うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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156. 朝の早起きが一番ツラい

「提督、そろそろ行かないと」

「っ~面倒臭いなぁ」

 

 医療施設にて提督は島風との面会を終え、講堂の多目的室では艦娘達が鹿島の講義を終えて、次の日を迎えた朝の五時ちょうど。

 

 かなり早朝ではあるが、またいつもの様に仮の執務室にて奥の執務机と椅子へ向かい、提督は堂々と執務机に足を乗せながら欠伸をする。同じく摩耶も隣の机と椅子に向かい、本日の書類を手に取って仕事を確認した。堂々と居座る提督に声を掛け、外に出ようと摩耶は急かす。

 

「今日だっけ、翔鶴の護送日」

「あぁ、もう護送船も停泊してるぞ。隊長には地下営倉から翔鶴を移動させるように指示は出してある」

「んで俺が色々と確認を取り次第、最後まで見届けろと言う訳だな」

「そういう事だ」

 

 今日は横須賀鎮守府へ引き渡す翔鶴の護送日。

 空母水鬼と共に生きている翔鶴の調査を始める為、横須賀鎮守府の研究施設まで送る事になっている。

 深海棲艦による敵襲で奪取されるのを防ぐ為、護送船の周辺には横須賀鎮守府に所属している艦隊の艦娘達が赴いていた。念の為に護送船の護衛として『(オウゲン)』叢雲も参加し、厳重な監視下の元で護衛する事になる。

 ■■大将と■■元帥とのテレビ通話後から四日が経っており、日にちは刻々と過ぎていた。

 

「ん? 何だお前も来てたのか、瑞鶴」

 

 港の岸辺へ向かっていた提督と摩耶は先に来ていた瑞鶴を見掛ける。まだ太陽が顔を出さず光を溢れさせている紺色の空の下で瑞鶴は一人、港の岸辺で立ち尽くしていた。

 瑞鶴の眺めていた方向には護送船、何の感情も無くただただ見つめている。

 

「来ない理由がないわ」

「そうか」

「来たぞ、提督」

 

 提督の呼び声に反応した瑞鶴は振り向く事無く口を開いた。提督は瑞鶴の隣まで歩き、共に緩やかな潮風を浴びる。

 何十秒後かして特殊な拘束器具に縛られた翔鶴を隊長と共に憲兵隊が移送。ミイラの様に拘束された翔鶴を滑車で移動し、その周辺には武装した憲兵達と『(オウゲン)』叢雲が警備していた。

 

「おはようございます白殿、命令通り連れて参りました」

「よし、じゃあ船の中へ入れておけ」

「かしこまりました」

 

 憲兵隊の隊長が改めて提督へ敬礼しながら挨拶する。

 本来は起床時間である今の時間だが、提督の命令と聞いてすぐさま起き上がったようだ。

 挨拶した後、憲兵達は拘束された翔鶴を船の中へ移送する。

 

 その時──、

 

「っ!?」

「何故……!」

 

 拘束された翔鶴の元へ瑞鶴がすぐさま近付き、顔を包み込む様に両腕で抱く瑞鶴。一瞬の行動に周辺の憲兵や艦娘は驚きの声を上げ、瑞鶴を引き離そうとした。

 しかし引き離す前に瑞鶴は翔鶴から離れ、提督の元までゆっくり歩み戻る。憲兵や艦娘は困惑した表情で身体を固まらせ視線を瑞鶴に集めるが、瑞鶴は自身の背中を見せつけては何も言わずに立つままだった。

 誰も声を発さずに波の音が際立って聞こえてくる中、提督は隣に立つ瑞鶴を睥睨し、そして面倒臭そうにため息を吐いては一歩前に出て口を開いた。

 

「あぁこれはこれはウチのヒステリックアングリーバードがすまなかったぁ、何ぶん自分勝手に動くズボラで間抜けなポンコツでなぁ! ポンコツな姉を一度抱き締めたかったらしい。まぁこれが姉妹の最後のお別れだぁ、別にこれぐらいしてあげても何も問題ないだろう」

「……ほら行きなさいな」

 

 提督の長い屁理屈で沈黙の時間が更に長くなる。

 『(オウゲン)』叢雲がその沈黙を破り、憲兵達に翔鶴を運ばせた。鉄鎖が擦れる音を鳴らせて拘束された翔鶴は船の最深部へ収容されていく。

 その後護衛艦隊の旗艦である艦娘と確認を取り、翔鶴に関する書類を預けさせて船は出航。提督と摩耶、瑞鶴は護送船を見えなくなるまで見届け続けた。

 

「……俺に面倒な事をやらせるのが上手くなってきたな瑞鶴」

「ありがとう、提督さん……」

「その顔は、何かを決心した表情かな?」

 

 耳元で囁く様な潮風で二色の髪が靡く。護送船が次第に見えなくなり、瑞鶴は顔を俯き手を握って目を閉じた。

 これからの覚悟を決めた様な表情に隣に立つ提督がうっすらと笑みを浮かべて話し掛ける。

 

「……えぇ、そうね。私も……」

 

 話し掛けられた瑞鶴はゆっくりと瞼を開き、徐々に青色を取り戻していく空に向かって顔を仰いだ。昇りゆく太陽の光が山から漏れ出し、潮岬町鎮守府を淡く照らしていく。光に晒された瑞鶴は空を眺め続け、提督へ伝える様に呟いた。

 

「頑張らなきゃいけないな、って思った」

「……そうか」

 

 

 

 

 

 

 昼手前の十一時。

 提督は書類を全て終わらせ、摩耶や青葉と共に工廠を訪ねていた。

 

「明石はいるか」

「はい! いますよ!!」

 

 工廠の入り口にて提督が明石の名を呼ぶと、ドアの影からひょこっと顔を出して明石が顔を出してきた。どうやら翔鶴に拉致された後の散らかった部屋を掃除しているようで、中々片付かないといった様子に見える。

 桃明石は一旦掃除を中止して提督の元へ走り寄った。その後から蒼明石も無表情で姿を見せ、桃明石と同じく提督の元まで向かった。

 

「どうされましたか?」

「んーちょっとお前らに開発して欲しいモノがあってでねぇ、あとは後ろにいる不貞腐れたポンコツに話があるくらいかな」

「では前者の方からお願いしてもいいですか? もう一人の私も話したいそうなので……それで、開発して欲しいモノとは何ですか?」

 

 提督は背後にいる摩耶へ横目で流し、摩耶はクリップボードから開発リストを桃明石に手渡した。開発する装備とその量数を纏めた書類を桃明石はまじまじと見続ける。開発して欲しいと書かれた装備は索敵能力を上げるモノばかりだった。

 

「彩雲と零式水上観測機、三十三号対水上電探、ですか……少し時間はそれぞれでかかりますが恐らく失敗する事は無いと思います」

「時間はどの程度だ?」

「そうですね~……現在は叢雲さんに頼まれているモノを開発してそれを今は量産中でして……全ての作業が終わり次第、量産も含め全て開発するとなると、一週間~二週間は必要かと」

「なるほど。明石、俺は近々大規模な偵察任務を発令しようかと考えている。一週間半で間に合わせてくれ」

 

 提督は二週間内に潮岬町鎮守府の艦隊だけである五ヶ所の海域の偵察任務を行うようだ。詳細は話してくれないが、目的は二人の明石でも簡単に理解出来る。提督の声を聞いていた蒼明石は顔を俯かせ、一瞬身体を僅かに跳ねらせていた。

 

「一週間半、ですか……正直キツいですが、出来るだけ頑張ります!」

「元気があってよろしい、では頼んだぞ」

「はい!」

 

 桃明石は書類を手にしながらステップを踏んではその場を去っていった。

 すれ違いざまに今度は蒼明石が前に出て提督の目の前まで歩み寄る。目と目を合わせ、蒼明石は静かに提督を睨みつけた。

 提督は指でついてこいとジェスチャーし、蒼明石を工廠裏へ連れていく。

 

 工廠裏とは講堂と工廠の間に挟まれた小さい空間。

 太陽の光が届く事はなく影に染まっており、隙間を通る様に風が少し吹雪いている。

 

「話ってのは?」

「まずは確認だ、お前が改造した戦闘意欲増進剤で洗脳を施したのは間違いないな?」

「そうよ……アイツらに脅されて、どうしようもなかった」

「じゃあお前は脅されて作った訳だが、その時■■少尉又は空母水鬼は何か言っていたとか分かるか?」

 

 蒼明石は艦娘を洗脳出来る改造した戦闘意欲増進剤を開発し、差別による優遇制度の発端として厳重に監視されている。今は何気なく桃明石と暮らしているが手錠には思考と感情が読める特殊な拘束器具で、怪しい動きでもすれば即座に電流が流れる様になっている。

 その重要人物である蒼明石に提督は脅された当時の■■少尉や空母水鬼の言葉を聞いていたかを質問した。

 

「何か……?」

「脅された時の言葉とか、盗み聞きした会話とかでもいい。何か聞いていないか?」

 

 狙いはその薬を作るにあたって考えた■■少尉の意図や目的。

 

 もし■■少尉や空母水鬼の最終目標が”全世界の艦娘を洗脳して反逆させる”といった無茶苦茶な計画ならば、実験台として利用された潮岬町鎮守府の艦娘は何か聞いている可能性がある。

 その中でも蒼明石は艦娘を洗脳出来る改造した戦闘意欲増進剤を開発した貴重な存在、その時に何か聞いているのかもしれないと提督は考えた。

 

「早く作らなきゃ殺すとしか言われてないから……分からない……」

「青葉」

「……本当です。嘘は言っていません」

「手掛かりは無しか、まぁ仕方あるまい」

 

 蒼明石が情報を持っていない事は予想の範囲内だ。

 可能性があるにしてもその数字はとても低く、半ば賭けに出ていた様なものだった。

 

 これだけの大規模な計画だ、わざと他人に漏らす方がおかしいと言える。嘘を見抜ける青葉を使ってまで試してみたが、予想通りの答えに全く期待していなかった提督はつまらなそうに仕方ないと答えた。

 

「……何故私も旧式解体にしなかったの」

「確かお前は龍驤や利根と同じく罪を償いたいと旧式解体を自ら頼んだらしいな。翔鶴、いや空母水鬼か、そいつ等による支配が終焉を迎えた途端、このポンコツ兵器やその他はともかく、散々俺を敵視してた癖に手のひら返しで罪を償いたいなどとほざいて無様に後悔してる奴の言い分など素直に耳を傾ける訳が無いだろう」

 

 蒼明石は自身の行いの対価として旧式解体にされるべきだと思っていたが、翔鶴が全責任を負う形で蒼明石の意志は取り消されている。他の艦娘達はともかく何故自分は消されないのか、蒼明石は疑問に思っていた。

 

 提督の言っていた事は全て本当だ、地下営倉で話した時や医務室で暴れそうになった時に言われた事は図星だった。作らなければ殺すと()()()()に脅迫され、保身に走って改造した戦闘意欲増進剤を開発した。その時は生きる事に必死で他の事など考えている暇は無かった。

 

 目の前で旧式解体法で命を落とす仲間を見続けて、あんな惨い死に方はしたくないと心の底から願い続けた。

 

 私は解体された全ての艦娘を見届けている。

 

 だから解体されていく艦娘の表情を今でも鮮明に覚えている。

 

 死の宣告を迫られて暗い解体場所の中へ連れていかれていく艦娘の恐怖に歪んだ表情は思い出すだけで身体が震えるほど目に焼き付いている。

 だから()()()()に褒められて差別する側に入った時には思わず安堵し、そして頼まれたモノを開発する度に信頼されるようになって、私は必要な存在なんだと思い込む様になった。

 

 

 依存していた。

 

 死への恐怖による一種の洗脳で、二度と失敗や裏切りは出来ないと思っていた。そんな事をすれば私は私がどうなるかなど目に見えている。

 最早自身の性格や口調、自我が徐々に透けていくように消えていった。

 いつの間にか開発したモノが有効活用されていくさまに優越感を覚えてしまった。

 いつの間にか開発したモノを使う場面を見て狂う様に笑ってしまった。

 

 私は()()()()の様に染まってしまった。

 

 死ぬのが怖くて仕方なく開発して今まで生きてきた私だが、私は今死にたいのか生きたいのか全く分からない。

 自分の結末をどう決めればいいのか分からなかった。

 旧式解体を望んだのは世間や仲間がそう思っているだろうと思って決めただけで本心ではない。生きたいと思ったのは()()()()の脅迫が薄れてきた事で自由になれたという解放感で充実していたからだ。

 

 だがアイツらの脅迫が薄くなって少しは自由に動けても、そこにあるのは背中に重く伸し掛る罪悪感。死にたいと思うのはただその罪悪感から逃げたいだけなのかもしれない。

 もし提督がその感情や思考を知り得てまで私を生かしたのなら、罪悪感と共に生きなければいけないこの世界こそ──、今まで以上の地獄だ。

 

「じゃあ貴方は私達を生かして翔鶴だけに罪を背負わせたの?」

「背負わせたんじゃない、アイツが自ら背負ったんだ。空母水鬼の仕業とはいえ、自分自身でやってしまった事に変わりはないからな。何も出来なかった自分が相当悔しくて、苛ついて、罪悪感で押し潰された事だろう。仲間を第一に大切にしていた翔鶴だ、自分だけを犠牲にしてでも仲間を助けたかったんだろうな」

 

 翔鶴の例え自身が陥ってでも仲間を助けたいと思う桁外れた仲間想いの精神力は賞賛に値するモノだ。何があっても貫き通してきたその信念は世界線が違えば多くの艦娘達から慕われていただろう。

 しかしこの現実は全く融通が効かず、必ずしも思い通りにはいかない世界で成り立っていて、とても辛辣(しんらつ)且つ非情である。

 翔鶴や提督、他の人類はそんな最悪な世界に生まれ、そして翔鶴は闇に支配されてしまった。

 

「何故お前や龍驤達を生かしたかって? 答えは簡単だ……見せしめだよ……今後こんな事が起こらないようにお前らを公開処刑にして海軍内で辱めさせてるんだ……この鎮守府は狂暴な艦娘がいる恐ろしい場所ですよ、と日本海軍の除け者として影でコソコソと言われているだろうなぁ」

「精神的にも社会的にも、か……」

「そう! お前らが俺を嵌めたように俺も同じような手段で制裁させてもらったよぉ。お前らがいるような鎮守府など誰も相手をしてくれるはずがない、孤立無援になるだろうと思ってな……だがまぁ、それが俺に跳ね返ってくる形でこの状況になった訳だが」

 

 本来ならば提督は横須賀鎮守府に異動して潮岬町鎮守府とは一切関わらないと思っていた。だが不慮の事故によるトラブルで新しい軍人を手配するまでの期間は提督が運営する事になっている。何故■■元帥が提督を潮岬町鎮守府に居続ける事を継続させたのかは謎だが、その理由も提督の中では判明しつつあった。

 

「新しい軍人の手配までの期間中は訳あって()()()お前らに協力してやろうと思っている。しかも被害者である俺に償おうと尽くしてくれるからねぇ、こんなおいしくて甘い汁を吸わない訳が無いだろう~? 俺の掌で綺麗に踊ってくれてありがたい限りだよぉ」

「……」

「何も言い返せないだろうー! 何故ならお前らと俺は似た者同士で、艦娘の風上にも置けないクズなんだからなぁー!! どうだぁ~? 俺と同じクズになれた気分は~? さぞかし胸糞悪い事だろうなぁー!」

 

 何も言い返せない蒼明石を前に提督はあからさまに煽り倒し、子供の様にはしゃぎだす。

 そして指を差して喋りながら蒼明石に詰め寄った。

 

「こうなった以上はお前ら全員死ぬまで罪を背負わせながら俺の忠実な駒として働かせてやる!! 自害や特攻みたいな死などさせてたまるか、その罪を洗い流せる時と深海棲艦との決着が着くその時まで一生戦わせてやるからなー!! か~く~ご~したまえ~~!!」

 

 提督は一文字ずつ青葉と蒼明石へ指を差し、最後に提督は指で蒼明石の額を押し出した。

 指を差された二人は呆気に取られて言葉を失う。

 

「以上だ」

 

 前髪を直して軍帽を再度定位置に被った提督は言葉を吐き捨て、その場を去っていった。

 摩耶と青葉は提督についていき、工廠裏は蒼明石が取り残される。

 我に戻った蒼明石は提督の言葉を思い返して顔を俯き、工廠にある自身の部屋へ戻った。

 

「個人的な質問なんですが、何故明石さんが希望としていた旧式解体にしなかったのですか?」

 

 講堂の廊下内にて個人的に気になった青葉は提督に質問した。

 質問しても答える気の無い提督は口を閉じている。それを見た摩耶は仕方なく提督に話し掛けた。

 

「提督、蒼明石を旧式解体にしなかった理由はもう一つあるだろ?」

「当然だ、艦娘を洗脳させる薬を開発出来る程の高度な開発技術を持った艦娘をみすみす逃す訳が無いだろう。力は使いようだ、別方向へ効かせればこちらが有利になる」

「でももし……また何かあれば、その時は……?」

 

 青葉や提督とて蒼明石の危険性は十分に承知している。いくら高度な開発技術を持っていたとしても人格に難ありであれば、いつ何が起こってもおかしくはない。

 その時提督はどうするのか青葉は気になっていた。

 黙々と歩き続ける提督は青葉の方へ顔は見せずとも少し振り向く。そしてまた正面を向いて提督は口を開いた。

 

「……その時は徹底的に処罰を下すまでだ」

 

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