金色の十字光が光芒となって淀めく海を駆け走る。
落雷の如く碧雷纏った砲弾の暴風雨が襲い掛かった。
金色の十字光は砲弾を着水する前から急加速して回避。
その後大跳躍して、空に舞う砲弾を斬り伏せ着水、その場に仁王立つ。
向かう先は雷鳴轟く黒雲、黒く穢れた海波。
雷光が逆光となって影が現れる。
黒いフードから覗く紺碧の雷眼が輝く。
特殊な雷眼から電撃が迸り、触れた艤装から火花が散った。
まるで尻尾の様に動く艤装は先端の口じみた突起物から稲妻を放出させ、向かってくる金色の十字光に吼えた。
護神厄討艦隊旗艦『
七壞星「
それぞれ一直線に突進、数秒遅れて水柱が立つ。
衝突する瞬間、周辺の一帯は──、
──光に包まれた。
──横須賀鎮守府病室
「提督……食べれるか?」
「馬鹿言え、普通に手は動かせるっての」
横須賀鎮守府のとある病室で提督と摩耶は昼食を取っていた。提督が目覚めてから三十分が経過し、駆けつけた医師が容態を診てくれた結果、身体の調子は徐々に良くなるらしい。余程の事が無い限りは心配いらないようだ。今は看護師に用意された昼食を食べようとしている。
だが──、
「あ」
茶碗を持つ左腕が突然テーブルを叩き、茶碗とご飯がお盆に転がった。よく見ると提督の左腕がまるで糸の切れた人形の様に力を失くし、振り子のように肩にぶら下がっている。
「ほらやっぱり……あたしが手伝うからさ。提督は楽にしててくれよ」
「まだ左腕はリハビリ必要だなこれ」
提督の左腕は何度も切断され、そして再形成されている。今でもその切断部分が生々しく残っており、まだ完璧に動かす事は出来ていない。
医師曰く、血管は繋がっている為問題ないそうだが、神経や筋肉などは完全に繋がりきれていないらしく、その後も徐々に繋がる為に力の使い方には要注意と忠告された。
「あーん……って、何恥ずかしがってんだ提督」
「いや恥ずかしいだろ!! 俺はいい歳した大人なんだぞこれでも!!」
「いいだろ別に。小さい頃からやってあげたんだからこれくらい」
「過去は過去、今は今──」「いいからつべこべ言わず食う!!」
摩耶の介護に提督は赤面して恥ずかしがる。いい歳した大人が女性に食事を手伝ってもらうのはいささか自分のプライドが許せなかった提督。しかし無理矢理摩耶にスプーンで分けたご飯を口に押し込まれ、抵抗の出来ない提督はなくなく食べるのを手伝ってもらった。
「くそっ……! 屈辱的だ……!!」
「小さい頃は自分から頼んできた癖に~」
「うるせぇ!! そんな事など忘れた!!」
「失礼するよ」
病室内が提督の怒声で響く中、ある人物がドアをノックして入ってきた。ノックした音が聞こえた二人はドアの方向へ顔を振り向き、会話を止めさせる。中に入ってきたのは■■大将と秘書艦の大和だった。
「おや、食事中だったか……少しタイミングを間違えたな」
「いえ大丈夫ですよ大将閣下、どうぞ此方へ」
提督の態度も一瞬で変わり、畏まった表情にて■■大将を誘導する。テーブルに置いてある食事を一旦棚の上に置き、摩耶はそれぞれ座る椅子を用意した。
「さて……身体の調子はどうかな、と本来は聞くはずだったが……まぁ……問題は無さそうだな」
「先程はお見苦しい所を見せてしまい、申し訳ありません」
「いやいや別に構わない。急に入ってきた私も悪いからな」
■■大将は困り気味に提督と摩耶の啀み合いを見ている。この様子では身体の具合は聞かなくても大丈夫のようだ。■■大将は話し掛けやすいように笑みを浮かべながらに対応し、来た理由としてある本題へ自然に入る。
「まぁ本題に入るとしよう。君が運営していた潮岬町鎮守府の艦娘達の件についてだが……今は島風を除いて全員が地下営倉に収容されているようだ」
「……」
「そして、君を殺害目的で計画を実行した主犯格の……翔鶴……龍驤、利根、那智、葛城も同じく厳重な警戒態勢の下で収容されている。何か言いたい事は?」
「……ありません。続きをお願いします」
■■大将の本題とは潮岬町鎮守府の艦娘達について。
翔鶴達との戦争後、護神厄討艦隊旗艦『
「『
■■大将の言葉を聞いて提督は眉を
「はい……主犯格の翔鶴から情報は入手しました。やはり大将閣下の思惑通り、黒■■という男が絡んでいたようです」
「成程……面倒な事になったな」
■■大将は提督の報告を受け、顎に触れて考える様な仕草をする。前にも■■大将は黒■■という男が絡んでいる事については把握していた。今回翔鶴が告げた事で更に信憑性は高くなり、計画に関する証拠も明確になりつつある。
しかしまだ黒■■の現在位置は未だ掴めない。
何故なら──、
「やはり難しいですか……」
「あぁ、奴は世間では死亡した事になっている故に何処にいるか行方が分からない男でな……何回か徹底的に調査したが跡取りは全く掴めていない。更にこの事が知られれば世界を揺るがすような出来事、海軍内はおろか日本全国……いや全世界がパニックに陥る。■■元帥が何も出来ない以上は無闇に動けば奴に勘づかれる場合もある、実に非合理的だ」
黒■■という男は■■元帥を裏で操っているらしい。元帥本人は知られるのを避けて一向に話はしないが、■■元帥と同期である■■大将は既に察知していた。明らかに陽気な性格が抑え込まれ、何か隠してるような雰囲気だったとか。■■大将は同期の腐れ縁でもある為に一人で極秘に黒■■という男について調べている。
「これからどうするつもりですか?」
「取り敢えずは君の報告と私の資料を照らし合わせ、こちらで調査した内容と共に情報を分析し、奴の潜伏している場所を徹底的に見つけ出す。現時点ではこちらの方が合理的だ」
「私も協力します。計画の為にも」
提督は手を伸ばし、■■大将と握手した。
二人は計画の為に互いに協力関係、それぞれ個人の目的の為に動いている。
立ちはだかる敵が同一人物であり、協力無しでは倒す事は出来ない。
「さて……もう一つ本題がある」
「何でしょうか」
「潮岬町鎮守府に所属する艦娘達の処罰について、だ」
■■大将から言われた事に提督は少し動揺する。目線を目の前の白い布団へ移動させ、少しだけ顔を俯かせた。いずれは聞かれる事ではあったが、それでと動揺を隠せない提督。それを見た■■大将は伺いながらも気にせずに話を続ける。
「……君が体験した通り、奴らは殺人未遂罪、脅迫罪、傷害罪、その他多くの罪を行っている。まず計画の主犯格である翔鶴は旧式解体という形で処理されるのは間違いないだろう。また翔鶴に加担、協力した四人も旧式解体に近いそれ相応の処罰が下される。その他の艦娘達は翔鶴に操られていた事もあって本人の意思では無い事が確認されている為、恩赦として軽い罰程度で済むようだ」
「それは■■元帥閣下の決議でしょうか?」
「いや君の義親である南方の■■大佐が勝手に決めた」
「えぇ……」
提督の義親にあたる南方の■■大佐が『
行動力の化身と言うべきか、あっという間に司令本部や寮の建設工事などの手配を終わらせ、地下営倉に収容された艦娘達を事細かに調べあげたり、護神厄討艦隊の艦娘達を無理矢理まとめあげるなどやる事全てを負担しており、■■大将でさえも頭が上がらないとか。
更にはそれぞれ懲罰なども自ら勝手に決定し執行しようとする為、まだ早いと■■元帥と■■大将が慌てて止めたらしい。
「あの人は一回休んでもらいたいものだ……いや本当に……まぁ、勝手に決めた事とはいえ、必ずしもこうなるとは限らない。前にも伝えた通り、利用される形にはなるが、この一件を近々
「……そうですね……」
提督は率直な意見を聞かれて思わず目線を逸らすように蒼空を見る。摩耶や■■大将も釣られて窓から見える蒼い空を眺めた。自動車の走行音や蝉の声がどこか遠くで聴こえる。
艦娘達はどうしたいか、空を眺めながら提督は考えていた。
正直に言えば、どうしたいのか私には分からない。
別に艦娘達の事が嫌いだからと言って、無鉄砲に艦娘達を解体したい訳じゃない。
ただ悪口を言って優位に立ちたいだけの残念極まりない性格で、暴力だとか力で捩じ伏せるのが嫌いなだけだ。
艦娘達を殴りたい訳じゃないし、蹴り飛ばして見捨てたい訳でも無い。
全ては蒼■中尉の恩義に尽くす為、私なりに動いていただけだ。
あの鎮守府に辿り着いて、あの時の事を思い出して、あの計画の真実を知って。
私は動かなきゃいけないんだって自覚させられた。
いつの間にか出来ていた仲間というモノがまた寂しく思う。
普段は全く気にしていなかったはずが、途端に意識してしまったらそればかりを考えてしまった。
艦娘達の頑張ろうとする姿を見続けて、私の中に分からない感情が出来上がっていたのだろう。
勿論艦娘達のした事は、例え誰かに操られていたモノだとしても簡単には許されない。
裏切り、恫喝、暴力、脅迫。
精神は限界だったし、身体も数え切れない程悲鳴を上げた。
憤怒という感情は当然で、それと同時に失望や同情、悲哀の感情だって持ってる。
人間が嫌いだというのに何とも皮肉な事だ。
今の艦娘達を感情任せに淘汰するのは、どこか違う気がしていた。
根拠は無い、ましてや理論なんて無い。
ただ単にそう思っていただけだった。
思っていた。
──思っていた?
──思う?
あの鎮守府に辿り着いて、あの時の事を思い出して、あの計画の真実を知って。
思い出したから蒼■中尉の恩義の為に頑張った。
では何故プリンツは
翔鶴の罠に嵌って、一度その事で脅された。
確かにプリンツとは無名の頃は俺の艦隊に所属していた。
でも一度も俺の過去の記憶を摩耶以外には話した事は無い。ましてや思い出すまでは誰にも話してないはずだ。
俺は計画の真実を知ってから、あの時の記憶を全て思い出した。
蒼■中尉の事も、計画の真実を知るまではその片鱗すら覚えていなかった。
辻褄が合わない。
何かおかしい。
俺は何度も、誰かに記憶と常識を改変させられている──?
「……どうも私では決めかねません……確かに彼女達は罪を被り、今は犯罪者として収容されていますが……私個人の感情で簡単に決める事は出来ません」
「では、まだ分からないと?」
「彼女達に罪を償う意思があるかどうか、私はそれを聞いてから然るべき処罰を下します……全員に聞いて下さい、まずはそこからだと……義母にはお伝え下さい」
「……分かった、そう伝えておこう」
提督の慎重な意見に■■大将は一瞬驚くも何事も無かったかのように返答した。秘書艦の大和に指示を出し、言われた事をクリップボードに記している。
「さて、これで君に聞く事は終わった。私はお邪魔するよ」
「わざわざ来ていただきありがとうございます大将閣下。こんな形で話してしまい申し訳ありません」
「問題は無い。こちらは見舞いに来たつもりだ、そう負い目になる必要は無いぞ、では」
──潮岬町鎮守府、仮司令本部
『──との事です。よろしく頼みます、■■大佐』
仮司令本部の執務室にて一本の電話を受け取った■■大佐。相手は■■大将で提督から聞いた意見を耳にした後、返事もせずに通信を切った。椅子の背もたれに寄り掛かり、煙草を吸っては腕を組む。深く吸って、白い主流煙を大胆に吐いた。
「ったく……慎重なのは変わってないね、あの馬鹿は」
執務室には灰色がせっせと書類を書き潰している。■■大佐に怯えながら、涙目で仕事をこなしていた。
一方で仕事を既に終えた■■大佐は煙草を吸いながら休憩している。
「灰■、地下営倉に行ってくる。後は任せたよ」
「は、はい! お任せ下さい■■大佐!!」
■■大佐は煙草の火を磨り潰して、椅子からいきなり立ち上がる。そして仕事を一旦灰色に任せて地下営倉へ一人で向かった。白い軍服をマントのように靡かせ、首元のネクタイを少し緩ませながら歩く。すれ違いざまに通る憲兵達が歩く■■大佐を見てはその場に止まって敬礼した。
「通るよ」
「はっ!!!」
やがて地下営倉に辿り着き、見張っていた憲兵に許可を貰う。憲兵達は重い扉をこじ開け、■■大佐を中へと入らせた。暗い老化が先に続き、薄く光る蛍光灯がその道の先を照らしている。両脇には広さが四畳程の牢屋が敷き詰められており、遮る鉄格子が奥までズラリと並んでいた。
「さて……貴様ら全員に聞きたい事がある!」
■■大佐は地下営倉内にて大声を上げ、牢屋に収容された艦娘全員に聞こえるようにハッキリと口を開いた。■■大佐の声がエコーのように反響して重なる。突然の大声に艦娘の大半が驚きの声を上げた。
「本来貴様らは私の処罰によりそれぞれ罰が与えられる所だったが、先程白中将の意見を聞いて状況が変わった!!」
「提督……?」
「提督の……意見?」
「率直に問う!! 貴様らは白中将に対して、その罪を償う意思があるか!!!」
■■大佐は仁王立ちしながら艦娘達へ問い掛ける。提督に対して罪を償う気があるのか、一旦■■大佐は全艦娘達に聞き出した。■■大佐の話を聞いて艦娘達は一斉に鉄格子に張り付く。
「あるに決まってんだろ!」
「お願いします、償わせて下さい!」
「もう一度……!」
勿論殆どの艦娘が罪を償いたいと自分の意思を主張している。特に提督と深い関わりのあるプリンツや不知火は必死に訴えていて、やりたい事を手伝ってもらった鈴谷や加賀、金剛達も償いたいと大声を上げて発した。■■大佐はあまりの五月蝿さに耳を塞ぎ、更に大きい声で艦娘達を捩じ伏せる。
「黙れ凡骨共!!! 言いたい事は大体分かった、憲兵!!」
「はい!」
「全員分に意思があるかどうか一人ずつ聞きなさい。明確に且つ具体的にだ……いいな?」
「かしこまりました!!!」
「……さて」
憲兵達に艦娘全員分の意思を聞き出す事を任せ、■■大佐は奥の牢屋まで早歩きで向かった。途中で拳銃の弾倉を取り出し、弾薬の数を確認して拳銃に装填。拳銃を巧みに指で回し、ホルスターへ収納させる。
すると突然■■大佐は止まり出し、ある牢屋の前まで辿り着いた。
「アンタが主犯格の翔鶴かい」
「……?」
牢屋に収容されていたのは計画の首謀者である翔鶴。手足の拘束器具が幾つも重なり、硬く重い鉄鎖によって身体の自由を奪っている。それはさながらスフィンクスの棺桶に入れられるミイラの様で、憲兵二人が見守る厳重な警戒態勢の下で監視されていた。
「貴方は……」
「私ゃ南方の総司令官を務めてるおばさんよ。周りは失礼な事に鬼と呼んどるがね」
目覚めた翔鶴は重い瞼を鈍く開き、鉄格子の先にいる人物へ視線を写す。そこには還暦のある老人女性が腕組みしながら立っていて、真剣な表情で翔鶴を睨んでいた。
「何故……貴方が……」
「義理の息子が随分とお世話になったからねぇ、何ぶんあの性格じゃ苦労したろうに。まぁ半分は私の所為なんだが」
容姿は提督に似つかないが口振りや振る舞いは殆ど一緒で、どれだけこの軍人が提督に影響を与えたかを物語っていた。義理の息子となればその影響力は尋常ではないだろう。蛙の子は蛙とよく言うが、鬼と呼ばれたこの女性に育てられたのならあの性格は当然だ。
「アンタともう一人の提督については昔から把握しとるし、馬鹿の調べ上げた資料と凡骨共の情報で大体分かったよ。何とも言い難い経験してきたもんだねぇ、出来れば同情したいが……今のアンタにゃ無理だ」
「……」
「■蒼■……アンタにとって一番の愛した人間、か……その大切な人間を自分で殺して、仲間を守ると約束をしてしまったと言う訳かい……どうしても守りたかったのかね? こんな無理に近い約束を」
提督の調べ上げた資料や艦娘達の情報によれば、当時の■■少尉による理不尽なまでの支配は、一艦娘では太刀打ち出来ない程悲惨な状況のように思えた。
■■少尉によって屈辱的な淫行や暴力を受け続け、緊急停止装置や自爆装置などによって全艦娘を人質に取られ、■■少尉の身勝手で仲間が殺されてしまうとなれば約束を守る余裕すらないだろう。普通は精神崩壊を起こして廃人になってもおかしくはない。
しかし翔鶴は蒼色の約束を守る事だけに執着し、翔鶴が考えた策で抗っていた。例え自分が深海棲艦となって悪に堕ちたとしても、敵になったとしても只管に抗っていたのだ。
「提督は……私にとって、希望の様な存在でした。決して失いたくない……失わせたくない、大切な人なんです……そんな大切な人の約束を破る訳には……いきませんでした……」
「そうかい……とても愛していたんだね……とまぁ、別にそんな事はどうだっていいんだ。本件は別でお前達に聞きたい事があって来た」
「聞きたい……事……?」
翔鶴の言葉を聞いて一瞬■■大佐が優しい表情をしていた。翔鶴は見逃さずに意外な表情に呆気に取られる。
しかし いつもの様につまらない表情になり、思い出したかのように話し始めた。
「あぁ。私個人ではお前達全員を旧式解体で処刑済みにするはずだったが、あのバカ真面目な男二人に止められてね。まぁ近々
「
「率直に聞くぞ? 今のアンタらは私の馬鹿、いや白中将に償いたいかい?」
「私は……──」