護神厄討艦隊の艦娘達による特別訓練の初日が終了し、次の日を朝を迎えた翌日。
一人の艦娘が身支度を終えて仮執務室に向かっていた。
その艦娘はゆっくりと床を踏みしめるように歩き、荷物が積まれたキャリーケースを引っ張っていく。
窓から僅かに差し込む朝日の陽射しが妙に明るく感じた。遂にこの日が来てしまった事にその艦娘は朝日に嫌気が刺して、光を見ないようにと俯きながら歩き続ける。
「短い期間だったが、ご苦労様……プリンツ・オイゲン」
やがて仮執務室に到着し、中へ入ったプリンツは奥にいる提督から労りの言葉をもらった。
これからこの鎮守府を出ていくのはプリンツ。
翔鶴達との戦争による処罰の一つでプリンツは大本営への再配置を予定されていた。
それと同時に横須賀鎮守府の■■中佐の艦隊へ一時的に配属され、アリューシャン列島海域防衛作戦に参加する事となっている。
「まぁ瑞鳳から聞いているだろうがお前もこれからキスカ島の鎮守府に行ってもらう。アリューシャン列島海域防衛の為に経験のあるお前らが必要だそうだ、大丈夫かなオイゲン君」
「はい……大丈夫です」
プリンツは提督の目を見続けながらも落ち込んだ表情で話を聞いていた。
先程から元気の無い姿やこの表情をしているが、翔鶴達との戦争を考慮すれば簡単に分かる事だろう。自身が提督に対して残酷な仕打ちをした事にプリンツは罪悪感で押し潰されそうになっていた。
「もうすぐ迎えの艦隊も来る頃だろう。何か言い残しておきたい事はあるか?」
「……本当にごめんなさい。謝る事しか……出来ません……」
提督からすればプリンツが頭を下げて謝ってくるのは予想の範囲内。
いや百%確実にしてくる行動だと椅子の腕掛けに肘を立てて顔を支えながら呆れた表情でプリンツを眺めた。
足を組んで粗末な態度を見せつける提督に対し、傍にいた秘書艦の摩耶やプリンツは何も言わない。言えるはずもない、何故なら今ここに居座っているのは自分が手を出した被害者であり、そして自分は罪を犯した罪人である。
明らかに自身に非がある以上は慎む事しか出来なかった。
「……操られてた時のお前となったら酷い事をしてきたもんだ。見下されるわ、蔑まれるわ、殴られるわ、蹴られるわ、脅されるわで本っ当に苛立ったよ。
「あ、あれは! ただ……いえ、何でもありません……」
提督の言葉から恨みと怒りを感じた。
プリンツは慌てて否定しようとしたが、何か思い出したのか急に諦めて口篭る。
「……まさか翔鶴達には言ってないだろうな」
「断じてあの事は一切言ってません! それは本当です!!」
決して提督と摩耶の事に関しては誰にも告げ口はしていないとプリンツは必死に言い掛ける。
プリンツがそう言える自信がある理由は翔鶴の好嫌薬によって意識を改変させられた当時の記憶が鮮明に残っていたからだった。
急に提督へ嫌悪の感情を抱き始めた瞬間や提督を脅した時、そして手を出した時などを出来ることなら二度と思い出したくもない記憶がビデオの映像の様に残っている。その時自分は何をしていたのか、提督に何をしようとしていたのか、提督に関する事だけは完璧に覚えていた。
「改めて言うがオイゲン、お前がやった事は明らかな俺達の裏切り行為だ。例えどんな方法でそれ等をやってしまったとしても、お前にそういう考え方があったという事実だけで、それは約束を破ったと同等の行為に等しい」
「はい……分かっています……」
提督は改めてプリンツへ自身が犯した行動について詳しく説明した。提督が無名の頃に苦楽を共にした艦娘だからこそ、提督はこの
例えどんな事だろうともし変えたいという気持ちがあるのなら、その気持ちと一緒に戦ってもらいたかった。
提督は失望と同時に哀れみの感情でプリンツを見続ける。
久しぶりに見たその視線がプリンツの心を更に痛くさせた。
「ですが……これだけでも言わせてください……」
プリンツは声を震わせながらも思い切って提督へ伝える。
「私は……口外に漏らす様な真似は……絶対にしていません……!」
プリンツの碧色に輝く目は珍しく真剣な目付きをしていた。緊張で汗が頬を伝い、息も少し荒々しく感じる。
一見して提督は疑念の表情を全く変えないまま少しばかりため息を吐いた。
「……そうか。ならこの失望をお前ならどう挽回させる?」
「今Admiralが一番会いたがっている……
「へぇ~……」
提督に対する失望をどうするかとプリンツへ尋ねた時、プリンツは神出鬼没の
流石提督の事を分かっているのか、大胆不敵なプリンツの言葉に思わず提督は企んでいそうな笑みを浮かべた。
「面白い事を言う事だけは一人前だなオイゲン。だがお前が──」「
提督は半笑いでプリンツを睨みながら話を続けたその時、誰かが仮執務室のドアを蹴破って現れた。
驚いた提督は叫び声を上げながら椅子ごと床に転げ落ちる。
先程まで緊張した空気に包まれていた仮執務室が一気に解け、混沌とした雰囲気に切り替わってしまった。
「誰だこんな時に割り込んできた奴は!!!」
「私よAdmiral!! このビスマルクが直々に来てあげたのよ! 感謝しなさい!!」
「これまたややこしいやつが来たな」
大事な会話の途中に割って出てきたビスマルクに提督は指差して怒り出す。
邪魔をしたビスマルクは悪気が無いまま話を進めようとした。
それを見て摩耶は困り汗を掻きながら苦笑いで提督の椅子を立て直す。
「何故お前が来るんだビスマルク!! ガングートの言う任務やらはどうした!!」
「あの任務は既に完遂したわよ。北海海域に攻めてきた深海棲艦共を蹴散らしてやったわ! 後は
以前の鈴谷達と南方の艦隊であった演習時に、元帥と共に来ていた皐月達が来ていたが、ビスマルクだけが共に来る事が出来なかった。その時は北欧での任務がちょうどよく重なっており、久しぶりに提督に会いたかったビスマルクは任務優先で行く事も出来ず、代わりにガングートへ頼んで行ってもらう様にしていたらしい。
つい四日前に帰還したばかりのようで荷物を持ち抱えたまま来ているのが見えて分かった。
「ビスマルク姉様……その……」
「オイゲン……大丈夫、分かってるわ。仕方の無い事よ、オイゲンは悪くないから安心なさい……でも、やった事はやった事でちゃーんと反省はするのよ?」
「は、はい……! します……!」
「いい娘よ、オイゲン。よく頑張ったわ」
オドオドしているプリンツは恐る恐るビスマルクへ話し掛ける。
やはりこの鎮守府の事情は既に知り得ているのか、プリンツや艦娘達がやった事は全て把握済みのようだ。
ビスマルクはプリンツの頭を撫でながら優しく慰め、思わず泣きそうになるプリンツを力いっぱい抱き締めた。
「んで、どういう風の吹き回しでここに来たんだお前は」
「オイゲン達がこれからアリューシャン列島海域の防衛に行く事になったのをついでに、そちら側の一番偉い人がオイゲンと入れ替わりで着任する様に言われたの。まぁ事情や理由はほぼほぼ知ってるし、短い期間ではあるけどまたよろしく頼むわね、Admiral」
どうやら■■元帥がビスマルクを異動させたらしい。皐月達が■■中佐と共にアリューシャン列島海域の防衛任務の為に居なくなる事を把握してプリンツに成り代わる戦力として提督と面識のあるビスマルクを入れ替わらせたようだ。
■■中佐が連れていく話をした際にビスマルクだけ名前が入っていなかったのはこれが理由だろう。
「お前によろしく頼まれる筋合いは無い」
「あら~また
「摩耶、答えなくていいぞ。こんなとある名探偵の逆バージョンみたいな奴の言葉に耳を貸すな」
敵対する提督に対し、ビスマルクは指を差しながらウザ絡みする様に提督を
初期の頃から共にいた摩耶やプリンツしか知らないが、提督がビスマルクを一方的に嫌っているように見えるも何かと持ちつ持たれつの関係性にある。
ビスマルクの目立ちたがり屋で高飛車のような性格に提督は飽き飽きしており、挙句の果てには隙あらば好き嫌い関係の事でからかってくるのでいつも提督の一方的による口論になっていた。
ビスマルクは大して提督の言葉を気にしてはおらず、ただ真正面から話す事が出来ないためにわざとからかっているらしい。
中々崩れかけた関係だが戦闘になると提督の指揮は必ず従い、ビスマルクの作戦の提案には耳を傾けるなど互いに信頼している部分があるので一概に仲が悪いとは言い切れない。
提督は信じていないと言い張っているらしいが。
「まぁ苦労はしてるな」
「ほら~やっぱりAdmiralは私が必要なんだから~」
「うるさい黙れ」
提督は嫌悪気味にビスマルクへ言い返す。
摩耶としてこのやり取りを飽きるほど見ているのでまたこれが続くのかと思うとため息を吐く他なかった。
「さて……お遊びはここまでとして、戦況はどうなのかしら」
「急に切り替わるの早くね?」
「今のところはかなり追い込まれている状況だな。色々あったおかげで他の鎮守府とは連絡はあまり取れず、いつ深海棲艦に襲撃されてもおかしくない状態になってる」
「なるほど、噂ではこの鎮守府は
ビスマルクの急な切り替わり様に提督は思わず言葉を漏らすもスルー。代わりに摩耶が説明し、この鎮守府の状況が如何に厳しいものであるかを教えた。
摩耶は鎮守府についてまとめられた書類の束をビスマルクへ渡し、その書類の束を一ページずつビスマルクはじっくりと読んでいく。
「で、今は二人の提督へ恩を返す目的と復讐の目的で別れていて、打倒七壞星の為に叢雲達がこの鎮守府の艦娘達を指導して訓練を受けさせてる。そして■■少尉の特定と『
「へぇ~……あの娘達も随分と嫌なのを選んだわね、まぁ私は関係無いからいいけど。あ、でも既に■■少尉の場所は掴んでるのね」
「掴んでると言っても必ずそこにいるとは限らない。特定の五箇所と俺が選んだ二箇所に近々大規模な偵察任務を行う予定だ。勿論ビスマルク、お前にも協力してもらうぞ」
■■少尉の居場所はある程度把握済みだが、どの島にいるのかはまだ分からない。これから戦闘になる上で敵の居場所を事前に知っておく必要がある。
プリンツの代わりに来たビスマルクも強制参加させると提督は真剣な表情で告げた。
「その為に来たんだから勿論参加はするわよ。だけど『
「
「あ~はいはい、そうだったわね……それでオイゲンが罪滅ぼしに見つけ出すと言ってたのね」
察してくれと言って提督は椅子に寄りかかってため息を吐く。随分と苦労している様な態度にビスマルクも同情せざるを得なかった。
三年間に一度しか現れないような神出鬼没の深海棲艦を星の約七割を占める海から今更あの手この手で探そうなど無謀にも程がある。例えるなら部屋の中に突然現れた虫がどこから出てきたのか、その穴を探すくらいなほど厄介だ。
それをプリンツは何がなんでも見つけると提督へ誓っていた。
ビスマルクはプリンツの方へ振り向き、それだげプリンツが精神的に追い込まれている事を察する。この鎮守府で起こった内乱が如何に残酷なものなのかをビスマルクは静かに感じ取った。
「……頑張りなさいオイゲン。とても辛くて険しい道だと思うけど、必ず乗り越えると私は信じてるわ」
「は、はい……頑張ります!!」
「来ましたよ~」
直後に旗艦の瑞鳳が仮執務室へプリンツを迎えに来てくれた。自由過ぎるビスマルクに対して面倒そうにため息を吐きながらも手続きを提督と共にこなしていく。手続きの途中で聞いた話ではガングートと皐月は岸辺にて待機中で艦娘達の訓練を観戦しているとか。
またベーリング海海域の
「しばらく離れますが、ご武運を祈っています。私も必ず見つけ出してみせますので、どうかAdmiralも必ず勝って
「言われなくても勝つのは当たり前だ。無駄な心配など必要ない、お前はお前のやるべき事に気を掛け、目の前の事に集中したまえ!!」
「いたっ!」
最後プリンツは提督に別れの言葉を告げ、それを聞いた提督は口角を上げて自身の頭をプリンツの額へぶつけさせる。
言葉に一瞬励まされているような気がしたプリンツは久しぶりに提督に対して笑みを浮かべ、仮執務室を出ていった。
「……ビスマルクは?」
「オイゲンが行った同時に鎮守府探索」
「あの野郎!!!!」
「どんどん建て替えられていくわね~、流石日本といった所かしら。あの技術力は祖国でも欲しいわ~」
ビスマルクは提督に伝えもしないまま自由奔放に潮岬町鎮守府の探索に出掛けていた。
仮執務室から抜け出して講堂をある程度把握し、次に艦娘の寮を艦種ずつ入って確認していく。
六つの寮の内、二つの寮は翔鶴達との戦争により半壊状態になっており、建設の為に鉄パイプで組まれた足場と防水シートに囲まれていた。
どうやらビスマルクは日本の技術力を羨んでいるようで、祖国でもあの技術力が欲しいとため息を吐きながら嘆いた。
「あら、ここが医療施設? 地方の鎮守府にしては随分と立派な感じじゃない」
ひたすら廊下を歩いていると司令本部に辿り着いていたビスマルク。
途中で医療施設に繋がる扉を発見し、都心で見掛ける病院のような内装に物珍しく感じた。
ビスマルクは興味本位で扉を開けて中へ入る。
「誰もいない……って訳では無さそうね……ちょっとお邪魔するわよ~~っと……」
手前にある仮に建てられたナースステーションには明かりがついているが覗いてみると誰もいないように見えたが、奥の方でパソコンを使って何かやっているのが見えた。ビスマルクはバレないように静かに歩いて奥の方へ向かう。
するとある病室の扉が少しだけ開いているのをビスマルクは目撃した。恐る恐る近付いて中を覗いてみる。
病室の中では艦娘らしき姿がベッドから離れ、立ちながら窓の景色を眺めていた。
「早くベッドに戻った方がいいんじゃないかしら」
「……ふぇ!? 誰!?」
「私はビスマルク型の戦艦のネームシップ、ビスマルクよ。よ~く覚えておきなさい!」
後ろから突然話し掛けられた島風はビスマルクを見て驚き出す。
誰と言われてビスマルクは堂々と自己紹介を始めて名を名乗った。
「ビ、ビスマルク……さん……? 何故ここに?」
「初めてここに来たからちょっとした探索。地方の鎮守府にしては偉く整った医療施設だから物珍しさに見に来ただけよ。そしたら貴女がそこにいた」
「そ、そうですか……」
島風と並んでビスマルクは窓の景色を眺める。恐る恐る島風はビスマルクが何故ここに来たのかを質問した。
ビスマルクは弱々しく見える島風を疑問視しながらもここに来た理由を簡潔に話していく。視線を窓の方向へ向けたまま話し続けるビスマルクに島風は少し怖がっていた。
そんな自身を恐れているような島風の怯えた表情を見てビスマルクが声を掛ける。
「何か悩み事でもしている様な表情ね。このビスマルクが相談に乗ってあげてもいいのよ?」
「い、いや……そういうのじゃなくて……その……大丈夫です、すいません……」
「あら、そう」
ビスマルクは島風が手術を受けて目覚めた事は勿論、提督がここに来た経緯や翔鶴達との戦争などは殆ど把握しているが、その目覚めた島風が五年前の小笠原鎮守府の生き残りで尚且つ敵によるトラウマで弱りきっていた事は知らなかった。
だから島風が何故臆病になっているのか分からず、ビスマルクは大丈夫だと言われて何とも思わなかったが、半分疑心暗鬼で島風の事を不思議がっていた。
「ってよく見たら貴女、髪ボサボサじゃない! なんて事に……もうそんなのじゃ印象ガタ落ちよ? 私が簡単にやってあげるから、座って頂戴」
「え? えっ、ちょっ!」
「ほら早く」
ここ最近でずっと病室にいた島風の長い金髪は少しばかり傷んでいた。それに気付いたビスマルクは常に持っていた化粧道具を取り出し、狼狽える島風を半強制的に椅子へ座らせる。なされるがまま島風は不安な気持ちになりながらもビスマルクに髪をとかされていった。
「髪は女の命よ、面倒臭くてもこれからは丁寧にしなさい」
「は、はい……」
ビスマルクに何も抵抗は出来ず、島風は戸惑いの表情を隠せないまま返事した。
何か会話をする事もなくただ沈黙の時間が流れていく。
徐々に窓から朝日の光が鮮明に明るくなり、外で誰かが走る音が聞こえてきた。
何故初対面の艦娘に自身の髪を整えさせられているのか、後になって不思議と考えたがビスマルクに嫌な思いをさせたくなかった島風はそのまま従っていった。
「……ビスマルクさんはもし解体されて人間になったら、何がしたいですか?」
しかし沈黙が耐えられなかった島風はとうとう口を開いて自身の悩みや行く末を交えた質問をビスマルクに聞いてみた。
■■医師から言われたような自身の価値を探すという言葉を気掛かりにしていた島風は、いずれは自分も解体される身だと考えており、もし他の艦娘が解体された時、後の人生をどう歩むのか気になっていた。
「んーそうねぇ……まぁ個人的には色んな所に行って遊んでいたいけど、出来れば一番は……好きな人と付き合って結婚して、子供を産んで家族を持ちたいわね」
「……」
ビスマルクの回答を参考に出来ればと思っていた島風だったが、予想外の答えに何も返事をする事は出来ず反応も無いまま黙ってしまった。ただそこまでに明確なやりたい事が簡単に言えるビスマルクに少しだけ羨ましく思える。
自身もそういう風に生きていけば価値を見い出せる事が出来るのだろうか、自分も好きな人と付き合って結婚して家庭を持てば少しは変われるのだろうか。
考えを処理し切れずモヤモヤした複雑な気持ちが徐々に膨れ上がった。
「じゃあ逆に聞くけど島風、貴女は解体されたら何がしたいの?」
「えっ?」
「えっ、じゃないわよ。島風は何がしたいの?」
今度はビスマルクから逆に聞かれ、予想だにしなかった島風は思わず聞き返す。
当然島風は何をやりたいのか全く決まっていない。
それどころか自身の未来が不安でしょうがなく感じて怯える毎日だ。
なんて納得のいく答えを返せばいいのか分からない。
ビスマルクに少し期待されているのが嫌に思えた。
こんな質問なんて聞かなければよかったと後悔もした。
変に答えれば機嫌を損ねる可能性がある上にビスマルクの善意で髪を整えてくれているこの状況を失う可能性もある。
考えるだけで時間が進む度に緊張が止まらない。頭の中で慌て始めた島風は無意識に口を開いてこう言った。
「……まだ……決めてないです」
「あら、それは楽しみね」
「楽しみ……? 何故?」
また予想外の返答に島風は思わず復唱して聞いてしまった。
何も決めていないのに何故これから楽しみになるのか、島風の中では到底理解に苦しむモノだった。
何も無い自分に、
何も出来ない自分に、
これからどう生きるのか分からない自分に楽しみがあるとでも言うのだろうか。
それとも何も決まっていない自分を皮肉を込めた意味で言ったのだろうか。
島風は顔を俯いきながら悲しげな表情で手を握った。
「やる事が決まっていないっていう事はつまり、これからやりたい事を自分自身で自由に決めれるって事でしょ? 自分が知っている事は勿論、この世界にはまだまだ私達には知らない事が沢山ある。それを知れば楽しくなるし、自然と興味が湧いてきてやりたい事だと決まっていくものよ」
「そう……なんですか……?」
「……? そうだけど……? 何ら疑う余地なんてないわ。まぁでも島風はこの世界には何があるのか、まだまだ知らないようね」
ビスマルクの話を聞いて島風は自分を励ます為に言っているのかと疑問に思ったが、ビスマルクの反応を見てみると彼女は本気で思っているようだった。
ただ単純にビスマルクはこれからやりたい事を決められる島風を羨んで伝えたのかもしれない。
ビスマルクは遥か遠くの国から来た海外の艦娘で、日本の艦娘とは一風違った外見をしている、言わば本当の外国人のような艦娘。
日本とは違う世界を見ているのだろうか、島風は本当に少しだけ気になっていた。
「この世界の色んな所に行った私に聞いてもいいのよ? 何だって聞かせてあげるわ、遠慮はいらないわよ」
「じゃ、じゃあ……」
島風は言葉に甘えて話を聞こうと緊張しながらも口を開く。
ビスマルクの方へ振り向く事はまだ出来なかったが、彼女はそれを注意する様な事は全く言わなかった。
寧ろ興味を示してくれたのが嬉しかったようで、嬉々としてあらゆる世界の話を教えてくれた。
その時、私は何か変わろうと心のどこかでそう思っていたのかもしれない。
いや変わろうと思ってたんだ。
だけど運命は、とても残酷で──、
〈〈では『
「リョーカイ……ア、通信切レタ。ハァ……コレデイイカー?」
「充分。色々言イタイダロウガ所詮ハ双方デ利用シテル
「マァソウダケド……ジャア指令通リ、行ッテクルカ」
──確実に、その時は迫ってきていた。
七壞星は”しちかいせい”でもいいし”ななかいせい”でもいい。自由。
色々ルビあるけどそんなに気にしなくていいです。