うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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この物語に出てくる鹿島さんは細目キャラ設定です。


157. エネルギーチャージはお早めに

「では早速始めましょうか」

 

 翔鶴を護送船に乗せて四時間が経過、朝の九時になって艦娘達は広場に集まっていた。

 これから行う訓練の為に誰一人として寝坊はしておらず、龍驤達や摩耶を除いて殆どの艦娘が参加している。

 ■■少尉の復讐の為に護衛でいるだろう七壞星を打倒する為、亡くなっていった艦娘達の弔いの為、数え切れない程の恩恵がある蒼色に報いる為、そして成長へ導かせてくれた提督へ犯した罪を償う為に戦わなければならない。

 残された時間は不明確、のんびりと時間を潰している暇は無く一刻を争う事態だ。

 

「最初に訓練をする前に前に教えたエネルギー効率をじかに感じてもらいましょうか。今自分の中に流れるエネルギー効率がどんな感じなのか、把握すれば凡そは掴めると思います」

 

 鹿島は最初に身体の中に流れるエネルギー効率を感じてもらおうと背後のダンボール箱からある物を取り出した。

 

 鹿島が手に持っているのは手首や腕にかけるようなブレスレット。

 とは思えない、アクセサリーとは程遠い鋼鉄製の厚いリングだ。しかも重量は凄まじく、装置すれば突然手首が鉛になったのか錯覚してしまうレベル。

 まるで拘束器具の様な物騒な物に艦娘達や鹿島でさえ引いてしまっていた。

 

「これは蒼い方の明石さんに特注で作ってもらった特殊な感知器具です。手首や足などにつける物でエネルギー効率の流れを感じる事が出来ます」

「あの明石が……?」

「いやはやあの明石さんは素晴らしいですね~、設計図を共有して見せただけで構造を即座に理解して簡単に開発出来ちゃうんですから~」

 

 この特殊な感知器具は蒼明石が二日半で量産も含めて開発した代物らしい。

 最初は開発出来て一日で精々十二、三個だと思っていたが、蒼明石はそれを遥かに上回って三十個以上量産に成功していた。

 流石に鹿島や『(オウゲン)』叢雲も開発技術とその効率に驚き、蒼明石をただならぬ艦娘だと思い知る事になった。

 

「これを手首に嵌めますと、恐らく流れの感じが分かるかと思います」

「んっ、あ、こういう感じなのですね」

 

 鹿島は一番手前にいた朝潮の手首に感知器具を装着させる。

 直後朝潮は身体を少し跳ねらせながらもエネルギー効率の感覚を感じる様になった。最初は少し身体が震えるも次第に慣れていくらしい。

 例えるならば手首に見える血管に指を当てると心臓の鼓動と共に血液が流れているのが分かる様な感覚だ。ジン、ジン、とエネルギーが身体中を巡り巡っていくのが実感出来る。その感覚に合わせて感知器具が僅かに音を鳴らして振動していた。

 

「変な感覚だが、分かりやすいな」

「艤装を展開した状態でこんな感じか」

「その感覚が普段のエネルギー効率です。その振動が早ければ早いほどエネルギー効率は上がっている証拠になります」

「鹿島さんはつけないんですか?」

「つけるわけないじゃないですか~こんな気持ち悪いモノ、一々感覚と振動がうるさくてたまりませんよ」

 

 辛辣な言葉を並べるのであれば鹿島の身体の中ではエネルギー効率が凄まじく高まっている証拠として見て取れる。流れる感覚と振動が早ければ早いほどエネルギー効率は高まっていく、つまりは鹿島が言っていたように気持ち悪く感じてしまうまでが強さの目標だろう。

 

「じゃあ次に皆さんでこれを食べましょうか」

「げっ、それって固形食じゃ……」

 

 鹿島が次にダンボール箱から取り出したのは味の無い固形食が詰まれたパック。

 

 艦娘は身体の中でエネルギーが生成される為に普段は食事を必要としない。

 

 この事実を知ってもなお兵器として運用されていた艦娘には、発見時に一部の艦娘が所持していた固形食を妖精達が開発し、全鎮守府にてその固形食を活用していた。固形食はパサパサとしたビスケットの様なスティックタイプで主にエネルギー効率の向上を計るモノ。

 食べれば戦闘によって溜まった疲労は回復し、あらゆる状態異常も回復させる働きがある。

 全ての性質へ流れるエネルギー効率が上昇した事による作用で持力や感覚を中心に核が再活発化する仕組みらしい。

 

 エネルギー効率を見ていなかった当時は艦娘の疲労回復用に使われていた為にそれほど注視される事は無かった。現在では作られる料理用にペースト状のモノへと開発されており、全鎮守府にて採用されているが一時的なエネルギー効率の上昇は少ない。

 

「この固形食は元々疲労回復の為に開発されていたモノなんですが、実はエネルギー効率の上昇による効果の一部に過ぎず、疲労回復の他に全ての性質へ流れるエネルギー効率を一時的に高めてくれるモノなんです。恐らく毎日食堂で厨房にいた鳳翔さんはその効果は深く知らずとも、エネルギー効率が上がる事については知っていたんじゃないでしょうか?」

「そ、そうですね……■■大佐に渡された際にそのような事を仰っていたのを覚えています。知っておいた方がいいと言われて覚えてました」

「なるほどなるほど、流石は鬼の大佐ですね」

 

 この固形食は艦娘におけるパワーアイテムだという事を■■大佐は事前に知っていたようだ。

 深海棲艦との戦争史において有名だった『永遠なる最前線(アイオーン・プロトポリア)』と言われていたビスマルク諸島海域とソロモン諸島海域を中心に活動する【開陽(ミザール)】深海日棲姫と【天権(メグレズ)】深海鶴棲姫の戦争を繰り広げ、南方海域を中心に南方の総司令官として君臨する■■大佐は日夜戦力強化に力を注ぎ込んでいる軍人としても有名である。

 艦娘の戦闘能力の上昇や戦術の幅を広げており、最初に艦娘の近接格闘術や近接武器技術を提言した人物だ。

 後にその近接戦闘技術が深海棲艦との戦闘において十分なまでの威力や殲滅能力に適している事が判明し、近接格闘術の訓練が注目されている。

 

「で、この固形食で何をするんだ?」

「もしかして固形食による一時的なエネルギー効率の上昇中に訓練を受ける事で……えーっと……なんて言えばいいのかな……」

「時雨さんの言う事は当たってますよ! そうです! 一時的なエネルギー効率の上昇時を見計らって訓練を行い、その上昇による限界値が普段の限界値である事を核に経験させ、学習する事で思い込ませます。そして徐々に記憶として覚えさせいく。これらを実戦形式で行っていきます」

 

 訓練を行う前に固形食を食べてエネルギー効率を一時的に上昇させ、その限られた上昇時間の中で訓練を受けていくという方法だ。

 固形食によって一時的にエネルギー効率が高まった状態で実戦形式による訓練を行い、その戦闘でのエネルギー効率の状態を普段のエネルギー効率の状態と学習させ思い込ませていく。

 この方法を毎日行う事で核が戦闘でのエネルギー効率の状態を徐々に記憶し、僅かに前の自分とは違った戦闘能力を得る事が出来るそうだ。

 

「地道ではありますが強くなる方法では一番に適した方法でもあります。現に『(オウゲン)』叢雲さんは元々エネルギー効率が限界値を超えていてもこれを五年間、今でもずっと続けていますので」

「五年間も……! それは凄いな……」

「じゃあ興味半分で聞くけど、叢雲のエネルギー効率はなんぼなんだい?」

 

 『(オウゲン)』叢雲は建造された当時からエネルギー効率に恵まれ、定められた練度とは比べ物にならない程の戦闘能力を有していた根っからの天才だった。

 決して自身を驕る事や他人を見下す事は一切なく、共に戦う仲間を励まして応援したり、誰かに妬まれて喧嘩ごとになっても自身の過失を認めて謝ったり仲を直そうと、太陽の光の様に暖かい天真爛漫な性格から仲間に深く慕われていた。

 

 しかし深海棲艦による小笠原鎮守府の奇襲攻撃により、大破状態だった叢雲は意識不明の重体だった憲兵一人を残して仲間全員を喪失。

 悲しみに打ちひしがれた叢雲は強くなる事を決意し、元々才能はありながらもその才能を伸ばしていく修羅の道を選んだ。

 

 毎日訓練と戦闘を怠らず、毎日汗だくになって戦い続け、やがて最強の代名詞とされる護神厄討艦隊に編入した後に旗艦に選ばれた。なお選ばれた後でも叢雲はひたすら訓練と戦闘を今までを含めて毎日行っている。

 

 その叢雲は訓練を行う前に広場のベンチに座って鹿島の話を聞いていた。

 突然響に興味半分で質問され、半目で睨みながら口を開いた。

 

「誰にも言ってないのに教える訳ないでしょう」

「噂ではそろそろ五百を超えるとか聞いた事ありますね~」

「ご、五百!!?」

「化け物かよ!!」

 

 鹿島が説明した通常段階でのエネルギー効率が200%である事や例として出された『(ビョウコウ)』金剛が350%~250%のエネルギー効率を持っている事よりも遥かに上の限界値を叢雲は常に高めているらしい。あくまでも噂程度なので信じれるかどうか分からないが仮に本当だとしたらまさに最強と呼べるだろう。

 

「嘘よ」

「嘘かよ!!!」

「という名の嘘よ」

「どっちだよ!!!」

「ねぇ振り回され過ぎじゃない?」

 

 真偽かどうか分からない『(オウゲン)』叢雲のエネルギー効率の限界値が気になる天龍。

 叢雲は(もてあそ)ぶように嘘と連呼し続けて意味が分からなくなる様に仕掛けてきた。

 

「って事で早速実戦形式でやってみましょうか。因みに言っておくけど実戦形式と言ってもただ単に戦う訳じゃないのよ? 実戦での相手は私達、一対一で直接戦うわ。装備はいつも通りだけど模擬弾薬は使わない……予定のハズがまぁ色々あって今は模擬弾薬を使用するわ」

「制限時間は五分間、その時間内に私達に何度でも全力で挑んでください。模擬弾薬を使用する為戦闘の迫力があまり乗らないと思いますが、それでも私達は貴女達を殺す気で戦闘に挑みます。ですので貴女達も全力で……いや、私達を殺す気で戦ってください。半端な戦い方や全力では無いと判断した時点で貴女達を即座に無力化させますのでご注意を」

「精々死なない事ね」

 

 『(オウゲン)』叢雲はベンチから立ち上がり、金色の槍を突き出して注意するよう呼びかけた。半分脅しにも聞こえた様な気がしてならず、艦娘達は内心不安になってしまう。護神厄討艦隊の艦娘達が前に出て艤装を展開し、それぞれ違った色の光を纏い始めた。

 

「覚悟はいいですか?」

「泣き喚く涙は残ってるかな?」

「医療器具の用意は済ませただろうな?」

「入渠施設で高速修復材に浸かり続ける心の準備はオーケー?」

 

 

 

 

 

「……外へ、出ないのですか?」

 

 地下営倉の奥深くにある特別な牢屋にそれぞれ一人ずつ四人が収容されていた。特別な牢屋と略称されているが本来は懲罰房の様な部屋で、普通の牢屋よりも衛生環境が酷く血生臭いにおいが漂っている。

 翔鶴に加担していた龍驤、利根、那智、葛城は修理後に特殊な手錠で拘束され、その牢屋に今も自主的に居続けていた。地上へ出たのは提督に呼ばれて以降でそれ以外は全く無い。

 

 提督の処罰が下された後でも引き続き憲兵隊隊長は収容された四人を毎日警備し続けている。時々鉄格子越しから目が合う程度で何の関わりも持たなかったが、隊長は龍驤達に少し疑問に思った事があり、思い切って龍驤の前まで座って声を掛けてみた。

 

「仕事を増やすようで悪いんやけど、ウチらはここにいなきゃいけないんや」

「いえ構いませんが……」

 

 隊長と目が合った龍驤は鉄格子を挟んで話をしていく。龍驤達は自身の行いを考えて自主的にこの営倉にこもり続けていた。提督や『(オウゲン)』叢雲に指示されて入った訳では無く、自らの意思でこの牢屋に入っていた。

 

「……分かっとる。何でウチらが処されないのか不思議なんやろ?」

「いえ……違います」

「あー! 外れてもうたか、そりゃすまんなぁ……まぁ、色々と感情の整理が出来ないのは分かるで」

 

 龍驤はいつもの様に元気に振る舞う。

 隊長の表情からして既に翔鶴や龍驤達の事情、潮岬町鎮守府の真実を知っているようだ。

 隊長は少々顔を俯き、素直に思った事を龍驤へ打ち明けようとしたが上手く言葉が出てこない。

 その様子を見た龍驤は隊長の思惑を察して自ら口を開いた。

 

「……言いたい事も分かる。確かにウチらは薬の影響を回避し続けて唯一操られずに済んだからな。何であんな事やこんな事止めなかったんやー、って普通の生き物は考える事や」

「貴女がたは脅されていたらしいですね。仲間を守る為に自ら犠牲になった、と個人的に考えていますが」

「そうやな、ウチらは脅されてた……何も出来なかったんや……勿論色々方法は考えてみたものの、百%仲間を守れるかどうかは別で、翔鶴はどうしても全員を守りたかった」

「だが、それでも守りきれなかったと……」

 

 隊長の繋いだ言葉を聞いて龍驤は軽く頷く。

 穏やかに微笑む表情を見せる龍驤の握った手は今にでも暴れ出そうなほど震えていた。拘束器具の鎖が左右に揺れて金属同士が触れる音が聞こえる。

 龍驤の中で悔やみきれない後悔と破壊衝動に駆られそうな憤怒が入り乱れているのがよく分かった。

 

「トロッコ問題って、知ってるやろ? あれと似たようなもんや……一人を助ける代わりに大勢を殺すか、大勢を救う代わりに一人を殺すか。翔鶴は迷う事無く犠牲が少ない方選んだ。ウチらも不安な所はあったがそれでも頑張ってみた、そして選んだ結果がこのザマや!!」

 

 龍驤は喋りながら立ち上がり、最後に大声で叫んで頭を壁に衝突させた。

 頭を壁に引き摺りながら再度腰を下ろす。

 

 誰も■■少尉の蛮行を簡単に止められる訳もなく、差別する側になりすまして仲間を守れる方法で戦い抜いた。

 差別する側や差別される側、勿論■■少尉にも悟られないように息を潜めて何とか守り抜こうとした。

 ■■少尉を言葉で上手く騙して艦娘の解体を防ぎ、暴力を振ろうとした艦娘を落ち着かせ喧嘩を無くすなどとやれるだけの事はやった。

 

 だがそれでも全員を守り抜く事は難しく、仲間を失ってしまった時は誰もいない部屋で己の無力さを嘆く。

 翔鶴は少ない犠牲は仕方ないモノだと、これから犠牲を出さない様に正当化して目を逸らし、龍驤達もいつの間にか自身を正当化していた。

 

「ほのかに感じるなとは思ってたけど、まさかな……翔鶴が……深海棲艦に……操られてたなんてな……!!」

 

 龍驤は壁から床へ頭を移動させ、若干涙ぐんだ声で嘆いた。

 

 龍驤達は翔鶴の中に空母水鬼がいた事を知らない。

 勿論いつ潜んでいたのかも分からなかった。

 

 翔鶴の中で空母水鬼が操っている事も知らず、龍驤達は仲間を守り続けていたという事はまた龍驤達も翔鶴に騙されて空母水鬼に操られていた事になる。

 翔鶴は何も言い出す事が出来なかったのかもしれない。

 空母水鬼が隠す様に脅せば簡単な話だ。

 

 龍驤は翔鶴にもし計画が崩れたらどうするか聞いた時、翔鶴は最終手段を投じると言っていた。まさかその最終手段が自身の中にいる空母水鬼だったとは思わなかった。

 

「ウチらって最悪やなぁ……ホントに……」

 

 別の牢屋にいた利根達も顔を俯き、龍驤と同様唇を噛んで悔やむ。

 

 今までやってきた事は間違いだと薄々気付いてはいた。

 これ以上犠牲を出さない為だとしても少なからず罪悪感は心の奥底で密かに積もっていた。

 例え忌み嫌われ敵になってしまったとしても、仲間が生きているのならそれでいいと自分に言い聞かせていた。

 

 ■■少尉に脅されて何年もの月日が流れ、その脅迫から一時的に解かれた自身の中に残っているのは、今までやってきた事の罪悪感。自身の尊厳や仲間との関係、捨てる物は捨てて生きてきた。一時的に自由にはなれているが、その自由という感覚を押し潰す程の罪悪感が肩に重く伸し掛る。

 

 死ぬ事も許されずただ何もしないまま生きている自分に意味はあるのか。

 

 もしかしたら提督はこうなる事を考えてわざと生きる様にしたのかもしれない。自分達の死にたいという要望を無視してわざと生き長らえさせ、罪悪感に押し潰されながら生きていく。

 それが自分達の処罰なのだろう。

 

「……ごめんな、勝手に泣き喚いて。こうでもしないと保っていられへんのよ」

「いえ……大丈夫です……」

 

 数分間か泣いた龍驤は落ち着いたのか、手や腕で拭えない代わりに膝で涙を拭い隊長へ謝罪を込めて話し掛ける。一連の光景を見ていた隊長は言葉が詰まったのか同情するかのように返事をした。

 出来れば何かしら言葉を掛けてあげたいが立場から考えればそう簡単に言うのは難しい。

 仮にも龍驤達は罪を犯した犯罪者、そしてその犯罪者を取り締まり、規律を正して治安を維持するのが憲兵である自分。

 本来であれば犯罪者に同情する余地など無い。

 それは隊長の中でも分かりきっている。

 

「……一つだけ、言ってもいいでしょうか」

 

 その場から立ち去ろうとした隊長が扉を開けようとドアノブに触れた瞬間、顔を見せないまま龍驤達へ伝える様に口を開いた。龍驤達は予想しなかった事に思わず声を漏らし、戸惑いながら了承の声を挙げる。

 

「……確かに貴女がたは罪を犯しました、それは断じて許されるものではなく然って処罰は受けるべきです」

 

 隊長は顔も見せないまま顔を仰ぎ、途切れ途切れに光る蛍光灯を見続ける。

 

「ですので、これからは考えて下さい。道を踏み外さぬように……」

 

 そう言い去って隊長は懲罰房がある部屋から消えていった。

 

 

 

「失格だな……私も……」

「いや~大変ですね隊長も」

 

 部屋を抜け出して地下営倉の廊下を歩いている最中に特定要注意艦娘の警備部隊に所属する部下とすれ違う。少し時間に余裕があると思ったのか隊長と肩を並べて歩き出し話しかけてきた。堂々とサボろうとする部下を前に少し溜息を吐きながらも仕方なく隊長は口を開く。

 

「何がだ。特に大変という訳でもない、警備を引き続き頼むぞ」

「了解です! あ、そういえば隊長は大本営の方にいるお兄さんと連絡を取り合っていたりするんですか?」

「……何故それを?」

「いやいや隊長! そろそろお盆ですよ? 家族と連絡取ったり会ったりしないんですか?」

「しないな」

 

 部下の言葉で季節的にもお盆だと隊長は手を顎に乗せて考えるような仕草をする。残暑が厳しく猛威を振るう夏にもお盆の季節が来たようで、隊長は部下の有給休暇やお盆休みの事で考えていた。

 通常であれば地元にでも帰省して家族と顔を合わせるところだが隊長は家族とさらさら会う気が無いらしい。まさかの答えに部下は聞き逃したのかともう一回復唱するように質問した。

 

「え? しないんですか?」

「あぁしない。兄とは色々あって疎遠になってるからな、今更会うにしても気まず過ぎる」

「あら~それは残念ですね~」

「そもそも私に家族はいないのでね、関係のない話だ」

「でもお兄さんがいますよね? 確か海軍のお偉い人の娘と結婚して家庭を持ってるって話聞きましたけど、もしかしてそれで嫉妬してます?」

 

 部下が試すようにからかった途端、隊長は露骨に嫌な顔をして部下の方へ振り向いた。

 普段冷静沈着な隊長の意外な素顔を見れた事に部下は歓喜するも機嫌を損ねた隊長を見て心の中で自制する。

 

「……んな訳ないだろう、勝手に考えるな。それにこんな世間話を私にしている暇があるならさっさと持ち場に戻れ。減給するぞ」

「それパワハラっすよ?」

 

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