うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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149. 一度くらいは奉仕されてみたい

 提督が仮執務室にて通話中、朝が過ぎて束の間の待機時間を過ごしていた艦娘達。彼女らは食堂にて朝食を食べ終え、部屋に待機するよう命じられていた。

 

 提督から与えられた処罰、懲役四年と執行猶予七年。

 

 執行猶予によりこれから七年間、何の不祥事も無く善徳や戦果を積めれば処罰は帳消しされる。艦娘達の考えは少し似つかなくとも大体は一致していた。

 

 

 

 必ず二人の提督の為に戦う、と──。

 

 

 

 潮岬町鎮守府の艦娘達は、記憶から消去された蒼色への弔いと救ってくれた提督への償い。

 潮岬町鎮守府に着任した艦娘達も提督への償いをする為に、この先どんな困難でも立ち向かってみせようと気合いを入れていた。

 

 

 

 そんな中で──、

 

 

 

「飛行場姫」

「ヨイショット、何ー?」

「話があるんだけど、来てくれないかしら」

 

 食堂の厨房にて飛行場姫がせっせと後片付けしている中、ある艦娘が飛行場姫を呼び出した。

 厨房を抜け出して顔を見せると、目の前にいたのは航空母艦の瑞鶴。真面目な表情で飛行場姫を見つめていた。

 

「鳳翔、少シ離レルワ」

「分かりました」

 

 鳳翔から確認を取ってもらい、飛行場姫は給食着を脱いで用意する。元の露出した衣装を着て、待っていた瑞鶴の後を追った。

 夏の厳しい暑さが吹き返していく昼手前、二人は第一倉庫の裏へ向かった。

 倉庫の裏は柵壁の上から覆い被さるほど木が生い茂っている。太陽の光が届く事は少なく影に覆われ、あまり人が来る事も無い。そして遠くに水平線が映り、涼しい潮風が流れてくる為に休むには絶好の場所ともいえるだろう。

 

「ンデ、コンナ所マデ来テ何ノ話ガアルワケ?」

 

 黙々と瑞鶴の後を追ってきた飛行場姫が柵壁に寄り掛かって話し掛ける。

 内心飛行場姫は瑞鶴を怪しんで警戒していた。

 

「……率直に聞くわ、飛行場姫」

「ドウゾドウゾ」

「翔鶴姉を……元に戻す方法って……知ってる?」

 

 瑞鶴の問い掛けに飛行場姫は数秒間微動だにせず固まる。そして何か考えたのか面倒臭そうにため息を吐いて、身体を動かし瑞鶴の方へ臍を向けた。

 

「……悪イケド知ラナイワヨ、ソンナ事。私ニハ関係無イワ」

「本当に……? 何も、知らないの?」

「ジャア逆ニ聞クケド、何デ私ガ知ッテルト思ッタワケ? 私ガ深海棲艦ダカラ?」

 

 飛行場姫は腰に左手を当て、右手の平を空へ向ける。飛行場姫の言葉が図星だったのか瑞鶴は黙り込んだ。

 

「言ッテオクケド、私ハ貴女達ノ敵ヨ? 仮ニ翔鶴ヲ元ニ戻ス情報ヲ持ッテイタトシテ、ミスミス敵ニ情報ヲ明ケ渡スト思ウ?」

 

 それは翔鶴がいずれ旧式解体という方法で死にゆく運命だとしても飛行場姫は情報を渡すつもりは一切無い。

 そういった技術があるならば逆があると海軍の人間達は黙っていられないからだ。

 摩耶や翔鶴のような恐ろしい存在が敵対するのは深海棲艦側にとっては厄介でしかない。何がなんでも飛行場姫は提督以外の人物に情報提供したくないのだ。

 

「確カニ私ハ有益ナ情報ヲ持ッテルケド、ソレハアクマデ()()ノ為。貴女達ノ為ニ捕虜ニナッテル訳デハナイノ」

「じゃあ色々と知ってるじゃないのよ」

「翔鶴ニ関シテハ知ラナイワ、コレハ本当ヨ。ダッテ翔鶴ノ中ニ生意気ナ空母水鬼ガ居ルダナンテ私モ気ヅカナカッタシ」

 

 飛行場姫が地上へ出て何週間か経つが、翔鶴の身体の中に空母水鬼がいた事には全く気づかなかった。時々のその片鱗を感じる事はあったものの、大体は摩耶だと思い込んでいた為に疑問には思わなかったらしい。

 

「第一、何デ貴女ハ翔鶴ヲ助ケヨウトスルノ? 仲間ニ酷イ事ヲシテタンデショ? ソンナ艦娘ノ妹ニナッテ恨マナイノ?」

 

 飛行場姫の発言に瑞鶴は眉をピクっと動かす。

 すると瑞鶴は手を強く血が滲み出るまで握り込め、髪を逆立てさせた。明らかな憤怒の感情が飛行場姫の肌をピリピリとさせてくる。怒らせてしまったかと飛行場姫は面倒臭そうにジト目で頭を掻いた。

 

「……恨む……? 私が翔鶴姉が恨む訳無いじゃない……!」

 

 飛行場姫の問い掛けに反論する瑞鶴。喋っていく内に声の大きさが徐々に大きくなっていくのを聞いて、飛行場姫は少し後退りする。暴れる馬のように激昴するかに思えた。

 

 が──、

 

 瑞鶴は自身を落ち着かせるように深呼吸をした。

 深く空気を吸い上げ、そして静かに息を吐く。

 

「……違うわ」

 

 落ち着く事が出来たのかゆっくりと飛行場姫に歩み寄り、肩を掴んで顔を見せた。

 

「翔鶴姉だって……私達と同じ、あの屑共に貶められた……被害者よ」

 

 瑞鶴は真剣な表情で冷静に飛行場姫へ教える。瑞鶴を警戒していた飛行場姫は掴まれた手の震えを感じて、必死に抑え込んでいるのが分かった。自然に力んでいた腕の力を無くし、真っ直ぐに瑞鶴の眼を見る。

 

「私は悔しい。翔鶴姉を救えなかったと思うと、あんな奴等に苦しめられてたなんて思うと……心の底から許せないんだ……本当に」

「……ソレハ……自分自身ニ? ソレトモ空母水鬼ト貴女達ガ復讐シタイ男ニ?」

「どっちも。許せない相手を選ぶ理由なんて無い……私は、この狂った世界が嫌いなだけ……私達を苦しませたこの世界が、私の敵なのよ」

「ッ……」

 

 瑞鶴は飛行場姫の肩あたりに頭を寄せて世界の理不尽さを静かに嘆く。

 自然と身を寄せてくる瑞鶴に飛行場姫は何故か不快には思わず、拒絶反応で身体を遠ざけようとはしなかった。立ち尽くしたまま瑞鶴の話を聞いているだけで何もせずにいる。

 狂った世界が敵だと言って飛行場姫は一瞬動揺した。

 

「これは私の贖罪……皆や提督さん、翔鶴姉に対する償いなんだ。あの忌まわしい男と何も出来なかった無力な自分、そしてこの狂った世界を倒して、皆を、翔鶴姉を……救いたいだけ」

 

 倉庫の隙間を抜いてきた夏の微風が二人にすれ違って吹いてきた。互いの色帯びた髪が(なび)き、木の葉が擦れ合う音が優しく奏でられる。

 瑞鶴に半分身体を寄せられた飛行場姫は倉庫の壁と柵壁の隙間に広がる蒼い世界をただ一心に眺めていた。

 瑞鶴は飛行場姫の肩に頭を寄せたまま微動だにせず顔を俯かせる。

 

 

 もしこの世界が本当に狂っているのなら、この時間が凄く居心地いいのは何故だろう。

 

 心の奥底から何かが暖かくなっているような、青ざめた感情が徐々に淡く暖色に広がっていく感覚がする。

 瑞鶴の手から感じる素肌の温かさが羨ましく感じた。

 

 本当であれば肩に掴まれた手を躊躇いもなく退けるはずだったのに、何故かその手を退けなかった私がいる。

 

 退けなかった事を普通だと思ってしまった私がいる。

 この瑞鶴を会話が出来る相手だと思ってしまった私がいる。

 

 

 分からない。

 

 

 私の中で何が変わっているのか分からない。

 でもきっと、悪くない事なんだろうと思う。

 

 抱えていた虚構な憎悪も、

 必死に縋る生への執着も、

 想い描いた壮大な理想も、

 

 併せ持った全ての感情も、いずれは変わっていく。

 良い方向にも、悪い方向にも、必ず変わっていく。

 

 

 

 それが今の私なのだろう。

 

 

 

 

 

 ──中々、悪クナイ気分ダ。

 

 

 

 

 

「……ごめんなさい。だったら敵なんかに頼るなって話よね……私が悪かったわ、話は終わりにしましょう」

 

 数分間か何も言葉を発さずに身体を寄せ合っていた二人。

 我に戻った瑞鶴がゆっくりと飛行場姫から後退して離れ、指を額に当ててつい先程の行動を悔い改めた。飛行場姫に一言言った後に瑞鶴はその場を去ろうとする。

 

 しかし──、

 

「待チナサイ」

「……?」

 

 飛行場姫が瑞鶴を止める。

 瑞鶴は不思議そうに飛行場姫の方へ身体を向けた。

 飛行場姫は腕を組みながら海を少しだけ眺めた後、瑞鶴の方へ自ら歩み寄る。

 

「……サッキカラ黙ッテ聞イテイレバ、弱々シイ事バカリデ張リ合イガ無イワネ……ッタク」

 

 歩み寄った飛行場姫は文句を垂れ流しながら半ば閉じた眼で瑞鶴を睨み続ける。やがて互いの距離が手が届くまで近付いた時、飛行場姫は右腕を開いて瑞鶴の左胸を右手の甲でトン、と優しく当てた。

 

「敵ナラ敵ラシク、堂々ト脅シテ情報ヲ手ニ入レテミナサイヨ。アンタハ色々ト周リニ優シ過ギナノヨ」

「優し過ぎ……?」

「ソウヨ。ソノ優シサハ、イズレ自身ノ破滅ヲ呼ブ羽目ニナルワ。気ヲツケナサイ」

 

 再度腕を組んだ飛行場姫は飽き飽きした表情で瑞鶴に注意するよう促した。瑞鶴は自覚の無い事に少し拍子抜けてしまい、戸惑ってしまっている。

 そんな瑞鶴を見て飛行場姫は自身の背後の方へ振り向き呟いた。

 

「……七壞星ノ一人、『貪狼(ディアボルフ)』集積地棲姫ナラ……何カ情報ヲ持ッテルカモシレナイワ」

「『貪狼(ディアボルフ)』集積地棲姫……? そいつが何か知ってるの!?」

「アクマデ持ッテイルカモシレナイッテダケヨ。本当ニ知ッテルカナンテ、私ニハ分カラナイワ」

 

 実際に翔鶴と空母水鬼を引き離す方法など飛行場姫は本当に知らない。そもそも艦娘と深海棲艦が融合して共生しあうなど稀有な存在であり、滅多に見ない事だ。元に戻す方法は疎か、何故そうなったのかという仕組みすら分からない。

 

 ただ一つだけ、そのような事を考える仲間が一人だけ居たのを飛行場姫は思い出した。出来ることならあまり口には出したくない深海棲艦だが、少しの情報となれば致し方ないだろう。

 

 

 その名も、深海棲艦の中でもトップクラスの危険な存在、七壞星の一人である『貪狼(ディアボルフ)』集積地棲姫が何か知っている可能性があるという。

 

 

「ア、勘違イシナイデヨ。別ニ貴女ノ為ジャナク、アクマデ提督ノ為ナンダカラ。貴女ハ敵デアル私ニ頼ッタンジャナイ、私ガ自ラ白状シテアゲタノ。ソコノ所、チャント理解シテヨネ」

「う、うん、分かった……ありがとう……」

 

 飛行場姫は瑞鶴の方へ振り向き、慌てる様に指さして注意した。まるで瑞鶴を庇うような言い草に庇われた本人は困惑して反応に困っている。

 

「『貪狼(ディアボルフ)』集積地棲姫……易々と情報を言う訳にもいかないだろうし、そいつを倒せば吐いてくれるかもしれない……」

「イヤ貴女達デハ無理デショウネ、奴ヲ倒スノハ」

「え……何で?」

「ダッテアイツハ……──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──コノ世デ一番、イカレテル」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「古鷹、肩を揉め」

「はい!」

「雷、エアコンの温度を少し高くしてくれ」

「分かったわ!」

「五十鈴、ドアの横にある棚から緑のファイルを取ってきてくれ」

「緑のファイルね、了解よ」

「祥鳳、お茶を容れてくれ」

「分かりました」

「武蔵ー、この書類を灰に渡してくれー」

「任せろ」

「鳥海は灰の書類にミスが無いか確認なー」

「かしこまりました」

 

 仮執務室にて大勢の艦娘達が命令された事を忠実に聞いて行動している。文句を言わずに働く艦娘達に瑞鶴は唖然となっていた。廊下では飛行場姫が隠れてその様子を眺めている。

 

「……何か凄い事になってる……」

「おぉ今度は瑞鶴かぁ、お前も俺に施したい口かな?」

「いやまぁ……そうでも無いような、あるような~……」

 

 瑞鶴が入ってきた事に気付いた提督はとても機嫌がいいのか瑞鶴に(こころよ)く受け入れ声を掛ける。椅子から立ち上がって瑞鶴の前まで歩み寄ってきた。立ち上がる提督に連られて肩を揉んでいた古鷹も動きを合わせる。五十鈴が持ってきた緑のファイルを貰って読み始めた。

 

「皆は何してるの?」

「いや~何でもこのポンコツ達が俺にどうしても御奉仕したいと紙くずのように軽い頭を下げて泣き喚きながら懇願して来たもんだから、俺はそのやりたい事を仕方なく叶えさせて善行を積んであげているのだよ~」

 

 緑のファイルをパタンと閉じて提督は長々と説明し始めた。テレビ会議終了後に部屋で待機していた艦娘達が提督にどうしても償いたいという気持ちが強くなってしまい、執務室に押し入ってどんな仕事でも手伝うから介護させてくれと頼んできたらしい。

 

 最初は古鷹、次に雷、そして五十鈴と次々と艦娘が現れ、仮執務室は大所帯に。秘書艦の摩耶や一人で書類を書いていた灰色も巻き込まれ、随分と騒がしい状態になっている。

 

「どこかの馬鹿共の所為で左腕がまだ使えないんだぁ、これぐらいこき使っても大して何も問題無いだろう?」

「そりゃあ……そうよね、うん」

「中立な立場でお前らにあの処罰を下したが、あんな事があった以上はまだまだ序の口だ! いや序の口にしてやる!! またここに居座る事となればお前らの給料を全部俺のモノにして、お前ら全員奴隷みたいに最期までこき使ってやるからな!! か~く~ご~し~ろ~!!!」

 

 提督は大声で欲望剥き出しの発言を並べ、周辺にいる艦娘を一人ずつ指さしては毒を吐いてきた。中立な立場での処罰だけでは満足出来ない提督はこれ見よがしにと艦娘達の給料を全部自分の物にして、身が朽ち果てる最期までこき使ってやると未練垂れ流しでやっていくらしい。

 どうにもこうにも何も反論や反抗出来ない艦娘達は自身への罰だと素直に受け入れ、ちゃんと仕事をこなしている。

 毒を吐いた後に提督は共にある椅子に座り、執務机の上に足を乗せて堂々とした態度を見せつけた。

 

「んで、瑞鶴。何の用件で来たんだ?」

「あ、そうそう提督さん。少し私の話を聞いてくれないかな」

「お前の事だから大方(おおかた)予想はつくが言ってみろ。そこに隠れてる飛行場姫から聞いた情報とやらをな」

 

 飛行場姫と言われた途端に廊下に隠れていた本人は思わず身体を跳ねらせる。バレていないと思っていたのか声を上げる程驚いたようだ。

 提督は僅かな気配で瑞鶴と飛行場姫の事情を知り得たのか、これから言う事も大幅予測は出来ているらしい。

 

「じゃあ遠慮なく言うわ。提督さん、翔鶴姉を元に戻す手掛かりを見つけたの……どうやら七壞星の『貪狼(ディアボルフ)』集積地棲姫が何かしら情報を持ってるらしいから……手伝ってください!!」

「無理だし嫌だ」

 

 頭を下げてまで瑞鶴は提督に手伝ってくれるよう懇願した。

 しかし瑞鶴の話を聞いて提督は即刻断ってしまう。(おおむ)ね予想は出来ていたが改めて言われると少し悔しい。

 周辺にいた艦娘達は動いていた手や足を止めて瑞鶴に視線を送っていた。仮執務室内が静寂に包まれ、外から風が吹いて窓ガラスが揺れる音が聞こえる。

 

「まぁ翔鶴に関する事だと思って黙って聞いていれば滅茶苦茶な事を言ってくるとは恐れ入ったよ瑞鶴。粗方(あらかた)そこの飛行場姫にせがんで情報を貰ったんだろうが()()()()では無理だ。アイツは数多にいる深海棲艦の中でも外道中の外道、そんな不確かな情報を仮に持っていたとしても敵である我々に易々と吐くわけが無いだろう……現実を見たまえ」

「無理な相談だとは私の中でも分かってます!! でも私は翔鶴姉を救いたいんです!!」

 

 瑞鶴は頭を下げたまま必死に提督へ訴え続ける。飛行場姫や提督が言うには『貪狼(ディアボルフ)』集積地棲姫は相当の捻くれ者らしく、味方である深海棲艦からも疎まれている存在らしい。

 名前や噂からして相当強いのは明らかだ。

 今の自分では到底敵わない存在なのは自覚している。

 

 それでも瑞鶴は簡単には諦め切れなかった。

 

「お前が翔鶴を救いたい事だけに被害者である俺も巻き込まれなきゃいかないのか? 第一によく考えろ、お前の願いだけで一体どれくらいの労力と時間を犠牲にしなきゃ行けないと思う? 下手したら周りも巻き込まれるかもしれないんだぞ? お前はそれをちゃんと考えたのか?」

「考えてます!! 私が今どれだけ無力な事も、今までの道理じゃ上手くいかない事も、この現状のままじゃ駄目な事も、全部嫌なほど私も皆も分かってる……!!」

 

 確かに瑞鶴の話は他人を巻き込んでしまうような利己的な願い。

 簡単に手伝ってくれるような事ではなく、それは当の本人も充分理解している。

 

「もう後悔するのは嫌なんです……嫌な事から目を背けて逃げ続けてる事がどれだけの後悔を孕ませ、一生その背中に背負う事になるか……もう私の背中には数え切れないぐらい重くのしかかってる」

「まぁそうだろうなー」

 

 瑞鶴は血が滲み出るまで手を強く握り締める。歯を噛み砕く勢いで噛み締め、僅かに身体を震わせた。瑞鶴の頭を下げる姿を見て、艦娘達は自身と瑞鶴を重ねた。

 この鎮守府にいる艦娘の誰もが何かしらの後悔を背負って生きている。提督や蒼色、差別された側の艦娘達や翔鶴など後悔するモノは様々だろう。だからこそ瑞鶴の言っている事は身に染みるほど分かっている。

 

 このまま善行とやらを積んで戦う事から逃げ続けても自身の成長は進まない事に。

 

「だから私はもう逃げたくない……下手をしたら巻き込む? 違う私は、皆を巻き込ませる訳にもいかないし、仮に巻き込んだとしても、決して悪い方向に巻き込ませる訳じゃない……私は良い方向へ巻き込ませる!! でも下手なことは絶対にしたくないし、巻き込ませないためにも強くなりたいんです!!! 例え無理だと何もしないまま言われても!! やってみなくちゃ分からない事だってあるし、私はその無理を超えて進みたい!!!」

 

 これは瑞鶴本人の個人的な事情だ、皆を巻き込むつもりは全く無い。それでも仮に皆を巻き込んでしまったとしても悪い方向へ巻き込むんじゃなく、良い方向へ皆を巻き込ませる。

 

 瑞鶴は瑞鶴なりに自身の考えと本心、気持ちを持っていたようだ。

 どうすれば翔鶴姉を救えるか、どうすれば強くなれるか、自身が納得するまで考え続けていたのだろう。

 

 破茶滅茶な事ではあるが、決して不可能ではない。

 無理だと言われてもその無理という根本をひっくり返してやるという野望を持っている。

 

「提督さんにも後悔させないくらい強くなってみせます!!! 提督さんが胸張って誇れる様な強い艦娘になります!!! 皆を導けるような艦娘になります!!! だからお願いします!! もう一度私達に、チャンスを下さい!!!」

 

 

 

「……そうだなー……──」

 

 

 

 

 


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