「以後、お見知りおきを……」
鹿島と艦娘達の提督の奪い合いが勃発している最中、突如現れた災厄の側近『
白く長い三つ編みになった白髪に深海棲艦唯一の青い眼鏡、双方にある黒く巨大な鋼鉄の籠手。
眼は闇夜の深淵に引きずり込まれるかのように深く黒かった。
「飛んだっ!?」
「しまった!!!」
鹿島は全員の視線が集積地棲姫に引かれている隙を見て、艦娘達の包囲網を大跳躍して脱出。
集積地棲姫の手元に集合して着地し、顔を合わせずに話し掛けた。
「回収しました●
「よくやりました。船の中にベッドと毛布がありますので体調を崩さぬよう、そちらに寝かしておいてください」
「かしこまりました」
「待て鹿島!!」
鹿島は提督を連れてこれた事を集積地棲姫に報告し、指示通り船の中へ避難させようとした。しかし『
「これはどういう事だッッ!!! 答えろ!!!」
「どういう事も何も、見れば分かる事ではありませんか? 私は深海棲艦と繋がっていた、それだけです」
「……いつの間に繋がってたの? 艦隊に入った後から?」
『
護神厄討艦隊に所属する半数の艦娘が極秘に最終討伐目標個体として恨み憎み狙い続けている悪魔の如き存在。
この潮岬町鎮守府に突然来た訳も踏まえて『
「……
「元々鹿島さんは私の助手ですよ。いやはや鹿島さんには随分と働いてくださいました、それはもう感謝してもしきれない程に。貴方達二人の情報を記録するのは大変ですからね、今後の活動にとても役立ちました」
鹿島は護神厄討艦隊に所属する前よりも既に集積地棲姫と繋がっていた。
鹿島が艦隊に所属したのは今から約二年前、護神厄討艦隊の艦娘の情報記録と提督の回収という二つの目的を達成する為に■■元帥に直接交渉を仕掛けて所属する事に成功。
その後は練習巡洋艦として訓練官を務めながら各鎮守府を転々とし、同時に各鎮守府に所属する護神厄討艦隊の艦娘の情報を記録する為に動いていた。
また提督を回収する為に各鎮守府の監視目的で潮岬町鎮守府に潜入、提督の動向を伺いながら機会を待っていた。
「貴様ッ……!! 今更現れたと思えば──」「『
怒りが抑えられない『
そこに庇うようにして『
「この鎮守府の皆さんとは初対面ですかね。これからどうぞよろしくお願いします」
「貴方が……あの……集積地棲姫……?」
「はい! 私が正真正銘たった一人の七壊星『
集積地棲姫は律儀にも潮岬町鎮守府の艦娘達に自己紹介と挨拶をして頭を下げた。
瑞鶴が確認の為にもう一度名前を呼んで本当かどうか確かめる。
集積地棲姫はぎこちない笑顔で自身が集積地棲姫である事を告白し、全く敵意のない姿を見せた。友好的に接してくる集積地棲姫を前に艦娘達は動揺の声が止まらない。
「ここへ何しに来た……!」
「金髪の子からもそうですが、鹿島さんに面白い娘達がいると聞いて少し興味が湧きましてですね、この子の回収と共にこの鎮守府を訪れたんですよ。確か……私を探している娘がいたとかなんとか」
長門が敵視した表情で集積地棲姫を警戒し、何故ここへ来たのか問い掛ける。
集積地棲姫は鹿島から聞いた情報に興味が湧き、わざわざ足を運んでこの潮岬町鎮守府を訪れたらしい。
自分を探し求めている艦娘がいると聞いて集積地棲姫はその艦娘を探すように辺りを見渡していた。艦娘達は心当たりのある人物の方向へゆっくりと振り向く。
「瑞鶴!!」
「待て! 早まるな瑞鶴!!」
それを聞いた瑞鶴は睨みつけるような鋭い目を崩さず、早歩きで集積地棲姫の目の前まで近寄る。集積地棲姫に近付く度に足や手に入る力の入れ方が物凄く強くなっているのが見てわかった。
瑞鶴にとっては喉から手が出るほど探し求めていたモノであり、様々な感情が渦巻く興奮を抑えながらも集積地棲姫の目の前まで辿り着く。
集積地棲姫の身長は瑞鶴よりも遥かに大きく軽く二メートル以上は超えていた。
両腕に構える巨大な黒い鋼鉄の籠手は瑞鶴の上半身を覆うほどで友好的な振舞いを払うような威圧感を感じた。
「私を探しているのは貴女ですか?」
「えぇ……そうよ」
「それはお疲れ様です。さて、要件は何でしょうか?」
「……うちの翔鶴姉を……元に戻してほしい」
集積地棲姫とようやく対面できた瑞鶴は真剣な表情で対話を試みる。
集積地棲姫は自分を探していた瑞鶴に労りの言葉を入れて要件は何かと素直に聞いた。
瑞鶴の願いは勿論、空母水鬼と一体化した姉の翔鶴を元に戻す事。
飛行場姫の情報でこの『
戦闘になるという事は覚悟していたつもりが相手があまりにも友好的に接してくる事に瑞鶴は底知れない不安を感じていた。
「翔鶴を元に戻してほしい、ですか……因みにですが何かあったんでしょうか?」
「あの男の所為で翔鶴姉の身体の中に空母水鬼が潜んでたのよ。飛行場姫からアンタなら何か分かるかもしれないって聞いた……どうなのよ」
集積地棲姫は詳細を知る為にもう一度質問する。瑞鶴は姉の翔鶴がどういう存在になってしまったのかを簡潔に説明した。
もし敵対した時に合わせてすぐ攻撃できるように艤装を構える準備は怠らない。瑞鶴は『
「あぁなるほど……
「本当に……かしら?」
「安心してください、
瑞鶴の願い事を集積地棲姫は何事もなく素直に受け入れた。
てっきり理不尽な条件や手段で交渉するかと思っていた瑞鶴は内心驚くも真剣な表情は動かさなかった。
だが深海棲艦という敵且つ七壞星ナンバーワンの側近という肩書きがある以上はどうしても信じきるには不安な要素があまりにも多過ぎる。何か企んでいる可能性すらある以上は簡単に信じる事を瑞鶴はしなかった。
「鹿島、翔鶴の情報について詳しく説明できますか? もしくは資料とかあれば良いのですが」
「こちらにまとめております。ですがこの状況下でじっくり読むには時間が足らないかと」
「問題ありませんよ。大まかな情報さえあればある程度のプロセスは構築できます」
助手の鹿島に翔鶴の情報について尋ねると鹿島は正装の中から事前にまとめておいた翔鶴の経歴や戦績についての資料を提供した。集積地棲姫は巨大な鋼鉄の籠手から白い肌を露わにした素手でその資料を手に取り、青い眼鏡の縁に少し触れてまじまじと読んでいく。
「……大体は把握出来ました。戻すには少々二週間ほど時間がかかりますがそれでも大丈夫でしょうか?」
「直接私も立ち会う事とかできないの? あと何処で翔鶴姉を戻すのかも知りたい……正直な話、アンタの言ってる事がさっきから胡散臭く感じるんだけど。アンタがそう簡単に翔鶴姉を戻すとは思えない」
「それは難しいですね。私が軍や艦娘と繋がってる所を他の深海棲艦に見られたらお互いに色々と手間が掛かるので……それに胡散臭く感じるのもお互い敵対しているので仕方ないかと思いますが
集積地棲姫は鹿島から貰った資料を返して翔鶴を元に戻す事について前向きに瑞鶴へ伝えた。
あまりにもスムーズに進み過ぎている状況にどうも信じ難い瑞鶴は翔鶴を元に戻す事について疑心暗鬼に聞いていく。
集積地棲姫はお互いにこの事が公に晒されば面倒になるのを察してか直接立ち会う事や方法を教えなかった。自身の問いに全く答えなかった所為で余計に怪しく感じた瑞鶴はある艦娘の名前を呼ぶ。
「青葉……どうなの?」
「嘘は、ついてません……全て本当です……」
「なら……いいんだけど」
集積地棲姫の言っている事は全て紛れもなく本当で互いの立場が面倒になる事や艦娘を愛している事は本気のようらしい。
嘘のようで嘘じゃない口が達者な集積地棲姫がどういう立場なのか見分けるのに困惑するばかりだった。
突然不意に現れたと思えば大した敵意は無く、ましてや敵であるはずの艦娘達の前で友好的に接してくる始末。青葉の言っている事すら嘘に思えるほど信じ難い事だった。
「さて……大体の目星はつきました。帰りましょうか」
「分かりまし──」「ちょっと待てよ」
集積地棲姫と提督を抱きかかえた鹿島は話が着いたのを把握して潮岬町鎮守府から去ろうとする。
その時二人を呼び止める声が聞こえた。
集積地棲姫と鹿島は同時にゆっくりと振り向く。
「さりげなく帰ろうとしてんじゃねぇよ……返せ、提督を」
「そう簡単に逃がさないわよ……鹿島……!」
天龍や五十鈴が艤装を展開した状態で砲口を向けて二人を呼び止めていた。
瑞鶴と話が済んだのをいい事にさりげなく帰ろうとした集積地棲姫と鹿島を艦娘達は逃さなかった。
あれだけ友好的に接してこようとも艦娘達は感覚を研ぎ澄まして心が揺らぐ事は決してなく、提督を奪い返したいという熱意を持っている。鋭い眼を光らせる艦娘達を見て集積地棲姫は不思議がりながらも状況を把握して鹿島に問い掛けた。
「おやおや何やら殺気立っていますね。鹿島、どうしますか? 貴女の願い事の為です、私も協力しますよ」
「できれば追い払いたいのですが、この状態で戦うのは少しつらいです。手伝ってくださいますか?」
「構いませんよ。貴女の願い事です、貴女が出なくても私が相手をしましょうか」
「っ……!!」
鹿島は提督を連れ去ろうとする事を確固たる意思で決して止めようとはせず、力ずくでも艦娘達を払い除けるつもりでいる。集積地棲姫も鹿島の願い事を叶える為か積極的に協力して艦娘達の前に躍り出た。
艦娘達は最大限の警戒状態で一斉に身構える。
相手は護神厄討艦隊の艦娘と余裕で戦える底知れない戦闘能力を持つ『
言うまでもなく力の差は歴然で返り討ちにされる事すら簡単に想像できるような威圧感と緊張が辺り一帯を覆っていた。まるで身体全体の細胞が恐怖に怯えて震えているかのように、全身の危険を感じ取って警告音を発していた。
「ほう……中々素晴らしい目をしていますね。様々な感情が入り浸っている……知りたいのですが鹿島、この娘達の成長具合はどうですか?」
「最近始めたばかりですので先へ行くには程遠いですが、成長の眼差しは十分あるかと」
「なるほど……少し興味がありますね。試してみましょうか」
集積地棲姫は敵視して警戒する艦娘達を見渡して、艦娘達が放つ感情の物珍しさに興味を持ち始めた。鹿島から特殊訓練による艦娘達の成長具合を聞いて集積地棲姫は顎に触れて顔を上に向かせ、脳を働かせるような考え込む仕草をする。
この多勢に無勢な状況下でありながら余裕を保って考えている集積地棲姫に苛つきを感じざるを得なかった。
「皆さん! 私と一度、戦ってみませんか?」
「……は?」
「え……?」
「その言葉通りです。私と戦ってみましょう! もし貴女達が私を殺す事が出来ればこの子は返してあげます。逆に殺せなくても時間を置いて返してあげます。瑞鶴さん、貴女も参加して構いませんよ? 攻撃したからといって先程の願い事を無かった事にはしないので、どんどん来てください」
集積地棲姫は警戒している艦娘達に対して期待に胸を膨らませて戦闘を申し込んできた。
当然艦娘達は有り得ない行動に動揺して焦燥と困惑の感情で溢れている。
提督を連れ去る事は簡単だと遠回しに言われているような気がした。
「ふざけるな……!!」
「っ?」
「またアナタはそうやって私たちの目的につけ込み、己の欲求を満たす為だけに戦闘へ誘惑させる……! アナタがよくやる常套手段です、一度ならず二度までも……! 今更引っ掛かると思ってるのですか!!」
不知火が珍しく怒りを露わにして心の奥底から湧き出る憎悪と焦燥を集積地棲姫に声を張って訴える。一度遭遇して体験した事があるのか、今度こそは絶対に阻止してみせると言っているように見えた。
『
意味もなく戦おうとすれば相手の思う壷だろう。
艦娘達は集積地棲姫の思い通りにはさせないと威嚇した。
「いえ私は本当に返そうと思ってやってるのですが……こればかりは証明も難しそうですね……」
「これ以上は仕方ないかと……成長具合を確かめたいのなら私から言いますよ」
集積地棲姫は威嚇する艦娘達に臆して鋼鉄の両手を広げて見せながら決して敵意は無いとアピールして一歩後退する。
本心を伝えているつもりがこの容姿では伝わらないと分かって半ば諦めかけていた。
集積地棲姫の目的を理解していた鹿島は戦闘意欲が増幅できるように前に出て艦娘達に話し掛ける。
「皆さん、艦娘ってどうやって造られているか知ってますか?」
「戯言に付き合うつもりは無い……!!」
鹿島の問い掛けに長門は強く否定する。
「まぁまぁいいじゃないですか。艦娘が生まれる源……
砲撃してきそうな艦娘達を前に鹿島は軽くあしらって宥めていく。艦娘の源素は何なのか適当に話していった。
「意外に答えは簡単なんですよ、艦娘は元々……──」
「──人間を元に造られてます」
「そしてその艦娘を開発したのは、●
「え、そこまで言います?」
鹿島は艦娘の源素を簡単に伝えて後ろへ振り向き、背後を見せて集積地棲姫の傍に行く。
鹿島の話を聞いて艦娘達は魂が抜けたかのように放心していた。
その場に佇んだまま一歩も動かずに艦娘の事実を受け止めている。
「……では私たちは先に」
「は、はい。気を付けてくださいね」
艦娘達が全く動かない事を他所に鹿島は提督を抱きかかえて鎮守府から去ろうとする。
「……ッ!!? 待てッ!!」
ハッと気付いてた我に返った不知火は逃げようとする鹿島を呼び止めた。
しかし鹿島は不知火の言葉に耳を傾けず、対岸まで提督を起こさないようにゆっくり歩いていく。
「司令を……!!」
その時不知火は誰よりも先に身体を動かした。
「返せッッッ!!!!」
不知火は激昂して突進。
殴るようにして鹿島に砲撃を仕掛けた。
凄まじい大爆発が起きて空に届きそうな巨大な黒煙を生む。
巨大な黒煙の中から集積地棲姫が巨大な鋼鉄の籠手を前に出して歩きながら現れた。
不知火の砲撃を庇ってわざと受け止めていたようだ。
不知火は突進した勢いで集積地棲姫にドロップキック。
集積地棲姫は不知火の攻撃を鋼鉄の籠手で受け止めるも反動すらなく微動だにしなかった。
「流石はあの子の艦娘です。鍛えられていますね」
「チッ……!!」
「もっと来てください! まだまだこれからです、貴女達の力を見てみたい……もっと……! もっと……! わた──」
集積地棲姫が話している最中に不知火は鋼鉄の籠手を蹴って空中で一回転、着地。
隙だらけの顔面を回し蹴りで蹴り飛ばした。
海上まで蹴り飛ばされた集積地棲姫はさぞ当たり前のように着水して浮かぶ。
そこに覆い被さるようにして天龍が刀を天に突き立て、一刀両断の如く振り下ろした。
巨大な鋼鉄の籠手で防御し、周囲に水柱が立ち上る。
鉄同士が接触し合い、水の壁の中で火花が散った。
天龍は無理矢理刀を擦れさせ、次の攻撃に移る。
刀を後方まで引いて渾身の横薙ぎを食らわせた。
受け止めるので精一杯だった集積地棲姫は衝撃に耐えきれず吹き飛ばされる。
後方へ海面を引き摺りながら後退する集積地棲姫へ跳躍した夕立や青葉が砲撃。
雨となって降り注ぐ無数の砲弾は集積地棲姫に牙を剥く。
集積地棲姫に数発着弾、他は海面に着弾して水柱が大きく上がる。
交差する爆煙や水柱を斬るかのように集積地棲姫は巨大な鋼鉄の籠手で払って現れた。
「後ろですか──」
背後に回っていた長門に気付くも防ぐには遅い。
背中を思いっ切り殴られた集積地棲姫は口から大量の血を吐いて殴り飛ばされた。
海面に倒れ込む集積地棲姫を艦娘達は隙さえ逃さない。
立ち上がろうとする集積地棲姫に砲撃を食らわせて怯ませた。
体勢が不安定になった集積地棲姫の元へ顔面を叩き殴ろうと加古が現れる。
集積地棲姫は巨大な鋼鉄の籠手を駆使して片手で砲撃を阻止して、もう片手で加古の殴打を受け止めた。
「素晴らしい……ここまで成長しているのですね……」
加古は反撃を予測して一旦集積地棲姫から離れる。
集積地棲姫は歪んだ笑みを浮かべてひたすら笑っていた。
「もっと見せてください……!」
集積地棲姫の目の前には憎悪の眼差しで襲い掛かる艦娘達。
集積地棲姫は臆せずに艦娘達を歓迎した。
「何が……どういう事だ……?」
「次から次へと……何が何だか……」
「狼狽えるな!! 俺達も行くぞ!!」
「やっちゃったからにはしょうがないか」
「おっと行かせませんよ」
磯風や照月は次から次へと告げられる事実の情報量の多さに処理し切れず戸惑っていた。『
そこに巨大な黒煙の根元から手を払って鹿島がゆっくりと歩いて現れた。
よく見れば抱えていた提督の姿がどこにもいない。
「貴女達はここにいた方が懸命かと」
「鹿島……!!」
「提督がいない!?」
「どういう事ですか鹿島さん!! 何がどうなってるんですか!!?」
「普通の艦娘であれば理解し難いのも無理はありません……あの方は●
潮岬町鎮守府の艦娘達と集積地棲姫が戦っているのを背景に鹿島は艦娘の真実を語った。
金剛が吼えながら急発進急加速。
砲撃を巨大な鋼鉄の籠手を交差させ防御する集積地棲姫へ体当たり。
物凄い衝撃が集積地棲姫に伝わり、堅い防御が崩れた。
隙だらけの脇腹に目掛けて金剛は渾身の連続殴打を数発直撃させ殴り飛ばす。
「その●
「はいそうです。約十五年前に●
集積地棲姫の頭上から木曾がサーベルを突いて落下。
それに気付くには遅く、集積地棲姫は防御する暇なく腹にサーベルが突き刺さった。
落下の衝撃で海面に叩きつけられる。
その直後に集積地棲姫は無理矢理身体を起き上がらせ、身体を回転する。
凄まじい遠心力で木曾ごと払い飛ばした。
「艦娘とは文字通り艦の姿を模した人間の事を意味し、砲塔や魚雷管を手や足に兼ね備えた対海上に特化した兵器です。当初突然現れたその存在は今に至るまでその力を行使して海上の脅威から人類を守っていきました」
ダメージを負い続けて集積地棲姫は口から大量の血を吐き出す。
隙を見逃さない川内は事前に放っていた魚雷を命中しつつ急加速して接近。
直撃した事で水柱が立ち上り、視界が遮られた集積地棲姫。
そこに水柱に穴を開けて突き蹴りをする川内が現れる。
巨大な鋼鉄の籠手に直撃して海面に打ち付けられた。
怯んだ集積地棲姫に目掛けて左足の後ろ回し蹴りで顔面を蹴撃。
川内は身体を捻って残った右足の回し蹴りでもう一度集積地棲姫の顔面を蹴る。
怯み続ける集積地棲姫よりも先に身体を駒のように回転し、渾身の回し蹴りで顔面に直撃させて蹴り飛ばした。
すかさず川内は右腕の艤装にて追い打ちの砲撃をする。
「しかしその正体は人間をベースに造られた改造人間。予め取り出されたエネルギー核を身体の中に埋め込み融合させる事で艦娘という兵器が造られていきます。融合した瞬間に脳や内臓、身体全体の細胞や遺伝子、染色体などをありとあらゆる人間を構成するモノ全てを再構成再構築し、その身体に適した艦種を融合したエネルギー核が見分け、艦娘が造られます」
身体を仰け反らせながらも集積地棲姫は転倒を防いで起き上がる。
その瞬間、真正面から球磨と多摩の砲撃が顔面と両肩に着弾。
球磨と多摩の間をすり抜けた足柄が集積地棲姫に接近する。
腹を右拳で殴打した後に体勢を低くして集積地棲姫を空中へ蹴り飛ばした。
「年齢は制限されますが性別は関係ありません。エネルギー核が融合に成功すれば身体の全てが再構成されるので本人の記憶は消去され、また元々負っていた怪我や患っていた病気なども全て無かった事になります」
「それで……周りの人達はどうするんだ……!?」
「関係者の人達には本人が承諾した事を含めて軍が予め本人が艦娘になる事を告げ、双方が合意した上でそれぞれ誓約書を記入する事で契約が成立します。その際に艦娘となる本人は死亡した事になるので保険金や軍から多額の協力金や報酬が支給される為、公になる事は少ないです。ですが完全に抑える事は出来ず、艦娘が元々人間である事を知る者達が漏らした事と何者かによって艦娘を無碍に扱う海軍の醜態が晒された事で艦娘は人間として扱うべきだと擁護する派閥が誕生しました。それがいわゆる今の人間派です」
集積地棲姫の飛ばされていく先には長門が殴り構えていた。
日向と扶桑が集積地棲姫の先を予想して長門を投げ飛ばしていたようだ。
血を吐きながら悶える集積地棲姫は防御体勢が間に合わない。
長門は後方に砲口を向けて砲撃。
その衝撃と反動で集積地棲姫目掛けて空中突撃を仕掛けた。
長門は右拳に力を込め砲口を集積地棲姫の方へ向ける。
勢いよく落下して集積地棲姫の背面に渾身の殴打を与えた。
「つまり要約すれば艦娘である私達は元々は人間だったという事です」
二人は隕石のように海面に衝突。
衝撃で間欠泉のような水柱が立ち上り、それを囲うように水しぶきが周囲に飛び散った。
「ハァ……ハァ……!」
集積地棲姫を殴り飛ばした長門は息切れしながら状態を確認する。
砲撃の衝撃による落下のスピードと海面激突直後の全門斉射であればダメージは与えられたと思っていた。
殴った右拳にはまだ集積地棲姫の身体に触れている感覚がある上に動いているような仕草は一コンマたりとも全く無い。
「倒しましたか……」
鹿島が戦闘が終わったのを見て長門の方へ振り向く。
ようやく姿を確認できるまで爆煙が過ぎ去ると集積地棲姫は至る所に大量の血を流して意識を失っていた。長門の右拳が集積地棲姫の背中にめり込んで内部を歪ませるほどの衝撃で大量の血液が花の形を成している。
「っ……」
「ッ!! くそッッ!!!」
潮岬町鎮守府の艦娘達に致命傷を受けながらも集積地棲姫は僅かに息を取り戻していた。
少し身体を動かしたのを見て長門は悔し声を上げてもう一度全門斉射。
二度と起き上がらないように殺す気で何度も何度も砲撃し続ける。
爆煙が更に爆煙を払って生み出し続け、海面の波が荒くざわついた。
「ハァ……ハァ……弾切れか……?」
集積地棲姫に何度も零距離での全門斉射をし続けた結果、長門は全ての弾薬を使い切った。砲撃を受け続けた集積地棲姫は見るに堪えない姿で背骨や内蔵の一部が露出していた。
流石にここまでいけば死んだも同然と思いたかった長門。
七壞星故の謎能力がある以上は生き返る可能性があるかもしれないと油断出来なかった。
「素晴らしい」
「ッ!!?」
集積地棲姫は血が混じった声で一言長門を褒めて起き上がろうとする。
起き上がった瞬間に長門は腰を浮かせられ、背後に海面へ尻もちを着いて転倒した。
大量に出血しながらも集積地棲姫は震える足で身体を支えて立ち上がる。
「これほどまでに成長を一気に見られたのは初めてでした……実に素晴らしい……」
ひび割れた眼鏡と血まみれの顔面で長門を見続ける集積地棲姫。口から大量の血を吐きながらも一向に褒めるのを止めなかった。
長門は素早く立ち上がって後方へ跳躍し、集積地棲姫と間合いを確保する。
「艦娘の成長は無限大……様々な刺激を与えるだけで普通の艦娘さえも超越した力を身につけられる……流石は私が開発した兵器です……開発した兵器に殺されるなどこれほど幸せな事は無い……」
金剛や木曾は集積地棲姫がこれから起こす行動を予測して誰よりも早く急発進した。
後に続いて天龍や加古、朝潮達や比叡達が集積地棲姫の元へ向かう。
一番近くにいた長門も残りの燃料を消費して不穏な動きをしかけた集積地棲姫に殴り掛かった。
「【
その言葉を発するまでの瞬間、一瞬時間が遅くなっているのが分かった。
いや集積地棲姫の行動があまりにも早すぎて、周囲の時間がついていけなくなっていた。
集積地棲姫の目の前には放たれた雨のような無数の砲弾と自身を殺そうと襲いかかる多勢の艦娘達。
回避は間に合わく直撃は間逃れず、受ければ先程の大怪我よりも凄まじくなるだろう。
だが──、
「博士……いや、『
鹿島がふと問い掛ける。
その直後に集積地棲姫を中心に無数の砲弾が着弾し、巨大な爆煙が立ち上るほどの大爆発を起こした。
その凄まじい爆発で押し出された空気が広範囲に白く広がっていく。
波は左右上下に荒れ果て、陸は地震のように揺れた。
「っ!!?」
「何ッッ!!?」
最上や加古、攻撃を仕掛けた艦娘達全員が驚きの声を上げる。
艦娘達の目に映っていたのは完全無傷の集積地棲姫が立っていた。
先程までに最上達や金剛に受けた攻撃による大怪我は何事も無かったかのように修復されており、砲撃による損害は全く無かった。
更には長門や金剛の拳を受け止め、天龍や木曾の近接武器の剣先が全く通っていなかったのだ。
「瞬時に身体を再生させる程の【耐久】? 違います。鋼鉄やダイヤモンドにも勝る程の【装甲】? それも違います。数秒先の未来をあたかも見れてしまう程の【回避】? これも違います。『
鹿島は
艦娘には【耐久】や【装甲】などの予め決められた性質がある。
それ等を深海棲艦にもあると意味を含めて『
「全ての性質に流れるエネルギー効率を自由に操れる力です」
集積地棲姫は攻撃を仕掛けた艦娘達の前で満面の笑みを見せる。
そして身体を一瞬紅黒く光らせた。
「貴女達には成長の眼差しがある……もう少し、試してみましょうか……」
某あの人じゃん