灰色達が佐世保鎮守府に訪れてから二日が経過。
提督に実質嵌められた灰色は資材関係の打ち合わせをした後に桃■中将の講演会を二日に別けて受けていた。司令官候補生である灰色は貴重な機会だと快く受け入れ、桃■中将の講演会を必死に聞いて勉強してくれている。桃■中将と摩耶との啀み合いを気にするのはやめており、今やるべき事に集中して取り組んでいるようだ。
桃■中将の講演会を無事終えて灰色と時雨は宿泊施設に戻って身体を休養。
一方で訓練官だった『
「さて……今日からまた休み、か」
桃■中将の講演会を二日受け終えて三日目の朝。
予定通り朝の七時に起床した灰色は欠伸をしながら背伸びをして今日という日を確認する。
今日から自由行動を貰っていた灰色は時雨達がどこに行くのかを考えながら旅行の準備をしていた。普段は外の世界へあまり触れる事の無い艦娘が自由気ままに遊べるかつてない機会だ。
潮岬町鎮守府の艦娘である時雨なら尚更楽しませてあげたいと灰色は考えていた。
「時雨、どこか行きたいとこある?」
宿泊施設のエントランスの前で時雨達と集合し、灰色は時雨にどこへ行きたいかと聞いた。叢雲と摩耶は前から持っていたのか新鮮な普段着の姿で周りから視線を集めてしまうほどの美少女揃いだった。
叢雲は茶色がかった白いワンピースの可愛げのある服装で、摩耶は鼠色のジャケットにホワイトTシャツ、細長いデニムパンツで脚線美を露わにした服装だ。
一方で何も持ってない時雨は普段の正装で二人が目立ち過ぎている所為か影が薄い。
「僕は……叢雲の所についていきたい」
「叢雲さんの所?」
灰色がどこへ行きたいか質問した時、時雨は叢雲の所へ行きたいと少し慎重そうな表情で答えた。
時雨の視線は叢雲に集中していて、それに気付いた灰色は視線を叢雲に移す。
叢雲は目を見開かせて驚いた表情でキョトンと柄にもなく茫然としていた。
「へぇ、興味あるって表情ね。いいわよ、ついてきなさいな」
叢雲は時雨の眼差しを受けて微笑み、自身が行きたいと思っていた場所まで連れて行った。
運転手である白■の協力を得て自動車で走ること三十分。
住宅街の道路を延々と走り続け、山の頂上へ続く道を進んでいく。
「眺めいいですね、ここ」
「そうね街全体を眺めるにしては結構いい所よ。本当はこの山の上にも展望台はあるんだけどね」
自動車の窓から見た景色は佐世保鎮守府や町全体が見下ろせる光景で道路の傍に住宅がある事から住んでいる人達を少し羨ましく思った。天気は澄み切った青空で快晴といえる絶好の旅行日和だった。
「……降ろして」
「かしこまりました」
今まで敷き詰められたような家が徐々に少なくなっていき、疎らになってきた坂道を進んでいたその時。
生い茂る木々が目立ってきた辺りで叢雲が車を止めて欲しいと口を開く。
運転手の白■は素早く車を道路の傍に寄らせて停車させた。
目的地に着いたのか叢雲は車から降りて行く先の坂道を少し歩く。辿り着いた場所は隣に擁壁がそびえ立ち、もう一方の隣には全ての建物を見下ろせる道の途中だった。
「……いた」
誰かを探していたのかガードレールから身を差し出し、手当り次第に首を動かす叢雲。
遂に見つけたのか安心したような声で小さく呟いた。
「今日も元気そうね……」
叢雲が珍しく穏やかな表情で安堵の息を吐く。
しかし灰色はその穏やかな表情の目が少し悲しげな様子に見えていた。
「何か……あったんですか……?」
「そうね……時雨、あの人が私の元彼。小笠原鎮守府襲撃時に唯一生き残った人物よ」
住宅街と街全体を見下ろせる道路の端で叢雲が指をさした先には広いリビングで車椅子に乗る男性の姿。背後の姿で顔や姿はあまり見えておらず、こちらからでは目を凝らさなくても見える程度の距離だった。
あの人が叢雲の元彼氏であり、小笠原鎮守府襲撃時に生き残った唯一の人間。
それを聞いた灰色は動揺を隠せずにいた。
「あの人が……叢雲さんの……?」
「えぇそうよ。今は佐世保市の住宅街にあるあの家で親と一緒に暮らしてるわ……さて、別れた理由……知りたいって言ってたでしょ? 時雨」
叢雲はガードレールに寄り掛かり、時雨に別れた理由を聞きたいか再確認した。
時雨は一言も発さずにゆっくりと頭を縦に振って真面目な視線を叢雲に送る。その時雨を見た叢雲は覚悟を決めた表情で口を開いた。
「いいわ、教えてあげる。別れた理由はね……」
太陽が輝く青空を背に叢雲は少し顔を俯かせる。
前面が暗い影に染まり、背面の藍色の髪が光によって輝きを放った。
「私が振ったのよ」
「……え?」
顔を上げて叢雲は飄々とした態度で理由を答える。
予想外の答えに理解が遅れた時雨と灰色は思わず声を漏らした。
「簡単な話よ、私が一方的に振ったの。散々付き合っておいて私の事忘れるなんてふざけてると思わない? もう呆れに呆れたから私が振ったのよ」
「違う」
前面だけ影に染まった叢雲は理解が遅れた二人に対してもう一度補足するように答える。
しかし時雨は叢雲の表情を見て確信したのか即答で否定した。
当然叢雲は頬を引き攣らせ、苛立ちのこもった声で時雨を攻撃する。
「違うって何が? 私の言ってる事にケチつけるわけ?」
「だって君は一回あの人を見た時に安心していたじゃないか。そして今は何? 何でそんなに……悲しんでるの?」
「っ!」
時雨に言われて気付いた叢雲は思わず自身の頬を触る。叢雲は別れた理由を話した辺りから今までずっと哀愁を漂わせ、何か悔やんでいるような表情をしていた。自身を追い込むほどの悔やんでも悔やみきれない一生分の後悔を背負っているように見えた。
それを言われた叢雲は一瞬度肝を抜かれたような驚いた表情になるも、深呼吸して冷静さを取り戻す。
「……言いたくない事は隠せても表情は隠せないものね~……同情されたくないから言わなかったけど……まぁ……実際、言ってた事は本当よ」
「忘れられた事が?」
「えぇそうね……小笠原鎮守府襲撃時に辛うじて生き残った私とあの人は最早回復する事すら無理とも思えるような状態で治療を受けた。私は持ち前の耐久と高速修復材があったからなんとか回復できたけど……あの人は状況が違った」
叢雲は覚悟を決めた表情で小笠原鎮守府襲撃時の事を語る。
叢雲があの人と呼ぶ人物と出会ったのは小笠原鎮守府が設置され、多くの艦娘や整備士、憲兵などが派遣されて間もない時期だった。
当時は小笠原鎮守府における最高戦力とされていた叢雲は配属された直後から取り返そうと襲撃する深海棲艦と日夜戦闘を行っており、身体の疲労も関係なく出撃していた事から戦うごとに徐々に荒れていくようになっていた。
周りから最強と揶揄され過度な期待を押し付けられていく叢雲は度々襲撃しにくる手も足も出ない深海棲艦を皆殺しする事をもはや単純な作業だと思い込み、感情や思考が薄れていくのを実感しながらも対策を考える事すら面倒だと後回しにして生きていた。
そんな叢雲に愚かにも手を伸ばしたのがあの人と呼ばれる後に交際する事になる人物。
新米の憲兵として小笠原鎮守府に配属された彼は日々の戦闘で心身共に疲れ果てていく叢雲を見て心配し、声を掛け始めたのがキッカケだった。
最初は叢雲も煩わしいと無視していたがそれでも諦めない彼に折れてしまい、それを機に徐々に彼と叢雲は打ち解けていった。
だがしかしその直後に特殊危険個体三体による小笠原鎮守府襲撃事件が発生する。
島風の捨て身の援護もあってか叢雲と彼は命懸けで撤退し、横須賀鎮守府の艦隊に救助され一命は取り留めると思っていた。
が──、
「脊髄損傷による下半身不随で両足は麻痺、そして何より一番だったのは……
「って事は……」
「そう。私と出会った事や付き合った事、私に関係する事全ての記憶が消えてしまっていた。あの人の記憶には私という存在は最初からいなかった事になってるのよ」
事故の影響によって彼は高校生から当時までの記憶を全て失っていた。脳へのダメージがとても激しく一時は植物状態になりかねないほどの重体で、一命を取り留めたのはまさに奇跡だった。
それを聞いた叢雲はもう一度共に歩める押さえきれない嬉しさと同時に二度と取り戻す事のできない喪失感を実感した。
頭の中で複雑に感情が絡み合う。
涙が出てしまうほど嬉しいはずなのに何故か腰に力が出なかった。
いつの間にか膝から崩れ落ちて地べたに座っていた。直視できない現実が本当だということを実感したくなかった。
今でもその感覚が叢雲の中では鮮明に残っている。
「でも何かきっかけがあれば……あの人に接していればいつかは思い出してくれるんじゃ……」
「私も最初は考えた。だけどあんな状態にさせた私をあの人の親が許してくれなかった」
想い人の記憶喪失に絶望していてもなお叢雲は諦めなかった。
とある噂では記憶喪失になったとしても何らかのきっかけがあれば思い出すと聞いた事がある。
叢雲は僅かな希望を信じてあの人の元へ束の間の安心に浸りつつ足を動かした。
だがその希望は呆気なく打ち砕かれた。
「当たり前よね、最愛の息子が下半身不随で記憶喪失となれば誰だって心配する。あの人の親は私を目の敵にして一切の面会を許さず、そして二度と会わせない為に近付かせないよう軍に警告した。当時の軍は小笠原鎮守府襲撃の後始末や対策で手一杯だったし、面倒ごとは起こしたくなかったんでしょうね。私はこっぴどく叱られたわ」
あの人の親達は息子が意識不明の重体になった原因を叢雲だと決めつけ、今後二度と近付かせないように軍を脅迫してまで警告した。小笠原鎮守府の仲間やあの人達を守れなかった原因は自分自身にあると責め続けていた叢雲は親の警告を素直に受け止めて会わないと誓った。こうなってしまったのは全て自分自身の所為だと、力に驕って慢心していた自分の所為だとそう思い込むようになった。
「でも……私は……どうしても諦めたくなかった。あの人が今も大丈夫なのか心配で、直接会わなくても直接話せなくても直接あの顔が見れなくても、そこにいるっていう小さな希望だけでも欲しかった」
叢雲は顔だけ振り向いて再度あの人のいる方向へ視線を移す。
どれだけ現実に絶望しようとも、それでも叢雲は簡単に諦める事ができなかった。
一命を取り留めたとしても心配だった叢雲は見えぬ影からあの人を応援していた。
仲間や司令官の協力も得て何とか情報を得ては安堵する毎日だった。
相手側から見れば身勝手な自己満足、はた迷惑な諦めの悪い人モドキと思われてもおかしくないだろう。叢雲はどう陰口で叩かれようとも気にせずにあの人の為だけに動き続けた。
「だからこうやって遠くから見るしか方法が無いの。本来は会う事すら許されないからね、いずれはこの方法もバレるかもしれない。見に行くのも一年に一回にしてるわ」
叢雲が灰色達についてきた本当の目的は佐世保鎮守府の艦娘達の訓練官ではなくこの為だった。
普段は東京の大本営や神奈川の横須賀鎮守府で働いている叢雲は旗艦の仕事もあってかあの人がいる遥か遠くの長崎まで簡単に行く事はできない。
唯一行けるタイミングは司令官である■■大将が佐世保鎮守府へ訪れる時のみだけであり、その内見れるだけの休憩時間を取れるのはたった三回。
一年に一回だけ見る事にしていた叢雲はその日が唯一の楽しみだった。
しかし今回は特例で潮岬町鎮守府の艦娘として灰色達と同行できた為、叢雲は使わない手はないと自ら同行を志願していた。
全てはあの人の為に。
「あら、失望した? 巷で噂の最強の艦娘が諦めの悪い
「違う。だって叢雲は何も悪くないじゃないか。全ては深海棲艦の所為なのに、一方的に攻撃されて積み上げられた罪を背負って……僕だって君みたいな状況になったら……絶対にこうしてると思う……」
時雨は叢雲の背負う業に対して激しく同情し、もし置かれた状況が自分自身にあったとしたら同じ行動を絶対にしてしまうと確信していた。
単にそれは叢雲を慰める為に掛けたような些細な感情ではなく、自身も想う人がいるという強い感情から生まれた言葉だった。
「私ね、
「目標?」
「そう。もう二度と悲劇を起こさない為に、誰も傷つかない明るく平和な未来……大切な人が平和に暮らせる未来を……私は、創りたい……」
叢雲は灰色達に背中を見せて太陽の光を前面から満遍なく浴びる。
二度と会えないかもしれないという誓いと全ての原因は自身だという枷を背負いながらも、それでも叢雲は過酷な現実に絶望する事なく立ち上がった。生まれながらにして受けた天恵と数年掛けて培った努力で毎日鍛え続け、そして深海棲艦と戦い続けた。
全てはあの人の為に。
ごく単純な理由だった。
あの人とあの人の親に償う為に、二人で夢見た未来を叶える為に。
それだけが叢雲にとっての原動力であり、不屈の精神の根源だった。
今の叢雲がいるのはあの人の為といっても過言ではなく、何年も想い続けた結果だった。
「いいですね……その目標……」
「でしょ? 悪い深海棲艦をぶっ飛ばして平和にしてあげたいの。それが私にとっての償い、叶えるべき目標よ。もう暗い世界なんて無いようにね」
灰色は叢雲の素晴らしい目標を聞いて微笑んで賛称した。
叢雲は再度時雨達の方へ振り向き、灰色の賛称に続けて目標の為の理由を簡単に話す。希望に向かって進み続ける叢雲の表情はまるで太陽のように輝いていた。
あの絶望に打ちひしがれた時に決めたんだ。
もう誰も悲しむ事も傷つく事も無いようにと、貴方が望んだ平和な世界にしたんだと胸張って言えるように。
過去を背負いながら前に進み続け、立ちはだかる無数の壁を突破し続けて。
何年も掛けて叢雲は強さの頂点を目指し続けている。
今もずっと──、
「全部話したわ。どう? 時雨」
「……うん、ありがとう。僕も少しだけやるべき事が見つかった気がする……それと……からかってごめんね」
叢雲の話を聞きたがっていた張本人である時雨は何か見つけたのか満足したような心地好い表情で感謝する。それと同時に今まで何も知らずにからかった自分を反省し、少し恥ずかしそうに叢雲に謝った。
謝られた叢雲は少し驚いた表情でキョトンと一瞬理解が遅れるも時雨の表情を察して元気な声をあげた。
「全然大丈夫よ! 共に頑張りましょう!!」
「さ~て今度は時雨が主人公かしら」
叢雲のやりたい事が終わって中心街へ車で向かっている途中、叢雲は何か企んだ表情で時雨に話し掛ける。
何の事だか分からないまま恍けていた時雨は叢雲の表情を見た瞬間、嫌な予感と同時に察してしまった。
運転手の白■に場所を伝えて向かっていたのは佐世保駅の近くにある規模の大きいショッピングモール。ファッションブランドやレストランなど多くの店舗を展開しており、毎日賑わっている大型商業施設だ。
「勿論私たちは女の子なんだから化粧やオシャレの一つや二つ、知ってなきゃダメでしょ?」
「えっ……? ちょっ、あの」
早速ショッピングモールに辿り着いた途端、叢雲は時雨の腕を抱いて二手に別れて行動しようとする。
何されるか分からない時雨は底の見えない不安と戸惑いの表情を隠せずあたふたしていた。
「候補生、少しアンタの時雨借りるわ。いいでしょ?」
「え、えぇ……大丈夫ですけど……え?」
灰色の承諾を得た途端に叢雲は光の速さで時雨を連れてどこかへ行ってしまった。
途中違和感のある言葉を聞いた灰色は一瞬理解が遅れる。
「聞き間違いかな……まさかな……」
「こっちもこっちでダメだな」
傍にいた摩耶は考え続ける灰色を見て深くため息を吐く。
歩き続けるのも疲れた摩耶は灰色を誘って近くにあったベンチに座り、叢雲と時雨の買い物が終わるまで待つ事にした。
「ねーこれはどう?」
「え? 早くないですか? 別れるまでそんなに時間……」
叢雲と時雨の買い物は長くなるだろうと暇つぶしにスマホを手に出した途端、早速灰色は叢雲に話し掛けられた。灰色はあまりの速さに違和感を感じながらも声の方向へ振り向く。
そこには私服に着替えていた時雨がいた。
「あんたの司令官、何も言わずに口覆って右指をグッとあげながら何か噛み締めてるんだけど」
「ま、まぁ……いい評価なのかな」
叢雲に半ば強制的に着させられた衣装は白色のパーカーにデニムショートパンツ、黒色のセミロングタイツと今どきの女子達が着ているようなカジュアル系のスタイルだった。
「う~ん、これ似合ってるのかな~……」
「アンタどうみても人より可愛くできてるんだから大概何でも似合うわよ」
「色々と大雑把過ぎない?」
時雨の指摘を無視して叢雲は次に買った衣装を着させる。
「これとかどうよ」
時雨の服装を見た灰色の様子は──、
「今度は歓喜のあまりにニヤついた顔を見られたくなくて手で覆ってるわね」
「まぁ……これもいいのかな」
灰色の大袈裟な反応に時雨は少しばかり頬を赤らめあからさまに照れる。
今度は淡い水色のポロシャツに黒色のフレアスカートと大人女子系に似たスタイルだった。
「これかぁ~……」
「アンタどうせ正装以外の服着たこと無いんだから新鮮さが前に出て何でも似合うようになってるし問題ないわよ」
「ねぇそれ褒めてる?」
また叢雲は時雨の指摘を無視して次に選んだ衣装を着させる。
「これでもいいわね……」
また別の衣装を着こなす時雨を前に灰色は──、
「綺麗すぎてまともに顔見れないのかスマホの画面で感想伝えてきたわね」
「もうどれでもいいや」
まるで自分の娘のように喜ぶ灰色を見て時雨はこの際どんな服装を着ても似たような反応だろうと苦笑いした。今度は肩を露出させた肌色のワンショルダーに薄い茶色のチノパンツと色気のあるスタイルだった。
「……」
「アンタどうせ自分が可愛い事知ってるんだからこれで問題ないわよ」
「まだ何も言ってないんだけどフォローにもなってないしなんなら馬鹿にしてるよね」
全く慣れていない際どい服装に時雨はよそよそしく自身の姿を確認していた。
そんな時雨を見て半分呆れていた叢雲は何も考えずに言いたい事だけを時雨に伝える。馬鹿にされたような気がした時雨はすぐさま叢雲の方へ顔を向けて怒りマークを出させた。
「まぁ時雨は一般の中でもかなり人気だからな。自覚無しは周りから見ればある意味ダルいぞ」
「わざわざ言わなくてもいいから。何? 何なの? いじめなの? これ」
戸惑う時雨を他所に摩耶と叢雲は吟味するかのように分析していた。あからさまな二人のイジりように時雨は渇いた怒りを露わにする。誰もつっこまないこの状況で自分がおかしいのかと一瞬正気を失いかけた。
「正直言って私は……ノーコメントで」
「え!? 何!!? 余計気になるよそれ!!!」
「襲いたいってさ」
「摩耶さん語弊!!!!」
息の詰まる状況を切り出そうと灰色が時雨の衣装を褒めようとするも語彙力が無くなったのか上手く言い出せなかった。摩耶が補足して伝えたが全く違う言葉に思わず灰色は立ち上がって訂正する。この後も叢雲と時雨の買い物は続き、夏服や冬服など予め着れるように何着か叢雲が支払って買ってくれた。
私服に関してはpixivを参考にしました。