うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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162. パソコンで調べものする時は気をつけろ

 護神厄討艦隊の艦娘達による特殊訓練が始まって二日後。

 

 横須賀鎮守府をまとめる総責任者の■■大将は最近小笠原諸島海域で活発化した深海棲艦の動きと日本海軍内にいる関係者のリストについて調査していた。

 

 この国の何処かにいるであろう黒■■という男を見つけ出す為に一人で模索し続けているが、未だに確証が得られる証拠を得られていない。

 数件か、いる可能性の高い証言や場所などはあったものの何週間前や数日前となれば確実性は薄れている。何としてでも必ずこの場所にいるという確実なる証拠が欲しかった■■大将は諦めずに様々な場所を調べ上げていた。

 

「聞いた事ありますか?」

「何をだ」

「艦娘と深海棲艦がどうやって生まれて来たのかっていう話です」

 

 休む暇など無い多忙な状況の中、■■大将が普段仕事場とする執務室にて誰かが声を掛けた。

 執務室に用意された応接用のソファに堂々と寝転がり、スマホを両手にゲームをしている。

 

「今じゃ別次元からやってきただとか、宇宙から来ただとか、様々な仮説がこの現在やネット上でもそう騒がれてます」

「確かに不明瞭な所は多過ぎるな、その不明瞭な存在を我々は扱っている訳だが」

「そうでしょう? まぁ、私個人としては人間の進化系みたいな感じじゃないかなとは考えてますが、正直現実味は無いのであまり信じられてません」

「そうか……んで君達は何故わざわざ私に会いに来たんだ」

 

 ■■大将と話をしていたのは以前潮岬町鎮守府にて鈴谷と加賀達が演習で戦った艦隊を指揮していた南方の■■中尉だ。

 あの鬼の大佐の血を引き継いだと言われるほど誰にも容赦はしない冷酷の軍人として有名で、ラバウル前衛基地を拠点にトラック泊地を根城にしている【開陽(ミザール)】深海日棲姫と『武曲(シーフォウス)』駆逐水鬼と日夜戦闘を繰り広げている。

 今回は■■中尉を部下にしているラバウル前衛基地の責任者である■中佐の代役としてある事を報告に秘書艦の綾波と共に横須賀鎮守府までわざわざ来たようだ。

 

「直接会わなくても手段はあっただろうに」

「いやどうしても大将閣下に直接見てもらいたいモノがございまして、報告も兼ねて来てきた次第です」

「悪いが私は忙しいんだ、手短に頼むぞ」

「はいはい、お任せ下さいな」

 

 ■■中尉はポーカーフェイスで一切の感情の緩みを許さない為か真面目に見えるが、その代わりか無意識に態度で出てしまっているようで、先程寝転がってスマホを触っていたように今度は真顔でごますりをしている。多忙な■■大将から手短に頼まれた■■中尉は指を弾かせ音を鳴らし、綾波が持っていたアタッシュケースをテーブルに置いて中身を見せる。

 

「……これは?」

「先々週に我々は【開陽(ミザール)】深海日棲姫と『武曲(シーフォウス)』駆逐水鬼が支配するマーシャル諸島海域にて大規模な戦闘を始めました。以前提出しました報告書でも拝見されたかと存じます」

「あぁそれ等は把握している。一部の島と海域を奪取したそうだな」

 

 その事について話すのだろうと予測していた■■大将は持ってきていた資料と報告書を読みながら話を進めていく。

 潮岬町鎮守府との演習を終えた後に南方の鎮守府全体を指揮する総司令官の■■大佐がマーシャル諸島海域奪取作戦を実行。■■中尉の艦隊に所属する『(クロガネ)』北上が『武曲(シーフォウス)』に大打撃を与える事に成功し、結果マーシャル諸島海域の一部も奪取する事に成功している。

 

「ですがその戦闘の最中でやけに守りの堅い島が一つございまして、奪取後に■■大佐の方からその一部の島に調査隊を派遣し、上陸して調べてみました」

「で、出てきたのがコレ……と」

「そうです。地下に深海棲艦の研究施設らしきモノがあり、既に中は隠滅の為か荒らされていましたが、その内壊れていないモノを回収し、分析した所……」

 

 アタッシュケースの中に入っていたのはそれぞれ違う色をした液体の瓶が三個ほど保管されていた。

 手前から順に①赤、②青、③黄、④紫色に別れていて黒い粘着質のある液体のようなモノが混ざっており、小さい瓶の中をぐるぐると移動している。

 

「その液体の中には未知の構造体や元素、物質などが含まれており、様々な実験の結果……コレには、恐ろしい力を持った液体という可能性が出てきました」

「恐ろしい力……? それは一体何だ?」

「それは……──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──……艦娘を人間に戻す液体……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!?」

「驚かれるのも無理はありません。私も最初は疑いました、ですがコレの中には艦娘を人間に戻す様な仕組みが成されていて、簡潔に言うのなら艦娘のエネルギーとは真逆の……反エネルギー物質、と言えばいいでしょうか。それらが身体の中にある核を弱体化させ、徐々に収縮した後に消滅。何も拒絶反応が無いまま艦娘の姿のままで人間に戻ってしまうかもしれないのです」

 

 四つの色の液体は恐るべき事に艦娘を人間に戻してしまう能力を持っているらしい。

 艦娘の身体の中にある核が作るエネルギーとは相反し、液体の中にある反エネルギー物質というモノが核自体を弱体化させ、時間経過で収縮または消滅させてしまう。

 それは深海棲艦との戦争で一番有力とされている艦娘という兵器を根本から崩壊させる恐ろしいモノだった。

 

「原因としては新式解体済みの艦娘から抽出して保存していた核に付けてみたところ、先程同じような現象が発生し、もしかしたら艦娘を人間に戻してしまうのではないかという仮説が有力になっています。ただ実際に艦娘を扱った実験はしていないので不確定な要素は多く、そうなるとは限定出来ませんが」

「可能性の話でも十分に危険なモノだな……他のモノもそうなのか?」

「他のモノも大体は同じ仕組みをしていましたが、それは先程説明していたモノよりも遥かに残虐性がありました」

 

 赤色の液体は艦娘を人間に戻すだけのモノで他の色の液体も似たような構造している。

 だが赤色のモノとは別に他の色の液体には身の毛もよだつ様な恐ろしいモノが仕組まれていた。

 

「神経毒……ですよ。艦娘を人間に戻し、そして致死性の高い毒で死に至らしめる。テトロドトキシンやコノトキシン、VXガスなどの化学物質が検出されました」

「神経毒……だと……?」

「更にそれだけではありません。もう一つのモノには艦娘を人間に戻すだけではなく炭疽菌やエボラウイルス、そしてもう一つはカドミウムやヒ素が検出され、あらかじめ細菌の感染による死亡や重金属中毒による後遺症を計算したような構成にされていました」

 

 それは毒やウイルス、重金属による追い討ちの一撃。

 艦娘を人間に戻した後に確実に殺す為の手段として様々な物質やウイルスなどが多分に含まれていた。

 

 しかも■■中尉が持ってきたモノはそれ等のごく一部に過ぎず、他には放射性物質や原子物質なども確認されているモノもある。

 その報告を受けた■■少尉も思わず動揺してしまう程その液体は残酷なモノで、■■大将も同様に手が震えてしまう程恐怖という名の殺意を感じていた。

 

「■■大将閣下、これは深海棲艦等が確実に我々や艦娘を殺しにかかってきています」

 

 最早ここまで非人道的な兵器使用が確認されたとなれば、深海棲艦の人類への明らかな殺意は確定的なモノとなる。

 そしてそれと同時にこれから起きる戦争が別次元の戦いへと変わり果てていく事を決めつけた決定的な証拠だった。今まで前時代に近い従来の砲雷撃戦や航空戦を続けていた深海棲艦が現代兵器を使用すれば戦争は苛烈を極めていくだろう。

 

 決着など程遠く思える程までに。

 

「最早深海棲艦等に人道という言葉は存在しません。よく考えれば化け物に近い深海棲艦に戦時国際法等で成された非人道的な兵器の使用禁止など無視されて当然。毒を用いたとなれば艦娘に有効性のある毒ガスなどの化学兵器、細菌やウイルスとなれば感染する事に特化した生物兵器、そして重金属があるとすれば可能性があるのは劣化ウラン弾……最悪の場合には……核兵器……これらを所持している可能性があります」

 

 突如出現して人類を脅かした深海棲艦に戦時国際法は恐らく意味を成さないだろう。

 国というモノが存在せず海を一方的に支配し続ける化け物達の群れが戦時国際法を知っているのかがそもそも疑うべき事だ。

 何故深海棲艦が人類に歯向かい戦い続けるのか、その理由すらも分からない。

 

「これだけ非人道的な兵器を作れる程の技術があるとすれば、既にこの液体を使用した攻撃方法を開発している可能性もあるでしょう。ですが個人的に私は……深海棲艦が人類に対して異常なまでの殺意がある事、そしてその殺意を実現したかのような兵器を開発出来る程の技術を深海棲艦が所有している事に懸念を唱えかねません……」

 

 ■■中尉はこの液体の事よりも深海棲艦の人類に対する殺意と深海棲艦の開発技術が革命的な進歩を遂げている事に気に掛かっていた。今までの戦争にて度々激闘を繰り広げてきた艦船同士の海上戦闘を現代でもそれ等と同様な戦闘を続けている。

 

 最近では近接格闘技術も視野に入れた新しい戦闘スタイルが生まれていく最中、深海棲艦側は禁忌とされた化学兵器や生物兵器の使用。

 もし深海棲艦が使用すれば戦況など一瞬で傾く事に間違いは無いだろう。

 

「ここまで明確に殺意があるとなると、深海棲艦が我々を襲う理由はある程度断定できます。例えば……()()()()()()()()()()()()、とか……」

「……」

「その時に何があって、何が起こったのか。それは私も分かりません……ですが、もしそうだとするのならば……()()()()()()()とは、一体……どちらなのでしょうね?」

 

 ■■中尉は疑う様に■■大将を睨みつける。

 沈黙に包まれた執務室内に身体を震わせられるほどの迸る様な緊張が辺り一帯の空気を変えた。

 秘書艦の大和や赤城が思わず後退ってしまう程に緊張は高まっていく。

 まるで■■大将が何かを知って隠していると考えている様に見える■■中尉は一切表情を崩さずにいた。

 

「……話は以上です。このサンプルは是非研究材料としてお使いいただければ幸いです。私としてはこの報告を全世界の軍に伝えてもらえたいと思っております」

「分かった。こちらで準備しておく、御苦労だった」

「いえいえ問題はありません」

 

 ■■中尉の発言により沈黙と緊張は一瞬で消え去り、秘書艦の大和と赤城は安堵の声を漏らす。

 わざわざ持ってきてくれた四つの液体は横須賀鎮守府の研究施設にて取り扱う事になり、この事実を広める為に各国に連絡するよう後々で手配する予定となった。

 深海棲艦の新たな脅威を目の前に軍人二人は互いにこの液体が深海棲艦と人類に関して重要性のある事を決して言う事なく話は終わる。

 

 が──、

 

「先に言っておくが……余計な詮索はするなよ」

「まさか、私は鬼の大佐と同じくそんな事には関わらない主義なんで。大丈夫ですよ」

「なら、ありがたいな」

「はい……ではそろそろ私も失礼しますね」

 

 何か怪しいと踏んだ■■大将は前もって■■中尉に忠告する。

 ■■中尉は大丈夫だと啖呵を切って液体と資料を■■大将に提出し、南方の鎮守府へ帰還しようと立ち上がった。

 

「一つだけ言うのを忘れていたが……」

 

 ■■中尉がドアを開いて執務室を去ろうとしたその時、突然■■大将に呼び止められる。

 

「……何でしょうか」

 

 ■■中尉は顔を振り向かせ慎重に返事をした。

 

「先程のは()()ではない……()()だ」

「……ありがとうございます」

 

 感謝を述べた■■中尉は静かに執務室内を去る。

 ■■大将は応接間のソファに座ったまま手を組んで考え事をしているように見えた。

 

「提督……その……」

「大和、君にも一つ……言っておこう」

 

 

 

 

「この世界は皮肉で理不尽な悪意なき悪意によって変わってしまった」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら立て……さもなくば叩き潰すぞ」

「くそっ……!!」

 

 潮岬町鎮守府では依然として特殊訓練が立て続けに行われていた。理不尽ともいえる圧倒的な戦闘力を前に艦娘達は果敢に挑み続け、少なからず心身共に成長への眼差しが見えつつある。

 鹿島や『(オウゲン)』叢雲は艦娘の生活規律を正していき、戦闘に関する相談事も時間さえあれば受けるようになった。提督や摩耶は連日出張が多く、行先は不明とされていたが灰色が言うには大本営に向かっているらしい。

 

「やっほー、島風ちゃん」

「っ! ■■先生……!」

 

 医療施設のとある病室にて島風は窓から見える艦娘達の訓練の様子を暇つぶしに眺めていた。

 途中で島風の様子を伺いに来た■■医師が手を小刻みに振りながら親切そうに声を掛けてくる。その声を聞いて振り向いた島風は少しだけ安心したような表情を見せて■■医師の名前を呼んだ。

 

「今日は何しようかー?」

「今日も……外の事が知りたい、です……!」

「オッケー! じゃあまたパソコン持ってくるわね」

 

 ■■医師は島風に今日は何がしたいのかを問い、調べ事がしたいと聞いてノートパソコンを取りに一旦病室を出ていく。

 ■■医師は毎日島風と話をして互いに信頼関係が結べるように心掛けていた。彼女の心を傷つけず癒す為に最善の努力を尽くし、一人の人間として自立できるように精一杯の支援を施している。

 

「今度は何を調べるの?」

「昨日ビスマルクさんが言ってた「死海」という不思議な海について知りたくて……」

「……まぁ選んだのはともかく、知っておいて損は無いわね」

 

 島風自信にも微々たるモノだが変化が見られていた。

 ■■医師の支援とビスマルクの影響により、少しづつではあるものの興味を持とうと努力している。

 ビスマルク自身も■■医師と初めて出会った際に島風の事情を聞い取り組んでくれるようだ。信頼関係は完璧とは程遠いがそれでもお互いに信じ合えるように気を掛けてくれている。

 

「人間でも浮かべてしまう湖……そんなのがあるんだ……」

「ここにも書いてあるけど塩分濃度が高過ぎて私でも浮くらしいね」

 

 死海という場所を検索エンジンで調べ、どのようなモノなのかを知る島風。

 ビスマルクが言っていたのは自分達と同じ様に人間も浮く事が出来る湖だと聞いていた。画像や動画を見る限りでは立ちながらではないが仰向けになって浮かんでいる様子がよく分かる。もしそこに自分が行っていたらどんな気分になれるだろうか、不思議と楽しみという感情が溢れそうになった。

 

「行って見てみたいなぁ……」

「っ……!」

 

 ■■医師はパソコンから見える景色を眺めていた島風が無意識に笑みを漏らしている事に気付いた。この鎮守府に来て漸く笑みを浮かべた島風を見て■■医師は少しばかり安堵する。行ってみたいという島風に対して誘う様に言葉を繋げた。

 

「……行けるといいわね」

「ん、これは……」

 

 島風が死海について調べていたその時、ふと検索履歴に『小笠原諸島』という文字がうっかりと見えていた。

 それを隣で見た■■医師が顔面蒼白で頬を引き攣りながら島風の方へゆっくりと視線を写す。

 

 深夜に■■医師が現在の小笠原諸島がどうなっているのかを調べていたが、日々の疲れが溜まっていたのか検索履歴を消すのを忘れていたようだ。

 島風はその言葉を見た途端、何秒か身体を固まらせるも手に持つマウスだけを動かし興味津々に画面を見つめる。

 

「島風、ちゃん……?」

「今……どうなってるんだろ……」

「そ、そうね……私にも分からないわ……」

 

 島風と■■医師がパソコンで調べ事をして六時間が経過、護神厄討艦隊の特殊訓練も終了し、空は黒く染って点々と光の粒が現れる夜になった。

 提督と摩耶は夕食の時間より遅く帰還し、工廠で桃明石と確認を取った後に執務室へ向かう。

 

 月の光に照らされた薄暗い夜の広場や海辺では艦娘達が迷惑にならない範囲で自主的に訓練を行っていた。筋トレや対人近接格闘技術などそれぞれ必要な技術を身に付ける為に訓練当日からずっとやっているようだ。

 更に鎮守府の隣にある島の海域では木曾と天龍が実戦形式の剣術を学んでおり、寮では長門や加賀が資料や教術書などを読んで勉強している。

 流石に全員が夜中に訓練を行うのは提督や護神厄討艦隊の艦娘達にバレてしまい、何を言われるのか分からないのでローテーションを組んでいるらしい。とっくに提督や護神厄討艦隊の艦娘達は気付いているようだが負担にならない範囲程度なら黙って見過ごしている。

 

「……寝てるわね」

 

 一方医療施設では既に島風が就寝していた。

 手術後から五日間ほどが経った今では体調は殆ど回復し、酸素マスクもそろそろ外しても構わないと見頃を立てていた。

 ■■医師は自身が一度仕事を片付ける前に島風の様子を見るようにしている。

 今日の夜もすやすやと深い眠りにつく島風の様子を見に■■医師は静かに病室の中へ入っていった。

 

「まぁ自動で見張ってくれてるから余程の事が無い限りはあまり問題は無いけれど……どうしても見たくなるのよね……」

 

 眠る島風は少しばかり寝相が悪く■■医師が時々面倒を見ていた。

 今回も同じく島風の体勢を整え、白い布団を静かに被せる。

 空調設備の気温調整を行いながらいつも打っている点滴の量を確認。

 一息つこうと■■医師は島風が寝るベッドの傍にあった椅子に座り、島風の前髪を左右に寄せて寝顔を見る。

 

「……はぁ……今日は思いっ切りやらかした……」

 

 ■■医師が思わず呟く。

 まるで弱音を吐くように滅多には聞けない弱った声が聞こえた。

 

「ごめんね島風ちゃん……本当は貴女が一番辛いはずなのに、医者である私は貴女に対して何もしてあげられてない……」

 

 島風の事で悩んでいた■■医師は両手で頭を抱える。

 弱りきった島風に対してどう接すればいいのか、心療内科関係の様々な学書や資料などを読んで毎晩勉強していた。寝る時間を押して島風の心を癒す為にはどんな方法が最優先かをノートに纏め、精神内科の医師をしている友人のアドバイスを参考にしながら取り組んでいる。

 心療内科や精神科については医学生の時にある程度は学習済みで幾度か治療した経験もしているが、一人の患者を完全に治療出来るかと言われると難しい部分があった。

 

「小笠原諸島がどうなってるかなんて簡単に言えないし、そもそも信頼関係なんてそう簡単に築ける訳じゃないのに……信じる事に意味はあるのは勿論なんだけど……それじゃまるで私が島風ちゃんに信じる事を強要してるみたいじゃない……」

 

 島風との信頼関係をいち早く築く為にも島風本人から信じてもらわなければならない。

 だが信頼関係というものはそう簡単に築けるモノではなく、長い月日を重ねて積み上がっていく地道な方法しかない。

 それは当然■■医師も分かりきっており、この先島風とどう関係を築けていくのか大体の示しはついても不安は余分に残っていた。

 

「違うの……大事なのは信じようとする勇気が必要なの……島風ちゃん自身から信じてもらわなきゃ駄目なのよ。本当の信頼関係はそこから始まる……指示された信頼なんて意味が無いのよ……頑張りなさい、私……努力はここからよ」

 

 島風に信頼される為にも島風自身にストレスを与えないやり方で地道な努力を続けていく。信じる事を強要せず本人から勇気を出して動いてもらう様に精一杯頑張らなければならないと■■医師は自分の頬を叩いて喝を入れた。

 弱音を吐いている暇があるなら少しでも島風の為になる事を考える。島風が自身の価値を探している様に自分もその価値を見つけるサポートを続けると■■医師は決心した。

 

「……だから、これ以上島風ちゃんに辛い思いをさせないでください……お願いします……」

 

 かつて数多の熾烈を極めた戦場で名も知らぬ敵と交戦し、身体と心を歯止めなく損傷し続け、その損傷が仇となって深い心の傷を負ってしまった一人の少女の穏やかな未来を■■医師は島風の手を優しく握って祈る。

 これ以上不幸な目には会わせないでくださいと心の底から祈り続けた。

 散々な程辛い目に会い続けた島風を救いたいと一心に思いながら何度でも祈る。

 カーテンの隙から漏れる月の光を希望の光として島風の輝く未来へ導く為に。

 

「これからは……私で良ければだけど……一緒に色んな所、行って見よう……って誘ってみようかな」

 

 祈り終わった■■医師は島風が色んな場所へ行きたいという意志を支援する為に誘ってみようかと考える。

 勿論それはこの戦争が終わった後にやる事でその後もやらなければならない事は沢山あるものの、島風の為ならば問題無いと■■医師は軽く微笑んだ。

 最後は島風に小さな声でおやすみと伝え、静かに病室を出ていく。

 数十秒して島風は誰もいなくなった事を見計らって目を開いた。

 

「……■■先生……」

 

 

 

 

 

「提督、いよいよ明日だな」

「あぁそうだな。明石も開発がそろそろ終わるらしい、予定通り進めるぞ摩耶」

「了解した」

 

 

 




タイムリー過ぎたから毒関係は修正しまくった。
そろそろかな。
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