うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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誤字報告、感謝です。


158. 風吹く島は未だ日差しに照らされず

 太陽の陽射しが満遍なく降り注ぐ外では艦娘達が実戦的な訓練をしている。

 時々轟音や砲音が終始鳴り響き、訓練が激しさを増しているのがよく分かった。

 

 病室では休療を続けている島風が窓から映る風景を茫然と眺めていた。

 建設中のを含めた寮の建物の間にある細長い広場から、そして講堂と工廠の間の先に挟まれた青い海を凝視し続けていた。

 ベットサイドモニターから一定の感覚で電子音が鳴り、打たれた点滴バッグから少しずつ薬剤が水滴となって落ちていく。その度に太陽の光が屈折し、純白のベッドに淡く光り映った。

 

「島風ちゃん」

「あ……■■先生……」

 

 重量感のある鋼鉄製の横引きドアを静かに引きながら■■医師が現れる。島風の様子を見に来た■■医師は笑顔で気さくに話し掛けてきた。

 

「外、うるさかったりする?」

「いえ……それほど気にしてはいません……」

 

 訓練による衝撃波で窓や建物が揺れるかと思いきや、案外耐震性能には優れていて多少窓が少し揺れる音が耳を澄まさないと聞こえない程度だ。

 

「島風ちゃんって好きな事とかあったりする?」

「好きな……事、ですか?」

「そうそう! 何でもいいのよ、例えば私なら園芸が好きだったりとか、あと絵を描く事とかね。美味しい物を食べるのも好きだなぁ……島風ちゃんはどうかな?」

 

 ■■医師は友達のように島風へ好きな事を教えてきた。

 何の偽りもない誰でも受け入れてくれそうな優しい表情と声に島風は少し動揺する。

 島風は■■医師に好きな事を聞かれ、考える様に顔を上に向けて首を傾けた。

 

「あ、私は……走るのが好きでした」

「……いいねぇ……私も小さい頃は走るのが好きで陸上やってたなぁ」

「陸軍出身ですか?」

「ふふっ、そんな感じ」

 

 陸軍出身と予想外な事を言われて■■医師は思わず笑ってしまう。島風の少し間違った答えに■■医師は否定の言葉は入れず、敢えてあやふやな答えで誤魔化した。

 

「他に好きな事とかある?」

「……」

「あーじゃあ変えようか! 戦う事以外でやりたい事ってある?」

 

 本当に好きな事が走る他に無いのか島風は黙り込んでしまう。他に好きな事が無いほど速さに関して事は大好きだったのだろう。

 そこで■■医師は質問の内容を好きな事からやりたい事へ、少し変えて島風に再度聞いてみた。島風はまた顔を上げて考え出し、数秒後何か思いついたのか■■医師に問い掛ける。

 

「あの……園芸って、何ですか?」

「おっ園芸に興味あるのかな? そうだね~、簡単に言うと植物を育てて楽しむ事かな。花や野菜を育てて庭を美しくしたり、自分で育てた物を食べるとか結構やってて楽しいよ~」

「じゃ、じゃあそれがやりたいです……」

 

 ■■医師は島風が園芸に興味を持ち出したのか、誰にでも伝わる様に簡潔に答えた。

 それを聞いた島風は苦笑いしながら自身のやりたい事だと■■医師に伝える。

 

 しかし■■医師は目に見えて島風本人がやりたい事ではないのは分かっていた。自分自身のやりたい事など存在せず、代わりに■■医師が好きな事に興味を示したフリをして機嫌を取っているだけに過ぎない。

 本当は何もやりたくない、何も考えたくない逃げたい気持ちで溢れていた。

 現実を直視するのが恐怖で堪らず、何もせずに呆然としている時間がとても楽でしかなかった。

 

 だがそれでも時たまに自分自身が現実逃避している事を無意識に考えてしまう。

 

 目の前にある未来へ歩む道があやふやで、一寸先も見えない濃い霧に囲まれているような不安が募り積もっていくような気がした。

 独りでは到底歩む事すらままならない、いつ襲いかかってくるか分からない不安という名の恐怖が島風の心を深く海の底へ閉じ込めていく。

 ここまま何もしなければ不確定な恐怖に怯える必要は無い、難しく苦しい事を考える必要も無い。

 

 ただボーッと窓の景色を眺めていればそれでいい、そう思っていた。

 

「……んじゃ私は、島風ちゃんと友達になって仲良くなりたいな」

「私と、ですか……?」

 

 数十秒間か沈黙に包まれた病室で■■医師がその沈黙を破る。ベッドガードに肘を着き、手のひらで頭を支えながら■■医師は曇りない笑顔で島風に仲良くなりたいと伝えた。

 予想外の答えに思わず島風は返事をしてしまう。

 こんな自分と仲良くなりたい人間など初めてで、まさかこの世に居るとは夢にも思わなかった。

 

「うん。どうかな?」

「いえ……別に構いませんが……何故そこまで私なんかと仲良くなりたいんですか?」

「私にとって島風ちゃんは必要な人だから、かな」

「……えっ……?」

 

 島風の問い掛けに■■医師は考える仕草も無く島風が必要だとすぐに答えた。

 あまりの速さに一瞬島風は聞き逃して拍子抜けした表情で声を漏らしてしまう。

 ■■医師は島風の表情を見て何故そんな表情をするのか分からないと言っていそうな不思議に思っている顔だった。自分に価値は全く無い以上必要とはされていないと思い込んでいた島風にとって■■医師の言葉は理解するには時間が掛かり過ぎる。

 島風はもう一度確かめる様に■■医師と同じ言葉を言い出した。

 

「私が、必要……ですか?」

「そう。こうやっておしゃべりする時間とか、これからになるけど一緒にやりたい事をしてみたいなぁとか、私にとって島風ちゃんが必要不可欠な存在だからかな」

 

 島風が必要な理由を率直に伝える■■医師。

 それはとても和ましい事ばかりで普段でも出来るような単純な理由ばかりだった。

 誰にでも出来るような事を何故自分でなければダメなのか、何故そんな事を飄々と口に出せるのか。

 

 島風は全く分からなかった。

 

「あ、勿論戦いはやりたくないよ? 私と島風ちゃんは人間だし、限界は人それぞれだからね……出来ることなら……島風ちゃんの様な可愛い娘達には戦わせたくないな、って思う」

 

 ■■医師は天へ祈る様に手を握り、顔を俯かせ艦娘に対する思いを少しだけ口に出した。

 その■■医師を見た島風は困惑し切った表情で自分自身が何なのか慌てる様に訴える。

 

「でも……私は……兵器、ですよ……? 人間なんかじゃない、戦わなければ価値なんてないモノなんです! 先生だって自分の価値を考えた事は無いんですか!?」

 

 今まで島風が■■医師の答えに疑問や理解が追いつかなかった訳には意味がある。

 島風が所属又は轟沈した時代は兵器派思想が中枢を占めていた軍の時代であり、人間派の声は雀の涙程度で艦娘は兵器だと定められていた世界だった。

 当時は少なからず自身も兵器だと思い込んでいた艦娘も存在し、島風もその一人故に思想の食い違いが発生。時は流れて島風は敵によって轟沈、意識を失い続け島風が目覚めた時には既に五年も時間が進んでいた。

 

「無い訳ないよ。私だって島風ちゃんの様に何度でも考えた、そして探し続けてる……()()ね」

「え、今も……?」

「そう私も皆も、自分の価値を探し求めながら生きてるの。この価値は無くなった、じゃあ次の価値あるモノを探しに行こうって。誰しも皆が永遠に自分だけの価値を持って生きている訳じゃないの」

 

 自身もその価値になるモノを探していると■■医師はキッパリ答える。島風と同様で価値になるモノを探している同じ人間だと唱えた。島風は自身と似た存在である事に少し■■医師に対する感情が変わりそうになる。

 

「自分に価値なんてない、確かに今は無いかもしれないけど探そうと行動に移せば必ず見つかる。価値って難しい事の様に思われてるけど実は何だっていいのよ? 誰かの役に立ちたいとか、誰かを助けたいとか、誰かの支えになりたいとかちょっとした出来事や簡単な事でもいい。それだけで人はまた価値を得て誇る事が出来る」

 

 ■■医師は島風の手を優しく両手で握り、島風の目を見続け一切逸らさない。握られた両手は思わず握り返してしまいそうなほど心地良さのある暖かさで、じんわりとその暖かさが自身の冷たい手肌に染まっていくのを感じた。

 

「でもそれは一人だけじゃ出来ない事や乗り越えられない事もある。今こうして泣いている島風ちゃんの様に、中には不安が募って価値を簡単に探せない人もいる。だから一緒に探そう、私と島風ちゃんの価値になるモノを」

「一緒に……探す……?」

「そう! 島風ちゃんが自信に満ち溢れる様に私がサポートする! どんな事を言ってもやっても構わないよ、私は島風ちゃんの為なら何だってやるんだから」

 

 今こうして自身のあり方に悩み続け、途方に迷う島風に手を差し伸べようと■■医師は堂々と告白した。一瞬の曇りもない、迷いすらない■■医師の言葉に島風は感極まって歯を食いしばる。

 それは一寸先も見えない濃い霧の中で希望となる一条の光が差し込んできたようなもの。

 孤独に彷徨う島風に手を差し伸べ、共に探そうと傍にいてくれる人間がいる事を島風は初めて知った。

 

「だからこれからそうする為にも、お互い信じ合わないとね。私は島風ちゃんを信じてるよ」

 

 例えそれらが慰める為の偽りの言葉だとしても、どこか信じてもいいと思ってしまう自分がいる。何も無い自分に手を差し伸べようと■■医師は何の躊躇いも無く素直に思っている事を言葉にした。

 

 いつの間にか無意識で自分は助けてと周りに訴えていたのかもしれない。

 心では何もしたくないと虚無になって呆然としていても、心の奥底では誰かに救いを求めていた。

 その僅かな気持ちを■■医師は汲み取り、自分の為に頑張ると言ってくれた。

 

「……ちょっと呼ばれちゃった。また後で来るからね、何か言いたい事とかあれば横のボタンで連絡して? すぐに私が駆けつけるからさ……じゃあ、またね」

 

 途中で■■医師の携帯電話が鳴り出し、■■医師は携帯電話を開いて誰かと話をする。誰かに呼ばれてしまったのかこの病室から立ち去るようだ。■■医師は島風の頭を撫でながら病室の仕組みを簡潔に伝える。何かあったら連絡してほしいとベッドの横に小さなボタンが用意されていた。終始笑顔を崩さずに■■医師は病室を去っていく。

 

「……価値を、探す……か……」

 

 島風はその時、久しぶりに窓から目を離した。

 

 

 

 

 

「初戦、『(レイ)』対木曾さん。構えてください……」

 

 初戦は自ら名乗り出た木曾と『(レイ)』木曾という同じ艦娘同士の実戦。演習などで同じ艦娘に遭遇する事は多々ある為にさほど気にする事では無かったが、傍で記録係として見守っていた灰色は少し違和感があった。

 さぞ当たり前の様に思われているが、これは明らかに人間同士であればドッペルゲンガーだ。不思議に思わない方がおかしいとも言える状況で顔色一つ変えずに戦おうとしている。

 

「……始め!」

 

 鹿島の声とホイッスルによって開戦の火蓋は切って落とされた。

 高鳴る音と同時に両者構える。

 木曾はサーベルを鞘から抜き、太陽の光を浴びさせた。

 

「ッ……?」

 

 木曾が『(レイ)』の姿を見て違和感に気付く。

(レイ)』の軍刀は翡翠色に煌めいていた。

 その軍刀(サーベル)を天に突き立て、『(レイ)』は不敵な笑みを浮かべる。

 

「本気で来い、一瞬でも気を抜けば……叩き切るぞ」

「上等ッ……!!」

 

 木曾は急発進急加速。

 砲撃や魚雷の命中率を上げる為にある一定の距離を取って海を駆けていく。

 壁のような水柱を後方へ立てさせながら、『(レイ)』の周辺を無作為に走行した。

 

 それは相手に行動のパターンを掴めさせない為か、それとも次の行動を予測させない為か。

 水柱を立てさせ『(レイ)』を錯乱させていく。

 そして木曾は『(レイ)』に向けて砲撃。

 

(レイ)』は砲弾を斬り伏せて破壊、爆煙で視界が悪くなる。

 爆煙の中心で『(レイ)』は突っ切る様に前進して跳躍。

 爆煙を潜り抜けた先には──、

 

「来たなッ!!」

 

 事前に跳躍し、サーベルを振り下ろす姿勢で待ち構えていた木曾がいた。

 仰向けの体勢で身体で隠れていたサーベルを力いっぱい振り下ろす。

 が、『(レイ)』はそのサーベルを翡翠色の軍刀で弾き返した。

 

 弾き返された木曾は不安定な体勢になる。

(レイ)』はすかさず身体を回転させ、回し蹴りで木曾を蹴り飛ばした。

 木曾は隕石のように海面に衝突。

 大きな水柱が立ち上り、海面がざわめき立つ。

 

 その水柱を斬り裂いて木曾はもう一度急発進急加速。

 着水する寸前の『(レイ)』を狙って突進した。

(レイ)』は突進してくる木曾の突きを回避。

 回避すると同時に木曾へ翡翠色の軍刀を振り下ろす。

 木曾は背後へ振り向き、サーベルを横にして受け止めた。

 

 無理矢理翡翠色の軍刀を押し倒し、無数の斬撃を浴びせていく木曾。

(レイ)』はその斬撃を弾き返し、自身も斬撃を仕掛けていく。

 剣戟は苛烈さを増していき、二人の後方で水柱が立っていった。

 翡翠色の軍刀とサーベルが衝突する度に衝撃波と共に火花が散る。

 

 やや攻勢に出ているのは『(レイ)』。

 逆に木曾は怒涛の斬撃に押されつつあった。

 既に頬や腕に掠った切り傷が出来ている。

 

「ッ!!!」

 

 木曾はわざと海面を斬って水飛沫を『(レイ)』へ浴びせる。

 目眩しとなった水飛沫は『(レイ)』の隙を一瞬だけ作った。

 木曾は直後に身体を回転させ、遠心力が上乗せされたサーベルを横へ振り回した。

 

「悪くはない」

 

(レイ)』は足を縮ませて跳躍。

 木曾の渾身の斬撃を跳躍で回避した。

 空中で『(レイ)』は翡翠色の軍刀を一気に振り下ろす。

 木曾はまたサーベルを横にして斬撃を受け止めた。

 

 二人の周辺で間欠泉の様な水柱が一気に立ち上る。

 互いの武器を擦り合わせ、火花を散らしながら睨みつけた。

 

「最初は無作為に動きながら錯乱させるかの様に移動する事でその時に魚雷を発射させ、悟られないように行動していた……」

 

(レイ)』の押し出す力が徐々に強くなっていく。

 木曾も負けじと全力で翡翠色の軍刀を押し出した。

 

「俺が砲弾を斬る事を前提に砲撃。爆煙で視界を不安定にさせ、隠していた魚雷を直撃させる……が、それはフェイクで、本命は自身の攻撃が予測され跳躍で回避する事を予知しての空中での奇襲……更にはわざと水面を斬って水飛沫を浴びせ、目眩しで隙を作った……悪くはない」

 

 『(レイ)』は押し出す力をわざと弱め、冷静に今までの戦闘を分析する。

 全力で襲い掛かる木曾の行動を即座に見極めて評価した。

 戦闘技術は他の艦娘とはほぼ変わらないが、心理把握や判断力は少しだけ変わっている。相手をどうやって倒すのか、様々な戦略を考えて実行に移したのだろう。

 内心艦娘達には期待していなかった『(レイ)』だったが、自身と同じである木曾には少しだけ変わっている事に安心した。

 

「だが……──」

 

 わざと押し出す力を弱めていた『(レイ)』は突然軍刀を百八十度反転。

 反転した事で『(レイ)』に押されていた力は無くなり、強く押し出していた木曾はサーベルを振ってしまう。

(レイ)』はサーベルを避け、その隙に木曾を勢いよく斬り飛ばした。

 

 海面に打ち付けられ木曾はうつ伏せの状態で倒れ込む。

 木曾はすぐに立ち上がり、吐血しながらも『(レイ)』を即座に睨んだ。

 よく見れば木曾の胴体には斬られた痕が著しく残っている。傷はとても浅いがそれでも血は破れた正装を赤く染めていた。

 

「戦闘技術や剣術は見るに堪えない。力の使い方に関しては悪くないが、致命的な部分が欠如している。そんなのでは七壊星に一瞬で殺されるぞ」

 

 殺されるぞと言って軍刀を振るった瞬間に身体中から萌葱色の光を身に纏う。

 明らかに見下した目で木曾を睨み、眼帯から翠色の光が溢れ出していた。

 『(レイ)』はゆっくりと木曾の元まで航行していく。

 

「一応は訓練だ、傷は浅くしてやる。その様子だとまだ気は抜いていないようだな……扱いてやるから……来い」

 

 その時木曾は恐怖と同時に戦闘意欲が凄まじく(たかぶ)った。

 絶対に強くなってやる、尽きぬ欲望を力に変えて。

 

「『(アオグロ)』……だったかしら。一度演習相手を頼みたいのだけれど」

 

 加賀や瑞鶴、飛龍や蒼龍に雲龍達は護神厄討艦隊唯一の航空母艦である『(アオグロ)』蒼龍を探し、ようやく見つけて声を掛けていた。

 『(アオグロ)』蒼龍がいたのは工廠の隣にある海へ突き出た堤防の一番奥。地べたに座りながら『(オウゲン)』叢雲の訓練を受けている艦娘の戦闘を観戦していた。

 

「私と~? いや~そりゃ無理だね~」

「勝負にもならない相手、だから?」

「まぁそれもあるけど、根本はそこじゃない」

 

 瑞鶴がその理由を言葉にして述べた時に『(アオグロ)』蒼龍は立ち上がって正装についた土や砂を手で払った。否定するどころか肯定してきた所に若干性格の歪みを感じたが、考える所はそこではないと蒼龍は真面目な表情でハッキリと言う。

 

「『(シロガネ)は何故か言わなかったけど、七壊星には司令型の他に突撃型も別にいるんだよね。圧倒的に多いのは突撃型で大体遭遇するのも突撃型、自ら接近して艦隊の行動を崩しに掛かって来る。奴らは艦娘一人だけでは簡単に対抗出来ないって事を知ってるからなのかな」

 

 『(アオグロ)』蒼龍の話を聞いて加賀達は鎮守府襲撃時に金剛と戦っていた『巨門(テラスティア)』戦艦棲鬼の事を思い出した。巨大な腕を駆使した破壊力のある戦闘技術や連合艦隊を纏める司令能力があの時は見受けられた。

 『(アオグロ)』蒼龍曰く、『巨門(テラスティア)』戦艦棲姫は突撃型と司令型のどちらも平均的に高いとされている兼ね備えたハイブリッド的存在で、“最強”と呼ばれていた所以はそこにあるらしい。

 

 だがその深海棲艦を配下に置く【天璇(メラク)】南方棲戦鬼はどういう存在なのか、更なる未知の存在が加賀達に恐怖を募らせる。

 

「だから今はああやって一対一の形式で一人一人の艦娘が強くなれるように海軍が色々と推薦してる。あらゆる戦況下でも()()()()対応出来るようにする為にね。少し当てはまらない艦娘もいるけど」

「……その当てはまらない艦娘が私達空母だと」

「そういう事! 流石、どこの加賀さんも頭が回るね!」

 

(アオグロ)』蒼龍は人差し指を空に向け手を加賀達の前へ差し出す。

 加賀の言葉が当たったのか嬉しそうな表情で見つめていた。

 

「勿論自分の身を守る為に近接格闘技術を学ぶのもいいけど私達空母の本質は空、空を制する事に意味がある。どういう敵なのか、どういった策略で戦うか、味方の支援や防衛に攻撃。うちの艦隊の皆は近接格闘技術を主に戦闘してそれらを得意としてるけど、私は航空戦術が要の艦娘。あまり殴り合うのは好きじゃないんだよね~」

 

 護神厄討艦隊の中でも特殊な存在で、『(レイ)』木曾や『(オウゲン)』叢雲の様に超人を更に超えた力を使う戦闘技術は駆使せず、エネルギー効率によって特化した索敵能力や対空能力に一部の感覚、そして要となる航空戦術に長けている艦娘。それ以外は普通の艦娘とほぼ同じで音速並みの航行速度や相手を遠くまで殴り飛ばす程の力は有していない。

 その分航空関連においては凄まじい力を発揮し、戦況に応じた戦い方で戦果を収めている。

 勿論近接格闘技術も習得済みだが本人は殴り合う事をあまり好まないようだ。

 

「そしてそれには仲間や妖精さんとの協力も必要。特に妖精さんとは深い信頼関係が必須になってくるね。私は基本、仲間と協力又は連携して戦闘に参加してる。だから一対一ってのは私にはあまりはまらないんだよね~」

「じゃあ……どうすれば……?」

「だから私と艦隊を組んで協力しながら戦いながら学んで演習しよう! 勿論相手は実戦を想定した形で『(ヒグレ)』がしてくれるからさ!」

「仕方なくな」

 

 加賀達の最後尾にひっそりと隠れていた『(ヒグレ)』摩耶が落ち着いた声で返事をした。背後にいた事に気づかなかった加賀達は驚きの声を上げて加賀や瑞鶴の元へ身体を寄せる。

 どうやら『(アオグロ)』蒼龍は加賀達と一対一で戦うのではなく、逆に艦隊を組んで実戦を想定した演習をするようだ。相手は『(ヒグレ)』摩耶、対空能力と火力に特化した艦娘であり、鎮守府襲撃際の戦闘やショウカクとの戦闘でも度々その実力は目撃して知っている。

 加賀達はその実力を知っている故に摩耶が相手になるのは少し苦手な存在だった。

 

「んじゃ、やろっか!」

 

 加賀達の意見もなく、ましてや何の前触れも無く『(アオグロ)』蒼龍は勝手に演習を始めた。

 

 

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