うざい提督とブラック鎮守府   作:あばずれ

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177. ベッドの上で繰り広げられる色欲心理戦

 叢雲の過去話と時雨達の買い物が終わった日の夕方。

 摩耶と叢雲は遥か遠くの東京にある大本営に戻らなければいけない為、駅前まで運転手の白■に送ってもらいながら荷物の用意をしていた。二人とも大きなキャリーバッグを片手に■■大将と連絡を取り合っている。

 

「分かったわ、んじゃまた後で……って事でそろそろ私たちは行くわ」

「気を付けろよな、灰、時雨」

「はい! 叢雲さんと摩耶さんも気を付けて」

 

 連絡を取り終えた叢雲と摩耶は携帯電話を切って灰色達の方へ別れの挨拶をする。

 摩耶は慎ましく微笑んだ表情で灰色達に言葉を掛けた。

 灰色は右手で敬礼しつつ叢雲と摩耶へ別れの言葉を伝える。

 

「ありがとう叢雲。僕も頑張ってみるよ」

「大丈夫よ。私たちは応援してるわ……白■さんも運転ありがとうございました」

 

 時雨は今日の事も含めてお世話になってくれた叢雲に感謝した。

 過去の話や買い物を含めて色々な事を教えてくれた叢雲を羨ましく感じていた。自分も誰かに頼られる存在になりたいとこれからの事もふくめて頑張っていきたいと叢雲に告げる。

 叢雲は満面の笑みで時雨の意気込みに答えつつ、今まで送ってくれた運転手の白■に対して頭を下げて感謝した。

 

「しかし深夜から会議とは少しキツイな」

「仕方ないでしょ、時間限られてるんだから。飛行機の中で寝てれば大丈夫よ」

 

 背伸びをしていた摩耶が欠伸をしながら仕事を面倒臭そうに語り始める。

 叢雲は左腕の腕時計を見て時間を確認し、スマホで予定を確認して摩耶を言い聞かせた。

 深夜からと聞いて灰色は苦笑いしながら叢雲と摩耶の苦労に同情する。

 

「深夜からですか……お疲れ様です」

「全く大変だよな~灰~」

「あっちには二十三時ぐらいに着く予定だからかしら。今のうちにやっておきたい事でもあるんでしょうよ」

 

 摩耶が言うには■■大将に呼ばれた護神厄討艦隊のメンバーのみで行われる会議らしく、叢雲と摩耶はその会議に呼ばれたようだ。

 近頃■■大将が小笠原諸島海域奪還作戦を実行に移す段階まできたと何回か聞いている。それに関する事なのだろうか着実にその時が迫ってきているのを灰色は改めて実感した。

 

「あ、時雨」

「ん? 何?」

 

 何か思い出したのか叢雲は時雨を呼び出し、耳を寄せるように仕草をして話しかけて来た。

 時雨は大切な事なのかと叢雲の口元に耳を寄せる。

 

「一応勝負下着買っておいたから仕掛けるなら今日よ」

「っ……!!! 余計なお世話だ!!!」

 

 叢雲の言葉を聞いた途端、時雨は瞬間的に顔が熱を持つほどまで紅潮させた。

 叢雲のからかいを時雨は声を荒らげて怒り出す。

 

「ごめんごめんて! それじゃ、また後でね……バイバイ」

「じゃあな」

 

 怒りに震える時雨を宥めて抑えようと叢雲は謝った後に時計を見て時間だと気付き、キャリーバッグを持って駅の中へ行こうとする。摩耶も灰色にメモを渡して別れを告げた。

 駅前に灰色と時雨、運転手の白■が取り残され、夕暮れ時の空が橙色に染まっていく。

 

「最後に余計な事を……!!」

「え!? そこまで怒る事されたの!?」

 

 時雨は怒りが収まらないのか片足で地団駄を踏む。

 時雨の怒りように灰色は戸惑って思わず呟いた。

 

「そういえば指定席の時間っていつなんだろ……」

 

 叢雲と摩耶が帰った数時間後に泊まっていたホテルを出て、灰色達は別のビジネスホテルへチェックインしていた。叢雲と摩耶がいなくなった事で人数に空きが出来た分、部屋を変えると安くなるらしくそれぞれ一人部屋に三人ずつ別れるようだ。

 部屋の中へ入って荷物を整えていた灰色は頭の中で帰りの事を思い出し、大事にしまっていた提督に渡された切符の日付けを見た。

 

「本当に四日間だ……ん?」

 

 指定席の時間は今日から後三日間もの日にちがあった。

 よく見れば桃■大将の講演会の二日分は含まれていない。

 提督はそこまで見込んで自分達に休みを与えたと思うと提督の用意周到さに頭が下がる他なかった。

 そう考えている中、灰色の持っていた携帯電話から着信が鳴り響く。灰色は急いで携帯電話を取り出して着信に応答した。

 

「はい、もしもし灰■です」

『白だ。少しばかり連絡の為に掛けた』

 

 着信相手は提督だった。

 あまりの珍しさに灰色は惚けそうになりつつも頭を横に振って自制する。

 

「お疲れ様です。何かありましたか?」

『毎日の業務報告について、だ。いつも報告は直接俺に伝えてただろうし、今回は摩耶がまとめてしてくれたからやる事はなかっただろうが、今度からは灰が報告するんだ。簡単にやった事を言えばいい。分かったか?』

「は、はい! 分かりました!」

 

 提督は候補生である灰色の毎日の業務報告について簡単に説明した。

 今回の遠征に関しては摩耶が担ってくれていたようで、摩耶がいなくなった現在では報告するのは灰色になるらしい。提督に毎日業務報告をしていた灰色は休みをもらったのに報告するのかと内心困惑しつつも元気に返事をした。

 

『あ~それとだな……まぁ、いいか……今回はどこかに行った程度でいい。お前らの惚気話を聞いた所で時間の無駄だからな。明日から頼むぞ』

「……? 分かりました、失礼します」

 

 どこか悩んでいそうな提督は言うのを諦めて業務報告の事だけを簡単に話した。

 珍しく言葉に悩んでいた提督の声を聞いて灰色は違和感を持つも口には出さず電話を切った。

 

「何か言いたげそうだったけど……大丈夫か、白さんの事だし」

 

 電話を切った灰色はベッドに大の字になって天井の照明をじっと見続ける。

 備え付けられたエアコンの空調音以外何一つ物音のしない部屋に窓から自動車の駆け抜けていく音が微かに聞こえてくる。

 今日動いた分の疲れが身体の中を駆け巡っていく感覚がした。

 

「時雨、一人で大丈夫かな……」

 

 今日の事を思い出していた灰色は初めて遠征に来た時雨の事を心配していた。

 

「可愛かったなぁ……」

 

 叢雲と途中参加してきた摩耶と時雨の買い物で様々な私服に着替えていた時雨を思い出していた灰色は思わず無意識に呟く。

 正装しか見ていない時雨が今時の女の子のようなファッションをしている姿はあまりにも可憐で美しく、一目惚れしてしまうほど美少女という言葉を体現していた。

 

 実際の話、灰色は時雨に心を射抜かれている。

 最初は信頼し合えるパートナー的存在だったはずが接していく中で徐々に異性というものを感じてしまい、灰色はそれ等を押し殺して仕事をしていた。

 

 何故なら時雨はまだ人間への嫌悪やトラウマが残っているからだ。

 時雨達が前任時代や初めて出会った時に酷い思いをしているのを知っている。仮に時雨達が自分を許しているとしてもまだその記憶が残っているうちは怖い思いをするのを防ぐ為、時雨達と話す時は異性関係の事を意識させないように接していた。

 それが彼女らにとって安心できる方法の一つだと思っている。

 

「ん? 誰だ?」

 

 今日の思い出に浸っている最中にドアをノックする音が聞こえた。

 明日の予定について運転手の白■が聞いて来たのだろうか、灰色は何も警戒せずにドアを開く。

 

「や、やぁ……灰さん……」

「や、やぁ時雨。どうしたの?」

 

 意外にも訪れて来たのは時雨だった。

 可愛い部屋着を着ながら恐る恐る灰色の部屋の前まで鍵を持って来たらしい。

 廊下はとても静寂としていた。

 

「ちょっと灰さんと……お話したいな~なんて思って……駄目、かな?」

「あ、うん……大丈夫だよ」

 

 時雨は少し顔を赤らめ左右の人差し指の先をツンツンと当てて灰色に話し掛ける。

 灰色は廊下に吹く風が冷たく感じたのを知ってとりあえず時雨を部屋に入らせようと快く承諾した。部屋に入った時雨は短い歩幅でよそよそしく歩いていき、目に入った近くの椅子に座る。

 

「どうだった? 叢雲さんとああいう買い物は」

「ん~……良かったって言いたいけど、色々と振り回されたから良かったとは言いたくないかな」

「叢雲さん、張り切ってたからね……その部屋着も選んでくれたんでしょ?」

 

 時雨は白色の腕の丈が長い大きめのシャツとズボンとラフなルームウェアを着ていた。

 灰色に言われて時雨はすぐさま立ち上がっては灰色の傍まで近寄り、着ていた部屋着を自慢するかのように見せつけていく。

 

「う、うん……どうかな……?」

「そりゃ勿論、時雨に似合っててかわい──……可愛いよ、いやホントに」

 

 灰色の隣に座り上から目線で見続ける時雨を見て灰色はある事に気付き、瞬時に口元を隠して褒め言葉を言い直す。

 ある事とは時雨が着ている部屋着の胸元からふくよかな胸と大人の女性が着るような黒い下着が見えていた。普段から異性関係の意識を持つ事を抑え込んでいた灰色は時雨の可愛さを再確認した事と新鮮な部屋着姿と下着を見た事による追加攻撃で理性が揺らぎつつあった。

 

「そう……なら良かった」

 

 見られるとも知らずに時雨は安心して安堵の息を漏らす。

 

「ん……灰さん、何で隠してるの?」

「あ~いやこれは何と言うか……その……え~っと……直視できないかな~なんて」

「え? 何で?」

 

 『そりゃあなたがそんな格好をしていたからだよ!!!』と大声では言えない灰色。

 鼻の下を伸ばしている事がバレたくない一心で灰色は答えを頭の中で考える。

 その時だけ時間が急にゆっくりになるような感覚がした。

 

「時雨にニヤけた顔を見せたくない……」

「えっ……そ、そうなんだ……! そうなんだね……え~っと……ありがと……」

 

 精一杯考えて探り出した苦し紛れの答えを小さな声で伝える。

 よく見れば目が泳いでおり、灰色の頬や耳が真っ赤に染まっていた。

 理由を察した時雨は灰色と同じで紅潮した顔を見せないように顔を俯かせる。物音が全くしない灰色の部屋の中で互いに目を合わせる事ができないまま数十分が経過した。

 

「……僕ね、一度灰さんに謝りたかったんだ」

「……え?」

 

 時雨は深く深呼吸をして自身を落ち着かせ、灰色の顔は見ないまま神妙そうに話し掛けた。

 声を聞いた灰色は時雨の方へ振り向いて耳を寄せる。

 

「初めて出会った時僕は灰さんを物凄く警戒してた。また何かしてくるんじゃないかって、もう人なんて絶対に信じないって。本性ばかり探ってたんだ……本当は灰さんも気付いてたでしょ?」

 

 時雨は初めて灰色と出会った時の記憶を赤裸々に語る。

 当時人間不信かつ嫌悪に感じていた時雨は灰色の事を警戒していた。

 隣で仕事をする事すらストレスに感じるほど嫌っていた時雨は灰色に気遣って嫌っている事がバレないように演技をして騙していた。

 

「そうだね……何となく信じられてないなってのは分かってた。作り笑いとか多かったからね。でもあの鎮守府の過去を考えれば仕方のない事だと思う。時雨のした事は間違ってないよ」

 

 時雨の嫌悪な感情を灰色は少なからず察していた。

 出会った当初から感情や言葉に違和感を感じていたのもあり、灰色はなるべく怖がらせないように接していた。それは今でも続いており、異性関係の抑制も含めて時雨に気を配っている。

 潮岬町鎮守府内では自身と艦娘が接していく中で一番重要な事であり、提督の考え方を参考に接し方を日夜考えていた。

 

「ごめんね。今思うと申し訳なく感じるんだ、こんな優しい人を信じられなかったなんて……」

「大丈夫、気にしてないよ。誰だって自分を守る為にはああいう事をするものだと思う。時雨もあまり気にしないで」

 

 灰色は謝る時雨が気にかけないようにと緩んだ笑顔で返事した。誰しも簡単に他人を信じるのは難しい故に疑心暗鬼になるのは珍しい事じゃないと灰色は考えている。潮岬町鎮守府の艦娘であれば尚更で時雨がやってきたことを咎めるような事はしなかった。

 

「ありがとう……灰さん、僕も頑張ろうと思う。大切な仲間や人を守れるくらい強くなりたい、もう二度と後悔しなくて済むように」

「それは……」

 

 時雨は強く握った拳を胸に翳し、固く心に決めた決意を灰色に伝える。昼頃に叢雲が最強たる所以や強靭な精神の理由を聞いていた灰色は時雨が知りたがっていた意味を理解した。

 時雨も叢雲と同じように潮岬町鎮守府で姉妹や多くの仲間を失っている。春雨や村雨、そして山城が沈んでしまった話を聞いた事があった。

 その決意は時雨にとって重要なものである事を示していた。

 

「僕にも大切な人がまたできたんだ! だからこそ今のままじゃダメ……死に物狂いで頑張らないと……! 灰さんは応援してくれる、かな……?」

「勿論だよ。応援する……頑張ろうな、時雨」

 

 決意を語る時雨の眼差しはいつになく真剣な鋭い目で今までにないほどやる気が溢れていた。時雨の揺るぎない決意を灰色は生涯を掛けて応援すると誓う。

 ようやく出てきてくれた彼女の決意と目標を達成させる為にも自身が頑張らなければならないと強く心に決めた。

 

「あ、そろそろ一時だ。明日に備えてもう寝ないとね」

 

 時雨と話している内に時間は既に日を越えた深夜一時になっていた。

 窓から聞こえていた車が通る音も少なくなってきている。明日も時雨の為に出掛ける準備がしたいと思っていた灰色はベッドから立ち上がって明日の予定を確認した。

 

「そ、そうだね……」

「……ん? どうしたの? 時雨」

 

 時雨が少し躊躇ったような反応を見せた途端、灰色は数秒後に理解して後方へ振り向く。

 時雨はベッドの上でまた顔を紅潮させながら目を泳がせていた。

 

「いや……その……今晩は一緒に寝てもいいかな~……なんて」

「……」

「ご、ごめん! やっぱ冗談! おかしいよね……急に一緒に寝たいだなんて……」

 

 灰色と添い寝がしたいと思っていた時雨は心臓をバクバクさせながら震えた声で精一杯に伝える。時雨にとっての大切な人は灰色であり、叢雲の件もあってどうしても近付きたかった時雨は一か八かの賭けに出ていた。灰色は時雨を見たまま何も答えずに黙り続ける。微妙な空気に耐えきれなくなった時雨は冗談だと苦笑いしながら声に出した。

 

「時雨」

「ん、何……──ひっ……!」

「はぁ……やっぱり……無理はしちゃダメだよ」

 

 名前を呼んだ途端に灰色を見た時雨は一瞬大きな手が頭上に現れてのを見て反射神経で自身を守るかのように腕を上げて怯えていた。大きな手は灰色の右手の平で時雨の頭を撫でるように腕を伸ばしている。予想通りの反応を見た灰色はため息を吐いて時雨が無茶している事を再確認した。

 

「む、無理……?」

「そう。私を大切に思ってくれてるのはとても嬉しいし、距離を近付かせたいのも分かる。私だって時雨ともっと仲良くなりたい……だけど」

 

 灰色はベッドに座る時雨の目線まで身体を屈ませ、先程伸ばしていた右手で時雨の頭を撫でる。時雨が自分自身を信頼して頼ってくれるのは実証は無くとも把握していた。

 あの■■少尉の件もあってか時雨や夕立は少しずつ前を向いて頑張っている。

 その頑張っている時雨の想いを無碍(むげ)にしたくない灰色は自身も仲良くなりたい事を打ち明けて伝えた。

 

「まだ時雨は完全に人に慣れてる訳じゃない。まだまだトラウマが残ってるとかで怖がる事もあると思うんだ、さっきみたいにね」

「ご、ごめん……」

「謝る事じゃない。寧ろ謝るのは私だよ、怖がらせてごめんね」

 

 灰色は時雨を怖がらせた事を素直に謝った。

 時雨が灰色と仲良くしていられるのはあくまで灰色という人間そのものを受け入れているからであり、その他の人間達には未だトラウマや嫌悪が残っている。それらを知っていた灰色は時雨が無理をしてまで近付こうとしてきた事が逆に不安やストレスを生まないか心配だった。

 

「少しずつでいいよ、少しずつ。時雨のタイミングで少しずつ近付いていこう。大丈夫、私は……っ! こんな時間に電話?」

 

 灰色ははにかんだ笑顔で時雨との関係を少しずつ詰めていこうと伝えた。

 時雨も快く同意して撫でてくれた灰色の右手に触れる。

 

 その時灰色の携帯から着信音が突然鳴り響いた。

 急な大きい音に身体を跳ねらせ驚く二人は様子を伺って携帯を手に取る。

 

「もしもし灰■です」

『灰、さん……です……か……?』

 

 着信主は潮岬町鎮守府の不知火だった。

 何か急いでいる様子か差し迫った声で名前を確認している。

 

『今、すぐ……戻って……っ……来れますっ……ぐっ……でしょうか……?』

「ど、どうしたんですか? 何かあったんですか……?」

 

 

 

『司令が……──』

 

 

 

 

 

『──……拐われ……ました……!!』

 

 

 

 




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