午後の秘書艦がプリンツに代わり、いつも通り日常を過ごす二人。
摩耶は鳥海を引き入れ、また歓迎会をするそうだ。朝潮達は依然部屋でお喋りを続けている。提督は机に足を乗せ昼寝、プリンツは重要な前任についての資料をノートパソコンでまとめていた。
「いつまで昼寝するつもりですかーアドミラルー?」
「いつまでも寝ていたい」
「その気持ちは分かりますけどお仕事はー?」
「お前のゆるふわ頭の処理速度より早く終わってるので問題無し」
「その台詞五回目ですアドミラルー」
何気無い会話を続ける二人。
するとドアがゆっくりと開き、誰かがぞろぞろと引き連れてきた。とても小さい姿が四人、第六駆逐隊だ。
「司令官、暁達がお礼を言いたいと言ってて連れてきたよ」
「そーかそーか、お礼ねぇ……」
暁と雷は執務机の前まで歩み寄り、提督の目の前まで近づく。少し怯えているのか、身体が小刻みに震えている。後方では響と電が見守っていた。
「そ、その……! 司令官……あ、あり……ありが、あ……」
緊張して言葉が出ない暁に帽子を足で投げて被せる提督。何故自分が恐ろしいはずなのにわざわざ礼など言いに来たのか。理解し難い。
「上手く話せないのは嫌気がさすから今はやめたまえ」
「で、でも……」
「でもじゃないんだ暁。俺はお前と話してる時間があるほど暇じゃない。だったらさっさと自分達の部屋に入ってぐちゃぐちゃに書いたカンペを何度も練習するがいい、この帽子を練習台にでもしとけ」
「わ、分かりました……」
礼を言う事が出来ず、暁達は残念そうな表情で執務室を出ていった。
「いつものAdmiralで安心しましたー」
「そりゃあ良かったぁ」
「提督!」
ドアが突然開き、瑞鶴が現れた。どこか急いでいる様子だ、何かまずい事が起きたのだろうか。
「ちょっと来て! 食堂で鳳翔達が暴れてるの!!」
どうやら食堂内で摩耶と鳳翔が口喧嘩になったとか。仕方なく提督は身体を動かし、食堂へ向かった。
――食堂内
「うめーな!! これ! マジでうめぇよ!」
「流石日本の食事は凄いですね!」
「あぁそうだな、じゃなァァァァい!!!」
隅のテーブルを借りて提督とプリンツ、瑞鶴が出された料理をガツガツと食べていた。ふと我に返った提督がツッコミを入れる。
「おい瑞鶴、お前暴れてるって言ったよな?」
「言ったけどもう終わったみたいね」
「いや終わったじゃねえんだよ何で俺ら試食してるんだ、お前でいいだろ!!」
「だって鳳翔さんが提督に食べてもらいたいって言ってたから」
「だから最初からそう言えって言ってんだよ! 前に言っただろ!!」
「言っても行かなかったでしょ!!」
「あぁ行かなかったよ、暇じゃないからなァ!!」
テーブルを叩き、口論になる瑞鶴と提督。プリンツは黙って食べている。
「机に足乗せて寝てる奴がよく暇だって言えたわね!」
「俺の暇とお前の暇じゃ意味が違うんだよ!! 俺は不細工に寝っ転がってるお前らと違って大量の報告書と資材や深海棲艦に関する資料や書類を書き終え、その後スマホ弄ってゲームするっていう日課があるんだよ!!!」
「後半殆ど暇じゃないのよ!!」
「暇じゃない日課だ!! 俺が暇じゃないと言ったら暇じゃないんだよ!!」
「……次に! 肉じゃがです……」
提督と瑞鶴の口喧嘩を遮るように鳳翔が手料理を出してくれた。その二人は口喧嘩をやめ、静かに座り、出された料理を食べる。一時沈黙が走った。
「ねぇ確か貴方は提督さんの艦娘なのよね?」
「はいそうですよ、どうかされましたか?」
「提督さんはいつもこの調子なの?」
「はい! いつもこんな感じですよ!」
笑顔で答えるプリンツ。最早プリンツにとっては口喧嘩など日常でしかないのだろう。実際止めもせずに静かに食べていた。
「残念だったなヒステリーツインテ、俺は何が何だろうと口喧嘩では絶対負けない男だお前のその軽い口など恐るるに足らん。せめて小学校から国語の授業で辞書か広辞苑に出てくる言葉を十回暗記してテストで百点でも取ってくるがいい、少しはマシな頭になるだろう。集中力が切れなければねぇぇぇぇぇ!!!」
「こッの……!」
「流石Admiralです!」
「アンタまで助長させてんじゃないわよ!!」
何だかんだ文句を言いつつも出された料理を食べる提督。食べる事に関しては嫌ではなさそうだ。美味しく食べてる様子が伺える。
「ごちそうさま」
「て、提督さん、その……料理はどうでしたか?」
「悪くない。飯に出しても構わないだろう」
「そうですか、分かりました。検討してみます!」
どうやら鳳翔達は作った料理を出してもいいのか提督に許可をもらいたかったらしい。
反応は上々のようだ。許可を貰えて鳳翔達はほっとしている。
「さてゲームして昼寝しよ」
「あ、私は仕事があるので見るだけにします」
「おう分かった、瑞鶴は?」
「……えっ?」
まさか誘われるとは夢にも思わなかった瑞鶴。突然の誘いに理解するのが数秒遅れた。
「いやえっ、じゃなくて。来るか来ないかの話をしてんだけど」
「……行く」
「よし、ボコボコに出来る」
「何か言ったァ?」
「知りませーん」
三人は早めの夕食を済ませ、執務室に戻る。提督が持ってきたニン〇ンドース〇ッチで遊ぶ事になった。
「お前弱くて笑う」
「仕方ないでしょ初心者なんだからァ!! あ、またその技ッぶっ飛ばす!!」
「アヒャヒャヒャヒャ!!! ダメだめちゃくちゃ笑って操作出来なくなる!!」
負けず嫌いの瑞鶴を知っての事かタイマンで一方的に攻撃を仕掛ける提督。ゲームといえど瑞鶴はやめようともしない。
「お元気ですねぇお二人は……」
「失礼……します」
二人が馬鹿騒ぎしている中、入って来たのは第六駆逐隊。余程練習したのか少し声が枯れている。ただ一回目とは違って怯えている表情は無い。
「あ、お前らか。もう少し、ってお前見てない隙に切り札取っりやがったなァ!!」
「見てない方が悪いのよ、喰らえッ!!」
「暁さん達はこっちでちょっと待っててくださーい」
プリンツに誘導され、向かい側のソファに座る第六駆逐隊。四人にしては異様な光景だろう。瑞鶴と司令官が見た事の無い機械で遊んでいるのだから。仕舞いにはお互い殴り合っている。
「……瑞鶴、一回ここは休憩だ」
「分かったわ……」
「さて第六駆逐隊、何か言いたい事でもあるのかな?」
お互い落ち着かせ休戦協定に入る二人。提督は摩耶を呼び出し、暁達と対面させる。目線を暁と雷に向けて発言を誘った。
勿論言いたい事は分かっている。それをちゃんと伝える事が出来るのかが重要だ。提督はそれを見定めている。
「はい! 私暁と雷はあの、絶望的な状況からす、救っていただきか、感謝しています!! 本当にありがとうございます!!」
「んで?」
「私達第六駆逐隊は司令官の為に戦いたいと思っています! だから……これからよ、よろしくお願い致しします!!」
それは暁と雷が必死に考えた謝礼文。何回練習してもなお噛んでいたが提督はそれ程気にしてはいない。だが――、
「んーまぁ……五十点」
「え……」
「敬語ばかりで畏まり過ぎだ。本心を言ってくれなきゃ全く響かない」
「そ、そんな……」
「本心を言ってくれ……あたしは聞いてるから」
足を組み、腕で頭を支える提督。
今の謝礼文は本心ではないと悟られた。そんな事は分かってはいる、だからこそ本心を言いたい。だが言おうとすると涙が止まらなかった。
「……私達は……辛かった……」
「身体を見れば分かる」
「怖かった……苦しかっだ……」
「苦労したな」
「生きる゙事ずら……諦めでた……」
「頑張ったな」
「でも司令官が、助けで……くれた……」
「あの時のお前らは酷かったなー」
「嬉し……がった……」
涙を零しながらも必死に答える暁と雷。それを提督は適当に返す。
あの時まで地獄の様な日々だった。嬲られ穢され陵辱される毎日、そして突然として誰も来ない毎日。最早生きる事すら諦めていた。このまま死ねば楽なのかもしれない、苦しくないかもしれない。
そう思っていた時一つの光が暁と雷を差した。それは決してあの人達ではなく誰でもない白く美しい人。
いつの間にか自分達は医療室で看病されていた。助かったのだ。
「そりゃ良かった」
「助けてくれて……ありがとう……ございます……司令官……」
心の底から救われた。それだけでこの司令官は信じるに値する。今までの呪縛から解き放たれ、初めて優しくしてもらった。
端から見れば自分達の勘違いなのかもしれない、それでも司令官は本気で自分達を救おうとしてくれた。
「……悪いが俺は助けてない。摩耶が助けたいって思ったからお前らは助かったんだ。言うなら摩耶だ」
「……摩耶さん……」
暁達の目線が摩耶に移る。
「……どういたしまして、お前達が助かってあたしも嬉しい」
「……!」
「よく言えたな、おかえりだ」
暁が手に持つ提督の軍帽子を暁に被せ、むしゃくしゃに雷同様撫でる。力任せではあるがどこか優しさが感じられた。
そこで目に溜まっていた涙のダムは崩壊、服が濡れるほど涙を流した。思わず暁は摩耶に抱き着き、雷が提督に抱き着く。
「……よしよし頑張った頑張った」
「おいおい意外だな……ったく一人前のレディと艦娘一の任せ役がボロ泣きしたら格好つかないだろうに、ほら――」「ダメ……提督さん、泣かせてあげて」
「……」
離れない雷を引き離そうとするも瑞鶴に止められてしまう。今二人は救ってくれた提督と摩耶に泣きつきたい気持ちなのだ。こんな事はあまり好まない提督。かといって瑞鶴は今の状況で引き離す訳にもいかない。
「はぁ……分かったよ……」
「(Admiralは大体無意識なんですけどねー……何考えてるのかなー……)」
「(あっ……今凄くトイレ行きたい……)」
今後は三話ずつ投稿する事にします。