うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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タイトルはただの当て字です。


169. 目覚めよ威禍津神、刹那は遅く

「島風!!!」

 

 極限にまで荒れた嵐の真下で黒く澱んだ海に浮かぶ艦達は声を上げた。

 その声を搔き消すかの様に降り注ぐ雷が轟き、暴れる荒波は壁のように迫り来る。

 日向達は『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級の艦隊と戦闘中、『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級は島風との一騎打ちで勝利を掴み取っていた。

 

「オ前ラヲ(マモ)ロウトシテイタ島風ハ死ンダ……後ハオ前ラダケ、ビスマルクモホボ無力化トナレバ後ハ容易イ……!」

 

 戦闘レ級の足元には白目を向いて仰向けに倒れた島風がおり、心肺停止状態になったのを確認した戦闘レ級は一歩ずつ日向達に近づいていく。

 流石の『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級もダメージは激しかったのかすぐに速く動ける様子ではなかった。

 ゆっくりと接近していく戦闘レ級に日向達は再度身構える。

 

「シカシ時間ハ有限ダ……一気ニ息ノ根ヲ止メサセテモラウ……」

「っ……! そう易々とくたばってたまるか……! 何がなんでも足掻いてやるぞ……!!」

「フッ、口デ言ウノハ簡単ダ……見ルカラ大破状態ノオ前ラニ、一体何ガ出来ル……仮ニ足掻ケタトシテモ精々十秒程度ダ……」

 

 現状艦隊の状況は絶望的で日向は大破状態、青葉は中破状態、暁は中破状態、飛龍は大破状態、蒼龍は小破状態と深海棲艦や七壞星と戦うには不利すぎる状況だった。

 残り弾薬はあと僅か、帰還用の燃料も消費して艤装もボロボロで黒煙を吐いている。

 日向の言葉は単なる痩せ我慢に過ぎず、『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級はそれを見抜いていた。

 

「息スル間モナク今スグ島風ノ元ヘ送ッテ──ッ!!?

 

文曲(アストラフィ)』戦艦レ級が背後に異変を感じた瞬間だった。

 

 突然戦艦レ級は謎の衝撃波で吹き飛ばされていたのだ。

 

 その衝撃波は一瞬にして周囲に広がり、風や雨を退けていた。

 

文曲(アストラフィ)』戦艦レ級の元へ引き連れていた深海棲艦の艦隊が駆け寄る。

 戦闘レ級は受け身を取って着水した後に衝撃波の中心地を睨んだ。

 

「一体何ガ……!!?」

 

 その有り得ない光景に皆が度肝を抜かれる。

 衝撃波の中心地には死んだはずの島風が煌めく光を放って座り構えていた。

 

 

 その煌めく光はまるで生き物のようで、何度も島風の身体から放出されては収束して吸収されていく。

 

 それは無数の光の鎗となって吸収され、

 次に丸い光の玉となって放出され、

 光の玉は稲妻に変形して吸収されていった。

 

 その煌めく光の集合体が吸収されていく度に荒れる海は地震のように揺れ、怯えるが如く騒ぎ立てていく。

 

 そして煌めく光の集合体は纏まりがついたのかもう一度衝撃波を周囲に放った。

 

 

(何カガ……目覚メヤガッタ……!!)

 

 

 空気が揺れる。

 

 

 音が震えた。

 

 

 島風は煌めく光を纏いながら徐々に身体を起こそうとする。

 その最中では島風の周囲にある光の柱が何度も天へ昇っていた。

 煌めく光の柱は突如現れては徐々に細くなって消えていき、島風の元へ吸収されていく。

 島風の持つ膨大なエネルギーを具現化しているようだった。

 

「映すは光、写るは(いかずち)

「マサカ、()()!!」

「闇をも駆け穿つ……! 電光石火の霆撃(ていげき)を……!! 受けてみろッッ!!!

 

 更に煌めく光の柱は数を増していく。

 森のように立ち昇る光の柱は収束し、巨大な光の柱となって島風の足元で輝きを放った。

 その姿を見て『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級は全身から危険信号が敏感になって反応しているのに気付き、目を限界にまで開いて驚愕する。

 

「島風型駆逐艦一番艦島風ッッ!!! 参るッッ!!!」

 

文曲(アストラフィ)』戦艦レ級は即座に一斉砲撃。

 放たれた碧色の光線は当たるかと思いきや何故か島風をすり抜けた。

 直後、島風の姿が残像となり、水飛沫が遅れて空中を舞う。

 

 突如水の壁が戦闘レ級達を囲った。

 いや水の壁ではなく、正確には島風が通り過ぎた後の立ち上った水柱だった。

 

 しかしそれに気付くには遅く、一瞬にして戦闘レ級の頬に島風の突き蹴りが直撃。

 蹴った直後に島風は直角に何度も方向転換し戦闘レ級に攻撃する。

 周囲の深海棲艦も足場にしては攻撃し、中心にいる戦闘レ級をすれ違いざまに蹴撃。

 

 何度も蹴撃、蹴撃、蹴撃、蹴撃、蹴撃、蹴撃。

 

 あまりの速さに戦闘レ級達は反応出来ず為す術が無かった。

 

「ッ!! フザケ──」

 

 今度は天高く蹴り上げられる。

 すかさず島風は海面を蹴って一気に急上昇。

 蹴り上げられた『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級と深海棲艦を追うように天へ昇る。

 

 周囲にいた深海棲艦達は既に空へ舞っていた。

 

 軽巡ヘ級を足場に、重巡リ級を足場に、戦艦ル級を足場に、戦艦タ級を足場に。

 

 光は螺旋を描いて屈折し、黒雲を穿つが如く向う。

 

 一番上にいた戦艦タ級を足場に真下へ急速落下。

 

 

 落下する方向には『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級が──、

 

 

「ッ──」

 

 

 

 

 一気に『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級を真下の海面へ蹴り飛ばした。

 

 

 轟く稲妻を背に光を纏う島風は蹴った姿勢で空中に舞う。

 空気を突き破ったような衝撃波が何数にも広がって暴風雨を斬り裂いた。

 足場にされた戦闘ル級達は既に海面へ蹴り飛ばされ、大きな水柱が立っている。

 

 

 その間僅か四秒。

 

 

 何十数もの攻撃が直撃して光は線となって屈折し、ジグザグに描かれていく様はまるで()()()()穿()()()のようだった。

 

 

 

 一瞬にして描かれたその光景を見て日向達は数秒遅れて島風の圧倒的な戦闘能力を思い知る。

文曲(アストラフィ)』戦艦レ級でさえも反応出来ない速度で素早く駆け抜け、瞬く間で織り成す怒濤の連続蹴撃。

 そこに一片のミスなど存在せず、全ての攻撃が会心の一撃であり、急所や弱点を的確に狙っていた。

 

「……っ! 今すぐ島風の元へ行くぞ!」

 

 纏っていた光を失って海面に落下していくの島風を見た日向は我に返って急いで落下地点まで向かう。青葉や暁達も日向の声に目覚めてすぐさま航行姿勢に入った。

 

「っっ……よしっと……!」

 

 落ちていく島風を日向がクッションとなってキャッチし、尻餅をつきながらも無事に抱きかかえる。島風は眠ったように目を閉じて意識を失っており、あの時の力を使い果たしたのか身体に力は全く無かった。

 

 それを確認した日向達はホッと安堵の息を漏らして胸を撫で下ろす。

 次第に嵐も力を弱めていき、巨大な積乱雲と晴間の境目まで到達していた。

 海面では太陽の光によって作られた境界線がグラデーションとなって彩られ、黒く澱んでいた海も青色を取り戻していく。

 

「凄いんだな……島風……」

「凄いよホントに……ん? あっ! 通信機能が回復してる!」

 

 『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級が放っていた電磁パルス攻撃が解除され、鎮守府との通信機能は回復。

 気付けば無線から提督の怒濤の呼び掛けが鳴り響いていた。

 

『やっと繋がったか! おい、どうなってる!! 応答しろ!』

「すまない提督……『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級が放った電磁パルスのような攻撃をされて通信が出来なかった」

「現在艦隊は七名全員生存しています。日向さんと飛龍さんが大破、私と暁さんが中破、蒼龍さんが小破でビスマルクさんと島風さんがそれぞれ大破状態、意識を失っていますが一命は取り留めてます」

『電磁パルス? あ~……とりあえず把握した。今ビスマルクと『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級はどうなってるんだ?』

 

 電磁パルスが放たれた時はビスマルクが落雷を受けた直後だった為、鎮守府にいる提督はその後の戦況を全く知らない。死闘とも思える支援なき七壊星との戦闘で翻弄して翻弄され、ビスマルクや島風が死力を尽くして戦った。

 情報量の多さに説明するには時間が足らず、青葉はどう簡潔に説明しようか悩み始める。

 

「それなんですが……ビスマルクさんと島風さんの戦闘によって瀕死状態に近くなってます。詳細は話したいのですが時間は……」

『いや詳細は後でいい。瀕死状態か、お前らの残り弾薬はいくつだ?』

「後四、五回程度かと」

『出来ればトドメを刺した方がいいが……今は帰還が優先だな。艤装に問題があって出来なかったらしなくていい、そのままその海域から逃げるんだ。後は『(オウゲン)』が来ればいいからな。燃料も少ないだろうから護衛艦隊と共に補給艦隊を向かわせた。合流したら連絡しろ』

 

 七壞星『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級と接敵して約十五分が経過していた。

 ビスマルク達との距離まで約十五分で到着予定だったはずの『曮《オウゲン》』叢雲は戦闘レ級の策略により、四十分までと大幅に支援までの時間を稼がれている。

 このまま『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級にトドメを刺しても構わなかったが戦闘直後の艤装は激しく損壊しており、尚且つ長く留まれば深海棲艦の敵支援艦隊が到着する恐れがある為にあくまでも逃げる方を優先して指示を与えた。後に『(オウゲン)』叢雲が一人でやってくれると予見しての指示だった。

 日向達は素直に提督の指示に従い、ビスマルクと島風を抱えて海域から脱出しようと航行する。

 

「コ、コ……コノッ、ガハッ……!」

「っ!!?」

 

 忌まわしき声の方向へ日向達は警戒して振り向く。

 声の主は『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級。海面にうつ伏せで倒れており、目を覚ましたのか身体を起き上がらせようとしていた。

 しかし島風の渾身の攻撃が効いたのか大分弱っている。

 左腕はあらぬ方向に折れ曲がっており、全身には無数の打撲跡。

 艤装の砲塔は大破状態で口から大量の血を吐いて悶絶としていた。

 

「コノ、コ……コノッ私ガ……!! オ前ナンカニ……!!」

 

 立ち上がる力すら無いのか片腕では身体は持ち上がらず、『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級は海面を這いつくばう。艦隊の仲間は起き上がる様子もなく寧ろ海へ徐々に沈んでいき、嵐も見捨てるかのように過ぎ去っていく。島風に反応出来ない速度で息する間もなく蹂躙されたのが悔しくて堪らず、戦闘レ級は歯を食いしばって目から涙を浮かべた。

 

「ヤット超エタノニ……! ヤラレル訳ガ……! ナインダッ……! ヤラレル……訳ガ……!!!」

 

 『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級は支えていた片腕を島風のいる方向まで伸ばす。

 尻尾の様な艤装でゆっくりと身体を支え、攻撃を受けて震えた両足を海面に立たせた。

 生まれたての子鹿のように弱々しくなっても、絶対に島風を倒すという執念たる意志は青葉や飛龍を圧倒させた。

 

「敵ながら……流石ですね……あれだけ攻撃を受けといてまだ……生きてるだなんて……」

「大した生命力と執念だね……耐久が異常な程あるんだろうな……きっと……」

「うつつを抜かしてる暇はない……このままだとまた追いつかれそうだ。早くトドメを刺した方がいいな……蒼龍、そろそろ飛ばせるだろう? 頼めるか」

「うん……分かった」

 

 辛うじて小破状態で飛行甲板が無事だった蒼龍は念の為に用意していた艦上戦闘機の攻撃隊を発艦させる。日向は提督にトドメを刺す方向で連絡し、理由を話して攻撃許可を貰った。

 重低するエンジン音を響かせ、攻撃隊は列を為して『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級へ直行する。

 それを見た戦艦レ級は碧眼から稲妻を迸らせ、威嚇する様に攻撃隊と日向達に吠えた。

 

「私ハァァ……!! 私ハオ前ヨリ速イハズナンダァァァ……!!!」

「『文曲(アストラフィ)』様……!」

「ッ!? ■■(タ級)!!!」

「逃ゲ……テ……」

 

 偶然近くにいた轟沈寸前の戦艦タ級が海面を這いつくばって手を伸ばし、『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級でも逃げる様に掠れた声で伝える。

 それを見て動揺しながら目が泳いだ戦艦レ級は昔の事を突然と思い出し、閉じ込めていたはずの記憶が鮮明に頭の中で流れていき、その度に呼吸が徐々に荒れていった。

 数秒後にして戦艦レ級はハッと我に返り、日向達の方へ視線を向けて睨む。

 

「ヨクモ……仲間ヲッ……!!! ッ……オ前ラヲ倒スマデハ絶対ニ……!! 死ンデタマルカァァ──」「待たせたわね」

 

文曲(アストラフィ)』戦艦レ級の右腕を金色の一閃が貫く。

 金色の一閃は戦闘レ級の背後で海面に着水。

 大きな水柱が立ち上り、貫かれてもがれた右腕が空中に舞う。

 

 戦闘レ級の瞳に映るは金色の十字光。

 闇をも照らす太陽の様に輝きを放つ姿は戦艦レ級にとって絶望の鐘を鳴らした。

 

「叢雲……!」

 

 護神厄討艦隊旗艦『曮《オウゲン》』叢雲。

 現日本海軍最強の艦娘の一人として敵味方ともにその名を馳せた特型駆逐艦だ。

 金色の十字光は永遠に輝きを保ち続け、黄金の眼に一度でも写れば最後。手に持つ金色の鎗は深海棲艦や艦娘のありとあらゆる装甲や身体を破壊して穿ち、艤装の砲台から放たれる金色の一閃は触れただけでも融解してしまう程の威力だ。

 

「随分と面倒な事してくれたわね……『文曲(アストラフィ)』……戦艦レ級……」

 

 『(オウゲン)』叢雲は金色の鎗を『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級に突きつけ、殺意を溢れさせて睨み付けた。

 いわゆる廃棄物との戦闘後の影響か、身体の至る所に煤のような跡や掠り傷があり、返り血のような赤い液体が付着している。援護の為にかなり急いでいた様子で額の汗を拭いながらも呼吸が荒れていた。

 叢雲は周辺を見渡しながら状況を把握していく。

 ビスマルクと島風が意識不明で日向達に抱えられ、『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級と深海棲艦の艦隊はほぼ瀕死状態。

 叢雲は一旦視界に映った情報を整理し、今やるべき事だけを考えて口を開いた。

 

「……何があったのかは後で教えてもらうとして、弱ってるのなら都合がいいわ。出会った所悪いけど……トドメを刺させてもらうわよ」

 

 金色の鎗を構えた姿勢で『(オウゲン)』叢雲は討伐宣告を言い渡す。

 右腕をもぎ取られて悶絶する『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級は一気に窮地に立たされた。

 このままでは確実に倒されてしまうと悟ったのか一歩ずつ退いていく。かといってこのまま撤退すれば七壊星としての傷がつく他、仲間を倒され自身のプライドにも傷つけれた以上は引くに引けなかった。

 叢雲から放たれる金色の十字光が逆光となり、姿がシルエットに映し出される。

 

 戦艦レ級は歯を食いしばって悩み続け、選んだのは──、

 

「ッ……チッ!!!」

 

 撤退という苦渋の決断だった。

 近くにいた戦艦タ級を尻尾の様な艤装にある口で掴んで回収し、海域から撤退していく。他の深海棲艦達は殆ど沈みかけていた為、回収する時間も無かった戦艦レ級は目を瞑って苦難の表情を浮かべた。

 

「ッ!! 誰がそう簡単に逃がすもんですか……!!」

 

 撤退していく『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級の姿を見て『(オウゲン)』叢雲は激昴する。

 散々島風や日向達を痛めつけといて逃げるなどと冗談にも程があると殺意を溢れさせた。

 

 

 

 しかしその時──、

 

 

 

「絶対に……! 倒してや──ッ!!?」

 

 追い掛けようと身体を動かした途端に『(オウゲン)』叢雲は突然引き止まる。

 何かを感じ取ったのか焦った様子で金色の目を揺れさせ、身体が岩のように固まっていた。

 

「っ……」

 

(オウゲン)』叢雲が感じ取ったのは身を震わせられる程の純粋な憎悪と殺意。

 それは水平線の遥か先から放たれており、姿は見えずとも常人なら失神しかねない気迫が叢雲の肌をピリピリとさせていた。

 まるで空から常に見下されているような、撃たれた弾丸や爆弾が周囲三百六十度を囲っている感覚。

 

 叢雲はその瞬間に憎悪と殺意を放つ存在を垣間見た。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 それは白い彼岸花。

 

 

 悪魔の顔を浮かべて此方を睨む。

 

 

 憎悪を纏う鋭い眼で、殺意を溢れさせた両腕を広げ、憤怒の如く髪を逆立てさせる。

 

 

 禍々しい気が辺り一帯を覆って──、

 

 

 

「……チッ! こちらも撤退よ! 早く急いで!!」

「え? わ、分かった!!」

 

 追い討ちを中止して『(オウゲン)』叢雲は日向達に撤退を促した。

 身体から放たれる金色の十字光を抑えて艦隊の状況を把握し、自ら旗艦となって日向達を先導していく。

 激戦海域だった巨大な積乱雲による暴虐の嵐の下にある海域から離れていく様を日向達は後ろを振り向きながら撤退していった。微かに遠くで碧色の稲妻が見えるが恐らくあれは『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級の痕跡なのだろう。

 だがそれよりも日向達の視線を奪っていたのは巨大な積乱雲。

 通る前に見た壁のような積乱雲とは全く違って、空を覆う鉄床雲へと渦を巻いて成長し、黒く禍々しい光や周辺の雲を巻き込んでいた。

 

「生きてるんだな……私達は……」

「はい……そうですね……」

 

 七壞星『文曲(アストラフィ)』戦艦レ級との戦闘を終えて日向達はあの鉄床雲を見て初めて自分が今生きているという実感を改めて感じた。

 たった一人で国を滅ぼしかねないとされる深海棲艦の中でもトップクラスの化け物を相手に生還したのは称えられるべき事だろう。

 暴虐の嵐の中心で死闘を繰り広げたビスマルクや島風に対して感謝の気持ちで一杯だった。

 それと同時に戦果を残せずに何も出来なかった自分を悔やむようになる。もっと強くならなければならないと心の底から考えた。

 

「……何か感じたよね」

「うん……感じた。まさかとは思うけど……何か……いたの……?」

 

 『(オウゲン)』叢雲と同じく蒼龍と飛龍はあの時僅かに遥か彼方から放たれた殺気と憎悪を感じ取っていた。

 叢雲ほどまでに身体を立ち止まらせるほど敏感に感じてはいなかったようで、ただその先に何かがいるという正体不明の不安感を蒼龍と飛龍は持っていた。

 

「……えぇそうね」

 

 何かいたのかと聞かれた『(オウゲン)』叢雲は背後へ振り向かずに返事をする。

 余程の事なのか表情を見えずとも少し躊躇っているようにも思えた。

 

()()と戦うには……今の状況じゃ……絶対に勝てない」

 

 

 

 

 白い彼岸花は、風に揺られて。

 

 

 

 

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