うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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沢山の誤字報告ありがとうございました。
これからも誤字をしないよう精進します。


145. 洗い流されたアルジェントに更なる輝きを

「ドウシマショ……」

 

 潮岬町鎮守府から少し外れた森の中に飛行場姫は身体を潜めて隠れていた。鎮守府を見下ろせる山の森の茂みに潜んでおり、完全に出るタイミングを失っている。

 

「アノ艦娘ガ来タカラ思ワズ隠レテシマッケド……一向ニ逃ゲレル気ガシナイワネ、コレ……」

 

 あの艦娘とはつまり、護神厄討艦隊の艦娘達の事だろう。『(オウゲン)』叢雲、『(ビョウコウ)』金剛、『(ラセツ)』吹雪の僅かな殺気を感じて飛行場姫は決死の思いで森の中へ逃げ隠れた。あの艦娘達は七壞星のみでしか相手出来ない強者しかいない。故にただの姫クラスである飛行場姫では太刀打ち出来ないのを知っている為、瞬殺されるのを恐れていた。

 

「艤装ダッテ第二倉庫ガ潰レタオカゲデ黒焦ゲニナッタシ……逃ゲルニ逃ゲレナイ……」

 

 飛行場姫の艤装は第二倉庫に格納されていたが、翔鶴達との戦争による損害で大破。瓦礫の中から黒焦げになった艤装が発見され、そのまま行方知れずとなってしまった。

 

「古鷹ト榛名ノ時ダッテ命カラガラ逃ゲテ何トカ身ヲ潜メテタノニ~……何デマタ来ルノヨ~……」

 

 ただでさえ戦いたくない且つ、会いたくもない大海の殲滅者達と共にいるなど気が滅入る。

 一時的に提督や灰色に認識してもらっているとはいえ、飛行場姫は鬼より危険な個体である姫クラスに属する深海棲艦だ。普通は周辺の人間から恐れられ、艦娘からは敵視されてもおかしくはない。自身の事情を知らない艦娘が自分を見つければ戦闘になるのは必然だ。艤装が無い今となればあの艦娘相手に戦うのは無理だろう。

 

「ウ~……灰サン、助ケテ~……」

「あ、いたいた」

「ッ!!?」

 

 大木に背中を預け、そのまま座り込む飛行場姫。両手を頭に乗せてひたすら悩み続けた。しかし突然聞き覚えのある声が背後から聞こえる。飛行場姫は大木で身体を隠し、恐る恐る背後を振り向いた。

 

「どこ逃げてんのよ……と思ってたけど、ここにいたのね。飛行場姫」

「エッ……?」

 

 背後に振り向いたが誰もいない、そう思ったその時また背後から声が聞こえた。突然の声に飛行場姫は首を動かし、声の方向へ振り向く。

 そこには護神厄討艦隊旗艦『(オウゲン)』叢雲がいた。

 

「ア、終ワッタ」

「終わってないわよ」

「夏ガ」

「ぶつわよ」

 

 最も会いたくない艦娘ナンバーワンの叢雲に零距離で目を合わせて近付かれた。飛行場姫は『(オウゲン)』叢雲の姿を見た瞬間に自身に死期を悟り、恐怖のあまりに言動がおかしくなってしまう。変な怯え様に叢雲は反応に困って、自分がどんな存在か考えさせられた。

 

「仮にも貴方、姫でしょう? 何で姫が怖がってんのよ」

「アンタガイルカラヨ!! 艤装ガアッタラ、マダ虚勢ハ張レタワヨ!!」

「現在進行形で私に怯えてるのに虚勢は張るのね」

 

 飛行場姫は叢雲へ怒り訴えるように指を差す。深海棲艦にしては感情豊かな飛行場姫に叢雲は戸惑うばかりだった。飛行場姫の一方的な訴えに耳をほじくり、叢雲は丁寧に説明する。

 

「あー……大丈夫よ。別にアンタの事は知ってるし、一応は捕虜として捕らえている以上は殺しはしないわ」

「エ……? 知ッテルノ? 私ノ事?」

「えぇ知ってるわ。自ら命乞いしてきて敵である艦娘に守られる様な哀れな深海棲艦って事ぐらいはね」

「アーソウナノネー……チッ、死ネバイイノ──」「何か言ったかしらー?」

「アーー!!! ゴメンナサイゴメンナサイゴメンナサイ!!!!」

 

 惨めに煽られたのが癪に障ったのか飛行場姫は最後に悪態着く。

 しかし叢雲の地獄耳に入ってしまったのか、槍の鋭利な刃を首に近付け脅される。飛行場姫は涙目になってひたすら謝り続けた。

 

「とりあえず戻るわよ。後で司令官達には説明しておくから、さっさと来なさい」

「分カッタワヨ……指図シナイデット思テタケドヨロシクオネガイシマース」

 

 何か色々言うと目が笑っていない顔を見せられて遠回しに脅される。飛行場姫は叢雲の笑顔の脅迫に口調も敬語になってしまった。叢雲の後を追って森の茂みの中を何とか潜り抜ける。次第に鎮守府の建物が見え始め、地面に太陽の光が目立ってきた。

 

「ねぇ飛行場姫」

「何ヨ」

「貴方は一番最初に覚えてる()()はある?」

「記憶? 建造サレテ目覚メテカラノ記憶ガ最初ネ、ソレガ何カ?」

「……そう、分かった……ありがと」

 

 

 

 

 

 ──横須賀鎮守府、病室

 

「潮岬町鎮守府の艦娘達による意思がまとまったそうだ。詳しくはその書類に書いてある、よくと読考したまえ」

 

 ■■大将から書類の束を突然渡され、困惑する提督と摩耶。

 困惑する理由として■■大将が直々に持ってくれただけでなく、読み終えるまでその場で座って待っている事だ。

 

 あまりの珍しさに提督と摩耶は■■大将と渡された書類に頭を動かして何度も目線を写し、瞬きを二回ほどしては目を拭う。目を瞑って静かに待ち続ける■■大将を見て、提督はそのまま書類に目を通した。

 

「……」

 

 書類の内容は艦娘達の贖罪の意思。

 

 当然と言えば当然か、ほぼ全ての艦娘が提督に対して罪を償う意思があるようだ。

 翔鶴達との戦争中に謝ってきたぐらいだ、大体は予想が着く。

 

 しかし問題は計画の主犯格である翔鶴、そして龍驤や利根、那智や葛城だ。彼女達だけはどう思っているのか、そこが一番気になる所だろう。

 

「葛城、罪を償う意思あり。特に姉の雲龍と仲間の艦娘達には一度謝りたい、と述べた……那智、罪を償う意思あり。特に妹の足柄、羽黒に対して罪の意識を感じている、か……」

 

 利根と龍驤は罪を償う意思はあるものの、その罪を償う為に旧式解体による死を望んでいる。

 

 そして翔鶴は──、

 

「翔鶴、罪を償う意思あり……潮岬町鎮守府の艦娘達の処罰を無しにする代わりに、過去に至る今までの計画の全責任を負い、一人だけの旧式解体による死を望んでいる……」

「……そうだ、どうかな? 何か変更したい点はあるかね」

 

 全ての内容を読み終えた提督に気付き、■■大将が口を開いて問い掛ける。提督は書類を純白の布団の上へ置き、考える様に少し顔を俯かせた。

 

「……えぇありますとも。そろそろ()()も行う予定でしょう、それに合わせて私は然るべき処罰を下します。まとめいただきありがとうございます、■■大将。義母にもそうお伝えください」

「断る」

「……?」

 

 提督の言葉に■■大将は即断。

 提督と摩耶は首を傾けて目を丸くした。■■大将は目を瞑ったまま眉を顰めている。

 

「私を伝書鳩代わりとは随分と偉くなったものだな……少し君は甘え過ぎな所がある。君はもう大体の部分は治ってるだろう? 左腕はまだと言えどその二つの足は充分に動かせるはずだ、私にわざわざ伝言を預からせるなど非合理的過ぎる」

「おやおや、バレてしまいましたか」

「ふはっはっはっはっ!! 何年君を見てきたと思ってる、君のずる賢い性格など……嫌なほど熟知しとるよ」

 

 ■■大将は腕を組みながら高らかに笑い声を上げた。無愛想で目付きの鋭い老人男性とは思えない優しく派手な笑顔が印象深く残る。口角を上げて微笑みながら■■大将は提督の頭を撫でながら見つめた。

 

「君が直接行って伝えたまえ。時に人とは、言葉だけでは伝わらないモノもある……君が直接執り行う方が実に合理的だ」

 

 ■■大将は立ち上がり、まとめあげた書類を回収する。団扇で扇ぐ様に書類の束を左右に揺れさせ、微弱な風を浴びた。

 そのまま提督が眠るベッドから離れてドアの手摺に手を掛ける。

 

「送りの船も手配済みだ、いつでも行きたまえ……では、ん? あぁ君か、何故そこにいる?」

 

 横開きのドアを開けて病室を出ようとしたその時、■■大将が誰かと鉢合わせた。ドアが影になって誰だか分からないが、見慣れた顔なのか普通に話している。■■大将は仕方なく訳を聞いていたが、ため息をつかれて面倒そうに言い返した。

 

「それは君次第だろう。私にはどうする事も出来ない、謝りたければ直接君が謝りたまえ」

 

 そのまま■■大将は院室を出ていく。どうやら話の内容的に提督に用がある人物のようだ。その人物は中途半端に開いたドアの隙間から颯爽と現れる。

 

「お前は……鹿島か」

 

 護神厄討艦隊に属し、『(シロガネ)』の名を持つ最強に近い艦娘、鹿島が姿を見せた。いつものニコニコとした表情は無く、鹿島は真剣な表情で提督に歩み寄る。

 

「護神厄討艦隊『(シロガネ)』鹿島です……この度は提督に謝罪したく、この場に参りました」

 

 いつもの鹿島とは違った雰囲気を感じた。身体は少し痩せ細り、目には普通に見えるほどのクマが出来ている。鹿島は自己紹介しながら頭を下げ、慎重に内容を伝えた。

 

「……本当に申し訳ございませんでした。提督が命の危険に晒される事を予知せずに己の欲を走らせ、気付けば死に追いやられていたかもしれない状況下でありながら救助する時間が遅れてしまいました……到底許される事ではありません」

 

 鹿島は提督に向けて頭を下げながら、謝罪の言葉を次々に述べていく。珍しく鹿島にしては声が震えていて、感情の昂りからか涙ぐった声が聞こえた。

 この様子だと鹿島は提督をもう少し早く助けていればと過ぎた事を悔やみ続けているのだろう。誰にも左右されない自由な立場でありながら、欲に走って提督を蹴落とそうと加担してしまった事に負い目を感じ続けている。提督を助けたとはいえ、自分が計画に参加した事に変わりはない。少しの容赦は与えられたとしても裁きは受けるべきだと鹿島は考えていた。

 

「この鹿島、貴方の命令であればお望み通り死ぬ事も(いと)いません……どうか罰を、お願い致します」

 

 鹿島の言葉を聞いて提督は驚いた表情を隠せずにいた。あの鹿島が提督に対して頭を下げて、身を捧げるが如く謝罪している。

 死にかけていた提督を助けてくれた鹿島が謝ってくるのは予想外だった。驚いた表情をしていた事に気付いた提督はハッと我に返り、少し間を開けて口を開いた。

 

「……最初会った時から、俺を助けられた時まで……お前の事が大嫌いだった」

「重々承知しております」

「だって言う事は聞かない、ひたすら俺を嵌めようとする、変な悪戯してくる……普段やってる事アイツらとあまり変わらないとは思わないのか? 流石は生粋のサディストだ、虐めたいという欲からは逃れられないらしい……今回は流石に死ぬかもしれないと思って俺を助けたのか? なぁ」

 

 提督は意味もなく棘のある言い方で鹿島を責め立てる。言われるがままの鹿島は反応や素振りも見せず、ただひたすらに無言で頭を下げ続けていた。何の反応も無い鹿島を前に提督はまた話を続ける。

 

「とは言ったものの、実際お前は……お前がやりたい事を貫き通してるだけなんだよな。それは俺も分かってたし、止めるつもりもなかった……のは嘘で止めてほしい気は何回かあったな、うん。まぁだけどそれなんだろうな、嫌いでもお前を受け入れてた理由って」

 

 提督は無名の時代から鹿島についてよく知っている。人を躾ると性的興奮を覚えるサディストで筋金入りの捻くれた性格の持ち主。最強に近い戦闘能力を有しておきながら、自ら戦線に立つ事はあまりない。そんな鹿島を提督は矯正させようとありとあらゆる手で尽くしたが、それは鹿島との馴れ合いに終わって全てが無意味だった。

 

 そんな鹿島が提督は大嫌いだった。

 今まで出会ってきた艦娘の中で一番捻くれていて、提督が唯一手に負えなかった存在。

 どんな状況下だろうとなりふり構わず躾てこようとするタチの悪い癖に何度躍らされただろうか。何回か本気で怒った事もあるのにも関わらず、鹿島は何度でも提督の後を追って来た。そして追ってきては躾てこようと仕掛けてくる。嫌になってくる程の癖と性格だったが、幾度も諦めずにやってくるその精神は少なからず褒めざるを得ないモノだった。

 

「やりたい事をやろうとしてる時のお前(鹿島)は今こうやって謝ってるお前(鹿島)より百倍も生き生きしてるんだよ。何をする時よりも、俺を調教したいが為に何がなんでもやろうとする執着的な行動をしてるお前の顔は一番楽しそうだった」

 

 鹿島からすれば艦娘とは並外れた力と捻くれた性格で人間関係が崩壊し、誰も寄らなくなってしまった孤独な自分にとって提督は光のような存在だった。

 例えどんな自分だろうと見限る事は決して無く、ひたすら自分の性格を矯正しようと仕掛けてくる。毎日会話や馴れ合いをする事は絶えず、誰とも話す機会が無くなった鹿島にとっては歓喜に余る事だった。

 

 そこからだろうか、私が提督を好きになったのは。

 

 私の性格や癖を認知し、矯正しようと努力を怠らない提督が、毎日顔を合わせては起きてしまうどうしようもない馴れ合いに付き合ってくれる提督が、棘のある言い方はしていても本当は優しかったりする提督が、異性として本当に好きになった。

 

 その馴れ合いが私に足りない何かを満たしてくれているようで、人を躾るよりも楽しいと思うようになった。強烈に残る興奮が忘れられるような別の楽しさが私の中を満たしてくれる。提督を躾る為に悪戯をする理由もただの馴れ合いがしたいが為の建前で、多くの人を巻き込む様な事かもしれない。

 

 だがその馴れ合いが私を変えるキッカケになりつつある。この捻くれた性格が変わるのかもしれない。確証は無いが、少なくとも今の私は過去の私よりも輝いているような気がする。

 

 だから私は提督を失いたくない。

 私の事が大嫌いでも。

 一方的な片思いでも。

 

 私は提督の味方であり続ける。

 生まれ変わった私を見せるまで、提督を絶対に護る。

 

 

 

 そう思っていたのに──、

 

 

 

「別に助けたのが遅れたからと言って何でもっと早く助けなかったんだーと訳を聞かずに怒り倒すつもりはない。まぁ大体の理由は聞いてるし、翔鶴の計画を完全に崩す計画を考えていたとか言われなきゃキレてたかもな」

 

 提督は両足を動かし、久しぶりに床へ足を着く。

 淡い薄緑色の患者服を見せつけるかのように提督は鹿島の方へ臍を向けた。

 そして鹿島の頭にそっと手を乗せる。

 

「鹿島、お前が気に病む必要は無い。お前は充分に頑張った、寧ろ助けてくれた事に俺は感謝しなければならない。今までは大嫌いだったが、今は……普通だ」

 

 提督は鹿島の頭を優しく撫でた。

 初めて好きな人に撫でられた鹿島は思わず涙ぐむ。

 

「……ありがとう……ございます」

 

 

 

 

 

 

 鹿島とのわだかまりが解けて提督は処罰の内容を纏めた報告書をまとめ、直接■■大将に手渡して提出。大本営の■■元帥には電話にて報告書の送付と今後の予定を伝え、現在は潮岬町鎮守府を請け負っている■■大佐にはこれから訪問すると嫌々言いながら伝えた。

 

「さて……」

 

 新しく用意された白い軍服を身に纏う。上着を大きくはためかせ、裾へ静かに腕を通す。予め左胸辺りに付けられた勲章や階級の紋章が太陽の光に反射し、十時の模様を描いた輝きを見せた。白い手袋を隙間なく手に装い、軍帽を頭に嵌るようゆっくりと被る。

 

「まぁ流石に左腕は固定しとかないとな」

「まだ動かせないのでは仕方ありませんね」

「寧ろやっといた方がいい。こうやって怪我した姿を見せればもっとチヤホヤされるからな。あのポンコツ兵器共も償いと称して、俺の事を全力で介護すること間違いない! いや~これからまた楽しくなるね~!!」

「まぁ、また戻れるとは決まってないけどな」

 

 右腕と両足は満足に動かす事が出来るものの、左腕だけはまだ簡単に自由には動かせない。痛みは気になる程度に残っており、今後の為にも左腕だけは安静にしていた方がいいようだ。一番楽な姿勢で左腕を固定し、首で支えるように包帯を巻く。

 

「準備はいいか? 摩耶、鹿島」

「あぁ! いけるぞ!」

「いつでもどうぞ、提督」

 

 久しぶりに建物の外へ出た提督は眩しく輝く太陽の光を右手で遮る。満点の蒼空が澄み渡り、大きな入道雲が空を美しく象った。

 

「じゃあ行くぞ……潮岬町鎮守府へ」

 

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