うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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142. 身が朽ち果ててもソレは變わりゆく

『お願い貴方……この子と一緒に……逃げて……!』

 

『遠く離れた場所へ……私と関わる事のない所まで……!』

 

『いつかきっと……私達の夢が叶えられたら……! また──』

 

 

 

 

 

 

『──あの場所で……お話……しましょう……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翔鶴達との戦争が終結し、潮岬町鎮守府は護神厄討艦隊旗艦『(オウゲン)』叢雲によって取り締まられた。提督は護神厄討艦隊『(ビョウコウ)』金剛に保護又は救助され、横須賀鎮守府へ連れていかれる。摩耶や鹿島も『(ラセツ)』吹雪の監視下の元、事情聴取の為に横須賀鎮守府の地下営倉へ連行された。

 

 潮岬町鎮守府では『(オウゲン)』叢雲の指揮下により、艦娘達は地下営倉に全員収容。常に憲兵隊が見張るよう命令し、休憩時間では憲兵や整備士達に事情聴取。情報を掻き集め、原因を模索した。

 

 翔鶴達との戦争により、半壊した鎮守府の建物は即座に撤去。噂をかきつけた鬼の■■大佐が建築費を請け負い、新たな建物の建築が始まった。『(オウゲン)』叢雲は無傷だった講堂の中の部屋に仮司令本部を設置し、一時的に潮岬町鎮守府の提督として灰色が指揮を務める中で鎮守府近海海域の哨戒にあたる。

 

 

 そして二日後──、

 

 

「っ……」

 

 ゆっくりと重い瞼を持ち上げる。

 広がる視界には白い天井が映った。

 風に揺らされる草木の音、そしてある一定の感覚で電子音が聞こえる。風に揺らされた白く薄いカーテンが目に映り、思わず顔を横にした。

 

 見えるのは大きな窓、そして広がる蒼い空。

 次に自身の左腕、白い布団に寝る身体、自身の右腕と視線を移動させていく。

 そして最後には自身の右手を握りしめたまま、椅子に座って寝ていた摩耶がいた。

 

「……」

 

 摩耶の背後にある壁の時計を見て時間を確認する。

 

 時間は午前十一時、昼前時だ。

 

 白い天井、白いカーテン、白い壁にこの状況。

 辺りを見渡して提督は、自分は今横須賀鎮守府の医療施設にいる事を把握した。

 

「……はぁ」

 

 横須賀鎮守府に到着した時から鮮明な記憶はあまり残っていない。

 確かあの時自分は突然視界が歪み、力が抜けて倒れてしまっていた。その後の記憶は全く覚えていない。恐らく貧血か、あの液体が足りていなかった所為だろう。今はあまり身体を動かせないが、身体の感覚は平常だ。

 

「災難だな……」

 

 提督は翔鶴達との戦争を思い出し、自身の無様な姿を鼻で笑った。今思えば翔鶴に躍らされた自分が恥ずかしく思える。まさか左腕を何度も切り落とされ、死を迎えるかもしれない程の状況にまで追い込まれるとは全く想像していなかった。あの時に鹿島がいなければ本当に自分は死んでいただろう。

 

「摩耶……」

 

 摩耶にも申し訳ない限りだ。

 普段から迷惑をかけた分、随分と面倒な事に巻き込んでしまった。無理矢理にでも摩耶を攫っていれば、状況は変わっていたのかもしれない。

 正直な話、翔鶴達との戦争でも摩耶なら大丈夫だろうと過信していた。故に翔鶴が人質に取るとも思わなかった。

 

「ごめんな……」

「……っ……提督……?」

 

 提督の言葉な耳に入ったのか摩耶が目覚める。目を腕で拭い、提督の顔を確認し始めた。摩耶の目下にはクマが出来ており、深夜まで起きていたのがよく分かる。ずっと付きっきりで見守ってくれていたのだろう。

 

「提督……! 目が覚めたんだな……!」

「あぁ、そうだな」

 

 意識を取り戻した提督を見て摩耶が思わず安堵する。そして手をより一層と強く握り、涙を零して摩耶は泣きながら話した。

 

「ごめん……提督……! あたし、提督の事蹴り飛ばしちまった……本当は味方にならなきゃいけないのに、まんまと翔鶴の罠に引っ掛かってあたしは……!!」

「分かってる。お前がどれだけ抗ってくれてたのかくらい丸見えだ……あまり自身を責めるな」

 

 摩耶自身は提督の味方になれなかった事に負い目を感じていた。提督が唯一信頼出来る艦娘ゆえに摩耶は支え、支えられてきた今がある。提督を一番に信頼して一番愛しているからこそ、あの時の場面は提督の味方でありたかった。

 

 だがその支え合っていた信頼が仇になるとは夢にも思わなかっただろう。お互いがお互いに支え合い、顔を合わせずとも頼り合っていたのが逆にどちらかを不幸な目に合わせるモノとは想像し難い事だ。

 

「俺はお前に頼り過ぎていた。摩耶だったら大丈夫だろうと、期待して頼り過ぎていたんだ……お前はその期待に答えようと頑張っていた……でもお前もアイツらと同じ艦娘、一人の人間としてそう変わらない……ごめんな、頼ってばっかで」

「違う! あたしだって提督を頼ってた!! 提督なら大丈夫だろうと思ってた……!! 謝るならあたしの方なんだよ……! 提督だって自身を責めないでくれよ……」

 

 摩耶に言われて提督は初めて気付く。今自分は自分自身の事を責めていた。自身の今の性格で自分を責める事など全く無かったはずが、散々追い込まれた事で性格が変わりつつあるのだろうか。提督は空いた左腕で顔を隠し、後悔するように苦笑いした。

 

「あぁ、そうだなぁ~……自分を責めるなんて久しぶりだ……柄にでもない事をするようになったもんだな……俺も……」

 

 提督は首を傾け、窓に映る蒼空を眺める。

 空を覆い尽くす程の入道雲が成長し、飛行機雲が跡を残して消え掛けていた。

 

 あの時の夏とそう変わらない風景だ。

 確か初めて外を出た日の空もこんな風景だった。まだ子供だった自分を助けてくれたあの日からはや数年。

 

 今まで()()()()があった。

 

 人格を改変させられるのはこれで何度目だろうか。

 

「なぁ摩耶。俺はまた変わっちまったか?」

「いや……いつも通りの……提督だ」

「そうか……それは良かった」

 

 摩耶は動揺しながらも提督の問い掛けに答える。

 提督は摩耶が言わずともその表情や雰囲気で察してしまった。

 

「……変わるのは何度目だろうな。もう変わり過ぎて本来の自分なんて覚えてやしない」

 

 翔鶴との戦争で僅かながらに提督の人格は変わってしまっていた。

 間の絶えない極度な嫌がらせと暴力、プライドをズタズタにされるなどの精神的苦痛、そして時間がまるで永遠のような激しい拷問。精神が追いやられていた提督の人格に自虐的な性格が新たに作られていた。

 自分がやらなかったから自分が悪い、相手を巻き込んだのも自分の所為などという自身を責め込んでしまうような性格がいつの間にか出来上がってしまっていた。

 先程自分を責めたのも、その人格の変化による現れだろう。

 

「何度変わっても……あたしは提督の味方だ。どれだけ世界に操られても、あたしは提督についていくって決めたんだ……!」

「さーてその俺にどこまでついてこれるかなぁ~?」

 

 勿論、なりふり構わず他人に攻撃的でウザい人格は今も健在だ。

 この人格は一生変える事も、変わる事も出来ない。

 また新たに次の人格が形成され、ウザい人格の中に混合されていく。

 

 そうして出来上がったのが()()()()人格を持つ今の提督になった。

 

「そ、そうだ……■■大将から連絡する様に言われてたんだ。提督、ちょっと席を外すぞ」

「あぁ分かった」

 

 会話が途絶えてしまい、何となく気まづい摩耶は■■大将の事を思い出し、病室を去る。広い病室に提督だけが残り、草木が風に揺れる音が囁かに流れた。

 

「……」

 

 提督は窓の景色を見ながら、潮岬町鎮守府の艦娘達の事を思い浮かべる。

 初めて会った時から彼女達の事は物凄く嫌いだった。

 抗える力はあるはずなのに一向に立ち向かおうともしない行動力の無さ。

 自虐的な性格や弱気な性格、自らやろうと思わない自主性の欠如。様々な問題点ばかりで気が遠くなりそうだった。

 

 他人から言われて初めて気付くのではなく、自分を見つめ直して自分の欠点に気付く事で成長を促すのが提督の目的。目的の為ならば自分が悪になろうがお構いなしに行動し続けた。

 

 だが自分から言わなければ気付いてくれない事もあった。何ぶんこんな攻撃的な破綻した人格では本音はそう簡単に吐き出せない。故に伝えたい事も伝わってるかどうかは分からない。成長してくれるかどうかも分からなかった。

 

 しかし彼女達は自身を見つめ直し、僅かではあるが成長する様になっていた。例えそれが一ミリにも満たないモノだとしても、彼女達にとっては立派な成長だった。辿り着くまでに様々な困難があったからこそ彼女達は立派に成長したのだろう。

 

 その成長し続ける彼女達を見続け、提督の心境も変化していた。嫌っていた艦娘と馴れ合うつもりはなく、ましてや仲間を作るつもりなど無かった。仮に仲間が出来ていたとしても提督は無視し続けていた。

 

 だがその仲間という上辺だけのモノが今の自分に足りなかった必要なモノだった。仲間というモノが無意識に信頼という関係を作り出し、提督が意識せずとも頼っている場面が度々あった。

 

 恐らく自分はどこかで彼女達を信頼していたのかもしれない。表面では信頼の言葉すら考えないほど信じていなかったはずが、裏では彼女達に少なからず信じて頼っていた気持ちがあった。

 

「これだから人間は嫌いだ」

 

 

 

 ──潮岬町鎮守府

 

「僕達……これからどうなるのかな……」

「分からないっぽい……」

 

 陽の光が届かない地下営倉にて艦娘達は心配の声を上げる。翔鶴達との戦争後、地下営倉に収容された艦娘達は囚人の様な生活を強いられていた。一日中牢屋に閉じ込められ、手足は拘束器具にて自由を奪われる。

 そして憲兵に見張られてる中で朝昼晩の食事が与えられた。営倉内は綺麗に清掃されて嫌な匂いは感じないが、鉄格子に閉じ込められている為にプライバシーの配慮が全く無い。故に隣から何を話しているのか丸聞こえで、大半の艦娘が提督の安否に不安になっていた。

 

「提督……大丈夫かな……」

「多分大丈夫だよ……多分……きっと」

 

 誰もが提督の心配をしている。

 

 『(オウゲン)』叢雲からは横須賀鎮守府に到着した際、急に意識を失い倒れたと言われた。その後は何も聞かされず、提督が無事なのかどうか分からない。翔鶴達との戦争で後回しにされていたが、殆どの艦娘達は提督に対して嫌がらせという名の過剰な暴力をやってしまっている。

 

 当然忘れる筈もなく、仮にも上官である提督を死に一歩寸前の所まで追い込んでしまった事に罪悪感で押し潰されていた。自身のやりたい事を手伝ってくれた艦娘にとってはその罪悪感は凄まじいモノだろう。死を持って償わなければならないと自殺未遂を図る艦娘を止める為に、憲兵達が常に見張っては慰めの言葉で何とか止めさせていた。

 

「ん……あれは……」

 

 地下営倉の重い扉が鈍く開き、金属同士が擦れ違う音が残響して響き渡る。明るい光が地下営倉内の廊下を照らし、ある艦娘がその光を遮った。槍を構え金色の眼を輝かせる『(オウゲン)』叢雲がゆっくりと姿を現す。地下営倉を広々と眺め、近くの憲兵に話し掛けた。

 

「馬鹿共の体調は?」

「今のところ問題ありません」

「なら構わないわ、引き続き警備するように」

 

 憲兵が渡したクリップボードの報告書をスラスラと読み流し、叢雲はそのまま憲兵を返す。早足で地下営倉内の廊下を歩き、足音を周囲に響かせた。少し歩いた先で足を止め、槍を振り回して仁王立ちする。

 

「馬鹿共に朗報よ。白中将が午前十一時程に目を覚ましたわ」

 

 叢雲の報告により、牢屋にいる艦娘達は一斉にザワついた。

 提督が無事だと聞いて安堵の声を漏らす。

 

「現在は医師が様子を診ているわ。とりあえず目を覚ましただけでそれ以上は何も進展は無いわね。うん以上」

「ま、待ってくれ!」

 

 叢雲が報告を済ませて地上へ戻ろうとしたその時、一人の艦娘が叢雲を呼び止めた。叢雲は首を動かして身体を振り向かせず背後にいる艦娘を確認して睨みつける。直後溜息を吐いた叢雲は自身を呼び止めた艦娘の元まで歩み寄った。

 

「何よ天龍」

「提督に……会う事は出来ないのか……?」

「……会う? 何を言っているの貴方」

 

 天龍の問い掛けに叢雲は金色の眼で見下ろす。

 槍を石床に突き刺し、その場に座って天龍の目線に合わせた。

 

「状況を考えなさいよ。貴方達がした事は立派な殺人未遂罪という重罪、そして上官に対する暴行や暴言などの謀反……何で貴方達罪人が被害者に会えるだなんてそんな思考が出来るのかしら」

「だけどよ……! それでも俺達は……!」

「面と向かって謝りたいの? やめた方がいいんじゃない? 貴方達という存在のトラウマを抱えた被害者と快く面会なんてまた被害者を恐怖に陥れるだけだから、二次被害に等しいわよそんなの」

 

 叢雲は呆れた表情で天龍に否定の言葉を並べていく。今の艦娘達がどんな現状にいるのかを再確認させる為に叢雲は敢えて棘のある言葉を使った。

 

 何も関係の無い第三者の叢雲からすれば艦娘達は全員罪人であり、制裁をしなければならない存在として認識している。

 

 勿論人道に則り、罪を犯したとはいえ人として扱ってはいるがそれは護神厄討艦隊旗艦『(オウゲン)』叢雲だから出来る事であり、本来は大本営の管轄下となって人にあらぬ扱いを受ける事になっていた。故に艦娘達が潮岬町鎮守府の地下営倉に収容されたのはあくまで『(オウゲン)』叢雲個人による慈悲、そして戦力温存の為に更生の余地がある艦娘を見定めているだけに過ぎない。

 

 よって、ある程度であれば艦娘達の願いは耳を傾けるが罪人である以上は願いの限度も最低限となる。ましてや被害者と面会したいなど言語道断だ。

 

「まぁ仮に会えたとしても、散々暴力を振ってきただけじゃなく精神的な嫌がらせをしておいて、どの面下げて会いに来たんだって普通は怒り狂うものよ……身の程を知りなさい、同じ艦娘としているだけでも恥ずかしいぐらいだわ」

 

 『(オウゲン)』叢雲はこの鎮守府の艦娘ならば誰もが願うだろう提督との面会を拒否させた。提督本人が艦娘達と面会したいというならいざ知らず、罪人である艦娘達が面会したいと言うのはあまりにも烏滸がましい程である。

 

 しかもやっと目覚めた頃合いであり、体調の変化が激しい期間だ。会うにしても非合理的過ぎる。叢雲は立ち上がって天龍を見下し、その場を去ろうとした。

 

 が──、

 

「……ついで言っておこうかしら。白中将がこの鎮守府に戻る事はもう無いわよ」

「っ!? 何故!!」

「何故って……やってきて分からないのかしら? 貴方達が故意にやったのかどうかはどうでもいいけどね、白中将が艦娘を殴った写真の一件で責任を取る為にこの鎮守府から異動する事になってるのよ」

 

 『(オウゲン)』叢雲は護神厄討艦隊旗艦であり、ガングートや瑞鳳のように大本営直属の艦隊に属している艦娘だ。各地の鎮守府の情報や危険海域のデータなどを全て知り得ており、自身の記憶の中に記している。故に提督と摩耶の件や潮岬町鎮守府の情報も大体は把握済みで、提督がやらかした事も把握している。

 

「ま、あの白中将の事だろうから貴方達の事なんて会いたくもないし、顔も見たくないとか思ってそうね。死のうが生きてようがどうでもいいって感じかしら。もうこれで完全に見限ったんじゃない? 恨むならやってしまった自分を恨みなさい」

 

 

 

 

 

「……私みたいに」

 

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