!」

 

 

 ■■少尉の外道っぷりに翔鶴は再び激昴する。しかし突然現れた赤城によって止められ、翔鶴は■■少尉のいる執務室から引き離された。翔鶴を抱える赤城は一旦自身の部屋に連れていき、翔鶴を部屋の中へ投げ飛ばす。

 

 

「翔鶴さん、感情的になってはダメです。一回落ち着いて状況を把握するべきですよ」

「でも赤城さん! 私は……!!」

「分かります、それでも落ち着いて。皆さんが突如豹変したのは私も把握しています、恐らく昨日の固形食に何かしら仕込まれていたのでしょう」

 

 

 赤城は翔鶴の様に客観的に状況を把握出来ていた。■■少尉の仕掛けた優遇制度による性格の豹変は見受けられない。

 

 

「赤城さんは……何故……!」

「私にも分かりません。恐らく薬の効果などは受けない体質なのかもしれませんね……取り敢えず、落ち着きましたか?」

「は、はい……」

 

 

 赤城に落ち着くように言われ、翔鶴は身体を休ませた。赤城と加賀の部屋はとても綺麗に整えられていて、赤城の机にだけノートや資料が散らばっていた。赤城は机から資料を取り出し、何かを探している。

 

 

「朗報ですよ翔鶴さん。緊急停止装置の場所が分かったんです」

「え、本当ですか!?」

「はい。緊急停止装置は私達の艤装に取り付けられていました」

 

 

 赤城の研究により、緊急停止装置は自由に格納出来る艤装に取り付けられていた。

 

 艦娘は意のままに自身の艤装を展開や格納、又は離別する事が出来る。艤装と身体が接する部分にある程度のスペースさえあればその場で展開出来る仕組みで、普段は特殊な光学迷彩で物質ごと透過して触れる事は出来ない。その艤装に緊急停止装置は取り付けられており、艤装と一緒に透過していた為に誰もが不意をつかれていた。確かに■■少尉に電流を流される時はいつも艤装を展開している時で普段の姿でいる時は何も無かった。

 

 

「ですが自爆装置はまだ分かりません……これが一番危ないと言うのに……」

「い、いえ! 緊急停止装置だけでも見つければ大発見ですよ……!」

「ありがとうございます。実は後もう一つ、朗報があるんですよね」

「それは一体……何ですか?」

 

 

 もう一つ朗報があると聞いて翔鶴は唾を飲む。緊急停止装置と自爆装置以外だとすれば残るは薬の発端。■■少尉がどうやって禁止されているはずの薬を入手し、使用しているのか。上層部が協力して薬を仕入れているのならまだ分かる。

 だが何故記憶を改竄する薬と今回の性格を豹変させてしまう薬をわざわざ使用したのか、それが分からなかった。何の目的で、なんの為に使うのか理由が分からない。

 

 

「性格を変えてしまう薬の発端です。恐らくこの薬、この鎮守府の明石さんが開発していたモノかと思います」

「明石……さんが……!? でも何故……」

「記憶を改竄された当日、私は彼女の変化を確認しに行きました」

 

 

 赤城は記憶が改竄された当日に、明石の変化を確認する為に工廠へ向かっていた。赤城が来るなり明石はあからさまにオドオドとした表情で接しており、何か隠していると赤城は予想したらしい。

 

 

「そして皆さんの性格が変わってしまった今日、私は即座に明石の元へ向かい半分脅して問い詰めました」

「そうしたら……?」

「あっさり彼女は自分が薬を開発した事を自白してくれましたよ。何でも■■少尉に脅されて開発する他無かったようです。緊急停止装置の影響もあったんでしょう、怯えてしまうのは当然の事ですしね」

 

 

 赤城は明石を脅して、薬の開発を自白させていた。明石は■■少尉に刃向かえば殺すと脅され、性格を変えてしまう薬の開発を命令されていたらしい。当然明石は開発などしたくなかった様だったが、自己保身の為にせざるを得なかったようだ。その後は薬の効果や発動時間など余す事無く全てを告白してくれた。

 

 

「記憶を改竄された薬は明石さんが開発したモノではありませんでしたが、性格を変えてしまう薬は■■少尉に頼まれ開発したようです。効果は一週間、恐らく一週間に一回の食事で効果を延長させる為に設けたのでしょう」

「でしたら、この事を皆さんに教えて食べないように呼び掛ければ……!」

「はい。優遇制度とやらはすぐに終わりますね」

 

 

 赤城の研究により、■■少尉の優遇制度は終わるはずだった。

 

 だが何故か優遇されてしまった艦娘達は■■少尉の言う事を忠実に聞くようになっていた。いくら食べないでと呼び掛けても無視され、固形食を食べてしまう始末で止められなかった。唯一止める事が出来たのは龍驤、那智、利根、葛城のみ。それ以外の艦娘は薬の効果が強いのか聞く耳すら持たなくなっていた。自身の性格を取り戻した龍驤達は再度赤城の話に耳を傾ける。

 

 赤城は自身が■■少尉の蛮行に気付いた事により、度々命を狙われている事を把握した上でこれからやるべき事を順に教えていった。秘書艦の翔鶴の情報によると艦娘達は一種の洗脳を施されているらしく、■■少尉の命令に忠実になっている仕組みの様だ。目を覚ました利根と那智に協力してもらい、筑摩と妙高は洗脳から解き放つ事に成功。そして加賀や瑞鶴、金剛も順調に目覚めさせていくはずだった。

 

 

「赤城さんが……行方不明!?」

 

 

 昨夜から赤城が大量の血跡を残して行方不明になった。原因は■■少尉が仕向けた加賀による暗殺の失敗、部屋は血塗れで斬られた赤城の左腕が生々しく残っていたらしい。窓は逃げたと思われる突き破った形跡があり、恐らく逃げれたとしても部屋中に散らばった大量の血痕の跡から失血死は間逃れないと■■医師は歯を食いしばりながら翔鶴達に告げた。

 

 

「……一旦は落ち着きましょう。赤城さんならきっと大丈夫よ。私達はやるべき事に集中しないと」

 

 

 赤城の消失に翔鶴は深呼吸して自身を落ち着かせる。以前に赤城から言われた事を思い出して、感情を抑えるように心を整えた。赤城なら大丈夫だ、あれぐらいの怪我だろうと必ず生きて戻ってくる。赤城の事を信じ続け、翔鶴は前を向いた。

 

 

「翔鶴、吹雪と深雪を連れてこい」

「……分かりました」

 

 

 優遇制度が始まって二ヶ月が経過。

 最近は■■少尉の蛮行を阻止する計画を立てるのに寝る時間を割いていたおかげで睡眠不足、■■少尉の頻繁に起こるセクハラの横暴。目にクマが出来ており、少しやせ細った姿になっていた。

 

 そんな日に突如■■少尉が吹雪と深雪を呼ぶように翔鶴に命令した。嫌々ながら翔鶴は駆逐艦寮にいる吹雪と深雪を呼び出しへ向かう。二人は■■少尉に呼ばれた事を聞いて身体を震わせ怯え出したが、翔鶴が何とか守ってみせると無理矢理言い聞かせ二人と共に執務室へ向かった。

 

 執務室に来た吹雪と深雪は憲兵達に腕を拘束され、■■少尉についてこいとある場所へ連れていかれた。秘書艦の翔鶴も二人を守る様に密接にくっつきながら■■少尉の後を追う。

 

 ■■少尉が向かったのは地下営倉。反抗した艦娘達が牢屋に入れられ、貧相な牢獄生活を強いられている地獄のような場所。営倉には天龍や長門など、反抗した艦娘が手足を拘束された状態で俯いていた。鼻を突くような異臭と思わずえずいてしまうような凄惨な光景に吹雪と深雪は身を呈して守ってくれた翔鶴に縋り付く。その地下営倉を抜け、ある部屋に辿り着いた。

 

 

「さて……調子はどうだ、ネ級」

 

 

 ■■少尉が呼んだ名前を聞いて、翔鶴達は耳を疑う。部屋の中には人類の敵である深海棲艦の一人、重巡ネ級が何故かいたのだ。更にはその重巡ネ級を囲うようにして物騒な道具や機械、薬品等が散らばっている。

 

 

「連レテキタノカ、実験体ヲ。早速ヤルゾ」

「あぁ分かっ──」「ちょっと待ってください!!!!」

 

 

 重巡ネ級と■■少尉の会話を遮って翔鶴が大声を上げる。翔鶴は吹雪と深雪を自身の背後に隠し、艤装を展開した状態で敵視していた。

 

 

「何故貴方が深海棲艦と……!!!」

「あぁそうか。伝えてなかったな……まぁいずれ知られる事だ、教えてやるよ。実は近々俺は深海棲艦の提督になるんだわ」

「はァ!!? 何を言ってるんですか!! そんな事をすれば貴方はタダじゃすみませんよ!!! 第一どうやってこの鎮守府に深海棲艦が……!」

「俺の権限で一部の警戒網を薄くすれば簡単な事だ、そんな脅迫されても意味無いぞ……やれ」

 

 

 命令された重巡ネ級は翔鶴達の元へ歩み寄る。更に暗闇に隠れていたのか雷巡ホ級や戦艦タ級が目を淡く黄色に光らせて翔鶴達を囲んだ。小さな部屋の中で艦載機は発艦出来ないこの状況で翔鶴達に勝てる見込みは無い。翔鶴は抗おうと対人戦闘技術で応戦するも二匹の深海棲艦では部が悪く、床に叩きつけられ拘束されてしまう。翔鶴が守っていた吹雪と深雪があえなく重巡ネ級に連れていかれ、中央のベッドの様な実験台に深雪が乗せられた。

 

 そして──、

 

 

「やめてください司令官!! 二人はまだ戦えますから!! 殺すのだけは!!!」

「ネ級、投与しろ」

「やめてください!! やめ、やめて!! お願いッ!! やめてェェ!!! 私達は──」

 

 

 翔鶴や吹雪の懇願は全く届かず、実験台に乗る深雪にある液体を注射器で取り込ませた重巡ネ級。床に這いつくばる吹雪は只管に深雪の名前を呼んでは泣き叫んでいる。

 

 すると深雪は突然痙攣しながら悲鳴を上げ、身体が肉塊へと変形していった。更に肉塊は巨大化し、徐々に白く染まっていく。そこに人の形などなく、黒い装甲に身包まれた深海棲艦の姿があった。

 が──、

 

 

「……失敗か」

 

 

 黒い装甲に包まれた何かは突然収縮し始め、ただの肉塊と成り果てる。それを見ていた翔鶴と吹雪は言葉を失い、頭が真っ白になってしまった。

 

 実験台の上に、本来の深雪の姿はいなかった。

 

 その後反抗したと思われてしまった翔鶴は再び地下営倉に閉じ込められ、その間は吹雪が秘書艦として担う事になった。

 

 翔鶴はあの光景が脳裏に焼き付いてしまい、何も感じない廃人になりかけていた。最早抗う力や精神は既に無く、何をされても動じない人形そのものようになってしまっていた。

 

 更に追い打ちを掛ける様に翔鶴を絶望の底へ落としていく。■■少尉の無理矢理な指揮により、次々に仲間が沈んでしまっていた。何とか龍驤達が轟沈率を下げ、自ら身を呈して戦闘に集中するも次第に疲労が蓄積。休憩は五分と短く疲労とストレスは溜まりに溜まり、精神を削ぎ落とされていく一方で最早自身の身を守るだけで精一杯になっていた。

 

 殆どが最強と言われた戦艦棲鬼による砲撃と嬲殺で、遺品は艤装の破片やその一部のみ。使えないと決められた艦娘は旧式解体で処理され、資材を無駄に使っては建造して出撃させる毎日だった。またこの時■■少尉に操られた金剛四姉妹も被害者となり、金剛以外の三人は旧式解体で処理され、後に新たな三人が建造される事となる。

 

 

「あ、翔鶴。あの事アイツらに言ったら妹の瑞鶴を爆散させるからな。緊急停止装置は見破られたとはいえ、自爆装置はどこにあるかまだ分からないだろうしな……覚えとけよ」

「……分かり……ました」

 

 

 緊急停止装置の件については■■少尉も把握しており、赤城が失踪する前から翔鶴達が緊急停止装置の位置を発見した事に気付いている。とはいえ■■少尉の言う通り、自爆装置の場所はまだ分からず前途多難だった。

 

 この装置さえ無ければ、すぐさまこの男を消せると言うのに。

 

 しかし遂に翔鶴はトドメを刺されてしまう。仲間の一人だった筑摩と妙高が■■少尉の実験台となり、醜い深海棲艦の肉塊へと成れ果ててしまった。自爆装置で脅してきた事をいい理由に、筑摩や妙高は残った姉妹に想いを託して自ら実験体となって肉塊と変貌し、その命を落とした。その一部始終を見ていた翔鶴は誰もいない部屋で泣き崩れ、情けない自分を責め続ける。

 

 

「翔鶴、とうとう最終実験だ。実験体はお前にする」

「……どうぞ……仰せのままに」

 

 

 ■■少尉は最終実験と宣言し、翔鶴を実験体に決めた。憲兵に腕を拘束され、翔鶴はされるがままあの部屋へ向かう。

 

 不思議と部屋に近づく度に自身があの結末を迎える事に恐怖は無かった。翔鶴の中では負の感情で溢れ出し、自ら死を願うほど心が荒んでいる状態。精神崩壊は一歩手前、いつ自我を失ってもおかしくなかった。

 

 実験台の様なベッドに仰向けとなり、身体を二重に拘束されていく。天井には眩しく光る蛍光灯、少々血腥い臭いがした。

 

 そして注射器に禍々しい色をした液体を注入され、翔鶴はゆっくりと目を閉じる。

 

 

 

 私はここで死ぬ。

 もう泣かなくてもいいんだ。

 もう辛い事は無いんだ。

 

 私は頑張ったんだ。

 身を滅ぼしてでも頑張ったんだ。

 

 決して褒め称えて欲しくて頑張ったんじゃない。

 本当に皆さんを守りたかったから、私は頑張った。

 

 でも全てが無意味だった。

 どれだけ頑張っても無力だった。

 

 私は無力だ。

 

 仲間を、皆を守れなかった。

 怯える皆さんを救えなかった。

 大好きなあの人を救えなかった。

 

 もうあの人に、私は会えない

 

 あの人の約束を果たせずに破ってしまった。

 

 もうあの人は私を振り向いてくれない。

 

 もう私は誰も守れない。

 

 

「イヤ~? マダチャンスハァ~……アルト思ウヨ~?」

 

 

 突然の聞き慣れない声に翔鶴はゆっくりと目を開く。周囲は訳の分からない異質な空間が広がっていた。目の前は黒い闇が広がっており、翔鶴の背後には白い背景が地平線無く永遠と続いている。一切物音はせず、風の流れや全く感じはしない。

 

 すると目の前の黒い空間からあるモノが現れた。

 

 

「貴方は……!」

「ヤァ初メマシテ、私ハ深海棲艦ノ空母水鬼ダヨ」

 

 

 翔鶴の前には空母水鬼がいた。

 翔鶴が艤装を展開して身構えようとするも全く出てこない。

 

 

「ア、無理ダヨ。コノ空間ジャ何モ出来ナイミタイダシ。私モ出来ナカッタ」

「……この空間は何なんですか……! 貴方は何をするつもりなんですか!!」

 

 

 何も感じるはずのない異質な空間に翔鶴の声が反響して響き渡る。翔鶴は空母水鬼を警戒し、艤装が展開出来ないならと対人戦闘技術で身構えた。空母水鬼は惚けた表情で辺りを見渡し、物珍しそうに眺めている。

 

 

「……ネェ翔鶴」

「何ですか……!」

「仲間……マタ守ッテミタイト思ワナイ?」

「っ!!?」

 

 

 空母水鬼は満面の笑みで口に指を触れさせながら翔鶴に問い掛けた。驚きの言葉に翔鶴は驚愕の声を漏らす。まさか空母水鬼から仲間を守るなどという言葉を耳にするとは思わなかった。

 だがそれだけその言葉がとても怪しく見える。翔鶴はまるで吠える番犬のように声を荒らげて空母水鬼に口答えた。

 

 

「早く戦うなら構えなさい!! 貴方の妄言に付き合ってる暇なんて無いんです!!」

「イヤ戦ウ気ハ無イシ、妄言トカジャナインダケド……タダ貴方ガ後悔シテソウナ表情ヲシテタカラ言ッタダケデ」

「私はこれから貴方に殺されて本当に死ぬんですよ!! 早く殺しなさい!!!」

 

 

 翔鶴はこの状況から察するに自身が空母水鬼に殺される事で元の世界の翔鶴は空母水鬼になるか、はたまた肉塊へと成り果てるかのどちらかになると思っていた。■■少尉の実験体となり、翔鶴は死んだも同然の様な状態にいる。翔鶴にとって空母水鬼の台詞は殺されるまでの時間を引き伸ばされ、翔鶴の反応を確かめたいだけの煽りでしかない。

 

 

「ソンナ死ニ急ガナクテモイイノニ~。トリアエズ言ッテオクヨ? 翔鶴ハマダ死ンデナイ」

「は……?」

「確カニ翔鶴ハ私ノ全テヲ身体ニ注ギ込マレテ、元ノ翔鶴デハ無クナッテシマッテイル。デモソレハ元ノ翔鶴デハ無クナル話」

 

 

 翔鶴の身体は今、空母水鬼となりどちらが主導権を握るか争っている。その争いがこの空間の中で行われるらしい。翔鶴が殺されれば翔鶴の身体は空母水鬼の物となり、翔鶴の元の人格は消えて新たな空母水鬼に生まれ変わる。その逆も存在し、もし翔鶴が空母水鬼を殺せば翔鶴の身体は肉塊となり、そのまま死ねると言う。

 

 だがそこで空母水鬼は新たな条件を提案した。互いに殺し合うのではなく協力関係を結ぶ事で翔鶴と空母水鬼は表裏一体の存在となり、互いに力を使用出来るだけでなく自由に姿を変える事も出来るらしい。そうすればまた仲間を守れると空母水鬼は豪語した。

 

 

「そんな事……信じれる訳無いじゃないですか……!!」

「イヤ本当ニ出来ルヨ? 何ナラ、翔鶴ニ主導権ヲアゲタ状態デ私ノ力ヲ使ッテモイインダカラネ? マタ皆ヲ守レルヨ? アノ人ノ約束ハ果タセルヨ?」

 

 

 空母水鬼の台詞に翔鶴は一瞬揺らぐ。翔鶴は自身が不甲斐ない所為で仲間を守るという約束を破ってしまった挙句、■■少尉に弄ばれて実験体にされて死ぬ事になっている。

 当然翔鶴は後悔しており、背負い切れない罪の責任に押し潰されていた。あの人に会わせる顔も無い、自分は地獄に行くものだと思っていた。

 だが空母水鬼の力を借りた状態ならばまた生き残った仲間を守れる。あの忌まわしい■■少尉という男から迫害されずに済む。翔鶴の中で徐々に考えが変わっていった。

 

 

「後悔シテ死ニタクナイデショ? 成レ果テタ肉塊ニナリタクナイデショ? 私ト組メバ、マタ約束ヲ守レルヨ?」

 

 

 空母水鬼の誘いに翔鶴は警戒を解いて、少しずつ歩み寄っていく。翔鶴の精神は崩壊寸前でまともな思考は出来ていなかった。あの人の約束の事や仲間を守りたい事で必死になり、後先を考える事は出来ていなかった。

 

 

「また……私は……守れますか……?」

「ウン守レルヨ……ホラ、オイデ……? 私ノ力ヲ使ッテ、支配シテ守ロウ?」

「し……はい……?」

「支配スレバ皆ヲ守レルヨ? 支配トイウ力サエアレバ、傷ツカズニ済ムンダヨ」

 

 

 そういえばそんな事をあの男も言っていた様な気がする。

 私が無力だから仲間を守る事が出来なかった。

 私が無力だから約束を破ってしまった。

 全ては私が弱者で無力な存在だから、こんな事になってしまった。

 

 

「力が……あれば……?」

「何デモ出来ルヨ……」

「支配……すれば……?」

「皆ヲ守レルヨ……キット」

 

 

 そうだ、力さえあればまた皆を守れるんだ。

 今度は無力なんかじゃない。

 力がある私なら支配で皆を守る事が出来る。

 

 

「捕マエタ♡」

 

 

 空母水鬼が歩み寄って来た翔鶴を抱き締める。

 まるで母親に抱き締められた様な温もりが翔鶴を包み込んだ。

 

 しかし空母水鬼の表情はその抱擁とは裏腹に、翔鶴を嘲笑う様に頬が張り裂けそうな程の狂気の笑みを浮かべていた。

 

 

「今度こそ……皆を……」

「ウン……守ロウネ……」

 

 

 抱き締められた翔鶴は空母水鬼と共に黒い闇の空間の中へ消え掛けていく。翔鶴は空母水鬼にされるがまま目を瞑った。

 

 そして翔鶴の身体と空母水鬼の身体が融合する。お互いの身体が糸のように分解し始め、絡め合う様に密接に繋がっていった。次第に糸は新たな身体を形成し、それぞれの記憶や感情、思考や性格が混ざり合う。

 

 空母水鬼の支配という力による艦娘の殲滅。

 

 翔鶴の託された想いによる仲間の絶対的守護。

 

 

 二つの異なる思考が組み合わさり、混合して変化、狂っていく。

 

 

 力で支配して皆を操れば、余計な傷を負わずに済む。

 自己保身に走らせれば必ず自分の身だけは守ってくれる。

 それで死ぬ様ならそれは自分の所為だ。

 

 私は悪くない、私は頑張った。

 今度は仲間も頑張る番だ。

 私だけじゃない、皆も守る様に頑張るんだ。

 私の支配という力で守る様に頑張っていこう。

 

 

 

『最期ニヒトツ──』

『っ?』

 

 

 

 

 

 

『──オ前ッテホント……馬鹿ダヨナァ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ……」

「……やっと成功したか」

 

 

 地下の小部屋で目覚める。

 男と深海棲艦に見守られながら起き上がった。

 

 

「ふっ……」

 

 

 その表情は悲しんでいるようでほくそ笑んでいるような、全ての感情が混ざっていた。

 

 姿は翔鶴とは変わらない、だが何かが違う。

 

 

「最初に聞いておこう……お前はどちらだ?」

 

 

「私……ですか?」

 

 

「私は……──」

 

 

 

 

「──翔鶴、ですよ」

 

 

 

 

 

 

 修羅の妄執に囚われた、哀しき鉄鶴が生まれた。

 

 

 

 

 

 




そこに彼女は、もういない──。
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