今年もよろしくお願いします。
あと会議的なやつは一度やってみたかっただけなんです。
青い空と青い海が一望出来る建物の廊下を複数の深海棲艦達が無造作に並んで歩いていた。互いの関係が悪いのか一言も喋る事無くそっぽを向くようにして目的地へ向かっている。
一人は握った両手で後頭部を支えながら面倒そうに欠伸をして大股で歩き、もう一人は廊下の窓から見える景色を眺めながら無表情で足を運ぶ。コン、コン、とヒールの踵を気持ち良く鳴らしながら腕を組み堂々と歩く者や視線を真っ直ぐに睨みつけるような表情でゆっくりと歩く者もいた。
その深海棲艦達は目的地に辿り着いたのか勢いよくドアを蹴破って中へ入る。部屋の中は暗闇に包まれており、中央に大きな長机と新品の木椅子が目立つように下から光を浴びて用意されていた。
「久シブリダナァ……何ヶ月ブリダ?」
「少ナクトモ……半年ハ経ッテイル」
「コンナ事シテル暇ガアルナラ、サッサト攻メタ方ガイイノニ」
「ア~……ッタク、面倒ダナチクショ~」
それぞれ深海棲艦達は従って決められた椅子に座る。
足を組んでは机の上に乗せている者もいれば両肘を着いて組んだ両手に顎を乗せる者、椅子の背もたれに寄りかかって腕を組みながら目を閉じて待つ者や大きな軍刀を肩に乗せて片足を閉じる者がいた。
一部は来ていないのか空席の椅子がちらほらと見える。深海棲艦がそれぞれ座る椅子の隣には秘書艦のように立っている者もおり、組んだ両手を背にかしこまった表情で待ち続けていた。
「ヨォ深海日棲姫、駆逐水鬼、聞イタゾ? 何デモ支配シテイタ海域ヲ根コソギ奪ワレタラシイジャナイカァ。全ク惨メダナァ、今マデ何篭ッテタンダ?」
「黙レ南方棲戦鬼、貴様ノ方ノ任務ハ進ンデルノカ? 私カラ見タラ随分ト手コズッテルヨウジャナイカ」
椅子の背もたれに寄りかかって机の上に足を乗せていたのは【
苛立ちを覚えた駆逐水鬼が呆れた表情で南方棲戦鬼を煽る。
煽られた南方棲戦鬼も負けじと見下すような表情で煽り返した。
「無様ニ逃ゲテキタオ前ラトハ根本的ナ所カラ違ウンダヨ。精子カラヤリ直セ弱者ガ」
「今スグソノ身体斬リ刻ムゾ」
「ヤッテミロヨ」
駆逐水鬼は自身の倍もある大太刀を鞘から少しだけ抜いて刀身を見せ、南方棲戦鬼に対して眉を歪ませ敵視して睨みつける。
南方棲戦鬼は更に挑発して口角を上げ、駆逐水鬼を嘲笑って見下した。
視線が衝突し合って火花を散らし、広い部屋の中がただならぬ緊張に包まれていく。
「ヤメロ」
「アァ?」
「ッ……」
二人の啀み合いを【
「ヤメロ南方棲戦鬼……貴様モ他人ノ事ヲ強クハ言エナイダロウ。私ガ前ニ貴様ノ部下ヲ助ケテヤッタ事ヲ忘レルナヨ」
「アァソンナ事アッタナァ、忘レチマッテタ」
南方棲戦鬼は【
「少シハ道徳ヲ知レヨ、屑ガ」
「ア? ヤンノカコラ。テメェラナンゾコノ私ガ──」「集マったかナ、七壞星諸君」
会話を遮って先程入ってきた扉が鳴り響くような音を出してもう一度開かれた。
扉から放たれる眩しい光の先には深海棲艦の中枢的存在といえる中枢棲姫と、その側近である中間棲姫。白く美しく透き通るような肌から紅黒く禍々しい光を放ち続けている様を見て戦艦水鬼と南方棲戦鬼は口を閉じる。
深海棲艦の王たる者を前に七壊星達は動じず様子を伺っていた。
ゆっくりと歩きながら不気味な笑みを見せるその姿はまるで触れてはいけない毒のように悍ましく、刃向かっては沈めれると誰もが簡単に察してしまうほどの威厳があった。
「んじゃ、定例会……ト行こうカ」
【
「今回も『
「アノビリビリ野郎モ欠席シタノカ。マァ気持チハ分カルゾ? ナァ深海鶴棲姫」
南方棲戦鬼が向かい席に座っている【
深海鶴棲姫はいかにも嫌そうな表情で眉をひそめながらも、中枢棲姫の顔を
「……仕方ナイダロ、今ハ修復中ダ。ソレクライ見逃シテクレテモイイダロ」
「うん、イいよ。別ニ君達以外の七壞星は強制じゃナイからネ、ゆっくリ休むトいいよ」
険しい表情を見せつける深海鶴棲姫に対して中枢棲姫は優しい笑顔で戦艦レ級の空席を快く許した。先程の凄まじい威厳とは裏腹に仲間の勝手な空席を許してくれた器用さが何とも不気味に感じる。
「さて今回の話は二つあるんダけど、まずは一つ目……そロソろ皆の進捗を聞きたいかナッて、思ってるンダ」
「進捗? アァ任務ノ事カ」
「そう。この中に私の任務を受けた
「今ントコ戦力ハ五十二%ニマデ到達シテイル。コノママ何事モナク進メバ時間ハソウカカラナイダロウ。問題トシテハアノ馬鹿ガ無駄ナ事ヲシテクルクライダナ」
深海棲艦側の戦力拡大の為に艤装の改造開発任務を請け負っていた南方棲戦鬼は至る所にいる様々な深海棲艦の艤装強化が施され、予定の数値まで問題なく進むと報告した。
「ありがトウ。悪いけど今は従っててもらいたいかな。んじゃ次は~ほっぽちゃん!」
中枢棲姫は穏やかな声で【
指された北方棲姫は身体を勢いよく跳ねらせ、指をモジモジとさせながら震えた声で報告した。
「ハ、ハイ……! イ、今ハ……ソノ……少シ敵側ノ戦力ガ増エテイテ……チャ、チャントヤッツケテルンダヨ!? デモ……少シ面倒ナ所ガアッテ……ソノ……モ、モウ少シ時間ハ掛カルカナ……デス……」
北方棲姫がアリューシャン列島海域の中心地にある鹵獲された太平洋深海棲姫の確保任務について進捗を簡単に述べていく。
この部屋に入った時から既に北方棲姫は人一倍誰よりも怖がっており、中枢棲姫に対しては目を合わせられないほど身体を震わせて怯えていた。相棒である『
「分かっタ、んじゃ後で支援艦隊ヲ行かセルよ。報告アリガトね……まぁ欧州の二人組にモ聞きたかっタけどそれは後にするカナ……ア、ソウダ【
左右に座る七壞星達を眺めるように奥の席で堂々座っていた中枢棲姫は各深海棲艦達の表情を伺っていた最中に【
深海日棲姫は呼ばれた途端に身体を僅かに跳ねらせ、恐る恐る中枢棲姫の方へ顔を向けた。
中枢棲姫は満面の笑顔を絶やさず深海日棲姫を見ており、ゆっくりと手のひらを見せて言葉を続ける。
「言い訳は聞いてアゲるから海域取られちゃった理由ヲ教えテ?」
深海日棲姫から見たその表情は顔は笑っていたとしても、目は全く笑っていなかった。自身の過失故に説明責任は必要だという事は深海日棲姫も理解している。
だが中枢棲姫の想像以上の威圧に訳を話そうとしていた口が全く動かなかった。
「……基地裏カラ回リ込ンデ攻メテクルトハ思ワナカッタ。イツノ間ニカ施設内ニ潜ンデ背中ヲ撃タレタンダ……ダ、ダガアノ時私ハチャント──ッッ!!?」
過失の言い訳を少しでも良く聞こえるように補足して伝えようとした途端、深海日棲姫は自身の首を掴み掠れた声を吐き出した。突然の息苦しさと全身の迸る激痛に思わず机の上に上半身を乗せて暴れ馬のように悶え続け、深海日棲姫の身体から淡く紅黒い光が薄ら出る。
その光景を見ていた他の七壊星達はゾッと背筋を凍らして恐る恐る中枢棲姫の方へ顔を向けた。
「へぇ~……ジゃア君ハ慢心してた訳ダぁ……」
中枢棲姫は右手の平に紅黒い光の玉を浮遊させ、それを爪を突き立てて握り潰すように持っていた。紅黒い光の玉は稲妻を纏っており、中枢棲姫が右手に力を入れていく度にひび割れて火花が散る。威圧だけで部屋内が徐々に揺れ始め、心臓の鼓動音が露骨に聞こえるほど極度の緊張に包まれた。
「今度モ追い払エルだろウと慢心しながら余裕かまして戦ってタんだヨね? 毎日ずっと戦っテいるのに攻めてクル敵ノ作戦一つすら予想シナかッタのかナ? 裏から回り込まれタって普通ハ予測出来る事だと思うンダケド?」
「ッ……! チ、違ウ私ハ──ッ!!!」
言い訳無用と中枢棲姫は更に紅黒い光の玉に爪を食い込ませていく。深海日棲姫は苦しむ声をあげながら身体を勢いよく跳ねらせ、身体の内から細胞一つ一つが破壊されていくような激痛を味わった。
「言い訳ハそこまで。後もう少しで計画で定めた最低防衛線だよ。言ってオクけど次仕出かしたらモう無イんだけど? いいの? このままで」
「次……次コソ、ハッ……! 失敗……シナッ……イッ……!! ダ、ダカラ……!!」
苦し紛れに深海日棲姫は汚名挽回をさせてくれと懇願する。
それを聞いた中枢棲姫はつまらなそうな表情で悶える深海日棲姫を見続けていた。
何か考えているのかボーっとして右手の平にある紅黒い光の玉を器用な手先で弄くり回す。何十秒間経った後に中枢棲姫は紅黒い光の玉を右手の平の中へ吸収させ、深海日棲姫は地獄の苦しみから開放された。
「……ならヨシ! 頑張っテ取り返してね」
中枢棲姫は机の上に倒れる深海日棲姫に向かって応援の言葉を言って微笑む。
一連の光景を他の七壊星達は動く事はなく、ただ他人事のように傍観していた。
「話が外れたカナ。二つ目ノ話なンダけド……そろそろ
中枢棲姫の二つ目の話について七壞星達全員は一斉に顔を振り向かせ、話の内容に興味を持ち出した。全員が知りたがっている事なのか中枢棲姫の話をいつになく真剣に耳を傾けている。
「私の命令で一応君タチは大人しク従っていル設定だから、恐らく動員されル事もアルト思う。その時モ歯向かわず従ってイテ欲しイかな、多分君たちガやりたい事もヤレると思うよ」
「シッカシダナァ、イクラ何デモアレハ馬鹿過ギル。アマリニモ馬鹿過ギテ殺シタクナルナァ」
「同感。本当ニ軍人ダッタノカ疑ウレベルダ、モウ一人ハ申シ分無イガ」
突然急に交渉に来た二人の軍人について七壊星達は最低な印象を嫌そうに述べていく。
「まぁまぁ気持チは分かるケド、今回モ……ネ……? 結構面白そうな企画だし、実は成功シタらしたで良いトカ思っテルデショ?」
「否定ハシナイ」
「ソレデ正当化シテイル」
本当はすぐさま消えて欲しいが計画自体は深海棲艦側にとって利益しか生まない為に、七壊星達は自身を正当化して仕方なく協力している。目障りな艦娘達が寝返って内ゲバをしてくれるなら深海棲艦側にとっては有利でしかない。戦況を大きく変えるかもしれないチャンスをみすみす手放す事は出来なかった。
「成功しようが失敗しようが終われば後は自由ニして構わナイよ。相当鬱憤ヲ溜めてるヨウだしネ……後は……──」
「──あノ子の様子見、カナ……」
「……」
「提督……提督? 提督!」
「……っ! ん? 何だ」
自身の事を呼ばれたような気がした提督は眠りから覚めて周りを見渡す。半分虚ろな目で重い怠みを感じながらも何とか眠気を覚まそうと目を拭う。
隣では代役の秘書艦である古鷹が書類を片手に提督の肩を揺らして心配そうに待っていた。
「提督……その、眠ってましたけど……大丈夫ですか?」
古鷹に言われて提督は仕事中に居眠りをしていた事に気付く。時計を見ると時間は昼の十一時を過ぎていた。自身がいつ眠っていたのか記憶に無い提督は眉間を摘んで頭を悩ませる。
「あ~……マジか。珍しく眠ってたか」
「最近働き過ぎのようですし……少しの時間だけでも休憩した方が……」
「馬鹿言え、この状況で俺が休む訳にはいかないだろう。何一つ足りてないお前らポンコツ共の世話を一体誰がやると思う。ただでさえ秘書艦の仕事も手詰まり状態のお前を見離したらいつその仕事が終わるんだ? こういう時の為に俺がいるんだよ、後々出来ませんでしたと夜中に泣き喚いたら面倒で仕方ないからな」
提督は事務仕事が上手くいかない古鷹や訓練中の艦娘達を放っておけないとしょぼしょぼした目を凝らして無理矢理にでも仕事を続行しようとする。
あからさまに寝不足な提督を見て古鷹は提督の机の前に出て訴えるように話し掛けた。
「でも最近提督は無理し過ぎです。前に無理せず適度に休めって言ってましたが、その状態では説得力がありませんよ……」
「……」
古鷹の言葉に思わず提督は手を止める。
翔鶴達との戦争による影響でまだ左腕の治療が完治しておらず、ギプスで支えている状態だった。提督は半目で包帯が巻かれた左腕から目の前にいる古鷹へ視線を移す。
「だからお願いします……一時間でもいいので休憩してくれませんか」
古鷹は書類とクリップボードを抱えて深く頭を下げた。
提督は椅子の腕掛けに寄り掛かり、面倒そうに頬杖を着いてため息を吐く。
一刻を争う事態であっても上の者が倒れていては元も子もないと古鷹は心の底から心配していた。もう二度と二人も大切な人を失いたくないと強く願っていた古鷹の姿はいつになく弱っているように見える。
提督は上を見て考える仕草をして数十秒間は一言も話さなかった。
「……はぁ……ポンコツ共に心配されるとは俺も落ちたもんだな」
「提督っうわっ!!」
再度ため息を吐いた提督は何故か立ち上がり、机の上に乗せた書類をまとめていく。また仕事をするつもりだと古鷹が顔を上げた途端、大量の紙の束が古鷹の顔面に直撃した。
古鷹は顔面に張り付く紙の束を両手で持ち抱え、恐る恐る傍に立つ提督の表情を伺う。
提督は真っ直ぐ視線を崩さないまま古鷹へ今後の事を簡潔に伝えた。
「先程見直した書類とこれからやる仕事の内容だ、簡単に終わるやつだからポンコツのお前でも夕方までには終わるだろ。終わったら報告しろ、俺は少し部屋で休む」
「は、はい! 分かりました!」
古鷹が元気よく返事をした途端、提督は一瞬目線をこちらに移して微笑んでいるように見えた。それに古鷹は気付く事無く仮執務室のドアまで共に提督とついていき、廊下に入って二人はそれぞれ別の道を歩む為に別れる。
古鷹は抱えた書類と共に全速力で現場へ向かっていった。
「提督!」
「……っ?」