うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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割と大事な所あったりするので色々と手順を追っていきます。


143. 後悔(ほぞ)()むその先に

「あぁ……」

 

 牢屋の中で孤独に一人、悲しそうに呟く艦娘がいた。叢雲の報告を聞いて提督に無事に一度は安堵したものの、拭い切れない罪悪感に押し潰され続けている。

 

「Admiral……」

 

 プリンツは冷たいコンクリートの床を見たまま、只管提督に向けて謝り続けていた。効果消去薬によって目覚めた後は提督の護衛をしていたプリンツ。翔鶴との戦争中やその後のプリンツは一度も提督と顔を合わせる事が出来ていない。

 

 自分が提督に過度な暴力をし始め、ボロボロになっていく提督を見ては嘲笑った記憶が鮮明に残っているおかげで罪の意識に苛まれ続けていた。今でもその顔を殴った感覚が直に残っており、忘れようと気を逸らしても這い蹲る様にゆっくりと感覚が戻っていく。

 

「あっ……私が、やったんだ……あぁ……あぁぁ……!」

 

 私は何てバカなんだ。

 私の所為でAdmiralが死にかけた。

 

 あの時の私の行動が分からない。

 

 何でAdmiralが嫌いだった? 

 何でAdmiralを脅した? 

 何でAdmiralを殴った? 

 何でAdmiralを蹴った? 

 

 プリンツは涙を流しながら腕を振り回し、一時的なパニック状態に陥る。頑丈な拘束器具によって身動きの取れない両腕を只管壁にぶつけて狂い始めた。プリンツの異変を確認した憲兵がすぐに駆けつけ、中に入って直接落ち着く様に説得する。

 

 全てが崩れた。今まで積み上げてきた全てが、一気に崩れ去ったんだ。Admiralと過ごした時間や思い出、やっとAdmiralに頼りにされた事、経験してきた仲間愛。

 

 でも既にそれは──、私の中には無い。

 

 憲兵による呼び掛けで、徐々に落ち着きを取り戻したプリンツ。硬いベッドの上に寝込み、拘束された腕で顔を隠した。

 

「もう……Admiralと……会えないの……? いや……嫌だよ……」

 

 叢雲からもう二度と会えないと聞いてプリンツは絶望に昏れる。

 

 

 

「プリンツさん……」

 

 プリンツの姿を不知火は鉄格子を挟んで見ていた。硬い石の椅子に座り、白く光る蛍光灯に視線を映す。不知火も提督の護衛をしていたが、プリンツと同じく顔は一度も合わせていない。薬によって支配されていた時に提督が憎悪を孕んで敵視した顔を見ており、開放された後の不知火はその顔を思い出す度に顔を見る事が出来なかった。

 

 もし顔を合わせて話そうとすれば、もし助けようと手を差し伸べれば、司令は恐らく鬼神の如く怒鳴る事だろう。

 

 私はそれがとても怖い。

 司令との関係が既に崩れていても、互いに何もせず顔を合わせないままいた方が気は楽だ。

 まだ関係が崩れていないような感じがして、司令の事を心配しているだけでまだ心は形を保つ事が出来る。

 

 それは今のように思わず落ち着いてしまうほど、冷静に物事を考えるようになった。

 

「はぁ……まんまと罠に嵌ってしまいましたね……私も。しかも二度と会えないとは、もう取り返しのつかない事をしてしまったようです。これだけ過去に戻りたいだなんて思ったのは久しぶりですね……」

 

 だがその冷静さは一時的なモノに過ぎない。

 私が顔を合わせなかった理由は、崩れた司令との関係を否定している事。

 

 つまりはただの現実逃避だ。

 

 既に司令との関係は崩れているのに、それを私は恐れて逃げているだけ。

 

 もし本当にその事実を自覚すれば、私の心は形を保てず、砂の様に消えてしまう事だろう。勿論この身体も、何もかも全てが。

 

 司令との関係は元に戻すのはとても困難で、最早戻す事は無理なんじゃないかと思える程、絶望的なモノだ。

 

 私は案外、冷静じゃないのかもしれない。

 

「とりあえず……司令が無事であって良かったです。後は私の制裁を待つだけ、ですか……」

 

 不知火は硬いベッドに寝転がり、蛍光灯の光を嫌うように背中を向ける。目を瞑り、一人の空間へ閉じこもる。先に考えなければならない事を後回しに、また落ち着く為に不知火は眠りについた。

 

 

 

「鈴谷……その……」

 

 鈴谷、熊野、最上は同じ牢屋内にて時間が過ぎるのを待っていた。

 翔鶴達との戦争後、利根を拘束して帰還した鈴谷達は提督の話を耳にする。その後憲兵達によって拘束され、提督はどこかへ連れていかれた。鈴谷達は高速修復材を直にかけられ、傷を癒した後に牢屋へ入れられ、今に至る。

 

「……良かったね。無事みたい」

 

 心配して声を掛けた熊野と最上は鈴谷の反応を確かめる。牢屋の鉄格子に頭を寄せ、座ったまま壁に張り付いていた鈴谷。熊野達の声を聞いて思い出したかのように笑みを浮かべて答えた。

 

「あ~あ酷い事しちゃったな……もうダメだねこれは。あの提督が許してくれる訳ないよね~……あははは……」

「鈴谷……」

「ははは……あれ……? どうしてだろ……涙が出てきちゃうなぁ……もう枯れて出ないと思ってたんだけど……あれ? あれ……?」

 

 鈴谷はいつものように振る舞い、元気な姿を見せたが、涙が流れている事に気付いた時にはそれは崩れてしまった。

 

 分かっている、私が何をしたのかを。

 分かっている、もう提督と会えない事を。

 分かってる、分かってるんだ。もう何もかも取り戻せない事実を。

 

 分かってるからこそ、私は私が許せないんだ。

 

 提督が手伝ってくれたおかげで熊野や最上と仲直り出来た。二度とは戻らないだろう姉妹同士の軋轢を、あの提督は直す為に私を強くしてくれた。

 

 私は提督に感謝し切れない程の恩がある。

 私はその恩を、いつかは返したかった。

 提督が喜ぶ様なデカくて凄い事をしてあげたかった。

 

 でももうそれは出来なくて、恩を仇で返してしまうとは夢にも思わなかった。

 

 私は最低だ。

 とてつもなく最低だ。

 

 心が苦しい。

 

 

 

「金剛お姉様……霧島……」

 

 金剛、比叡、霧島も同じ牢屋にて時が過ぎていくのを待つばかりだった。金剛や霧島は体育座りで牢屋の片隅に収容された時から閉じこもっている。比叡に顔も見せないまま何も喋らず、叢雲の報告を聞いても全く反応しなかった。牢屋内の中央で比叡は姉妹にひたすら話し掛ける。

 

 三人は提督を護る為に提督の傍にて身構えていた。途中、金剛は提督に精一杯の謝罪をして手を伸ばしたが、怒りに触れたのかその手を振り払われた。

 

 私は最低だ。

 心から信頼した人達を一方的に裏切るような真似をしてしまった。

 もう二度と会えないとなれば、もう一度謝る事も出来ない。

 一人は蒼い空の先にある天国へ、もう一人は遥か彼方の鎮守府まで。

 

 とても大切で信頼していた二人を、私が自ら手を離したんだ。記憶から消し去り、暴行を企てる様な事をして、とことん私が嫌になってくる。

 

 会いたい。

 

 一度だけでいいから、あの二人に会いたい。

 

 そして謝りたい。

 

 私の自己満足ではあるけれど、どうしても謝らなきゃいけないんだ。

 

 仮に会えたとしてあの人に無視をされても。

 仮に会えたとしてまたあの人に手を振り払われるだけでも。

 

 見限られたって構わない。

 だからその顔をもう一度見て、謝りたいのに。

 

 

 

 もう二度と──、会えないだなんて。

 

 

 

「はぁ……」

 

 私は金剛お姉様や霧島の辛さが身に染みて理解出来ている。

 私達の犯した行動が、如何に愚かで恥ずべき事なのか。

 今でも気が保っていられるのが不思議なくらいだ。

 絶望に浸る姉妹を他人の様に見ている私もその愚か者の一人に過ぎないと言うのに。

 

 私だって許されない事を数えきれないぐらいやった。

 

 金剛お姉様を侮辱し、仲間を傷つけ、それらを全て正しい事だと思い込んでいた。

 目が覚めた時からでも、その愚行による罪の意識が凄まじい程に襲いかかって来る。何回も悩んだし、何回も考えた。これから金剛お姉様に許してもらう為に、仲間にも許してもらう為に出来る事は何なのかを探し続ける日々。

 

 気の遠くなる道ではあったけれど、必ず変化はあった。

 金剛お姉様には少しずつ近付けるように、そして近付いてもらえるようになった。仲間も僅かだけど挨拶を交わす事が出来た。

 

 提督には金剛お姉様を救ってもらった恩がある。本人は救ったつもりなど毛頭無いようだけど、金剛お姉様は提督を心から信頼する様になっていたのだから救われたに違いない。

 

 だから私は金剛お姉様を救ってもらった恩として、提督の助けになるように頑張ろうと思った。

 目に見えない所から影で提督を支える様にしようと思った。

 

 だがその恩を返す事は、もう出来ない。

 

「提督……ごめんなさい……」

 

 比叡は途方に暮れて体育座りになり、金剛と同じく顔を隠した。自ら閉じこもりたい気分だ、もう目の前の世界は見たくない。比叡は自分の世界へ閉じこもった。

 

 

 

 ──潮岬町鎮守府、仮司令本部

 

「帰還したわ」

「お、お疲れ様です」

 

 講堂のある部屋に設置された仮の執務室で灰色は度重なる出撃の指示と溜まる書類に追われていた。

 翔鶴達との戦争後、灰色は一時的な『(オウゲン)』叢雲による一人艦隊の提督として職務を全うしている。書類を書き終えては出撃、書き終えては出撃と眠らず休まずの毎日だ。

 

 唯一の救いとしては提督のスパルタ教育のおかげか、書類を書き終えるスピードは徐々に早くなっている。今日も書類を少しだけ残して、叢雲による一人艦隊の指示を出していた。

 

「アンタ、司令官候補生にしては結構やる方じゃない。少しだけ感心したわ」

「お褒めに与り光栄の限りでございます……」

「別に畏まる事ないじゃない、褒めてあげてんのよ。感謝しなさいな」

 

 『(オウゲン)』叢雲の威厳は、思わずその場の人間達の身体を震わせてしまうほどで、とても勇ましく灰色にとっては恐れ多い存在だった。灰色も少なからず叢雲にかしこまっており、指示を出す事すら恐れる毎日だ。もしヘマをすれば後の事は想像に難くない。

 

「やっぱり深海棲艦の襲撃が来るわね……しかも日に日に強くなってきてる」

「やはりこの鎮守府を狙っているのでしょうか……」

「まぁそうでしょうね。その内、七壞星が来てもおかしくないわ」

 

 七壞星と聞いて思わず灰色は唾を飲む。そういえば海軍兵学校の授業の時に一度教えてもらった事がある。深海棲艦の中でも桁外れな戦闘能力を持つ個体がネームドとして危険視された存在。灰色もその存在については把握していた。

 

「それで灰■司令官、貴方の確認が欲しいんだけど」

「え? 確認ですか? 何でしょうか」

「ウチの艦隊から何人か連れてきていいかしら」

 

 叢雲の艦隊、つまりは護神厄討艦隊のメンバーを呼び寄せる事だろうか。恐らく七壞星の襲来に備える為、強い味方を揃える必要があるらしい。

 

「勿論私一人でも構わないのだけれど、それは一対一での話。複数来られたらたまったもんじゃないわ、それこそ日本の終わりよ。構わないでしょう?」

「はい、大丈夫ですよ。強い方達が来てくれるのはとても心強いですし」

「ならいいわ。■■大佐にも確認は取ってもらってるし、すぐに呼ぶとしましょう」

 

 灰色の確認を得て叢雲は頭の通信機から各地にいる仲間へ発信する。

 以前通信が取れない状況下にいたが、翔鶴の供述によって電波妨害機が発見され、無事に取り外す事が出来た。その為通信系統は回復し、またいつもの様に遠方と話す事も出来ている。

 

「各メンバーに伝達。暇な奴は潮岬町鎮守府に集合しなさい、これは旗艦命令よ。来るか来ないかは自由に決めて構わないわ」

『暇ではないので断る』

『つまらなさそうなので断りま~す』

『私は行くネ』

『私も行きたいです! 今度こそ『(オウゲン)』さんには独り占め──[お前はまだ任務の途中だろうがァ!!]』

 

 頭の通信機から様々な艦娘の声が漏れ出していた。途中から誰かの声に遮られ、通信を切られた艦娘もいる。更に他の艦娘から断りの声が聞こえ始め、本当に自由過ぎる所為かある程度予想していた叢雲もイライラした表情になっている。

 

「……『(ラセツ)』以外、『(ビョウコウ)』は来るのね。その他は断る、と……分かったわ、そんなに暇じゃないなら仕方ないわね~、もしかしたら七壞星が出るかもしれないのに……暇じゃないなら仕方ないわ~、あ~本当に残念よね~」

『行く、今すぐ行く』

『えーっと、どこだっけそこ』

『もう私は知ってるネ』

『私だって知って──』

 

 断りの声を入れていた艦娘達が手の平を返す様に食いついてきた。急いでいるのかガチャガチャと雑音が聞こえてくる。叢雲の表情はニヤついていて、まさに計画通りのような顔をしていた。

 

「早い者勝ちって事で、『(ビョウコウ)』『(レイ)』『(アオグロ)』は来る様に。その他は何かあり次第、また召集するわ。じゃ」

「……中々個性のある艦娘達ですね……」

「そうねぇ、性格に難ありって所かしら。全く……世話の焼ける仲間よ、飽き飽きしないわ……ホントに……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「出撃命令ガ出タソウダゾ……行クカ?【天権(メグレズ)】……」

「コノ私ガ行クワケナイダロ……タダノ冷ヤカシダ、オ前一人デ行ケ…… 」




この状況下なんですが、投稿制限の話で本来ならばそろそろ通信環境が整っていつも通りになる予定だったんですけども……アクシデントがありまして、5月末日まで引き延ばす事にしました……。

詳しくは活動報告に書いてあるので、ご了承のほどよろしくお願いします。
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