うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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152. 病み上がりの身体はとても重い

「っ……」

 

 病室にて目を覚ます。

 瞼をゆっくりと開くも、突然の光に目が眩んだ。

 思わず左腕で光を遮り、視界が安定したところで辺りを見回す。

 

 白い壁、白い天井、白い布団、どれも見た事のある場所だ。

 鉛のように重い身体を起き上がらせ、誰かの声援が聞こえたの感じて左壁にある窓を見る。

 窓からは暑い日差しが差し込み、何かで遮なければまともには見れなかった。恐る恐る身体を動かし、左腕で光を遮ながらも窓の景色を見るとそこには──、

 

「ここ……どこ……?」

「島風ちゃ~ん、元気かな~?」

 

 誰かが名前を呼んだ。

 声が聞こえた方向は左側の窓とは真逆で、呼ばれた島風は素早く振り向いた。

 

「今日も日差しが暑いわね~って、えっ嘘」

 

 今まで意識不明のまま眠っていた島風が起き上がっているのを見て■■医師身体を硬直させる。毎朝島風の容態を確認していた■■医師は今朝も確認の為に病室を訪れていた。

 提督が言っていた様に■■医師は島風の身体の中から黒い触手が一部取り残されており、樹木の根の様に絡んでいたのを丁寧に切除。無事手術は終了、その後は意識は覚めないまま一日が過ぎていた。

 

「あぁ~! よかったぁ~! 意識が戻ったのね! 体調は島風ちゃん的に大丈夫かしら?」

 

 起き上がった島風を見て■■医師は自身の娘の様に喜んだ。

 今までの記憶が無い島風からすれば見知らぬ人物が自身の事を喜んでくれている。

 確か自分はあの時沈んで死んでしまったと思っていた。何かの奇跡的な偶然なのか分からないが、どうやら自分は助けられたらしい。

 

 そうするとここは鎮守府だろうか、島風という名前を知っている医者であろうこの女性は軍の関係者である事に間違いない。

 一瞬だけ窓から覗いた風景からは鎮守府でしか見られない石畳や赤レンガの建物が見えた。

 そう考えた島風は恐る恐る■■医師にある質問をした。

 

「す、すいません……」

「ん? なに?」

「ここはどこ、ですか……? それと貴女は……誰、ですか……?」

 

 少し不安気味の島風は名前も知らない■■医師に名前とこの場所の説明を願った。

 質問を聞いて■■医師は思わず「あ」と声を漏らして、島風が漂流してから今日この時の記憶が無い事を思い出す。

 

「あ、そうよね……確か覚えていないのよね……ごめんね、島風ちゃん。今はとりあえず容態を確認するから、お話は後でも大丈夫かな?」

「わ、分かりました……」

「ありがとう!」

 

 色々と事情を話してあげたいのは山々だが起き上がった今は容態を確認するのが最優先だ。■■医師は島風を一度寝かして、看護師を呼び出した。

 

「よし、今の所では問題ないわね。流石艦娘といった所かしら、予想してた日数よりも早く回復してる……ちょっと予定は狂っちゃったけど、このまま何事も無くければ必ず回復に向かっていけるわ。だけど酸素マスクに関しては念の為に今後一週間はつけてもらうからね」

「ありがとう……ございます……」

「どういたしまして。後回しになっちゃったけど私は■■■■、この鎮守府で医師を勤めてるわ」

 

 ■■医師や看護師達による確認が終わった後、■■医師は自ら自己紹介をした。

 名前を言うと同時に右手を出して握手を求める。

 島風は少し警戒しながらもゆっくりと■■医師の手を握った。

 

「■■■■……」

「そ、皆は先生って呼んでるけど呼び方は島風ちゃんの自由で大丈夫よ」

「じゃ、じゃあ■■先生……ここは……?」

「ここは潮岬町鎮守府、和歌山県の潮岬町にある防衛拠点。紀伊半島の海域の防衛又は哨戒を中心に動いている所」

 

 潮岬町鎮守府という名前は聞いた事がある島風。

 確か小笠原諸島海域攻略や硫黄島海域攻略で大きな戦績を挙げた鎮守府だった。

 

「潮岬町……?」

「島風ちゃんがここに来た経緯については、色々話したいのだけれど少しややこしくてね……島風ちゃんで言う提督、かしら? 今その人を呼ぶからちょっと待っててね」

「分かり……ました……」

 

 自身の記憶が正しければ潮岬町鎮守府の提督は艦娘に優しい事で有名な人だと聞いている。名前は分からないが自身を助けてくれたのなら感謝しかない。

 

「目覚めたか」

「えぇつい先程ね、体調も今後何も無ければ次第に回復していくわ」

「どれどれ、哀れな操り人形の顔でも拝見するか」

 

 ドアの先で■■医師と提督らしき人物が会話をしているのが聞こえる。

 一言余計だが声からして男のようだ。会話が終わった後に横引きのドアが開かれる。

 

「っ……!?」

 

 横引きのドアを勢いよく入ってきたのは白い軍帽と軍服を身にまとい、透き通った白い肌に深海棲艦の様な白い長髪を靡かせた女性の様な人。圧倒的な白さに一瞬目を腕で遮ってしまうほど眩しく見えた。

 もう一人は艦娘の摩耶、恐らくこの提督の秘書艦なのだろう。この摩耶も外観は少し特殊で、顔の右半分が提督と同じく白い肌に深海棲艦特有の黒い鉄角。右眼が宝石の様に紅く、その眼から紅い線が時々光って頬や額を伝っている。

 

「……何驚いた顔してるんだコイツは」

「貴方達の特徴から考えれば誰だって最初は驚くわよ」

「まぁそれは仕方ないぞ提督」

 

 異様な姿の提督と摩耶に島風は驚きを隠せずにいた。

 あまりの驚きに口を開いたまま唖然としている。

 

「……やぁやぁここで目覚めた気分は如何かな島風君。さぞかし身体が鉄の如く重いというのは不快感でしかないだろうなぁ、それだけは同情するよぉ」

 

 いつもの流暢な口調で提督は島風に話し掛ける。聞いていたイメージとは程遠い提督に島風は依然として口を閉じぬまま言葉を失っていた。

 

「その表情から考えるに自身の記憶からイメージしていた提督とはまるで違うと言った表情だなぁ、まぁこの俺の美貌に取り憑かれたのであれば仕方あるまい」

「それは違うと思うな」

「摩耶は一回お口チャック」

 

 唖然とした表情の島風の気持ちを代弁し、提督は腕組みから右手を軍帽のつばに触れたポーズで話を続けていく。摩耶や■■医師からは変な人にしか見えないポーズだが、提督自身はカッコいいと思っているらしい。

 摩耶が一言余計な事を言うも提督はすぐさま振り向き、早口で注意しては島風の方へ顔をを向ける。行動がおかしい提督に島風は戸惑うも思い切って質問をしてみた。

 

「蒼■中尉……ですか……?」

「残念だがお前の知っている蒼■中尉は故人だ。代わりにこの白と呼ばれた俺が潮岬町鎮守府の責任者になっている」

 

 ■■医師の説明では四年前に蒼■中尉は不慮の事故で死亡し、その後に着任した軍人が約四ヶ月前に失踪、そして『白』と呼ばれたこの男が約三ヶ月前に潮岬町鎮守府の責任者になったらしい。何かとトラブルがあったのかと島風は察し、口には出さず真面目に説明を聞いた。

 

「早速だが轟沈前の所属と記憶を言ってもらおうか、今は二■■■年の八月になる」

「……はい私は、小笠原鎮守府所属……島風型駆逐艦一番艦……」

「えっ、嘘」

 

 小笠原鎮守府と聞いて思わず■■医師は言葉を漏らして手で口を塞いだ。摩耶も■■医師と同じく動揺しており、何を言えばいいのか言葉を選ぶのに時間がかかってしまった。

 

「多分ですけど、鎮守府はもう……駄目、ですよね……」

「……あぁ、小笠原鎮守府は五年前に深海棲艦の奇襲によって今も占拠されている」

 

 深海棲艦の拠点だった小笠原諸島は一度蒼■中尉の艦隊を始めた連合艦隊によって奪取され、その後小笠原諸島海域防衛を中心に鎮守府が設置された。

 当初小笠原鎮守府では海域防衛の為に各地の鎮守府から一人ずつ艦娘が着任し、その戦力は深海棲艦に恐れられるほどで海域防衛に大きな役割を果たしていた。

 

 しかし深海棲艦側に提督らしき存在が確認されて数週間、深海棲艦の連合艦隊が小笠原鎮守府を奇襲。

 僅か五時間で鎮守府や小笠原諸島海域一帯を火の海へと変貌させ、艦娘一人と憲兵一人を残して殆どの艦娘と軍関係者が()()()()になってしまった。

 生き残った艦娘は修復不可能と思われてもおかしくない程の大損害、憲兵も意識不明の重体で瀕死寸前と、深海棲艦の連合艦隊による戦闘がどれだけ熾烈を極めていたかを物語っていた。

 

 その深海棲艦の連合艦隊には今は七壞星として君臨している【天璇(メラク)】南方棲戦鬼や『巨門(テラスティア)』戦艦棲鬼、『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級、『貪狼(ディアボルフ)』集積地棲姫や【玉衝(アリオト)】戦艦水鬼が報告によって確認され、七壞星という危険個体リストや護神厄討艦隊の編成が決められた要因にもなっている。

 

「五年も……経ってたんだ……」

「まぁさか生き残りがいたとはねぇ~……いやまぁ一回沈んでるけど」

 

 当時七壞星や護神厄討艦隊という存在が無かった海軍では、今までの海域防衛による戦果から考えて小笠原鎮守府の信頼が強かった。

 その理由として各鎮守府から着任した艦娘の殆どが優れた戦闘能力とあらゆる状況に対応する適応能力を有しており、余程の事が無い限りは到底攻め落とす事など出来ないだろうと思われていたからだった。

 

 もしまた攻め落とされた場合、陸上型深海棲艦による日本への爆撃が易々と出来てしまう。それらを防ぐためにどうしても鎮守府の正式運営の準備が整う期間とその後の海域防衛を行えるほどの戦闘経験が豊富な艦娘が必要だった。

 

 その為に小笠原鎮守府が奇襲攻撃によって陥落し、命からがら脱出してきた艦娘と憲兵を目撃した時には多くの軍人が驚いたと述べている。それだけ小笠原鎮守府に所属していた艦娘は精鋭と謳われており、今潮岬町鎮守府にいる島風もその一人だった事に摩耶と■■医師は驚いていた。

 

「自分が沈む又は死ぬ寸前の記憶は覚えているかな?」

「はい……少しあやふやではありますが、散々身体を電気ショックで痺れさせるような拷問された挙句に突然目の前に砲口を突きつけられ、視界が真っ暗になったのを覚えています」

「凄い鮮明に覚えてるじゃないか」

 

 島風の記憶の中では深海棲艦の連合艦隊による奇襲攻撃から四時間以上が経過、ある特殊な深海棲艦と戦闘を繰り広げていた事を覚えている。

 その深海棲艦は尻尾の様な艤装に怪物の口をかたどった突起部から碧色の雷を放っていた。

 そして途轍もない程の戦闘能力と異常なまでの走行速度。

 海軍の中でもトップクラスで最速だった島風の海上走行速度とほぼ同等の速さを誇り、海を駆ける姿はまさに雷の如く。その勝負で島風は敗北し、散々痛めつけられた後に戦闘不能になってしまった。

 

「なぁ提督……」

「何だ摩耶」

「『(オウゲン)』に言ってみるか?」

「……まぁそうだな~……仲間がいた方がアイツも心強いだろ」

 

 摩耶が島風の事情を少し聞いてある提案をする。護神厄討艦隊旗艦である『(オウゲン)』叢雲に直接会わせようと摩耶は考えた。その案を聞いて提督は顔を天井に向け、考えるような仕草をした後に叢雲を呼ぶように摩耶を行かせる。

 島風は『(オウゲン)』という聞き慣れない名前を聞いて頭にはてなマークを浮かべた。自身の関係者なのだろうか、艦娘か軍関係者なのか分からない。

 

「■■先生はこれまでの経緯を簡単に話してくれ、島風の事はお前の方がよく知っているはずだ」

「はいはい分かったわ」

 

 単に説明するのが面倒なだけだろうと心の中で思いつつ、■■医師は島風に漂流してきた経緯と潮岬町鎮守府で起きた事について分かりやすく説明した。

 ■■少尉の恐るべき蛮行、蒼■中尉の殺害、翔鶴の暴走、そして自身が■■少尉の操り人形となって翔鶴を脅していた事を伝えていく。

 

 島風は沈んだ時の記憶以来、全く何も覚えていない。

 侵略通信機による後遺症か、身体の中を蝕んでいた黒い触手が核に直接影響を与えて記憶障害が起きている。何を言われても理解するには時間は足りず、自身がその言われた通りに生きていた事に実感が湧かなかった。

 

 ただ心の中で残っていたのは今まで意図せずに潮岬町鎮守府の艦娘達を脅してきた罪悪感、そして──、

 

「島風!!」

「えっ、うわっ!!」

 

 病室の横引きのドアが勢いよく開かれ、あまりの強さにレールから外れたドアを咄嗟に■■医師が支えた。

 金色に光る槍を放り投げられ、提督は無意識に槍を掴んで倒れる。

 名前を叫んで出てきた途端に島風の方へ一直線に走り、生きてくれていた喜びを噛み締める様に抱き締めた。突然の抱擁に島風は驚きを隠せずに慌てふためくも、抱擁してきた艦娘を確認して落ち着きを取り戻す。

 

「良かった……本当に良かった……!」

「貴女は……叢雲ちゃん……?」

 

 島風を抱擁したのは叢雲。今は護神厄討艦隊旗艦として『(オウゲン)』の名を背負っている艦娘だ。

 何を隠そう叢雲はあの小笠原鎮守府で深海棲艦の連合艦隊による奇襲攻撃から生き残った唯一の艦娘である。

 

「えぇ私よ島風。久しぶりね」

「うん、そうだね……久しぶりだね」

 

 約五年ぶりの感動の再会に島風と叢雲は喜びを分かち合う。あの惨劇から生き延びた叢雲と沈んでしまったが生き返った島風が相見(あいまみ)え、嬉しさのあまりに叢雲は涙を浮かべた。

 

「「摩耶ぁぁぁ!! 助けてぇぇぇぇ!!!」」

「はいはい」

 

 その二人を他所にコンクリート製のドアを必死に支える■■医師と床にヒビが入る程重い金色に光る槍を仰向けになりながら必死に持ち上げる提督が摩耶に助けを求めた。

 病室内の混沌とした光景に困惑するも、摩耶は二人を助ける。

 

「まさかこんな所で筋肉を使うとは思わなかったわ……」

「悔しいが俺も同じ感想だ」

「あらごめんなさい、いるとは思わなかったわ」

 

 提督と■■医師は壁に体育座りで寄り掛かり、予想もしていなかった事を嘆いている。

 『(オウゲン)』叢雲は摩耶から金色の槍を返してもらい、今更提督と■■医師がいた事をわざわざ言葉に発してきた。

 

「叢雲ちゃんは、その……元気?」

「えぇ私は元気よ、島風こそ体調は大丈夫?」

「うん、ちょっと大丈夫になってきたかも」

 

 勇気を振り絞って島風は叢雲に話し掛ける。

 『(オウゲン)』叢雲は笑顔で島風の話に答え、同じ目線になるよう椅子に座って話し始めた。

 お互い自身の無事を喜び合い、それぞれ手を優しく握り合う。

 

「はぁ……本当にごめんなさい……あの時はもう、()()()()と相手するのに精一杯で援護出来る余裕が無かったの」

「仕方ないよ、強い敵がいっぱいいたんだし……みんな自分の事で精一杯だったよ、私だってそうだったし……」

 

 島風と叢雲の二人だけにしか分からない小笠原鎮守府の激闘の行末。

 

 突然鎮守府内の倉庫が大爆発を起こし、資材が燃えていく中で海を埋め尽くす黒群が島一帯を囲む。援護要請をする暇もなく一斉砲撃によって鎮守府は疎か小笠原島の地形は変形した。

 あまりにも突然な奇襲に対応が遅れるもすぐさま叢雲と島風は出撃、何十匹もの深海棲艦を蹴散らし、鬼や姫クラスの深海棲艦と対峙した。

 

 戦況は一時的に巻き返すが、得体の知れない強さを持った深海棲艦が続々と出現し、艦隊はバラバラになってしまう。

 しばらく島風と叢雲は深海棲艦に応戦するも、次第に手に負えず戦況は悪化。

 仲間の艦娘は巨大な腕を操る二人の深海棲艦によって嬲り殺され、その惨状を見た艦隊を指揮する司令官は自身の失態を恐れるあまりに自害。鎮守府内は深海棲艦によって蹂躙され、憲兵や整備士は巨大な鋼鉄の拳を装備した深海棲艦に連れていかれてしまう。

 

 残る艦娘は二人だけとなり、絶望的な状況下でありながらも島風と叢雲は特殊な深海棲艦と苛烈を極める戦闘を繰り広げていた。

 二人とも弾薬や燃料もあと僅か、大量に血液を失い意識は朦朧とする。

 依然として敵対する深海棲艦は損害を与えても余裕の笑みを浮かべていた。

 

 このままでは確実に死ぬ。

 

 そう思った叢雲は少しでも救える命を救う為に微かに息のある生き残った憲兵一人を救助し、一人の艦娘が殿(しんがり)となって小笠原諸島海域を脱出する作戦を試みた。

 最初は島風が憲兵を抱えて脱出するはずだったが、島風の意向により叢雲が憲兵を抱えて脱出。島風は小笠原鎮守府の最後の艦娘として深海棲艦の大艦隊を相手に突撃、叢雲が逃げれるだけの時間を作って海へ沈んだ。

 

「本当は貴女が脱出するべきだったのに……私達の事を知ってわざわざ殿になってくれた……」

「だって大切な人、だったんでしょ? 一緒にいた方がいいもん」

 

 生き残った一人の憲兵は『(オウゲン)』叢雲にとって()()()()()()()事を島風は知っていた。

 叢雲が脱出する作戦を考案し、最初は島風が脱出するはずだったのを瀕死寸前の憲兵が叢雲と関係のある人物だったのを見て、咄嗟に二人を逃がす事だけを考えていた。

 

 あの二人の為ならば潔く死ねる。

 そう思った島風は脱出を試みる叢雲と憲兵を背後に深海棲艦と再び戦った。

 

「ねぇ()()()は今どうしてるの?」

「え? い、いや……その……大丈夫よ、ちゃんと生きてるわ」

「ほんとに? なら……良かった」

 

 生き残った一人の憲兵の無事を聞いて、島風はため息を吐いて安堵する。自身が殿(しんがり)を務めて最期まで戦い抜き、一度沈んだ意味があった事に安心した。

 

「あ、そうよ! 島風はこの先どうするの?」

「え? 私?」

「そう、貴女は今ここにいて治療を受けているけど、本来は沈んだ事になってるわ。だけど大本営の方で確認を取ればまた戦線に復帰出来るかもしれないのよ」

「ま、待ってよ私は……」

「聞いた所によると体力が落ちてるくらいでこの先何事も無く生活していれば何も問題は無いって言うし、心細い私としても貴女がいてくれたら嬉しいのよね」

「待って……」

 

 叢雲にこの先どうするのか尋ねられた島風。

 当然何も考えていなかった島風は困惑して答えを導き出せずにいたが、叢雲はお構い無しにこれから先の事を提案し始めた。

 島風の声も耳に入らないのか次々に案の内容を所狭しと話してくる。

 

「同じ地獄を生き抜いた唯一の仲間だし、それに自慢のスピードを出せるなら活躍出来ると思うの。前までは候補者だったんだし、島風なら楽に──」「待って!!!」

 

 島風の大声が叢雲の話を遮って病室内に響き渡る。突然の大声に叢雲は一歩後退するほど愕然し、提督達も同様に一驚していた。

 大声の直後、誰も声を発する事が出来ず病室内が沈黙に包まれる。

 

「待ってよ……この先の事なんて決まってもないし、勝手に決めないで……! それに私はもう……」

 

 沈黙を破って島風が自ら意思を伝える。

 

 

 

 島風の本心は──、

 

 

 

「戦いたく……ないの……」

 

 

 

 




何故行方不明って分かったのかな。
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