うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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175. プールの中で尿をする奴は許してはいけない

 灰色達が佐世保鎮守府に向かって一日が経過し、朝陽を迎えた早朝七時。

 誰もいない仮執務室で提督は一人、机の上に足を乗せて椅子の背もたれに寄りかかっていた。沈黙を破るように机に置いていたスマホの着信音が部屋内に響き渡り、提督は重い身体を持ち上げてスマホを手に取り耳に寄せる。

 

『灰■と時雨を受け入れてくれた。今後も問題は無いと思う』

「そうか」

『ただ……あの事件の事を灰■と時雨に教えてた。多分まだ桃■は根に持ってる』

 

 連絡を繋いだ摩耶が今までの経過報告を提督に伝えていく。

 桃■中将と灰色達の関係を上手く保てるか課題だった提督は喜ぶ事なく感情のこもらない声で返事をした。

 しかしもう一つの課題として桃■中将と提督の関係性について摩耶は苛つきと不安を織り交ぜた感情を露わにして提督に伝える。

 

「大した問題じゃない。俺たちの事を目の敵にしてる時点でそういう事をするのは予想の範疇だ。大抵ああいう連中には気色悪い花がばら撒かれた汚い爺共の汗じみたクソ汚い生温い淡水桶の中でビート板でも使わせて泳がせてやればいい。それほど気にする事じゃない、心配しなくていいぞ」

『分かってる、分かってるけど……あたしは心配だ。恐らく桃■や■■大将も含めて上は警戒してる。あまり動ける時間は少ないと思うから出来るだけそっちも行動に移してほしい』

 

 提督は机に乗せてあった資料を手に取りながら再度椅子の背もたれによりかて摩耶の話を聞いていた。

 どうやら提督が記憶を徐々に取り戻している事について上層部達は密かに警戒しているようだ。隠さずともいずれは記憶の甦りという解放状態が公になる事だった以上、それらを予見していた■■元帥や桃■中将はタイミングを見計らって何かを仕掛けてくるはずだろう。

 摩耶は桃■中将と出会っていち早くその考えを知り、提督がまた奪われるかもしれないという不安に襲われていた。

 

「そうだなぁ……まぁお前らが戻って来た次第で始める予定だ。摩耶も余計なマネはやめておくように、灰達にも粗相のないように言ってくれ」

『……分かった。言われた通りに今は大人しく従っておく。提督も気をつけてくれよな』

「はいはい」

 

 摩耶との通話を切って提督はスマホを捨てるように机へ投げて置く。

 資料のページを一枚ずつ捲って読んでいる最中にドアを数回ノックする音が聞こえた。

 提督は入室を許可してノックしてきた人物へゆっくりと視線を移す。

 

「失礼します、司令」

 

 仮執務室に入ってきたのは不知火、身支度を整えてかしこまった姿を提督に見せる。

 今日の秘書艦担当だった不知火は艦娘の誰よりも早く起床して仕事に取り掛かるために来たようだ。律儀に挨拶をした後に黙々と秘書艦席に座って今日の仕事を確認していく。

 

「ここに入る前、少し耳にしたのですが……事件って……あの事ですか?」

「あぁ」

 

 部屋内の沈黙を遮って不知火が気になっていた事を提督に恐る恐る聞いてみた。

 素っ気なく提督は不知火の方へ振り向かずに簡単に答えていく。

 

「……今でも不思議に思いますね。何故あの『(オウゲン)』叢雲が摩耶を庇ったのか」

 

 不知火は無表情を貫いたまま事件について気になっていた事を知っているであろう提督に聞かせた。

 

「詳しくは俺も知らん。まぁ大方利用価値があるとかそれぐらいの感覚だろう。あれだけ派手な戦闘能力を見せつけておいて、更に制御できる鍵があるとなれば手の内に置いておきたくなるもんだ」

 

 しかし提督は何も知らないと期待外れの答えを言う。

 飄々と提督は説明口調で伝えるも聞いていた不知火は胸に突っかかる違和感を感じた。

 感じた瞬間にペンを持っていた手を止める。

 事件の起きた原因が自身でありながら詳細を知らないのはおかしいと不知火は常日頃から思っていた。かつての部下である自分達にも言いたくない事なのだろうか、信頼されていないという不安を無視して不知火は思い切って提督に問い掛ける。

 

「憎まないのですか? 仕掛けたのは桃■中将という男でしょう?」

「まさか。言わずともドス黒く残ってるさ……まぁ俺よりも遥かに憎んでるのは摩耶、だろうな。何せ数々の拷問を受けた上に言い汲められて騙された挙句、腹を貫かれた瀕死状態で訳分からん島に磔にされたからな」

 

 提督が説明している事件の内容は不知火も鮮明に覚えている。潮岬町鎮守府で起きた時雨と夕立の件が生温いとすら思えてしまうほど、残忍且つ惨劇な出来事で人類と艦娘の複雑な関係を身に染みて思い知らされた瞬間だった。

 提督の艦娘である不知火含め皐月やガングート達は桃■中将の行動に不信感を持ち、人間側である他鎮守府の艦娘達含め軍は摩耶の行動を危険視するような四方八方の状態。

 あの時の戦況はかつてないほど荒れていた。

 

「もし私が摩耶さんだったら……同じく暴れていたかもしれません。いや……誰もがそうなったと思います。大切な人を守りたいが為に自らを呈してまで救おうとする意思は生物問わずに誰にでもあると思うので」

「逆の可能性も考えてみるといい。ある一つの目標の為にありとあらゆる手段を投じてまで成し遂げようとする野心さを持っている事もな」

 

 まるであの人物達を指して言っているような言葉に不知火は何も言う事は出来なかった。現に人間の本性を間近で見てきた不知火にとっては善と悪の可能性について知りたくないほど知り得ている。自分自身も人間であり提督の言われた事を実行した経験がある以上は否定する事は出来なかった。

 

「特に桃■という奴は認めたくないが実力とその狡猾さは本物だ。現に奴は面倒な作戦で何回も深海棲艦の前衛基地や補給施設を潰してるからな。さぞかしあの馬鹿やアイツも困ってるだろうねぇ」

「常々話は聞いています。今度の小笠原諸島海域奪還作戦も桃■中将が関わっているそうですね」

 

 さりげなく話を逸らした事に勘づく不知火は何も言わずに提督の話を続かせるように口を開いた。何も動じない自然を装うよう再びペンを持っていた手を動かし、簡単に事務処理をこなしていく。

 

「やはり司令らしいですね」

「知ったような口をするとはお前も随分と偉くなったな」

「かもしれません。私は自身の力に溺れてしまい、大切な人を失いかけました。落ち度にも程があるだろうと自省しています」

 

 自然に話を逸らす事や平然としている姿を見て不知火は安心して微笑む。

 提督が半分煽り気味に話しかけてきたが不知火はそれを受け止め、今まで起きた事を踏まえて反省の意を示した。自分自身は摩耶や川内と同じく提督の部下であり、この鎮守府の艦娘達や誰よりも強く生きてきたと思い込んでいた。

 だがその思い込みが仇になるとは夢にも思わず、自身の驕りに気付くことが出来なかった。

 

「今こうして司令と話せている事自体、奇跡に近いものかもしれません。私は司令に酷い事をしてしまいました……オイゲンさんや川内さんを含め私たちは身を捧げる覚悟で償わなければならない。今は……そう考えて──」

 

 抱え込むように悩んでいた事を話している途中、頭にドサッと大量の書類を叩くように乗せられた不知火。

 気付くと傍には提督が不知火をつまらなそうな表情で見ていた。

 

「お前らのそういうとこが嫌いだ。一々過去の話をネチネチネチネチと引きずりながら回りくどく話しやがって……気持ちは分かりたくないが分かってしまう以上はどうやっても考えてしまうから気分を害する。もう話は聞き飽きたし面倒だ。一々聞いていてもキリがない」

「で、ですが……」

 

 提督は話しながら元の位置に戻って堂々と座る。

 追いかけるように不知火は頭に置かれた大量の書類を持ちながらどうしても聞いてもらいたいと慌てて話した。

 提督の傍まで歩み寄ったその瞬間、不知火の前を遮るように左手の人差し指が現れ、思わず歩みを止める。左手の人差し指を出したのは提督で弁明したい不知火を止めたかったのか食い気味に口を開いた。

 

「耳障りだ、これ以上過去の事を喋るな。言いたい事はもう飽きるほど理解している」

 

 提督は不知火を黙らせようと高圧的に言い放つ。

 言いそびれた不知火は一瞬ショックを受けたような表情するもバレないように無理やり無表情に戻してその場に佇んだ。提督が理解してくれていたとしても、どうしても聞いてほしかった不知火は自身の口から言えなかった事を顔を俯かせて静かに拳を熱く握る。

 それを横見して気付いた提督はため息を吐いた後に仕方なく名前を呼んだ。

 

「不知火」

 

 名前を呼ばれた不知火は瞬時に顔を上げる。

 内心後悔していた不知火はまたとない機会だと期待して待っていた。

 提督は気持ちよく指を弾き、不知火へ教えるように伝える。

 

「今は俺と同じく前を見ていろ、後ろ姿は俺が見てやるからお前は二度と後ろを振り向くな。あのポンコツ共にもそう伝えておけ……そろそろ朝飯だ。今日は少し忙しくなるぞ」

「はい……分かりました」

 

 

 

「さてお前ら二人を呼び出した理由(ワケ)だが」

 

 特殊訓練が始まってすぐに『(レイ)』木曾に呼び出された天龍と木曾は鎮守府の港から少し離れた崖近くの場所に連れ出されていた。『(レイ)』の背後には思わず仰いでしまうほどの巨大な岩崖が(そび)え立っており、呼び出された二人は内心その理由を察して不安がる。

 

「俺がいる内にこの突き出た崖の一部を真っ二つに斬って削いでくれ」

「「……はぁ!!?」」

 

 天龍と木曾は驚愕の声を揃えて度肝を抜かれる。

 

「いやいやいやいや無理だろこんなデカいやつ!! 軽く10メートル近くはあるぞ!!?」

「まだそこまで至るほど実力は無いってお前に言われたばかりだ!! 何故唐突に──」「うるさい」

 

 『(レイ)』木曾の背後に聳え立つ巨大な岩崖は軽く見ただけでも数十メートルは超えており、指定された突き出た崖の部分は高さ十メートル近くもあった。流石に無理があるだろうと二人は声を荒らげて『(レイ)』に理由を求める。

 しかしうるさいと若干苛ついた『(レイ)』は二人の脳天を叩き殴った。

 

「まだ何も言ってないだろうが。つべこべ言わずに話を聞け」

「痛ぇ……!」

「ぐっ……ぐあ!!!」

 

 軍刀の柄の先で脳天を殴られた天龍と木曾の二人は海面に横たわって頭を抱えながら鋭い痛みに悶絶していた。

 

「今すぐにやれとは言ってない。俺が鎮守府に帰る時までにこの課題をクリアしろって言ってんだ。勿論その訓練の仕方も教えるし、無茶苦茶な発想でやろうとは思っていない」

 

 痛みに悶える二人を余所に『(レイ)』は軍刀を巧みに回しながら説明していく。課題の制限時間は『(レイ)』が所属する鎮守府に戻るまでの約一週間半。その間に巨大な岩崖の一部を斬る事が出来たら成長の眼差しは確実に見えるらしい。

 

「一部の艦娘が持つ近接武器、まぁ刀とかサーベルとかその他諸々は共通してある特殊な能力が備わっている」

「特殊な能力?」

「そう。鹿島に教えてもらったように俺たちや深海棲艦には【装甲】っていうエネルギーで保たれた膜のようなものがある。外部からの攻撃を吸収又は緩和させ身体を守るように出来ているんだが……艦娘が持つ近接武器にはその【装甲】を打ち消す能力があるんだ」

 

 『(レイ)』は鞘から翡翠色に煌めく軍刀を指さして注目させ、艦娘の近接武器について簡潔に説明した。

 

「正確には装甲ごと身体をぶった斬る、と言った感じか。近接武器の刃にはその武器を持つ艦娘のエネルギーが常時流されている。ただそのエネルギーは途中で変換されていて、特殊な波長で出来たエネルギーになっているんだ。このエネルギーを纏わせる事で装甲ごと斬る事が出来る」

「速力のエネルギー変換みたいなやつと同じだな。でも何で岩崖を斬る必要があるんだ?」

 

 『(レイ)』の説明に天龍と木曾の二人は手に顎を乗せてなるほどと神妙そうに何度も頷く。

 しかし天龍は何故その特殊なエネルギーがあるのに対して岩崖を斬る必要があるのか疑問に思った。

 それを聞いた『(レイ)』は待ってましたと言わんばかりに微笑んで翡翠色の軍刀を見せびらかしながら天龍の疑問に答える。

 

「先程も言ったが近接武器の刃には特殊なエネルギーが流れている。だがその流れるエネルギーは()()()()()()()()斬る事ができない。例で言おうか、天龍の持つ刀のエネルギーが大体70%だとして、敵の【装甲】のエネルギーは100%流れた状態。天龍はその敵を斬ろうとしましたが、敵の身体を斬る事が出来ませんでした。つまりは……」

「エネルギーの差によって斬れる斬れないの状態が発生するんだな」

「そういう事だ」

 

 話を理解した木曾が要約して答える。

 意思が伝わった『(レイ)』は木曾の目の前まで軍刀を突き出して褒めた。

 刀先を突きつけられた木曾はギョッとした表情で一瞬身体を跳ねらせる。よく凝らして見ると『(レイ)』の持つ翡翠色の軍刀の刃先には心臓の鼓動のタイミングで血管に流れる血液のように翡翠色のエネルギーが循環していた。

 

「近接武器のエネルギー効率が敵の装甲のエネルギー効率より上回っていれば容易く斬り伏せられるってわけだ。だが敵の【装甲】に流れるエネルギー効率が近接武器のエネルギーより高くなっていると斬る事はおろか傷一つすらつけられない。だからこそ力の入れ方が大切になってくる」

 

 『(レイ)』は身体に翡翠色の光を纏わせてエネルギー効率を体現させる。

 天龍と木曾は自身の近接武器を持つ手へ視線を集中させた。

 柄から刀身、刃先へと視線を移動させてエネルギー効率について考え込む。

 

 その時天龍は過去の鎮守府襲撃時に暴君と呼ばれた南方棲鬼と戦闘した事を思い出していた。

 南方棲鬼へ与えた斬撃は浅い時が多く、深い一撃は一度しか与えていなかった。最後に南方棲鬼の身体を深く斬れたのは天龍が僅かに光を纏っていたからであり、鹿島が説明していたように身体が光るのはエネルギーが限界を超えて溢れ出しているからという理由も含めれば『綟《レイ》』のエネルギー効率についての説明も納得がいくものだった。

 

「勿論エネルギー効率以外にも重要な事は沢山ある。斬る姿勢や呼吸法、声や身体的な意味の力だって必要だ。七壞星に挑むなら尚更な」

「おい、岩崖を斬る理由はなんなのか聞いてねぇぞ」

「そうだな、補足しすぎたか。まぁ岩崖を斬って欲しい理由としては二つ。一つ目は特殊なエネルギーを近接武器に込められているかどうか、二つ目はちゃんとエネルギー効率を駆使した近接武器が扱えているかどうかの目標だ。敵の【装甲】はこの巨大で強固な岩崖だと!! 思ってくれ」

 

 『(レイ)』は背後の岩崖を思い切り裏拳で殴る。

 岩崖はヒビが少し入るだけでビクともせずに佇んでいた。流石の『(レイ)』も殴った反動で痛かったのか手を何度も振っている。

 七壞星の装甲は他の深海棲艦より何十倍も固く生半可な近接武器の攻撃ではダメージを与える事すらできない。近接武器の攻撃は艦娘の【火力】に含まれない為、エネルギー効率は勿論のこと剣術や筋力などの力の入れ方も必要になってくる。

 『(レイ)』が言うには近接武器を持つ艦娘は特にエネルギー効率の成長が難しいようだ。

 

「ところでお前ら、砲弾を斬った事はあるか?」

「あるな」

「あるぞ」

 

 天龍と木曾はさぞ当たり前のように同時に答える。

 予想外の答えに『(レイ)』は一瞬拍子つかれた表情になり、何か考え込むように顔を仰いで顎に手を当てた。

 

「ほう珍しい。どうりで力の使い方は悪くなかったわけか。そちらの提督の訓練による賜物かな」

「提督つっても、前の前の提督だけどな」

「あの時は何回も壊したな」

 

 天龍と木曾は護神厄討艦隊の特殊訓練を受ける前に撃たれた砲弾を斬る技術を身につけていたようだ。初めて木曾と対戦した『(レイ)』は不思議に思っていた力の使い方の根源を知る事ができて納得する。

 現に天龍と木曾は蒼色から砲弾を斬ってくれという無茶苦茶な注文され、何回も失敗して近接武器を破壊しては明石に復元してもらっての繰り返しだった。砲弾の弾速エネルギーも合わせて斬る事など通常は不可能に近く、数百日かけて会得する事が出来た彼らにとってはかけがえのない遺されたもの。

 全てを教えてくれた蒼色に感謝し、元凶となる■■少尉に必ず報いを受けさせると改めて誓った。

 

「思い出に浸る時間は無いぞ。そうだな……そういう事なら話は早い。砲弾を斬る事を会得してるなら少し段階を変えよう」

 

 意外にも成長していた二人を見て『(レイ)』は考えるような仕草をした後に指を弾いて次の段階について説明した。

 

「撃たれた砲弾を斬るような同じ感覚で岩崖を斬ってみろ。出来なくても繰り返してやり続ける事。もし斬撃が深かったら次の段階に移行させる。いいな?」

「おう! 任せろ!」

「当たり前だ!」

 

 天龍と木曾は熱気のある声で答え、早速持ち場について岩崖に斬りかかった。傍で見守っていた『(レイ)』は自身と同じ姿である木曾を見て過去の建造したての自分自身を思い出す。思い出に浸る暇はないと言っておきながらそれすらも忘れてしまうような懐かしさがあった。

 

「……まるであの時の俺を見てるようだな」

 

 

 

「ふぅ……終わった……」

 

 夜の二十二時。

 提督や護神厄討艦隊の艦娘にバレないよう秘密の訓練を終えた古鷹は誰にも気付かれないように寮の廊下を静かに歩いていた。他にも木曾や天龍などが岩崖をひたすら斬り掛かっていたが古鷹は命中精度を上げるためにペイント弾を使って訓練をしていた。

 

「古鷹」

「っ!!」

 

 誰もいないはずの寮の廊下から聞き覚えのある声で名前を呼ばれた古鷹は身体を跳ねらせて驚く。

 恐る恐る声の方向へゆっくり振り向くとそこには出会ってはいけない提督が立っていた。夜中に訓練をしていた事がバレたと思った古鷹は唾を飲んで話しかける。

 

「ど、どうされましたか提督? 今日は執務室に籠る予定じゃ……」

「そうなんだが……まぁそれは別として、古鷹。ちょっと執務室まで来てくれるか」

「はい……大丈夫ですけど……」

「悪いな」

 

 淡白な対応する提督に少し違和感を感じつつも古鷹は素直に答える。提督の誘いに古鷹は拒否する事などできず、心の中で涙ぐみながら提督の後をついていった。

 二人が執務室まで向かう最中、寮の廊下は歩く靴の音以外物音一つしなかった。廊下を照らす天井の照明が輝く中通り風が廊下を駆け抜け、提督の長い白髪が風に吹かれたカーテンのように光を浴びて靡く。

 まるで別の人物に思えるほどの立ち振る舞いに古鷹は一瞬提督を女性なのかと見間違えた。

 

「安心しな。別に()()が隠れて訓練をしている事を咎めるつもりはないから」

「あ、ありがとうございます……では何故私を……?」

 

 提督の話し方にまた変な違和感を感じながらも古鷹は執務室に呼ばれた理由を及び腰になりながら聞いていく。提督は古鷹の方へ顔を振り向かせ、珍しく穏やかな表情で意外にも素直に答えた。

 

「……ちょっと伝えたい事があってね。まぁそれは執務室の中で話すよ」

「っ? 分かり……ました……」

 

 

 

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