うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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167. シャンディエンの苦悩は遥か彼方のモノ達へ

「グワハッッ!!!!」

 

 『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級が空気の壁を突き破って殴り飛ばされた。

 広がる衝撃波と共に海面を引き摺り、受身を取って立ち上がる。

 口から漏れた血を腕で拭い、ビスマルクの姿に注目していた。

 

「何ダ……ソノ腕ト眼ハ……!! マルデ深海棲艦ジャナイカ……!」

 

 眼帯によって隠された右眼は碧色に満ちた不気味な輝きを放っており、包帯によって隠された左腕は腕の付け根から深海棲艦特有の白い肌が現れ、腕を守る様に黒い鋼鉄の籠手を武装していた。

 その特徴的な姿から想像出来る深海棲艦はただ一人、大西洋海域全体を支配する【揺光(アルカイド)】欧州水姫の姿と似通っていた。眼や腕から漏れ出すように溢れる碧色のエネルギーが若干黒みを帯びて禍々しく感じる。

 戦艦レ級はビスマルクの秘めた力を見て、初めて危険だと全身が感じ取っていた。

 

「その通り……()()()()()()の深海棲艦の腕と眼よ。どう? この腕で殴り飛ばされる気分は……」

「……フッ……悪ク、ナイナ……流石ニ驚カサレタシ、ココ数年デ初メテ苛ツイタヨ……!!」

 

 誰がこのビスマルクがあの【揺光(アルカイド)】欧州水姫の腕や眼を持っているなどと気付けただろうか。

 

 艦隊にいた日向達の表情も拍子をつかれた様に声も出せないまま驚いている。

 そして深海棲艦である自分(レ級)でさえも驚いている上に危険だと感じている。

 

 深海棲艦の頂点に君臨する中枢棲姫の次に並ぶとされる欧州水姫の実力は全世界の深海棲艦に知れ渡っており、現七壞星達も【天枢(ドゥーベ)】・『貪狼(ディアボルフ)』に次いで相手をしたくないと言わしめた程だ。もしその力を一部でも有しているとするならば本気で戦わなければならないと戦艦レ級は身構える。

 しかしそれと同時にわざわざ包帯で隠していた事からコンプレックスがあるのではないかと苛つきを自制して逆に煽りだした。

 

「ニシテモ、ソノ姿……醜イナ……ナァドウ思ウンダ? オ前ラハ……コンナ奴ガ艦娘ダゾ? イイノカー?」

「一体……どう言う事だ……?」

「まるで……あの摩耶みたいに……」

 

 真の姿を露わにしたビスマルクを見て日向達は理解し難い出来事に依然として呆気に取られていた。

 ビスマルクの身体の一部が深海棲艦になっており、異形とも思えてしまう不気味さを放っている。それは提督と共にいる摩耶のような似た姿で、期待を寄せると同時に不安が込み上げてきていた。

 

「アー醜イ醜イ……ソノ腕ヲ見ラレテ恐レタ奴モイタダロウニ……可哀想ナ扱イデモ受ケタンダロウ? 同情シテヤルヨ、私達モソンナ扱イダカラナ」

 

 『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級はビスマルクの姿を不必要に(けな)して嘲笑う。

 心を揺さぶる様に何度も煽っていく戦艦レ級をビスマルクは何も言葉を発さずただひたすらに睨み続けた。島風はその姿を背後から目を離さずに尻もちを着いてたじろいだままだった。

 

 島風は一瞬で感じ取る。

 

 ビスマルクの背中から伝わってきたのは悲愴な過去の感情、忌まわしき腕と目によって苛まれた苦痛の日々。

 

 実際にその過去が映像となって流れて知った訳では無い。

 

 ただその背中にはそう感じてしまう程、それだけの重みがあった。

 今まで自信に満ち溢れていたビスマルクとは無縁の感情とも思える悲しい感情が島風の身体の周りを漂い始める。

 

 今こうして自信を失くした自分のようにビスマルクにもそういう過去があったのだろうと感じた島風はより一層とその背中が勇ましく思えた。

 

 黒き鋼鉄の籠手や青く澄んだ碧眼でさえも羨ましいと感じた。

 

 

 だからこそ島風は考える。

 

 

 今までビスマルクが自分と話してくれていたのは、自身にそういう過去があった事を踏まえて自分と重ねたのかもしれない、と。

 

 一方的且つ傲慢な考えだとは思う。

 それでも私は今日までビスマルクのしてもらった事が嘘だとは思えなかった。

 

「ビスマルク……さん……」

「えぇ……そうね。昔は酷い言われようだったわ。気持ち悪い、醜い、お前は敵だ、なんて耳が腐るほど聞いたわよ。流石に貴女みたいに落ち込んだわ……幾度となく厄介払いにされるし、虐められるしで退屈しない毎日だった……」

 

 ビスマルクは少し躊躇いながらも自身の過去を思い出していく。頭の中に流れる映像では不気味がる大衆、腫れ物扱いの様に(さげす)んだ目で見る司令官や軍人、表面上では何気ない対応でも裏では恐れている人間がビスマルクを追い詰めていく。

 

『気持ち悪い!!』

 

『近寄るな!』

 

『二度と私の目の前に現れるんじゃない』

 

『醜いから出ていってくれ』

 

『うるせー!! お前の事情なんて知った事じゃない!! 別に普段は包帯とかで隠せばいいし、やむを得ない時に出せばいい話だろうが! それでも気にするんだったらお前は俺の摩耶より間抜けだ!! 他人の視線なんてアリよりちっぽけだぞ!! んなもん気にしてどーすんだ!!』

 

 最後にある男の言葉を思い出してビスマルクは鼻で笑う。

 直後に軍帽を簡単に整え、荒れ狂う海で腕を組み仁王立ちをした。

 

 そして高らかに謳い始める。

 

「だが今! この戦艦ビスマルク!!! 勝利に導く為ならば天下にこの姿を晒そうが恥もなければ怯みもない!!! 仲間や敵に見られようが大いに結構!! 見て笑え!! 聞いて驚け!!! この鋼鉄の心に一切の揺るぎはない!!!」

 

 他人の目線など気にするな、前を向け。

 

「そんな下らない事で心が揺らぐものならばそれこそ紛うことなき弱者の証明!!! 力を求める者とは常に!! 過去を引き摺らず未来へ前進する戦人であれ!!」

 

 振り向くな、そこに道などない。

 前進する勇気こそ勝利への一歩となるのだ。

 

「それでも尚!! 付き纏う過去の恐怖が巨壁となって行く先を立ち塞がるのならば!! 周りを見ろ!! 立ち向かえ!! 恐怖から勝利を勝ち取って突き破り!! 前進するのよ!!!」

 

 世界や人々を護る為に我々はいる。

 ならば立ち上がるのは我々しかいない。

 

「その意志を人は勇気と呼ぶ!!! ならばこそ私は勇気を出して皆を先導しよう!!! くたばるにはまだ早いぞ艦達(ふねたち)よ!! 勝利を掴みたくば私に!! ついてこい!!!」

 

 

 いざ行かん、鋼鉄の魂で。

 

 

 ビスマルクは鋼鉄の籠手を顔の目の前まで寄せて空気を掴むように握る。

 籠手の隙間から碧色の光が漏れるように放出。

 幾つもの十字光が何度も煌めいて輝きを放っていく。

 碧色の右眼から全身へ光が伝わっていった。

 

 『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級も右足を一歩前に出して両手を少し広げる。

 右足から雷のエネルギーが黒雲へ昇る様に放出されていく。

 戦艦レ級の頭上に尻尾の様な艤装の先端にある怪物の口が咆哮を上げた。

 

 瞬間、二人は急発進急加速。

 降り注ぐ雨粒を風速だけで退けさせ、壁のような水柱を上らせて直進。

 

 拳が衝突する。

 爆発時のような白い衝撃波が辺り一帯に広がった。

 鳴り響く轟音と共に海が大地のように割れる。

 その影響で日向達や戦艦タ級達が一瞬舞い上がった。

 

「この状況はチャンスだ!! 立ち上がるぞ青葉! 暁! 蒼龍! 飛龍! 島風! 勝つ為に身体を動かせ!!」

「了解!!!」

 

 山のような波が周囲に広がっていく中で日向達はもう一度立ち上がる。

 名前を呼び合いそれぞれ集合。

 ビスマルクの元へ援護する為に爆心地へ向かう。

 急いで波を乗り越えた先には爆心地にて激闘中のビスマルクと『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級。その先には戦艦レ級が率いていた深海棲艦の艦隊。

 

 それは見た事の無い大渦だった。

 大渦の中心に二人はいる。

 その先には邪魔しに来るであろう深海棲艦の艦隊。

 日向は先に敵艦隊を壊滅させる為、自ら艦隊に指示を出した。

 

「もう一度あの艦隊と交戦する! 奴らも私達を倒したら『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級の援護に行くはずだ!! この大渦と悪天候の中だがやるしかない!!」

「この大渦の外に出たら波が大き過ぎて危険だ!! 私達はこのままついてきなから島風を守るから……! 頼んだよ!!」

「任せろ!!」

 

 ビスマルクと『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級の上で砲撃戦が行われた。

 中心地にいる二人は依然として攻撃の手を緩めない。

 殴っては砲撃、砲撃を防いでは蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされては殴打を躱して砲撃。

 

「「ッ!!」」

 

 二人は咄嗟に気付く。

 先程の衝撃で持ち上げられた海水が頭上から押し潰すが如く落下してきていた。

 日向達や敵艦隊も攻撃しながら避難していく。

 両者それを確認し、間合いを取って大渦から脱出する。

 

 落下した海波が生きる竜の様に暴れ狂い、無作為に身長の倍はある大波を広がらせていた。

 

「クソッ!! ヤッパリ持ッテヤガッタカ!!」

 

 『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級は海面に後退りながらビスマルクの秘めた力に苛つき始める。

 予想していた最悪の事実を先程の戦闘にて体験した事で想像以上に厄介な存在だと戦艦レ級は思い知らされた。

 よく見ると戦艦レ級の身体には直接殴られた傷痕や蹴られた傷痕などが目立っている。ビスマルクが真の姿を見せてから全く確認出来なかった傷跡が今になって見えた事で初めてダメージを受けたのを日向達は見定めた。

 

「装甲相殺の特殊エネルギー体質を持つとされる【揺光(アルカイド)】欧州水姫の能力!! それはこの左腕にも存在し、貴女達深海棲艦でも同じ効果を発揮する!! 覚悟しなさい『文曲(アストラフィ)』!!!」

 

 『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級が初めて傷を負ったのにはビスマルクの腕と眼に関係している。

 

 ビスマルクは左腕と右眼が欧州水姫の身体の部分となっており、艦娘と深海棲艦が融合したような唯一無二の存在だった。

 そしてそのベースとなった深海棲艦は七壊星【揺光(アルカイド)】欧州水姫。

 

 この欧州水姫には特徴なエネルギー体質で身体に触れた艦娘や深海棲艦の装甲という性質を触れた部分だけを相殺、無力化して身体に直接的なダメージを与える残酷な力を持っているのだ。

 その危険性はどの深海棲艦よりも極めて逸脱しており、深海棲艦でも恐れられ欧米諸国の軍達も欧州水姫の存在が深海棲艦の戦争において一番倒さなければならないと断定している。

 

 だからこそ戦艦レ級はその力を持っている可能性があると考えて危惧して戦っていた。

 しかしそれでもダメージは完璧に防ぎ切る事は出来ない。

 触れただけで部分的に装甲を無力化してしまう能力である以上は、【揺光(アルカイド)】欧州水姫の本来の能力よりは弱体化していても十分凶悪だ。

 

「上等ダァァァァァァ!!!!」

 

文曲(アストラフィ)』戦艦レ級が暴れる波を大跳躍して乗り越える。

 空中に浮遊しながらビスマルクに目掛けて連続砲撃。

 稲妻の砲弾が更なる嵐となって降り注いだ。

 

 ビスマルクはその砲弾の嵐を高速航行しながら尽く回避し続ける。

 山のような波の斜面を駆け昇り、そして戦艦レ級に向かって跳躍。

 鋼鉄の籠手を前に突き出し殴り掛かる。

 すかさず戦艦レ級は防御するも海面まで殴り飛ばされた。

 

 海面に激突するも何の怯みもなく戦艦レ級は水平に高速航行。

 あまりの速さに激突時の水柱が未だに立ち上っている。

 戦艦レ級は高速航行した後にもう一度大跳躍した。

 空中で不安定のビスマルクに目掛けて艤装で殴り掛かる。

 

 ビスマルクは鋼鉄の籠手で戦艦レ級の殴打を防ぐ。

 それを瞬時に見た戦艦レ級は艤装の先端の口で籠手を噛んで掴む。

 そして身体を空中で回転させ、遠心力と共にビスマルクを投げ飛ばした。

 

 ビスマルクは投げ飛ばされながらも体勢を即座に整え、海面に着水するまでに連続砲撃。

 海面に落ちゆく戦艦レ級も照準をビスマルクに定めて砲撃する。

 空中にて砲弾が何度も衝突して炸裂。

 爆煙は衝突する度に広がっていく。

 その爆煙の中を掻い潜って戦艦レ級の砲弾がビスマルクに直撃する。

 

「命中精度ハ下ガッテイルゾビスマルク!! ヤハリソノ眼ト腕ノエネルギー消費ガ激シ過ギタカ!!」

「それまでにアナタを倒せれば充分よ!!!」

「フハハハハヤッテミロ!! コチラモ手ヲ出スマデダァ!!!」

 

文曲(アストラフィ)』戦艦レ級は海面に着水し、稲妻を纏った右拳で水面を殴る。

 するとビスマルクの周辺で突然水柱が前後左右に方向性を保って立ち上った。

 水柱が立ち上った順と位置から連続して落雷が発生。

 不規則な落雷の連続にビスマルクは驚きの声を上げる。

 

「まさか魚雷にも!!」

「ゴ名答ダ!! 私ノ魚雷ハ特別製ダカラナ!! モウ既ニッッ!! オ前ハ私ノ術中ニ嵌ッテルンダヨ!! コノマヌケガァァ~!!!」

 

 ビスマルクの足元で大きな水柱が立ち上り、そして落雷。

 魚雷のダメージと共にまた雷を直で受けてしまった。

 ビスマルクは全身に突き刺さる痛みを噛み締めながら戦艦レ級から目を離さない。

 

 戦艦レ級がビスマルクを投げ飛ばした方向は既に魚雷の進行方向だった。

 跳躍して砲撃する前に魚雷を発射させ、タイミングを見計らってビスマルクをその方向と位置まで投げ飛ばしていたのだ。

 更には魚雷に仕組まれた起爆操作と落雷を誘う力。好きなタイミングで魚雷を起爆させ、爆発時に展開する小型誘雷針を発動して落雷を誘う事ができる。

 

「ぐっ……!!」

「二度モ落雷ヲ受ケレバ流石ニ艦娘ダロウト只デハ済マナイ!! オ前ノ身体ハ既ニ限界ヲ超エテイル!!!」

 

 二度の落雷を直で受けたビスマルクの身体は悲鳴を上げていた。

 意識は朦朧として視界も霞んでしまっており、膝をつかなければまともに立てないほど四肢の震えは止まらずにいる。

 先程の魚雷と共に食らった落雷でさえも一瞬何回か意識を失いかけていた。

 更には外部熱傷や内蔵の熱傷によって動くだけでも外側と内側の両方から激痛が迸っていた。それでもビスマルクは弱音を吐く事無く素早く駆ける『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級から目を離さない。微かに視界に映る碧色の稲妻を見放さず、不屈の闘志でビスマルクは立ち上がろうとする。

 

「終ワリダ! ビスマルク!!! コレデトドメダァァ!!!」

 

文曲(アストラフィ)』戦艦レ級はビスマルクの方へ一気に接近。

 碧色の稲妻が一閃となって無数にある壁のような波を無理矢理突き抜けていく。

 あまりの速さに衝撃波で海水が消し飛ばされた。

 身体を回転させ、左拳と共に尻尾の様な艤装で殴り掛かる。

 

 膝を着くビスマルクの目の前に尻尾の様な艤装が現れる。

 殴り潰されるかに思えたその時だった。

 

「っ!!!」

 

 ビスマルクは突然顔を上げて立ち上がり、咆哮を上げて尻尾の様な艤装を右手で往なしていく。

 往なした直後に右手裏で尻尾の様な艤装を引き摺らせ、火花を散らしていった。

 そして殴り掛かってきた左拳を避けてビスマルクの右手は戦艦レ級の首を見事に掴む。

 予想外の行動に戦艦レ級は驚きの声を上げた。

 

「何ッ!!?」

 

 先程の一連の行動で起きた時間は約三秒。

 首を掴まれた事でビスマルクの背後では衝撃波によって水柱が立ち上る。

 揺れた振り子の様に戦艦レ級はぶら下がり、思わず首を掴まれた右腕を掴んだ。

 

「これを……! 待ってたのよ!!」

 

 ビスマルクはあからさまに嬉しそうな表情で高らかに声を上げる。視界が霞んでいるのならば掴んで攻撃すればいいというビスマルクなりの考えでわざと待っていたのだ。

 

「ッ!!!」

 

 それを考えた『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級は次の一手が何なのかを察知して急に青ざめる。

 ビスマルクの後方には装甲という性質を無視する防御不可の純粋な力を放つ鋼鉄の籠手が拳となって握られ待ち構えていた。

 装甲という性質によって深海棲艦や艦娘の並外れた力はほぼほぼ防げるが、その装甲が無視されるのなら最悪の可能性がある。装甲が無ければ近接攻撃一つで腕や足などは簡単に吹っ飛ぶ上、砲撃などまともに食らえば生きているかどうか分からない。

 

 耐久という性質はあくまで身体の再生能力だけであり、単純に身体が硬い訳ではなく生身の人間と何ら変わりはない。今まで傷がある程度まで抑えられていたのはあくまで防御した際に殴打の威力を最低限に受け流して抑えていただけだった。

 つまりこのまま装甲無視の鋼鉄の籠手とビスマルクの並外れた力、そして防御が簡単に出来ないこの状況で殴られるのならば、本当に一発で仕留められる可能性があるのだ。

 

「食らいなさい!!! 私の一撃をッッ!!!」

 

 ビスマルクの左腕にある鋼鉄の籠手が碧色の光をロケットエンジンの様に放出させ、周囲に飛び散る十字光を(きら)めかせる。

 

「最大出力!! 誘雷展開!! 体内放電!!! 全テヲ()キ尽クセェェェェェェ!!!!」

 

文曲(アストラフィ)』戦艦レ級は考える暇もなく自身が避雷針となって落雷を誘導する誘雷展開と体内に蓄積された電力を触れた相手へ一気に放電する体内放電を掛け合わせた。

 

 

 が──、

 

 

「グワハッッッ!!!!」

 

 放電する前にビスマルクが鋼鉄の籠手で『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級の腹を殴打。

 無意識に防御しようとしていた右腕ごと潰され、一瞬腹がクレーターのように凹む。

 下腹部から込み上げる熱さと痛みが戦艦レ級を襲った。

 初めて頬を膨らませるほどの量で吐血し、呼吸が全くまともに出来なくなる。

 

「ッッ!!!」

 

 戦艦レ級は苦し紛れにも体外放電を開始。

 掴まれた右手から全身へ雷と同等のエネルギーを持つ電流が流れ込んだ。

 ビスマルクは歯を噛み締め怯み声を上げるも、決して右手を離そうとはしない。

 

「っ……!! これで……! 終わらせるッッ!!!」

 

 落雷まであと数秒。

 意識を失うまでの刹那。

 ビスマルクは体外放電で悶えるも、もう一度鋼鉄の籠手を握る。

 左腕を大きく後方へ引き、一気に前方へ突き出した。

 

 

 そして鋼鉄の拳は戦艦レ級の右頬へ──、

 

 

 

 

 直撃。

 

 

 装甲を無視された戦艦レ級の頭は歪み、そのまま海面に勢いよく叩き殴られた。

 それと同時に誘雷展開によって誘われた巨大な落雷がビスマルクに直撃する。

 ダブルカウンター、互いに渾身を込めた一撃が炸裂。

 同時攻撃によって間欠泉の様な水柱が立ち上り、衝撃波によって雨や風が押し退けられた。

 

「ビスマルク!!!」

「『文曲(アストラフィ)』様!!!」

 

 戦闘中だった戦艦タ級達と日向達が水柱と衝撃波に気付き、無事を確認する為に互いに名前を叫ぶ。

 腕や艤装で衝撃波による風圧を防ぎ、荒れ狂う波の上で体勢を保ちつつビスマルクと戦艦レ級の方向を見続けた。水柱の周辺では碧色の十字光と碧色の稲妻が空中を漂っており、白く泡を立てる水柱が収まっていくと徐々に消えていく。

 するとその水柱の中心で二人の姿が見えてきた。

 影となって現れた戦艦レ級とビスマルクは両方とも海面にうつ伏せになって倒れている。互いの渾身の一撃を食らって共倒れしたのだろうか。名前を呼んでも互いに立ち上がる気すらない。

 

「ヤ、ヤッテ……クレタナ……!! ビスマルク……!」

「うぐッ……!!!」

 

 数秒かして『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級とビスマルクは腕を動かして立ち上がろうとする。呼吸が凄まじく荒れながら口から大量に血を吐き、殴られた右頬と右頭部の半分が歪んでいる戦艦レ級は尻尾の様な艤装で身体を支えた。

 身体中全体を蝕む様な痺れに抗いながら鋼鉄の籠手で起き上がらせようとするも殆ど力は残っておらず、ビスマルクは碧色の眼で戦艦レ級を睨み海面に這いつくばる事しか出来なかった。

 

「流石ダヨ……コノ私ヲ、ココマデ……追イ込ムトハ……!! 賞賛ニ……値スルヨ……!」

 

 尻尾の様な艤装で身体を支えた『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級は仰け反った状態で息を荒れさせながらビスマルクを賞賛する。七壞星の名だたる一角を無名の艦娘が瀕死にまで追い詰めたのは数少ないとビスマルクの実力を認めた。

 半ば【揺光(アルカイド)】欧州水姫の力があったとはいえ、その前の戦闘でも充分な程に『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級を追い詰められる程の実力は備わっていた。

 ビスマルクの以外の日向達も経験不足とはいえ七壊星相手に即座に行動出来る能力は素晴らしい。

 久しぶりに手に汗握る死闘を繰り広げられたと戦艦レ級はニヤリと笑った。

 

「ダガ私ハ……マダ、生キテイル!! 何秒カ意識ヲ……失ッタガ……耐久サエアレバ……修復可能ダ……!」

 

 ビスマルクの渾身の一撃によって歪んでいた右頬と右頭部が電気を帯びて修復されていく。

 衝撃で右肩と首がボロボロに離れていようが骨から筋肉、そして皮膚から装甲へと生々しく結合していった。潰された右眼も再生能力によって徐々に修復され、碧眼となって轟く様に稲妻のエネルギーが溢れ出る。

 仰け反った身体をのめるように起こさせて必死に立ち上がろうとするビスマルクを視界に収めようと顔を上げた。

 

「落雷ダケデハ……行動不能ニサセテモ、直接艦娘ヲ沈メル事ハ……出来ナイ……ワザワザ手ヲ下ス必要ガアルノハ……面倒ダナ……!」

 

 流石にビスマルクのダメージが大き過ぎたのか速く動く事は出来ていなかった。修復優先で動いているのか帯電で警戒しつつ左手で修復中の右腕を抑え、ゆっくりとビスマルクに近付こうとする。

 ビスマルクの目の前まで接近した『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級は尻尾の様な艤装を唸り立たせ、全砲口をビスマルクに向けた。

 回避しようと身体を動かすも最早既に限界に到達していたビスマルク。身体は言う事を聞かず、腕で支えて起こそうとしても他の三肢は動く気配すらない。

 

「実ニ見事ダッタ……ビスマルク。オ前ダケハ記憶ニ覚エテオクヨ……」

 

 ビスマルクに向けられた全砲口から碧色の稲妻が光り輝く。徐々にエネルギーが蓄積されていくようなチャージ音がテンポを速めて加速していった。先端の口の様な艤装から碧色の光に晒されビスマルクの姿が見えなくなる。

 

「ジャア……マタ──」「させるかぁぁぁぁぁ!!!!!

 

 砲撃する直前に『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級は右頭を蹴り飛ばされる。

 海面に転倒しながらも即座に体勢を整えて立ち上がった。

 修復中の右頭部がまた複雑に歪み、戦艦レ級は怒りを露わにする。

 

「今更何ノ用ダ……!!」

 

 『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級の砲撃を邪魔した艦娘はビスマルクを護るようにして立ち構えていた。

 

「島風ッッ!!!」

 

 

 

 『(オウゲン)』叢雲の到着まで、あと二十五分――。

 

 

 

 

 

 




次週投稿お休みするかもしれませぬ。
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