171. 山登りをする時は事前の準備を怠るな
『はい! 私達艦娘は日本という国と国民の皆さんを護る為、日夜領海内をパトロールし、領海内に侵入する深海棲艦や海外諸国の艦娘又は艦船に対して最大限の警戒を強く行っています』
偵察作戦が終了して三日が経過し、ビスマルクと島風が仮の病室で治療中の夜十八時。
着実に時が差し迫ってくる中でテレビでは軍の特集番組が放送されていた。
ここ最近で提督や潮岬町鎮守府の艦娘達による目立った行動が多過ぎたのかイメージアップを図る為か最低限に公開できる範囲で色々と紹介している。
執務を終えた提督と摩耶、休日中の灰色と共についてきた時雨は夕飯の時間まで食堂のでテレビ番組を見ていた。
「艦娘の特集番組やってますけど、吹雪さんが案内役だとイメージアップに良さそうですね。健気というか、穏やかというか、とても良い子に見えます」
「深海棲艦が攻めてきた時に突如現れた艦娘の中でも一番最初に現れたのが吹雪、曙、電、叢雲、五月雨だからね。現在でも日本海軍の代表的な艦娘且つ一番有名な艦娘だよ」
番組では案内役の
灰色の秘書艦である時雨が説明したように艦娘の中でも他の四人を差し置いて特に認知度が高いのは吹雪であり、真面目で健気な性格からか日本海軍の顔として広報に抜擢される事が多い。
「私も軍に入る前は誰もが知っていたな~テレビの前でも堂々と日本を守ると言える意思は素晴らしいですね」
「ふ~ん」
「どうしました?」
テレビ番組を見て世間話を語る灰色と時雨を提督はコーヒーカップを手にして馬鹿にするかのように鼻で笑った。
何かおかしい事でも言ったのかと灰色は提督の機嫌を伺う。珈琲を一飲みした提督は椅子にもたれかかって口を開いた。
「日本を守る為という御託を並べても所詮は兵器だ、感情を併せ持った兵器なんて二通りだろう。モノ扱いされているとも知らずに無能な人間の命令を聞くだけの忠実な操り人形か、己の欲を満たす為だけに命令を無視して突っ込むバグだらけの欠陥品か、さてあの案内役の艦娘は一体どっちなんだろうなぁ」
テレビ番組に出ている吹雪を見て提督は誰かであるのを察したのか面白おかしく観ていた。所詮は感情を併せ持った兵器だと見下すような言い方で先程の吹雪な言っていた国を護る為という言葉を否定する。
「どちらでもないと思いますよ」
灰色はそんな事ないと速攻で否定した。
しかし提督は聞く耳を持たずにペラペラと語り出す。
「数年後には人と兵器の禁断の恋とかを美談のように語り出すか、見た目がいいからと言って性欲モンスター共の慰めものとか使われるだろうなぁ、あぁ全くもって反吐が出る」
「すいません摩耶さん! この人子供の時からこうなんですか!!?」
「いやあたし知らないし……」
あまりの提督の捻くれさに参った灰色は提督の隣にいた摩耶に訴えるように問い掛ける。この捻くれた性格は子供の時からそうなのかと嘆いたが摩耶は知らないと否定した。数秒後冷静になった灰色は確かに摩耶が知るはずもないと自問自答する。
「こんだけ捻くれてても無垢なる少年時代ぐらいはあったんじゃな~い? 一応は人なんだし」
提督の隣の座席では叢雲がスマホをいじりながら背を預けて座っていた。先程の会話を聞いていたのか提督にも少なからずあったのではないかと半分呆れ顔で話し掛ける。
「少なくともお前らよりはまだマシな人間だと思ってるがね」
「へぇ~よく言えた口ね~、敵だったらぶっ飛ばしてたわ~」
提督は自身が周辺の艦娘よりは人だと戯言を吐いて見下していく。
『
「っていうか何で叢雲はここにいるんだ? 訓練はどうした」
「貴女と同じく私の時間はもう終わったからここで大人しく夕飯待機中。別にここにいたっていいでしょ?」
訓練をちょうど夜十八時に終わらせたかった『
二階の席に座っていた提督は一階で谷風と話している至る所に包帯を巻かれた浦風を見下ろしながら、隣の席にいる掠り傷が幾つかある程度の叢雲と比較して頬を引き攣る。
『鎮守府は日本領海内を守る為に各県に設置されています。有名な場所で言いますとこの横須賀鎮守府、京都府の舞鶴鎮守府、広島県の呉鎮守府、長崎県の佐世保鎮守府、その他にもその鎮守府に属する地方鎮守府があります』
「そういえば興味半分で聞きますけど、白さんの出身地ってどこなんですか?」
「何故お前に他人の個人情報をベラベラと話さなければならない。一度ありったけのダンベルを頭に付けながら【魔の山】と恐れられたマッターホルンでも登頂してくるといい、その軽率な頭も少しはマシになるだろう」
鎮守府の事について話している案内役の吹雪を見て、ふと灰色は提督の出身地について気になったのか聞き出した。
自身の生まれた地など教える訳がないと提督は灰色を嘲笑いながら罵倒していく。
「確か■――」「おいコラ摩耶ァ!! 何話してんだ!!」
しかし隣に座って夕飯を食べていた摩耶が他人事のような顔でボソッと提督の出身地を言い晒した。意地を張った提督と摩耶が取っ組み合いになり、口喧嘩となって突然と食堂内が騒がしくなる。
「うるさいわね!! 黙ってなさい!!!」
数十秒後にイライラが募った叢雲が怒号を放ち、金色の鎗で二人の頭を叩いて喧嘩は強制終了。無言のまま床に倒れる二人の頭にはボール状のたんこぶが出来上がり、若干白い煙を放っていた。
「あ~……そうだ……悪いが灰」
「な、何ですか……?」
「明日の休みは無しにしてもらいたい」
「えぇ!!? 今それこの状況で言う事ですかぁ!!?」
床に倒れたまま顔を振り向かせた提督は何かを思い出したのか突然灰色の休日取り消しを告げた。予想だにしない状況と展開に灰色は思わずツッコミを入れてしまう。
提督は何事も無かったかのように忽然と立ち上がり、元の座席に座って内ポケットから予定表を取り出した。
「と、突然ですね……何かあったんですか?」
「まぁ~少しこちらの予定が重なり過ぎた。本来は俺が行くはずだったが緊急の予定が入ってだな、お前には佐世保鎮守府の方に行ってそこの責任者と少し打合せをしてもらいたい。なぁに簡単なお仕事だ、資材関係の話をすればいい」
提督は予定表を確認しながら灰色と話しつつ、予定表の最後にあるメモ帳を一枚破って灰色に投げ渡した。
慌てて灰色は一枚のメモを手に取り、大雑把に書かれた内容を目に通していく。
提督曰く、本来は明日佐世保鎮守府へ訪問する予定だったはずが緊急の予定が入ってしまい、佐世保鎮守府の件も捨てがたいと渋っていた提督は自身の代わりに灰色を行かせれば大丈夫だろうと考えていた。
「交通費や宿泊費はこちらで負担するから気にしなくていい。早朝から迎えが来てくれるから荷物を詰めてさっさと行く事だ。指定席の都合上で四日間空きが出来たおかげで悠々自適に過ごせる訳だが、そんな余計な事はせずに帰ってこい。詳細は後で書類にして送る」
夕飯を食べ終えた提督は颯爽とお盆を持ってその場を去っていく。
思い出した事をきっかけに何か忙しそうに見えた。
後半三日間空きが出来ても即座に帰ってこいと言われ、何を言っているのか理解出来なかった灰色は頭にはてなマークを浮かべて目を丸くしていた。
提督が去っていたのを切りに次々に摩耶や叢雲が食堂から出て行こうとする。
その時過ぎ去る際に灰色は摩耶に肩を叩かれ、提督の言葉を補足して伝えた。
「話が終わったら後は三日間ぐらい空けといたから適当に休んで遊んだりして帰ってこい、って事。んじゃ、明日はよろしくな」
「は、はぁ……」
夕食を食い終えた後に灰色は仮執務室に向かい、提督とミーティングを始めた。佐世保鎮守府までの大まかなルートや行程、打合せ内容や持っていく資料などの確認を行ってミーティングは終了。仮執務室の近くを通った艦娘達は時々部屋から怒号や笑い声が聞こえたらしい。
「灰さん、どうしたの?」
「ごめんね白露。時雨はいるかな?」
「時雨? いるよ~……時雨~、灰さんが呼んでるよ~」
ミーティングを終えた灰色は駆逐艦寮にいる白露と時雨と夕立が住んでいる部屋を訪れていた。勉強していた時雨を白露へ廊下まで来てくれるよう呼び出してもらい、呼ばれた時雨は少し戸惑った表情で灰色の元へ歩み寄る。
「え? 僕も行けるの?」
「うん、そうみたい。秘書艦連れて行けって言われてさ」
灰色から今回の訪問についての書類を渡された時雨は一枚ずつ適当に流し読みしていく。食堂の時には伝えられなかったがどうやら秘書艦も連れて行かなければならないようだ。
灰色はとりあえず明日の日程を簡潔に伝え、その後の行動なども分かりやすく説明していく。
前に提督が複数の艦娘を連れて東京に行っていた事を思い出した時雨は今度は自分なのかと半ば心の中で期待していた。
「それでなんだけど……時雨ってこういう訪問とか泊まるやつとか大丈夫? 何か不安な事があるなら言ってほしいな~……なんて」
「うん……大丈夫だよ。灰さんがいれば何とかなる気がするから」
「そ、そう……? ななな何か嬉しいな~……じゃなくて、分かった! 何かあったらいつでも僕に言ってくれ!」
恐らく鎮守府外での訪問などは初めてだろうと思った灰色は時雨が行けるかどうか確認を取った。
時雨は視線を渡された書類から灰色の目に合わせて暖かい笑顔で問題ないと伝える。
■■少尉の件以降で時雨は次第に灰色を信頼しつつあり、徐々に友好的な関係を結べるような仲まで成長していた。
今回も灰色を信頼しているのか、完全に頼っている様子で不思議と不安は無さそうに見える。
いつもより眩しい笑顔を見た灰色は照れてしまい、思わず目を逸らして目を泳がせていた。
しかしハッと我に返って本来の自分を思い出し、胸を張って頼ってくれと言わんばかりに堂々とした表情で答える。
「あ、因みに訪問が終わったら四日間ぐらい休みがあるから、社会見学的な感じで時雨の行きたい所を色々回ろうと思ってるんだ。これも大丈夫かな?」
「大丈夫だよ。寧ろ楽しみにしてるし、ありがたく思ってるよ」
提督から実質的な三日間の休みをもらった灰色はこれを機に時雨に社会を知ってもらおうとちょっとした旅行を考えていた。
時雨は快くその計画を了承し、自身も楽しみだと本心を打ち明ける。
「よかった~……んじゃ明日からよろしくね、おやすみ」
「うん、おやすみ灰さん」
灰色は時雨の本心を聞いてホッと安堵の息を漏らす。
明日はとても早いと寝るように促した後に灰色は駆逐艦寮を出ていった。
誰もいない廊下に取り残された時雨は壁に寄りかかって先程流し読みしていた書類をじっくりと目に通していく。これから遠い佐世保の方まで行くのかと未だに実感があまり掴めない中、明日の事について想像していた。
「明日は話をして……で、終わったらこの場所に泊まる……そして明後日が旅行……ん?」
ふと時雨は考える。
明日は佐世保鎮守府の人達との打合せで長崎の方へ行く。
話しが終わればその後の三日間はほとんど自由を約束されていて、休んでも構わない状態。
そして灰色から社会見学と称した旅行に行く予定。
しかもそれは灰色と自分の二人だけ。
「え……これって……噂に聞くデート、ってやつじゃない!!?」
時雨は思わず男女の交際時によくやる行動トップ三に入るデートを意識したのか頭の穴という穴から蒸気を出して顔を紅潮させた。あまりの恥ずかしさに両手で顔を覆い、意味もなくぴょんぴょんと飛び跳ねる。
まさか自身とは無縁とも思えた行動が明日か明後日やってくるかもしれないという時雨にとっては謎の期待をしてしまった事に悶えずにはいられなかった。
「いやでも待って! 確かに灰さんは良い人だし、あの提督に比べたら遥かに聖人で信頼してるのは分かるんだけど、惚れてるまでは流石に無いよね! あくまで上司と部下の関係、ただ単に仲がいいだけであって僕はまだ灰さんを異性として好きになった訳じゃ……訳じゃ……」
時雨は壁に額を思いっ切りぶつけて己慢心を自制した。喋り続けながら何度も額をぶつける度に壁がひび割れていき、照明器具の上に溜まっていたホコリが落ちていく。
自身は灰色との関係をあくまでも上司と部下の関係で異性としてとは関係ないと捉えていた。
そこに邪な考えなど存在せず、ある一定の関係を保っているだけだと正当化していく。
ただそれだけでは何か物足りないと時雨は先程の言葉に訂正するかのようにして誰もいない廊下の中で訴えた。
「いや好きだよ!? 勿論灰さんは特別なくらい好きだよ!? でもそれは友達的な感覚で言ってるのであって、異性としてはまだ認めてないんだからね!! 違うからね!! 誰か見てるかもしれないから言っておくけど絶対に違うからね!!! 絶~~ッ対に──」
──翌日。
「なにシケたツラしてんのよ」
「いや……別に……」
送迎車の中では助手席に灰色、そして後部座席で時雨と『
「今日からよろしくお願いします、白■さん」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
早朝四時、まだ太陽が顔を出してない暗闇の時間帯で一足先に灰色達は送迎車に乗って向かっていた。運転手はいつも提督を送迎していた面識のある人物で灰色の事もちゃんと理解してくれている。初めて会った灰色は挨拶を心掛けつつ、これからお世話になる事を考えて簡単に自己紹介をしていった。
運転手の白■は見た目はとても穏やかで優しそうな老人男性で、笑顔がとても印象に残る人だ。
灰色は思わずこの先の事を安心してしまうほど信頼していた。
海岸線沿いの道路を一台の車が前面に光を差して過ぎていく。
海は自然と落ち着いていて光に晒される度に穏やかな波を見せた。
窓から見える景色を眺める摩耶とスマホを使っていた叢雲に敷き詰められて左端に座っている時雨は不満そうな表情で自身の顔が鏡のように写るほど真っ暗な森をひたすら見ていた。
それを横目で睨んでいた叢雲が何かを察したのか、ため息を吐いて時雨に話し掛ける。
「……別にあんた達の事は邪魔しないわよ。私たちは三日目で東京に戻る予定だし」
「あたしは灰のサポートに行くだけだから、そう落ち込むなって……な?」
「ち、違う! べべべべ別に僕は君達二人が邪魔だなんて──」「どうした時雨? 何か忘れ物した?」
察されたくない事をよりにもよってこの二人に瞬時で察された時雨は赤面しつつ慌てて大声を出して否定する。大声に気付いた助手席に乗る灰色が後ろを振り向いて声を掛けた。
何としてでも灰色にだけは知られたくない時雨は無茶苦茶な思いを我慢し、腕で顔を隠して窓に寄り掛かる。
「い、いや……大丈夫だよ……」
「……? そう? まぁいいや、朝早いし寝ててもいいからね」
「……ありがとう」
灰色と時雨の一連の話を聞いて摩耶と叢雲は半目にして、物言いたげな少々呆れた表情で口を開く。
「完全に娘扱いね」
「こりゃ繋がるのも時間がかかるだろうなぁ」
「うるさい!!」
摩耶と叢雲の発言を聞いて時雨は顔を紅潮させ、声を荒げてうるさいと叫ぶ。
急な時雨の叫びように思わず度肝を抜かれた表情になった叢雲と摩耶はニヤニヤしながら奥様口調で時雨を追い詰めた。
「あらら見ました奥さん?! この娘私に向かって犬のように吠えましたわよ」
「あらまぁ今どきの女の子は野蛮ねぇ~怖いわぁ~」
遂に怒りが込み上げた時雨は叢雲に飛び掛かろうと身体を投げ出し、互いに両手を掴んで『
「元気だな~三人とも」
「そ、そのように捉えますか」
「え?」
高速道路を約三時間ほど進んで新大阪駅から新幹線に乗り換え、途中下車駅である博多駅に降りてまた新幹線で新鳥栖駅に向かう。電車を三回乗り換えた先に佐世保駅に辿り着いた。
早朝四時から出発して十時間、佐世保駅に着いたのは昼の十四時。
「ふぅ~長かった~! 遠いな~佐世保は~」
佐世保鎮守府門前で溜まった疲れを背伸びで癒していく灰色御一行。長時間座っていた影響と何度も乗り換えたおかげで腰を回す度に関節が連鎖するように鳴る。
山に囲まれた佐世保市は地面の隆起が激しく丘の上に住宅地が並んでおり、海に面している所全てが海軍の基地、言わば鎮守府になっている。隣には造船所や港が設置されており、観光客などで賑わうショッピングモールがあった。
「ようこそ佐世保鎮守府へ!!! お待ちしておりましたぞ!!!」
佐世保鎮守府の領地内に入った直後、爆音の様な声が響き渡った。
突然の大声に灰色御一行は全員身体を跳ねらせ、声の方向へ臍を向ける。
向けた先には高笑いしながら一歩ずつ力を入れて小走りをする巨大な身体を持つ若い軍人とその軍人の後を必死に追う大淀が疲れ気味に走っていた。灰色御一行の元へ着くなり足並みを揃えては右手で敬礼しながら自己紹介をしていく。
「私はこの佐世保鎮守府の責任者を務めております桃■■■と申します!!! 一応これでも中将であります!!! 本日はよろしくお願いします!!!」
「声でかっ──痛い!!」
あまりの声の大きさに時雨が口を漏らしたが、隣にいた叢雲が本当の事でも言うなと頬を思いっ切り叩く。
潮岬町鎮守府よりも遥かに大規模な佐世保鎮守府を担うのは責任者兼総司令官桃■■■中将。
引き締まった筋肉によって構成された巨大な身体を持つ熱血漢の軍人で、常に笑顔が目立つ三白眼の男性。
年齢は三十九歳とかなり若くして高い等級に属しており、それ故に基地攻撃作戦における指揮能力は折り紙付きとされている。どんな事にも真っ直ぐで一度取り組んだ事は絶対に諦めない不屈の闘志と深海棲艦を悪として殲滅せんと人一倍強い正義を掲げ、艦娘や他の軍人にありとあらゆる情熱と熱意を叩き込む前向きな性格。
そのおかげか他の軍人や艦娘からとても良い印象を持たれており、■■中将自身も交流を深めようと他者を尊敬しつつ積極的に話し掛けている。
「は、初めまして! 潮岬町鎮守府から参りました灰■──」「貴方が候補生の灰■■■君ですねッ!!!? ん~何とも真面目で素晴らしい大和魂を持っている日本男児のような青年だッッッ!!!! 私は貴方のような方が大好きですよッッ!!! 改めて本日はよろしくお願いしますぞッッ!!!!」
「アッ、ハイ……よろしく……お願いします……」
何とも情熱的な軍人を目の前に灰色は気圧されずに微笑んだ表情で自己紹介しようとするも、それすらも乗り越えて桃■中将は灰色の目の前まで屈んでまで近づき手を握って感想を述べていく。何も言う事が出来なかった灰色は気圧されてしまい、簡単に挨拶する事しか出来なかった。
「何か凄いねあの人」
「熱心的且つ情熱に溢れた軍人で有名よね、特に声の方は」
「会議では凄い慎重で静かに喋ってるんだけどな、此処だと何故か声が凄まじくなるんだよなぁ」
叢雲と摩耶の表情から察するに感情の起伏が激しい人なのだろうか、時雨は関わったら面倒そうだと半ば閉じた目で立ち尽くしていた。灰色との会話を聞いている限りでは摩耶が言っていた会議での慎重な振る舞いが全く想像できない。隣にいる秘書艦であろう大淀も破天荒な桃■中将を前にため息を吐いて疲れている様子だった。
「おっとこれは失敬! 少し失礼すぎましたな!! 申し訳ない限りであります!!! 遅れましたがこちらが……」
「私は秘書艦を務めます、大淀と申します。私達の提督が迷惑をかけると思いますが、今日は一日よろしくお願い致します」
「ふははははははは!!! 流石は大淀よ、分かってるではないか!!! ふははははははははは!!!」
桃■中将の隣にいた秘書艦の大淀が申し訳なさそうに頭を下げながら自己紹介をする。上司の絶え間ない情熱と破天荒さを伝えた途端に桃■中将は派手な笑顔で高らかに声を上げた。
随分と振り回されているのか手に負えない人物だと訴えた顔を見れば簡単に理解出来る。桃■中将ほどではないが自身の責任者も尖っている所がある事から灰色と時雨はしみじみと同情の眼差しを向けた。
「よろしくお願いしますね大淀さん」
「挨拶も済みました事ですし早速こちらへ!!!! さぁさぁ遠慮せずに来てください!!!!」
桃■中将は高笑いしながら軍隊のパレードのように思いっ切り手足を上げて鎮守府内を案内しようとする。隣にいた大淀が持っていたクリップボードで頭を叩き、少しは落ち着いてくれと叫ぶ様に訴えた。桃■中将は素直に謝りながらも嬉々として行進をやめようとはしない。
その後ろ姿を灰色と時雨と摩耶はただついていくしかなかった。
「んじゃ、私は別の仕事があるから」
「叢雲さんは行かないんですか?」
今まで共に来てくれた叢雲が別の仕事があると灰色達の元へ離れようとした。
気にかけた灰色はすかさず叢雲に訳を聞こうと話し掛ける。
「私はあの艦隊の旗艦って事は知ってるでしょ? 今日はあの艦隊に所属する艦娘と少し話をしにいく為についてきたの。話が終わり次第、そっちに行くから安心なさい」
「分かりました、では」